おやつ!

唯「ちかりたよぉ~」

 半分以上蹴り飛ばしてましたけど、残りは真剣に考えて解いてましたもんね。
 だから、これはご褒美です。

梓「唯先輩っ」
唯「あう?」
梓「……お疲れ様でしたにゃんっ♪」

 唯先輩のブラをかぶって、猫招きポーズを取ってみる。
 もう今日はイチャイチャするだけなんだから、このくらい、いいよね。

唯「…………」
梓「…………」

 突然、脈絡もなく……は、さすがに唯先輩も呆れちゃった……かな?

唯「……ほお……おおおお!?」
梓「唯先輩……?」
唯「ブラにゃんだ! またあずにゃんがブラにゃんに変身してくれた!」

 などと意味不明なことを口走りながら、携帯に手を伸ばす唯先輩。
 そうはさせませんですよ。

唯「ブラにゃん、はいポーズ!」
梓「しません」
唯「のおおっ!?」

 普通の写真だったら、いつでもOKなんですけど。
 こればっかりは、ちょっと。

唯「短いっ……変身時間が短すぎるよ、あずにゃん……」
梓「写真に残したら、誰かに見られちゃうかもしれないじゃないですか」
唯「見せないよぉ……あんな可愛いあずにゃんを見たら、みんながあずにゃんを好きになって、私だけのあずにゃんじゃなくなっちゃう……」
梓「……それはどうかと思いますが、私がブラをかぶるのは、唯先輩とふたりきりの時だけですよ?」
唯「じゃ、じゃあかぶって! 今すぐ! ナウ!」
梓「いいですけど、先に携帯を手の届かない場所に置いてくださいね」
唯「……例えばベッドに放り投げたら、かぶってくれる?」
梓「はい。でも、写真撮影だけはお断りです」
唯「……けちんぼ」

 唯先輩はそう言いつつ、ぺいっとあっさり携帯を投げた。

唯「はい」
梓「やけに諦めが早いですね」
唯「写真撮ってあずにゃんに嫌われるか、ブラにゃんを記憶に焼き付けるか、難しい二者択一だったけどね」

 難しいんですか。

唯「ほんじゃ約束どーり! ブラにゃん、はいポーズ!」
梓「うく……ま、まぁ、約束というか……仕方ないですね」

 唯先輩のブラを持ってるとこを写すだけで、私を脅迫する材料としては充分だったのに。
 お人好しというか、善人というか……かぶらなきゃ私が悪人じゃないですか、もう。

梓「……にゃ、にゃんっ」
唯「おおっ」
梓「唯先輩、勉強してる真面目な顔も素敵だったにゃぁん♪」

唯「ふおお……も、もおひと声っ! めひょうのポーズで!」
梓「……い、今から、イチャイチャするにゃんっ♪」

 ぴろりろりん。

梓「…………」
唯「いいよいいよー、もっと背すじ曲げて! 表情固くなったよー?」
梓「わ、わ、わわっ……私の携帯、いつの間にーっ!?」
唯「おー、その表情もいいね! ブラにゃん!」

 ぴろりろりん。

梓「ふぎゃーっ!?」

 唯先輩に飛びつく。
 懸命に携帯を取り返そうとする間にも、シャッター音が数秒置きに鳴る。

唯「んふ……捕まえた、ブラにゃん♪」
梓「か、返してください! 嘘つき! 撮っちゃ駄目って……ふぷんむっ!?」

 首根っこを掴むように、唯先輩が私の顔を胸に押し付ける。
 やわっこい膨らみに、鼻先まで埋まりながら見上げると……恐るべきシャッターチャンスが待っていた。

唯「えい♪」

 ぴろりろりん。

梓「ふあ……あ……やぁ」
唯「あ……今の写真、一番可愛く撮れたね♪ 待ち受けはこれにしよっ!」

 嫌です。
 こんなの、こんな姿……唯先輩のブラをかぶって、おっぱいにもふっとしてて、まるで変態じゃないですか。

梓「どうして……駄目って言ったのに、やだ、やですよ、どうしてこんな写真撮るんですかっ」
唯「……あずにゃんが可愛いから?」

 素面の時の『駄目』は、エッチしてる時の『駄目』とは全然意味が違うんです。
 そのくらい、唯先輩だってわかってるハズじゃないですか。

梓「……唯先輩の馬鹿ぁ!」
唯「ほえ?」
梓「私、唯先輩にだけなら、いくらでも恥ずかしいとこ見られてもいいですけど……写真だと、誰かに見られちゃうかもしれないじゃないですかっ」
唯「あずにゃんは、この……私とあずにゃんの写真、誰かに見せたいの?」

