2000年4月28日 軽音部室

ガチャリ

さわ子「私が一番乗りかぁ」

ガサゴソ、ストッ

さわ子「……ちょっと見てみよっか」

ジィーッ、ピッ

さわ子「よっこいしょ、っと」

さわ子「ふふっ、私のギターだ……」

パサッ…

さわ子「ん? なにこれ、メモ?」ス

さわ子(タイムマシン取扱についての注意……?)

さわ子「タイムマシンって……ぷっ」

さわ子「なによそれ。何のこと?」

さわ子(えっと、このギターはタイムマシン。取扱いには注意すること……)

さわ子「……このギターがタイムマシン?」

さわ子(六弦で戻る年数、五弦で……)

さわ子「へー……おじさんも面白いこと考えるわ」

さわ子「試しに昨日へ戻ってみたりして」

ポーン、ポーン、ピーン

さわ子「やだこれ変なお――――」



2000年4月27日 軽音部室

さわ子「――と」

さわ子「!!」

さわ子(な、なにいまの変な感じ!?)

ガチャリ

紀美「あれ? さわ子」

さわ子「の、紀美……」

紀美「あんた今日は家の用事あったんじゃなかったっけ? 親戚の家に行くとか」

さわ子「家の、用事?」

紀美「違うの?」

さわ子「ちょ、ちょっと待って紀美……話が」

さわ子「……あれ? ギター」

紀美「え?」

さわ子「ね、ねぇ! ギターは!? 私のギターはどこいったの?」

紀美「ギター? あんたギターまだ持ってないじゃない」

さわ子「うそ!? 今日紀美にも見せたじゃない! ほら、SGって……」

紀美「さわ子。あんた大丈夫?」

紀美「ちょっと保健室に……」サ

パシッ

さわ子「私はおかしくないっ」

紀美「さ、さわ子っ」

さわ子「っ……!」

ガチャッ、タタタ…

紀美「あの子、どうしちゃったんだろう?」

さわ子(なんなのよ……なんだってのよ……)

さわ子「……なんか、紀美に悪いことしちゃったかな」

ドン

堀込「おっと!」

さわ子「ご、ごめんなさっ……なんだ、先生」

堀込「山中! なんだとは何だ。ちゃんと前向いて歩けよ?」

さわ子「……」

堀込「山中? おーい」

さわ子「先生、今日は何月の何日でしたっけ……」

堀込「うん? 5月27日だが」

さわ子「……え」

さわ子「27、ですか?」

堀込「あ、ああ……山中、お前顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

さわ子「へ、平気ですっ。なんでもありませんっ」

さわ子「し、失礼します……!」

タタタ…

堀込「お、おい!? ったく……」

さわ子(おかしい! 今日は28日なはずよ? 27日は昨日!)

さわ子「教室のカレンダーも27日……」

さわ子「まさか、あのギター本当に……」

さわ子「……」

さわ子(本当に過去に来れたっていうなら、私すごいよね?)

さわ子(だ、だってタイムトラベルしてきたのよ!? よくわからなかったけど……)

さわ子「えっと……あった」ガサゴソ

さわ子(メモ、一応ポケットに突っ込んでおいて正解だったわ)

さわ子(タイムマシンは夜になってから私の部屋にこっそりいけば使えるはず……)

さわ子「……ふふっ!」

「あれ、さわ子。なんか嬉しそうじゃん。どうかしたの?」

さわ子「ちょっとね~」

さわ子(どうせなら帰る前に色々しておきましょっか!)

さわ子「ねぇ、○○さん。もし、あなたがタイムマシンで過去へ1日前に行ったら何する?」

「は? なによ急に……」

さわ子「いいから、いいから」

「そう、ねぇ……過去を変えたら未来も変わるよね?」

さわ子「え?」

「だってそうじゃない? 例えば、そこの窓がタイムマシンを使う前は割れてなかったとする」

「で、タイムマシンでそこの窓を割って、もとの時間に戻ってくるとすると……」

さわ子「本来割れてなかった窓が割れてる?」

「たぶん」

さわ子「つまり○○さんは過去へ行ったら未来を変えたいってこと?」

「面白そうじゃない?」

さわ子「……そう、ね!」

さわ子「いいかも! ありがと、○○さん!」タタタ…

さわ子(そうね、そういうのも悪くないかもしれない! だったら……!)



