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律のやつ? 澪のやつ?

※澪のやつ


澪(どうしよう?)

澪(どっちみち、部室からみんながいなくならないとタイムマシンも使えない……時間もあるし、それぐらい……)

澪「いいよ」

唯「やったー!」

律「それじゃ、コンビニ行くか」

澪「うん。そういえば私も見たい雑誌があった」

唯「ならちょうどよかったね~」

澪「ふふ、そうだな」

澪「一応ムギたちに連絡を」

律「いいって、いいって! 大丈夫だよ。立ち読みくらい」

澪「……まぁ、それもそっか」


唯「あははは! おもしろ~い」

澪「こら、お店の中で大声出すな」

唯「だってー、あはははっ」

澪「もう……ふふふっ」

律「なんだ、澪。それ面白いのか?」

澪「うんっ、なかなか……あはははっ」

律「私読むもんねーなぁ。つまんなーい」

唯・澪「もうちょっと、もうちょっとだけ……ぷぷぷっ」

律「ぶー!」

唯に勧められた雑誌の漫画はそれはもう私のツボを抑えた面白いものだった。
漫画なんて久しぶりに読んだけど、たまにはこういうのもいい。

澪「あ、終わっちゃった」

律「また来週の楽しみってことだ。さぁ、そろそろ部室からみんな帰った頃だし、私たちも行くぞー」

澪「そうだな。唯ー」

唯「……ん~」

澪「どうした?」

私に話しかけられたことにも気づかず、顎に手を当てて考え中のポーズをとっている。
数秒して「はっ」と声をあげると、私に向かってこう言った。

唯「私いいこと考えちゃった! 1週間後に行けばすぐに続きが見れるんだよ!」

澪「……おぉ!」

律「おぉ! じゃねーよ。だめに決まってんだろ」

唯「え~! どうして?」

律「ムギたちに心配はかけられないだろ?」

唯「……うん。それもそうかぁ」

律「澪も、な?」

澪「ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

律「澪ぉ?」

澪「うぅ……」

コンビニから戻ってきた私たちは再び外側から部室の中を確かめた。
6時も回っていたことか部室の中には誰もいなかった。
そんなこと、部屋に電気がついているかぐらいで判断できるけど、念には念を入れての行動だ。

律「なーんで私たちの部室なのにコソコソしなきゃいけないかなぁ」

物を壊したりとかこの時間に支障をきたすような行動があってはならないと慎重に動いた。
しばらくして律が物置からタイムマシンを持って来ると

律「唯、ムギたちには電話で連絡したな?」

唯「バッチリだよ~。今から戻るってちゃんと伝えた」

律「よし、んじゃまた私から行くぞ。二人は後から着いてきて」

弦が鳴る音が部室に響くと、律の姿は瞬く間に消えた。
この瞬間は今だに慣れない。まるで二度と会えなくなっちゃうんじゃないかと思ってしまう。

唯「次は私だね。お先に~」

律にならって弦を鳴らすと、唯も消えた。
私で最後か……。

澪「……」

よからぬ考えが頭を過った。

間違えたフリして1週間後へ飛んでしまえ。
もちろんそんなことしたら律には怒られるだろう。
というか、みんなに心配をかけてしまうことになるに違いない。

澪「……」

躊躇した。

そんなことしてしまって本当にいいのかな。
梓だって言ってた。
もし未来の自分が死んでいたとしたら?

澪「う……」

澪(どうしよう……)

澪「い」

澪「いいよね、これぐらい」

漫画の続きを読んでくるだけだ。
大したことない。
すぐに戻ってくればいいだけだ。

躊躇することは止めた。

手に持ったタイムマシンの弦を一本一本鳴らしていった。

澪「えへへ……――――」



2010年5月16日

澪「あはははっ」

澪(続きはこんな感じだったのか! あいかわらず面白い!)

