【貴方なしでは】依存スレッド7【生きられない】
- 1 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/14(金) 17:51:50 ID:Fh+Ii3d2]
- ・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!
エロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/
前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド6【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1256917745/
- 2 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/14(金) 18:30:32 ID:YxygTXwW]
- 乙&感謝
- 3 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/14(金) 18:57:03 ID:txFrC4Eo]
- 乙
- 4 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/15(土) 15:28:27 ID:zKEbskCJ]
- 一乙
- 5 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/16(日) 09:05:01 ID:5udjcrCs]
- >>1乙
- 6 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:01:27 ID:5K+foflA]
- 前スレ<<665だけど続きが出来たから投下するよ。
誤記脱字あるかもしれないけど許してね。
酷評、感想望むところなんでお願いします。
- 7 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:04:07 ID:5K+foflA]
- 俺が優香に付き合い始めた日から一ヶ月がたった。
優香の立場はあれから下がりもせず、もちろん上がりもしないで
ただ誰もが無視するように他人事のように彼女に接していた。
彼女はそれでも引きつった笑顔を絶やさずに、伺うような顔で周囲と話をする。
俺はというと自分の仕事をしながら、哀れな優香の姿を愛しく見つめている。
ほんの少し前が嘘のように彼女は変わり果てていた。
「はっ……あっ……いいよ〜」
くぐもった高い声で優香が俺の身体の下で喘ぐ。
付き合った日から三日と開けずに俺と優香はこうやって身体を合わせている。
最近になってやっと破瓜の痛みが抜けて、こなれてきたようで少しずつだが色っぽく
薄桃色に肌を染めて声を上げるようになった。
愛する二人の営み……常套句をつければそんな言葉が浮かんでくるが、あいにく二人に
とって……いや少なくとも俺にとってはセックスそれ自体には高尚な意味など持っていない。
もちろん歳相応に性欲はあるので、性欲処理という部分もあるが、俺の下
でまるで媚びるような表情で受け入れる優香を見ることが俺にとってのセックスの大部分
の目的なのだ。
慣れない快楽と他の人間のように俺に拒絶されることを恐れる感情がない混ぜになった表情。
おずおずと、でも離れないようにしっかりと背中に回された両腕の締め付けと拒否されることを
恐れて緩められる腕の力、それを繰り返しながらも彼女自身は貪欲に俺のモノを包み込んでいる。
- 8 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:06:09 ID:5K+foflA]
- 全身で矛盾と葛藤を表現する優香の姿が俺の背中に走る電気じみた快楽と頭をしびれさせる高揚感を味わせてくれる。
きっとこれ以上の快感を味わうことなんてできないだろう。
いま俺は最高に幸せだ。幸福だ。満ち足りた世界をいま全身で味わっている。
「あ……あ……きょう君……ああ……ん……」
優香の声が一層高くなる。 精神とは対照的な肉体の素直な快楽を登りつめる音声。
それを合図に体勢を変えて、優子の柔らかなぬくもりを感じる部分をすでに挿入している俺自身のモノの角度を変える。
「ふあっ!……いやあ……ああっ!」
先ほどまでは殆ど動かさずゆっくりと味わわせていたモノを乱暴にかつ遠慮なしに全身を使って動かす。
そのたびに優香が跳ねるように上体を動かして口をだらしなく開き悦楽の声を上げる。
自身の意思とは無関係に出るそれが恥ずかしいようで口を手で覆って出ないようにするのを予測し、俺は彼女の両手首を持ち
それを支えにしてさらに激しく優香を攻め立てる。
「い……ああっ!……だ……」
俺の行動の意味を理解しているのかはわからないが優香は「嫌だ」とは決して言えない。
言える筈がない。何故なら俺しかいないのだから……彼女には。
やがて優香がここ何回かでやっとたどり着くことの出来る終点が近いようで、さらに
彼女の全身が染まり、うっすらと汗がにじみ始めてくる。
- 9 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:09:32 ID:5K+foflA]
- 俺の方は市販の安い厚いゴムをしているせいかまだ達することは無い。
子供なんか欲しくなんてない、欲しいのは優香一人だけでいいから……
心をボロボロに折られた優香だけが俺はただ欲しいんだ。
「ああっ、ああああっ!きょう君!あい……し……んん!」
優香が手首を掴んでいた俺の手を振りほどいて口を押さえつける。
「愛してる」なんてとても言えないんだろう。もしそれを言って拒絶されたら?
きっと優香は生きていくことが出来ないだろう。俺がそうなるように仕向けた
以上に優香は俺の期待を超えた反応を見せてくれている。
幼馴染で恋人で現在唯一の存在である俺にも言えない、言うことの出来ない
「愛している」という言葉を発しないように無理やり抑えつけてまで努力している優香が
俺の計画でどんなに傷つけられていたかが理解できてますます興奮し、愛おしくなった。
ただこれだけじゃ駄目だ!最後の仕上げが待っている。ここまで90%達成しているが最後の
それが無ければ意味が無い。セックスをする意味が無い。
「きょう……くん……あああああっ!…………あっ……ああ……んんん…………」
やがて達したのか優香の全身から力が抜けてベッドの上にぱさりと腕が落ちる音がする。
俺自身もいつの間にか達したようで彼女の中でビクビクとして放出している。
「……ああ……出てる……ビクビク……」
うわ言のようにぼんやりとした瞳をする優香に俺は優しくキスをする。
全身を火照らせた彼女の身体は熱い。唇も同じように熱くなっている。互いの唇と唇が触れ合った
瞬間の優香の瞳の中は誰かに見捨てられるような恐怖と媚びは一切無く、全てが剥き出された
彼女自身がうつっている。ただただ虚ろな瞳をした優香、瀬能優香という感情が
剥がれた素の姿も俺は愛おしく思っているのだ。
ここまででやっと99%まで到達したことを理解する。最後の一%はわからないが、今はこれで…満足…だ、俺は…。
そのまま疲れきって彼女の横に身体を落として俺は眠りこける。右腕に優香の腕が絡みつくのを感じながら……。
- 10 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:11:46 ID:5K+foflA]
- 休日の朝、予想外のことが起きて我ながら少し狼狽してしまった。
俺は演劇部で使用するための道具を整理するため、他の部員よりも早めに
道具室を訪れていた。かつての優香と違い、俺は裏方が主な仕事であり、道具の整理という
面倒なことを任されるほどに不器用だった。
それを顧問から任された日の放課後、優香は手伝いたそうな素振りをしていたが、先んじて
俺が一人でやるから大丈夫と言って、来るのを禁止していた。
学校内では優香と必要以上の接触はしないようにしている。何故ならそれが原因でうっかり優香の立場が
少しでも上がってしまうのを防ぐためだ。元々、他人に好かれやすく、急激に下がるということは上がるときも
急激な可能性がある。ほんの少しでも優香の位置が元に戻るのを防ぐための当然の措置だった。
もちろんそんな本音は言わず、適当にごまかしておいたが、優香は悲しそうな表情を浮かべて
「うん……わかった」とだけつぶやいた。
その姿はすごく美しかった。
「あの……聞いてる……かな?」
三郷さんの問いかけに気づいて俺は現実に戻ってくる。
「ああ……それでなんだっけ?」
先ほどの言葉をもう一度聞き返す。
彼女は赤い顔をして優香とはまた違う可愛らしさで、
「だから……好きなの、近藤君のことが……」
モジモジとしながらはっきりと俺のことが好きだと言ってくる。
「そう……」
無感動に返事をした。彼女は俺の答えを聞かずに自分がどうして俺のことが好きになったのかを
聞いてもいないのに語ってくれた。
ぶっきらぼうに見えるけど優しいところとか、他の男の子と違って常に色々なことを考えて
作業しているところとか……。
要するにそういうところで俺を好きになったらしい。正直どうでもいいことだった。
確かに顔はそこそこ可愛いし、性格も悪くない。優香ほどにでもないがそれなりに他人に好かれる子だ。
ただ残念ながら俺は興味が無い。なぜ無いかといえば、うまく言えないが彼女が瀬能優香ではない
と言うことだけだろう。
どうやって告白を断ろうかと考えていると、ある事に気がつき俺は一つ思いついた。
もしかしたらもっと面白いことになるかもしれないという期待を混めて俺は三郷さんに答えを返す。
「告白、本当に嬉しいよ……実は俺も三郷さんのこと良いなと思ってたんだよね」
- 11 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:12:45 ID:5K+foflA]
- 三郷さんの告白から一週間後、俺は演劇部の部室内の掃除用具ロッカーに隠れている。
あの告白の時に感じた期待は予想以上に実っている。今日はそれを回収する日なのだ。
胸が強く高鳴って、しびれるように股間は屹立している。
音を立てないようにすでに二時間待っているが、必ず今日やってくるはずだ。
そしてその予想は当たる。部室の扉が不自然にゆっくりと開く、まるで盗人が開けたように。
そして扉を開いた人間はゆっくりとでも慎重にあたりの様子を探りながら、ある人物の荷物
の前で何かをしている。
ここからでは何をしているのかはわからないが、予想はできたので俺は乱暴にロッカーの扉を
内側から開けて飛び出す。人物はビクっとした仕草で振り返り、出てきた人物が俺だとわかり、明らかに狼狽していた。
「そこで何をしていたんだい?優香」
俺の問いかけに大きな瞳をまん丸に開いて、彼女は
「う、ううん……なんでもないよ?京君」
手を後ろに隠した優香の隙をついて持っているものを奪う
それは一枚の紙だった。そしてその紙には新聞の字を切り抜いて文字が張られていた
ある人物の誹謗中傷の文字が。
「これはどういうことだい?」
- 12 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:20:42 ID:5K+foflA]
- あくまで優しく俺は問いかける。
「うう……ああ……グスッ……ヒック……」
とうとう泣き始める優香に、
「泣いてちゃわからないだろ!」
語尾を強めてさらに強く問いかける。
そこで観念したのか
「ご、ごめんなさい……でも……わたし……わたし……」
泣きじゃくる優香を優しく抱きしめながら、諭すようにゆっくりと聞き出していく。
「だ、だって……京君が……三郷さんに…グス…好きだって……言われてるのを聞いちゃって
……私……あの時……あの場に居て…ヒック…聞いちゃったの……」
知ってるよ、あの時こちらから道具室の扉から一瞬優香が顔を出すのが見えたから。
「きょ…京君が…告…白…ヒック…断らなかったから……三郷さんと……のこと……
良いなと思ってたって…言ってたから…」
要領を得ない優香の言葉の意味を俺は十二分に判っている。そう、こういうことになるのを期待して
俺は三郷さんの告白を断らなかったんだ。
「わ、わたし…京君に…捨てられちゃう……んだと……思ったら…怖くて…だって私には…
京君しか…いないから…だから…だから」
泣き顔ですっかり崩れてしまっている優香を黙り込んで真剣に見つめながら、俺は快楽でこの場で
のた打ち回りたかった。 ああやっと見つけた最後の一%
「それで…これをやろうとしたのか?」
- 13 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:23:20 ID:5K+foflA]
- ビクリと跳ねて、次いで絶望を浮かべた泣き顔をする優香…ああなんて美しいんだ。
紙に張られている文字を指先をつけて読みあげる。
「ふうん…近藤恭介はレイプ魔か」
「ち、違うの…これは…」
言い逃れできない状況ですがりつく優香を前にして無表情を維持するのが大変だ。
「どうして三郷さんじゃなくて俺だったんだ?」
声が上ずるのをなんとか抑え、低い声で質問をする。
「だ、だって…三郷さん…を…書いても…京君は…こんなこと…信じないだろうし…」
そう、俺の体内で歓喜が走り回っている理由はこれだ。
つまりなぜ三郷さんではなく俺を選んだか?
「俺…なら…他の人間が…信じる…と思ったのか?」
「…………コクッ……」
子供のようにコックリと頷いたところで我慢が出来なくなってしまう。
「ふふっ…ふふふふ…ふふはははははは」
今まで抑えていたそれが噴出して、留めることができない。
歓喜、快感、狂喜、ありとあらゆるプラスな感覚が俺の体内と脳内でぶつかり合う。
そうだ!これが最後だったんだ!欠けた1ピース…最後の一%!これこそが完璧な最後の望み
だったんだ。
「京君…?ごめんね…わたし、馬鹿だから…京君しかいないから…許して…ううん許してください、
私を許してください!お願い!許して!」
笑い転げながら、命乞いをするように土下座するようにすがりつく優香を力強く抱きしめる。
そうだ!うっかり自分だけ楽しんでしまった。最後まできっちりとやらないと!
「許すも許さないもあるもんか!優香みたいな駄目な女の子俺が見捨てるわけないだろ?」
「本当に?本当に許してくれるの?優香を?」
卑屈と歓喜の入り混じった顔で俺を上目遣いで見る優香、計算して自分がもっとも可愛いと思える
角度にしているのが見て取れて再度俺は大笑いした。
そうだ優香は今日この日になってやっと俺のところへ落ちてきたんだ。今までは運悪く落とされただけ
彼女の内面はまだあの綺麗な蝶のままだった。だけど今日、優香は俺を陥れようと行動した。
こんな稚拙な脅迫文を外見のように綺麗だった心を汚してでも、俺という唯一の存在を自分と同じように
嫌われ者の仲間にしようと足を引っ張ったんだ!
