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律のやつ、どこに隠すか、澪のやつ

※どこに隠すか


澪「そうだなぁ……」

澪「校舎内に隠すか」

梓「でもどこに?」

澪「……ムギ」

紬「そうねぇ」

紬「ここは裏をかいてもとの場所に隠すってのはどう?」

梓「物置にですか」

紬「うん」

澪「そうだな。でもまだ部室にはあの二人がいるから……」

梓「それなら帰る時にでも私がちょっくら隠してきますよ」

澪「そう? それじゃあ梓、任せた」

梓「任せてください」


律「おかえりー。どこに隠したー?」

澪「言うわけないだろっ」

紬「唯ちゃんとりっちゃんには内緒~」

唯「ムギちゃんのいじわるぅ」

紬「ごめんなさいねー」

律「さて、三人とも戻ってきたし、そろそろ帰るかぁ」

唯「うわっ、もう外真っ暗なんだねー」

澪(それじゃあ、梓)ヒソヒソ

梓(はいっ)ヒソヒソ

律「ふいー、なんか冷えるなぁ」

唯「5月なのにねー」

梓「あ! すみません、私部室に忘れ物してきちゃったみたいです」

紬「本当? それじゃあすぐに取りに行かないと」

唯「私も付き合うよ、あずにゃん」

梓「あ、いえ。すぐに取ってきますので! 一人で大丈夫ですよ」

唯「そう?」

梓「それじゃあちょっと行ってきまーす」

律「さっさと戻ってこいよー」



軽音部室(物置)

ガサゴソ、ガサゴソ

梓「奥に、押し込んで……っと」

梓「これじゃあ見えちゃうかな。だったらこれで隠して……」

梓「よし! こんなもんかな」


梓「お待たせしました!」

律「おそーい!」

紬「まぁまぁ、それじゃあ帰りましょう?」

唯「お腹ペコペコだよ~」

澪(梓、うまくやってくれたか?)ヒソヒソ

梓(ええ。バッチリです!)ヒソヒソ



2010年5月14日

純「いよいよ中間テストかぁ」

憂「そうだね。勉強した?」

純「私が? まさかぁ」

純「……まぁ、一応したけど自信ない」

憂「あはは……」

憂「梓ちゃんは?」

梓「……純と同じく」

純「梓が? 珍しいじゃない」

梓「好きなライブのDVD見てたら勉強厳かになっちゃって」

純「なんで期間中にそんなものを……」

梓「ど、どうしても見たかったんだもん!」

憂「あ、先生来るよ。席につかなきゃ」

私はよく背伸びしたがる性格だとまわりから言われる。

それについては自分でも少しは自覚してるつもり。
でも、今さらこの性格が直るとは思ってはいない。
負けず嫌いでプライドが高い。
子供っぽいんだなぁ、私は。
だから――

純「やった! やったぁー!」

憂「おめでとう! 純ちゃん!」

梓「うそぉ……」



2010年5月19日

先週行った中間テストの成績が配られた。
答案用紙に書かれた数字に私は愕然。

梓(酷過ぎる……それに赤点が3つも……)

憂「梓ちゃんどうだった?」

梓「ひっ……ま、まぁまぁの結果かな……」

憂「そっかー。それより純ちゃんすごいね~」

憂「勉強してないだなんて言っておいて、ほとんどが高い点数だったんだよ」

梓「そそそ、そうなんだぁー……へー……」

純「私、天才少女? あはははは」

梓(っぐ……!)

梓(どうしよう……最悪だよっ)

梓「……そうだ」

純「え? どうした、梓?」

憂「?」

梓「ちょっとトイレ行ってくる!」

憂・純「いってらっしゃーい」



軽音部室

梓「たしかここに……あった。隠したときのままだ!」

私は返された中間テストの答案用紙たちをポケットに突っ込み、
物置から取り出してきたギターもといタイムマシンを担ぐ。

梓(答案用紙には正しい答えも書き写した。これを過去の私に渡せば……)

正直せこいとかずるいとか、そんなことは一度もこの時思わなかった。
けれども、寸でのところで私のプライドが働いた。

梓「ほんとに……こんなことしていいのかな」

梓「それにこれは先輩たちとも使わないって決めたんだよ?」

梓「なのに……」

でも赤点はいや! あんな点数は認めたくない!

梓「つ、次のテストで頑張ればいいじゃない……」

梓「……」

無意識に私はギターの弦を弾いていった。
無意識に、無意識になんだ。
これは私の本心とは関係ないの。

梓「ちょっとぐらい……いいよね――――」



2010年5月12日

梓「――……ん。ちゃんと来れたかな」

部室を出た私はてきとうな教室に入り、日めくりカレンダー見る。
2010年5月12日……成功だ。
日付を確認したあと、すぐに下駄箱へ行き、私の靴の中へ答案用紙を押し込む。

梓「さすがに直接手渡すわけにもいかないしね」

梓「……そうだ、一応メモを残しておこう。こんな物はいってたら不審に思うだろうし」

―私は未来の中野梓です。タイムマシンのことを知っているあなたならわかりますよね?
 この答案は明後日から始まる中間テストのものです。見ての通り点数は最悪。
 あなたもこのままではこんな悲惨な点数を取ってしまうでしょう。
 そこで未来からの助け船です。答案には正しい答えを書き写しておきました。
 さすがにこれでテスト中にカンニングすることは勧めませんが、
 今日と明日にこの答えを丸暗記してしまえばテストはバッチリなはずです。

                      以上。未来の私から、12日の私へ―

梓「……と、こんなもんでいいかな」




2010年5月19日

梓「ただいま」

純「おかえりー」

憂「遅かったね、何かあったの?」

梓「えへへ、ちょっとねー」

純「にしてもやっぱり梓はすごいよねー」

梓「え?」

憂「ほんとだよー。全教科高得点で学年1位になっちゃうんだもん」

梓「!」

梓「本当!?」

憂・純「?」

純「本当って、あんたが一番わかってることじゃない」

憂「机の中にさっき返された答案、入ってるんじゃない?」

梓「あ、うん……ほ、本当だ!! すごい!!」

やった、やったんだ。

上手く過去を変えることができた。
12日の私はしっかり私が残した答案に気づいてくれたんだ。

梓(グッジョブ! 過去の私!)



