次にボールを選ぶ。私は9ポンドのボールを選んだ。
紬「ん~」ヒョイ
律「…」
紬「んー?これもダメね」ヒョイ
律「あのー…ムギさん?」
紬「これも軽すぎるわ…」ヒョイ
律「もしもーし」
ムギは色々な重さのボールを片っ端から持ち上げている。
普段から滅茶苦茶重いキーボードを軽々携えているムギにとってはどのボールもしっくりこないような気が。
紬「これもいまいち…あれ?これ以上のものはないのかしら」
律「確かそれが一番重かったはず」
紬「そうなの…すみません、これより重いのってありますか?15キロくらいのやつ」
店員「え?いやそれは」
律「店員さんを困らすなー!すいませんすいません」
そしていよいよゲームスタート。先攻は私だ。
律「ではとくと見よ!この田井中律必殺のスペシャル投法を!」
紬「キャー!りっちゃんかっこい~(必殺?)」
律「おりゃ!」
レーン真っ直ぐめがけて勢いよく投げた。途中少しコケそうになったのはさておき、
フォームはなかなか様になっている…と思う。がボールは無常にも左へ曲がり…。
スコーン
律「あれ?」
1ピンだけ倒れた。
律「おかしいな、ではもう一度!必殺スペシャール…」
ゴトン
ボールは美しい弧を描いて溝に落ちた。ガーター。
律「…」
紬「…」
律「ま、まぁこういう時もある!はい、次いってみよー次!」
紬「そ、そうね!えっとあの遠くにあるピンを全部倒したら勝ちなのよね?」
律「勝ちっていうか…とりあえず全部倒すのが一番ベストではある!」
紬「よぉし、がんばるぞ~」
16ポンド(一番重いやつ)をブンブンと振り回すムギさん。
あの、危ないのであんまり近くでやらないでください。
てか駅前の広場で見たあの神々しいまでの姿はどこに行ったんだろうか。
紬「琴吹紬、いきまーす!」
律「がんばれームギー」
紬「それっ!」
まるでソフトボールでもやってんのかと突っ込みたくなるフォームで投げられたボールは
左へ一直線に進んでいく。
その直後、聞いた事がないような音がしたと思ったら、ボールは溝を乗り越えて隣のレーンへ突っ込んでいった。
そして見事ピンが全部倒れた。
紬「」
律「」
紬「やったー!全部倒したわりっちゃん!」
律「…って隣のレーンのを倒してどーする!すいませんすいませ」
隣の人たちは唖然としていた。そりゃそうだろう。しかしなんという怪力、恐るべしムギ。
律「うーんまずはフォームからだな。腕はぐるぐる回さなくていいからさ、もっとこう…自然に」スッ
紬「こう?」グルッ
律「いや、こう。自然に振り下ろす感じ」スッ
紬「こうかしら?」グルグル
律「だーから回さんでいいっての!ちょっと貸してみ」
ムギの腕をとる。同時になんだかとても甘い香りがした。
シャンプーの様なチープなものではなく高貴さを連想させる芳香。
なんだこれは…ムギが放つフェロモンだろうか。私はムギに密着したまま恍惚に浸り思考を停止していると
紬「あの…りっちゃん?」
律「はひ?」
紬「なんだか恥ずかしいわ…」
律「おお、スマンスマン!いいかーボウリングで一番大事なのはフォームであって…」
危ない、これで本日二度目だ。気をつけなくては。
律「よし、では仕切り直しだ!幸運を祈る」
紬「琴吹紬、いきまーす!」
今度は教えたとおりのフォームで放たれた。ボールは凄い勢いで真っ直ぐ転がっていく。
おお…失礼かもしれないがとても女の子が投げたとは思えん。
そして次にはガコン!という大きな音と共にピンが全部吹っ飛んでいった。
律「すげー!ストライクだ!」
紬「りっちゃんのおかげよ!ありがとう」
イエーイ、とハイタッチを交わしたはいいものの、なんか機械の様子がおかしい。
ピンは回収されず、転がったままだ。嫌な予感がする。
律「すいませんすいません、本当にすいません」
紬「申し訳ありません…」
店員「いえいえ…」
どうやら勢いが強すぎて機械が故障したらしい。復旧には時間がかかるということなので私たちは違うレーンを使わせてもらうことにした。
律「…手加減の方よろしくお願いします、ムギさん」
紬「わかりました」
この後ゲームは順調に進んでいき、あっという間に2ゲームが終わった。
私は最初はガーターを出したものの、
その後スペアを結構取ったのでスコアは両方とも120を越えた。
一方ムギは…コツをつかむと途端にストライクを量産し、
2ゲーム目ではなんと200を越えた。そんなアホな。
本当に初めてなんだろうか、と私は思った。料金を払った後、受付を後にする。
携帯の時計を見る。時刻は夜の11時30分。
律「ムギは大丈夫なのか?あんまり遅いと親御さん心配するんじゃ」
紬「大丈夫よ。一応父には朝まで出かけるかもって伝えてるから…。駅前にはタクシーもあるし」
律「そっか、ならいいんだけど。じゃあ次は…これやろうぜー!」ビシッ
紬「卓球?あの修学旅行のときに旅館でやったやつね!」
律「懐かしいよなぁ。あの時ムギとは試合できなかったからさ。フフフ、私の腕前とくと見るがよい!」
そういうわけで今度は卓球をやることに。台の前で対峙する。まずは私からのサーブ。
律「くらえー!田井中律秘伝のミラクルサーブ!」ピンポン玉を高く放り上げ、そして…。
