みっかめのあさ!
ふにふにふにふにふに。
唯「んふ~♪」
……はっ。
梓「ふぁ……?」
ほっぺを何度も突っつかれる感触で、目が覚める。
真っ正面に、私を嬉しそうに見つめる唯先輩の顔があった。
唯「おはよう、あずにゃん。よく眠れた?」
梓「ん……おはよう、ございまふぁぁ……にゃんか、身体中がだるい感じですね」
布団の中で、抱き締められたまま伸びをしてみる。
疲れが全然抜けていないっぽい。
まぁ、夜中の二時に起き出して、あんなイき地獄とも言えるエッチをしてたら、こうなっちゃっても仕方ない……か、なっ?
梓「はゎっ……あ……はぅぅっ……!」
唯「どぉしたの、あずにゃん。シーツは交換したし、パンツもはかせてあげたけど……まだどっか湿っててキモチワルイの?」
梓「え、ちょっ、その……ぱん、つ……?」
うわぁ、知らない間にお着替えさせられちゃってる。
おねまからして昨夜着てたのと違う。しかもボタン一個かけ間違えて、そこから下が全部ズレてるし。
ブラは……なし。寝てる時はなくてもいいんですが。
パンツ……このはき心地とこすれる感触は、背伸びして買ってみたまではいいけれど、全っ然似合わなくてお蔵入りにしたシルクのやつ、だ。
って、後ろというか、お尻の辺り、シーツの下に何か挟まってる?
梓「あの……確か、私、お漏らし、しちゃったと……思うんですけど……ど、どうなりましたか?」
唯「え~? 違うよあずにゃん。アレは、あずにゃんの初めての潮吹きだったんだよ」
梓「ふぇ? でっ、でも、私……今まで一度も、潮なんか……出ない体質だと思うんですけどっ」
唯「味と匂いで確かめましたっ」
ふんす、って鼻息が耳にかかってくすぐったいです。
でも……おしっこじゃなくて、本当によかった……のかな、いいえやっぱりよくないです。
今すぐ頭を抱えながら転がり回って恥ずかしさに身悶えしたいけれど、唯先輩に抱きかかえられてちゃどうしようもない。
あんな姿を晒しただけじゃなくて、身繕いもしてもらって、後始末までさせちゃうなんて……恥ずかしいやら情けないやら。
梓「うくっ……う、はうぅぅ……も、もぉ潮吹きでいいです……そ、それで、シーツとかは?」
唯「うん、とりあえず剥いで洗濯機のとこに置いてあるよ。マットレスも濡れてたから、バスタオルで応急処置して新しいシーツ探してかけて……」
唯「一旦お布団ごと床に下ろしたあずにゃんに、着替えを探して着せてあげて、また寝かせて、何かぴくぴく気持ちよさそぉに震えてるのが可愛くって抱き締めてたら、いつの間にかこの時間になってたとゆうわけです」
ふんす、ってまた鼻息が。
唯先輩、わざと耳にかけてませんか?
……じゃなくって。
梓「……ということは、唯先輩、あれからずっと寝てないんですか?」
唯「えーと、うん。そうなるかなぁ」
そんな、『妖怪・食っちゃ寝』の正体なんじゃないかって一部で噂の唯先輩が、半分徹夜状態とか、無理すぎですよ?
