梓『ひっく…ひっく…ぐすっ…』

紬『どうしたの?』

梓『ムギおねぇちゃん…いぬ、こわいよ…』ウルウル

紬『よしよし、いいこいいこ。もうなかないで。』ナデナデ

梓『うん…』

紬『わたしがあずさをまもってあげるから。だって、わたしはあずさの「おねえちゃん」だからね!』フンス

梓『おねえちゃん、おねえちゃん…!』

紬『うふふ…』

~~


梓「はっ…」

梓「夢…?」

梓「目が覚めちゃったな…」

梓「トイレでも行こうかな…?」ウトウト

~♪~♪

梓「ん、こんな時間に何の音だろ…?」

唯「ふんふんふーん…」~♪

梓「唯さん…?(練習してたんだ…)」コソリ

唯「あ、あずにゃん?」

梓「す、すいません!邪魔でしたか?」

唯「ううん全然。あずにゃんも一緒にやろうよ!」

梓「その…この間はすいません。酷いこと言ってしまって。こうやって陰で努力してることなんて全然知らないで…」シュン

唯「ううん、気にしてないよ。私も悪かったし。」

梓「よかった…今ギター持ってきますから、一緒にセッションしましょう!」

唯「うん!今夜は寝かさないぞ~子猫ちゃん!」ダキッ

梓「にゃっ!?」




夏休み半ば

憂「梓ちゃん、焼けたね…」

梓「うん、体質でさ…」

純「おはよ~!って誰?」

梓「ひどっ!」

純「冗談冗談。」

憂「軽音部の合宿に行ってきたんだって。」

純「にしちゃあすんごい焼けてるけど、もしかして楽しく遊んだりもしたの…?」

梓「うん、お父さんの知り合いの人の合宿場でね。」

純「あ~うらやましいうらやましい!」キーッ

憂「純ちゃんもジャズ研の合宿に行ったんでしょ?」

純「行ったよ!?行ったんだけどさ!厳しい先輩のせいで練習ばっかになって、ほとんど観光できなかったんだよ!」

憂「お疲れ様…」

梓「たしかジャズ研って競争率高いんでしょ?」

純「大人数だからね。ゆるゆるな軽音部がうらやましいよ…」ハァ

憂「純ちゃんもいつかは軽音部に入ってみない?ジャズ研と兼部でも構わないから…」

純「考えとく。」



学祭二度目!

律「いよいよだな…」

澪「怖くない、怖くない…」ブルブル

紬「今度は梓もステージの上にいるのね。」

梓「なんか不思議だね…」

唯「何とか間に合ったよ…」ゼェゼェ

さわ子「お疲れ様。」


ステージ

和「次は軽音部、放課後ティータイムによるバンド演奏です。」

唯「私たちは、放課後ティータイムです!ギターとボーカルの平沢唯です!」

澪「ベースの秋山澪です…」

律「部長でドラムの田井中律でっす!」

紬「キーボードの中野紬です。」

梓「サイドギターの中野梓です。」

唯「一曲目、行きまーす!」

律「1,2,3,4!」ジャジャーン


彼女たちの演奏は聴く者達の心を魅了した。
決して上手とは言えないが、彼女たちの心がこもったその演奏は人々を楽しませるには十分すぎるものだった。
彼女たちは一生懸命、そして心から楽しそうに自らの楽器を目いっぱい演奏した。


?「実に生き生きとしているな…」

?「む、あのキーボードの人…」

?「あの眉毛…間違いない。」

?「あのお方は…」



アメリカ某所

プルルル…

?『ん、電話か。』

斎藤『旦那さま、斎藤でございます。』

?『斎藤か。確か日本に出張中だったな。で、どうしたというのだ?』

斎藤『実は…』




中野家

紬「ごちそうさま~」

梓「お腹いっぱい!」

梓父「紬、梓。ちょっといいかな?」

梓「いいけど?」

梓父「大事な話があるんだ。」

梓母「落ち着いて聞いてちょうだい…」

紬「うん…」



梓「お姉ちゃんが…ほんとの子供じゃない…?」

紬「…」アゼン

梓「そんなまさか~エイプリルフールにはまだ早いよ?」ハハハ

梓父「いや、本当だ。」

梓母「ショックかもしれないけど、事実よ。」

梓「そんな、そんなことって…」

梓父「いつかは話さなければいけないと思っていた。そして、その時が来たんだ。」



17年前、とある山中

『日本に逃げればさすがにあいつらは追ってこないだろ?』ハアハア

『ああ、これで琴吹グループもおしまいだ。』ニヤリ

『ざまあみろ、俺たちをコケにした罰があたったんだよ!』ギャハハ

紬『あ~ん、あ~ん!』

『こいつ、どうする?』

『身代金も存分にふんだくったことだし、さっさと始末するか。』

『えっと、ナイフは…っと』ガサゴソ

『何をしている?』

『誰だ!』

『警察、とでも言っておこうか。』スッ

『聞かれたか!?生きて返すな!』

バキッ

『ぐえっ!』

『この子を貴様らの好きにはさせん!』

紬『えーん!!』

『くそっ、これでも食らえ!』スチャ

ダン!