それは何のため? 俺と一緒さ!俺が優香という美しい蝶を空から落とすために卑劣な策を弄したように、
優香も俺が自身から離れて行かないために自分の降り立つ穴に引きずり込もうとした。俺と優香はたった今、
同じ人間になった。
この記念すべき日に俺は笑う。全てに感謝するように大笑いする。優香も許されたのがほっとしたのか追従
するように笑う。でも控え目に、下品にならないように……自身が俺から嫌われるのを避けるための計算づくな
その笑い方……愛しくなる。
「愛してね?瀬能優香はもう京君以外にしか愛されないの。こんな最低な私を愛してね」
最後は懇願するような優香に俺は誓うようにキスをする。
「ああ約束するよ、優香みたいな最低な人間を愛せるのは俺くらいなもんさ」
そして俺を愛せるのも優香だけなのさ。
心中でつぶやきながら俺はもう一度優香と口付けを交わした。
- 14 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 02:25:29 ID:5K+foflA]
- 途中で主人公の名前の漢字が間違ってることに
いま気づいた。
前回エロが少なかったから入れてみました。
でもやっぱりエロ書くと自分の性癖が出るね。
とりあえず寝ます。
おやすみなさい
- 15 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 03:13:51 ID:4ffmKQsH]
- おつ!
面白かったです
「京君以外にしか」じゃなくて「京君以外には」では?と思った
- 16 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 04:24:16 ID:0NRoUu9S]
- すごく下種だけど好みすぎて困る。こういうのいいよね。
- 17 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 08:13:23 ID:QQEdeFjj]
- 人としでダメな感じするけど良いと思ってしまう
- 18 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 09:07:17 ID:lIwfMQjs]
- ディモールト良い。お互いに依存し合ってるとこうなるのか
- 19 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/17(月) 19:59:36 ID:yGMkqepZ]
- こういうの好きだなぁ
- 20 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/17(月) 23:44:07 ID:Bozk4w1L]
- 良いぞ良いぞ
- 21 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:14:22 ID:4XTeLIDV]
- 相互依存でございます。エロはまだありませんが、お許しを。
【あすかとマリア】
「ずいぶん上手くなったな……あすか」
「ふふっ……そういうマリアだって…」
学校の屋上でボクとマリアは深いキスをした後、クスリと笑う。
ボクの名前は五月女あすか。身長が155cmにも満たず、はたから見れば女の子の様な外見をしている事にちょっとコンプレックスを抱いている。
「それにしても今日も良い天気だな…なぁ、あすか?」
そう言って静かに笑っている彼女は二階堂マリア。小麦色の肌に金色の髪の毛、175cmを越える身長に大きな胸の持ち主の外国人のハーフだ。
身長差が20cm以上もあるボクと彼女は他の人から見れば、まるで親と子の様に見えるだろう。
「あすか、今日も一緒に帰れないのか?」
「うん……ちょっと先生に呼ばれてさ……ごめんねマリア」
「そうか………残念だな」
ボクの話を聞いたマリアはシュンとした様子でガックリと肩を落とす。
普段はムスッとしていて周囲の人達から恐がられているマリアだが、ボクといる時だけは笑顔を見せてくれる。
そんなボクも―――マリアにだけは笑顔を見せる事ができる。
「あすか、そろそろ昼休みも終わる。…いこう」
マリアはゆっくりと立ち上がり、ボクの手をギュッと握りしめる。
「分かったよマリア」
ボクも微笑みを見せながらマリアの手を握り返す。
ボクにとってマリアは孤独の暗闇の中で見つけた、たった一つの光。
マリアに出会わなければきっとボクは―――。
ボクはずっと一人ぼっちだった。苦しくて悲しくて辛くてどうしようもなかった。
ボクには4才年上の兄さんがいた。兄さんは何でも出来て、頭も良くて、とびきり優秀だった。
お母さんもお父さんもお姉ちゃんもそんな兄さんの事ばっかり見てて、ボクの話なんて聞いてくれなかった。
でも、それは仕方なかったんだ。
だってボクは、兄さんと違って何をやっても駄目な人間だったから。
『なんでお兄ちゃんの様に出来ないの』
『お兄ちゃんだって出来るんだから、あすかも頑張りなさい』
お母さんと父さんの口から出るのはいつもそんな事ばかり。
ずっと兄さんと比べられて、ボクの事を誉める事も優しくする事もしてくれなかった。
お姉ちゃんもボクに頑張ってと言うだけで話を聞いてくれない。
―――ボクは家族の中で孤立していたんだ。
- 22 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:15:28 ID:4XTeLIDV]
- でも、そんなボクに兄さんだけは優しくしてくれた。
いつもボクの事を心配してくれて、いつもボクの事を守ってくれた。
ボクはそんな兄さんが大好きだった。兄さんのお陰でボクはまだ大丈夫だったんだ。
でも、4年前の兄さんの誕生日に兄さんは―――死んでしまった。
いや、ボクが殺してしまったんだ、ボクのせいで兄さんは――。
その日、ボクは兄さんへのプレゼントを買うために一人デパートに行っていた。
大好きな兄さんが喜ぶ顔が見たくてプレゼントを一生懸命に探していた。
だからこそ、デパートで大きな火事が起こっていた事に気がつく事が出来なかった。
気が付いた時にはボクは炎の中で孤立してしまっていた。
メラメラと炎がボクの身体を包み込んでいく。
メラメラと炎がボクの視界を遮っていく。
迫ってくる死の恐怖にボクはどうする事も出来なかった。
ただ、涙を流しながらずっと『助けて兄さん!』と泣き叫ぶ事しか出来なかった。
そんな時…ボクの目の前に…兄さんが現れたんだ。
ボクを助けるために来てくれた。
ボクは本当に嬉しかった、ボクのために、ボクを守るために来てくれた事が本当に嬉しかった。
それでも容赦なく炎はメラメラとボクと兄さんを襲ってくる。
頭と腕に怪我をしていたボクは兄さんと一緒に二人で非常階段を降りていった。
これで助かる、そう思っていたその時。
『危ないあすか!』
急に兄さんは叫びながらボクの身体を突き飛ばしたんだ。
訳も分からぬまま、ボクが兄さんの方に顔を向けた瞬間、大きな壁の残骸がボクの目の前に落ちてきた。
そう、兄さんはボクを助けるためにボクを突き飛ばしたんだ。
でも――そのせいで兄さんは逃げる事が出来なくなってしまった。
『兄さん!にぃさぁん!』
ボクは喉が潰れるくらいに兄さんの事を呼び続けた。兄さんは何も言わず、ボクに微笑んでいるだけだった。
そんな兄さんを炎がメラメラと包み込んでいく。
『いやだ!いやだよ兄さん!いやだああああああ!』
ボクは落ちてきた壁を殴りつけながら叫び続けた。大好きだった兄さんが、唯一ボクの事を見てくれた兄さんが消えていく。
そして――炎は完全に兄さんの身体を包み込んでいった。
『にぃさぁぁぁぁぁぁん!』
ボクの絶叫はただ虚しく炎の中へと消えていく。
―――こうして兄さんは死んでしまった。
- 23 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:16:40 ID:4XTeLIDV]
- 兄さんの葬式でボクはただ、母さん達が悲しみにくれている姿を見ているだけしか出来なかった。
みんな、泣いていた……お母さんも、お父さん、もお姉ちゃんも、幼なじみの女の子も凄く悲しんでいた。
ボクのせいだ。ボクのせいで兄さんが死んでしまったんだ。
ボクが兄さんの未来とみんなの幸せを奪ってしまったんだ――!
葬式が終わった後ボクは一人、兄さんの遺骨の前で立ち尽くしていた。
もう兄さんは笑ってくれない。ボクを守ってくれる事もボクの話を聞く事もしない。
『ごめんね……兄さん……本当にごめんね……』
兄さんじゃなくてボクが死ねば良かったんだ。
そうすればみんな…あんなに悲しむ事はなかった。
ボクみたいなクズが生き残っちゃいけなかったんだ。
だってボクは何もない…誰かを幸せにする事も誰かを笑顔にする事も出来ないのだから。
兄さんが死んでから何もかもが変わってしまった。
お母さんとお父さんとお姉ちゃんはボクの顔を見る度に悲しそうな表情をしてくる。
きっと怒っているんだ……兄さんが死んでしまったのにボクだけが生きているから。
幼なじみの女の子も前と変わらずボクに優しくしてくれるけど……ボクは知っている。
彼女もまた兄さんの事が大好きで、兄さんが死んだ時一番悲しんでいた事を。
彼女もまた…ボクじゃなくて兄さんの方に生きて欲しかったと思っている事を。
一日として心休まる事はなかった。
毎日毎日、誰かがボクの事を冷たい目でみている様な気がして苦しかった。
『なんであすかが生きているの!なんであの子じゃなくてあなたが――!』
『お前は親不幸者だ!お前が死ねば良かったんだ!』
『返してよ!私達の大好きだったお兄ちゃんを返してよ!』
毎晩毎晩、夢の中でお母さん達がボクを責め続けてくる…その度にボクは罪悪感に苛まれてしまう。
ボクはもうどうしたら良いのか分からなかった。誰にも助けを求める事も出来ず、何かが少しずつ……溜まっていく。
まるであの時の様に…炎が…メラメラと…ボクの中で燃えながら溜まっていく。
その炎が燃え上がる度にボクはおかしくなりそうだった。
ボクの中で炎が燃える度にボクはゴミ捨て場に捨ててある、電化製品とかを壊し続けた。
何かを破壊する事でボクはその炎を少しでも静めようとしていた。
手が真っ赤になるまで、冷蔵庫とかテレビとかを壊して自分の中のイライラを発散しようとした。
- 24 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:18:20 ID:4XTeLIDV]
- それでも、ボクの中の炎は静まる事はなかった。それどころか炎はメラメラメラメラと日に日に大きさを増していく。
もう爆発寸前だったんだ……ボクはもう炎を止める事が出来ず、頭の中がメチャクチャになりそうだった。
―――そんな時……彼女が…マリアがボクの前に現れたんだ。
「君は確か五月女あすか……だったか?」
いつも通り昼休みの時間に一人で屋上でボーッとしていたボクにマリアは話かけてきた。
マリアとは同じクラスだったけど、今まで話をする事なんて全くなかったためボクは最初、カツアゲか何かだと思っていた。
「そうだけど……えーとあなたは確か…」
「二階堂マリアだ。ちょっと隣に座ってもいいかな?」
「別に構いませんけど……何か用でもあるんですか?」
「いや、特にないがちょっとお前に聞きたい事があってな」
「聞きたい事……なんでしょうか?」
「五月女…なんで君はいつも一人なんだ?」
「えっ………!?」
初めてだった――そんな事を聞いてくる人間は。
「どうして…そんな事を聞いてくるんですか」
「なに、五月女が誰かといる所を見た事ないから少し気になっただけだ」
「…………別に。ボクはただ…一人でいた方が良いだけの事だから…」
「それは嘘だな」
「えっ!?」
「五月女、君は本当は…誰かと一緒にいたいと思っているんじゃないのか?」
そう言ってマリアの見つめる目はボクがずっとボクが願っていた事を見透かしているようだった。
まるで、ボクの事をずっと見ていた様な言葉にボクは驚きの色を隠す事が出来なかった。
「どうして……どうして二階堂さんはそんな事を…」
「分かるさ。………私もそうなのだからな」
「えっ……」
「私もな…一人なんだ……誰かに頼まれた訳でもないのに……一人なんだよ」
そう言って視線を落とすマリアの顔はとても悲しそうだった。
ボクと同じくずっと一人ぼっちだった人間……まるでボク自身を見ている様だった。
彼女もまた、ボクのように孤独の暗闇の中にいるんだ…。
「なぁ、五月女……明日もここに来てもいいかな?」
「うん……構わないよ二階堂さん」
この日からボクとマリアは行動を共にするになった。
最初のうちは色々と遠慮をしていたけど、彼女と触れ合っていくにつれて次第にボクの肩の力が自然と抜けていった。
- 25 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:19:30 ID:4XTeLIDV]
- それと同時に、ボクの中で燃え続けていた炎が急激に静かになっていく。
頭の中のイライラが…自然と晴れていく。
まるで、兄さんのいた頃のように心の中が休まっていくんだ。
そんなマリアにボクはずっと溜め込んでいた苦しみを告白した。
ボクには兄さんがいた事、その兄さんがボクのせいで死んでしまった事を。
「……辛かったんだなあすか…」
「ボクのせいで皆が不幸になってしまった……ボクが死ねば良かったんだ……ボクが死ねば…兄さんが死なずにすんだから…」
ボクは大粒の涙を流しながら小さく呟き続けていた。
まるで、自分の犯してしまった罪を神様に懺悔するように。
そんなボクを。マリアはギュッと優しく抱き締めてくれたんだ。
「そんな事はない……あすかが生き残った事に意味があったんだ…」
「意味…?」
「そうだ……もしあすかがいなかったら……私はあすかと出会う事がなかった……。こうしてあすかと笑うなんてなかったんだ……」
「マリア……」
「だから…自分が死ねば良かったなんて言わないで…。あすかの悲しむ姿を見ると私まで悲しくなるから」
「…………」
「私がずっとあすかと一緒にいるから…お前の中の苦しみを……私も一緒に背負うから。もう…大丈夫だあすか…」
「うう……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ボクは子供の様にマリアの胸の中で号泣した。心の中で何かが解き放たれたような気がした。
そんなボクをマリアはただ黙って抱き締めながらボクの頭を撫で続けてくれた。
ボクはマリアに救われたんだ。
マリアのおかげでボクの中でずっと止まっていた時間が動き出した。
もし、マリアがいなかったらボクはどうなっていたか分からない。
マリアがいたからボクは今まで生きてこれた。
「マリア……ありがとう…本当にありがとう」
マリアがいたから…ボクはまた笑う事ができるんだ。
- 26 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:21:06 ID:4XTeLIDV]
- 【マリア視点】
「それじゃあねマリア…明日は多分一緒に帰る事が出来ると思うよ」
あすかはそう言って笑顔を私に向ける。
最近、一緒に帰る事が出来なくて少し寂しいがあすかの事情も考えてやらないとな。
それに明日はあすかと一緒に帰る事が出来るのだから、少しの間我慢すればいいか。
「ああ、また明日……あすか」
そう言って私はあすかに軽くキスをする。あすかは少し顔を赤らめて恥ずかしそうにニコリと笑う。
ああ、もう!なんて可愛らしいんだあすかは!いっそこのまま押し倒したい気分だ。
耐えろ、耐えるんだマリア。性欲なんかに負けないで。
このままだとあすかを襲いかねないので、私はそそくさと立ち去っていった。
「ふぅ……ようやく落ち着く事ができた」
私は小さく呟きながら限界に向かおうとした。
「あの、すいません」
ふと、私を呼び止める声が耳に入る。声のする方に顔を向けるとそこには一人の少女が立っていた。
確か彼女は…。
「君は確か…琴乃さんだったっけ?」
「ええ、そうです」
琴乃葉月、あすかが私に話してくれたあすかの幼なじみだったな。
その琴乃が私に一体なんの用があるのだろうか。
「私に何か話でもあるのかな?」
「もちろん。あすかの事について話したい事があるんです」
「あすかの事について?一体何かな」
「……お願いですからもう、あすかに付きまとうのは止めてくれませんか!」
「はぁ……?」
思わず私は間の抜けた返事をしてしまった。彼女は何を言っているのか全く理解出来ない。
なぜ、彼女が私に対してそんな事を言うのだろう。
「何を言っているのか分かりかねるのだが……」
「とぼけないでください!あなたがあすかに色々とちょっかいを出しているのは知っているんですよ!
