梓「んちゅ、ぴちゅ……唯、お姉様ぁ……キスマークを付ける場所、どこでしたっけ?」
唯「はぁっ、はーっ、はぁ……ソコ、イイよぉ、あずにゃぁんっ」
梓「ここでいいんですか? ちゅむ、んむ、はぷちゅ」
唯「ん……キスは、そこじゃなくって、あっ、あああ、ソコ、イイんだってばぁ!」
首筋を舐められているせいか、アソコをいじられているせいか、唯先輩の返答は要領を得ない。
……うん。どうせ全く同じ位置に付けるなんて出来ないんだし、私が好きな場所に作る『しるし』の方が、きっと喜んでもらえるだろうし。
唯「んゃあああぁんっ! あんっ、あぅっ、ソコ、ソコぉ、駄目だよぉ! そんな風にされた、ら、私っ……すぐっ……あ、ああっ」
梓「すぐ……イきそう、です? それじゃ、急がないとですね」
私が唇を滑らせたのは、とっても目立つところ。
絆創膏で隠しても、不自然すぎて、わかる人ならニヤニヤしちゃうような。
梓「ちゅ……ちゅぅ、ちゅっ……ちゅううううっ、んむっ、くちゅ……ちゅぱ。あむっ、はぷぷ……ちゅうううううううううううっ」
唯「ひゃあ!? あぅぅ、あずにゃ、んっ、そこ違う、よぉ……ああ、あんっ、ふぁ、あ、あっあ、もぉ、駄目っ……!」
唯「イくっ、あっ、イくよぉ、あずにゃんっ! イくの、イっちゃうのっ……あっ、ああっ! ふにゃあああああああんっ!」
唯先輩が痙攣しながら大きく背すじをわななかせる。
勢いが強くて、一緒に倒れ込みそうになったけど、今の表情だってしっかり自分の目で確かめてもらわないと。
私は腕を伸ばし、半分以上くもってしまった鏡を――唯先輩の中に入っていた指が当たらないように注意しながら、手の甲で拭う。
唯「ふわぁ……あっ、はぅっ! んっ、んく……あ、ず、にゃんっ……き、気持ちいすぎて、ごめんっ……も、漏らしちゃった……よ」
梓「……はい?」
そんなまた、恐ろしく昂ぶった興奮にトドメを刺すような真似をしますか。
……と思いかけて、今の唯先輩が言う『お漏らし』は、本当の意味での『お漏らし』ではないことに気付く。
ちぇー、って、何故に少し残念なのかな、私。
梓「ああ……はいはい。ほんとに仕方のない人ですねぇ、唯お姉様は」
透明で刺激臭もない液体が、唯先輩のアソコから確かに噴き出していた。
ぷしゅ、ぴしゅっと、私が覗き込んだ時にはもう終わりかけだったけど。
潮吹きだと教えあげたのに、もう忘れちゃったのかな。
梓「おしっこは、さっきトイレで済ませたばかりじゃないですか。なのに、お風呂場でお漏らしするなんて……」
唯「ふぅ、っく、ぐす……だ、だってぇ、あずにゃんの指も、ちゅうも、すっごく気持ちよくって……するつもりじゃなかったのに、勝手に、出ちゃったんだよぉ」
イったばかりのエッチぃ顔付きで、涙目になって必死で弁明されても、逆にいぢめたくなるというものです。
でも、まぁ、そろそろ本当のことを教えて、安心した顔になって欲しくもあります。
梓「そうですか。だったら、今のはおしっこじゃなくて、潮吹きです。お漏らしじゃありませんから、泣く必要も謝る必要もありませんよ?」
唯「ふぇ……? えっ? あ、あれ? そおいえば、私、昨日も……しっ、潮吹き……」
梓「やっと思い出したみたいですね、唯お姉様。お漏らしだと思って半泣きになってる顔、とっても可愛かったですよ?」
興奮冷めやらぬ唯先輩の首に軽くキスしてから、ぴっとり頬同士をくっつけて、鏡越しに見つめ合う。
酷く恥ずかしそうなのは、昨夜の情事を思い出したせいだろうか、それとも、お漏らしと潮吹きをまた勘違いしてしまったからだろうか。
……私にからかわれて、淫らな感覚を吐露してしまったことに気付いたせい、だろうか。
唯「んう……あ、あずにゃんはやっぱし意地悪だよぉ、いけずの大売り出しだよっ」
梓「うふふ。唯お姉様、まだ気持ちよさそうですね……ちっちゃく震えて、私までイった気分になっちゃいます」
唯「は……ぅ、あぅあぅっ……ん、くぅ……だ、だって……本当に、気持ち、よかったんだもん……」
梓「キスマーク付けたら、唯お姉様が、もっともっといやらしく見えるようになりましたよ。ほら、ここです」
唯「あっ、あぅ、あずにゃんのより、目立つ……けど、嬉しい……な!?」
唯先輩の喉をくすぐる私の指先の違和感、ぬるぬるのエッチなおつゆが誰のモノか、考えるまでもない。
急に慌てて、手をばたつかせて、しどろもどろ。
唯「あ、あずにゃん、もっぺん身体洗おうよ? 昨日みたく、あずにゃんは私が洗ってあげるからっ」
梓「はい。その前に……ちゅく、んむっ。ふむんむ、れるっ……んく」
唯「あぁ……あああ、その指っ、舐めちゃ、駄目だよ……洗ってからじゃないと……」
梓「んちゅ、るりゅ、くぷ……ん。ふふっ、ご馳走様でした。唯お姉様♪」
唯「はうぅぅ……お、お粗末様……ぐすん」
やらしいけど可愛いその仕草に、私は思わず唯先輩をぎゅう、と抱き締め直してしまった。
びばのんの!
