冷たく乾いた空気の中を、私は歩く。

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冷たく乾いた空気の中を、私は歩く。
ゆっくりと、街や景色を眺めながら。

先輩達の卒業式が終わった。
やっぱりというか、私は泣いてしまって。

淋しさはある。
不安もある。
けれどもう、迷いはなかった。

先輩達からたくさんのモノをもらった。
今日贈ってもらった歌だけではなく、この2年間もらったたくさんのモノ。
それを大事に、大事にして。

私を待っているのは、“いままで”じゃなく、“これから”。

私もいつか、誰かにあげられたらいいな。
これから出来るかもしれない後輩・・・とか?

先輩達との別れは、“さよなら”ではなく“またね”だった。

桜高軽音部としての活動を終え、ひとつ区切りのついた私達HTT。
けれど、唯先輩とはまだ・・・。

私は小さく身を震わせる。
春はまだ少し、遠い。


「ふぅ・・・」
白い息が目の前に広がり、消えていく。
昼間はまだ暖かいものの、夕方になるとやはり少し冷え込んだ。

私は1人、近所の河原へと向かっている。
唯先輩と待ち合わせがあるのだ。
卒業式が終わって一度帰宅し、少し暖まってから家を出た。

それにしても。
私は、マフラーに顔を埋めて考える。
唯先輩から呼び出されたかたちなのだけれど、一体何だろう。
見当がつかない上に、唯先輩の考えている事なんて、到底わかるはずもない。

もしかしたら、この前言っていた“もう1つのサプライズ”なのだろうか。
唯先輩は前に、卒業式の日に2つのサプライズがあると言っていた。
1つは先輩達からの歌の贈り物でしょ?
もう1つは・・・。
唯先輩からもらった写真とかは、ちょっと違う、のかな。
今のところ、それらしいものはなかった気がした。

まぁ何にせよ、私にとっては好都合だったりする。
今日は私も、唯先輩にサプライズがあるのだから。



「もう少しで着いちゃう・・・。」
少しずつ、心臓の胸を打つ音が強くなっていく。
唯先輩驚くかな。
驚く・・・よね・・・。
これからのHTTにだって、きっと大きく影響してくる。
でも、私は諦めたくない。
後悔なんか、したくなかった。

「ああ、もう・・・。」
待ち合わせの場所が見えてきた。
唯先輩と2人で演芸大会の練習をした、思い出の場所。
けれどここまで来て、やっぱり私は怖じ気づいてしまう。
思わず足を止めてしまった。
どうしよう。
寒さなんて感じないくらい、体が熱い。
手の震えが、止まらない。
「うううっ。い、居るし・・・。」
よく見ると、もうすでに唯先輩の姿があった。
私は着替えてきたのだけれど、唯先輩は何故か制服のまま。
「やばい。やばいやばいやばい・・・。」
心臓がなんかすごいことにっ・・・!

でも。

決めたんだ。
言うって。
これからを頑張るんだって。
例えダメだったとしても、向き合う事が出来たなら。
私は、進んでいける気がするから。
だから・・・。

私は深呼吸をした。
ぐっと力を入れ、手の震えを抑え込む。

そして、歩き出そうとしたその瞬間。


「好きですっ!!」


「・・・・・・へ?」
唯先輩の声に、私はフリーズした。
す、好き?
一体何を・・・。



「うーん・・・なんかちょっと違うかなぁ。勢いつければいいってもんじゃないし・・・。」
唯先輩は、どうやら私には気付いていないらしく、一人でぶつぶつと何か言っている。
「ずっと前から好きでした!!」
また、唯先輩が叫ぶ。
「・・・これじゃあさっきと変わらないよね。」
唸る唯先輩。
「・・・・・・。」
「あずにゃんが思わずうるっとくるような、なんかそんなん無いかな・・・。」
え!?わ、私ぃ!?
「あずにゃ・・・ううん、梓、キミの瞳に完敗だよ。」
「・・・・・・。」
ええー・・・?
「いや、ないない。これはないよね・・・。やっぱ歌かなぁ?でもギー太忘れたし・・・。」
「よし!ここはズドーンとストレートに!」
「私、あずにゃんの事好きだよ。・・・なんて・・・。へへ・・・うわぁ恥ずかしい!」
「・・・・・・。」
「う~ん・・・。でもやっぱり、一番最初に考えたのがいいかな?」
「・・・・・・。」
「・・・ってああっ!もうこんな時間!どうしよ!そろそろあずにゃん来ちゃうよね!?」
唯先輩は頭を抱えた。

