2010年5月10日

ポーン、ポーン、ピーン

唯「どう? タイムスリップできた?」

律「いや……」

唯「あぅ……そんなぁ」

律「……やっぱりダメだ。澪のいる時間にだけタイムスリップできないどころか、他の時間にも行けないよ」

梓「どうしてなんでしょうか」

紬「さわ子先生、何かわかりますか?」

さわ子「……わからない」

梓「そんな無責任なっ」

さわ子「……ごめんなさい」

律「なんだよそれ……」

紬「例えばですけどっ、澪ちゃんがこっちに戻って来たとしても、あっちの世界の澪ちゃんがいなくなってしまうだけじゃない……それに向こうはまだわからない未来のことなんだから矛盾は生じないはずです!」

さわ子「……ムギちゃん、落ち着いて」

紬「っ……」

さわ子「言ったでしょう? もうこっちの澪ちゃんはあっちの時間の澪ちゃんなんだって」

唯「え、でもそうするとこっちの澪ちゃんはどこなの?」

さわ子「……えっと、つまり……こっちの澪ちゃんの肉体はあっちにあって、でも意識があっち側に染まりつつあるけど、こっちの意識も残っていて……」

さわ子「あー……熱が出そうよっ。わけわかんないっ」

梓「し、しっかりしてください」

さわ子「……世界ってワガママなのよ、きっと。思ったとおりに動いてくれないものでしょ?」

唯「たとえば?」

さわ子「例えばって……色々よ」

唯「ふーん……」

さわ子「だから、澪ちゃんを助けたいという私たちの意志も、世界が澪ちゃんを助けることを許さないというのなら……無理、とか」

律「おい!?」

さわ子「私たちって案外ちっぽけなのよ……」

律「ふざけないでくれよ!! 澪は絶対に助けるっ、さわちゃんもそうだろ!?」

梓「そうですよ! 先生があきらめてしまったら私たち……」

さわ子「何も、何も思いつかないのよ! これでもある知識全て振り絞って考えたわ! でも、何も思いつかないの。方法がないの」

紬「……」

律「くそっ、私はあきらめないからな!!」

唯「りっちゃん……」

さわ子「何をする気なの?」

律「電話だよっ、少しでもあいつに私たちの声を聞かせてやるんだ!」

梓「そんなことしたって……」

律「うるさい!」

紬「りっちゃん、私たちじゃもう……」

律「うるさぁいっ!」

唯「無理しちゃやだよ、りっちゃん……」

律「うるさいって言ってるだろぉっ!?」

律「くそっ、くそくそっ……! どうして出てくれないんだ!?」

律「電話に出ろよぉっ、澪ぉぉっ!!!!」



2010年5月18日 田井中家

律「ほら、できたよ」

テーブルに次々と置かれていく律の手作り料理。
ハンバーグにコンソメスープ、ポテトサラダにほかほかご飯。
もちろん私はそれに手をつけることはなかった。

律「いつも同じ物ばっかり作る、とかいうツッコミはなしで頼むな」

エプロンをほどきながら律はそう言う。
いつもはガサツでうるさい律もこういったところは家庭的なんだ。
私は陰ながらそんな律にあこがれのような物を抱いてきた。

律「なんだよ、食べないのか?」

澪「……」

律「遠慮すんなよ」

澪「……」

律「もしかしてお腹減ってないの?」

澪「……」

律「結構自信作なんだけどなぁ」

澪「……っ」

目の前にいるのは律だ。
それには変わりない。
私にとって偽物だ。でもこの時間としてはこっちが本物だ。
さっきから必死に余計な事を考えないように例の文章を暗唱し続けた。
でも……

律「冷めちゃうよー?」

律「まさか……具合悪いのか?」

律「また頭痛? もしかしてお腹?」

律の手が私へ伸ばされる。
その手を払いのけた。
そうされた律はとても驚いていて、とても悲しそうな顔をしていた。

澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ)

最初からこんな所へ来るべきじゃなかった。律の誘いを断っていればよかったんだ。
そうだ、なんで私はここに来てしまったんだ。

律「み、澪……」

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ! 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!」

律「み――」

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!!」

両耳を手で押さえて律の声を遮断した。
聞いちゃダメなんだ。
私にはもとの時間で本当の律が待っていてくれている。
みんなが待っていてくれる。

澪「私は過去から来た秋山澪、こ――」

……抱きしめられた。

何も考えられなくなった。

律「澪、大丈夫だ。大丈夫……」

澪「か、か……」

律「私が傍にいるからな」


――Prrr、Prrr


携帯が鳴っている。私のだ。

しばらくしてポケットから携帯が床に滑り落ちた。
ブーブー、と唸りをあげる携帯が音を立ててゆっくりと床の上を動く。
誰からの電話だろう……。
もうどうでもいいのかな、そんなの。

律「澪」

律「安心して」

澪「あうっ、あ……」

律「ずーっと私が傍にいてあげるからな」

――私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。



なんだっけ、それ――――



2010年5月19日

律「みーお!」

澪「うわっ、律!?」

澪「あ、朝から驚かせるなよっ」

律「えへへ~、澪はあいかわらずビビりだなぁ」

澪「叩くぞ?」

律「いやーん!」タタタ…

澪「あ、こら! 待て、律ー!」タタタ…

律「捕まえてみろよ~!」

澪「このっ、ばか律ー!」


……

  • 2010年5月11日 軽音部室

律「あれ」

律「梓、なんでそっちの椅子に座ってんの?」

梓「なんでって、いつもここに座ってませんでしたっけ?」

紬「私の隣じゃなかったかな?」

唯「そうだっけ?」

律「そうだろー」

梓「じゃあ、はい」ス

律「さぁて、そろそろベース弾ける部員を見つけなきゃな」

梓「3年目にしてやっとですか……」

唯「まぁ、のんびりいこうよぉ」


BADEND5



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