唯「ただいま」

憂「おかえり」

唯「…ふぅ」

憂「ため息?」

唯「え、違うよ」

憂「帰ってきてすぐ、ため息かぁ…」

唯「だから、違うってば」

憂「そうなの?」

唯「うん」

憂「考えすぎかな…」

唯「ちょっとギー太が重かっただけ」

憂「疲れてるの?」

唯「うーん…そうなのかな」

憂「少し部屋で休んでて、ごはん出来たら呼びに行くから」

唯「わかった、そうする」

ぱたん

唯「…ふぅ」

唯「なんでため息なんかついちゃったんだろ」

唯「…」

唯「まぁいいや、練習しよ」

唯「…うい」

唯「うーい」

唯「憂…?」

唯「ういっ」

唯「…はぁ」

唯「…一人のときは言えるのになぁ」

唯(何で目の前にいると言えないんだろ)

唯「…お姉ちゃん、かぁ」

唯(それは私の名前、じゃないよね)

唯「…憂はいいなぁ」

唯「…」

唯「…寝ようかな」

唯(でも、憂はごはん作ってるのに)

唯(私は寝るの?)

唯「…起きてよう」

唯「下、降りようかな」

唯(名前も呼べないのに)

唯(降りて何を話すっていうの?)

唯「…やっぱ練習しよ」

唯「…うい…」

唯「う、と、いだけなのになぁ」

唯「う、い。う、い。う、い」

唯「…私、何やってんだろ」

唯「憂は私の妹じゃん」

唯(そんなことわかってる)

唯「意識しすぎなんだよ」

唯(意識せずにはいられないことも)

唯「それに私はただのお姉ちゃんじゃん」

唯(そんなことわかってる)

唯「私たちはただの姉妹なんだよ」

唯(憂が私の名前を呼べなくなることなんてない)

唯「ただの姉妹…」

唯(気付いてるくせに)

唯「姉妹…」

唯(私が名前を呼べなくなってること、憂はもうわかってるって)

唯「…」

唯(それなのにどうして何もないふりをするの?)

唯(憂を悲しく笑わせているのは、自分だって)

唯(気付いてるくせに)

唯「…はぁ」

唯「一人でいると、ろくなこと考えないなぁ」

唯「うい…」

とんとんとんっ

ぱたぱた

唯「っ!」

唯「…」どきどき

こんこん

唯「寝たふり…っ」

憂「お姉ちゃん?」

唯「…」

憂「ごはん出来たから、降りてきてね」

唯「わ、かった」

憂「寝てたの?」

唯「いや、あの、うん」

憂「そう?眠いなら寝てていいよ?」

唯「え、いや、食べます」

憂「食べるの?じゃあ、下でね」

ぱたぱたぱた…

唯「…ふぅ」

唯「…情けな」

唯「とりあえず、下行かなきゃ」

唯「大丈夫かな…」

唯「練習は、したけど」

唯「う、い」

唯「…がんばんなきゃ」

がちゃっ

憂「あ、ほんとに降りてきた」ふふっ

唯「…」どきっ

唯(今、笑った…)

唯(落ち着け、落ち着け私)

憂「今用意するから、ちょっと待っててね」

唯「うん」

唯(テレビ見てよ)


……

憂「はい、準備できたよ」

唯「うん」

憂「いただきます」

唯「いただきます」

唯(憂の方見れないや…)

唯(やっぱりテレビ見てよ…)

憂「ほんとは眠かったんじゃない?」

唯「へ?」

憂「だって、こぼしてるよ?」

唯「えっ」

唯(ほんとだ…ていうか今日肉じゃがだったんだ)

唯(味が全然わからなかった…)

憂「そんなに柔らかかった?煮すぎたかな?」

唯「え、いや、おいしいよ」

唯(何適当なことを…)

憂「…変な、お姉ちゃん」くすっ

唯「へへ…」

唯(今、笑った)

唯(笑ったけど、困ってた…)

唯(テ、テレビを…)

プツッ

唯「へ…?」

憂「テレビもいいけど、食べおわってからね」

憂「ほら、またこぼれてるよ?」

唯「あ…はい」

憂「…」モグモグ

唯「…」モグ、モグ…

唯(…気まずい…)

唯(…どうしよ…)

唯(…とりあえず食べ終えよ)

唯「ごちそうさま、でした」

唯(テレビ、見よう…)

唯(全然頭に入ってこないや…)

ザー、ガチャガチャ

唯(食器、洗ってるのかな)


唯(何の音もしないな、お風呂かな)

唯(…練習した意味、なかったなぁ)

唯(いつまで憂をあんな風に笑わせるんだろう…)

唯(う、い…)

ぴとっ

唯「う、いっ!?」

唯(え…ほっぺたに、アイス?)

唯(これは、どういう…?)

唯(ていうか、いま、私、なんて…言った?)

憂「…うわぁ、久しぶり、だなぁ」

唯「!?…なにっ」

憂「びっくりさせようかな、と思ったんだけど」

憂「今何か言わなかった?お姉ちゃん」

唯「何も…言ってないっ」

唯(言ってないっ、聞かれてない…っ)

憂「あれ、アイスいらないんだ?」

唯「なっ、何でそうなるのっ」

憂「何も言わないなら、いらないのかなって」

唯「た、食べるよっ」

憂「ん、何?」

唯「え、え?」

憂「聞こえないな、しまっちゃおうかな」

唯「…っ」

唯(絶対、聞かれてた…)

憂「じゃあ、もっかいほっぺたに当ててみようかなぁ」

唯「いい、いいよっ」

憂「いらないんだね?」

憂「せっかくチャンスあげようと思ったんだけどなぁ」

唯(もう、どうにでもなれ…)

唯「…」

ぴとっ

唯「う、いっ…!?」

憂「なぁに、お姉ちゃん」

唯「あ、アイス…」

憂「あはは、お姉ちゃん顔まっか」

唯「溶ける、からっ」

ひょいっ

唯「あ、ちょっ」

憂「なに?」

唯「もう、許して…」

憂「ふふっ、はい」

唯「…」ガツガツ

唯(恥ずかしすぎて、顔上げられない…)

憂「お姉ちゃんはアイスがほんとに好きなんだね」

唯「…」

憂「でもアイスなしの、練習もしなきゃね?」

唯「ぶっ!」

憂「お姉ちゃん、きたないよー」

唯(アイスなしで…)

唯(今は無理…だけど)

唯(いつかは…呼べるといいな)

おしまい



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最終更新:2011年01月01日 21:33