おかいもの!

唯「あずにゃん! アイス! アイス!」
梓「溶けちゃうから最後にカゴに入れましょうね」
唯「んむー」

 ひと口に鍋物って言っても、唯先輩はどういうのが好みなんだろ。
 湯豆腐ってことは、シンプル?
 ううん、私を気遣って、あえて単純なものを選んだのかもしれない。
 まぁ、とりあえず野菜をいくつか入れることにして、っと。

唯「ねーねー、お菓子は三百円まで?」
梓「カルピスは値段に入りませんよ」
唯「うん」

 お菓子コーナーへ走ってく唯先輩。
 迷子になるくらい広いわけじゃないから、ちょっと動いても見付けてくれるよね。
 ええと、白菜は基本……お豆腐、人参、キノコ……あ、緑色もちょっと欲しいかも。

梓「……で、メインは……」

 お肉? お魚?
 あの通りだから、唯先輩には好き嫌いはないんだろうけど。

唯「ほい、あずにゃん! カルピスとお菓子!」

 カゴに入れられたのは、意外に、スナック菓子が二袋と……カルピス原液が三本?

梓「あ、あの……」
唯「ボトルキープだよ!」
梓「そうじゃなくてですね」
唯「うん?」

 ……まぁ、ボトルキープってことは、原液一気飲みでなくて、今後も私のうちにお泊まりか、遊びに来てくれるってことかな。
 毎日は無理でも、週末でも……月に何度かでも、嬉しいけど。

梓「……私もカルピスは好きですから、唯先輩が来ない間に私が全部飲んじゃいますよ」
唯「じゃあ、飲む日を教えて? 私も一緒に飲みたいし」
梓「飲みたくなる前の日、とかですか……?」
唯「うん♪」

 何か、それって、社内恋愛の周りにバレバレな合図っぽいです。
 けど、何となくいいですね。

梓「そ……そうだ、唯先輩。お肉とお魚、どっちが好きですか?」
唯「あずにゃん」
梓「んく……お鍋の材料の話です」

 肉食系とかマグロとかいう話じゃないですよ。
 っていうか私、いわゆるマグロでしたか?

唯「ん~……それじゃ、鶏肉。鶏団子鍋がいい」
梓「はい、鶏肉コーナーは向こう……」
唯「お手伝いするから、一緒にお団子作ろうね♪」
梓「……はい」

 といっても、大した手間じゃありませんけどね。



くっきん!

唯「ほい」
梓「はい」
唯「ほい」
梓「はいっ」
唯「たあっ! 二刀流!」
梓「は……ちょっと待ってください」

 鍋にお団子を投入する段になって、ふざける唯先輩。
 両手にスプーン持って、全然それ刀じゃないですし。

唯「あれ、交代する?」
梓「いえ……ちゃんと片手でボウル押さえてないと、お団子の大きさが違っちゃうじゃないですか」
唯「あ、そっか」
梓「味にはあんまり影響ないですけど……ちっちゃいお団子取ったら、残念な気持ちになりますよね?」
唯「うん……そう考えるとものすごく大事だね、お団子投入って」
梓「はいです」

 私が取る分にはいいけど、唯先輩だとがっくり肩を落とす光景が目に浮かぶ。

唯「私はちっちゃいのも好きだけどね~♪」
梓「はい?」
唯「ううん。何でもないよー、ほいっ」

 よく聞き取れなかったのに、唯先輩は次のスプーンを差し伸べてくる。
 私はそれ以上聞き直すことも出来ず、お団子を落とすのに集中するのでした。



おゆうはん!