あすかは私に何も言ってくれないけど…きっとあすかだって迷惑しているに決まっています!」
「迷惑……?」
「そうです!あすかは気が弱くて自分の気持ちを伝える事はしませんけど……彼の事は私が一番良く知っているんです!」
「あすかの事を一番…知っているだと?」
「そうです!だから…」
「フフフ……ハハハハハハハハハハ!これは傑作だ!琴乃、君はあすかの事を全く分かっていない!」
全く、笑わせてくれる。あすかの苦しみ、悲しみ、孤独、悩みに全く気が付かなかったのに
あすかの事は一番良く知っているだなんて一体どの口が言うんだ。
- 27 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:23:00 ID:4XTeLIDV]
- 「君は知らないのか?私とあすかはな……付き合っているんだよ」
「えっ…」
私の言葉を聞いて琴乃の表情がみるみるうちに強ばっていく。それはそうだ、あすかが彼女に私の事を話す事はしないだろうしな。
「そんなの……嘘よ」
「嘘じゃないさ。あすかとは付き合ってもうかなり経つぞ?キスも、もうしたしな。知ってたか?あすかはキスをする時、唇がピクッて震えるんだぞ……全く本当に可愛くて仕方ないよ」
「そんなの…そんなのあり得ない!嘘を言わないで!」
「私の言っている事は本当だよ。そんなに疑うならあすか自身に聞いてみたらどうだ?もっとも……返ってくる答えは決まっているだろうけどね」
「――――!」
ふふふ、今にも泣きそうな表情をしているな琴乃。でも、それは君が悪いんだぞ?
だって君もまた、あすかを苦しめた原因の一つなのだからな。
でも安心しろ、琴乃…あすかには君に代わって私がそばにいてあげるさ。
私があすかの苦しみを背負ってやるから。
「それでは私はもう眠たいから家に帰るとするよ……じゃあね琴乃」
私はショックを受けたように立ち尽くす琴乃をそのままに、その場から立ち去る。
あすかは私だけを必要としてくれている。
そしてまた――私もあすかだけを必要としているんだ……。
私の父親は私が生まれてすぐに他の女の所に逃げてしまった。
母親も母親で他の男と遊んでばっかりでいつも家にいなかった。
適当に家に帰って来ては適当にお金を置いて、適当に家からいなくなってしまう。
私は小さい時から一人ぼっちだった。
小麦色の肌に金髪、おまけに人よりも身体の大きかった私はよく他の奴等にからかわれていた。
ガイジンだの金髪お化けだの悪口を言われる毎日……私だって好きでこんな姿で生まれた訳じゃないんだ。
あまりにも腹が立つからそいつ等をボッコボコしたらしたらで、大人に言い付けられてまた訳の分からない差別をされる。
どいつもこいつも私をイライラさせる…私が一体何をした。
私の周りには誰もいなかった…大抵はヒソヒソと影から悪口を言うばかりで私を避けていく。
誰も本当の私を見てくれない…誰も私の言葉を聞いてくれない。
そんな苦しみを晴らすかのように私は毎日のようにからかってくる男子相手に暴れていた。
その度に、私の周りからどんどんどんどん人が離れていく。
私はもう諦めていた。きっと私は一生、一人ぼっちで生きていくのだろうと。
- 28 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:25:12 ID:4XTeLIDV]
- でも、本当の私はきっと誰よりも寂しがり屋で誰よりも一人ぼっちが怖い人間なのだろう。
どうする事も出来ない現実に私はただ妄想に逃げる事くらいしか出来なかった。
そんな私の目の前に――彼が、あすかが現れたんだ。
あすかを見た時、今まで感じた事のない感情が溢れ出るのを感じた。
一体なんだこれは?
いつも一人ぼっちで悲しみに満ちていた、あすかの姿はまるで私そのものだった。
いてもたってもいられなくなった私はあすかに声をかけてみる。
そして、少しずつ本当の自分の姿をあすかにさらけ出してみた。
それを繰り返していく事に私の中でイライラが消えていき、代わりに暖かい何かが胸の中で膨らんでいく。
なんなんだ…?この暖かさは……生まれて初めて味わうその感覚は私を徐々に変えていった。
前までは喧嘩ばかりしていたのに、あすかと一緒になってからは全くしなくなった。
ヒソヒソと誰かの陰口も全然気にならない。
私の本当の姿を見て、話をしてくれる人がいる。私はあすかに救われたんだ。
だから…あすかが自分の苦しみを私に言ってくれた時、彼の事を守りたいと思った。あすかの苦しみを一緒に背負っていきたいと思った。
もう私は一人じゃない…もう一人ぼっちじゃないんだ。
そうか……これが……
『マリア、お腹が空いてきちゃったね……どこか食べにでも行こうか?』
『うん……………』
これが愛か……
『ど、どうしたのマリア!?急に泣き出したりして……?』
『ふふ……いや……な…。よく分からないんだけど………涙が……止まらないんだ……!』
これが………幸せか……!
あすか、きっと私の今までの人生はお前に出会うためのものなのかもしれないな。
あすか……あすかは私にとって孤独の暗闇から私を救い出してくれた運命の王子様なんだ。
だからあすか…ずっと私だけを見ていてくれ。私も……あすかの事だけをずっと見ているから―――。
- 29 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 03:26:02 ID:4XTeLIDV]
- 今回はここまでにさせていただきます。
- 30 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 04:34:21 ID:swFwryJe]
- 好きなシチュエーション。最高GJ!
- 31 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 06:30:54 ID:kI290mTH]
- これは良い依存
- 32 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 06:37:00 ID:tsXjqDoL]
- テンション上がってきた
両作品ともGJGJ
- 33 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 08:20:31 ID:X7X/vCVN]
- 良い話しだが、
> これが………幸せか……!
で、カイジを思い出して吹いてしまったw
- 34 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/18(火) 16:46:45 ID:poNkYm+C]
- GJ。琴乃視点の話に期待
しかし…外人ハーフか…
出遅れたかな
- 35 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/19(水) 21:27:16 ID:C7TQfeYe]
- 男の方がヤンデレになってしまう展開ってダメ?
- 36 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/19(水) 21:31:06 ID:q+zdxXNK]
- ・男→女、女→男どちらでもOK
- 37 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/19(水) 21:39:19 ID:hyQ00XJx]
- >>36
なにがOKなの?ヤンデレはスレ違いだろ。
- 38 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/19(水) 21:40:05 ID:QpRrr89K]
- http://twitter.com/kinniku69
- 39 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:20:48 ID:Ig3DdnKS]
- 春春夏秋冬投下します。
- 40 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:21:31 ID:Ig3DdnKS]
-
――6月28日、月曜日。
梅雨を抜け、ジメジメした暑さとは違うジリジリとした太陽光が体力を奪う今日この頃。
私は一人、ある人のお墓へと足を運ばせていた。
「ふぅ〜…暑いね?」
墓石の前に立ち、話しかける。
勿論返事なんて無い。
春くんは春ちゃんの声が聞こえていたみたいだけど……私では無理のようだ。
持って来た花束を墓石の前へ置く。
もう一つの花束は隣の墓石――春ちゃんへ…。
「……遅くなってごめんなさい…。」
二つの墓石の間に立ち頭を下げる。
――あの事件から1ヶ月、私の周りの環境は驚くほど変わった。
まず、会話が無くなった…。と言うより顔を合わせる機会が少なくなってしまった。
勿論、家族の団欒も無くなった。
皆別々に食事をすませて、部屋に戻る。
簡単に言うと、今の我が家はただの箱なのだ。
秋ちゃんもなっちゃんも、寝て起きたら学校へ向かい夜遅くに家に帰ってくる。
他人が同じ家に住んでる様な感じ。
私が求めていた暖かさは微塵にも感じ取れなかった。
しかたがない…それが罰なのだから――。
「……今度は皆でくるね……バイバイ」
そう伝えると、二人に背中を向けて歩き出す。
- 41 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:22:47 ID:Ig3DdnKS]
- 私達はもう無理かも知れないけど…。
天国にいる二人は仲良くしていてね。
「あっ、そうだ!忘れてた。」
今日は墓参りに来た訳じゃ無かった…。
二人に大事な報告があって来たんだった。
ため息を吐き、踵を返して二人の元へと歩み寄る。
「春くん……意識取り戻したよ。」
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
――熱い…身体が焼けるように熱い。
微かにボヤけて見える蛍光灯の光――蛍光灯がついてるって事は夜?
分からない……昼なのか朝なのか…何時間なのか何分なのか何曜日なのか……分からない。
ただ、身体が熱い…特に右足が異常に熱い。
「誰…か…い…なッ…。」
上手く言葉を発する事もできない…。
いったいどうしたんだ?
車に轢かれた所は覚えている。
気を失う直前、最後に見た光景は車のヘッドライトが目の前に迫っている光景だった…。
察するにここは病院の一室。
周りに他の患者の気配を感じ取れないので個室のようだ。
一応右目だけを動かして、周りを確認する。
包帯の様な布が左目を覆っているので見渡す事もままならない。
右目で見える範囲を確認するが、真っ白な壁しか見えない。
- 42 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:23:35 ID:Ig3DdnKS]
-
やはり、病院のようだ。
「…はぁ」
動かない身体を見る限り、長期入院は免れないだろう。
今年卒業だと言うのに…。
車に轢かれた日の事を思いだす。
背中を力強く押されるあの感覚。
俺は間違いなく誰かに車道に突き飛ばされた。
通り魔なら救いがあるのだが…何となくだが、俺を突き飛ばした人間の想像は簡単についた。
恨まれるとしたら、その辺の人間しか考えられない。
「うぅ…(殺そうとするなら、半端にするんじゃねーよ…)」
悪態を口から吐き捨てる事もできないので、頭の中で吐き捨てる。
「ハル…兄…?」
聞き慣れた声に自然と左目が声の元へと動く。
大きな目を見開き、此方を凝視している夏美の顔が間近に迫っていたのだ。
別に懐かしいと言うほどでも無かったが、久しぶりに見た気がする。
「な…つ……ちか…ぃ…。」
「まっ、待ってて!いまっ、今かッ、お医者さん呼んでくるッ!」
そう言うと、慌ただしそうに何処かへ走り去っていった。
元気なのはいいのだが…ここは病院のはず。
もう少し静か…ッ!?
