唯「……。大学に入ったのはいいけど……退屈だ……」

唯「……新歓コンパがつまらなくて……サークルには入らなかった……」

唯「りっちゃんや澪ちゃんは軽音楽サークルに入ったみたいだ……」

唯「今は放課後ティータイムよりそっちを優先してるみたい……」

唯「理由は簡単だ。放課後ティータイムでライブをするとなるとライブハウスのノルマがきつい」

唯「サークルなら学校からお金が出るからわりと低いノルマでライブができる」

唯「私がサークルに入らなかったからこんなことになったんだけどね……」

唯「ギターは……今でも暇さえあれば弾いてる」

唯「アンプにヘッドフォンをつなげられるということを友達にきいたのだ」

唯「自分で曲を作ったりするようにもなった……」

唯「どれも出来損ないだ……」

唯「友達はわりとたくさんできた……」

唯「みんなわりといい人だ……」

唯「友達とは趣味についてなど話す……私の趣味は音楽鑑賞ということにしている……」

唯「それと周囲の学生についてあいつはどうだこうだとか……」

唯「みんな自分以外を見下しているのだ」

唯「私はそれに耐えられないのだ」

唯「自分が俗物だということに気付かずに、『俗物』を見下すという風潮に」

唯「彼女らは自分が正常かつマイノリティだということが前提なのだ」

唯「そして私もそんな自我や自意識にまみれている」

唯「誰より退屈なのは私だ」


6月

女「唯ー!どこで受けてたの?」

唯「前のほうだよー。女ちゃんは?」

女「わたし遅刻してきたんだよね……最後列にいた。出席あった?」

唯「ないよー。レジュメもないよ」

女「そっかー!よかった」

唯(この女というやつは講義に出ても寝ているか電話をいじっているかだ)

唯(まあ私も講義中は板書を写すだけだし、頭の中では別なことを考えているのだから、人のことは言えないけどね)

唯(いちいち他人の短所をみつけてしまう自分が嫌だ)

女「ご飯食べた?」

唯「まだだよー」

女「じゃあ食堂行こうよ」

唯「食堂高いからわたし購買でカップ麺買ってくよ。先行ってて」

女「えー?カップ麺って美味しくなくない?」

唯(またはじまった……カップ麺批判……)

唯(私には大量に作りすぎて麺がのびきっている食堂のラーメンのほうがよっぽどまずいんだよ……)

唯(もちろんそんなことは言えないけれど)

唯「でも金欠だからさー。バイトしてないしさ」

女「唯も大変だねー。じゃあ食堂で席とって待ってるね」

唯「わかった!ありがとう」

唯(友達のいいところといえば面白いところだ)

唯(私にはユーモアというものがいささか欠如している)

唯(笑いをとろうとすると池沼呼ばわりされてしまうのだ)



食堂

女「この前さ、ノックなしで弟の部屋行ってみたらさー、ケータイ見ながら下半身丸出しなんだよー」

唯「えーそれ絶対あれやってたじゃん!」

女「そうそう、その後弟に問いただしたらさ、『間違っただけだよ』なんてさ」

女「何を間違えばそんな状態になるのかって話だよ」

唯「あははは」

女「食事中に何話してるんだろうね、私たち」




唯(家に帰ると学校にいるときより鬱屈した気分になる)

唯(なんなんだろう……)

唯(ろくに料理ができない私はチャーハンを食べる)

唯(チャーハンは誰が作ってもきっとうまいのだろう)



後日、学校にて

律「唯ー!久しぶりだな!今日私たちライブやるんだー」

澪「私たちは18時からなんだ。よかったら観に来てくれないか」

唯「久しぶり!りっちゃん、澪ちゃん!18時なら暇だから友達連れて行くよー」

澪「ありがとう。まあ、練習の時間あんまりなかったからグダグダかもしれないけどな」

律「たのむぞー」

唯(放課後ティータイムは別に解散したわけではなくて、ただサークルが優先されてるだけだ)

唯(確実に、サークルに入りたくなかったという私がわがままのせいでこうなっている)

唯(それでもりっちゃんたちはたまに声をかけてくれる)

唯(私から話しかけることはないけどね……)


