そういう経緯で手に入れたこのぬいぐるみ。

ちなみに事前に用意してあったプレゼント交換会用のヒゲ眼鏡は弟にあげた。

紬「本当にありがとう…。一生の宝物にするわ!」

律「ハハ…大げさだな」

ムギの喜びっぷりを見るとなんだかとても照れくさくなる。
ムギは高校のときからそうだ。いつも純粋で純真で…感情をストレートに表現する。
私はそんなムギの嬉しそうな顔を見て、とても幸せな気持ちになった。

紬「あっ、でもごめんなさい…私何も用意してなくて」

律「別にいいって。私へのプレゼントは、ムギの笑顔だけで十分だから」

紬「…///」

正直、ちょっとクサイと思った。けど本当のことだからしょうがない。
そしてしばらく二人でベンチに座ったまま、クリスマスツリーのイルミネーションの輝きを眺めていた。

広場には私たち以外にはもう誰もいなかった。

紬「タクシーもどこかいっちゃったね…」

律「ムギなら電話すればすぐに誰か来るんじゃないか?」

冗談めいた口調で言う。

紬「流石にみんな寝てるんじゃないかしら…」

律「そっか。ま、でもボウリング場は朝までやってるだろうし…始発まで待つのも手だな」

紬「そうね」

ヒュウ。急に風が吹いた。

律「うぉ、さむっ…。あれ?これって…」

ひざに付着した氷の粒に気付き、ふと空を見上げると…雪が降っていた。

律「すげー…」

紬「綺麗…」

光に照らされて降り注ぐ雪はキラキラと輝いていて、とても美しかった。

律「まさにスノークリスマス、だな」

紬「それをいうならホワイトクリスマス、ね」

律「そうともいう」

紬「そうとしか言わないって…ふふ」

律「しかしさみーなー…雪は綺麗だけど」

紬「こうすればあったかいよ。りっちゃん」

律「!?」

ムギは私の腕を取り、こちらへもたれかかってきた。

律「おいおい…」

顔が近い上に体もぴたっと密着しており、更にはムギの「女の子」の香りが私を困惑させる。
ドキドキドキ…心臓が高鳴る。なんで私はこんなに動揺してるんだろう?

紬「うふふ、私たちまるで恋人同士みたいね♪」

律「な、なにをいっているんだねムギくん」

紬「だって今日のりっちゃん…すごくカッコよかったよ?」

律「…///」

紬「知らないことも沢山教えてもらったし…もう思い残すことはありません」

律「またそんな大げさな…」

雪は止むことなく降り続いている。私たちは無言のまま、しばらくそのままでいた。

ムギの体温を感じる。とても暖かい。私は、このまま時間が止まればいいのに、と思った。

紬「…りっちゃん」

幸せな静寂の時間を破ったのはムギだった。
ムギは腕を放し、私と向き合った。

紬「伝えないといけないことがあるの」

律「?」

なんだろう、改まって。ムギは何だか真剣な表情をしている。

紬「実は私…4月からアメリカで暮らすの」

律「……へ?」

いきなりのことでなにを言ってるのかよく解らなかった。

紬「アメリカに行ったら…もうほとんど日本に戻ることはないと思う」

え?どういうことだ?

律「留学するのか?」

紬「いいえ、違うの。私の父は仕事の拠点を日本からアメリカへ移す計画を立てていて…
私は琴吹の家を継ぐためにアメリカへ行かないといけないの」

律「それって…どういうことだよ…」

紬「ごめんなさい…」

さっきまで暖かかった体が一気に冷たくなる。なのに頭の中はぐるぐると混乱し、熱を帯びている。

律「なんで…今まで言ってくれなかったんだよ!」

責める気持ちはないのについ強い口調になってしまう。

紬「ごめんね…怖くて言えなかった…」

それは解る。今までの関係が終わってしまうことを恐れているのは何よりムギ自身だ。
少なくとも私は、ムギが5人の中で一番メンバーの“つながり”を大切に思っていると感じている。
でも…急にそんなことを言われても、私にはどうすればいいか解らないよ。

