雪の降る帰り道、友達の一人が言いました。

「憂ちゃんって、唯のためなら何でもしてくれそうだよな」

手には紙で包装されたプレゼント。

首を温めるマフラーは、一昨年憂がくれたプレゼント。

「そう、かな」

家では憂が待っています。

きっと食べきれないほどの料理と、溢れてしまいそうな笑顔を用意して。

「そのくらい仲良いだろー」

今日はクリスマス。

世間では恋人同士が仲良くする日。

私の頭からは、友達の言葉が離れませんでした。

「ただいまー」

ドアを開けると早速良い香りが漂ってきます。

きっと憂ががんばってくれたんだろうな。

思わず顔が綻びます。

「おかえりなさーい」

階段の向こうから聞こえてくるのは、かわいらしいスリッパの音。

少しして憂が顔を出しました。

「おかえり」

憂はもう一度、言いました。

「ただいま」

私ももう一度、答えます。

「寒いからリビング行こ?」

憂は私のマフラーをほどいて、無垢な表情を私に向けます。

「うん」

この笑顔が欲しいと、そう思いました。

部屋の扉を閉め、コートや手袋を外していきます。

冷えきった私の部屋はそれでも外より寒さは和らいでいました。

「……ふぅ」

何でもしてくれる。

その言葉を聞いてから、私の中に妙な感情が頭を出しました。

どういった意味なのかを、私は知りません。

タイツを脱ぎ、パジャマのズボンを履きます。

何でもしてくれる。

期待をしていました。

気づいたのは、ずっと隠れて見えなくなっていた気持ち。

部屋の扉を開けます。

リビングへと階段を降りました。

「憂、私の憂」

私は、憂のことが好きでした。

考えれば、憂は嫌なんて言ったことはありません。

ただ私のお願いを聞いてくれて、可愛い笑顔を見せてくれるのです。

優しくて、あったかい憂。

そのせいで返って私の気持ちは埋もれてしまっていたようです。

いつもそばにいることを、信じて疑わせない憂だから。

少し自分の鈍さに嫌気が差します。

能天気に過ごしていた昨日まではもっと意味のあるものにできたのに。

何気ない一言に気づかされても、あまり驚きはありませんでした。

憂のことを一番抱き締めていたのだから、それも当然なのかもしれません。

リビングで、ふたりきりのパーティーを開きました。

憂の手料理を食べて、憂とたくさんおしゃべりをしました。

透き通る目で私を見る憂は、私をどう思っているのでしょうか。

わかりません、私にはわかりません。

ただ、好きじゃないということは、私はとんでもなく嫌なだけでした。

プレゼントはまだ渡していません。

憂も、まだ私に渡してはいません。

「ねぇ、うい」

「ん? なあに?」

「今年はサンタさん来るかなぁ?」

「えっ?」

困った顔で私を見つめる憂。

どんな表情も、みんなみんないとおしいのです。

「サンタさん?」

「うん」

「……来るといいね」

その笑顔が、私の心を蝕むのです。

「うん、憂のとこにもね」

「えへへ、そうだね」

ケーキのイチゴを憂の口元へ差し出します。

「んっ」

ぱくりと食べて、今度は憂が差し出します。

「ありがとー」

食べると、少しだけ酸っぱさがありました。

「お姉ちゃん」

「んー?」

「メリークリスマス」

「……うん、メリークリスマス」


深夜一時過ぎ、布団に潜ります。

憂は別々に寝たいと言いました。

時計の針の音が、真っ暗な部屋に響きます。

足元は未だに寒いまま。

扉が開く音がします。

僅かに聞こえる息づかいを頼りに場所を確かめます。

暗闇に慣れた目は、ぼんやりとその輪郭が見えました。

白くてきれいな腕を掴みます。

「サンタさん」

「っ!」

振り払おうとする腕を、布団へと引っ張りました。


「わわっ!」

私が強く引くと憂はベッドに倒れ込みました。

心地よい圧迫感がお腹に伝わります。

「うーい」

私が呼び掛けても、憂は動きません。

優しい憂のことだから、きっと失敗した自分を責めているのでしょう。

ぽんぽんと頭を撫でてあげます。

「……おっ、お姉ちゃん」

布団に顔をうずめているからか、憂の声はくぐもっていました。

「なーに?」

「さ、寂しくて……きちゃった」

この期に及んでごまかそうとしているようです。

でも、でもね、憂。

言い訳の言葉でも、そんなこと言われたらもっと好きになっちゃうんだよ。


「さ、サンタさんまだ来ないから……早く寝よ?」

ああ、やっぱり素敵な憂。

「うい、こっち向いて」

「ん……」

月明かりなんかよりもよっぽど明るいその輪郭も

すべすべで柔らかいその肌も

小さくすぼんでしまっているその口も。

私を魅了して離さないのです。

「もう、そんなに子供じゃないよ」

憂は、少しだけ悲しそうな顔を見せました。

「私のために、ありがとうね、憂」

そして一言、好きだよと伝えました。

「へっ……えっ?」

憂は驚きを隠せません。

私は不思議と落ち着いていました。

「憂のこと、好きなんだ」

私はもう一度言います。

「……本当に?」

憂は一度、尋ねます。

「うん」

「……そっか」

憂はお腹の上で確かに呼吸をしています。

「憂、一緒に寝よ」

「……うん」

憂の持ってきたプレゼントを受け取って、私も憂に渡しました。


「サンタさん」

冷えた体を抱き締めます。

「サンタさんじゃ、ないよ」

申し訳なさそうに、憂は言います。

「ううん、サンタさんだよ」

憂は小さくなったままです。

「私だけの、素敵なサンタさん」

憂も抱き締め返してくれました。

小さな口元から、白い吐息が漏れたのが見えました。

「……お姉ちゃん」

足元はもう、寒くはありません。

「私も、好きだよ」

たぶん、憂の顔は真っ赤になっていました。

それこそ私まで恥ずかしくなるくらいに。

クリスマス。恋人たちの特別な日。

私だって、例外ではありませんでした。

可愛くて、柔らかくて、とっても優しい恋人と、今夜は共に眠ります。

凍える寒さの夜に、心にほのかな炎が灯りました。

口づけはまだできないまま、私たちは深い眠りへと落ちてゆきます。


     おしまい。



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