かっぽーん。
とりあえずシャワーで汗を流すだけにして、湯船に浸かる。
気に入ってくれたのか、唯先輩は今夜も私を後ろから抱っこして、気の抜けた声。
唯「ふあー。すっごく気持ちよかったにゃー、あずにゃーん。首筋にしるし付けてもらえたし~」
梓「喜んでもらえたなら、何よりです」
私自身も、この格好は思ってた以上に収まりがいいような感じがする、とか何とか。
ぽーっとしてたら、ふと昼間のことを思い出した。
梓「唯先輩。さっきの……お昼の話、って何だったんです?」
唯「あー、あれはね、別に、もういいかな……なんて……えへへ」
梓「気になるじゃないですか。ハナチどうこうってことは、唯先輩が鼻の下を伸ばすような内容なんでしょうけど」
唯「う……うん」
といっても、私には『唯お姉様』と呼ぶことくらいしか心当たりがないですが。
唯「……あずにゃんが、『先輩』って呼ぶの止める、って……『お姉様』でもないって言ってたけど」
梓「あ……はい。その話ですか」
詳細を思い出して、恥ずかしくなって、口を湯船に沈める。
ぶぷくぷく、ぶくぶくぶく。
唯「結局どう呼んでくれるのか、わからないままなんだもん。気になってしょうがないんだよ~」
お風呂の中だし、教えてあげても平気かな?
唯先輩がのぼせて倒れちゃったら困るけど、いや、きっと本気で倒れるくらいに反応しちゃうだろうけど、そうなったらその時で。
梓「覚悟はいいですか」
唯「うん、ばっち来いだよ、あずにゃん! 『お姉様』程度の敵なら、もう平気だよ!」
元々は唯先輩への罰ゲームみたいなノリだったのに、改まってみると、とっても恥ずかしい。
唯先輩は瞳を爛々と輝かせて、サンタさんからプレゼントをもらう子供みたいにわくわくしてて、立場が逆じゃないですか。
ほんとにもう、全く。
言ってしまわないと、お互いに引っ込みが付かない雰囲気だし。
梓「じゃあ……ん、こほん」
私は、どきどきしながら唯先輩の顔を見上げて、ぽそっと呟いた。
梓「……ま、まいだーりん、ゆい」
唯「…………」
梓「あ、あれ?」
私の想像に反して唯先輩は身じろぎひとつしない、瞬きさえもしない。
期待させるだけさせといて、思いきり外しちゃった……かな?
唯「…………」
ぷぱぁ。
梓「きゃああああ!? 唯先輩! 唯先輩ぃぃぃ!?」
唯「だ、だいじょぶ……意識は、あるよ……あずにゃん……」
梓「すみませんすみません! もう二度と言いませんから、早くハナチ止めてくださいっ!」
唯「わ、私の、あずにゃんへの熱い想いは、誰にも止められないよ……」
だらだら、だらり。
マジでヤバそうですよ、唯先輩? 正気が吹き飛んで妙なこと口走ってるの、わかってますか?
梓「うわああああん! まさかこんな大惨事になるなんて! 唯先輩、しっかりしてください、こっち側に戻ってきてえぇぇ!」
唯「あ、あずにゃん、私はもう駄目だよ、だから遺言を聞いて……?」
梓「遺言とか言わないでください、縁起でもない……です、から?」
……あれ?
