澪「サンタさーん!」

澪「クリスマスプレゼントはそうだなー、
  『"魔法使いの女の子"にしてあーげーるっ♪』とかでもいいよ?」フフッ


澪「例えば……」

澪「ホァッ! 信号よ"青"になーれっ♪」 


  パッ

澪「! ……ハハッ、このくらい序の口だよ! なんちゃって」


  テクテク

澪「うーん、そうだ! お次は……」


  「んでさー? 聞いてるー?」フフフ

  「聞いてるよー」アハハ

澪「よし、あのカップルだ!」

澪「わたしの前で引っ付いていちゃいちゃとはいい度胸……」

澪「魔法少女ミオちゃんの御前であろう!」クワッ

澪「どーれ、カップルの頭上にだけ雨を降らせてしんぜよう」ククク


澪「そぉい! 雨よ降ーれっ♪」

  ヒュー
    ――ペチョ

  「ウゲッ! 鳥に糞ひっかけられた!」

  「あははっ! うーけーるー♪」

  「ちぇ、そろそろ家いくかー」

  「そーだね♪ 鳥さんのう〇ち洗わないとねー」フフフ

  「うっせー、そーら行くぞー」ゲラゲラ

澪「……まあ」

澪「結果オーライ!」

澪「そうそう、まだ魔法に慣れてないだけだって」ナハハ

澪「コントロールが難しい、な……」テクテク


  「ああ、まだ終わらなくってな。……スマン」スタスタ

  『――あなた、聡美だって楽しみにしてるの』

  「わかってる、もう少しで上がれるだろうからさ」イソイソ

  『――もう』

澪「こう……、手首をくるっと返して」

澪「フレミングの左手の法則で……」クイッ

澪「えいッ♪ って感じか?」


  「――ッ! あてェェ」ズッテン

  「あ、……聡美、あぁ……聡美の楽しみにしてるケーキ」

  「ぅ……ぐっ、すまない……ううっぎゅぎゅっ、うぎゅ……聡美ぃぃ」メソメソ


澪「ヒッ!」ビクッ

  タッタッタッ

澪「あぁぁわぁわあああ」

澪「そ、あの! 悪気は……、練習のつもりだったんだよッ!」アワアワ

澪「ごめんなさい! ごめんなさぃいぃぃ!」ウウッ



澪「ハァ……」

澪「トンでもない能力を手に入れてしまった」

澪「冗談のつもりだった……」

澪「人の幸せまで奪うつもりは無かったんだっ!」


澪「…………」ポケー

澪「わたし、こうやって人から離れてどんどん孤立して」

澪「! ……最終的には本当の魔女になって」

澪「魔女狩りとかで、つるし上げられて」アワワ

澪「――! 最終的に晒し首」ヒィッ  


澪「もう、戻れないんだ」

澪「ならば私は魔女らしく生きよう……」

澪「そう、なら黒いドレスとか着てホウキに跨ってさ!」キリッ

澪「クリスマスなんてブチ壊して!」

澪「……そうだな、全国のクリスマスケーキを鏡餅かなんかに変えて回ろう!」


澪「アハハハハッ! そーだそうしようっ!」


澪「そう考えれば楽しそうな人々なんかどうでもいいぞ?」

澪「ボッチでいいじゃないか!」

澪「クールな魔女、悪くない悪くないっ!」ククッ


  肌がスーッと透き通る

  冷たい空気

  夜を優しく抱きしめる空が

澪「冬、寒い冬!」

澪「大好きな冬、クリスマスさえ無ければな……」

澪「そうそう! クリスマスなんてなくなっちゃえばいいんだよ!」ハハハッ


  満点の夜空が

  そっと舞い降りて来る頃

  風のざわめきは指の隙間をすりぬけながら

  遊んでいる

澪「おぉ! このホウキとかいいな」

澪「おばさーん! すみませーん、これくださーい!」

  「はぁ……はて?」

澪「いいからいいからっ! お釣いいです、どうもー」


  君達はてのひらを優しく差し出して

  この空に飛び込んだ

  ホウキに跨り自由に飛ぶ

  私の行き先を瞬きもせずジッと指を咥え見てる

澪「跨り具合もなかなかイイじゃないか♪」


  何もない白い部屋の窓から

  小さな体を伸ばし

  遠くの景色を眺めて

澪「なんか変に縛られてさ」

澪「気に病んで、身動き取れなかったのがバカみたいだ!」


  一人で塞ぎ込んでいた私

  静かな夜には

  今の私がこの子守歌でなぐさめてあげるから

澪「――そんなに泣いちゃダメだぞっ♪」エヘッ

澪「ボッチ魔女」クルリ

澪「悪くないな! 実に悪くないゾッ!」フフン


  風がささやくんだ

