平沢家

み梓「ごめんね、二日も連続で泊っちゃって……」

憂「ううん、全然気にしなくていいよ。私も梓ちゃんがうちにいてくれて楽しいもん」

唯「私もだよ~」

み梓「そ、そっか……えへへ」

憂「このままうちの子になっちゃおっか! 梓ちゃん」ニコニコ

み梓「ど、どこぞのお母さんみたいなこと言わないでよっ」

唯「平沢梓も悪くないと思うんだぁ。名前の響き的に」

憂「私は中野の方が似合ってると思うんだけどなぁ」

み梓(こ、この姉妹は……)


チャポン

み梓「はぁ……」

み梓「やっと、かぁ……」

み梓(長かったようで短かったような)

――――……

梓「唯先輩っ! 唯先輩起きて!! 死んじゃダメ!」

唯「あ……あ……」

「君、離れて!」

梓「いや、いやぁっ!! どうして!? どうして助けられないの!?」

梓「澪先輩も律先輩もムギ先輩も……どうして私を1人にして死んじゃうのよ!?」

梓「1人に、しないでよ……私を1人ぼっちにしないでよぉ…………」

……――――


み梓「……」

み梓「あんなこと、認めない」

み梓「絶対に……」

ガチャリ

唯「おっす、未来あずにゃん」

み梓「ゆ、唯先輩!? な、なんで……」

唯「たまには裸のお付き合いもいいじゃなーい」ゴシゴシ

唯「いやだった?」

み梓「はい」

唯「あ、あーずにゃあぁん……」

み梓「冗談ですよ。それに泊めてもらっている身でそんな生意気なこと言えません」

唯「律儀だなぁ。別にそんなこと気にしなくていいのに」

み梓「……ねぇ、唯先輩」

唯「ん?」

み梓「私……もう1人ぼっちになることなんて……ないですよね」

み梓「あ! こ、こんなこと言ってもわけわかんないですよねっ。ごめんなさい」

唯「大丈夫だよ」

唯「1人ぼっちだなんて寂しいことにはぜっっったいならないよ!」

み梓「……」

唯「いくらいた時間が違っても、未来あずにゃんは私の大切な後輩」

唯「だから大丈夫! ねっ」

み梓「……」クスッ

み梓「なんですかそれ。わけわかんないです」

唯「えー、わかんないかなぁ?」ゴシゴシ


唯「くーっ、風呂のあとのアイスは格別ですなぁ!」

憂「お姉ちゃんおやじくさい~」クスクス

み梓「……おいひぃ」モグモグ

唯「天下のハーゲンダッツさんだからね!」

み梓「さん?」

唯「ほら、ガリガリくんはガリガリくんでしょ?」

唯「だからハーゲンダッツさん!」

み梓「憂、唯先輩大丈夫?」

憂「あはは……いつもどおりだよ……」

み梓「そ、そっか」

ガチャリ

唯「さーて、今日も早めに寝るよー」

み梓「はい」

唯「今日で未来あずにゃんと寝るのも最後かなぁ……?」

み梓「そうですね」

唯「あ、最後じゃないや!」

み梓「え?」

唯「また未来あずにゃんが遊びに来てくれたときにうちに泊ってくれればいいんだよ」

唯「だから最後じゃない!」フンス

み梓「……」

み梓「ふふふ、あはははっ」

み梓「あはははは!」

唯「あ、あずにゃん? どっかに頭打っちゃった?」

み梓「あ、あー……お腹痛い、ふふふっ」

唯「未来あずにゃん?」

み梓「ご、ごめんなさい! でもおかしくって」

み梓「……遊びに来れたらいいなぁ」

唯「来れるよぜったい!」

み梓「ふふっ、そうですね。来れますよね、ぜったい」

唯「ほら、おしゃべりは終わりだよ。もう寝ないと!」

み梓「……はい」

唯「さっきの、約束だからね!」

み梓「はいはい」クスッ



2010年5月11日 軽音部室

澪「い、いよいよだな」

梓「これでどうもできなかったら打つ手なし……」

紬「かどうかはまだよくわからないわよね。今までもなんとかなってきたし」

み梓「む、ムギ先輩……結構楽観視してるんですね」

紬「えへっ」

律「まぁ、これぐらいのほうが気楽でいいよ」

唯「だねぇ~」

さわ子「いや、ちょっと気楽過ぎるのもよくないわよ……適度に緊張感持ってよね。あなたたちのこれからのためなんだから!」

唯・律「はーい」

澪「大丈夫かな……」

梓「それで、誰が4日に行くんですか?」

律「前に決めたとおり、私でいいっしょ。原因作ったの私かもしれないんだし」

唯「りっちゃんかっくいいー!」

澪「一応は責任感じてるんだ?」

律「当たり前だろ!」

さわ子「本当は私がやってあげたいのだけれど……」

律「いいよ、さわちゃん。これは私たちの問題だよ」

さわ子「またそうやって除け者にするっ」

み梓「私たちの中に……私って含まれますか?」

唯「もっちろーん!」

梓「除外してほしかったの?」

み梓「と、とんでもないっ。むしろ……よかった」

律「そんなことよりさっさと始めるぞー!」



2010年5月4日 教室

「うん。それじゃそろそろ切るぞ」

「さて、みんな待ってることだし! そろそろ帰ってやるかぁ。にしてもビックリしたな……」タタタ…

ガチャリ

律「よし、うまく行った」

澪『あとは落書きを処分するだけだな』

唯『ゴミ箱にポイするだけでいいの?』

紬『それだとちゃんと処分できたことにならないかもしれない』

梓『焼却処分しちゃえばいいんじゃないですか?』

律「えー、面倒くさいなぁ……」

澪『ここまで来て面倒くさがることはないだろ? やれることはやってきなさい』

律「ちぇー……はいはい。んじゃ、電話切るぞー」ピッ

律「さてと、確か澪の机の中に入れたんだったよな」スタスタスタ…

律「よいしょっと」

律「お、見つけた! ったく、過去の私も面倒なことしてくれたなぁ……」

ス…

律「……ん?」

ス…

律(あ、あれ? おかしいな、机の中に手を入れられない……)

ス…

律「んんっ!? なんで!?」

律「……こ、このぉっ!」シュッ…

ドンッ

律「!?」ヨロヨロ…ドテッ

律「え……え……?」

律(お、押された……? でも誰もいないぞ!?)