梓「はぁ……それじゃ、今日は日曜ですし、デートは昨日しましたし……今日はお互い元気が回復するまで、ゆっくりしましょうか」
唯「わーい♪」
梓「ただしご飯は三食、ちゃんと食べますからね? 夕方になったら、またスーパーでお買い物です」
唯「じゃあ、今日の朝ご飯は私が用意します!」
梓「え?」
唯「やだなぁ、そんな顔しないでよ。私だって少しくらいならお料理出来るんだよぉ?」
梓「そ、それじゃ、お願いします……」
不安だなぁ。
唯先輩の腕前じゃなくて、寝ぼけて指切ったり火傷したりしないか、って。
唯「あ……そうだ……え、えへへ~……♪」
きらきらと、何かを期待してる眼差し。
急に笑い出して、どうしたんだろう。
梓「…………」
唯「さぁ、遠慮なく言っておくれ、伝えておくれ! あずにゃんの気持ちをどどーんと!」
梓「はい?」
唯「え」
梓「……え?」
いえ、そんな、がくーんと落ち込んだ素振りをされても困るんですが。
唯「あずにゃん、全然覚えてないの?」
梓「何をですか?」
唯「ううっ……しどい……それは本気でしどいよ、あずにゃん」
梓「とりあえず着替えてきます。あ、覗かないでくださいね」
唯「ぐすん……覗かないよ、私はここで人生最大の悲しみに暮れてるから、ゆっくりしておいで……よよよよよ」
……何なんだろう。
何かを約束したような雰囲気だけど、よく思い出せない。
とりあえず着替えをしながら記憶の糸を手繰ってみよう。
まず、私がものすごく発情、しちゃって……抱っこでベッドに連れてってもらって、それから……おねだり、して……。
梓「うぅ……思い出すだけで恥ずかしい……」
着替えを取りに戻って、脱衣所でおねまを脱ぐ。
まぁ、汗だくになったから、唯先輩が気を利かせてくれたんだとして……あと、パンツも。
唯先輩にパンツをはかされている、意識のない自分の姿を想像すると、かなり恥ずかしいけど。
梓「そうだ、洗濯もしないと……」
ブラを着け終え、洗濯機の蓋を開けると、きちんとネットに入れてある下着類……のうち、私のパンツがやけにぐっしょり湿ってた。
そういえば、唯先輩に……な、舐め、て、吸われちゃったんだっけ。
梓「はうあぅ……恥ずいのに次々と思い出しちゃうよ……」
洗濯かごには、丸めて詰め込まれたシーツ。
端をつまんで引っ張ると――染み、と呼ぶにはあまりに派手な湿り方の部分があった。
も、もしかしてとは思うけど……と、とりあえず、匂いを嗅いで確かめてみなきゃ。
梓「んく……くんくん……」
おしっこじゃない、けど……ああ、そうだ、そうでしたよ。
ちょっとずつ思い出してきた。
記憶の走馬燈が、ぐるぐる回り出す。
梓「ちょ……うわ、うわぁ……私、何て、ことっ……うわーん! 唯先輩の顔、もうまともに見られないよぉ!」
また独りで頭を抱えて身悶える私。
広ささえ充分なら、悶えるどころかどこまでも転げ回っていきたかった。
梓「う、ううう……あんなイき地獄だったのに、自分からキスとかおねだりしてた……!」
唯先輩のせいだ。
丁度いいところで止めてくれてたら、きっとこんな思いをしなくても済んだハズ。
あんなに、おかしくなるくらいにいじめられて、し、潮吹きとか、初めて経験させられて……。
気持ちよすぎたせいで、ただ思い出してるだけなのに、変な気分になってきちゃったじゃないですか。
梓「ううっ、うく……早く洗濯しちゃわないと……」
こういうやらしい証拠は洗って消してしまうに限る。
セットして、早速スタート。
梓「……はあ」
着替えは終わったけど、どんな顔で戻ればいいのかわからない。
でも、行かなきゃ。
梓「はあ……」
私は何度目かの溜め息をつきながら、部屋に戻る。
すると、唯先輩がこの世の終わりみたいな表情で、テーブルを拭いてた。
唯「あぁ……あずにゃん、すぐ用意するね。今から目玉焼き……お味噌汁は温めるだけだし、ご飯も炊けてるからね……ぐすっ」
いつの間にそんなことまで。
……っていうか私を散々イかせてくれた後、今度は唯先輩自身が火照っちゃって、そのせいで寝られなかったのかもしんない。
梓「あ……」
その、何ていうか。
相手だけイかせて、自分は……っていうの、結構ストレス溜まると思うんです。
少なくとも私の場合は昨夜の有り様で、何かもう理性の抑えが利かなくて、たっぷりおねだりしちゃったし。
梓「あのっ、唯先輩……お、思い出しました、昨夜のこと」
唯「ほんとっ!?」