「ぅッ!?」
突然身体を激しい痛みが襲う。
「あぁッ――ぐッ!――ッ!!!」
耐えられない程の痛みが右目と左足を襲う。
- 43 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:24:10 ID:Ig3DdnKS]
- 「落ち着いてッ!早くも――ッ―な―」
白衣を着こなした男性が慌ただしく動き、夏美が此方に向かって何かを叫んでいる。
「…ぁぐッ……あッ………!」
なんとか意識を保とうと頑張ったのだが、痛みが酷く、無理矢理俺の意識を根こそぎ奪っていった――。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「ハル…具合はどう?」
「……」
「ちょっと、今は辛いかも知れないけど、我慢してね?」
「……」
まだ声はだせないようだ。
いや、三日前の夜に意識を取り戻したばかりなのだ…当たり前の事。
意識を取り戻してくれただけでも感謝しないと…。
――あの事件から1ヶ月……三日前、突然ハルの意識が回復した。
植物状態も覚悟していてほしい、と言われたのでハルの回復には家族皆で大喜びした。
しかしハルは違った…痛みに顔を歪め…目からは涙を止めどなく流す。数々の傷口から血が流れ、包帯を赤く染める光景に目を背ける事も助ける事もできず、ただ看護師が行う治療を眺める事しかできなかった。
今は麻酔で少し落ち着いているが、一日何度となく声にならない声をあげるハルに目を覆いたくなった。
- 44 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:24:50 ID:Ig3DdnKS]
-
母親として子供を守る。
そんな事を言っていたけど、ただハルを放したくないだけ…。
自己満足だと言われたらそれでおしまいだが、私は断言できる。
――ハルを愛していると。
そのハルをこんなにしたアイツ――そう……私の元旦那であり、春香達の父親でもあるあの人だ。
警察から話を聞いた所、あの人がいきなり現れてハルの背中を突き飛ばしたらしい…。
周りに居た通行人も皆それを目撃しているらしく、逃げる際中学生ほどの女の子があの人の手を掴み、走り去っていったそうだ。
その中学生が冬子――。
警察の事情聴取には何も答えなかったが、私には教えてくれた。
あの人がハルを突き飛ばす場面を見てしまい、父親が捕まると思ったらしい。気づいた時にはあの人の手を掴み走っていたそうだ。
父親想いの冬子らしい…と言えばそうなのだが、父親の方は子供とは違い子供想い…とはいかなかったようだ。
しかも、罪滅ぼしなのか冬子に見られた罪悪感からなのか、冬子と別れた後、自宅の寝室で睡眠薬を多用し自殺…。
もう、何がしたいのかどうしたいのか…意味が分からない。
多分寂しかったのだろう…家族と離ればなれになり、浮気相手とも別れたそうだ。
- 45 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:25:30 ID:Ig3DdnKS]
- 遺書にも後悔の念がビッシリと自筆で書かれていた――。
しかし、私からすれば子供を殺されかけた犯罪者以外の何者でもないのだ。
冬子には大切な父親かも知れない…冬子のお願いでなければ春香の隣にあの人を置くなんて大反対なのだが……死んだ人間を恨んでも仕方がない。
これからの事を考えないと…。
「……」
ベッドに横たわるハルの体へと視線を落とす
一目見ただけで分かるほどの重体。
――今のハルの体をハル自身が見たら多大なショックを受けるに違いない。
医者が言うには一度心臓が止まったらしく、息を吹き替えしただけでも奇跡…らしい。
普通の生活に戻るまで何年かかるか…。
「……ハル…お母さんがついてるからね?」
ハルの頭を撫でる為にそっ、と手のひらをハルの頭上まで持っていく。しかし、包帯がそれを拒む様に私の手を拒否していたので、数秒空中を漂った後、ハルに触れる事無く手を引っ込めた。
「……また、明日ね。」
後ろ髪引かれる思いで静かに扉を閉め、ハルが苦しむ病室を後にした――。
- 46 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:25:59 ID:Ig3DdnKS]
-
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「すまないね。わざわざ家まで来てもらって。」
「いえ、僕も夕凪くんの友達として仲良くさせてもらっていますので。」
優しく苦笑いする夕凪くん似の男性。父親なのだから似てるのは当たり前なのだけど…。
車を運転しているので、助手席に座る僕に顔を向けないが、僕に対して気を使っているのが手に取るように分かった。
歳を取れば夕凪くんもこの様に人に気を配れる優しさ溢れる男性になるのだろうか?
少し楽しみなのだが、その夕凪くんが今、重体で病院に入院しているようなのだ。
“ようなのだ”と言うのは夕凪くんが車事故にあった事を昨日知ったのだ。
何度携帯に電話してもでない。
担任に聞いても分からない。
学校で夏美ちゃんを捕まえて話を聞こうにも一つ年下なのでクラスどころか、階も違う。
何度か授業が終わった後に夏美ちゃんのクラスに行ってみたのだけど、会う前に帰られてしまう。
美幸ちゃんも夏美ちゃんと同じ理由でここ1ヶ月会わなかった。
迷惑になるとも考えたのだが、唯一の友達が1ヶ月も学校に来なくなれば心配にもなるし不安にもなる。
- 47 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:26:24 ID:Ig3DdnKS]
-
だから昨日、夕凪くんの家に一人で向かった。
その際夕凪くんのお父さんが僕を迎えてくれた。
家にお邪魔し、夕凪くんのお父さんから話を聞くと、車に轢かれ入院しているとのこと…。
事故から約1ヶ月もの間、意識不明の重体で4日前に意識を取り戻したそうだ。
意識を取り出したと言ってもまだ身体を動かせる力は無く、事故の影響で苦痛に顔を歪めるのも多々ある状況らしい。
その日に夕凪くんの病院にむかいたかったのだが、学校帰りと言うこともあり、夕方の7時になっていたので次の日に夕凪くんのお父さんの車で一緒にお見舞いに行くことになったのだ。
そして今、夕凪くんのお父さんが運転する車で夕凪くんが入院している病院へとむかっている。
昨日帰りに夕凪くんのお父さんから「春樹を見て驚かないでやってほしい…本人もまだ自分の身体の事に気がついてないことなんだ…」と意味深な事を言われ、一睡もできなかった。
だから目の下には酷いクマができてしまった…。
「キミは春樹の友達なんだよね?それじゃ、赤部家の皆とは面識あるのかな?」
運転に集中していた夕凪くんのお父さんが唐突に僕に話しかけてきた。
- 48 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:26:57 ID:Ig3DdnKS]
-
「えっ…?はい、あります。おばさんにご飯をご馳走になったり、夏美ちゃんや赤部先生とも仲良くさせてもらってます。」
あの人をおばさんと呼んでもいいのか後々後悔したが、口から出てしまったんだから仕方がない。
「そうか……赤部家の皆とそれだけ仲良くしてるのなら春樹にもキミは信用できる友達なんだろうね…。これはまだ、赤部家の皆には言ってないんだが、聞いてくれるかな?」
「はい、僕でよろしければ…。」
何か鬼気迫る雰囲気で話す夕凪くんのお父さんに肩が強張る。
「私達はね……あの家から引っ越そうかと思っているんだ。」
「えっ?……引っ越しですか?」
「あぁ、東京にね…」
東京……遠い。
単純にその言葉が頭に浮かんだ。
「でも、なんでですか?夕凪くんは今年で卒業ですよ?」
そう、するなら卒業した後でも問題無いはず…。
事情を説明すれば学校側も分かってくれると思うけど…。
「春樹の姿を見たら、そんな悠長な事を言ってられなくなるさ。」
夕凪くんのお父さんが言うように、僕は夕凪くんの姿をまだ見ていないのだ。
そこまで言うのだからよほど酷いのだろう…。
- 49 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:30:21 ID:Ig3DdnKS]
- やっとできた友達なのに――でも、夕凪くんがそれでよくなるなら…。
「この話は赤部家の皆には内緒にしてほしいんだ。皆には私から伝えるから。」
「はい…わかりました。」
どこか釈然としない気持ちのまま夕凪くんがいる病院へと向かった。
――そして、夕凪くんの姿を見た僕は自分の考えの甘さを嫌と言うほど思い知らされる事になる。
「ゆ、夕凪く……」
「あぁ…こうしないと春樹の命に関わるからね。」
色々な機器から出ているチューブに繋がれた夕凪くん…包帯で身体を覆われ、微かに夕凪くんの吐息が聞こえてくる。
痛々しいなんて言葉では表せない。
しかし、痛々しいと言う言葉以外思いつかない…。
まさか、ここまで酷いなんて…。
正直大丈夫だと、楽観的に考えていた部分があった。
夕凪くんなら…そんな脈絡の無い期待感がどこか胸の中にあった。
しかし、それは見事に打ち砕かれる形となってしまった。
チューブや包帯も勿論痛々しく見えるのだが…その痛々しさを軽く見せる程の部分がある。
いや、はっきり言って他の怪我が小さく見えるほどにその部分の痛々しさが際立っているのだ。
「…」
「ん?あぁ……やはりそこに目がいくよね。」
- 50 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:30:50 ID:Ig3DdnKS]
- 夕凪くんのお父さんはそう呟くと、悲しそうに視線を夕凪くんの右足へと向けた。
「そんな…こんなことって……。」
壁に身体を預け、その場にへたり込む。
――僕の大切な友達は身体の一部をなくしていた。
そう…歩くために必要な二本しかない片足を綺麗に――残酷に切断されていたのだ。
「この足もそうだが…左目も失明している。」
「失明…」
身体を包帯だらけで気がつかなかったが、顔の半分も包帯で覆われているようだ…。
「ちゃんとした場所で治療してやりたいんだ…。」
「そうです…ね…。」
大切な息子なんだ。一番良い環境で治療するのが当たり前の判断。
そう……僕なんかが横から口だしちゃダメなんだ…。
「今日は…帰ります…」
「送っていくよ。」
「いえ、結構です…それでは。」
フラフラとした足どりで病室を後にする。
その後、どうやって家まで帰ったのか、まったく覚えていない。
いつの間にか自宅のベッドに横たわり、声を殺し、自分の涙で枕を濡らしていた――。
夕凪くんの助けになりたかった…だけど僕の存在がちっぽけすぎて何もできなかった。
ただ、夕凪くんを見て帰っただけ。
声も掛けられなかった…。
- 51 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:31:17 ID:Ig3DdnKS]
- この日僕は一番気づきたくない、最低な事に気がついてしまった。
――僕は。
――僕は元気な夕凪くんと……居なくならない夕凪くんと友達になりたかったんだ――。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「はい…はい…そうです…今日の夜に皆を私の家に…はい…お願いします。それでは。」
恵さんへの電話を終え、携帯を閉じる。携帯をポケットへと入れると、すぐさま春樹がいる病室へと戻った。
「春樹…。」
私の問いかけに返事は無い。
大切な息子…妻が亡くなる直前、春樹を大切にしろと言われたのに……自分の不甲斐なさに苛立ちが増していく。
自分の息子の足を切断する許可を私がだした。
私が息子の足を切断したのだ。
そうしなければ命に危険があるにせよ、息子の身体を切断するなんて…。
手術室から出てきた息子を見て私は息子の前で土下座をして謝った。
何度も何度も…勿論春樹からの返答は無かった。
その春樹の身体をできるだけ元に戻してやりたい。
切断した右足と失明した左目はもうどうにもならない……だが、せめて不自由無く過ごさせてやりたい。
そう思い、あの家を手放す事に決めたのだ。
- 52 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:31:46 ID:Ig3DdnKS]
-
妻との思い出がいっぱい詰まった場所なのだが、アイツも息子の春樹の事だから分かってくれるはずだ。
赤部家の皆も説明すれば分かってくれると思う。
いや、赤部家の皆には悪いが、理解しようがしまいが春樹は連れていく。
春樹をあんなにした張本人は自殺したが、下手をすれば春樹が春香ちゃんの墓の隣に並んでいた事も十分あり得るのだ。
そんな、悪い繋がりを一度切りたい…。
皆春樹を本当に家族の様に接してくれた事には感謝している。恵さんに関しては頭を何度下げても下げたりないくらいだ。
だが春香ちゃんの死後、春樹は罪滅ぼしとしてあの家に留まっていたと私は思っている。
春香ちゃんの死からもうすぐ4年。
もう、春樹を楽にしてやりたい…。
今更だが春樹に自分の人生を歩かせてやりたい。
新しい恋人を作り、結婚して、子供を育てる。そんなありふれた人生を送らせてやりたい。
こんなことになるまで行動できなかったバカな父親だが、これからは春樹の事だけを考えて生きていこう……。
春樹が眠る病室を出て自宅へと向かう…。
――赤部家の皆にすべてを話す為に――。
- 53 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:32:35 ID:Ig3DdnKS]
-
――――――
―――――
――――
―――
――
―
「話ってなんだろ…」
冬子が誰に言うでも無く呟く。
「さぁ…もうすぐおじさんも帰ってくるんじゃない?」
テーブルに肩肘を付き、興味無さそうに秋音姉さんが返す。
その反応に冬子も会話にならないと諦めたのか、下を向き喋らなくなった。
前に座るお母さんも春兄の家に来てから一度も言葉を発していない。
なにか思い詰めている様な表情をしているが、その顔がえらく不安を煽る。
私達は今、春兄の父親であるおじさんに呼び出され、春兄の家にお邪魔させてもらっていた。
なんでも大切な話があるらしく、春兄の家に私達家族皆集まってくれないかと…。
大切な話…と言うのは間違いなく春兄の事だろう……冬子もあぁ言っているが、実際は分かっているはずだ。
ただ、話の内容が分からないだけ…。
「あっ、帰って来たかな…?」
玄関の扉を開ける音に反応した冬子の声に、皆がリビングの扉に目を向ける。
――ガチャッ。
「あ、もう来てくれてましたか。すいません…遅くなってしまって。」
予想通り、スーツ姿のおじさんが、リビングに入ってきた。
- 54 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:32:58 ID:Ig3DdnKS]
-
「いえ、私達も今来たところですから。」
そう言うと、当たり前の様におじさんに近づき、おじさんの手から鞄を受け取る。
そんな夫婦の様なやり取りに、少し胸がドキッとした。
おじさんも多少ビックリしていたが、ありがとうございます。とだけ言うと私達と反対方向にある椅子へと腰を降ろした。
大人の余裕だなぁ、と少しドキドキしながら見ていると、帰ってきて早々おじさんが神妙な面持ちで私達に話しかけてきた。
「今日、皆に集まってもらったのは、大切な話があるからなんだ。」
「えぇ…それは電話で聞きました。」
冷蔵庫からお茶の入ったプラスチック製の冷水筒を取り出してきたお母さんは、テーブルの上に並ぶコップに次々と注ぎ込んでいく。
冷たい麦茶が入ったコップを皆が受け取り、口にする。
皆が飲む姿を見たおじさんも、仕方なくと言った感じで少し口にした後、再度私達に目を向けた。
「春樹の事で皆に話があるんだ。」
「「「「……」」」」
やっぱり…と言った感じで誰も疑問に思う者はいないようで、皆話の腰を折らぬ様に沈黙している。
この、沈黙が何より怖い…。
おじさんの顔を見る限り、良からぬ事だと言うことは分かる。
- 55 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:33:23 ID:Ig3DdnKS]
- ただ、何故か聞きたく無いと言う感情が沸々と込み上げてきた。
理由は分からない。
だけど聞いたらもう取り返しがつかない様な…。
「私達は……春樹がちゃんと意識を取り戻したら、この家をy「ちょ、ちょっと待っ――」
何を言うのか分かったのだろう…お母さんが慌てておじさんの話に割り込んだ。
勿論私達もおじさんが何を言うのかスグに分かった。
冬子は下を向き、まったく動かない。
秋音姉さんも目を見開き、おじさんを凝視している。
多分私も――。
私達の気持ちとは裏腹におじさんの話は無情にも続けられた。
――「私達家族は、この家を売り払い、東京に引っ越します。」
完璧な決意。
私達が入る隙なんて微塵にも感じさせないほどおじさんから固い決意が感じ取れた。
もう、ダメだ…。
私達は春兄を助ける事ができなかった。
もう、春兄の側に私達はいちゃダメなん――
「夏美ちゃん…」
「えっ……あれ?おかしいな、どうしよ…ッ。」
私の前から春兄が居なくなる――そんな事一度も考えたこと無かった。
いつも優しく笑って私達の側に居てくれた。
- 56 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:33:47 ID:Ig3DdnKS]
- だから、恩返しに私のすべてを使って春兄が安らげる場所を作れたらいいと思っていた…。
でも、間違いだった。
安らげる場所どころか、春兄を傷つけた…。
春兄の事は誰よりも好きだと断言できる。
だからこそ…だからこそ――。
「私が言いたいこと…夏美ちゃんなら分かってくれるかな?」
「は…いッ…ヒッグ…わがりばじッだ……ヒッ…ッ。」
「ちょっと夏美ッ!!」
私の肩をガシッと力強く秋音姉さんが掴む。何を言っているだ…とでも言いたげな表情を浮かべる秋音姉さんの手を払う。
皆はどう思ってるか分からない。
だけど私は…大切だからこそ、春兄を解放してあげたかった。
心では春兄から離れる事なんてできないと拒否し続けているのに…。
「ヒックッ…、わだじッ…春、兄が…ヒッ…ッ…ゥ…うわぁぁあぁぁ―ッ――ッ!」
皆に私の気持ちが届いたのだろうか?泣き崩れる私の姿を見るだけで、おじさんに反論する人は誰一人いなかった。
――私の初恋にして片想いの人は、私の大切な家族の恋人――。
だけど、大好きだった。
誰よりも大好きだった――――そう…誰よりも―――――。
- 57 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/20(木) 21:35:03 ID:Ig3DdnKS]
- ありがとうございました、投下終了です。
あと一回か二回で終わります。
- 58 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/20(木) 22:08:25 ID:pYbtcsuU]
- 赤部父、だと!?
