律「おじさん、本当なんですか?」

おじ「ああ。きっと以前自分が買ったことを忘れていただけだとは思うんだがね。だが、なんだか自分のもとに置いておきたくなくなって、さわ子ちゃんに譲ったんだが」

梓・み梓「一度も触ったり、弾いたりしなかったんですか!?」

おじ「おや、そちらさんは双子ちゃんかな。可愛らしいね」

梓「あ、えっと……はい、どうも」

おじ「確かに触らなかったよ。ケースにしまったままにしておいた」

紬「さわ子先生に渡すまで?」

おじ「ああ」

さわ子「でもおじさん。あのケースの中にはメモが2枚入っていたの。しかもそのうち1枚にはおじさんの名前が書かれていたわ」

さわ子「ちょうど今日2枚とも持ってきました。これを……」ス

おじ「……タイムマシン?」

さわ子「それ、おじさんの執筆と同じだと思うの」

おじ「確かに俺の字と似ているが」

澪「じゃあやっぱり……!」

おじ「しかし、面白いな。ここに書かれていることは」

おじ「さわ子ちゃん。俺の仕事は覚えてるかい?」

さわ子「○大で物理を専門としている教授でした……よね」

梓「物理学者?」

おじ「そんなところさね」

おじ「俺はね、タイムマシンってやつにも少しは知識……いや、興味はあるんだな」

さわ子「……初耳ですよ?」

おじ「聞かれなかったしね」

おじ「そんな俺から言わせてみるとだな。ここに書かれてること、面白いけど」

おじ「まずありえないんじゃないかな」

「!」

律「でも現に私たちは過去へ行ったり未来へ行ったりした!」

おじ「証拠は?」

律「……」

唯「こ、こっちのあずにゃんは未来から来たんだよ!」バッ

み梓「え!?」

紬「そうですっ、双子なんかじゃないんです!」

おじ「……確かに似ている。瓜二つだな。で、証拠あるかい?」

み梓「えっと……ご、5月19日に高速道路でトラックが横転して大きな事故が起こりますっ」

おじ「ふむ、それじゃあ19日にその事故が起きたら証拠になるね。それじゃあその日になるまで……」

み梓「そ、そんな悠長に構えている暇は……」

澪「……そうだ!」

律「どうした澪?」

澪「さわ子先生、もう1つのメモの裏に゛自分を忘れるな゛って書いてあるんですよね?」

さわ子「え? ええ……それがどうかしたの?」

澪「それだけでもいいから、心当たりがないか聞きいてみませんか?」

さわ子「……そうね」

さわ子「おじさん。そっちのメモの裏を見て」

おじ「ん?」

さわ子「あなたの名前と一緒に一つの文が書かれているはず……それに覚えは?」

おじ「おお、本当だ。俺の名前じゃないか……?」

おじ「自分を忘れるな?」

おじ「自分を……忘れるな……」

唯「おじさん?」

おじ「!」ガタッ

おじ「ううっ、あ……っぐ」

律「どうした!?」

さわ子「おじさんしっかりして!」

おじ「お、俺は! おれは! おれはっ」

澪「な、なに!? ひぃっ」

さわ子「おじさんっ!!」

おじ「…………」

おじ「は、はは……」

梓「こ、壊れた?」

紬「いったいなにが……」

おじ「うははははははは!」ゲラゲラ

おじ「くくっ……っ、笑いすぎて腹が痛むぞっ、ははは……!」

さわ子「し、しっかりして!」

おじ「ああ、大丈夫だ。正気だよ。気違えてなんてない……」

み梓「じゃあ何がおかしくてそんなに」

おじ「思い出したんだよ……! 俺は……」

おじ「タイムマシンを使って2010年から2000年にタイムスリップしてきたんだ……」