17時50分、会館にて

女「次だね、唯の友達のバンド」

唯「なんかちょっとドキドキするよ」

女「どんなのやるんだろうね?」


澪「は、はじめまして……。だ、大学に入って初めてライブをやるので少し緊張しています……」

律「少しじゃねーだろ!」


客「ワハハハー」


ギター「それではさっそくいきまーす」

紬「きいてください」

♪♪♪♪♪♪♪♪

澪「ありがとうございましたー!!!」

客「パチパチパチパチ」

――――――――――――

唯「……」


女「○○○のコピーだったね……」

唯「正直大学生になってコピーはないよね……」

女「……」

唯「帰ろうか……」



唯の部屋

唯(まあたしかにサークル内でオリジナルは難しいのはわかるけど)

唯(みんな恥ずかしくないのかな……)

唯(みんなこんな程度だったのかな……)

唯(武道館とか言ってた頃のほうがマシだ……)

唯(……ギターの人は私より確実にうまかったな)

電話「ブルルルルッルルルルrrrrrr」

唯「あっ……澪ちゃんだ……」

唯「どうしよう……」

唯「出なきゃ……」

澪『もしもし。唯か?今日はきてくれてありがとな』

唯「いやいや、気にしなくていいよ!減るもんじゃないし」

澪『どうだった?』

唯「え」

澪『どうだった?』

唯「いやー良かったと思うよ。みんな上達してたね」

澪『……』

唯「澪ちゃん?」

澪『はっきり言っちゃってくれよ……』

唯「……」

澪『私はな、今日、緊張してて恥ずかしかったんじゃないんだ』

唯「え?」

澪『さすがの私でも、高校時代からあれだけライブをやったんだ。あがり症なんてある程度克服されてるよ』

唯「……」

澪『後ろめたかったんだ。あんなのロックじゃない』

唯「……」

澪『私、高校生の頃のほうがよかったよ』

唯「……」

澪『唯、お前がいないからだよ』



真夜中、ベッドの中

唯(他人の本音をきくのには体力がいる……)

唯(自分のやってることが後ろめたいくらいなら最初からやるなよ、と言いたかった)

唯(だけどそんな風に自分の未熟なところを改善できるようであれば、

  私はこんなひねくれたりしてないだろうなとも思う)

唯(澪ちゃんは私に期待してるのか?)

唯(寝る)



8月

唯(今は夏休みで、私は先月からはじめたバイトで忙しい)

唯(小児科の受付をしている)

唯(テストはテスト前にがんばれば余裕だった)

唯(夏休み、バイト以外の誰とも話してない)

唯(澪ちゃんともあれきり連絡をとっていない)

唯(あの調子だとサークルはやめたのだろうか?)

唯(おっと、気にしてはいけない。私には関係ない)

電話「ブーブーブー」

唯(メールだ。りっちゃんからだ)

「8月XX日にまたライブがあります。ぜひ来てください」

唯(……一斉送信だ。行きたくない……けど澪ちゃんはどうなったか気になる)

「わかりました」

唯(と、送信)



ライブの日

唯(サークルのコピバンのイベントのくせにこんなちゃんとしたライブハウスでやるのか)

唯(おっと、うらやましいなんておもってないよ)


受付「チケット見せてください」

唯「はい」

受付「ではドリンク代300円いただきます」

唯「はい」

―――――――――――――――

唯(客がいない……。スカスカだ……)

唯(りっちゃんたちはトップバッターだからそれみたら帰ろう)

唯(!?)

シャリーンシャリーン

ドコドコズンドコズンズン


唯(でてきた……)


ギター「こんにちは!って誰もいない!!!」

律「こら!ちゃんと観に来てくれたお客さんもいるんだからそんなこと言うな!」

紬「では、はじめま~す!」

律「ワンツー!」

♪♪♪♪♪

曲後MC

澪「えー、今日でわたしたちは二度目のライブになります」

澪「ではメンバー紹介でもしますか」

澪「まずは私の左にいるのが、ギター担当です」

ジャカジャカギャイーンぎゅーんばーん

澪「次に私の右にいるのがキーボードの琴吹紬です」

ポロポロポロロン♪ふぁ~ん♪

澪「ドラムス、律、田井中」

ドコドコドコドコズンドコズンドコズンズンズンドコドコドコダダダシャーン


澪「では、次の曲いきます」

律「澪ー……。自分のこと忘れてるぞ!」

澪「あっ!」




唯(私のネタじゃん……)


