これはもう一つのお話
梓と律はギクシャク&気まずい空気で見事律の逆転優勝となったわけだが……。
律「意義あーり!」
唯「え~あれはどう見ても気まずいよ~?」
澪「そうだぞ律。トンちゃんの餌をやろうとして梓にもうさっきあげましたって突っ込まれるとこなんてもう最高に気まずかったじゃないか」
律「それはわたしが申請用紙を書きに行ってて知らなかったからで……。だからリベンジマッチを要求する!」
唯「リベンジマッチ?」
梓「懲りませんね律先輩は…」
紬「またみんなと触れ合えるのね!」
律「ちっちっち」
指を振りながら甘いぜみたいな仕草を見せる律。
律「このままもう一回普通にやってもつまらないだろ? だから……」
澪「だから……?」
律「他のメンバーを入れてそのメンバーとの得点+今の得点を足して多かったやつが優勝! これでどうだ!?」
唯「お~!」
紬「お~!」
梓「他のメンバーって言っても……誰ですか?」
律「うむ、よくぞ聞いてくれた! わたしは考えたんだ……この五人が知り合いで、尚且つ上手くバランス取れたメンバー……それは!」
唯「それは!?」
律「和! 憂ちゃん! 後、え~と……、すずきさん? 梓の同級生の」
梓「純ですか?」
律「そうそう純ちゃん純ちゃん! その三人を加えてのリベンジマッチだああああ!!!」
澪「ま、待てよ律! そんなの唯が有利に決まってるじゃないか!」
唯「ふぇ?」
梓「確かにそうですね。妹の憂と気まずくなるわけがないし和先輩は幼なじみですし」
律「そう! だからこその異分子……、純ちゃんだ!」
梓「純……可哀想に、異分子扱いされてるよ」
律「唯! 純ちゃんとの親密度は!?」
唯「う~ん……憂とは中学生からの友達らしいけどわたしとはあんまりかなぁ。家にも遊びに来なかったしぃ」
律「聞いたかみんな!!!」
律「つまり純ちゃんに関しては同じクラスである梓以外はみんな鬼門! だが梓にとって和は鬼門! みんな一人はほとんど絡みのない人がいるこの構図! 完璧だろ!?」
澪「い、言われてみれば確かに……」
紬「あんまり知らない子達とコミュニケーションね!」
梓「和先輩ですか……確かにほとんど喋ったことないかも」
唯「なんだか面白そうだね!」
律「更に!! 特別ジャッジにさ~わ~ちゃ~ん!」
さわ子「話は聞かせてもらってたわ! 気まずさって外で見てる分には最高よねぇ!!」
澪梓「(悪どい……)」
律「さわちゃんはななななんと1~10ポイントがつけられる特別審査員なので他のみんなが1点でもさわちゃん次第じゃ……!」
さわ子「消し飛ぶわよ~?」
澪「なにこのクイズ番組のおしまいの方の展開……」
梓「よっぽど負けたくなかったんですかね」
唯「悪いけど死守させてもらうよ!」
紬「楽しみね!」
律「明日は祝日で休みだから開催は明後日な! じゃあかいさ~ん」
澪「まて、」
律「…はい?」
澪「練習、しような?」
律「あははは……、当然じゃないですかぁ! 嫌だな~秋山さんは~」
梓「はあ……」
こうして気まずさ選手権! リベンジマッチ!の火蓋は切って落とされた。
翌日!
律「昨日はああ言ったが……」
やっぱり一番不利なのはどう考えてもわたしだ。
憂ちゃんとはゲームの話で何とかなるとしても……和は昨日のこともあるしその時点で気まずい。
更に更に鈴木……、じゃない純ちゃん!(名字で呼ぶとその時点で気まずい)は一回軽音部に遊びに来たときぐらいしか接点がない……!
律「ならば……作ればいい!」
さっそく携帯を起動、しかし、メールの宛先選択にて手が止まる。
律「純ちゃんのアドレス知ってそうなのは……わたしの知ってる限りじゃ梓ぐらいか。これで梓に聞いたら」
梓『律先輩必死になってやんの~あずプップッ~』
律「ぐぬぬぬ……、中野には聞けん!」
律「ってことはもう一人の仲良しさんの憂ちゃんに聞くしかないか。しかし憂ちゃんのアドレスも知らない……。唯に聞いてもいいけどな~……やっぱり和に聞こう」
ピポパ……。
律「さて、出掛ける準備するか」
まさかたかだか遊びでここまでするとは思うまい!
