- 38. 木々を切り倒せ山を焼き払え獣の皮を剥げ。 2010/12/26(日) 05:59:37.62 ID:MMzCkGP00
- 帰った。
帰って寝た。
帰宅途中のことはあまり良く覚えていない。
思い出そうとしても、頭に浮かぶのは会話ではなく、
唯の柔らかそうな髪だとか、長いまつげだとか、華奢な肩だとか、
ムギの柔らかい掌だとか、大きな青い瞳だとか、風になびいた金色の髪だとか。
概して彼女たちの容姿に関することばかりで、あんまり汚らわしくて、目をつぶった。
あなた、もしかして。
代わりに先生の声が頭に響く。
だんだん大きくなっていって、私の鼓膜が破れた。
同時に、私は眠りに就いた。
- 39. 汚らしい欲情は、日に日に膨らんでいくばかり。 2010/12/26(日) 06:03:22.64 ID:MMzCkGP00
- 「はーい、じゃあ、冬休みだからって羽目を外し過ぎないようにしてくださいね。
たかだか数週間の休みのせいで、これからの数十年間を棒にふる、なんてことに、ならないように」
終業式が終わって、冬休み前、最後のホームルーム。
先生が口説いくらい念を押す。
棒に振る。少し下品な洒落を思いついて、首を振った。
「の、ど、か、ちゃん」
たん、たん、たん、と肩を叩かれる。
相変わらず、優しいあの娘。
「今日はね、音楽室に行くの。だから、先に帰っていてね?」
「あら、残念ね」
何気なく言った一言を捕まえて、ムギが私の頬を人差し指でつく。
「意地悪」
教室の扉の近くから、間の延びた声が聞こえた。
「ムギちゃーん、早く行こうよお」
昨日ぎらぎらと目を光らせた友人からの、あっけらかんとしたお誘いに、
少し戸惑った様子を見せて、ムギは笑った。
「じゃあ、ね。またメールしてね」
- 40. 吐き出してしまいそうに、膨らんだ胸。 2010/12/26(日) 06:05:43.81 ID:MMzCkGP00
- 「の、ど、か、ちゃん……ですって」
教室に残っていた先生が、私の傍へ近寄ってきて、囁いた。
ふっ、と漏れた吐息が、私の耳をくすぐる。
「ふふ、まあ、どうでもいいんだけれどね、案外、キリストなんて大したことないと思うのよ」
唐突に、そんなことを言う。
でも、そうかもしれない。
この人は、きっと簡単に、トナカイもサンタもキリストも、フライングVで殴り倒せるのだろう。
周りをさっと見渡して、いたずらっぽく笑って、言った。
「ジーザスファック、ってね。あなたの嗜好にどうこう言わないけれど、ま、上手く行けばいいわね」
「上手くいかなかったら?」
「そうね、ファックしてあげましょうか」
私の口から息が漏れた。
「ふふ、遠慮しときますよ」
くつくつと笑って、先生は教室を出て行った。
ちらとこっちを見て、背中に回した右手の中指を、小さく立ててみせた。
ジーザスファック。
日が傾いていた。
- 41. 時折、嫉妬がそこを叩くのです。 2010/12/26(日) 06:08:32.15 ID:MMzCkGP00
- 日は完全に沈んだ。
きーこ、きーこ。
錆びた鉄が悲鳴をあげる。人工物にも、寿命はある。
クリスマスイブ、今年は二十四日。
前夜ばかりが祝われて、肝心なクリスマスの時は、お祭り気分は下火。
ざまあみろ、なんて思ってしまう。
だからこそ、今日の日は、あの鬱陶しい鉄製の倫理が、いつよりも強く私を締め付けるわけで、
この日にここに彼女を呼んだのは、やはり正解だった。
「和ちゃん、待った?」
「いいえ、全然」
別に、待っていたわけじゃない。
ブランコを漕いでいただけなんだから、嘘はついちゃいない。
「あら、待っていて欲しかったわ。私のために、待っていて欲しかった」
「意地悪ね、ムギ」
くす、と眉尻を下げて笑った。
ムギは、いつもと変わらない調子で喋った。
「あのね、私、ここに呼ばれた理由、分かるわ」
だから、その前に、ちょっと雑談しましょう。
そう言って、ムギは微笑んだ。
- 42. 嫉妬を起こさせる和ちゃんが好き、嫉妬してしまう私は嫌い。 2010/12/26(日) 06:13:38.14 ID:MMzCkGP00
- 「あのねえ、今日、とても楽しかったわ。憂ちゃんと梓ちゃんと……えっと、純ちゃん、がね、ライブしてくれたの、私たちのために。
今思い出しても、ちょっと楽しい気分になるわ」
嘘。彼女の顔に、びっしり貼りつく。
その寿命は長くない。
今すぐにでも、腐食して、ひび割れてしまいそう。
「今日からは、今までよりも一生懸命勉強しなきゃならないわ……大変よね」
ぎいっ、と鉄が悲鳴を上げた。
断末魔の叫び、に聞こえた。
「ふふ、無理ね。やっぱり、和ちゃんの話し聞かせて?」
ぽろぽろと、嘘は顔から剥がれていく。