♪♪♪♪♪

律たちの時間は終わった

唯(澪ちゃん前はあんなこと言ってたのに……)

唯(今日ははしゃいでたな)

唯(まあ、いまどきの女子大生なんてこんなものだ)

唯(こんにゃくみたいにふにゃふにゃなんだ、意志が)


唯(ほんの僅かながら期待した私が馬鹿なんだ)

唯(コーヒーでも飲んで帰るか)


澪「唯、きてくれてありがとう」

唯「E?あ、うん」


澪「この後私たちは最後に片付けがあるんだけど、それまで暇なんだ」

唯「ほえー、大変だねー」

澪「ドラムとキーボードは需要高いから律とムギは他のバンドでもでるみたい」

唯「そうなんだ」

澪「時間つぶしにお茶でもいかないか?」

唯「私もコーヒーのみたかったんだ」



喫茶店にて

澪「唯、いきなりこんな話して悪いけどさ、この前私が電話したの覚えてるか?」

唯「おぼえてるよ」

澪「内容が内容だけに恥ずかしいな……」

唯「私は気にしてないよ」

澪「私な、外バン組もうと思うんだ」

唯「外バン?」

澪「サークルの外でバンド組もうと思うんだ」

唯「うん」

澪「唯、ギターはお前に頼んでいいかな」

唯「え」

澪「ギターまだ弾けるか?」

唯「まあ、たまに弾いてるけど……」

澪「曲は私がつくるから」

唯(どうしよう……。バンドはやりたいけど澪ちゃんは信用できない)

唯(もしバンドをやるとなれば、ギターの練習したり、曲を作ったり、

  マイスペース作ったりしてること澪ちゃんに言わなければならなくなる)

唯(内省的で気持ち悪い私のこんな裏の姿を澪ちゃんに教えていいのだろうか……)


唯「編成はどうするの?」

澪「スリーピースでいこうと思う」

唯「ドラムはどうするの?」

澪「軽音サークルから探しておくよ。便利だろ?」

唯「確かに!どんなバンドにするかとかもう考えてるの?」

澪「70年代のロンドン・パンクみたいに3コードでごり押しする感じがいいと思ってる」



唯(澪ちゃんが!?意外だ!!!!!驚いた!!!!びっくりした!!!!)

唯(私が好きな分野だ。どうしよう……)

唯(まあマイスペースのことはとりあえず内緒にしてやるだけやってみようかな)


唯「じゃあまず、スタジオに入って決めよう!」

澪「じゃあ来週にでも」


―――――――――――

このバンドはマンネリ化して終わった


唯(だいたいビートルズ至上主義とか、初期パンク至上主義の人って、頭が固くてつまらないんだ)

唯(そういう自分の趣味が洗練されてると思っているのだろう)

唯(『洗練された趣味の音楽聴いてる私って、洗練されてて高尚な感じで崇高な感じ!!!』

  とか思ってるんだろうね。だろうね)

唯(そういうやつに限って他人のきいてる音楽を馬鹿にしたりするんだ」

唯(こんな退屈なやつっていないよ)

唯(自我や自意識のこと、かっこいいとか思っちゃってるんだ。厨二病よりタチが悪い)



11月

女「○○○の新譜きいた?」

唯「うん。なかなかよかったよね」

女「え?ウソ?私はゴミだと思ったな……」

唯(またか……女ちゃんが新譜ほめてるとこみたことないや……)

唯(思えばどのバンドでも新譜が出るたび批判しまくってるな……)

唯(自分の感覚を疑うことはないのに……)



11月27日

唯(私は19歳になった)

唯(りっちゃんとムギちゃんからおめでとうってメールがきた)

唯(澪ちゃんからはこなかった)

唯(私はみんなの誕生日、覚えてすらいないや……)

唯(どうなってんだろ……。メモしとけばよかった……)


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