自宅

梓「あれ、これ……」

部屋に帰るとゴミ箱の周辺に千切られた紙片の一枚が落ちていた。
中野と書かれてある。

梓「これ、テストの答案用紙じゃない」

気になってゴミ箱の中身を覗くと、バラバラに千切られた答案用紙が入っていた。
それらをゴミ箱から回収して、並べてみると。

梓「やっぱり……私が12日の私に渡した答案用紙だよ、これ」

これのおかげで私は学年1位になれたはず。
なのにどうしてこんな。

梓「こんな点数をとった私が許せなかったから……とか?」

まぁ、とにかく。
無事になんとかすることができて本当によかった。

この出来事を境に私は調子に乗った。

週に何回かある小テストでも前日へタイムスリップして答えを下駄箱の中へ入れてきた。
結果は満点。先生からも、まわりからもすごいと褒められた。

テスト以外じゃなくても小さな失敗を起こしたときだってタイムスリップしてアドバイスを書いたメモを下駄箱に入れてきた。
結果は……失敗は回避されなかった。そのままの結果が現在に残っていた。
テスト以外のメモには興味がなくて目を通してくれなかったのかな。
それから、渡した答案とメモは全部、いつも私の部屋のゴミ箱に千切って捨てられていた。

梓「明日か、期末テスト!」

7月22日、今度は期末テストだ。
今日も前日も勉強はてきとうに軽くすませただけでほぼ手をつけてない。

梓「待っててね。また答案を持ってくからね、私」


2010年7月20日

梓「さて、と」

さっき返された期末テスト、結果は酷いものだった。
すぐに正しい答えを書き写すと、私は期末テスト実施日の2日前にやってきた。
答案とメモを握りしめて下駄箱へ急ぐ。

梓「これで今回も学年1位だよ。やったね」

靴の中へそれを入れようと手を伸ばすと……。

梓「……なにこれ」

靴の中に手紙が入れてあった。
まるで誰かがこの靴を取ることを予測していたかのように。
可愛らしい封筒の中から手紙を取り出して広げると、こう書かれてあった。

梓「未来の私へ……」

梓「……」

―初めまして、未来の私。たぶん今日にでもまたテストの答案を置きに来るだろうと思ってこの手紙を書きました。
 どうしてかというと、もう私に干渉してもらいたくないからです。
 あなたのしていることはとても卑怯で最低です。
 これが未来の私なのかと思うと呆れて物も言えませんし、腹が立ちました。―

梓「そんな……」

梓「でも私のおかげで私は――」

―でも、私はあなたにとても感謝しています。
 悪い点数の答案、小さなミスから大きなミス、全部に。
 これらのおかげで私はもっと頑張ろうって気持ちになれたし、ミスを気にせずに乗り越えてくることができました。

 最初から、あなたには何も頼っていなかったんです。
 答えの書いた答案も、ミスを回避する方法が書かれたメモも全部参考にしないでゴミ箱に千切って捨てていました。
 ミスは全て受け入れました。自分が起こしたことなんだから。―

梓「……うそ」

手紙にはまだ続きがある。

―未来の私。もう一度書きます。
 もう私に干渉しないでください。
 私は私、あなたはあなた。私はこれからも自分の未来のために頑張ります。
 だから、あなたは過去を振り向かずにあなた自身の未来のために頑張って。―

梓「あ……あ……」

―追伸。
 タイムマシンは二度と使わないでね。
 先輩たちと約束したでしょ?
 約束は守らなきゃ。―

梓「ああ……」

下駄箱の前で私は崩れ、泣いた。
今までの自分の愚かな行為に後悔した。
手に持った手紙はくしゃくしゃになって、涙が落ちた部分が滲む。

梓「……ごめんなさい、ごめんなさい。過去の私」

ここで謝ったって過去の私へ届くことはないけど、謝らずにいられなかった。
何度も何度も謝った。
その後は靴の中に答案も手紙も入れることなく、何もしないでもとの時間へ帰った。



2010年7月27日

私は本当にプライドが高くて負けず嫌いだったんだ。

それを自分自身に気づかされるのは何だかとても不思議な気分だった。
自分の失敗を過去の私に尻拭いさせていた私は卑怯者だ。
でも、今日で卑怯な私とはお別れしよう。
真面目な私になるように努力しようと思う。

純「今回も梓はすごいね~! 友人としても鼻が高いよ!」

憂「ふふっ、そうだね」

テストの結果はまた学年1位。
やっぱり、過去の私は頑張っていたんだ。本当に。

ふと、机に書かれた真新しい落書きを見つける。

―どうだ、まいったか! by,私―

梓「……あ、ふふっ」

頑張ろう、私も。過去の私に負けないぐらい!


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