 ぴぴ、ぴぴっと慣れない別機種を操作して、画像を出す唯先輩。
 ブラをかぶっている私の画像のうち、一枚が表示される。

梓「ん……」
唯「私も、あずにゃんにしか、こおゆう表情は見せた覚えないよ?」

 唯先輩の視線は、カメラに向いてなかった。
 私は恥ずかしがって上目遣いになっていて、唯先輩は嬉しそうな、少しだけえちぃ目で私を見つめて微笑んでいて、お互いにかなりやらしい感じ。
 ――欲しいわけでもないかなと思ったりしないわけでもなかったり思わなかったりするかもしれない。

唯「私は、あずにゃんのこんな顔、誰にも見せたくないけど……あずにゃんは?」
梓「……見せたくなくっても、待ち受けにしてたら、そのうちいつか見られちゃいますよ」
唯「待ち受けにしなければ、いいの?」

 ……はい。
 待ち受けでなければ、いいです。
 わざわざアルバムを開かないと見られないような手間をかけるなら、他の人にバレにくそうですし……って。

梓「……いえいえ、駄目です! 唯先輩にこんな恥ずかしい写真の管理は任せられませんっ」
唯「えー」
梓「返してくださいっ」

 流されそうになったけど、危ういところで正気に戻って、携帯を奪い取る。
 私の携帯だったのが不幸中の幸いだったというか、うん、幸い。

梓「んもう……駄目に決まってるじゃないですか、普通の写真以外は絶対に駄目です!」

 もぎゅもぎゅと暴れて、唯先輩の胸元から逃れる。

唯「そんな、あずにゃぁん……」
梓「そろそろおやつの時間にしようと思ってましたが、やっぱ止めますっ」
唯「ええー」
梓「大体、これは私の携帯です。唯先輩のに送らなきゃ、撮っても見られませんよ」
唯「……くれないの?」
梓「あげません!」

 こんなの、恥ずかしすぎです……カメラが指で塞がってて真っ黒だから削除、見切れで削除、とりあえず削除っ。

梓「全部削除しますね」
唯「折角可愛いのが撮れたのに、酷い……よよよよよ」
梓「酷いのは唯先輩の方です。約束守ってくれないんですから」

 普通に撮れてるけど削除、また見切れ削除……して、最後の一枚。
 これも削除のつもりだったけど、ボケてないし、私と唯先輩の表情がちゃんと入ってる。
 勿体ない、かな。

梓「はい。最後のも削除、完了です」

 ぴ、と電源ボタンを押してキャンセル。
 画面が見えてない唯先輩は、本当に削除したように思ったハズ。

唯「あっ、あうう……しどいよ、あずにゃん」
梓「だからさっき言ったじゃないですか。待ち受け用の写真を撮りましょうって」
唯「もっぺんブラにゃんになって、もう一枚だけ……」
梓「駄目ですってば」

 ぷい、と立ち上がると、唯先輩が子供みたいにすねて指をくわえる。
 可愛いけど、お願いを聞いてあげたくなるけど、やっぱり駄目ですよ。

唯「ぷう」
梓「アイスとポテチ、どっちにします?」
唯「……今はポテチな気分だよ」
梓「はい。飲み物はジュースでいいですか?」
唯「うん」

 唯先輩は、ずっとほっぺを膨らませていたけど、お菓子を持ってきたらすぐに機嫌を直してくれた。
 ……のかな?



ゆうがた!

梓「…………」
唯「…………」

 ぼけっとテレビを眺めつつ、唯先輩の顔色を窺う。
 さっき、いやお昼からずっと冷たい態度を取っていたような気がする。
 唯先輩、退屈してないかな。私のこと、嫌いになってないかな。
 ……また、『好き』って言ってくれるかな。

唯「ねえ、あずにゃん」
梓「は、はいっ?」
唯「宿題終わったよね」
梓「はい、一応」
唯「エッチしてもいいって約束だったよね」
梓「……それは、出来れば夜にしてもらった方が……」
唯「……イチャイチャは?」
梓「エッチな気分にならない程度ならいつでも」
唯「じゃあ、どうして手が届きそうもない場所に座ってるの?」