だがやるからには勝つ!
それがりっちゃんの心情だぜ!
ピリリリン
律「来た! 何々? あなたで二人目よ。今日憂のアドレス聞いて来たの。だと……?」
律「まさか…わたしの他にも動いてるやつがいると言うのか! こうしてはいられ~ん! サンキュー和っと! 次は憂ちゃんにメールして純ちゃんのアドレスゲットだ!!」
その少し前、既に行動を開始している人物がいた。
オールしまむらファッションに身を包み、いざ、平沢家へ。
澪「和は同じクラスだったし問題ない。純ちゃんも同じベーシストだからベースの話をしてたら大丈夫。となるとやっぱり問題は憂ちゃんだ」
歩きながら思案する。
澪「憂ちゃんとまともにしゃべったのは正直記憶にないぐらいだからな……。今日でその気まずさを埋めとかなくちゃ」
しかし我ながら今日の自分行動力には驚かされる。
朝、一番気まずくなるであろう憂ちゃんに狙いを定め、和にアドレスと電話番号を聞き、メールよりは電話の方が誘い易いか?っと思い電話したのが数十分前。
──
澪「も、もしもし」
『はい、どちら様でしょうか?』
澪「あ、えと……。澪だけど」
『澪? 澪さん?』
澪「うん! 澪だよ!」
『どうしたんですか? お姉ちゃんに何か用事ですか? お姉ちゃんなら二階で寝てますよ。起こして来ましょうか?』
澪「いや、今日は唯じゃなくて憂ちゃんに用事があるんだ!」
『私に……ですか? 澪さんが?』
澪「う、うん」
『どんな用事ですか?』
澪「きょ、今、日一緒に遊びに行かないっ?!」
──
そうして今に至る。
澪「思い出すだけで火が出そう……」
唯には内緒で遊ぼうなんて……、なんと言うか怪しいとか思われてないだろうか?
澪「いいって言ってくれたし……とりあえず嫌われてはなそうで良かった」
澪「うん! 今日を機に仲良くなるのも良いな!」
仲良くなれるのだろうか……?
澪「胃が痛い……」
澪「って気まずくないようにするために今気まずくなってどうするんだ!」
澪「大丈夫! きっと仲良くなれるさ!」ミョンッ!
子供「ままーあの人変だよ~?」
母親「見ちゃいけません!」
──
真鍋和の携帯は朝から大忙しだった。
同級生二人から幼なじみの妹のアドレスやら電話番号やらを聞かれたと思うと次は後輩から遊びましょう!なんてメールが来たのだ。
和「全く軽音部はまた何かやってるのかしら……」
今日も一日勉強をしようと思っていたのだが……。
和「まさか梓ちゃんから誘われるなんて思わなかったわね……。唯とかなら突っぱねるところなんだけど」
訝しげながらも出掛ける準備を進める。
和「後輩とデートね。たまには悪くないかも」
──
──
純「ぐがあ……」
純「ずぴぃ~……」
純母「純~! 起きなさ~い! 友達来てるわよ~」
純「……んあ? ともだひ? あへ~そんな約束してたっけ」
純「あ、携帯光ってる。梓かな? も~遊ぶなら昨日の内に言っといてよね!」
急いで準備すまし、玄関に向かう。
純「ごめ~んお待たせ。でも梓も遊ぶなら遊ぶでちゃんと昨日メールしとい……」
律「よっ!」
純「……」
律「……、コホンッ!」
律「どもー」
純「……」
ガチャン
律「閉めないでっ~!」
純「なんで律先輩が家の前にいるんですか! 夢かと思って閉めちゃいましたよ!」
律「一応メールはしたんだけど」
純「えっ、あ、ほんとだ。あれ? アドレス教えた覚えが……」
律「まあまあ細かいことは気にしない気にしない!」
純「はあ……、で、何か用事ですか?」
律「遊びに行こうっぜ!」
純「……わたしとですか?」
律「そう」
純「二人で?」
律「そうそう」
純「……何でですかッ!? 全く状況が理解出来ないですけど?!」
律「純ちゃん。わたしは常々純ちゃんと仲良くなりたかったんだよ」
純「ほえっ!?」
律「いつか部室に来てくれたことがあったろ? え~と、確かわたし達がメイド服来てた時!」
純「は、はい……、ありましたね」
律「その時思ったんだよ。純ちゃんと仲良くなりたいなって……」トオイメ
純「そうなんですか……。でもあれから随分時間が経ってるのに今更過ぎません?」
律「うっ……。い、今までは機会がなかったっていうか~……」
純「はあ……、そうなんですか」
律「まあとにかくいい機会だし遊びに行こうぜ!」
純「あっ、えっ、ちょっと! 律先輩?!」
律が純の肩を抱くとそのまま強引に連れ去って行くのだった。
──
憂「澪さんから遊ぼうなんて……。どうしたんだろう?」
面識はあるものの接点はお姉ちゃんが所属する部活の友達、私にとっては知り合いの先輩でしかない。
憂「でも……、ちょっと楽しみだな」
これをきっかけに仲良くなれるかもしれないと思うと少し心がわくわくした。
憂「準備しなきゃ!」
後掃除と……お姉ちゃんのお昼ごはんも作っとかないと!
