べつのとあるひ・しょうこうぐち!


唯「あずにゃ~ん、今日はうちに寄ってかない?」

梓「あ、唯先輩っ!? ちょ、ちょっと待ってくださ……ああっ」

 ばさばさー。

唯「…………」

梓「…………」

唯「……いちおー聞くけど、これ、ラブレター……だよね?」

梓「は、はい、多分……何故に私なんかにラブレターをくれるのか、さっぱり理解出来ないんですけども」

 いつもは見られる前にカバンに仕舞っちゃうんだけど、今日はタイミングが悪かった。
 ううん、別に私にやましいことがあるわけじゃないんだけど、何だか居心地が悪いっていうか、唯先輩に対して後ろめたいっていうか。

唯「へ……へー。モテモテなんだね、あずにゃん。うん、わかるよ。とっても可愛いし、ツンっとしてるようでいて実は甘えん坊だし、口が悪いようでいてちゃんとフォローしてくれる優しさもあるし……」

梓「あの、唯先輩?」

 何か、怒ってませんか?
 これは私が望んでもらったラブレターじゃないんですから、怒られるいわれもないんですが。

唯「あ、あはは、やっぱ今日はいいや。よく考えたら、憂が用事で遅くなるから、自分でご飯作らなきゃいけないんだったよ!」

梓「あ……」

 落ちたラブレターを放っておくわけにもいかなくって、走り去る唯先輩を追うことが出来なかった。
 っていうか、憂の帰りが遅くなるっていうことは……つまり、一緒にご飯作ろうとか、あの広い部屋で抱き抱きごろごろしようとか、そういうお誘いだったに違いないのに。

梓「……はあ」

 女子校なのに、ラブレター。
 しかもほぼ毎日、両手の指じゃ足りないくらい届くって、どういうことなんだろ。
 私や唯先輩みたくレズい関係だったり、そうなりたがってたり、或いは興味本位や冗談で書いてる人もいるんだろうなあ。
 今まで、読んでて『むむ、これは!』って思うくらい本気っぽい手紙も確かに何通かあったけど。

梓「……はあぁ」

 また、思わず溜め息が出る。
 自分が唯先輩ラヴなことを考えると、こういう手紙を書く人達に文句を言えるわけもなく。
 かといって、今みたく唯先輩に明らさまに避けられるのは……すっごく、つらい。

梓「んしょ……よっと」

 とりあえず、手紙を拾って束にして、カバンの中に詰め込む。
 これはこれで、書いてくれた人の気持ちがこもっているハズだから、読まずに破ったり捨てたり、そういうことはしたくないし。

梓「……ええと」

 ぴ、ぴぴ、ぴっ。

梓「…………」

 ぷるるるる、ぷるるるるっ。

梓「…………」

唯『……なぁに、あずにゃん?』

梓「あの、唯先輩……どこまで行っちゃったかわかりませんけど、今から頑張って追いかけますから、一緒に帰りませんか……?」

唯『……ラブレター読むのが先じゃないかな? 放課後に体育館裏で待ってます、っていうのがあったら、相手の子が可哀想でしょ?』

梓「っく……い、今まで、そういう急な呼び出しはありませんでした。ほら、部活がいつ終わるかわからないですし」

唯『……へーぇ。あずにゃんって、結構場数踏んでるんだねぇ』

 止めてくださいよ、唯先輩。
 そういう言い方されたら、何か、ちょっと、鼻の辺りがツンとしてきちゃいますよ。

梓「あの……」

唯『じゃあ、ゆっくりラブレター読みながらでいいから、私のおうちまで来て。私はスーパーでお買い物してくから、ゆっくりね』

梓「……はい。それじゃ、また後で」

 ぴっ。

梓「……ぅう、ぐす……」

 唯先輩、冷たい声だった。
 どうして怒るんですか。
 私だって、ラブレターが欲しくてもらって回ってるわけじゃないんですよ?
 なのに、いちいちラブレターのこと持ち出して。
 私の気持ちを知ってるくせに、酷いじゃないですか。酷すぎるじゃないですか。
 今まで唯先輩以外の誰から告白されたって、私は完全完璧にお断りしてきたのに。

梓「……っすん」

 でも、目を赤くして唯先輩に会うわけにはいかないよね。
 うん。
 平気、私は大丈夫。
 さ、唯先輩の家に行こう。



ゆいのいえ!