 私と唯先輩の距離は、およそ二メートル、テーブルを挟んで。
 確かに、どう頑張っても届く範囲じゃない。

梓「いつもは唯先輩からロケットダイブしてくるじゃないですか」
唯「離れすぎだよ。あずにゃんがベッドに腰かけてるんなら、思いっきり飛びつくんだけど」

 ベッドはただ今、布団乾燥機で上掛けごと全力乾燥中です。
 すみません、私のせいでベッド使えなくて。

唯「…………」
梓「…………」

 やだ。
 こんな雰囲気、やだ。

梓「こ、このくらいでどうです?」

 クッションごと、ずいっと唯先輩の方にお尻を滑らせる。

唯「遠いよ」
梓「ん……じゃあ、これで」

 もっと、ずずいっと大きくクッションを滑らせる。
 腕を上げれば、肩に触れそうな距離。

梓「…………」
唯「まだ遠いかな」
梓「はい」

 もっと、もっともっと、ずずずいっと。
 クッション同士をぶつけて、唯先輩の腕に肩をそっと当てる。

梓「これでも……遠いですか?」
唯「うん」
梓「じゃあ……こうすれば、どうでしょう」

 唯先輩のお腹を目がけて抱き着く。
 両太ももの間に顔がきて、ちょっと恥ずい体勢だけど、あったかくていい感じ。

唯「んぅ、ふ……まだ、だよ。まだ遠いよ、あずにゃん」
梓「へ……?」

 遠いって、そんな、直に触れてるのに。
 膝枕でー、頭なでられてー、そしたら少し写真撮られてもいいかな、とか思う雰囲気になったかもしれないのに。

唯「こっち。あずにゃんに甘えられて嬉しいのは、ここだよ」
梓「……今、膝枕って結構嬉しいと思ってたんですけど」

 唯先輩が指し示したのは、私の羨望の的である、おっぱい。
 いえ、そっちにも甘えたいんですが、お膝をですね。

唯「きて、あずにゃん? ブラも携帯も、ほら……向こうにまとめといたから、安心して?」
梓「……はい」

 そんな、ぎゅっと抱き上げられたら、お胸に顔が埋まっちゃうじゃないですか。
 ふにふにやぁらかくて、あったかくて……お膝はまた今度でいいかな、って思っちゃうじゃないですか。

梓「んむ……ふむうう……」
唯「……ごめんね。あずにゃんの可愛い写真欲しかったから、ズルしちゃって」
梓「べ、別に、気にしてないです……唯先輩こそ、私がそっけない態度で、怒ってたんじゃ……」
唯「どうして私が怒るの?」
梓「だから、その……んぷっ!?」

 抱き締められる。
 膨らみを寄せるように、それで出来た谷間へ私の顔を埋めるように。

唯「怒ってないよ。あずにゃんは近付いてきてくれたし、抱き着いてくれたし」
梓「んぅ、ん……」
唯「私が不真面目だから、嫌われたと思ってたけど……違うって、わかったからね」

梓「……いつものことです。この程度で唯先輩を嫌いになるんだったら、急にお泊まりするって言われた時に断ってますよ」
唯「そっか……よかった、あずにゃんが私を好きになってくれて嬉しいよ」
梓「唯先輩は……どうなんですか?」
唯「ん? 好きだよ、あずにゃんが大好きだよ? ほんとはこのままエッチなことしたいくらい大好き」

 それは嬉しい、ですけど、ちょっと時間帯からしてモラル的にどうかなと思います。
 女の子同士でエッチした時点で、モラルも何もないですが。

梓「私も……唯先輩が大好きです。強引で、やらしくって、一見いい加減で……ぽへっとしてて、たまにしか本気出さなくて、食いしん坊ですけど」
唯「うぅぅ……」
梓「……好きです、唯先輩。エッチな関係になれて、とっても嬉しいです」
唯「恋人、だよ」
梓「……すみません。唯先輩と恋人同士になれて、ほんとに、ものすごく嬉しいです」
唯「うんっ! 私も嬉しいよ……んでもって、しやわせ」

 きゅ、と腕の力が強まる。
 唯先輩は――今更疑ったわけじゃないけど、本気で私を好きになってくれてる、と思えた。

梓「はい。私も幸せです」

 あったかい。
 抱き締められているから、だけじゃなくって、私の胸の奥もあったかい。
 ほんとに、しやわせ。

唯「……膝枕、する?」
梓「あ、いいんですか」
唯「あずにゃんの緩んだ顔を特等席で見られるからね」
梓「……ずっと、何回も、見てるくせに」
唯「やらしい顔は別腹だよぉ」
梓「んく……」