唯「美味しー!」

 鶏団子鍋なのに、唯先輩はまず白菜を食べて感想を述べる。
 味が染みて、確かに美味しいですけどね、白菜。

梓「んむんむ……なかなかの出来です」
唯「はむ……ほふほふ、はふ……そおいや今日は、うどん買わなかったね?」
梓「はい?」
唯「中野家ルールでうどんって……あむ、はふ、熱っ……ご飯とうどん、って」

 ああ、それですか。

梓「ご飯余ってますから、食べちゃおうかと……冷凍うどんでよければありますよ?」
唯「あれ、炊きすぎたかな」
梓「さすがに、明日の晩まで余らせるのはちょっと」

 唯先輩が食べに来てくれるんなら……というのは、ぐっと飲み込む。
 帰る家と待っている家族がいるんだから、引き留めるのは無粋というもの。
 与えてくれた一緒の時間を充分に楽しむのが、私の権利であり責務でもある。

梓「ほら、唯先輩。お団子一杯ありますよ? 食べてくれないと、余っちゃうじゃないですか」
唯「う、うん……もりもり食べるよ!」

 やだ、どうしてこんな意識させるようなこと言っちゃったんだろ。

唯「んー♪ 肉団子、あずにゃんのだしが染みてて美味しいよ!」
梓「何ですかそれ」
唯「え~? だって、あずにゃんがこねこねしたんだもん。汗とか、手垢とか、色々混じってるよきっと!」
梓「食欲が失せるようなこと言わないでください」
唯「ほっ、ほふ、はふ、むしろ私は食欲が増すけどね」
梓「それを言うなら、唯先輩だって少しこねたじゃないですか。当然、汗とか手垢とか混じってますよね」
唯「やぁん、あずにゃんのいけずー。ちょっと身体が火照ってきたよぉ?」
梓「……生姜も入れましたからね、んはむ、あむあう、ほふ」

 混ぜものはともかく、急に食欲増進ですよ。
 唯先輩は、明日から私がひとりで過ごすことを気にしてないように、気にさせないように、明るく振る舞ってくれてる。
 私がナルシストでなければ、唯先輩も寂しく感じてくれているハズなのに、ね。

唯「ほふほぅ、おいひぃ……うん、本当に美味しいよ、あずにゃん」
梓「それはどうもです、ん、はふ、あむ……んふ、はふっ」
唯「私のわがままでお料理作ってくれるあずにゃん愛してる」
梓「ぷ……!? や、止めてくださいよ、食べてる時に!」
唯「好きって気持ちは、多分、感じたその時に伝えるのがいいと思ったからだよ」
梓「んく……も、もおっ」

 恥ずかしがる素振りもなく言い、最後の鶏団子を箸で半分に割って、にっこり微笑む。
 お野菜も切れっ端くらいしか残ってないし、早くご飯を入れろと、そう言いたいわけですか。

梓「……ご飯、入れますよ?」
唯「うん。次はもっと上手に炊くね?」

 私が、ちょっと水っぽいとか言ったのを忘れてない。
 所詮は炊飯器、水の加減なんて初めて使うなら少しくらい違って当然なのに、覚えてくれるってことは……。

梓「あ……あの」
唯「うん? なぁに?」

 炊飯器の内釜を持ってきて、中身を投入しつつ。

梓「ちょっと柔らかいご飯の方が、消化にいいですし……私の好みなんです」
唯「……うん。目盛りからどのくらい?」
梓「大体一ミリプラスです」
唯「覚えとくね」
梓「はい」

 しばらくコトコト、おじやが出来上がるのを待つ。
 唯先輩は、思ってた通り、半分にしたお団子の片割れを私のお椀によそってくれました。



しょくご!

唯「あずにゃん、ご馳走様! 美味しかったね!」
梓「はい。ひとりだと、なかなかお鍋やろうと思いませんしね」

 ……あ。
 だから唯先輩は、わざと鍋物をリクエストしてたのかな……って、考えすぎかな。

唯「おじやに染みた、だしの深い味……うぅん、全部食べちゃったけどお代わり欲しいくらいだよっ」
梓「ふふ……唯先輩ってば、ほんとに食いしん坊さんですね」
唯「うん、だから食後のアイスを! 是非!」

 結構食べたハズなのに、デザートまで食べますか。
 本当に羨ましいですよ。
 私なんてこの有り様なのに、ダイエットしたらウェストよりバストが先に減るんですよ。
 まぁ、唯先輩には無縁の愚痴ですが。

