おふろ!

梓「お風呂沸きましたね……唯先輩、私は後片付けしますから、先に入っちゃってください」
唯「えぇ~? 一緒に入って洗いっこしよ?」
梓「んくっ……ちょ、ちょっと、その……私、確かにエッチなこと考えはしますけど、経験はないので……先輩と、した後、なら……」

 いきなりハードルが高すぎる。
 こんな雰囲気で、こんなテンションで、裸でふたりっきりだなんて……妄想が先走って、どうなるかわかったもんじゃないよ。

唯「そっ、そうだね、初めてはちゃんとしたいしね……じゃあ、後でなら一緒に入ってくれるんだね? あずにゃん」
梓「……はい。まだ約束はしませんけど」
唯「それじゃあ先に入ってくるよ……ううっ、私はあずにゃんのだし汁を飲みたかったのに、逆に飲まれちゃうなんて……」
梓「飲みませんっ! あと変に意識するような言い方しないでください!」
唯「うっふっふー……予言するよ! あずにゃんは絶対に私が入ったお風呂のお湯を味見するにちまいない!」
梓「唯先輩の分の湯上がりのアイス……先に全部食べちゃおうかな」
唯「ああっ!? ごめん、ごめんね!? 前言撤回するから一緒に食べようよ!」

 そんなことを言っても、もう騙されない。
 きっと、っていうか絶対に、アイスの口紅をするつもりなんだろう。
 ……それはそれで、甘いキスになっていい感じかもしれないけど。

梓「もう舐め取ってあげませんけど」
唯「い、いいよ、あずにゃんと一緒にアイス食べたいだけなんだもん」

 図星を突かれたように、ぷくっと頬を膨らませる。
 アイスが大好物だと聞いてはいたけど、湯上がりなんだし、私を待たないで食べてしまえばいいのに。

梓「私のお風呂、覗かないでくれますか」
唯「うん」
梓「お背中流します-、っていうのもナシですよ」
唯「うっ……うん」
梓「やろうとしてたんですね」
唯「し、しない……うん、何もしない、ちゃんと大人しくテレビ見ながら待ってる……本気で約束するよ」
梓「……アイスは先に食べててもいいんですよ」
唯「ううん、あずにゃんと一緒に食べたいから待ってる」
梓「そうですか。じゃあ、早くお風呂入ってきてください。こうしている分だけ時間の無駄です」
唯「わかったよ……全身隅々まで綺麗にしてくる……ね」
梓「……っ!?」

 『あずにゃんに見られても恥ずかしくないようにね』。
 小さく、だけど確かに私に聞こえるように、唯先輩が呟いた。

唯「洗い物任せちゃってごめんね。あずにゃんのオムライス、とっても美味しかったよ」
梓「は、はい……」

 お風呂場へ消える背中を眺めつつ、ほうっと溜め息をつく。
 今の唯先輩の表情、ちょっと、下半身の方にぞくっときたから。

おふろのつづき!

唯「ふぃ~……いいお湯だったよ、あずにゃーん」
梓「そうですか。それじゃ、次は私が入ってきま……」
唯「……変なところのだし汁が出ちゃってるかも」
梓「あ、今日はシャワーで済ませたい気分です」
唯「嘘うそ、冗談だよ、あずにゃーん!」

 ほこほこしてる唯先輩。
 急いだみたいで、髪がまだ乾ききってなくて、何だか色っぽい。
 でも、変なとこのだし汁って、つまり……アレ、だよね……。

梓「ま、まあ? いくら唯先輩でも、お風呂の中でしちゃうとは思ってませんよ」
唯「ふっふっふ、どうかな!?」
梓「……速攻でお湯抜いてお風呂洗わなきゃ」
唯「ああん、あずにゃんのいけず! 意地悪! せめて味見してからにして!」
梓「しませんってば!」

 私は逃げるように着替えを抱えて走った。
 あの口調だと、多分、唯先輩の……アレ、が、湯船に溶け込んでる。
 どうしよう。どうすればいいんだろう。
 私、どうしたいんだろう。

梓「…………」
唯「ううっ、あずにゃーん……信じておくれ、湯船の中じゃ本当に変なことしてないんだよぉ」

 脱衣場のドア越しに、無実を訴える声が聞こえてくる。
 ……無実?
 本当に、無実?
 今、唯先輩は、『湯船の中じゃ』って……言った。

梓「……静かに待っててください! 落ち着いて入れないじゃないですか!」

 少しだけドアを開けて叫ぶ。
 恥ずかしすぎる。私の妄想が事実だとしたら、恥ずかしすぎていたたまれない。
 けど。
 私はドアの向こうに唯先輩が来ないかどうか気にしながら、服を脱いでいった。



ゆあがり!

唯「髪下ろしても可愛いよね、あずにゃんって。ドキがムネムネしちゃう」

 変なこと言うと、胸がどきっとするじゃないですか。

梓「知りません。はい、アイス。湯冷めしても知りませんけど」
唯「しないよー! あずにゃんがお風呂でどこから洗うのか、どんな風に洗うのか、悶々してたら身体が火照っちゃって!」
梓「そんなの教えてあげません」
唯「んむー……やっぱし、あずにゃんはいけずだよぉ」