 恥ずかしくて、唯先輩の顔を見上げていられなくなる。
 だから、ずるずると下の方にずり落ちて、太ももの間に顔を押し付けた。

唯「んぅ? あずにゃん、どぉしたの?」
梓「……唯先輩の、卑怯者」
唯「ええ!?」
梓「唯先輩はズルいから、今の私の顔なんて、見せてあげません」

 私、きっと、すっごくにやけてる。
 嬉しくて、幸せで、上を向いたりしたら、そのまま唯先輩の首に腕を回しちゃう。
 間近で唇を見たら、キスをしたくなって堪らなくなるに決まってる。

唯「あずにゃぁん、意地悪ゆわないで? お顔見せてよぉ~」
梓「恥ずかしいから駄目ですっ」

 唯先輩の肌、すべすべ。
 お尻も私より触り心地がよくって、羨ましい限りです。

唯「あ……ん、あずにゃん……♪」
梓「おっぱいも、お尻も、触ってて気持ちいいなんて……私、もう……もぉ……」
唯「も、もお……何かなっ!?」

 もう、自制の限界ですよ。
 でも、エッチしたいとか言ったら唯先輩は喜んで応じてくれるだろうし、そうなったら事後にお夕飯で困ることになっちゃいます。
 餌で釣るつもりはないんですが、それなりにまともな食事をしないと、元気が出ませんよね。

梓「唯先輩!」
唯「うん……何かな、あずにゃんっ!?」
梓「……お夕飯は何にしましょうか」
唯「え?」

梓「自分でもいい雰囲気だなーって思ってましたけど、すみません。唯先輩がひもじい思いをするとこまで想像しちゃって」
唯「……そうだね。ご飯は何より大事だよね」

 はあ、と溜め息をつかれた。
 私だって、残念ですよ。
 でも、でもでも、もし途中でどちらかのお腹が鳴ったら、それこそ興醒めじゃないですか。

唯「……モツ鍋?」
梓「多分、匂いのせいでいい雰囲気になれないですよ?」
唯「湯豆腐は?」
梓「……お豆腐みたいに白い唯先輩の太もも……ん、ちゅ」

 すりすり、ちゅ、って。
 小さく震えて、感じちゃったのかもしれないけど、思わずしたことだから許してください。

唯「ん……ふ……簡単すぎて、駄目かなぁ?」
梓「いえ、お野菜も食べた方がいいかなと」
唯「ネギがあるよ?」
梓「……適当に具を入れた鍋にしますか」
唯「うん♪」

 何にしろ簡単でいいんだけど、無理でないくらいの難題を言われた方が作り甲斐あったかな……とか思っちゃった。
 もしかして私、料理下手だと思われてる?



おかいもの!

唯「あずにゃん、そのまま出かけるの?」
梓「はい? そのつもりですけど」

 着替えたし、髪もとかしてチェックして、唯先輩の寝癖も直したし。
 バッチリじゃないですか。この時間に繁華街に行ったら、唯先輩は多分声かけられまくりですよ。

唯「あずにゃんがいいなら、私もいいよ」
梓「何がいいんです?」
唯「えへへー」

 んもう、気になるじゃないですか。
 でも、笑ってるってことは大したことじゃないのかな。



おでかけ!

 道路に一歩踏み出す。
 すると、通りすがりのお姉さんが、私達にちらっと視線を送って軽く笑ったような気がした。
 ……何がおかしいの?

唯「あーずにゃん?」
梓「は、はい?」
唯「ほら。あずにゃんは恥ずかしがりっこだから、ちゃんと隠さないとね?」

 ぺと、と首筋に貼り付けたモノを優しくなぞる感触。
 ……ああ、そうでしたね。
 キスマーク、隠しておかないと、わかる人にはわかっちゃうんですよね。

唯「ね、私にも貼ってくれるかな?」
梓「……気付いてたんなら早く教えてくださいよ」

 ぎゅ、と少し強めに力を入れて、唯先輩に渡された絆創膏を貼る。

唯「んぅ……乱暴だよぉ、あずにゃん?」
梓「うちを出る前なら、そっと貼ってあげてました」
唯「うう」

 自業自得です。
 んもう、私も何度も鏡を見て少し見慣れてたせいもありますけど、先に言ってくださいよね。

唯「お揃いの猫ちゃん模様なのに……」
梓「…………」

 見えないけど、絆創膏を指でなぞってみると、唯先輩が表情を緩ませる。
 もぉ……細かいとこまで、ほんとに仕方のない人ですねぇ。

梓「……ちょみっと、嬉しい……です」
唯「うん! 私も!」


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