唯「あれ? 早かったね、あずにゃん」

梓「……どもです」

唯「ゆっくりでいいって言ったのに……最近冷え込むし、待ってる間も寒かったでしょ?」

 カチ、ガチャリ。

梓「い、いえ、ついさっき着いたばかりですし……」

唯「まあ、どうでもいいよ。すぐ暖房入れるから」

 ドアの鍵を開けた唯先輩は、買い物袋を抱えて、私の真ん前を通り過ぎていく。
 視線のひとつさえ、寄越してくれない。

梓「……はい」

 やっぱり、来なきゃよかった、かも。
 唯先輩が落ち着いた頃を見計らって説明した方が、よかった……かも。

唯「えーっと、これはすぐ使うからこっち、これは冷凍庫、これも冷凍庫……」

梓「…………」

 家に入れといて無視って何なんですか、唯先輩。
 そりゃあ、暖房は入れてくれたし、おコタの電源も点けてくれましたけど。
 お料理のお手伝いとか、させて欲しいのに。

唯「暇なら、さっきのラブレター読んでていいよ。テレビ見ててもいいよー」

梓「…………」

唯「あずにゃん?」

梓「本気でそう言ってるんなら、私っ……も、もう、帰りますよ!?」

 酷いです。
 私がどんな気持ちでここにいるのか、さっぱりわかってないですよね?

唯「んー? 材料、余っちゃうから……ご飯食べてってくれないと、困るんだけどなぁ」

梓「だからって、だからって……私をいじめて楽しいんですかっ」

唯「……え?」

梓「私が嫌いになったんなら、そう言えばいいじゃないですか! なのに、わざわざおうちに呼んで、意地悪なこと言って……んく……うぅ、ぐすっ……う、うわあああああん!」

唯「あずにゃん!?」

 今まで我慢していた涙が、ぽろぽろと両目から零れ落ちる。
 その途中、がさっ、と買い物袋が床に落ちる音。

梓「やだ、やだ、こんな風に唯先輩にいじめられるなんて、もうやだぁ! 私、こんなに唯先輩のこと好きなのに、どうしていじめられなきゃいけないんですかぁ!?」

 右、左。
 制服の袖でぐしぐしと涙を拭いながら、ギターケースとカバンを拾い上げる。
 もう、やだ。
 もう、耐えられない。
 こんなに好きなのに、こんなにいじめられるくらいなら、いっそのこと、嫌いに……唯先輩を、嫌いに、なって……しまえば、いいんだ。

梓「んぐっ……ぐす、お、お邪魔しました! さよならです、唯先輩っ!」

唯「ちょ、ちょ、ちょぉーっと待った、あずにゃん!」

 がばっ。

梓「んう……!?」

唯「あ、あのね、あずにゃん? 私、まさかあずにゃんが、そんなに本気で泣いちゃうとは思ってなくってね、えっとね?」

梓「……放してください。わ、わ、私っ……ぐす、ううっ、うく……もお、唯先輩のこと、大嫌いになったんですからっ!」

唯「……それ、ほんと?」

梓「だ、だって、今日の唯先輩、ずっと意地悪だしっ……私のこと、嫌いになったんですよね?」

梓「そうで、なきゃっ……うっ、ひぅっ、ぐしゅ……私を、いじめて、平気な顔してっ……私、こんなの嫌ですよお!」

 唯先輩に抱き締められて、反射的に私も抱き着いちゃってる。
 唯先輩の制服に、涙がどんどん染み込んでいく。
 ……やっぱり、離れたくないです。
 だって私、こんなに情けない泣き顔を見せられるの、唯先輩だけなんですよ?

唯「う……ん……ごめんね、あずにゃん。そお言われると、今日の私、すっごく意地悪なことしてたね……」

梓「んっ、んぅ……っく、ぐす……」

唯「だ、だってね? あずにゃんってモテモテで、ラブレターも一杯もらってたし……私より好きな人がいるんじゃないかな、って……思った、から」

梓「私、そんなこと……ひと言でも、言いましたか?」

唯「……言ってない、ね」

梓「私が好きなのは、唯先輩だけなんですっ! なのに、なの、に……意地悪っ、唯先輩の意地悪ぅ! 本当に酷いですよっ!」

 涙でぐっしょり濡れた唯先輩の制服に、深く顔を埋める。
 まだ、涙は止まらない。
 でも、唯先輩は私の背中に腕を回し、ぎゅっと優しく抱き締めてくれた。

唯「……ごめんね、あずにゃん。私、ヤキモチであずにゃんをすっごく傷付けちゃったんだね」

梓「んううっ、ぐすっ、う、ううっ……ゆ、唯せんぱぁい……」

唯「私は、ずーっとあずにゃんだけが大好き。でも……ほんとに、ごめんね。私、あずにゃんを泣かせちゃうつもり、なんか、ぐすっ……なく、って……ほんとだよ、あずにゃんの泣いてるとこなんて、見たくない、もんっ」