教室

さわ子「えっと、紀美の机は」

さわ子「あった、あった」

さわ子(さっきは悪いことしちゃったし、なんだか面と向かって謝るのも恥ずかしいから……)カキカキ

さわ子(紀美、ごめんね……っと)

さわ子「ん、これだけじゃちょっと物足りないか。少しつけたして」

さわ子「……by.タイムトラベラーさわ子、っと」カキカキ

さわ子「机にこんなに大きく書いて、紀美怒ったりしないよね?」

さわ子(さて、あとは夜になるまでそのへんでうろつこうかなぁ、ふふっ)




2000年4月28日 自室

さわ子「――ぶないっ」

さわ子「あ……無事戻ってこれた?」

さわ子(もう少しで27日の私に見つかるところだったわ……ふぅ)

さわ子(でもメモのとおりにしたら無事に帰ってこれたし)

さわ子「色々不思議だったけど、いい体験にはなったかな」

さわ子「あ! でもこれだったら普通の楽器として使えないじゃない!」

さわ子「あー……もうっ、バイトしてお金貯めようかなぁ」


このときは自分がバカなことをしてきただなんて思いもしなかった。

後悔することになるなんて思いもしなかった。



2000年4月29日 軽音部室

紀美「はい、さわ子のギター」

さわ子「ちゃんと保管しててくれたんだ!」

紀美「誰にも指一本触れさせてないから、安心しな」

さわ子「ありがとう紀美!」

紀美「でも昨日はギター放っておいてどこ行ってたのさ? しかも帰ってるし」

さわ子「ちょ、ちょっと急用で……」

紀美「そうなの? じゃあ、しゃーないね。さてとじゃあ……」

さわ子「あ! それと……このギター、やっぱり返さなきゃいけないことになったの」

紀美「えぇ~!? もらって2日で返すの!?」

さわ子(演奏するたびにタイムスリップしてたら……ちょっと、ね)


「それじゃあまた明日~」

「さわ子、紀美! ばいばーい!」

紀美「おーう」

紀美「さて、私らもそろそろ帰るか」

さわ子「うん」

紀美「ところで私の机の上にあれ書いたのってあんた?」

さわ子「あ、わかった?」

紀美「ていうかあんたの名前書いてあったしね。んで、なにがごめんねなの? 謝られる覚えないんだけどな」

さわ子「……あの、ほら、私一昨日、部室で紀美に変なこと言って困らせちゃったじゃない? だから……」

紀美「ん? ……あー! 思いだした! うん、変だったよ! さわ子!」

紀美「ていうかあの日はなんで用事あったのにすぐ帰んなかったのさ?」

さわ子「えっとー……あ!」

紀美「どうしたの!?」

さわ子「ギター……部室に忘れてきちゃった」

紀美「こ、ここまで来て今さら気づくかぁ、普通……」

さわ子「あんまりギター背負って帰るのに慣れてなくて、へへへ」

さわ子「ちょっと学校戻るから紀美はさきに帰ってて!」

タタタ…

さわ子(さすがに二日も学校に置きっぱなしにはできないよね……)

…ブゥゥーーン

紀美「さわ子っっ!!」

さわ子「え――」

ドン!

さわ子(押された……!?)

キキィーッッ

さわ子(なにが――)

ドンッ

グシャァッ

さわ子「……」

さわ子「のり、み」

さわ子「のりみ……?」ガタガタ



紀美「   」


紀美はトラックに撥ねられたその日に死んだわ。
頭を強く打ちつけたのが原因だったのかしらね。

……ううん、原因は私。

私が過去で未来を変えたせいで、紀美が29日に死ぬ運命が待つ世界へと変えてしまった。

偶然だったかもしれない?