律「そんな……」

律「も、もしもし!」

澪『どうした律? 上手くいったのか!?』

律「それが……」

梓『ま、まさか……』

律「手がのばせないんだ……机の中に……」

律「ていうか押されたんだ! よくわかんないけどこっち来んなーって感じで!」

み梓・さわ子『……』

紬『り、りっちゃん! 落ち着いてっ』

律「おかしいんだよっ!? なにもできないんだ! ど、どうして!? え!?」

唯『りっちゃん! りっちゃんてば!』

さわ子『りっちゃん!!』

律「!」

さわ子『一度……こっちに戻ってきなさい』

律「……うん」



2010年5月11日 軽音部室

律「……」

唯「り、りっちゃん。気にしないで……?」

律「……気にするよ。ダメだったんだ」

澪「……律が悪いわけじゃない」

律「悪いよ。全部私のせいだ……」

紬「お、お茶でも!」

律「いらない」

紬「ううっ……」

梓「いや、いやあぁぁ……」ガクン

律「……さわちゃんの言うとおりだったな。簡単にはいかないって」

さわ子「そう、ね……」

律「ダメだった。私ダメだったよ、ははは」

律「はぁ……」

さわ子「落書きを処分しようとして、力が働かれたということはそれが原因でたぶん間違いないわ。つまり……」

梓「打つ手なし、ですか」

紬「私たち、死んじゃうのね」

澪「やだ……死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ!!」ブルブル

唯「わ、わたしだ、って……や、だよぉおお……まだいき……で、だい゛……」ポロポロ

律「っっ……」




み梓「まだ諦めるのは早いですよ」


唯「ふぇ……?」

紬「いまなんて……」

み梓「諦めるのは早いって言ったんです」

律「でも、もう……」

み梓「弱気になるなんてらしくありませんよ。律先輩」

梓「ひっ、ぐ……あうっ……」

み梓「ほら、もう1人の私も。泣かないで」

澪「なんで、なんでそんな……」

み梓「諦めない限り、なんとかなります。絶対に」

さわ子「なにか他に原因を取り除く方法があるっていうの?」

み梓「……はい」

み梓「世界を変えた原因を取り除こうとすれば確実に妨害される。なら、取り除くんじゃなくて」

み梓「また変えてしまえばいいんです」

紬「逆転の発想……?」

律「でもそんなことしてまた変なことになったらどうするんだよ!?」

み梓「最後まで話を聞いてください」

み梓「変えるといってもタイムマシンがもともと存在しなかった世界に、です」

唯「……どういうこと?」

さわ子「まさか……」

み梓「そう。過去へ行ってタイムマシンを壊すんです。二度と使えないように」

み梓「そしたらそのスクラップはどこかに埋めてしまいましょう。それで全部終わりです」

紬「たしかにタイムマシンがなければりっちゃんが作った原因……というか過去に行ったという事実がなくなるもんね! それにさわ子先生のお友達も死なずに済むわ!」

澪「でも……壊すのはいいんだけど、どうやってもとの時間に戻ってくるんだ?」

律「そっか、あれがなきゃ戻るに戻れないもんな」

み梓「……私が行ってきます」

唯「そ、そんなのダメだよ!」

み梓「でもこれしか方法は……!」

さわ子「あわてる必要はないわ」

み梓「え?」

さわ子「私がタイムマシンを学校に初めて持ってきた日……この日にタイムスリップして過去の私にタイムマシンの破壊を頼んでから戻ってくればいいの」