は、はやく続きを、続きを書いてくれGJ!
- 59 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/20(木) 23:44:58 ID:pV1W42fZ]
- GJでございます
- 60 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/20(木) 23:45:26 ID:PFsVPaKG]
- なるほど、確かに家族だな。
…でもこれは死ぬより辛いぞ。
- 61 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/21(金) 00:39:10 ID:dR53iF3a]
- なるほど…そうきたか…
前スレ>>625の「嘘つき」が電話やメールの『』じゃなく「」だったから冬子の至近距離の肉声、
つまりは冬子が手を下したと信じて疑わなかったんだが…
それだと美幸ちゃんもその声を聞いてるはずだし、となれば確かにこうなるか
そりゃ自分の娘を殺した男がのうのうと別の女作って歩いてる所みるとぶっ殺したくなるわな
あと気になる点は2つ。
・鈴村が春香とした約束の内容
・今回出番の無かった美幸ちゃん(と父)の動向
次回以降に期待だな
- 62 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/21(金) 03:20:01 ID:hKg0zPai]
- ハル…。ギルス並の不幸属性じゃないか…。
- 63 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/21(金) 03:41:57 ID:szsAw/C1]
- ギルスワロw
まさしくだなw
- 64 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:13:51 ID:wtoUa49/]
- 連続で申し訳ないけど、投下します。
- 65 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:14:46 ID:wtoUa49/]
-
「ふぅ、荷物はこれだけ…かな。」
ダンボールに漫画本を詰め、周りを見渡し、確認する。
あれだけごちゃごちゃしていた部屋がここまで殺風景になるとは…自分の部屋とは思えないぐらい綺麗さっぱりと生活感が無くなってしまった。
今日で長年暮らしてきたこの家ともお別れだ…。
「ふぅ…まさか引っ越す事になるなんてな…。」
ダンボールが散らばる部屋の真ん中で大の字に寝転ぶ。
春香との想い出が詰まった俺の部屋…もう、ここに戻ってくる事も無いかな…。
「お〜い、終わった〜?って、春樹なに寝てるのッ!?」
部屋の扉から汗だくの鈴村が姿を表した。
朝早くから引っ越しを手伝いに来てくれたのだ。
「なんだ…光か…立つことができないんだから疲れるんだよ。」
「あっ、そっか……それじゃ、僕も手伝うよ。」
冗談のつもりで言ったんだが、鈴村は申し訳なさそうに俺の隣に腰を降ろした。
「ばぁ〜か…変に気を使うんじゃね〜よ。」
鈴村の頭を軽く叩き、作業に戻る。
叩かれた頭を撫でながら此方を見ていたが、何も言わず、僅かに残った本をダンボールの箱に詰めだした。
- 66 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:15:25 ID:wtoUa49/]
-
――車に轢かれたあの日からもうすぐ一年半。
あの日から季節が一周してしまい、もう数ヶ月で春を迎えてしまう。
1ヶ月前、やっと病院から外出届の許可を貰う事ができたのだ。
退院…とまではいかないが、車椅子で病院の前にある広場を散歩できるまでに身体を動かせる様になってきた。
残念ながら看護師&家族付きでだが…。
高校は秋音さんのお陰で卒業扱いになった。
卒業アルバムに幽霊部員の様に写る自分の集合写真に一人落ち込んだのは皆には内緒だ。
知らない同級生が見舞いに来てくれた時は流石に泣きそうになった。
クラスの皆で千羽鶴を作り、持ってきてくれたのだ。
鈴村が皆に事情を説明して協力してもらったらしい…。
そんな事があり、鈴村とは下の名前で呼びあうまでにお互い仲良くなっていた。
まぁ、切っ掛けは鈴村が『下の名前で呼んだら怒る?』とクソ恥ずかしいメールを送ってきたからなのだが…。
あと鈴村にはもう一つビックリする事があった。
中学時代、なんと春香と面識があったそうなのだ。
なんでも、体育館に柔道を習いに行ってたそうで、小学生に混じり春香に習っていたそうだ。
- 67 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:16:01 ID:wtoUa49/]
-
なんで小学生に混じってんだ?と聞くと。
練習試合で小学生の女の子に負けたから…だそうだ。
恥ずかしい事に柔道の休憩中はもっぱら俺の話を皆にしていたそうだ。
だからだろう……中学生の時、見知らぬ小学生から「先生の旦那だ!」と多々言われる事があった。
当時は意味がわからなかったが、鈴村の話で理解した。
そんな鈴村から興味深い話を聞いた。
詳しくは教えてくれなかったが、鈴村と春香だけの秘密の約束らしい…。
その秘密の約束は俺の事らしく、何度聞いても笑いながらはぐらかすだけで教えてはくれなかった。
春香はいつか俺に鈴村の事を紹介して友達にさせようとしていたらしいが、偶然にも同じクラスになり、春香の仲介無しに友達になってしまった。
一度春香にも鈴村と友達になったと報告しなければ…。
「ほら、ボケッとしてないで早く手を動かす!」
「はいはい…わかりましたよ光お母さん。」
ふざけて呟いたのだが、何故か顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。
「春〜、終わったぁ〜?」
秋音さんが部屋の扉から顔を覗かせる。
秋音さんや夏美には一階の掃除をしていてもらったのだが、もう終わったのだろうか?
- 68 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:16:35 ID:wtoUa49/]
- 「光に手伝ってもらってるからスグに終わります。下はもう終わったんですか?」
「食器はもう全部ダンボールに入れたわよ?後は掃除機でチャチャッとするだけ。」
「早ッ!まぁ、恵さんと秋音さんがいたらスグか…。よしッ、これでおしまいっと。」
最後の本をダンボールに入れ、ガムテープで硬く密閉する。
そのダンボールを軽くポンッと叩き、鈴村の方に目を向けると、ダンボールにガムテープを張っている途中だった。
鈴村もこれで終わりのようだ。
「それじゃ、鈴村くん。ちょっと下を手伝って来てくれるかな?」
「はい、わかりました。それじゃ、ちょっと行ってくるね。」
そう言うと、俺に向かって小さく手を振り、小走りで一階へと向かった。
「もう、ここに来ることも無いわね。」
廊下に居た秋音さんが部屋の中へと入ってきた。
積み上がっているダンボールを崩さないように避け、数十秒掛けて俺の元へとたどり着く。
「そうですね…でも会えなくなる訳じゃないですから。」
「そう……春ちょっと目を瞑りなさい。」
「目?いいですけど…」
逆らわず、素直に目を閉じる。
「…んっ」
「ッ!?」
口に柔らかい感触と、良い匂いが鼻を刺激する。
- 69 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:17:10 ID:wtoUa49/]
- 慌てて後ろに仰け反る…が頭を押さえられ下がれない。
数秒後、解放された俺は口を押さえ、放心していた。
「ふふっ、ごちそうさま。」
それだけ言うと、俺の頭を軽く撫で、部屋を後にした。
一人部屋に残された俺は柔らかい感触が残る唇に手をあてたまま、秋音さんの出ていった扉を眺めていた。
今、秋音さんからキスされた…。
なぜ?
外国人風の挨拶か?
秋音さんなら……。
でも良い匂いだったな……。そんな事を考えながら天井を眺めていると、先ほど出ていった扉から夏美が姿を表した。
「なにニヤニヤしてんだよ、気持ち悪りーな。」
「お前は口が悪いな…夏美。」
金髪をポニーテールにした夏美がズカズカと部屋に侵入してくる。秋音さんと違い、ダンボールが倒れようが関係無しと言った感じだ
「頼むからダンボール倒すなよ?」
「どうせろくなもん入ってねーだろ。」
そう言うと、俺の後ろにある窓辺のふちに腰を降ろした。
頼むから後ろに落ちないでくれよ…。
「はぁ、なんか春兄の部屋じゃないみてーだな?」
不思議そうに周りを見渡している。
赤部家の中でも一番この部屋に入り浸っていた奴が夏美なので、少なからず想い出もあるのだろう。
- 70 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:17:40 ID:wtoUa49/]
-
「あ、そ、そうだ…春兄…ちょ…ちょっと横の余ってる小さなダンボール貸しッ、貸してよ。」
夏美が俺の横にあるダンボールを指差す。
「何かに使うのか…?」
何故顔を真っ赤にしているのか分からないが、言われたようにダンボールを手に取り、夏美に渡す為にもう一度夏美の方へと向き直る。
――チュッ。
「…んっ!?」
「なッ!?」
慌てて後ろに仰け反る。
今度は俺が仰け反ったのでは無く夏美が仰け反った。
「なっ、ななにな、ななっ!?いッ いきなりこっち向くんじゃねーッ!!!」
「ぶはぁッ!」
顔を真っ赤にした夏美の拳が眉間に直撃する。
「おまっ!?お前が近づいて来たんじゃねーか!窓側に居てた癖に瞬間移動みたいな事しやがって!!」
「わたっ、私は頬っぺたにッ!な、にゃッ、さっ、先に下の行ってるからからな!!」
からから?言いたいを言って走り去ってしまった。
「ったく、なんだよ今日は…。」
まさか一日に二回も…それも別の女性とキスするとは思っていなかった。
まぁ、夏美のは事故…だと思うのだが…。
「はぁ、まぁいっか…」
深く考えても仕方がない…。
ただ…夏美も良い匂いだったな…。
- 71 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:18:19 ID:wtoUa49/]
-
「何ニヤニヤしてるの春くん。」
第三の刺客が現れた。
「ふ、冬子。」
夏美同様、綺麗な黒髪を後ろに縛り、変態でも見る様な目で此方を見ている。
夏美とのキス…事故を見られたか?