そうだとしても、私があのとき紀美を殺してしまったことには変わりはない。
もっと車に気をつけていればよかったのにね……。

紀美はなんであのとき私を庇って助けてくれたのかしら。
私が轢かれていればよかったのに。

紀美が亡くなってからしばらくは部屋から出ることができなかったわね。
目の前で人が死んだというショックと友達が死んだというショック。
あの頃の私にはとても重かった。……まぁ、今でも変わりはないけど。

話を戻すわ。

学校に今まで通り通えるようになった頃に、私はタイムマシンの存在を思い出したの。
そして思った。
過去へ戻って紀美を助けることができるんじゃないか、って。
でも未来の梓ちゃんは知っていると思うけれど、一度起きた死はそう簡単に回避することができない。

変えてしまった世界はそう簡単に戻すことができないの。
何も知らないそのときの私は何度も何度も紀美を助けようとした。無駄だということを知らずにね。


さすがに繰り返し、親しい人の死を見ると精神的につらかった。

ついには耐えきれなくなった私は紀美を救うことを中断して、おじさんのもとに向かった。
タイムマシンを譲ってくれたのはおじさん。なら、なにか知っているんじゃないかと思ってね。
何かわかれば紀美も救えるかもしれないって。

……何もわからなかった。

それどころかおじさんはタイムマシンのことも知らなかったの。
話を訊いたときはとても笑われたわ。冗談にしてはよくできた話だって。

でもね、おかしいのよ。

さわ子「タイムマシンを入れていたケースの中にあったメモはどう見てもおじさんが書いた文字だったの」

紬「似てただけだったとか……」

さわ子「かもしれないと最初は思ったわ。でももう一つのメモを見て確証したの」

梓「もう一つって……使い方を書いたメモ一枚だけじゃなかったんですか?」

さわ子「ええ。あとになって見つけたのだけど……それにはタイムトラベルについての注意とか、今までみんなに説明したようなことが書いてあった」

み梓「パラレルワールドのこと、とか?」

さわ子「そう。そしてそのメモの裏にね、おじさんの名前が書いてあったの」

さわ子「名前と一緒に、゛自分を忘れるな゛という文も添えてね」

律「自分を忘れるな?」

唯「どういう意味?」

澪「自分を見失うな、とかじゃないのかな」

律「ていうか、さわちゃんのおじさん。もしかしたらトボケてるだけじゃないの?」

さわ子「そう思うでしょ? でも本当にわかっていない感じなのよ」

唯「ほんとかなぁ」

さわ子「ええ」

み梓「どっちにせよ、まずは先輩たちを救うことが先決です。それができてからこのことについて調べてくれませんか?」

さわ子「……そうね」

さわ子「私が行くわ。私ならもし過去でもう1人の私と会っても説明要らずだし」

律「でもさわちゃんは私たちがしでかしてきたことが何かよくわからないだろ」

律「だったら直接私たちが行ったほうが早いよ」

澪「私も律と同意見です」

さわ子「……言い忘れてたことがあった」

梓「え?」

さわ子「紀美の机に字を書いたってのはさっき話したわよね?」

唯「ごめんね、ってでしょ?」

さわ子「あれが世界を変えた原因だと思った私は過去へ行ってあれを消そうとしたの」

紬「原因を取り除くことができれば、もしかしたら紀美さんは死なずにすんだかもしれないからですよね」

さわ子「そう。でもね、消せなかった」

律「は? なんでだよ?」

さわ子「消すことができなかったのよ……。紀美の机に近づけなかった」

律「近づけなかったって……まわりに誰かいたから、とか?」

さわ子「違う。近づこうとすると何かに押し出されるの」

さわ子「実態のない。なにか……よくわからない力、みたいな。なんというか……」

さわ子「何をしようと、どう近づこうと机には近寄れなかった」

み梓「原因を取り除くことができなかった……ううん、取り除くことが許されなかった?」

唯「どういうこと?」

み梓「これ、私の時間の先生から聞いた話なんですけど、一度過去で何かを変えてしまうと戻すことが困難になる、みたいなこと言ってたんですよ」

さわ子「困難と言うか、ほぼ無理なのかもしれない」

み梓「え!?」

さわ子「それもおじさんのメモに書かれていた注意事項の一つよ。きっと梓ちゃんを気遣ってそんなこと言ったのね。私は」

み梓「そんな……」

梓「で、でもやってみなきゃわかんないよ!? まだ確定ってわけじゃないかもしれないしっ」

み梓「う、うん……」

紬「……世界を変えた原因」

紬「もしかしてっ」

唯「どったのムギちゃん?」

紬「ほら、りっちゃんが澪ちゃんの机の中に落書きを書いた紙を入れてたじゃない!」

澪「あ……ああぁぁ!!」


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