そして。
「ああもう、なんて言えば・・・あっ。」
「あっ。」

私と唯先輩との視線がぶつかる。

「「・・・・・・。」」
あまりの事に言葉も出ない私達。

すると。呆然と立ち尽くす中、突如。
遠目にもわかるくらい、唯先輩の顔がみるみる赤くなっていった。
「あ、あず、あずにゃ・・・」
ついにはぼんっという音を立てて、唯先輩の頭がショートする。
唯先輩は、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「ゆ、唯先輩!?」
私は慌てて、唯先輩に駆け寄った。

「あ、あの、唯先輩?」
呼び掛けると、唯先輩の肩がぴくりと動く。
けれど俯いたまま、顔を上げようとはしない。
「い、いつから・・・?」
「へ?」
「・・・いつからいたの?」
「あっえと~・・・少し、前から。」
「・・・どこから、聞いてた?」
「あの、それは・・・。」
「・・・・・・。」
ああ、沈黙が重い。

「あ、あ、あ・・・」
「・・・え?」
「あずにゃんの馬鹿あぁぁぁ!!居たんなら声掛けてよおぉぉぉ!!」
唯先輩が涙目の顔を上げた。
「なっ!?だ、だって!声掛けられる雰囲気じゃなかったじゃないですか!!」
悪いの私ですか!?
「でも、だって、そんなっ・・・。・・・ああっ!!」
両手で顔を覆い、唯先輩はまた下を向いてしまう。



「・・・あの、唯先輩・・・?」
声を掛けても、唯先輩はうんともすんとも言わない。
しばらく返答がなく、私が困っていると。

「すき。」
唯先輩が呟いた。

「へ?」

「私、あずにゃんのことがすき。」
とくりと、胸が鳴る。

「・・・唯先輩・・・。」

「これがもういっこのサプライズでした~。・・・なんちて。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・ごめん。」

「私、あずにゃんのことがすきだよ。」

「だから、一緒にいたい。」

座り込んでて、涙目で。
ちょっぴり情けないはずなのに。
けれど強く、真っ直ぐと、唯先輩は私を見つめる。

ああ、もう。
私の緊張なんて、はるか彼方に吹き飛んでいってしまった。
今まで悩んでたことも、苦しかった事も、全部まとめて。

私はしゃがみ込んで、唯先輩と目線を合わせた。
一瞬の不安が、唯先輩の瞳を揺らす。

ふと、私は思った。
今の私は、唯先輩の目にはどんな風に映っているんだろう?

「なら、一緒にいましょうか。」

「ほえ?」
唯先輩のぽかんとした顔と、間の抜けた声。
思わず笑みがこぼれた。

「奇遇ですね。私も今日は、唯先輩と同じ事を伝えようと思ってたんです。」

「・・・え?え?」
もう、鈍感・・・。

「私は、唯先輩のことがすきです。」

カッコ悪いったらない。
唯先輩はへたり込んでて、私はその前にちょこんと座り込んで。
すごく間抜けだし、こんな告白、ほんとカッコ悪過ぎる。
もっとちゃんとしたかったのにな。

けれど、そんな事なんてどうでもよくなるくらい。

私の心は満たされてしまった。



見開かれた唯先輩の瞳が、きらきらと輝きを取り戻していく。
「あずにゃーーーんっ!!」
そして案の定、私は思いっきり唯先輩に抱きしめられた。
「ちょっ、唯先輩っ!苦しいですよっ・・・!」
「だっで・・・だっでぇ!!」
グシグシと鼻を啜る唯先輩の背に、手を回す。
「すき!あずにゃんの事がだいすきだよ!」
「あ、あんまり大きな声出さないで下さい。恥ずかしいじゃないですか・・・。」
「あのね、私ね・・・。」
「はい。」
「あずにゃんと一緒にいたい。」
「はい。」
「高校卒業しても、大学卒業しても、おばさんになって、ギー太も持てないくらいよぼよ
ぼのおばあさんになっても。」