梓「はい……大体、ですけど……」
私がそう言うと、唯先輩はテーブルに布巾を放り投げ、意味もなく左右にジグザグ動いて小躍りしながら駆け寄ってきた。
一瞬でこの変わりよう、ちょっと怖いくらいなんですが。っていうか何なんですか今の動き。
唯「そっかぁ♪ や~、よかったよかった! ちょっと忘れてただけだったんだね! 大丈夫、私もど忘れすることよくあるし!」
梓「え、ええ、まあ……えと、着替えとか、ありがとうございました」
唯「いいよいいよ、そんなこと! 私とあずにゃんの仲だもんね!」
お気持ちはわからなくもないですけど、あまりにも喜びすぎじゃないですか、それ。
唯「で……んでっ!? 私を悲しみから立ち直らせてくれる魔法の言葉を、さあどうぞ! らぶりーあずにゃんっ!」
梓「いえ、その……素面だと言いづらいっていうか……私ってば、何て、恥ずかしい、ことを……」
唯「お預け!? お預けなの!? こう、ちょっとだけ頑張ってくれれば、私の生きる希望が甦るのに!」
梓「やっぱり唯先輩、寝不足で妙なテンションになってません?」
唯「そんなことないよ! 私はいつでもハイテンションでビリビリきてるよ!」
梓「……わかりました、朝ご飯を食べて、お昼まで寝て、普段通りに戻ってたらちゃんと言います」
ちょっと白目のところが赤いし、目の下には薄っすらとクマが。
こんな状態で愛の告白なんかして、もっと大変なテンションになったら、もう私の手に負えなくなりますよ。
別に、言いたくないわけじゃないんだけど、やっぱり雰囲気というか……相応しい状況というものがあるわけですよ。
唯「ううっ……じゃ、じゃあ約束だよ!? ご飯食べて寝て起きたら!」
梓「その起きた時に、唯先輩がまともだと私が判断したら、です」
唯「うん!」
心の底から嬉しそうに微笑みながら、唯先輩はフライパンを手に取った。
今気付いたけど、唯先輩のエプロン姿……結構、お似合いですね。
唯「あずにゃん、卵はいくつ?」
梓「あ……一個、半熟でお願いします」
唯「らじゃー!」
気が付かなかったみたいですが。
可愛くて、ついつい見惚れていましたよ、唯先輩。
ちょうしょく!
唯「予想以上の会心の出来になりました!」
梓「はい……唯先輩、すごいです。いい意味で期待が裏切られました」
唯「何ですと!?」
まぁ、ちょっと品数が寂しいので、私もちょこちょこ手伝ったりはしたけれど。
目玉焼きを焦がしたり、ご飯の水加減を間違えたりとか、そういうお約束な失敗はなかった。
唯先輩には失礼ながら、ものすごく意外。
梓「それでは、いただきます」
唯「うん、召し上がれ!」
……やっぱり最初はお味噌汁、かな。
とんでもない失敗作だったりしたら、全部食べ終わるまで気まずい感じに……でも唯先輩の手料理だし……。
ええい。思い切れ、私。
梓「ずずっ……」
唯「……ど、どおかな!?」
梓「……美味しい、です」
顔近いです、顔。
そんなに身を乗り出して近くで覗き込まれると、緊張しちゃうじゃないですか。
唯「実はお世辞で言ってるんでしょ、あずにゃん」
梓「いえ、本当に……ずずず……ほっ……」
唯「おお!? あずにゃんがほっこりした!?」
あー、好きな人が作ってくれたお味噌汁を、朝一番に飲むってこんなに幸せなんだ。
なるほど、プロポーズの言葉に使われる理由もわかる気がします。
梓「あ、あの、唯先輩? 折角のお料理が冷めちゃうですよ、早く食べてくださいよ」
唯「え? あっ、うん……そうだね、折角作ったんだから食べないとね」
梓「ご飯も……んむんむ……んぐ。ちょっと柔らかめですけど、ちゃんと炊けてますし」
唯「やだなぁ、もう。ご飯は炊飯器が炊いてくれるんだから、ちゃんと炊けて当たり前だよ~」
いえ、世の中にはその『当たり前』が出来ない人も多くいるんですよ。
さすがに『食器用洗剤でお米を洗った』とかは作り話だと思いますけど、水加減がわからなかったり、お米を研がなかったり、プラグ差せば勝手に炊飯してくれると信じて三時間待ったりとか。
唯「あれ、ほんとに美味しい」
梓「え?」
唯「てっきりあずにゃんが嘘ついてて、騙された私がお味噌汁を噴き出すのを期待してたのかと」
梓「それやって私にどんな得があるんですか。そもそも作った本人なら味見してるし、通じないじゃないですか」
唯「えっ?」
梓「……え?」
どうして、そんなことしてないよ、って顔するんですか。
まさか本気で味見しなかったんじゃないですよね?
