※残り分岐、律のやつのみ




律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」


律「うん、ここまで来たんだし何かやってみるべきだよ」

律「ってことで何を……どうせならわかりやすいように何か大きなことを」

律「……」

律「てきとうでいいかな。とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」

ス…

「やめろ!」

律「え?」

律「だれ―――――っ!?」

律「う、うそだろ……」

「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」

律「フリ……? ってそれどころじゃない!」

律「お前なんなんだよ!?」

「……」

律「その顔……」

「私は未来から来たあんただよ。田井中律」

律「うそ……」

「うそじゃない。それよりも」

「それを……落書きを絶対に消すな」

律「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」

「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」

律(むかっ)

律(いくら相手が私とはいえ、あんなキツイ言い方しなくてもいいだろっ)

律「へー、消したらなんかまずいんだ?」

「……」

律「……えいっ」フキフキ

「っっ!? や、やめろぉっ!」ガシッ

律「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」ドン

「っ!?」

律「ぜーんぶ消してやるからな!」フキフキ

「か、体が……うごかっ……!」

律「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」

「なんてこと……してくれてんだよ」

「ああああああああっっ!!」

律「ひっ」

「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」

律「お、おい? 未来の私?」

「待ってろよ……かならず、助けるからな……」

ピーン、ピーン、ポーン

律「行っちゃった……なんだったんだ、今の」

律「まぁ、とりあえず私も帰るかな。みんなが心配してるだろうし」



2010年5月7日

ヒュッ

律「お」

律「戻ってきたのか?」

唯「り、りっちゃん!? いつのまに!」

澪「律ー!」

律「どうやら戻ってこれたみたいだなぁ」

紬「おかえりなさい、りっちゃん。どうだった? 初めてのタイムトラベルは」

梓「変な感じだったでしょう?」

律「そうだなぁ……色々と不思議だったし、パニクったけど、悪くはなかったかな?」

唯「ほぉほぉ、それじゃあ次は私が」

澪「待って、唯! これ……できればもう使わない方がいい気がする」

唯「ほえ、どうして?」

澪「いや、なんとなくなんだけどさ……」

紬「私も澪ちゃんに賛成。面白いけどこのタイムマシンってわからないことばかりだもの」

紬「これはまた物置の奥にしまっておこう?」

唯「えー、せっかく面白くなってきたところなのにー」

梓「たしかに何か起きてからじゃどうしようもありませんもんね。そうしましょう。律先輩もそれでいいですよね?」

律(ホワイトボードの落書き……ほんとに消えてる。タイムスリップする前はちゃんとまだあったはずなのに……)

律(てことは私がこれを過去で変えてくることができたってことか)