「!?」

紬「ま、待って! どういうことですか!? 2010年は今ですよ!?」

おじ「要するに……君たちとは別の世界。パラレルワールドから来たということになるのかな」

律「はぁ!?」

み梓「じゃあ2000年のあなたはどこへ行ったんですか!? あなたの言うことが正しければあなたは二人存在することに……!」

おじ「殺したよ」

さわ子「……え?」

おじ「俺が殺した。そういう実験だったからね」

律「殺したって……あんたが過去のあんた自身をか?」

おじ「そう」

律「んなバカな話信じられるかよ!?」

おじ「いやぁ、そうでもないさ。聞いたことないかい?」

おじ「タイムマシンで今の自分が過去へ行って、その時間に生きている自分を殺したら……存在自体が消滅ってやつをさ」

澪「小説とか漫画とかでは……」

おじ「そいつがさ、本当なのかを確かめる為に俺は自分の身を持って実験したわけさ」

唯「でもおじさんは消えてないよね? ってことは」

おじ「そいつは違っていたってことかね。まぁ、その代わり、殺した俺自身が過去の俺となったようだが」

さわ子「つまり、予期しない入れ替わりが起きた?」

おじ「いや、俺のもしもの予想の1つにはあったさ。こういう事ってのはわからないことだらけだから」

さわ子「ということは、私がタイムマシンを受け取ったときにはもう既に……ん?」

さわ子「ちょっと待って。なぜタイムマシンをおじさんが持っていたの!?」

梓「たしかにタイムスリップしてもタイムマシンは一緒に時間を越えてきませんもんね」

おじ「タイムマシンも俺と一緒にタイムスリップしていたら?」

唯「いっしょ?」

おじ「もともとあのギター型のタイムマシンは俺……俺と助手たちが作った物じゃあない。ある人物が所持していたのを……その、パクってね」

さわ子「な……!?」

おじ「その人らはなにも知らない素人みたいなもんだったよ。まぁ、最初に調べていたのはその人らで、俺たちは後から加わったんだが」

おじ「そんな価値もわからない連中が所持しているくらいならとね」

唯「どろぼー!」

おじ「まぁ……認めるさ」

おじ「盗んだあとは俺たちがしっかりと調べさせてもらったさ」

おじ「そして、作らせてもらった。もう1つのタイムマシンを」

紬「もう1つって……」

律「またギターみたいな形のか?」

おじ「いや、しっかりしたそれこそもっとメカメカしいやつだったね」

おじ「それで後はそいつを使ってさっき言った通りさ」

澪「タイムマシンをタイムマシンで過去へ送るって……」

み梓「どうしてタイムマシンも持っていったんですか?」

おじ「もとの時間へ帰るために決まっているだろう。俺たちが作った物も既存したタイムマシン同等、片道限定だった」

み梓「だから帰り用にギター型の物を……」

おじ「今となっては無意味だったがね。こんなメモまで残しておいたのに、記憶が過去のものになってしまった俺はタイムマシンに一切触れずに、しかもさわ子ちゃんに受け渡してしまっていた」

紬「そこから色々と繋がるわけね」

澪「でもそれがわかったからなんだって感じになるんだけれど」

律「まぁな」

唯「おじさん。私たちが使っていたタイムマシン、どうも壊れちゃったみたいでして」

おじ「なに?」

唯「だからおじさん直せないかなぁ……って」

さわ子「おじさんだけが頼りなの……お願い」

梓(こんな人に頼むのもなんか癪だけど……今は我慢しなきゃ)