「あずにゃんと一緒にいたいよ。」

ほんと、唯先輩には敵わない。
私の考えなんて、いつでも軽く飛び越えていってしまう。
いつも人のこと振り回して、ドジっ子で、天然で、だらしなくて。
でも真っ直ぐで、優しくて。
その手も、柔らかい声も笑顔も全部。

いつだって、私の心をあったかくしてくれる。

「唯先輩。」

「・・・それ告白じゃないです。」
「ええ!!?」


それもう、プロポーズみたいじゃないですか・・・。


たくさんもらった唯先輩の気持ちと言葉が、入りきらずに溢れてくる。
笑いながら泣いてしまった私を、唯先輩はまた、優しく抱きしめてくれた。



「あずにゃんって鈍感だよね。」
オレンジ色の中を、2人並んで歩いていると。
「え゛。」
思いっきり心外な事を、この人にだけは言われたくないって人に言われてしまった。
「だって、私あんなに頑張ってたのに、全然気付いてくれなかったでしょー。」
繋いだ手をぶんぶんと振り回し、唯先輩が文句を言う。
「そ、それは、だって、唯先輩みんなにそうだし、気付くはずないじゃないですかっ。」
いろんな人に抱きついたり、あまつさえ頬っぺたにキスしたりするし!
「えー?でも、あずにゃんは違うよぉ。あずにゃんは特別だもん。」
「うぐ・・・。」
そんな言い方、卑怯です。
「ゆ、唯先輩こそ、私の気持ちに気付かなかったくせに・・・。」
「だってぇ、あずにゃん私が抱きつくと嫌がったりしてたし、わかんないよぉ。」
「うう・・・それは・・・。」
だって、恥ずかしいし、ちょっと複雑っていうか・・・。
「・・・唯先輩には、乙女心はわかんないです。」
「!!私も乙女なのに!?」



「・・・でも、こんなことならもっと早く言えばよかったかな~。」
「・・・告白、ですか?」
「うん。そうすれば、もっとも~っと一緒にいれたかもしれない。」
「・・・そう、かもしれませんね。・・・でも。」
「んん?」
「これで、良かったのかもしれません。・・・早過ぎてもダメで、遅過ぎてもダメだっ
たのかもしれません。」

「これが私達の、一番いいタイミングだったのかもしれませんよ。」

「・・・おおっ!あずにゃんなんかカッコいい!!」
「・・・何ですかそれ。」
あなたが教えてくれたことですよ?
いつだって前を向いて、“今”を精一杯楽しんでいる、あなたが教えてくれたことです。
いっぱい泣いて、いっぱい後悔して、けどだからこそ“今”があって・・・
目の前には、未来がある。

「春から私も大学生か~。あずにゃんとちょっと離れちゃうから、淋しいよぉ。せっかく
恋人同士になれたのに~。」
「・・・こい、びと・・・。」
「・・・あずにゃんは淋しくない?」
「そ、それは、淋しいですけど・・・。」
「顔赤いね。」
「うっ。」
「テレてる?」
「もう!またすぐそういう事をっ!」
「えへへ、ごめんごめん。だって可愛いんだもん。」
「しりません!・・・そ、それにっ、さっきの唯先輩ほどじゃないもんっ。」
「ああっ!!その話は堪忍してぇ!!」

「あずにゃん、こっちに遊びに来てね。私も、行くからね。」
「・・・はい。」
「でも、スタジオとかでも会えるよね~。」
「楽しみです。練習さぼっちゃダメですよ。」
「うう、わかってるよぉ。」
「どうだか。」
「電話もメールもいっぱいするからね。」
「・・・はい。私も、します。」
「その前に、春休みにどこか遊び行こう。」
「遊園地とかですか?それとも映画とか?」
「おお!それいいね~!」
「全然考えてなかった・・・。」
「そんで、そんでね――――――」

ちょっとかたちを変えた私達HTTと。
ちょっとかたちを変えた、私と唯先輩の関係。

春はもう、すぐそこだ。


おわり


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