梓「律先輩?」

律「え? あ、うん。それでいいんじゃないか」

梓「というわけで決定ですね」

澪「これでよし、っと」

唯「うえーっ、タイムマシン太がぁ……」

梓「名前つけてたんですか……」

律「よし、んじゃ今日のところは帰るか!」

紬「今日はティータイムできなかった、残念……」

律「んなの明日すりゃいいことだって」

澪「あ、私明日用事あって部活いけない」

唯「用事?」

澪「うん、ちょっとね」



2010年5月8日

律「さーて、放課後だー! 部室いくぞー!」

澪「あ、私は」

紬「そういえば澪ちゃんには用事があったのよね」

澪「うん」

唯「澪ちゃんがいない……おぉ、なんと寂しきかなっ」

律「ふっ、私がいるだろ。唯……」

唯「きゅんっ! り、りっちゃーん……」

律「唯……」

澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」

律「おう、それじゃあな」

紬「じゃあね、澪ちゃん」

唯「ばいばーい!」



軽音部室

律「お、ムギー。コップ一つ多いぞー。今日は澪がいないからな」

紬「あ! うっかりしてた」

唯「もぉ~、ムギちゃんのうっかり屋ぁ」

紬「えへへ」

梓「澪先輩もいないし、今日は練習もできませんね」

唯「今日もじゃないの?」

梓「うっ……」

律「それじゃあ、お茶飲み終わったら今日はてきとうにそこら遊び歩くか!」

唯「あ、いいねぇ~!」

梓「そうですね。たまにはいいかもです」

紬「たまには?」

梓「もうっ、さっきからイジワルしないでください!」


律「いやぁ、楽しかった。もうこんな時間かよ……」

ガチャリ

律「ただい――」

律母「はい、はい、そうですか……ええ、では……」

律「電話? なんかあったの?」

律母「律……」

律母「……いい? 落ち着いて聞きなさいね。律」

律「な、なんだよ……」

律母「澪ちゃんが――――」

澪が死んだ。

下校途中、変質者か何かに刺されたらしい。

信じられなかった。

澪はさっきまであんなに元気だったじゃないか。

嘘なんでしょ……ねぇ、澪。

律母「ちょっと、しっかり!? 律!」

律「だい、だ……大丈夫……大丈夫だ、よ」

律母「少し横になって休もう? ね」

律「いいよ……いい、大丈夫」

律「わ、私が悪いんだ……澪を一人で帰らせた私が……」

律母「そんなことないよ。あんたはなにも悪くない」

律「っ……」



2010年5月11日 葬式会場

律「……」

唯「み、おぢゃあんっ……」

憂「お姉ちゃん、ハンカチ……はい」

唯「ああぁぁっ」

和「どうしてこんなことが起きちゃったのかしらね。こんな……」

紬「私、犯人が許せないっ」

梓「私だって、私だってそうです……」

律「……」

唯「りっちゃ、りっちゃんは悲しくないの……?」

律「え?」

唯「だってさっきから黙ってなんか考えてるみたいで……」

律「……そうか?」

唯「うん」

律「気にすんなよ。私のことなんか」

唯「気にするよ……こんなときなんだもん」

律「っ」

律「うるさいな! ほっといてくれよ!!」

唯「!」

和「唯、律は落ち着きたいのよ。だから、ね?」

唯「う……うん、ごめんね。りっちゃん」

律「……」

律(澪、お前は私がかならず助けるから……)



2010年5月11日 軽音部室

律「……あった」

物置の奥深くにしまいこまれたタイムマシン。
私は迷いなくそれを手にとる。

律(今の時間から飛べばちょうど授業が終わる頃だ)

そういえば唯たちはタイムマシンで時間を遡って澪を助けようと思ってはいないのだろうか。
突然のことでそんなこと、頭に思い浮かばなかったのかな。

律「どっちにせよ、澪を助けるのは私だよ。私が澪を……」

律「待ってろよ……かならず、助けるからな……」

ポーン、ポーン、ピーン



2010年5月8日

澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」

律「おう、それじゃあな」

紬「じゃあね、澪ちゃん」

唯「ばいばーい!」


澪「……」

律「……澪」

澪「!?」

澪「り、律! お前、どうしてっ」

律「一緒に帰ろうぜ」

澪「帰るって……みんなは?」

律「いいからいいから」

澪「ちょ、ちょっと!?」

律「……」

澪「……」

律(たしか、澪はこの先の道で刺されたんだよな)

律「澪、こっちから帰ろう」

澪「な、なんだ、いきなり口開いたと思ったら……そっちからだと遠回りになっちゃうだろ?」

律「たまにはいいでしょ? な」

澪「あのなぁ、用事があるって……」

律「お願い」

澪「……り、律?」

律「こっちから、帰ろう?」

澪「……仕方がないなぁ。わかった」

律(これで澪は刺されずに済んだ! 助かるぞ!)