ブンッ。スカった。
律「…」
紬「…」
律「い、今のは無し!くらえ、普通のサーブ!」
紬(りっちゃんかわいい…)キュン
コンコン、と長いラリーが続く。卓球はパワーよりも反射神経がものをいうからムギはあまり得意じゃないと思ったけど。
律「…ムギ、なかなかやるな!」
紬「ええ、りっちゃんこそ!」
私が弾いた玉はムギの目の前で高く跳ね上がる。まずい、ムギにとっては絶好のチャンスだ。
紬「それーっ!」
強烈なスマッシュ。
律「ってうぉい!」
ノーバウンドでこちらへ飛んできた玉をなんとかかわす。玉はそのまま超高速で壁にぶつかった。
律「あのー…なんか割れてるんですが」
見るとピンポン玉は綺麗に二つに割れていた。
紬「え…なるべく強く弾き返したら点になるんじゃなかったかしら?」
律「どこのローカルルールだ、それはっ」ポカッ
紬「あいたっ」
思わずツッコミを入れてしまったけど、普通にこれは危ないと思うぞ、割とマジで。
その後きちんとしたルールを教え、私たちは卓球を楽しんだ。
そして私たちは場内で軽く食事を取った。
結局ファーストフードになってしまったけど、ムギは気にしていないようだった。
律「あ~面白かった。さーて、これからどうするかな」
紬「ねぇりっちゃん、駅前に戻らない?私もう一回あのツリーを見たいの」
律「そうだなー。体動かしてばっかりだと暑いし、ちょうどいいかも」
ボウリング場を出て駅前へ戻る。時計塔は既に0時45分を指している。
終電も終わったせいか、ほとんど人は居なかった。
待てよ…終電が出たら駅は閉まるよな。やばっ、まずい!
律「ごめんムギ、ちょっとベンチに座ってて!すぐ戻るから」
紬「え?うん…」
私は駅へ向かってダッシュする。見ると入り口では駅員がシャッターを閉める準備をしているではないか。
律「すいませーん!ちょっとだけ待ってください!」
駅員「?」
律「ロッカーに忘れ物しちゃって…すぐ終わりますんで!」
駅員「いいですよ、どうぞ」
律「恩に着ます!」ビシッ
私は急いでロッカーからある物を取り出した。
その後ムギのところへ戻る。
律「はぁ…ち、ちかれた…」
紬「大丈夫?」
律「オーケー、オーケー。ではムギ、これを受け取ってくれ」
私はベンチに腰を下ろし、持ってきた大きな箱を差し出す。
紬「これって…」
律「いいから。開けてみて」
紬「うん」
ムギがリボンの包装を解き、箱を開けると中から現れたのは大きなクマのぬいぐるみ。
紬「わぁ…///」
律「メリークリスマス、ムギ!」
紬「すっごくかわいい…。ありがとう、りっちゃん!」
律「どういたしまして。喜んでくれて何よりだよ」
実は今日、時間的にはもう昨日だけど、レストランへの電凸ラッシュをする一方で
ムギへのクリスマスプレゼントをギリギリまで選んでいた。
悩みに悩んだが、ムギに似合うようなかわいいものが良いと思ってぬいぐるみにした。
さかのぼること12時間ほど前-----------
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律『しかしぬいぐるみと言ってもどこで買おうか…お、あれは』
家の近くの表通りを歩いていて、偶然にも目に入ったのは一軒のアンティークショップ。
おもちゃ屋で買うのは少しチープな感じがするし、試しに入ってみようか。
律『こんちはー』
扉を開けると中は思ったよりも広く、中には家具やら絵画やら食器やら様々な物が陳列されていた。
店の主人『やぁ、いらっしゃい』
店の奥には白い髭をたくわえた初老の男性が椅子にもたれかかって座っていた。
律『すみません、ぬいぐるみって置いてありますか?』
主人『あるよ。需要があまりないから店の奥に何個か眠っているが…どんなぬいぐるみがいいんだい?』
律『えーっと…かわいらしい感じのやつ』
主人『そりゃまた抽象的だねぇ…とりあえず一度全部持って来ようか?』
律『お願いします』
5分後、店の主人が戻ってきた。
主人『待たせて悪いね。これで全部だ』
律『へぇー色々あるんですね…あ、これいいかも』
私はその中でも一番大きな、クマのぬいぐるみを手に取った。
主人『なかなかお目が高いね。このぬいぐるみはね、作った会社がなくなったから今はもう現存する数も限られている品なんだ』
律『そうなんですか。それにしてもかわいいな、…いくらぐらいするんですか?』
主人『そうだね…○○円くらいかな』
途端、私の体に電撃が走った。ぬいぐるみとは到底思えないような額だった。
だが私にはもはやそれ以外にはムギへのプレゼントとして考えられなかった。
律『…△△円くらいになったりは…しませんかね?』
主人『』
アンティークショップで値引きを頼む人はそういないと思う。でもどうしても欲しかった。
律『おねがいしますっ!』
主人『わかった、△△円でいいよ』
律『ありがとうございます!』
私は店の主人がサンタクロースのように思えた。白い髭のせいもあるけど。
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最終更新:2010年12月27日 22:17