 私の制服の肩口に、じわじわと熱く濡れた感触が広がる。
 唯先輩が目元を押し付けてる場所。

梓「う、うっ……うわぁぁぁん! 唯せんぱぁぁい!」

 唯先輩も、胸元に同じような感触を受けているんだろう。
 だから、私が演技とかじゃなくって、本当に泣きじゃくっているんだって、わかってくれてるんだろう。

唯「うく、うう、ごめん、あずにゃんっ……意地悪して、ごめんね……でも、誰かにあずにゃんを取られると思ったら、あんな態度しか取れなくって……」

梓「ん、っく……わ、私は、唯先輩だけのものですっ……唯先輩以外と付き合う気なんて、全然ありませんよぉ!」

唯「んぅ……私も、あずにゃんとしか付き合いたくないよぉ……私は、あずにゃんが大好きなんだもんっ」

 また、ぎゅっと抱き合う力が強くなる。
 ……思えば、くだらない喧嘩の理由だけど。
 こういう小さな理由を潰していけば、私と唯先輩の仲は、もっとずっと強いものになるのかな。

梓「ん、ぐす……唯先輩? お願いがあるんですけど……」

唯「にゃ、にゃに、あずにゃん? んく、はう……」

梓「私の気持ちを疑わないでください。私も、唯先輩の気持ちを疑いません……だから、こんな風に、もう泣かせないでくださいよぉ……」

唯「んっ、うん……ごめん、ほんとにごめんね。大好きな人のこと、疑っちゃ駄目だよね……うん。もう、疑わないから、信じて……くれる?」

 きゅ、と不安そうに少しだけ腕の力が強まる。
 ……うん。大丈夫ですよ、唯先輩。

梓「はい、信じます。だって唯先輩は、私の最愛の人なんですから!」

唯「んきゅ……あ、あずにゃーんっ! ありがと、嬉しい、ごめん、でもやっぱ嬉しいっ!」

梓「はう、んぅ、あ……ちょ、苦しいです、唯先輩っ……は、はう……♪」

 この抱き締められる苦しさは、唯先輩の想いの強さ……だと、思う。
 だって、そうでなきゃ、ただの後輩のひとりにすぎない女の子を、こんなに強く抱き締めるハズがないから。

唯「んっ、好き、大好き。あずにゃん大好きだよ、んっ、ちゅ、ちゅちゅっ、んちゅー」

梓「あう、あ、ちょ……んむっ……唯せんぱ、い、待っ……ちゅく、んちゅっ」

唯「ごめんね、ごめん。もう泣かせたりしないからね」

梓「……はい。約束ですよ」

唯「うん、約束……仲直りに、一緒にお夕飯作ってくれる?」

梓「はいです」

 ちょっとだけ残った涙を拭いて、唯先輩の目元も拭ってあげて。
 お互いに顔を見合わせて、真っ赤になった目を見て、笑って。


梓「……ふふっ。唯先輩には、泣き顔は似合わないですよ」

唯「うん。あずにゃんも、笑ってる顔が一番可愛いよ」

 その、お互いの言葉で照れ合って、でも、生理現象は止められなくて。
 偶然にも、私と唯先輩のお腹が、ぐきゅ~って鳴っちゃった。

唯「……ご飯作るの、手伝ってくれる?」

梓「はい! 望むところですよ!」

 ……ああ、空気が元に戻った。
 ぽやぽやして、ちょっと恥ずかしくて、でもどきどきする雰囲気。

梓「さあ、献立は何ですか?」

唯「んーとね、とりあえずぅ……」

 並んだ材料を見れば、何を作りたいのか大体の察しは付くけど、私は唯先輩の指示を待つ。
 こう見えて、私はリードされたい性格なんですよ、唯先輩。

~おしまい!~




とあるべつのひ!