『か…はっ!だが赤ん坊には手を出させん!』ダッ

『おい、飛び降りやがったぞ…?』

『追いかけるか?』

『いや、逃げた方がいい。どうせあいつもガキものたれ死ぬだろう。騒ぎを大きくしたらこっちがヤバいことになる。』

『そうだな…』スタスタ



梓父『そろそろ、子供が欲しいな…』

梓母『そうね…でもなかなかできないのよね…あ、あれ!』

『ううう…』

梓父『すごい血だ!』

『どうかこの子を…』バタッ

梓母『赤ん坊…?』

紬『うぇぇぇぇ!』

『』

梓父『大丈夫ですか!?…駄目だ。もう死んでいる。』

梓母『この子は私たちが育てましょう…』

~~


梓父「そして私たちは紬、お前を育てることにしたんだ。」

梓父「今思えばちゃんと親を探すべきだったかもしれない。でも子どもができなかった私たちはそのままお前を育ててしまった。」

梓母「今まで騙していて本当にごめんなさい。私たちはあなたの親なんかじゃないの。」

紬「そんなことない!!お父さんとお母さんは私の立派な両親よ!」

梓父「紬…」

紬「なんとなくだけど、わかってた。私はお父さんとお母さん、それに梓とはどこか違うんだって。」

梓「そんな、嘘でしょ、嘘なんでしょ!?」ポロポロ

梓母「それから一年たって梓が生まれたわね…」

梓父「お前は紬に本当に懐いていたね。まるで本当の姉妹のように…」

梓「違う!違う!ムギお姉ちゃんは私の本当のお姉ちゃんなんだよ!?」

梓母「梓…」


ブロロロ…

紬「車…?」

梓母「何で家の前に…?」

梓父「外に出てみよう。」

中野家の前には大きな一台のリムジンが止まっていた

梓母「…大きなリムジンね。」

梓父「あ、ドアが開いた。」


ガチャ

斎藤「失礼します。私は琴吹家の執事の斎藤というものでございます。」ペコリ

梓父「あ、はい。」

斎藤「紬様ですね?」

紬「はい?」

斎藤「私どもの主人が是非あなたにお会いしたいそうです。よろしければ、ご同行願えますか?」

梓「そんな…」

紬「きっとその人は私を生んでくれた人たち…わかりました、行きます。」

梓「え…!?」

梓父「後…私たちから頼みがあります。」

斎藤「頼み…ですか?」

梓父「紬をあなた方の家で育ててやってください。」

紬「へ?」

梓母「お願いします。どうかあの子を本来の居場所に帰してあげてください。」

梓「なんで!?」

斎藤「わかりました。旦那様や紬様とご相談して決めましょう…」

斎藤「では紬様、どうぞこちらに。」

紬「はい。」

ガチャ、ブロロロ…

梓父「…これでいいんだよ。」

梓母「…そうね。琴吹家があの子の本来の居場所ですもの。」

梓「…ううっ…」グスッ

梓「やだあっ!ムギお姉ちゃん、行っちゃやだぁ…!」ポロポロ

梓母「梓…」

梓「だって、だって!」

梓父「紬は本来の家庭に戻るべきだよ…」

梓「こんなの…私は認めない!」

憂「あの~お邪魔します。ってどうしたんですか?」ハテナ

梓「お姉ちゃんが…ムギお姉ちゃんがぁ…!!」

憂「梓ちゃん!?(もしかして、誘拐!?)」

憂「急いで知らせないと!」

プルルル…

憂「もしもし…お姉ちゃん!?」

唯「うい?」

憂「紬さんが…!」



琴吹家別荘

紬「すごい豪華なお屋敷…」

斎藤「これはつい最近購入なされた別荘です。旦那様が他でもないあなた様をお迎えするために。」

紬「私のために…?」

斎藤「そうですとも。」

紬「あの絵…男の人と女の人、それに赤ん坊…」

斎藤「これは、旦那様と奥方様ですな。」

紬「それじゃあ、この赤ん坊は…私?」

斎藤「その通りです。」



……

律「さわちゃん!もっとスピード出ないのかよ!?」

さわ子「もう十分出してるわよ!」

澪「ムギが乗ったのはどんな車なんだ?」

梓「黒の…リムジンです…」

澪「黒のリムジンらしい!」

律「あの前方のやつか…待ってろムギ!」

唯「どうしてムギちゃんはリムジンに乗って行っちゃったの?」

梓「…お姉ちゃん…お姉ちゃん…!」グスッ

唯「わかった。深くは聞かないよ。」


……

斎藤「こちらです。旦那様と奥方様がお待ちですよ。」

コンコン

斎藤「斎藤です。紬様をお連れいたしました。」

?「よし、入れ。」

ガチャ

ドアの向こうには優しそうな女性と、立派な眉毛の男性が席に腰かけていた。
紬は確信した。この人たちこそが私を産んでくれた正真正銘の本当の両親なのだと。

紬父「紬、か…」

紬母「本当に素晴らしい名前をもらったのね…」

紬「あ、あ…」

紬父「会いたかったぞ…わが娘よ!」

紬母「こっちにいらっしゃい。」

紬「お父さん、お母さん!」ギュッ

紬父「おーよしよし。」

紬母「本当に立派になって…」ウルウル

斎藤「(感動の再会…ですな。)」


……

澪「お願いします!中に入れてください!」

守衛「許可がないと、ちょっと難しいねぇ…」

律「こうなったら強行突破しかないか…」

さわ子「あまり騒ぎを大きくしないで…」

唯「私たち、怪しい者じゃありません!別に危険なものも持っていませんよ!」

梓「ムギお姉ちゃん…行かないで…」ポロポロ

律「友達が中にいるんです!」

守衛「仕方ないねぇ…その代わり、できるだけ大人しくしてね?」

唯「やったあ!」


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最終更新:2010年12月25日 01:43