律「うう…」

紬「りっちゃん…ごめんね」

私はほとんど涙目になり、ずっと下を向いていた。

紬「ほんとに、ほんとにごめんなさい…」ヒック

ムギはずっと謝っている。ムギは何も悪くないのに、私はかける言葉を見つけられない。

紬「ひっく、うえええええええええん…!」

ムギは泣いていた。その声は、誰も居ない広場で夜の帳を裂くように響いた。

律「泣くなよ…」

自分も泣いているくせに。

紬「だって、だって…。うえぇぇん」

律「私たち、もう二十歳なんだぜ?泣くなんてカッコ悪い…」

涙は止まらない。でも私はムギの泣く姿をこれ以上見たくなかった。
だから、本能的に体が動いた。

私は、ムギを思いきり抱きしめた。

紬「りっちゃん?」

律「ごめん、ムギ。一番つらいのはムギなのに…私なにやってんだ」

紬「…」

律「決まったことはもう…仕方ないと思う」

紬「りっちゃん…」

律「ただ一個だけ、ワガママを言ってもいいか?」

紬「なに?」

律「今はずっと…こうしていたい」

紬「いいよ、りっちゃんが望むならいつまでも」

律「ありがとう」

私たちはずっと…抱き合っていた。
雪が降り注ぎ、ツリーのイルミネーションが輝く幻想的な光景の中で、私たちはただ、抱き合っていた。


----気付けば、駅には明かりが灯っていた。始発の時間だろうか。

律「なぁムギ」

紬「なに、りっちゃん」

律「どんなに離れても、一緒だからな」

紬「なんか…カッコいいねそれ」

律「自分でもそう思った」

紬「なにそれ」

二人で小さく笑いあう。

律「どうせだし、これ合言葉にしようぜー」

紬「合言葉?」

律「そう。二人だけが知ってる秘密の言葉」

紬「わぁ。素敵ね」

律「ムギがアメリカ行く日に、私が合言葉ーっていうからさ。そしたら二人でさっきのを言うんだ。
たぶんみんな変な顔するだろうけど」

紬「でもすごくおもしろそう。じゃ、約束ね」

律「ああ、約束」

私たちは指きりを交わす。ムギの手はとても暖かかった。



-------そして月日は流れ…。
ムギが旅立つ日、空港のターミナル。

唯「うぇぇ、ざびじいよおおお」

梓「唯先輩、泣いてる場合じゃないです!ほら、ムギ先輩行っちゃいますよ!」

澪「向こうでも、元気でな」

律「幸運を祈る!」

紬「みんな、ありがとう…それじゃ」

ムギはスーツケースを手に歩いていく。そして私は。

律「ムーーーギーーーー!」

唯・澪・梓「?」

ムギが振り返る。だってこれは約束だから。

律「あ い こ と ば !!」

ムギはコクンと頷いた。せーの。

律・紬「どんなに離れても、一緒だから!!」

私たちは互いに微笑む。

律「はじけてこーい!」

紬「うん!!」

ムギは駆け出していった。私たちの知らない場所へと。
でも大丈夫、離れていても私たちは一緒なんだ。

梓「なんですか?今の」

澪「さあ?」

唯「ううう…おおお…」

澪「まだ泣いてるのか…」

律(ムギ…がんばれよ)

ムギが日本を去って以来、私たちはメールやチャットでやりとりをしている。

聡「姉ちゃんそろそろどいてくれよー」

律「うるへー!勉強でもしとけ!」

…弟のパソコンだからあまり長い時間はできないけど。

アメリカへ行った後、色々大変らしい。
向こうの英語はイギリス英語と違って聞き取りにくい、とか。
日本人なのに外国人と間違われる、とか。そらあの容姿だもんなぁ…。

この前はホットドッグ大会に出た時の画像が送られていた。
ずっと前に「私、ホットドッグ大会に出るのが夢だったの~」とか言ってたけど、本当にやるとは…恐るべし。
こうしてムギと会話をするのが今や私の大きな楽しみとなっている。

だってムギは私にとってとても大切な人だから。
これまでも、そして…これからも。

おしまい!