梓「はいはい」

 食器の片付けついでに、アイスを持って戻った。
 私も勿論食べますよ。ええ、食べますとも。

梓「どぞ」
唯「わ~い♪」

 嬉しそうに、早速ぱくつく唯先輩。
 食後のデザート……というにはあんまり安上がりだけども、これはこれで、美味しい。

唯「んむ~♪ 甘くてちべたくて美味しいね、あずにゃん♪」
梓「はいです♪」

 ご飯も美味しかったですが、アイスはアイスでまた格別です。
 唯先輩と一緒なら、美味しさもひと塩というもので。

唯「ところでさ、あずにゃん」
梓「はい?」
唯「今日は妙に私とエッチぃ雰囲気になるの避けてない?」
梓「ぶっ!?」

 いえ、避けてるというか、急に何なんですか。
 今はご飯の後のまったりデザートタイムじゃないですか。

梓「避けてなんかいませんよ」
唯「そお?」
梓「です」
唯「じゃあ、こっち来て。私の隣で一緒にアイス食べよ」
梓「そういう明らさまなお誘いはムードないので何か嫌です」
唯「ちぇ~」

 ぷい、と残念そうに、唯先輩がそっぽを向く。
 でも、自分でもそこまで思い通りにはならないと思っていたようで、残念そうなようで大して残念そうでもない。

唯「あずにゃんが抱き着いてきてくれるの、期待してたんだけどなあ」
梓「食後のアイスを食べながら、どうやってそんなに盛り上がれと言うんですか」
唯「無理かなぁ」
梓「無理、とは言いませんけど……れる、ちゅうぅ」

 甘くて冷たい氷の塊を舐めながら、上目遣いに唯先輩を見つめる。
 今すぐ盛り上がれ、なんて言われても困るけど、唯先輩が何かのキッカケをくれたなら、多分、私は一瞬で盛り上がっちゃうと思う。
 そう、あの目――唯先輩がとっても興奮してる時に見せる、堪らない眼差しがあったなら。

唯「おねいさまは寂しいなあ~」
梓「あ、新しいシーツ敷いておかなきゃ」

 アイスを片手にベッドへ行き、乾燥機を切る。
 すっかり乾いているけれど、薄っすらと染みの形が残ったマットレスを見ると、昨夜の自分の乱れようを思い出して言いようもなく恥ずかしくなった。

梓「ん、しょ……っと。よ、い、しょ……っと」
唯「そんなの後で私も手伝ってあげるのにぃ」
梓「お気持ちだけ受け取っておきます」

 この染みの跡でからかわれたりしたら、おかしな気分にならないとも限らない。
 だから、さっさと新しいシーツで隠してしまうに限るのです。

梓「……っと、危ない危ない」

 溶けたアイスの雫が垂れそうになって、慌てて舐め取る。
 お行儀悪いな、と思ってたら、唯先輩が悪戯っぽく微笑んでいるのに気付いた。

唯「ん……ちゅる、ぴちゅ……んふ」

 唯先輩は、また。
 アイスの表面を丁寧にしゃぶって、唾液でコーティングしてみせる。
 私の目が釘付けになっていることを確かめながら。

梓「あ……ああっ……」

 ベッドメイクは終わっちゃった。
 今日やることといえば、このアイスを食べて、お風呂に入って、眠る……その前に、唯先輩と……エッチ、したい。
 私のそんな気持ちを知ってか知らずか、唯先輩は自分の唾液を塗り付けたアイスを、こちらへ差し出してきた。