そう思い冬子の顔色を伺いながらオドオドしていると、何も言わずに近くにある夏美が倒していったダンボールを片付けはじめた。
「……」
「……」
沈黙…思春期だからか、最近少し冬子と話しづらくなってきた。
冬子はあまり気にしていないようなのだが、何故か緊張してしまう。
「足の具合はどう?」ダンボールを片付けていた冬子が手を休めず此方に話しかけてきた。
「足…?あぁ、大丈夫だよ。今は全然痛く無い。」
ポンポンッと右足の太ももをゆっくりと叩く。
正直、今でも薬が無かったらかなり痛む。
それでもマシになってくれたほうだ。
意識を取り戻した直後なんて激痛、気絶、激痛、気絶の繰り返しだった。
それが十日間続いたのだ。
皆が言うには当時の俺の口癖が「もう、楽にしてくれ…。」だそうだ。
自分では覚えていないのだが、あれだけの痛みを受けたのだからそれぐらい口に出しててもおかしくはないだろう。
- 72 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:18:52 ID:wtoUa49/]
-
痛みがある程度和らいだ後、始めに気がついたのは右足の違和感。
いくら動かそうとしても空を切る様な感覚しか無く、顔を持ち上げて右足を見てみると、そこには太ももから先が完全無くなっている右下半身が目に飛び込んできたのだ。
パニックになった俺は繋がっているチューブをすべて抜き、ベッドから転落。
駆けつけた恵さんに見つかり、なんとか大事には至らなかった。
右足が無くなった事を受け入れるのに一年近く掛かってしまった…。
その一年間どれだけ迷惑を掛けてしまったか…。
感謝してもしきれない。
引っ越しするのは切断された右足、動かなくなった左足の治療の為。
なんでも完璧に治療するのに必要な設備が向こうには整っているらしく、親父はもうバリアフリー住宅の新居も購入しているそうだ。
そこまで決まっているなら、もう俺から口出す事は無い。
親父が俺の為を思ってしてくれたのだ、我が侭は言えない。
「それじゃ…皆呼んで運んでもらおっか。」
夏美が蹴り倒したダンボールを元に戻したようで、部屋から廊下に出て、吹き抜けから一階にいる皆に荷物を運び出すよう呼びかけている。
- 73 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:19:23 ID:wtoUa49/]
- 残念なのか喜ばしい事なのか…冬子とは秋音さんや夏美の様な事故は起きなかった。
(秋音さんは故意かも…)
「おぉ、それじゃ運び出そうか。春樹は端に寄りなさい。」
冬子の呼びかけに次々と人が部屋の中へ入ってくる。邪魔にならない様に動かない足を引きずり壁にもたれ掛かる。
「小さい箱は女性の皆お願いね。大きい箱は私達が運ぶから。」
父がそう言うと、後ろから見覚えのある男性が姿を表した。
「やぁ、春樹くん久しぶりだね。」
「えぇ!美幸ちゃんのお父さん!?」
何故か美幸ちゃんのお父さんがジャージ姿で部屋に入って来たのだ。
意味が分からず父の顔とおじさんの顔を交互に見ていると、おじさんの隣から美幸ちゃんがひょこっと顔を覗かせた。
「春樹先輩のお父様に提案したんです。私のお父さんはトラックの免許持ってるから役に立つって。だから手伝わせてるんです。」
「まぁ、そういう事だよ。それに、君には多大な恩があるからね。少しでも助けになりたかったんだ。」
「いえ、そんな…ありがとうございます。」
ジャージ姿で笑うおじさんを見て似合わないなぁ〜とずれた事を考えてしまった。
感謝しなければ…。
- 74 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:20:03 ID:wtoUa49/]
- 「それじゃ、荷物を運び出そっか。」
恵さんの声に皆が頷く。
各々身体にあったサイズのダンボールを抱えて部屋の外へと運び出していく。
自分の私物なのだが、運び出される荷物をどこか他人事の様な気持ちで眺めている自分がいた。
一つ、一つ部屋から荷物が消えていく。
その一つ、一つが春香との想い出なのに――。
「よし、これで最後ね…。」
最後の荷物を恵さんが手に取る。
「ちょっと、待って!!」
「えっ、どうしたのハル?」
俺の声にビックリしたのか恵さんが肩をビクつかせて此方に振り返った。
「その、ダンボールは…俺が運びます。」
別に大切な物が中に入っている訳では無い。ただ、雑誌だ。
「そう……はい。」
ただ、最後の春香との想い出は…。
「ありがとう…ございます……。」
自分の手でこの部屋から運び出したかった――。
恵さんや親父に手伝ってもらい部屋から出る。
廊下にでると部屋の中を視界にいれる事なく後ろ手に扉を閉めた。
多分、空っぽの部屋を見てしまうと、泣いてしまうから…。
父に抱えられながら、家を後にする。
普段なら車椅子に乗るのだが、今から俺は病院に帰らなければならない。
- 75 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:20:32 ID:wtoUa49/]
- 東京の病院に移る手続きはもう済ませた。
明日、病院の車で東京へと向かう。
この家を見るのはもう無いかも知れない…。
なるべく目に焼き付ける様に端から端まで見渡すことにした。
「……」
何処も想い出で埋め尽くされている…。
「それじゃ、私と夕凪さんは東京の新居へ向かうから。」
おじさんが運転するトラックに父が乗り込む。
「春樹、ちゃんと病院に戻らないとダメだからな?」
「分かってるよ…。それじゃ、気をつけて。」
荷物を乗せたトラックが新居に向かって走り出した。
これで本当に引っ越しは完了。
この家とはさようなら。
「それじゃ、ハル…病院に戻りましょっか?」
「はい。」
あまりこの場所に長居はしたくない…。
皆と別れの挨拶をし、恵さんが運転する車で病院へと向かった。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「それじゃ、私も帰りますね。」
「僕も大学があるから今日は帰るよ。」
「あぁ、二人とも気をつけて帰りなさい。」
赤部家の皆と鈴村先輩と別れを告げ春樹先輩の家を後にする。
春樹先輩が居なくなる……。
しかも東京……遠すぎる。
- 76 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:20:57 ID:wtoUa49/]
-
新幹線でいけば四時間ほどで着くがそんなお金も無い。
でも、春樹先輩の為…。
泣いて泣いて泣いて泣いて……また、泣いて。
やっと同じ気持ちを分かち合える人に出会ったのに…。
なんとか春樹先輩と放れない様に色々考えたのだが……何も思い浮かばず、今日この日を迎えてしまった。
明日になれば春樹先輩はこの町を去ってしまう。
でもどうする事もできない…。
まだ春樹先輩としたい事が山ほどあった。
大学だって同じ大学に入って楽しく……楽しく…。
「………大学…?」
ふと、頭にある事が浮かんだ。
春樹先輩と一緒に大学…でもそれは無理…。
それなら…。
「そう…大学…そうだ!」
なんでこんな簡単な事思い浮かばなかったのだろうか?
お父さんはちょっとウルサイかも知れないけど、私が頼めば大丈夫だと思う。
「よし…大丈夫!」
先ほどまで続いていた憂鬱な気持ちはどこへやら……私の心は晴れ渡っていた。
私が春樹先輩と一緒にいれる方法…それは―――――。
- 77 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:21:28 ID:wtoUa49/]
-
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「それじゃ、私は帰るけど、大人しくしてなさいよ。また明日見送りにくるからね。」
「あれ?もう帰るんですか?。」
夕食を食べているハルが不思議そうに此方に顔を向けた。
いつもなら、ハルが夕食を食べ終えるまで私は絶対に帰らないのだが、今日はそうも言ってられない。
秋音は学校に戻らないといけないし、冬子は受験勉強。
夏美はもう地元の大学が決まっているのだが、あの子は料理がまったく作れない。
だから夕食を作る人間が私以外いないのだ。
「えぇ…ごめんなさいね?」
「いえ、ありがとうございます。気をつけて帰ってくださいね。」
微笑むハルの頭を軽く撫で、病室を後にする。
病院の外に出ると、冷たい風が身体を包みこんだ。
マフラーに顔を埋め、目を閉じる。
明日からハルはいなくなる…。料理を作る事も朝早く起こす事も、顔を見る事も無くなる。
「……そんなこと、許される訳ないじゃない…。」
駐車場に停めてある車に乗り込み、鞄から携帯を取り出すとある人物へと電話をかけた。
『はい、もしもし?』
「もしもし……夕凪さん?」
- 78 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:21:56 ID:wtoUa49/]
- 『はい、どうしました?春樹がなにか迷惑をかけましたか?』
私の電話相手は、ハルの新居になる家向かったハルの父。
「いえ、大人しくベッドで寝てます。」
『そうですか…今日は手伝ってもらって本当にありがとうございました。』
「いえいえ、そんな他人行儀な仲では無いじゃないですか。」
今、私はどんな顔をしているのだろうか?
笑っている?
悲しんでる?
無表情?
目の前にミラーがあるのだが確認はしない。
『そう言ってくれると本当に有り難いです。貴女には色々と迷惑をかけましたから…。』
電話越しでも分かる、申し訳なさそうな声。
「いえ、私自身ハルから色々なモノをもらいましたから。」
『ははっ、それなら良かったです。それで、何故私に電話を?なにか用事があったのでは?』
「えぇ……夕凪さんは此方に帰ってくるのは何時ぐらいになりますか?」
『私ですか?多分夜の10時頃になると思いますけど…それが?』
今までずっとハルを見守ってきたのはハルの父ではなくこのワタシ。
「……二人でレストランに行って夕食でもどうですか?」
『……夕食…ですか?私は構わないですが…。』
- 79 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:22:39 ID:wtoUa49/]
-
「それでは此方に帰って来たら私の携帯に電話してください。」
『わかりました。それでは。』
「えぇ…また。」
電話を終え、鞄の中へと放り込む。
ふぅ…とため息を吐き捨て、ミラーに目を向ける。
いつもの見慣れている自分の顔。
安堵した私は座席の背もたれに背中を預け、窓越しに空を見上げた。
この時期には珍しい綺麗な満月が不気味に漂っている。
「…ふふ」
私がハルの母親。
母親になるにはどうすればいいか。
「……家に帰って皆の夕食の準備をしないと。」
――それに夕凪さんと会う準備も…ね…。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「はぁ〜あ、疲れた。」
夕食を食べ終え箸を雑に盆に転がすと、足を庇いながらベッドに横になった。
春香がいれば、間違いなく、「ご飯食べた後、すぐ寝るな!」と叩き起こされるだろう。
「いや、入院中だから流石に無いか……ってやめよ。」
いない春香との妄想をしだすと止まらなくなるので無理矢理中断する事にした。
まぁ、春香が頭の中からいなくなる訳では無いのだが…。
「はぁ…。」
この病院から退院した後、すぐにまた病院に入院。
本当に嫌になる。
- 80 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:23:29 ID:wtoUa49/]
-
足が無くなり、目が見えなくなり…この先俺はどうなるのだろうか?
いっそあの時春香のもとへ…そう思うのは助けてくれた人たちに失礼だ…それは分かっている…。
だけど、やっぱり考えてしまうのだ。
俺がいなければ……。
「……ヤメヤメ!アホらし。」
こんな事を考えていると春香が怒る。
それにまだ、春香と会った時驚かせる程の話題を持ち合わせていない。
「……もう少し生きてみよっか…。」
別に誰かに伝える訳では無い。
もう少し…もう少しだけ生きて春香を喜ばせる話題を探してみよう…。
夏美や秋音さんや冬子が結婚して子供でもできたら春香も喜ぶか…。
「ははっ、ねーか。」
布団を被り、目を瞑る。
明日…春香の顔を見てからこの町を離れよう…。
――春香と離れるんじゃない。
。
春香と会うための準備をするのだ。
「おやすみ…春香。」
なんとなく…なんとなくだが今日は春香が夢に出てきてくれる気がした。
そう…いつものように、無邪気で向日葵の様な笑顔を咲かせて――。
- 81 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/21(金) 23:24:07 ID:wtoUa49/]
- 投下終了です。
多分次が最終になるかと……それでは。
- 82 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 00:16:42 ID:OGU2CVFT]
- こうくるか
GJ
次でいよいよラストか・・・
- 83 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 01:19:15 ID:Ki5frS4k]
- GJ
ハッピー…というわけではないがそれでも落ち着きそうだな
ママンが不穏な動きを見せてるが…
- 84 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 03:05:33 ID:ZZHOKctw]
- いいね〜感動です。gj
- 85 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 05:35:47 ID:k7MZPGKD]
- ハル父を殺るつもりか?
- 86 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 07:31:35 ID:2/49hSk1]
- ハル父殺したら警察に捕まって結局離ればなれになるよな
- 87 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 07:47:58 ID:/tXMjh8r]
- ハル父と結婚じゃね?
まあ、あんまり予想レスつけるのはよそう
- 88 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/22(土) 12:26:46 ID:cuzOXPlf]
- しっかり予想してんじゃねーか。
- 89 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:27:18 ID:yzzNQhpG]
- 投下します。
- 90 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:27:52 ID:yzzNQhpG]
-
暖かい風が淡い桜の匂いを乗せてやってくる――。
外では皆、緊張した面持ちで歩いている。
新しい、何かをするために、それぞれ違う道に進むのだろう。
綺麗に着こなした制服、スーツ姿の人々を見ると、何処か懐かしく感じた。
「数年前は俺もあの中に混じってたんだよなぁ…。」
無くなった足を擦りながら呟いた。
――「それなら、松葉杖で歩いてみますか?」
いつの間に入ってきたのか…部屋の中へ入ってきた見慣れた女性は、コーヒーの入ったカップを微笑みながら俺に手渡した。
「おぉ、美幸ちゃんか。ありがとう。」
カップを受け取り、お礼の言葉を伝えると、満足したように俺の後ろに周りこみ、車椅子に手を掛けた。
「外は暖かいですよ?少し、花見も兼ねて散歩しませんか?」
美幸ちゃんの髪が優しく頬を撫でる。
…美幸ちゃんの癖なのだろうか?