澪「なにニヤけてるんだよ、気持ち悪いな」

律「へへ、ちょっとな~」

澪「? へんな律……」

澪「っと」

律「どうしたの?」

澪「靴ひもが……さき歩いてて」

律「ん? ああ、うん……」

――グシャァッ。

律「え?」

律「あ、あれ……澪」

律「澪!? 澪どこ!?」

「きゃあああああ!!」「ひぃっ……」

律「……みお?」

すぐそこに大きな看板が落ちていた。
看板の下からは血が流れてきている。

澪、澪はどこにいるの?

澪……みお……?

律「   」

「女の子が看板の下敷きになってるぞ!!」「救急車! 救急車を!」

「はやく助けてあげてえっ!!」

律「……」

律「あ」

律「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ」


「せーのっ!」

ギギギギ、軋んだ音を立てて看板は男の人たちに持ちあげられる。

「う、うあ……」「ダメだ……これは……」

律「澪ぉっ!! みおぉぉっっ!!」

「き、きみっ、ダメだ! 来ちゃいけない!」

律「はなせっ! はなせって言ってんだろぉぉ!? うわああああ!!」

律「なんでだよ!? なんで死んだんだよぉっ!?」

律「どう……どうして――――」

体に力が入らない。
その場に崩れた私は目の前の血塗れた澪を見つめた。
大好きな綺麗な顔はすでに綺麗な顔じゃなくなっていた。

律「やめてくれよ……やめてくれよぉ……」



2010年5月9日

律「はぁ、はぁ……」

部室には幸い誰もいなかった。
澪が死んで次の日だ。当然と言えば当然だけど。
ギターを取り出してきた私は慣れた手つきで弦を一本、一本弾いていく。

ポーン、ポーン、ピーン

律「あきらめないからな! 絶対死なせないからな!」

律「澪――――」



2010年5月8日

律「こっちから帰ろう、澪」

澪と一緒に下校するまでの流れは同じだ。
今度はまた別の道を通ることにした。

澪「こっちって……」

澪「律。私、あんまりもたもたしてる暇ないんだぞ」

律「大丈夫だよ。走ればすぐだ」

澪「は、走るってそんな……って、ええっ!?」

澪の手をとって走り出す私。
今度は澪から離れない。
この手を離すもんか。絶対に。

律「はぁ、はぁ……!」

澪「り、律! ストップ!」

澪「信号! 赤になってる!」

律「え? あ、ああ……そうだな」

澪「こっちは信号がたくさんあるからあんまり通りたくなかったのに」

律「悪い」

澪「別に、気にしてないけど」

信号が変わるのを待つ時間すら今の私にはとても煩わしかった。
こうしている間に澪がしん……ううん。

しばらくして青になった信号。

律「よし、また走るぞ。ほら、用事に遅れちゃ大変だろ」

澪「あ、うん!」

急いで横断を済ませようと駆け出す私と澪。
もちろん手は離していない。

――ドンッ。

背中を突き飛ばされた。私が。

振り返ると同時に今度は大きくドンッ、と鈍い音が聞こえた。

律「え――」

バイクだ。バイクが人を撥ねたんだ。

誰を……撥ねたんだ?

澪「あ……あぁ……」

「大丈夫か!?」

律「澪!?」

倒れている澪に駆け寄った男を押しのけて、澪のところへ。
まだ意識はあるみたい。だけど……目の焦点があってない。意識が朦朧としている。

澪は「あ、あ」とかすれた声を絞り出している。
頭からは血が止めどなく溢れていて……。

律「澪! 澪ぉ!」

澪「り……つ……?」

律「死なないでっ!! 澪っ!! 嫌だよぉっ!!」

澪「だ……だめだ、ぞ……? ちゃんと……まわり、みなきゃ……」

そうだ、さっき私を突き飛ばしたのは澪だったんだ。
私がバイクに撥ねられそうになったのを澪が助けて……庇って。

死んだ。

澪はピクリとも動かなくなった。相変わらず血は溢れたまま。

「きゅ、救急車を……」

律「どうして……澪……」


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