唯「はい、あずにゃん。私のアイス、分けたげる」
梓「あぅ……あ、あぁ……んぅ、あむっ」

 お風呂もまだなのに。
 汗こそかかなかったけど、どうせなら綺麗に洗ってから唯先輩と肌を合わせたいのに。
 私は、また。
 唯先輩のペースに巻き込まれちゃう。

唯「甘ぁくて、美味しいでしょ?」
梓「ん、は、はぁい……♪」
唯「零れてるよ、あずにゃん」

 唯先輩のアイスを舐める私の口元に、つうっと雫が垂れる。
 涎の混じった一滴を、優しく、そっと舐め上げてくれる。

唯「ちゅっ、ちゅるく……ちゅ、ぴちゅ」
梓「んんっ……あ……は……♪」

 キスをしてもらえると、思ってた。
 私の唇のすぐ傍まで唯先輩の舌が這い寄ってきて、でも、溶けた砂糖水を舐め取ることしかしてくれない。
 お口の中の余分な唾液を飲み込んで、舌を差し出す準備をしていたのに、唯先輩ってば……酷い。

唯「あずにゃんのアイスも溶けちゃいそうだよ」
梓「んぁ……は、はい……んむ、ちゅぅ、はぷ……」

 慌てて自分のアイスを口に運んで、溶けた雫を舐めすする。
 そこへ、アイスよりも甘い誘惑の声をささやかれた。

唯「ねぇ、あずにゃん。一緒に食べっこしよ?」

 唯先輩が、自分のアイスを私の口へ。
 私の手を掴んで、自分の口元へ運ぶ。

梓「ん……あ……」
唯「ね。膝の上に座ってくれたら、抱っこしながら一緒に食べられるよ?」
梓「は、い……」

 断れなかった。
 私はぼうっとしながら唯先輩の膝の上……は重くて悪いから、身をすり寄せるように隣へ座る。
 唯先輩は、空いてる方の手で私の肩を抱いて、嬉しそうに微笑む。

唯「はい、あずにゃん♪」
梓「んぁ……はぷ。ちゅ、ちゅうっ、かぷ……んむむ、ちゅっ」
唯「えへへ~……あむ、ちゅぷ、ちゅるる、ちゅうっ」

 とっても、甘い。
 抱っこされてあったかいのに、口の中は冷たくて、何だか不思議な気分。

唯「あずにゃんのアイスも美味しいねぇ……あむはむ」
梓「ゆ、唯先輩のも……んるっ、ちゅ、はぷ……」

 かじって、溶けて、なくなって。
 お互いに相手のアイスを食べちゃって、棒だけになっちゃった頃。

唯「……お風呂でする? ベッドでする? 今すぐする?」
梓「えー……」

 折角その気になりかけてたのに、そんな口説き文句はないと思います。
 んもう。

梓「全く、唯先輩の頭の中にはエッチなことしかないんですかっ」
唯「いやー、そういうわけじゃないんだけどね、こう……あずにゃんを抱っこしてると、ムラムラしてきちゃうんだよ」
梓「どんだけ欲求不満なんですか」
唯「あ、そうだ」
梓「はい?」
唯「一緒に暮らそう、あずにゃん! 同棲だよ! いつでもふたりでいられるよ!」
梓「…………」
唯「どっちの家で暮らそっか? 行ったり来たりも楽しそうだよね♪」

 ……いえ、そういう無茶な理屈の展開はちょっと、脳天気にも程があると思うんですが。
 それに同棲カップルはお互いの欠点ばかり気になって、破綻が早いとか聞きますし。
 唯先輩は裏表なさげですけど、私、一緒に暮らしてるうちに幻滅されたらすごいショックですし。

梓「あの……私、唯先輩が大好きですし、ずっと一緒にいたいと思ってますけど……まだ、心の準備が」
唯「……うん。私、いつもよりおかしいこと言ってるって、自分でもわかってる。あずにゃんに無理強いするつもりはないよ」
梓「あ……」

 つい、と唯先輩は席を立ち、お風呂の方に歩いてく。
 私に考える時間をくれたのかな。
 それとも、私が即答しなかったから、傷付けちゃったのかな。

唯「私、お風呂の準備してくる。ごめんね、あずにゃん」
梓「……はい」


 謝らないでください。
 悪いのは私なんです。
 即答出来るくらいに唯先輩を愛していなかったのに、身体を重ねた私が悪いんです。
 だから唯先輩、そんな悲しい顔で行かないでください……。


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