もしかして、大量ハナチ中なのに結構余裕ありません?
唯「最後の思ひ出に……『マイスゥィートハニー唯』と……呼んでおくれでないかい……」
梓「絶対に呼びません!」
唯「あう」
ツッコミ代わりに唯先輩の後ろ頭を軽く叩いて下向かせ、ぎゅむっと鼻をつまみながら止血点を押さえる。
もう、唯先輩ってば……こんな悪い意味でどきどきする状況なのに、おふざけがすぎます。
唯「あうにゃんのけひー」
梓「軽い冗談のノリだったのに、唯先輩が過剰反応するからいけないんです」
唯「らって、あうにゃんがはうかひがるとこ、可愛くって、こおふんひひゃっへ……ね? わかるれひょ?」
だらだらぽたり、たらぽたり。
そういうハナチが出そうな気分はわからないでもないですが、今はわかりたくないです。
とりあえず唯先輩が落ち着いてくれないと、ハナチが垂れる度に私の寿命も縮まっちゃいそう。
梓「ハナチ止めてから喋ってください」
唯「まいらーりん、あうにゃん。まいふぃーとはにー、あうにゃん」
梓「何喋ってるかわからないですよ」
唯「うぅん、あうにゃんのひへふー」
本当は、何となくわかるけど、思ってたより嬉し恥ずかしなんですけど。
ハナチまみれじゃ雰囲気もへったくれもないですよ、唯先輩。
ゆあがり!
唯「あずにゃーん、あいす~」
梓「はいはい、今日買ってきたやつですね」
一本だけアイスを取り出して、冷凍庫を閉める。
小首を傾げる唯先輩に渡し、踵を返す。
唯「あれ? あずにゃんは食べないの? ……あ、もしかして、一緒に食べたいのかな~?」
梓「いえ。ちょっと、おトイレ行ってきますので」
唯「なぁんだ、ちょっと残念」
ちょっとどころか、本気で残念そうにむくれないでくださいよ。
唯先輩と同じアイスを一緒にゆっくり味わう為に、ちゃんと長居せず戻ってきますから。
といれ!
梓「…………」
ドアは、ちゃんと鍵も閉めた。
まさかとは思うけど、気配も窺ってみる。
うん……足音なし。
梓「…………」
水も流して……っと。
梓「……ふぅ」
唯先輩が『さっきのお返しだよー!』とか言いながら、覗きにきたり、聞き耳を立てたりしないとも限らない。
……どうして自分ちのトイレでこんなに緊張しなきゃいけないんだろ。
ほんの少しだけ、茶目っ気というか、悪戯っ気みたいなのを出しただけだったのにな。
あいす!
戻ってくると、唯先輩には怪しげな素振り、一切なし……つまり、全て私の疑心暗鬼だった。
梓「…………」
唯「お帰り~、あずにゃん」
梓「……唯先輩。性根の曲がりきった私なんかに、そんな眩しい笑顔を向けないで……」
唯「いきなりどったの? めひょうのポーズだったっけ、それ?」
唯先輩はテレビを見ながら、美味しそうにアイスを頬張っていた。
急いで戻ったつもりだったのに、あとひと口ふた口で食べ終わっちゃうくらいに、無心で。
梓「いえ……唯先輩、貴女はいつまでもそのままでいてください……ぐすん」
唯「うん? よくわかんないけど、わかった」
汚れてる。私の心はものすごく汚れちゃってます。
少しでいいから、立ち直る時間が欲しいです……。
びふぉあざべっど!
