PM7時 平沢家 憂の部屋


憂(7時……か)

憂(こんな時間まで寝てたんだ)

憂(……着替えよう)

憂(どれ着ようかな……)

憂(……幼馴染に会うだけだよ? 特別おめかしする必要なんてないよね)

憂(これでいいかな)



PM8時 和の部屋


ピーン ポーン

ムクッ

和「……出なきゃ」

タッタッタッ

和「はい……」


梓「……ど、どうも」

和「あら、梓ちゃんじゃない。珍しいお客様ね」

梓「お久しぶりです、和先輩。夜分にすみません」

和「夜分……今何時?」

梓「え? 8時ですけど……」

和「梓ちゃん、留守番お願いね」

梓「えっ?」

和「そろそろ起きると思うから相手してあげてね」

梓「ちょ、ちょっと」

和「じゃ。あ、キーを忘れてたわ」

梓「ちょ、飲酒運転じゃないですか?」

和「……こんなに酒くさい部屋だけど私は飲んでないわよ」

梓「私はって……」

和「じゃ、ごゆっくり」

梓「行っちゃった……」




唯「のどかちゃーん……どこに……あ」

梓「あ……」

唯「あずにゃん……」




PM9時 平沢家

憂(そろそろ……かな)

憂(来てくれる……よね?)

憂(来れなくても、いいかな?)

憂(和ちゃんが、お姉ちゃん達と楽しく過ごせたならそれだけで)

憂(……和ちゃん)

憂(ほら、いつの間にか雪がこんなに積もってる。こんな寒いのに来てくれるわけ……)


ブロロロロロロ・・・・・・


憂(!……)

ピーン ポーン


憂「はい」

和「こんばんは、憂」

憂「和ちゃん……」

和「目が真っ赤よ。寝てたの?」

憂「和ちゃんだって、目が真っ赤だよ?」

和「私は寝てたわ。起きてすぐに部屋を出たからこんなだらしないかっこになっちゃったわよ」

憂「大人っぽくて素敵だよ」

和「そうかしら」

憂「うん」

和「じゃあ早速だけど出かけない? イルミネーション見たいの」

憂「うん。行こ!」

憂「和ちゃん、車買ったんだ」

和「私のじゃないわよ。同じマンションの友達の車よ」

憂「借り物なんだ」

和「ええ、彼女はあまり使わないみたいで私が度々借りてるわ」

憂「このタバコは……」

和「私のじゃないわよ」

憂「本当に?」

和「私がタバコ吸ってるように見える?」

憂「……うん。だって……和ちゃん、すごく大人だから」

和「あなたと一歳違いよ」

憂「でも……大人に見えるよ」


和(どうしてそんな寂しそうな目で見るのよ。憂)

憂(どうしてかな……車を運転している和ちゃんを見てると……寂しさがこみ上げてくる)