口元にだけ、仮面が残った。
ぎい。鉄の軋む音が大きくなる。
「ムギのこと、好きじゃないと思う」
決壊したダムのように、溢れる水。
ムギはそれでも笑っていた。
- 43. トナカイの代わりに飛んで来るのは枯葉、プレゼントは嫉妬。 2010/12/26(日) 06:16:19.40 ID:MMzCkGP00
- 「でも、ムギの髪の毛は綺麗だし、目もすきだし、顔立ちも、その柔らかい手も好きなの。で、それ、で……」
言っていいのか。
これは言っていいのか。
公園の入口に、誰かが立っているような気がして、私はそこを睨んだ。
心のなかで、中指を立てた。
「ムギの、見た目が好き。写真にとって、ポスターにして、部屋に飾りたいくらい」
鉄製の倫理をぶち破れ。
どうせ、そんなもの、数千年前に誰かが作ったものだから、
私がそれを破って、こんな風に背徳的なことを言ってしまっても、別に構わないだろう。
「嬉しいな、照れちゃうよ」
目元を指で拭って、相変わらず微笑んで、ムギが言った。
優しく頭を撫でてやる。
「ねえ、見た目が好きなのと、私が好きなのは、どっちが大きい円なのかな?中にあるの、それとも外に?」
「わからないわ」
「そっか、でも、接点はきっとあるわよね?」
「きっと、多分、一つだけ」
涙は乾いた。水を吸って、青々と茂る草木。
「わかった。じゃあ、私、頑張るから……きっと、いつか……」
- 44. どこからか、愛しいあの人の声が聞こえた気がしました。 2010/12/26(日) 06:18:15.26 ID:MMzCkGP00
- 空を一生懸命駆けまわるおじさんに、威勢よく中指を突き立てては見たけれど、25日もクリスマスツリーは輝く。
そして、明日には撤去される。
結局、私の負けだ。
誰か、私に手助けを。
ムギ、今なら私、簡単に落とせるから。
誰か、私を、助けろ。
繁華街の大広場にのベンチに座って、ぼうっとクリスマスツリーを眺めた。
一日中、眺めた。もしかしたら、私の視線で、焼き尽くせるかもしれない。
けれど、そんな事はなかった。
そりゃあ、そうだ。
消火されて、少し湿った瞳を連れて、すっかり夜も遅くなって、私は家に帰った。
- 45. 汚物をぶちまけろ。だけど、私の声が、声が…… 2010/12/26(日) 06:20:55.86 ID:MMzCkGP00
- 家の前には、コートを着て、マフラーを着けて、立っている女の子がいた。
きっとこの娘も一日中そこにいたのだろう。
疲れたように塀に寄りかかって、時折空を見上げる女の子がいた。
「何か用?」
私が声をかけると、その女の子は私を見て、そして、瞳の中に炎を灯した。
少し、暖かくなったような気がする。
「つれない返事だね。頭、撫でてよ」
ずいとこちらへ近づいて、女の子は笑った。
私は、後ろに下がらない。
そこに突っ立ったまま。
「私だけ、私だけが、今、ここにいるんだよ。
サンタもトナカイも無視して、ただ、これから数時間後、日の境に、和ちゃんの誕生日を祝うために。
私だけが、ここにいる」
もう一歩、女の子がずいと足を踏み出す。
「お姉ちゃんじゃない、私だけがここにいるの。
髪、結んでたら頭撫でにくいでしょう?だから、髪を下ろしてここにいるの」
「言いたいことがあるなら言いなさい。私は、言った」
そっと女の子の手を握った。
女の子は口をパクパクさせるばかり。
クリスマスの空には、生気を失った枯れ葉が舞った。きっと、トナカイも死んでいる。
どこかで、鉄の鎖が切れるような音が聞こえた、気がした。
- 46. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/26(日) 06:24:00.08 ID:MMzCkGP00
- 憂「こんな感じで和さんと結ばれたいんです」
紬「天才ね!私にも役得があるなんて!」
さわ子「いや、もう……どうでもいいわ。二日酔いでつらいのよ、私」
紬「やけ酒ですか。もう和ちゃんゲットしちゃいましょうよ!」
さわ子「え、今の話私がメインなの?憂ちゃんじゃないの?」
憂「メインでもサブでも良いんです!とにかく世界の何処かに和憂をください!」ユッサユッサ
さわ子「いやでも私和さわ派……ちょ、揺さぶらないで、まじで……ちょっと……」
さわ子「ウヴォロエェ……」ビチャビチャ
憂「」
紬「」
さわ子「……汚物、ぶちまけちゃったわね」
- 47. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/26(日) 06:38:41.45 ID:MMzCkGP00
- いったんおわっときます
和ちゃん誕生日おめでとう!
最終更新:2010年12月30日 01:18