唯「何だか頭がくらくらするよぉ~」
梓「大事を取って、今日は早めに寝ましょう」
残念ですけど、無理して貧血にでもなったら元も子もないですもんね。
ええと、確か……ごそごそごそ、と。あとお水を……。
梓「はい、唯先輩。鉄分サプリ飲んでおいてください。気休めですが」
唯「おおう、せんきゅー。さすが、気が利くねえ」
梓「私はお風呂を掃除してきます。先に寝てていいですよ」
唯「う、うん……ごめんよ、あずにゃん……」
肩を落として布団に入る唯先輩に、微笑みながら頷いてみせてから、お風呂場へ向かう。
お湯はさっき抜いておいたし、普通に洗うだけでいいかな。
梓「ん、しょ……っと」
まあ、元々綺麗にしてあるし、べっとり血のりがこびり付いたわけでもないし。
掃除って言っても、洗剤とスポンジで軽くなでる程度。
梓「はぁ」
思わず小さな溜め息が漏れた。
ううん、掃除が面倒なんじゃない。
――不完全燃焼。
そういう表現が、今の私の状態にはぴったりだった。
梓「んっ……や、やだ……」
知らないうちに、両膝をこすり合わせてしまっていた。
これまでこんな風になったことなかったのに……きっと、唯先輩のせい。
でも、唯先輩を責めるのは筋違いだとわかってる。
それに、今夜はゆっくり休んで欲しいから、おねだりなんてしたくても出来ないよ。
梓「はあ……」
深呼吸のように息を吸い込んで、大きな大きな溜め息をつく。
それは段々と小さくなって、やがて洗剤を流すシャワーの音に紛れて消えた。
梓「……しっかりしなきゃ、ね」
鏡にもシャワーをかけて水滴を拭き取ると、何て物欲しそうな顔をしてるんだろ、私ってば。
今夜さえしのげばいい。
今夜だけ我慢して、唯先輩が元気になったら、その時は思いきりおねだりしたらいいじゃない。
だから、ね?
梓「うん……大丈夫、大丈夫」
ぺち、と頬を叩いて気分を入れ替える。
今日はもう寝るんです。速やかに清らかに、ちょっとだけ唯先輩に甘えさせてもらって。
梓「……うん。私は大丈夫、です」
鏡の向こうの私は、いつもの表情に戻っていた。
眉を寄せたり、にこっと笑ってみたり、唇を尖らせ……ようとしたけど、それは何となく止めた。
多分、自然な顔で振る舞えると思う。
……さぁ。いつまでも独り芝居をしてないで、早く唯先輩の傍へ行こう。
いんざべっど!
唯「お帰り~。お疲れ様、あーずにゃん」
布団の中でごろごろ転がっていた唯先輩は、私が戻ってきたのに気付くと、にぱっと嬉しそうに微笑んで迎えてくれた。
梓「ただいまです。ささ、早く寝て明日に備えましょう」
唯「えぇ~? 夜はまだまだこれからだよぉ?」
梓「夜更かしは美容と健康の大敵ですから」
部屋の明かりを消して、私もベッドに……いや、こういう時こそ来客用の布団を使うべきじゃないかな?
一緒のベッドに入ったら、唯先輩にだきだきなでなでふにふにされるのは明白。
決心を崩さない為にも、自制心を保つ為にも、唯先輩の為にも、今夜は別々に寝るべきなのです。
……と決意していたら、唯先輩が布団を半分持ち上げて、どこか色っぽい雰囲気で私を誘う。
唯「あずにゃ~ん、ほらほら、あずにゃんの場所あっためといたよ! 早く来て来て入って!」
梓「は、はいですっ」
……あう。
思わず返事をしてしまって、もう断れなくって、唯先輩が湯冷めしちゃいけないと思って、誘われるまま布団に潜り込んだ。
……ええ。どうせ私の決意なんて、日本海の荒波が打ち寄せる岩の上に作った、脆い砂のお城に過ぎなかったんですよ。
唯「あずにゃ~ん♪ えいっ、あったか攻撃ぃ」
梓「……はぁ。確かにあったかいですね」
唯「ぷー。そういう反応、ちょっと寂しいよー」
梓「じゃあ、ちょっとだけ甘えさせてもらいます。そのまま寝ますから、悪戯しないでくださいね」
唯「んっふっふ-、もそっと近う寄れ近う寄れ。苦しゅうないよ~」
髪はベッドの横へ落として、唯先輩の腕を枕にする。
ボディソープの香りに、鼻の奥をくすぐられる。
も、もうちょっと……だけ、寄っても……いいよね?
梓「ふ……ん、くんくん……くん……」
唯「わ、わわっ、ほんとに大人しく甘えてきてる感じ!? これはちょお幸せな予感!?」
梓「ちょっとだけ、甘えるだけ、ですから……んう、んん~……唯先輩の身体、ふにふにしてて、いい香りがして……素敵、ですね」
唯「うっ、うん!? あずにゃんも素敵だよ!? ……って、あれ~? あずにゃん?」
梓「……すぅ……ふにゅ……」
かなり気疲れしちゃったせいだろうか、目蓋が酷く重くて、唯先輩の声もどこか遠く聞こえる。
本当に眠くなってきた。
……うん。好都合だから、このまま……眠ろ……。
最終更新:2010年12月30日 23:12