梓「実はこんなチケットを親からもらったんですが」

唯「……高級ホテルのスゥイートルームのペアチケット?」

梓「はい。自分達で使えばいいじゃん、って言ったんですけでど……何か押し付けられちゃって」

 実のところ、唯先輩と甘々タイムを過ごす為に無理矢理奪ったわけですが。
 高級ホテルのスゥイート、ワイン……はお預けだけど、乾杯とかしちゃって、おっきなベッドで抱き合って……えへへへへへへへへ。

梓「えへへへへへへ」

唯「あずにゃん?」

梓「あ、いえ、何でもないです……というわけなんですが唯先輩、今週末はお暇ですか?」

唯「うん、暇だよ~」

梓「じゃあ、週末は一緒にホテルでデートしましょう! 温水プールもありますから、水着の準備も忘れないでくださいね!」

唯「うんっ!」


~ほてる!~

唯「ほわあ……すっごいね、お金持ちになった気分だよ!」

梓「とりあえずチェックインします。部屋に行くまで、なるべく大人しくしててください」

唯「うん」

……………………。
…………。
……。

唯「うっわあ! すっごーい! こんなすごいお部屋にお泊まりしていいの!?」

梓「はい。一応、そういうチケットなので」

唯「えええ!? あっちの部屋にもこっちの部屋にもベッドがあるよ!? どこで眠ればいいの!?」

梓「好きなところでいいんじゃないかと」

唯「……じゃ、じゃあ、そっちの部屋のベッドが一番おっきいから……あずにゃん、一緒に寝てくれる?」

梓「ば、馬っ鹿じゃないですか!? ホテルにまで来たのに、一緒に寝ない意味がないじゃないですかっ」

唯「……う、うん、私、馬鹿かもしんないけど……私と一緒のベッドで寝てくれる?」

 ……ああ。
 いくら恥ずかしくても、あんまり直接的に言ったら、唯先輩は誤解しちゃいますよね。

梓「え、えと、馬鹿って言ったのは本気じゃなくて……そ、そう! こういうホテルに来た時のお約束なんですよ!」

唯「お約束?」

梓「はいです。同じベッドで眠りたい時、でもちょっと恥ずかしい時、今みたく言うのが作法なんですっ」

唯「おお~。さすがあずにゃん、勉強になるよ!」

梓「とりあえず着替えましょうか」

唯「うん」

 お洒落な服、っていう指定はしたけど、大丈夫かな。
 憂が付いてるから問題はないと思うけど。

梓「…………」

 いやー、まさかこんな形で買ってもらったドレスを着るとは思わなかったなあ。
 親の付き合いで引っ張り出されるのは覚悟してたけど、その、唯先輩に見せるとなると……また違う緊張感があるというか何というか。

唯「あずにゃーん、着替え終わったー?」

梓「は、はいっ。私は大丈夫ですっ」

唯「んじゃ……じゃーん! どーかな!?」

梓「…………」

 素敵なイブニングドレスじゃないですか。
 その、失礼ながら、唯先輩のご両親は普通の親御さんだと思ってましたから、私がホテルの中で買うのも考えてたんですが。

唯「え、えへ……ど、どうかなっ?」

梓「綺麗、です……唯先輩ぃ……」

 自分の顔が緩んでるのがわかる。
 唯先輩の姿に見惚れて、たり、って唇が緩んでる。

唯「んへー……あずにゃんも、すっごく可愛いよぉ?」

梓「ど、どぉも、です……」

 私なんかより、唯先輩の方が比べるまでもなく可愛いです。
 あぅ……もお、今すぐ抱き着いてふにふにむにむにして、喉の奥からえっちぃ声を絞り出して欲しいくらいに。

梓「はぁ……唯先輩、ほんとに、綺麗ですよぅ……」

唯「えへ、えへへ……照れちゃうよ、あずにゃんにそう言ってもらえるなんて」

梓「いえ、本当に綺麗なんですから……お世辞抜きで、唯先輩、素敵です……」

唯「……うん。ありがと、あずにゃん」

 唯先輩の両腕が、中途半端な高さに持ち上がる。
 私に抱き着こうとしたけど、自重してるみたい。

梓「……ホテルのディナー、食べてから。ね、唯先輩?」

唯「う、うんっ……そおだね、折角のドレスだし、ぐちゃぐちゃにしたらいけないよねっ」

 ……どんな風にされるとこだったんだろ、私。


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