 そう言いつつも、早速アイスをぱくつく。
 私は小豆アイス。
 買う時、『あずきとあずさは字がそっくりだよね!』なんて、からかわれたけども。

唯「あむあむ……ん~、美味しいね、あずにゃん!」
梓「ええ、まぁ……」

 私は気にせず、小豆アイスにかぶりつく。
 でも……舌を出して、ぺろぺろと、ねちっこく、私の目を覗き込むようにしながら、唯先輩は。

唯「こういう風に、ちっちゃなお豆を舐めるの……すっごく楽しみだねぇ?」
梓「食欲が失せること言わないでください」
唯「やぁん! じゃ、じゃあ私と交換しよ! ね、ねっ!」
梓「…………」

 それはつまり、間接キスしようということですか。
 いや、直接する前の心構えが出来るというか、何ていうか、気恥ずかしいんですけど。

唯「はい、あずにゃん。あ~ん」
梓「あ……あ、あーん……」

 はぷ。

唯「……どお? 美味しい?」
梓「普通に普通のアイスの味です」
唯「うわ、あずにゃん冷たい! アイス並に冷たいよ!?」

 そんなことないです。
 口の中で溶けてく塊に、唯先輩の唇が触れて、あろうことか唾液が混じっているかと思うと……。

梓「……こ、今度はこっちをどうぞ。お返しです」
唯「冷たくなったのは気のせいだったみたいだね」
梓「それこそ気のせいです」

 唯先輩は、何だかいやらしい感じで微笑みつつ、私の小豆アイスに口を付ける。
 でも、私みたいにかじらない。
 てろてろと全体に舌を這わせて、白い霜を溶かして、その上から新しく唯先輩の唾液の霜を作る。

梓「あ……ああ……」
唯「ちゅ、ぺろぺろっ……うん、小豆味も甘くて美味しい……甘ぁいね……♪」
梓「そ、そうですか」

 手を引くと、すっかり涎でコーティングされた小豆アイスが戻ってくる。
 こんな、ちゃんとする前なのに、これ全部食べちゃったら……まるで、キスみたい。

唯「ところでさ、あずにゃんに聞きたいことがあるんだけど」
梓「はっ!? はい、何でしょう?」
唯「……味見した?」
梓「っ!?」

 し、しました。ひと口飲んでみたりもしました。
 でも、薄まりすぎてて全然わかりませんでした。
 ……なんて言ったら、唯先輩、思いっきりにんまりするに決まってる。

梓「ゆっ、湯船には浸かりましたけど、上がる前にシャワーで唯先輩成分は洗い流しました!」
唯「えぇ~」

 唯先輩は至極残念そうに、ぱくっとアイスに口を付ける。
 そこ、私が食べたところ……。

唯「れるれるれる……あずにゃんなら、味見してくれると思ったんだけどなぁ」

 ……ちらっと、私の顔を伺ってくる。
 湯上がりだけど、かあっと真っ赤になっているハズの、今の顔を。

梓「はっ、早く食べちゃいましょう! ねっ!」

 気にしたら駄目だ。
 ……でも、気になる。

梓「……あむ」
唯「ねぇ、あずにゃん」
梓「はぷ、ん……何ですか」
唯「美味しい?」
梓「…………」

 唯先輩がいやらしく舐めたアイスを頬張る私は、もう何も言い返せない。
 どんな言い訳をしても、これはもう、女の子同士のじゃれ合いの範疇を超えているから。

梓「お、美味しい……です……」
唯「よかった」

 やっぱり、にんまり。
 この人はずるい。
 私の気持ちをわかってて、こんな風に誘って、面白がっているんだ。

唯「これで最後のひと口……」
梓「はむ……かぷ……」

 気にしない、気にしない。

唯「唇に塗っておいたら、甘ぁ~いキスが出来るかな?」
梓「……何ですか、そのはちゅこい的な味は」

 しまった、噛んだ。
 慌ててアイスの残りを口に放り込むけど、もう遅い。

唯「塗っておくね」
梓「……まぁ、ケチャ味じゃないだけマシですけど」
唯「あ、だからさっきキスしてくれなかったんだ?」
梓「ケチャよりは甘い方がいいです!」
唯「うん、私もそう思う。ファーストキスはケチャップの味だったって、誰かに話したら笑われそ……あ」

 ……『あ』?

唯「何でもありません。今のは忘れてください」
梓「もしかして……こういう緊張した時に何ですが、唯先輩も……その、エッチなこと、初めて……ですか?」
唯「……うん」

 その割には、私を随分ともてあそんでくれたような気がする。
 だけど、安心した。
 そして、嬉しい。
 本当の本当に、初めての相手に、私を選んでくれたんだ。

梓「くすっ」
唯「あ、あずにゃん!? 今、私のこと馬鹿にしたでしょ!?」
梓「いえ、ぷ、うく……な、何か、おかしくって」
唯「ううっ……やっぱし馬鹿にされてるよ……」
梓「ちっ、違うんです。唯先輩、経験済みかと思って……その、いわゆるレズ的な、お姉様な雰囲気が時々ありましたから」
唯「私は確かにお姉ちゃんだけど、お姉様じゃないよ!?」
梓「でも、お姉様なことを私にしたいんですよね?」
唯「うっ……」

 仕返し。
 口の中で溶け残った小豆アイスを出して、ぺろぺろと舐めてみせると、今度は唯先輩が顔を赤くした。

唯「うあ、あぅぅ……あずにゃん……やっぱり、いけずだよぉ……」

 自分がどんな真似をしていたのか、全部思い出したみたいに。
 うん……こういうのも悪くなさそうだけど、私の望んでいるカタチとは、ちょっと違う。

梓「えと、あの、唯先輩。私も初めてなんです、だから……優しくしてくださいね?」
唯「う、うんっ! 私の精一杯の優しさをあげるよ、あずにゃんっ!」


3