おじ「……どうにかしてやりたいのも山々だが、修理するにもここでは設備がまず整っていないし、まずどう直していいのやらわからん」

律「あんたたちだって作ったんだろ!? だったら」

おじ「あのタイムマシンをバラして見よう見真似で作ったんだ。詳しいところは今一つわからんかったさ」

律「はぁ!? そんことってあるかよ……どうするんだよ……」

おじ「俺ももとの時間へもど……いや、戻れるのか? はたして」

おじ「どうも今の2010年は俺がいた時間と少し違うようだからな。というかパラレルワールドか」

おじ「こいつはどうしようもないな。だが、タイムマシンが使えないことで君たちが困ることが何かあるのかい?」

み梓「とてもありますっ!! あれが使えなきゃ先輩たちは……先輩たちは……」

澪「梓……」

おじ「弱ったなぁ」

紬「……あ!!」

唯「どしたのムギちゃん?」

紬「電話……電話通じないかしら!?」

さわ子「どういうこと?」

梓「そ、そっか! 過去へ行っても未来へ行っても通じましたもんね!」

おじ「お、おい。説明してくれっ」

唯「えっとね、例えば今こっちの時間から誰かが過去にタイムスリップしたとするでしょ? んで、こっちの時間から過去に行った人に電話かけても通じちゃうんだよ」

おじ「……なんだって? そんな馬鹿なっ」

唯「その、ぱられるわーるどってのと繋がるかはよくわかんないけど」

おじ「だが今まで俺が電話をかけても俺のもといた時間に繋がることはなかったぞ」

紬「それはあなたがもといた時間の人ではなくて、過去の、こっちの時間の存在になっていたからじゃないでしょうか?」

おじ「……納得がいかない。それだと意識の問題ということになるんじゃ……」

律「ものは試しだよ! 一回あんたの助手の人たちに電話してみろって!」

おじ「あ、ああ……」

おじ「あれから何年も経っているんだ……繋がるかどうか……」ピッピッピ

…プルルルル

おじ「つながった……!」

さわ子「うそ!?」

律「な! 言った通りだったでしょ!?」

おじ「す、少し静かにしていてくれ……」

『……はい、もしもし?』

おじ「!!」

おじ「じょ、助手Aか……?」

『まさか……○○先生ですか!?』

おじ「あ、ああ……そうだ。こっちは今2010年の5月10日……そっちは?」

『2020年12月27日……です』

おじ「10年……経ったのか」

唯「10年経ったって……2020年! すっごーい!」

澪「唯っ、静かに」

『先生がいつになっても帰ってこないから実験は失敗に終わったのだと思っていましたよ』

おじ「いや、成功さ。俺が存在したという記憶はそっちで消滅していなかったんだからな!」

『ですがなぜ今になって……』

おじ「そんなことはいい。それより問題が発生した。例のギター型タイムマシンが故障した」

『なんですって! だからこちらに帰って来ることができなかったんですね……ですが安心してください。先生は運がいい!』

おじ「……どういうことだ?」

『実は偶然にもタイムマシンを回収しましてね。発見したのはアパートの一室だったのですが、それが……以前、先生と一緒にそちらへ送ったタイムマシンそのままなんですよ』

おじ「なに……?」

『とにかくそちらにすぐにでも送りますよ。場所は……』

おじ「俺の家だ。すぐに頼む」

律「なんか……なんとかなりそうだぞ!?」

澪「ああ……ああ! そうだな!」

おじ「ん、でも待てよ」

おじ「おい、そっちとこっちはおそらくパラレルワールドだ。送ったとしても届くのは……」

『ええ。ですからもっと前の時間……こちらとそちらの世界が別れる、つまりパラレルワールドになるであろう前の時間に、2000年に先生の家の倉庫へ送らせていただきました』

おじ「ぐ、グッジョブだ! おい、さわ子ちゃん! すぐにここの倉庫の中を見てきてくれ!」

さわ子「え? あ、はい!」タタタ…

『おそらくどこかにはあると思います。間違いありません』

おじ「そうか……ふぅ」

み梓「どうなったんですか!?」

おじ「ああ、タイムマシンはなんとかなりそうだ」

唯「よ、よかったぁ……」

紬「やっぱりここに来てよかったね」

唯「うん!」

さわ子「あったわ! タイムマシン!」

律「おぉ! ってほこりっぽい……うっ」パタパタ

澪「げほげほっ」

おじ「タイムマシンを確認できた。ありがとう助手A」

『いえいえ。ですが……先生。先生はもうこちらに帰ってくることは……』

おじ「ああ、無理だと思う。俺が2020年に行ったとして、そこはお前たちが待つ世界ではない」

おじ「これで、これでいいんだ俺は。とくに不自由なこともないしな」

さわ子「おじさん……」

律「さわちゃん、忘れんなよ。あの人は自分を殺したって一応の犯罪者でもあるし、そんな狂った実験をした人でもあるんだから」

さわ子「……」

み梓「全ての元凶はタイムマシンを持ってきたあの人……私、少し許せません」

紬「でも使ったのは私たちよ。私たちも悪いとは思う」

み梓「っ……」

澪「とにかく無事にタイムマシンが手に入ったんだ。これで」

唯「にしてもほんとそっくりだよねー」

梓「私たちが最初に使っていた物と同じですよね」

律「まぁ、細かいことはいいっしょ」

おじ「……じゃあな、元気でやるんだぞ」ガチャ、ツーツー

おじ「……さて、俺はいつまでこうやってもとの自分を覚えていられるかな」

さわ子「どういうこと?」

梓「また未来から来た自分を忘れてしまうかもしれないってことですか?」

おじ「確証はも――――」

おじ「……うん?」



車内

「……」

唯「おじさん、寂しくないのかな」

紬「あの大きな家に1人だったもんね」

梓「……ていうかよく考えると、この世界で1人ぼっちって見解もできますよね」

さわ子「あの人、ああ見えて案外1人になるのが好きな人なのよ」

澪「あ、案外って……」

さわ子「それだけ強い人ってこと。なんせ自分を……殺しちゃってる人だし」

律「あ、あははは……それはあんまり笑えないや」

さわ子「とにかく、今やるべきことだけあなたたちは考えていなさい」

み梓「……」

梓「……心配?」

み梓「べ、別にっ!」


律「なんで今日さっそくやらないんだよ? 善は急げって言うじゃん」

さわ子「色々あったし、あなたたちも疲れているでしょ?」

み梓「そんなことは!」

さわ子「無理しないの。とにかく、やるのは明日、学校で。ね?」

み梓「……」

紬「それじゃあ今日のところはおうちに帰ろっか?」

澪「そうだな」

唯「私、色々考えたから頭いっぱいいっぱいだよぉ」

梓「それ昨日も言ってましたよね」

唯「そだっけ?」

さわ子「とりあえず、私がタイムマシンを預かっておくわね。それじゃあまた明日」ブロロロ…

律「行っちゃったぁ……私らも帰るか」


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