和「……着いたわ。あれね」


憂「うわぁ、きれい」

和「あ、降りなくていいわ。ここから見ましょ」

憂「どうして?」

和「寒いし、人が多いから、ね」

憂「うん……わかった」

和「……」

憂「……」

和「……」

憂「……」


和「このイルミネーション見たことある?」

憂「小さい頃に見たかも」

和「いつかしら」

憂「忘れたけど、和ちゃんと一緒だったと思う」

和「そうだったかしら」

憂「和ちゃんと、お姉ちゃんと、私。今日車で来た道を、三人で手をつないで歩いて」

和「……そうだったかしら」

憂「結構距離があるから三人共息切れしちゃって。でもイルミネーションを見た途端に元気になって」

和「うん」

憂「広場を走り回って、私が転んで。和ちゃんがいたいのいたいのとんでいけーをしてくれて」

和「そうだった、かしら」

憂「雪が積もってたから雪合戦もしたかな」

和「そう」

憂「ほら、あの子たちみたいに」

和「楽しそうね」

憂「うん……」



和「……帰りましょうか」


ブロロロロロロ・・・・・・


和「……何を話せばいいのかしら」

憂「……思い浮かばないや」

和「勉強はどう?」

憂「順調だよ」

和「そう」

憂「大学はどう?」

和「順調よ」

憂「そう」

和「……」

憂「……」

和「降りましょう」

憂「えっ?」

和「そこのパーキングに停めるわ。一時間無料みたいだし。ちょっと公園を歩かない?」

憂「うん、いいよ」

和「雪、止まないわねぇ」

憂「ほんとだね。和ちゃん、手袋は?」

和「持ってきてないわ」

憂「はい、片方貸すよ」

和「いいわよ」

憂「遠慮しないで、はい」

和「ごめんね」

憂「謝るのは私の方だよ」

和「何言ってるのよ」

憂「手袋をプレゼントするつもりだったのに間に合わなくて。ごめん」

和「受験生にそんなこと強いるわけないじゃない」

憂「あ、まだ言ってなかったね。誕生日おめでとう」

和「ありがとう」


憂「……こうやっておめでとうを言えるのも、いつまでなんだろう」

和「憂?」

憂「和ちゃんはすっかり大人になって、私との距離はすっかり離れ離れ。年月を重ねる毎にどんどん距離は離れていくのかな」

和「……」

憂「夢の中でも、そうだったんだよ。どうしたって私は和ちゃんを掴むことができない。かと言って、あの頃の思い出も、忘れることはできない」

和「!……」

憂「和ちゃん」

和「……」ピタッ

憂「私どうしたら」

和「……」ガシッ グシッグシッ

和「憂」

憂「ん?」


ヒュッ  ベチャッ


憂「ちべたっ!?」

和「憂、雪合戦しましょうか」

憂「な、何言ってるの!? うわぁっ」

和「ほらほら、反撃しないと雪だるまになっちゃうわよ」

憂「うー、和ちゃんのバカー!!」

ヒュッ ヒュッ

和「ひゃっ!」

憂「えへへ、どぉだぁ」

和「やったわね~」

憂「もっとやってあげる!」


ヒュッ ベチャッ ヒュッ ヒュッ グチャァッ  シュッ  シュッ

キャー ペチャッ  ヒュンッ スッ シャッ グチャチャァッ ワー 

ぺシャッ メガネガー グシャッ  ピシュッ


和「はぁはぁ」

憂「はぁ…はぁ」

和「うふふ」

憂「あはは」

和憂「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」





和憂「くしゅん」


和「帰りましょうか」

憂「うん」

和「ねぇ憂」

憂「うん」

和「確かに私達の距離は広がってしまったし、これからもっと広がるかもしれないわ」

憂「……うん」

和「でもね……それは自分が全く行動しなかった時の話だと思うのよ」

憂「どういうこと?」

和「私達が会いたいって気持ちを持ち続けて、積極的に会い続ければ、私達はずっと一緒にいられるってことよ」

憂「そんなにうまくいくかなぁ」

和「無理かもしれないわね。ただの精神論だし」

憂「和ちゃん……」


和「でもね」ぎゅっ

憂「あ……」

和「少なくとも今は、こうやって手をつなぐことはできるわ」

憂「……うんそうだよね」ぎゅっ

和「この感触を忘れなければ、きっと大丈夫よ。そう思いたいわ」

憂「私もそう思いたい」

和「だから」

憂「うん」

和「一緒に帰ろ、憂」

憂「うんっ!」


握りしめた憂の左手はさっきまで雪に触れてたせいか氷のように冷たかった。
でも握り合ったらすぐにあの頃のぬくもりを取り戻した。
身体は忘れてない。心は忘れたくない。
いいよ。
私は何度だって憂の手を握りにここに戻って来る。たとえ地獄に落ちたとしても。


和ちゃんの右手は震えていた。だから精一杯に握り返して震えを止めてあげる。
そしてあの頃歩いた道に向かって再び足を踏み出す。
あ、和ちゃん、車いいのかな。あそこ2時間以上停めると500円払わなきゃいけないんだけど。
ま、いっか。
今の和ちゃんはあの頃の顔なんだから。車なんて運転できない、私の幼馴染の女の子の顔なんだから。
明日、予定はないよ、和ちゃん。純ちゃんは来れないらしいし、梓ちゃんもたぶん来ないと思うから。
だから、ね。

今夜は、一緒だよ。



END