唯「なんてねー! 冗談だよぉ、あずにゃんに嫌われたらやだし、私だって美味しいご飯食べたいもん」
梓「……ですよね」
うん、ちょっと今本気で、唯先輩なら手順を見て覚えて、勘だけで何でも再現出来るのかも……って思っちゃった。
しょくご!
唯「あーずーにゃーん」
梓「駄目です。今食べたら、冷蔵庫のアイスが一本だけになっちゃいますから」
食器を洗っている私の腰にすがって、食後のアイスをねだる唯先輩。
朝からアイスとか、貴女はいいかもしれませんけど、私は体重的によろしくないんです。
唯「だから、それは一緒に食べればいいんだよぉ~」
梓「ま、また、そんなことをっ……まだ朝なのに、何言ってるんですかっ」
唯「朝じゃなかったらいいの? お昼? 夜? お風呂上がり?」
梓「う、っく……い、いつでも駄目です! 今日はエッチなこと禁止です!」
唯「……え?」
梓「エッチなことはいけないと思います」
唯「……えええええ!?」
どうして涙目になるんですか。
それはまぁ、私だってそういう気分になるかもしれないし、なっちゃったら別にいいかな、仕方ないですよね、とか何とか。
……こほん。
梓「明日は月曜日ですよ? 学校があるんですよ? 今日みたく徹夜したら大変じゃないですか」
唯「わ、忘れていたい現実を……あずにゃん、いつからそんな残酷な子に……」
梓「宿題だってあるんです。ええ、夜は宿題を片付けることにしましょう。唯先輩はないんですか、宿題?」
唯「ある……」
梓「駄目じゃないですか」
唯「でも私、あずにゃんとエッチしたりイチャイチャしたいよぅ……」
うく。
だ、だから、私も、昨夜あんなに責められましたが、もっとして欲しくないわけでもなくて、ですね。
唯「……あずにゃんは、したくないの?」
率直に言うと、したいに決まってるじゃないですか。
そういう風に、可愛らしく見上げてきても駄目です。
なんて言ったら、次から同じ手で籠絡されちゃうに決まってる。
……けど。
梓「宿題が済んでから……あと、夜更かししない範囲でなら、いいですよ」
唯「よぉし! じゃあ私、今から宿題する!」
梓「私の宿題も終わってからですよ」
唯「ついでにやったげるね!」
梓「自分でやらないと意味がありませんから遠慮します」
唯「ちぇー。あずにゃんのいけずー」
お尻に頬ずりしていた唯先輩、残念そうに私から離れてく。
温もりが消えて、ちょっと、寂しい気分。
梓「……これで、いいんですよね」
求められるのは、嬉しい。
求めるのだって、恥ずかしいけど、昨夜のように応えてもらえたら嬉しい。
でも、両方とも過ぎると歯止めが利かなくなると思うんです。
だから、自制出来る時にはしておかないといけないんです。
ふたりっきりの甘い世界は、他の人との関わりを持っていて、ようやく成り立つモノですもんね。
最終更新:2010年12月30日 23:16