1週間後へついた私はさっそくさっきのコンビニへ行き、漫画を開いた。
買って行こうって考えもあることにはあるけれど、未来の物を持ってきたらどうなるかわからなかったから、立ち読みで済ませることにした。

澪「ふぅ、面白かったなぁ」

さすがにまた続きが気になるだなんて言っていたら、キリがない。
残念だけど、そろそろみんなのところへ帰らないと。
コンビニを出てすぐ、制服の中の携帯が震えていることに気づく。

電話だ。律から。

恐る恐る通話ボタンを押して、耳元へ携帯を持っていく。

澪「も、もしも――」

律『澪!! 無事か!!』

間髪いれずに聞こえてきた律の大きな声。
その声色からは私を心配していることがわかる。

律『無事なのか!! おい!? 澪っ!!』

澪「り、律……」

律『ああ、澪っ! よかった……』

律『さっきから電話かけてたのになんで出なかったんだよ!? 何かあったのか!』

きっと漫画に集中していて携帯に気がつけなかったんだ。

澪「あ、ああ……実は戻る時間を間違えちゃって……」

澪「それでついた時間でさわ子先生に捕まっちゃってさ……ははは」

嘘をついた。
ついてから自分が最低だということを自覚した。

律『なんだよ……妙な心配させんなっ! ったく……』

澪「みんなは? みんなはいるの?」

律『いるよ。みんなお前を心配してる。代わるか?』

澪「いや、すぐに戻ってくるからい――――」

一瞬、あまりの出来事に固まってしまった。

私だ。そこには私がいた。

律『澪? 澪!? どうした!』

律の声が頭に入らない。

澪「私……私だ。私がいる……」

律『え!?』

あ、目があった。私と。
向こうもなにが起きたかわからないと言った表情で私を凝視する。

澪「あ、あの……っ」

身振り手振りで何かを説明しようとした。

でも何を……?

未来の私はようやく事態に気づくと、手に持っていた買い物袋をその場にほうり投げて、
私に背を向けて走り出した。いや逃げた。
私も携帯片手にそれを追う。

どうして追ったのかはわからない。けどなんとかしなきゃって思ったんだ。
携帯からは律……だけじゃない、みんなの声が漏れる。
必死に私の名前を呼んでいるんだ、みんな。

澪「待って、待って!」

「来ないでぇー!!」

どうして、どうして逃げるんだ!
別に何もしやしないのに!
私が誰なのかわかるでしょ!?

「いやあぁ――――あ」

――ドンッ

鈍い音があたりに響いた。

澪「あ……ああ……」

信じられない……。

目の前で私が車に轢かれた。
もう一人の私は数メートル先にふっとび、地面に横たわるとピクリともしない。

澪「ううう、うそだ……」

『どうしたんだよ!? 澪! 澪ぉぉーっ!!』

澪「うそだ……う、うそだ……」

『澪! 澪! 返事してくれっ!!』

澪「きゃああああああああああ!!!!」






澪「――あれ、私……」

澪(こんなところで何ボーっとしてるんだろ)

澪(はやくお使いすまして家に帰らなきゃ……あれ?)

澪「私、もう買い物したよね? え?」

澪(でも買い物袋も何も持ってない……)

澪「……あっ、ぐ」

澪「う、あ……ううう……!」

澪「あ、あたまっ、いたいっっ」

澪(ママには悪いけど……このまま帰ろう)



自室

澪母「大丈夫? 頭痛薬持ってこようか?」

澪「い、いい。大丈夫、少し横になれば治まるよ」

澪母「そう? それじゃあ、ゆっくり休んでいなさいね……」

ガチャリ

澪「はぁ……いやだな、風邪かなぁ」

澪「でも熱はないし……どこかに頭打ったとか……」

――『来ないでぇー!!』

澪「え?」

――『いやあぁ――――あ』

澪「うっ……!?」

誰かの悲鳴が幻聴のように聞こえたと同時に、頭の中に鮮明な映像が浮かぶ。

誰かが車に撥ねられて、そのまま地面に倒れている。
頭からは血が溢れてて――

澪「あっ、う……ああああっ」

゛誰か゛を思いだそうとすると頭に激痛が走る。

澪「だ、れだ……だれなの……っ」

少しずつ゛誰か゛のイメージがはっきり見えてくる。
黒くて長い髪――

澪「!!」

私だ。゛誰か゛は私だった。
私が夥しい量の血を頭から垂れ流して……死んでいる。

澪「あ゛あああああ!! あ゛あああああ!!」

死んでいるのは私だ。それじゃあ私は誰なんだ。

まるで頭の中を滅茶苦茶にかき回されているかのような気分になって、
気持ち悪いとか、そういうもんじゃない……。
今の自分を自分自身に否定されている。

わけがわからなかった!

助けて! 誰か助けて!