  『アスファルトの焼けた匂いもこの夜にはないよ』

  『街の静けさも、ケーキに乗せられた灯も君のために』

  『君の好きな冬だから、全部君のために』って

澪「ん?」ピタッ

澪「この真っ黒なドレスなんて正にイメージ通り」

澪「ぐっ……、79800円は足元見すぎじゃないか?」


澪「まあ魔女のわたしだ、
  ショーウィンドウの中に入るのなんてへっちゃらへっちゃらー♪」

澪「店主さんすまない、これも魔女界の発展と繁栄のためだ……」

澪「わたしが出世した暁にはこの店を魔女界指定ブランドにしてあげよう!」

澪「ではでは、失礼して……」


  ガン
    ――ゴツン

澪「……ふふっ」


  風がささやくんだ

  『突然の出来事に君はどうしていいか……戸惑ってる?』って

澪「いいや、……分かってたよ」

澪「薄々気付いてたんだ」

澪「……色々無理があったってさ」ハハハッ

澪「今日という日は、今日を祝う人の為」

澪「そんな人達が幸せなひと時を過す1日で」

澪「肌寒いくらいの空気も」

澪「人が疎らな商店街も」

澪「キラキラ電飾が輝くモミの木も」

澪「ディスプレイ用のケーキ上に灯るろうそくの火も」

澪「全部わたしと無関係でさ……」ペタン

澪「抗ってみたかったんだ」ウゥゥ


  何もない白い部屋の窓から

  遠くの景色を求めて

澪「何もないわたしでも楽しめるかもって」グスッ


  夕暮れに少し冷たい風をまとい

  「おーい、なーにしてんだ?」

  この日のために

  居心地悪い今日のために


  「ったく、無視ですかー?」



澪「――奇跡を祈ってた」ホロリ


澪「ホウキ……どうしよ」トホホ


律「おい、みーおちゃん! 座りこんでなーにやってんだー?」

澪「はぁ……サンタさんか」

澪「今更だよ」メソメソ

澪「本当は……ヒック、魔法とか使えなくていいから」

澪「一緒にこの日を祝える友達が欲しかったんだ……」グスッ

澪「サンタさん。わたしにも1人居たんだ、今日を祝える友達」

澪「些細なことで喧嘩しちゃって、それから連絡とりづらくて」ウウッ


律「んで、そのホウキはなんだよ?」ヒヒッ

澪「これは、うぐぅ……その」

澪「魔女になろうかって」ボソボソ

律「ッたー! みーおちゅわーんはサザエさんより愉快でしゅわねー♪」ホホホ

律「ふぉっふぉっふぉっ」

律「その赤いお鼻はどうしたのかね? サンタさんに言ってごらんなさい?」

澪「あう……、ショーウィンドウの中に入ろうとして……」

律「ぶッハハハハ」ジタバタ

律「そりゃーないぜ」ヒィヒィ

澪「サンタさんまでわたしをバカにするんだ……」シクシク

律「ったく、昔とかわんねーなー?」

律「そんなの構わず連絡して来いってんだ、コノッ」


  コツン

澪「!? ……て、っり、り、律! 
  お前こんなとこで何サンタの格好なんかして!」アワワワ

律「ホウキ持ったお嬢さんが何をおっしゃって、バイトだよバーイートっ!」シシッ


澪「そそっそうだよ! ど、っどこから聞いてたんだ?」

律「『ホウキ……どうしよ』のところかなー?」

律「強いて言うならショーウィンドウに激突する所も目撃したぞっ」タハッ

澪「…………///」


澪「後生善処するッ! 頼む忘れてくれよ、りつぅー!」

律「さーて、どうしたもんかなー?」ニヤニヤ


律「そーんなことより、魔女になりたかった澪ちゃん?」

澪「は、はい……」

律「あれー? なんでだろ、何であたしはケーキを持ってるんだろうなー?」

澪「……うん、だな」

律「食べたい?」

澪「べ……別に」プイッ

律「ん? あーれー? おかしいなー
  今日という日を一緒に祝いたいんじゃなかったのかな?」ヒヒッ

澪「…………///」ポッ

律「ほーら行くぞ! 
  魔女紛いの、――真っ赤なお鼻のミオトナカイ!」

律「りっちゃんサンタについてまいれー♪」

澪「なッ!」



澪「って、おーいー! まってくれよ、りつぅうぅぅぅ!」



  静かな夜には

  君の素敵な顔を見せて


 ~おわり~



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最終更新:2010年12月29日 01:43