後ろから話かけてくる時、決まって耳元で話しかけてくる。
吐息が耳にあたり、かなりくすぐったいのだが、美幸ちゃんは意識してやってるつもりは無さそうなので、注意はしていない。
「そうだね…それじゃ、少しだけ散歩しよっかな。」
- 91 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:28:44 ID:yzzNQhpG]
- 「はい、それじゃ少しだけ待っててくださいね?準備してきますから。」
そう言うと、静かに部屋の扉を閉め出ていった。
散歩の準備ってなんだろ…と思ったのだが、花見も兼ねてと言っていたので多分弁当か何かを作ってくれるんじゃないかと予想してみる。
美幸ちゃんにはよく夕食をご馳走になる事もあるので、別に料理に対して不安は一切無い。
父も美幸ちゃんの夕食は美味しいと絶賛していた。
本当に実際美味しいのだ。
「まぁ、美味しくて当たり前か…」
美味しくて当たり前……そう、美幸ちゃんは料理の専門学校へ通っているのだ。
なんでも都会にいかないとそう言った専門学校が無いそうで、ワザワザ東京の都内にある専門学校に通っている。
専門学校の近くにある女子寮を借りて、今は一人暮らしをしているそうだ。
美幸ちゃんが一人暮らし?大丈夫か?と始めは思ったのだが、今まで順調に一人暮らしを満喫しているようだ。
実際は二日に一回は俺の家に来るので、親離れして寂しいといった感じではないそうなのだ。
逆におじさんは大変で、東京に行くと美幸ちゃんが言った日、メチャクチャ喧嘩をしてしまったらしい。
- 92 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:29:23 ID:yzzNQhpG]
-
そりゃ、大事な一人娘が知らない土地で一人暮らしなんて反対するに決まっている。
だが、美幸ちゃんの強い思いもあり、仕方なく許可したそうだ。
それに俺の家が女子寮から近い事もあったのか、おじさんから美幸ちゃんの事を頼まれてしまった。
話し相手が少ない俺にすれば不満どころか有り難いの一言なのだが……。
やはり、少し気を使ってしまう。
俺にばかり気を回していたら美幸ちゃんの生活リズムが崩れてしまうんじゃないか……友達や彼氏もできにくいんじゃないか……この身体になってからよくそんな事を考えてしまうのだ…。
何度も優しくしてくれる美幸ちゃんにもたれ掛かってしまいたい…と思ったのだが、それだけは絶対にしないと自分自身に強く決めている…絶対に…。
「春樹先輩、準備できたので行きましょっか?」
少し、大きな鞄を肩に掛けた美幸ちゃんが部屋の扉から姿を表した。
薄いピンクのスカートに、肩にはいつもお世話になっているお礼として美幸ちゃんの誕生日にプレゼントした白い花柄のカーディガン。
胸元には桜の花の形をしたネックレスと、春を意識した服装が、えらく美幸ちゃんの柔らかい雰囲気を引き立たせていた。
- 93 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:29:51 ID:yzzNQhpG]
- 数年前より少し大人びた美幸ちゃんの顔……多分専門学校ではかなりモテるはずだ。
「……皆元気にしてるかな…」
ふと、赤部家の皆の顔が頭に浮かんだ。
赤部家の皆はどう変わっているのだろうか…?
恵さんの手紙では、秋音さんは確か一人暮らしを始め、今でも高校で頑張っているらしい。
冬子は女子校へと無事進学でき、ラブレターを日々貰って帰ってくるそうだ。(女子校なのに?)
夏美は髪の毛を黒く戻し、大学生活やらバイトやらを満喫しているとのこと。
皆それぞれ頑張っているようだが、たまに無情に会いたくなってくる。
新居に引っ越してきてから二年…あれから一度も赤部家とは顔をあわせていない…。
たまに恵さんからメールがくるものの、夏美や秋音さん、冬子の三人とは連絡のやり取りは一切していない。
俺もなんだか負い目の様なモノが足を引っ張り、連絡をとれずにいた。
それでも月に一度送られてくる、恵さんからの手紙が皆の健康を知らせてくれる。
それだけでも十分有り難かった。
鈴村はしょっちゅう電話やメールのやり取りをしている。
大きな休みの日は泊まり掛けで此方に遊びに来ることもしばしば。
いい友達を持ったと純粋に思える。
- 94 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:31:05 ID:yzzNQhpG]
- 「近くの公園にいけば多分、花見できますよ。」
「そうだね、それじゃ行こっか?」
慣れた手つきで車椅子に乗り自宅を後にする。
今では人の手を借りる事無く、日常生活を過ごせる程までに回復してきた。
残った足もゆっくりではあるが動かせる。
「それじゃ、出発しましょう。」
「うん。」
大丈夫、まだ頑張れる。
春香の喜びそうな体験はまだしていないけど、皆幸せに過ごしている。
足が無くても手で前に進む事はできる――。
左目が無くても右目で色々なモノが見れる――。
色々な人の幸せを見て触れて…春香に教えてあげよう。
その時…春香はどんな反応を見せるのだろうか?
ケラケラと泣き笑いながら転げ回る?
それとも、ずるいっ!って怒るかな?
「……。」
空を見上げ、雲の切れ端に目を向ける。
何処かから春香は見ているのだろうか?
それなら、春香に話しても「知ってるよ!」って言われるかも…。
「見てませんように…。」
「何がですか?」
空に向かって両手を擦り合わせる俺を、美幸ちゃんが不思議そうな顔で覗き込んできた
「ははっ、別になんでもないよ」
「えぇ〜、気になるじゃないですかぁ〜。教
- 95 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:31:31 ID:yzzNQhpG]
-
「ダメ、ヒミツ〜。」
「あ、春樹先輩っ、待ってくださいっ!」
俺が経験した「幸せ」を春香に話した時――――俺の経験したすべての初めてを、春香の初めてだと感じてくれたなら……まぁ、オマケで90点ぐらいなんじゃないかな。
後の足りない10点は春香に説教されながら考えればいい。
向こうでは、時間を忘れるほど話さなきゃならない事がいっぱいあるのだから…。
「ほら、美幸ちゃんおいていくよ。(もうちょっとだけ待っててな…春香)」
「待ってくださぁい〜!」
――あの大桜の木は今でもあの街を見守り続けているのだろうか?
桜の花びらに混じり空高く舞い踊る、桜の精。
俺達は桜に見守れ、産まれてきたのに――――ある日、沢山の桜が見守るあの街で、大切な人が天国へと旅立った。
俺はこの季節が嫌いだ…大嫌いだ。
ただ、大切な恋人が大好きだった季節…。
だからだろうか?
大嫌いなのに…。
大嫌いなのに毎年桜を見るのが待ち遠しくてしかたがない――。
- 96 名前:春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/23(日) 17:33:27 ID:yzzNQhpG]
- 長い間、ありがとうございました。短いですが本編はこれで終了です。
後は美幸ちゃん視点とお母さん視点の二つをサブとして書いて、この話は終了になります。
- 97 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/23(日) 17:33:50 ID:HRg2wFGa]
- おつ
- 98 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/23(日) 17:42:19 ID:fSPNs1ZL]
- お疲れ様。超GJ!
正直このスレには春春夏秋冬目的で見てたから終わりまで書いてくれて滅茶苦茶嬉しい。
お母さんの話どこいった?て思ったけど、また別に書いてくれるんですね。
楽しみにしています。
もう一度GJ!
- 99 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/23(日) 22:54:25 ID:6UtPJraK]
- 一年と1ヶ月の連載乙であります
春に始まり春に終わる綺麗な形になったな
番外編も期待してますぜ
しかしまあ…「死ぬために生きる」か…虚しいな。
- 100 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/24(月) 00:48:46 ID:byEBD6XE]
- お疲れ様&GJ!
次も期待しています。
ハルは引っ越したにも関わらず、始めから最後まで春香の事が忘れられなかったんだな。
死人を死ぬまで想う…か。
これも一つの依存だな。
一番悲しい事はハルの想いはハル自身が死ぬまで報われないことか…。
- 101 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/24(月) 03:18:56 ID:WebWbD8C]
- しかしまさかの大逆転
童貞のまま齢30を迎えた春樹が魔法使いになり、
回復魔法で目と足を再生し蘇生魔法で春香を生き返してハッピーエンド
美幸ちゃん唖然呆然
…ハッ、我ながら下らねー
- 102 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/24(月) 12:32:12 ID:mgP/tMxY]
- GJです毎回楽しませてもらいました
お疲れ様!
- 103 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/24(月) 23:50:44 ID:bDJ7V8w6]
- GJ!
ちょうど昨日存在を知って今まで読んでたけど
まさか今日終了したとはなんて奇遇だ
連載終了おめでとうございます
お疲れさまでした
- 104 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/24(月) 23:55:45 ID:tFzHqYJr]
- 去年の時は一時期もうスレが終わるかと思っていたら今こうして作品が完成するとは・・・
連載お疲れ様でした。良いもの読ませて貰いましたわ
- 105 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/25(火) 00:42:34 ID:m5MZb/v1]
- なんか尻途切れで終わった感じかな…
問題が何も解決してないのが原因かも
- 106 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/25(火) 18:59:43 ID:wWS9UN2y]
- そこはまぁ外伝も全弾落とされてからということで
- 107 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/25(火) 20:14:39 ID:mzf879EL]
- 夏美に救いを!!
- 108 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:33:24 ID:ao4kpvX8]
- 春春夏秋冬、山下美幸短編投下します。
- 109 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:35:46 ID:ao4kpvX8]
-
「春樹先輩、ゆっくりでいいですからねぇ〜。」
春樹先輩の両手を握り、ベッドからゆっくりと立たせる。
「ふぅ…ふぅ…ッ…ふぅ…。」
荒い息を大きく吐き捨て、私の手を握り一生懸命立ち上がろうとする
立たせる…と言っても春樹先輩が地に足をついて立っている時間はほんの10秒そこら。
それ以上立っていると体重に耐えきれず、足が震え倒れ込んでしまうのだ。
両足なら普通に立てるのかも知れない。
しかし、春樹先輩は片足しか無い。
残っている左足も最近やっと指先を動かせるまでになってきたが、事故の後遺症で殆ど動かない。
だから私が毎朝、毎夕の二回春樹先輩のリハビリに付き合っているのだ。
「くっ、ダメだッ。」
そう苦しそうに呟くと、ベッドがある後ろにではなく、私の方へと倒れかかってきた。
倒れてきた春樹先輩を私は力強く踏ん張り、優しく春樹先輩を抱き抱える。
「ご、ごめん。」
「いいえ、大丈夫ですよ?それじゃもう一度。」
春樹先輩は足に力が入らない。だから後ろに倒れる事も前に倒れる事も自分の意識では無理。
私がわざと、春樹先輩が前に倒れてくるよう、春樹先輩を少しだけ前のめりで立たせているのだ。
- 110 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:36:11 ID:ao4kpvX8]
-
――理由は一つ…春樹先輩には私が必要だと分かってもらうため。
「ッ…ご、ごめん。」
「いいえ、謝らないでください。私はやりたくてやってるんですから。」
再度倒れ込んできた春樹先輩を優しく抱きしめる。
数秒抱きしめた後、名残惜しさを残し、ゆっくりとベッドに座らせた。
「一時間経ちましたので、今日はこれで終わりにしましょうか。」
春樹先輩のリハビリは最長で一時間。
今日は少しだけ体調が良かったので、一時間リハビリをする事ができた。
「ふぅ、忙しいのに毎日ごめんね?」
春樹先輩にタオルを手渡し、車椅子を春樹先輩の元へと寄せる。
今から朝食を食べる為に、リビングへ降りる。
ここは二階…本来なら私一人では春樹先輩を担いで階段を降りるなんて無理な話なのだが、流石はバリアフリー住宅。
車椅子一台と、付き人一人が乗れる程のスペースがある、エレベーターがついているのだ。
壁沿いにも手すりが備え付けられているが、今はまだ使う予定は無い。
春樹先輩と一緒にエレベーターで一階へと降り、リビングへ入ると、私と春樹先輩は二人仲良くキッチンへと向かった。
これから二人で料理をするのだ。
- 111 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:36:35 ID:ao4kpvX8]
-
「簡単なもの作っちゃいましょう。」
鞄から私専用のエプロンを取り出し、身につける。
春樹先輩にも家にあるエプロンを着けてあげる。
「ありがと。それじゃ、俺は邪魔になるからサラダでも作ってるよ。」
そう言うと、お隣さんから貰った野菜を冷蔵庫からだしてきた。
邪魔どころか春樹先輩と一緒に並んで料理するなんて私の幸せそのものだと春樹先輩に知ってもらいたです…などと直接、春樹先輩に伝える自信は無い。
しかし、私は今の状態でも十分幸せなのだ。
春樹先輩に毎日手料理を振る舞い(おじさんや春樹先輩には料理の練習だと言ってキッチンに立たせて貰っている)
週に一度、春樹先輩の部屋を掃除し、毎日春樹先輩のリハビリに付き合う。
お風呂は残念ながら、毎日おじさんが入れているけど、どれも他人には頼めない特別な事ばかり。
(一度お風呂のお手伝いをさせてほしいとお願いしたのだけど、却下されてしまった…。)
いまだにおじさんから、「バイト代だとおもってこれを受け取ってほしい。」と言われ、お金を渡されそうになるが、(無論受け取らない)そんな事を差し引いても私は春樹先輩やおじさんには誰よりも信用されているのだ。
- 112 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:37:16 ID:ao4kpvX8]
-
「美幸ちゃん、サラダできたよ〜。」
料理する手を止め、春樹先輩が持つボウルの中を覗きこむ。
ボウルの中には色とりどりの野菜が鮮やかに入っていて、所々赤いプチトマトが可愛らしく顔を覗かせていた。
「はい、それじゃあボウルごとテーブルまで運んでください。」
私の声に、OKと一言返すと、左手でボウルを――右手で車椅子を器用に動かし、慣れた手つきでテーブルへと車椅子を進めた。
「……」
その背中姿をジーッと眺める。
転ばないか心配…だけど私は春樹先輩を手伝わない。
そうしないと、「二人」の為にならないからだ。
それに変に手助けをすると、気を使っていると勘違いされ、春樹先輩に余計に負担をかけてしまう。
「それじゃ、早く食べて少し外を散歩しましょっか?」
手に持った料理をテーブルに並べ、春樹先輩の反対側へと腰を降ろす。
本来、おじさんや春樹先輩と三人で食べる時、私の席は春樹先輩の隣なのだけど、朝はおじさんがいないので仕方なくおじさんの椅子へ座っているのだ。
「俺は暇だから大丈夫だけど…。美幸ちゃん用事ないの?」
「私も専門学校みですから暇です。」
「いや専門学校とかじゃなくて…。」
- 113 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:37:44 ID:ao4kpvX8]
-
「?あっ、友達は大学でしか話さないので問題無いです。それより早く食べちゃいましょう!駅の細道を抜けた所に綺麗な川を見つけたんです。」
「あ、あぁ…いただきます。」
何か言いたかったのだろうか?