――Prrr、Prrr

その時、机の上に置いていた携帯が音を立てて、振動した。
誰でもいい、誰かの声が聞きたいと、ガタガタと震える腕を携帯へ伸ばす。

澪「もしもしっ!! もしもしっ!! だれ!? だれなのっ!?」

『澪!! 澪ぉっ!!』

私を、私を呼ぶ声だ。

電話の後ろでは「繋がった!?」とか「帰ってきて!」だとかそんな声が。
私を呼ぶ声は絶えなかった。

『澪!! 帰ってこい! 澪っ!!』

澪「だれよおぉっ!! わあああぁぁっっ!!」

自分がわからない。電話の相手もわからない。
私はこの世界で一人だ。わからない。一人なのかさえ分からない。

『私だよ!! 律だよ!! 澪ぉっ』

りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
……りつ、律?

澪「り、つ?」

私は知っていた。
電話の相手を。

澪「律!?」

律『そうだ! 私だ!』

澪「あ……ああ……」

思いだした。
私は秋山澪で電話の相手は田井中律、私の親友だ。
平沢唯、琴吹紬、中野梓、顧問の先生に山中さわ子。
そうだ、みんな思いだした。

澪「私は2010年の5月8日からタイムスリップしてきた……?」

紬『そう! そうよ! 澪ちゃんっ』

電話の相手は律からムギへ代わっていた。
次に唯、梓と順々に。
みんな私を心配してくれていたんだ。

律『ばか! 澪のばかっ!』

澪「ごめん……」

私はわざと5月16日へタイムスリップしたことを話した。
それを聞いて律はすごく怒ってくれた。
そうしてもらえることで私は今ここにいるんだと感じさせられ、ありがたかった。

律『今すぐ帰ってこい!』

唯『でももう学校も閉まってるんじゃないかなぁ』

澪「え? だったらみんなは今どこにいるんだ?」

梓『私たちは今唯先輩の家です』

澪「そうか……」

時間を見ると、もう8時を回っていた。
こんなに遅い時間なのに、みんなは私を……。

律『……じゃあ戻ってくるのは明日でいいから。こっちのほうの心配はしなくていい。私たちが何とかする』

唯『澪ちゃんは私のウチで寝ちゃって帰れそうもないから、今日は泊めるって澪ちゃんのお母さんに言っておくよ』

澪「あ、ありがとう。唯」

澪「それじゃあ、そろそろ電話切るね」

紬『澪ちゃん、待って!』

澪「え?」

紬『さっき、澪ちゃんはもう一人の澪ちゃんに会ったのよね?』

澪「……うん」

紬『その後……その後はどうなったの?』

澪「……死んだ。車に撥ねられて死んだはずだ」

『!?』

梓『そ、そんな……だったら澪先輩は……』

律『うそ、だろぉ……』

唯『やだ、やだよ! そんなのっ! そんなのいやだっ!!』

そうか、今気づいた。
私は16日に死ぬ運命なんだ。
車に撥ねられて……。

澪「……」

不思議とパニックになることもなく、悲しくもなかった。
頭はとても鮮明で、クリアな状態だった。

紬『……それで、その亡くなった澪ちゃんはどうしたの?』

澪「ああ、それが……」

あれ?

なんだこの感覚……。

澪「それが……えっと…………え?」

紬『澪、ちゃん?』

澪「わ……わからない! 未来の私が死んでからどうなったのかわからない!」

澪「どうして!? 私の死体が見えてから何も覚えてない!!」

そうだ、そこからの記憶がすっぽり抜けてる。
気がついたときには道に立っていて、お使いで頼まれたものを……。

澪「何がどうなってるの!?」

紬『澪ちゃん落ち着いてっ』

律『澪! 落ち着けっ、深呼吸しろっ』

澪『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!』

どうなっているんだ。

私はいったいどうなっているんだ。

私が死んでからの私はいったいどうなっているんだ。

梓『――ということは、前のことは何も覚えてなくて、別の行動をとろうとしていたってことですか?』

澪「ああ……」

唯『でもそれって変な話だよね?』

律『それどころか全く意味わかんないよ……ともかく、澪! お前は明日こっちに戻ってくればいい。それだけなんだっ』

澪「う、うん」

紬『でも……澪ちゃんがこっちに帰ったとしたら亡くなった澪ちゃんは?』

紬『亡くなった澪ちゃんはどこへ行っちゃったの……?』

そうだ。そして今気づいた。
道で立っていたときの私、制服じゃなくて私服だった。
そんなのありえないはずだ。私はタイムスリップしてから一度も着替えた覚えはない。
そういえば、あのとき見かけたもう一人の私……私服姿だった。
それに手には買い物袋があった。


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