憂「掃除も終わったし洗濯物も干したしご飯も作ったから後は準備して……」
唯「う~い~ご飯~」
憂「あっお姉ちゃん。おはよう。ご飯出来てるよ~。お昼ご飯だけど」
唯「ん~ん~……」
憂「私はこれからちょっと出掛けるけど、お姉ちゃんは?」
唯「わたしは家でペットモペットの最新巻を読んでるよ~」
憂「じゃあもし4時ぐらいまで私が帰って来なかったら洗濯物お願い」
唯「わかったぁよぉ~」
──
澪「まだかな……?」ウロウロ
澪「ついたってメールはしたんだけど……」ウロウロ
ウロウロしながら公園で待つこと5分。
憂「お待たせしました~!」
澪「や、やぁ憂ちゃん」
憂「色々しとくことがあって……待ちましたか?」
澪「ううん。今来たとこだよ(平常心平常心……)」
憂「良かったぁ。でも今日はどうしたんですか? 二人きりで遊びに行こうだなんて」
澪「まあ、それは行きながら説明するよ」
憂「そうですか。わかりました」
澪「憂ちゃんご飯食べた?」
憂「いえ、まだですけど」
澪「そっか。じゃあこれからどこかに食べに行こうよ」
憂「あ、あのっ」
澪「ん?」
憂「余計なことかな?って思ったんですけど……作って来たんです」
澪「えっ? お昼ご飯を?」
憂「はい」
澪「…私の為に?」
憂「はい。ご迷惑でしたか?」
澪「ううん! すっごく嬉しいよ!(憂ちゃんいい子だなぁ~)」
憂「良かったぁ。じゃああっちで食べましょう。いいところがあるんです」
澪「うん」
先に歩いて行く憂ちゃんの小さな背中を見ながらつくづく思う。
澪「(良くできた子だなぁ)」
──
梓「ちょっと早く来すぎたかな」
12時で駅で待ち合わせてるのだが現時刻は11:45。
辺りを見渡すもまだ和先輩の姿はなかった。
梓「和先輩と二人っきりか……緊張するな」
自分から誘っといて緊張するのも失礼な話だけど緊張するものは仕方ない。
梓「どんなこと話そう…。やっぱり唯先輩のことかな?」
和先輩と共通の話と言えば唯先輩のことぐらいだろうし、他の話はあまり間が持ちそうにない。
梓「あとはなるようになれです!」
和「何がなるようになれなの?」
梓「ひゃいっ!」
和「ごめん、びっくりさせちゃったかしら」
梓「い、いえっ! とんでもないです!」
和「? それにしても早いわね。私も早く来たつもりなんだけれど。待たせちゃったかしら?」
梓「私もさっき来たところです! ぜんぜんっ、ぜんぜん大丈夫です!」
和「そう? ならいいんだけど。お昼ご飯は食べた?」
梓「あっ、まっ、まだです」
和「そう。じゃあどこか入りましょうか」
梓「はひ!」
和「そんな緊張しなくていいのよ。唯達と一緒にいる時みたいな感じでさ」
梓「すみません……。こっちから誘っといて気を遣わせてしまって」
和「気にしないで。後輩をエスコートするのは先輩の仕事だもの」
そう言って微笑んでくれる和先輩がとても頼りに見えました。
梓「(軽音部の先輩達とは違って何だか頼りになるなぁ)」
先を歩く和先輩の後ろをまるで雛鳥の様にちょこちょこついて行く私。
梓「(これじゃほんとにどっちが誘ったのかわかんないや)」
でも今は頼りがいのあるこの背中について行くことにした。
心に少しの気まずさを残しながら。