さわ子「私がタイムマシンを使ってから壊すんじゃ、タイムマシンがあったという記憶が私に残るでしょ? だから壊すならその前……」

さわ子「おじさんの方は過去の自分を殺してタイムマシンのことを忘れているから……申し訳ないけど」

さわ子「それにあの人の家まで行くには相当の距離を行かなきゃいけないし、どちらにせよタイミング的にはこっちの方がいいわ」

梓「確かにそれならなんとかなりますけど……」

律「見ず知らずの人間にいきなりお前の持っているギターを壊せって言うのか? ちょっと無理あるんじゃ」

さわ子「大丈夫よ! 私なんだから」

み梓「ほ、ほんとですか……」

唯「でもこれしかないってのなら、やるっきゃないよ!」

澪「そう、だな……私もそう思う!」

さわ子「ていうか私が行かせてもらうわ。これ以上あなたたちを危ない目に会わせるわけにはいかない!」

み梓「いえ、やっぱり私が!」

唯「待って!」

さわ子・み梓「?」

唯「わ、私が行くよ!」

律「お前が!?」

梓「無茶言わないでくださいよっ」

唯「うぅ……でも」

唯「みんなこんなに頑張ってるのに、ぼーっとしてるだけだなんて我慢できないの」

紬・澪・梓(それ言うなら私もそうなんだけど……)

唯「だから行かせて?」

み梓「で、でも……」

律「行ってこい! 唯隊員!」

澪「律!?」

梓「そんな簡単に託さないでくださいよ!」

澪「律! お前なぁ……」

律「隊長命令だから、絶対な」

さわ子「りっちゃん。ふざけな――」

律「ふざけて言ってるわけじゃないよ。唯がやるって言ってるんだから私は唯の意思を尊重してるの」

唯「りっちゃぁん……」

律「行ってこい。こんなの誰が行ったって同じだよ。だったら私は唯に全てを委ねてしんぜよう!」

紬「そうね、私もりっちゃんに賛成」

梓「……もう好きにしてください」

澪「唯、いいのか? ほんとにいいのか?」

唯「まっかせなさーい!」

唯「よっこいしょっと……」

唯「準備おっけー。いつでもいけるよー」

さわ子「あっちに着いたらすぐに私に会うと思うわ。いい? 私はとても慌てると思うけど焦らずに事情を話してあげて。でもタイムマシンについては言わないように」

さわ子「たぶん、わかってくれるかもしれないから」

梓「たぶんでかもですか……不安だなぁ」

澪「唯、がんばって。お前が私たちの希望なんだ」

唯「あいよー!」

澪「……あぁ、やっぱり心配すぎるっ」

紬「み、澪ちゃんっ」

唯「も、もう行ってよろしい……?」

み梓「唯先輩……」

唯「お、未来あずにゃーん」

唯「あ! そういえば!」ガサゴソ

み梓「どうしたんですか?」

唯「ほい!」ペタン

み梓「なっ!?」

唯「今日のシール、貼り忘れたよぉ。あ、でもあとみんなシールなくてもどっちがどっちだか区別ついてたね」

み梓「そういえば、そうですね……」

唯「でもこれがあっての未来あずにゃんって感じだから。今日は温泉マークシールだよぉ」

み梓「ど、どうも……」

律「よし、みんな! 重大な任務を果たしてくる唯隊員にむけて~」

律「敬礼!」ビシッ

唯「敬礼っ」ビシッ

「……」

律「だぁーっ! みんな乗り悪いなぁ。ここはやっとくべきだろ!?」

澪「いや、それは恥ずかしい」

梓・み梓「同じく」

紬「あははは……」

さわ子「バカなことやってないでさっさと行ってきなさい!」

唯「は、はいぃ!」

ポーン、ポーン、ピーン


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