理由を聞こうとしたが、春樹先輩が料理に手をだし始めたので、やめる事にした。
「あっ、そういえば春樹先輩!お仕事どうでしたか?」
食べる邪魔にならないよう、春樹先輩の食べる手が止まったのを見計らい、話しかけた。
――3ヶ月前から春樹先輩はおじさんに紹介された会社で働いている。
私は反対なのだが、身内では無い私からは口出しできなかった…。
「えっ?あ、うん、忙しいけど楽しいよ。」
私の声に対して手に持ったお皿をテーブルに置き直し、答えてくれた。
春樹先輩は食べるのを止めた訳ではなく、カラになったお皿にサラダを入れようとしたようだ…。
こういう春樹先輩の小さな行動を予測できない自分に、苛立ちを覚える。
「あまり無茶しないでくださいね?怪我とか…。」
「ははっ、大丈夫だよ。だって事務だよ?怪我する様な事しないよ。」
「そうだといいんですが…。」
- 114 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:38:12 ID:ao4kpvX8]
- 笑いながら、おどけた様に話す春樹先輩を見て少しだけホッとし……大きく不安を煽られた――。
春樹先輩が少しずつ、確実に自分に自信を取り戻しつつある。
本来なら両手をあげて喜ぶべきことなのだろう…。
しかし、もう一人の私が心に危機感を伝えてくる。
もし、春樹先輩が昔の様に誰も頼らず自分の力で生きていけるようになったら――春樹先輩は私に何を求めてくれるのだろうか?
無い……私の存在理由が無くなってしまう――。
「あっ、そうだ。俺さぁ〜、近いうちに一度義足ってやつ試してみy「やめたほうがいいんじゃないですか?」
食事を口に運びながら冷たく言い放つ。
私の声の低さに驚いたのか、春樹先輩が再度掴んだ箸は、空中でピタッと止まっていた。
「な、なんで…?」
空中で止まっていた箸をゆっくりとテーブルに置き、オドオドと問いかけてくる。
「だって義足って神経繋ぐんでしょ?物凄く痛いって聞くし。春樹先輩耐えれるの?私の知り合いに義足着けてる人いるけど、着け始めは気絶するほど痛いっていうよ?」
敬語を使う事も忘れ春樹先輩にあることないこと伝える。
- 115 名前:春春夏秋冬〜山下 美幸〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:38:38 ID:ao4kpvX8]
-
「ま、まじで?それじゃ、やめたほうがいいな…。」
最後の「気絶」と言う言葉が効いたのだろう…春樹先輩にすれば事故直後のトラウマを思いだしてしまったかも知れない…。
恐怖の色に染まる春樹先輩の顔を見ていると心苦しく……。
「大丈夫ですよ、今のままでも…。私がいるじゃないですか。」
――どこか心地いい。
「ははっ…は…ありがとう。」
私の発言に照れた様に頬を少しだけ赤らめると、軽い苦笑いを浮かべた後、再度食事を食べ始めた。
「…」
春樹先輩が食べ始めるのを見た後、私もすぐに食べ始める。
――春樹先輩は間違いなく、心の拠り所として無意識だが私を必要としだしている。
私はそれを優しく迎え入れるだけ――決して私から春樹先輩を欲しない。
「あぁ、それと美幸ちゃん。」
「はい、なんですか?」
私と春樹先輩は間違いなく近づいている――。
「もう先輩じゃないんだから、春樹先輩って呼ばずに普通に名前で呼んでもいいよ?」
一歩ずつ、確実に――。
「……ふふっ。わかりました、春樹さん。」
ほら、また近づいた――――。
- 116 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:42:22 ID:ao4kpvX8]
- ありがとうございました、投下終了です。
まぁ、サブなんで短いですが…。
後はお母さん編を書いて終了。
- 117 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/25(火) 22:43:56 ID:ao4kpvX8]
- 保管庫いつも早い更新お疲れ様です&感謝。
これからも頑張ってください。
- 118 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/25(火) 22:51:47 ID:GBy0zaNt]
- GJ!
なんかここからがすごいよみたくなってきた
- 119 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 06:37:43 ID:V9x5euVS]
- GJ
確かにこれから美幸と幸せになる話が読みたいwww
- 120 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 10:08:58 ID:AqEbjM49]
- こうやってだんだんと美幸無しでは生きられないように改造されていくのか・・・
GJ!
- 121 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:22:36 ID:5b/2wC9v]
- 持病の腰痛が再発してたため、遅れたけど>>13の続きです。
ちなみに今回は少し長めなのでとりあえず出来た分だけ投下します。
- 122 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:23:28 ID:5b/2wC9v]
- ゴキブリを見たらその十倍はいると思え。格言めいた言葉が俺の頭の中で響く。
どんなに用心をしても避けられないこともある。安っぽいビジネス書にあるような標語も浮かんだ。
そうだ完璧に対処したとしてもわずかな綻びから全てが瓦解することがある。だからこそ油断しないように、
期待を抱かずにただ最悪を思い浮かべて対応していかなければならない。
そして俺はその最悪を微塵の油断も幼馴染への信頼も考慮せずに認識した。
体育館でステージ上で、秋のコンクールに向けた新作劇への稽古がはじめられていた。
台本を持ってまるで場違いのパーティに来てしまった少女のように居心地悪そうな顔
で稽古をする優香の横に男が立っている。
優香よりも頭一つ抜き出た長身と爽やかな笑顔、そして舞台上で圧倒する存在感をかもし出して、
東田宗助が縦横に台詞を飛ばし、また疾駆する。
- 123 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:24:30 ID:5b/2wC9v]
- 彼は同じだ。瀬能優香と同じ空を飛び、地を這う虫けらたちの情景を受けるべき人間だ。
だからこそ俺は危険視するのだ。 せっかく落とした蝶をまた綺麗な空へ引っ張り上げかねない彼のことを……。
「ねえ、瀬能さんは何でいつも困った顔してるの?」
稽古が終わり、ステージからそそくさと降りようとした優香に東田が声をかける。
「えっ…そん…な…ことないよ」
「うーん、そうかな?なんか瀬能さんは変にビクビクしてる気がするんだよね、なんか小動物みたいで可愛いんだけどさ」
「しょ、小動物って……それ、失礼だよ」
予想外の例えに優香が抗議すると、
「え〜、だって瀬能さん可愛いじゃん、なんかリス?みたいな感じ?」
ああまずい、こいつは非常にまずい男だ。 なかなかに失礼なことを言っているが、そんな事を言ってもまるで嫌味ではなく、
むしろ好感が持たれるようなタイプだからだ。
案の上、優香もどう反応していいのかわからないでおろおろとしている。
「あ〜、ゴメン…調子乗りすぎちゃったわ。ほら俺、転校してきたばかりだからさ、早いとこ打ち解けようと思って…
ちょっと調子に乗りすぎちゃったわ」
後ろ頭をポリポリとかきながら、ペコリと頭を下げる。 一つ一つの仕草が爽やかに誠実な人間だと思わせる東田という男は
つい先週この高校に転校してきたばかりだったが、 人当たりの良さに加え、長身と決して悪くないルックスである以上人気者に
ならないはずが無く、すでにかつての優香のように演劇部を意識的か無意識かはわからないが掌握しつつある。
「ああ…私、ちょっと着替えてくるからまた後でね」
わざとらしい芝居をして更衣室に駆けていく優香を見送って、
「やべえ…嫌われちった」
と憎めない仕草で笑う東田に全員が笑った。
さてと…どうしたものか。
笑う集団の中で一人俺だけが天井を見上げて思案していた。
- 124 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:25:33 ID:5b/2wC9v]
- 「きょ、今日も疲れたねえ…」
瞳に怯えと媚びを込めて優香がぎこちなさ気に自転車を押している。
「ああ、そうだね……」
簡潔に返す。 俺は基本的に優香の言葉にはやや冷淡に返すようにしている。 別に嫌いなのではなく、こういう会話をすることで
彼女が俺に対して慣れ、昔に戻らないようにするためのささやかな努力だ。 もちろん優しくするときもあるし、情熱的に抱きしめること
だってある。
要はバランスなのだ。 本来は蝶であることを優香に気づかせない為に醜い蜘蛛な俺はまるで毒を注入するように色々な努力をしている。
「と、ところで東田君ってお、面白い人…だよね?」
チラリとこちらを伺うように優香が視線を動かしたのを感じ、俺は内心で大きなため息を吐く。
ああやっぱりだ。 優香は俺を試している。 演劇部の面々の前で交わされた反吐の出そうなあの会話を俺も聞いているのを知っていて、
ある種の反応をすることを期待しているのだ。
「そうだね、面白い奴だね。それに演技も上手いし、なんというか華があるっていうのかな?今まで見たことない人間だね」
ニコリと笑って東田を賛美する。
「え?う…うん、そうだね。転校してきたばかりなのにもう主役になってるんだもん…ね」
がっかりしたような、困ったような表情で優香が同意する。
期待していたような反応では無かったのだろう。
- 125 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:26:25 ID:5b/2wC9v]
- 当然だ。 誰が期待通りになんかしてやるものか! 俺はぎゅっとポケットの中に入れた拳を握り締める。
ひんやりとした焦りが胸をわずかに刺激する。
優香はおそらく俺に嫉妬してほしかったのだろう。 部で孤立していた自分を、破滅しそうだった自分を
助けてくれた幼馴染…そして己が依存している存在である俺が東田との会話でわずかにでも嫉妬してくれたら
ということを期待しているのが態度で見て取れた。
優香は欲しかったんだろう、証拠を。 近藤恭介という人間が自分と同じように愛し、依存してくれているということを。
好意とは一方向ではなく常に相方向なのだという言葉が昔に読んだ本に載っていた。
一方向の好意の発露は何も無い空間にボールを投げるだけのただただ不毛な行動であり、
投げたボールを返してくれる存在がいなければやがては狂気に落ちてしまうほどの孤独をもたらす。
愛情依存も同じことだ。 優香は俺に依存しているが、同時に俺が優香自身に依存しているという確信が無ければ、
自分が不毛なボール投げをしているのではないかという不安がいつまでも消えないのだろう。
だからこそ優香は婉曲に俺を試したのだ。 ボールを投げたのだろう。
そしてだからこそ俺は優香から投げられたボールをあえて無視した。
- 126 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:27:14 ID:5b/2wC9v]
- 「今日は用事があるから、また明日ね」
「えっ?で、でも…その…」
口ごもった様子で今日は離れたくないというのを優香は全身でアピールしていたが、それに気づかないフリをしてさっさと自宅の中へ入る。
さすがに付き合い始めて二ヶ月近く立って、ほぼ毎日していた身体の触れ合いは全盛期の三分の一位になっていたが、それでも何だ
かんだと俺の部屋でまったりと毎日過ごしていた。 玄関のカギを閉めてそっと郵便受けから外を覗くと、恥ずかしがりな子供のようにモジモジ
と玄関前に何分か立って、何度も呼び鈴を押そうするポーズをとるが、それを止め、やがて諦めたように帰っていった。
部屋に戻ってベッドの上に寝転ぶ。 何度も優香を抱いた、二人分の体液が交じり合って独特の香りがするベッドの上で俺は深呼吸をする。
正直に言って優香と東田との会話に嫉妬はしなかった。むしろ当たり前のようにそれを感じている自分がいたのだ。
そう、蜘蛛よりも蝶は蝶同士で重なり合うのが似合うのだと言うことを改めて認識した。 俺は蜘蛛…、蝶を騙してその身体を食らっている愚かで下劣な。
蜘蛛が蝶に嫉妬するだろうか?
「そうだ…俺は…所詮…」
ブツリと途切れるように視界が暗転する。 生まれて初めて寝る瞬間というものを実感した。
- 127 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:27:41 ID:5b/2wC9v]
- 夢を見た。 おそらく悪夢だろう。 何故そう思うのか? それは俺の目の前で優香が東田とセックスをしているからだ。
俺はそれを淡々と見つめている。 なぜか「ああそうか」という言葉を発してこの状況に納得している。
優香は東田の身体に組み敷かれ、俺のときとは違う声を上げる。 それは淫欲を貪るような声ではなく、幸せそうな、本当に幸せそうなあえぎだった。
東田は優香に優しくキスをし、優香も照れたように笑ってキスを返す。 それは俺が彼女を罠にはめた日から見たことの無い、とてもかわいらしい笑顔だった。
そこでまた「ああそうか」という言葉が出てきた。
これは現実だ。 夢の中で見ている現実なのだ。 不思議に納得して俺はその場に座り込んで彼らを見ている。
恋人たちの甘い、愛情にあふれたセックスというやらを俺は見させられている。
そしてこれが東田と優香が付き合った先の未来の現実なのだということを確信した。
東田と付き合った優香はきっとこんな風に奴に抱かれ、幸せをかみ締めるのだろう。
俺の時とは違う。 段違いの愛を感じ、愛し合いされる普通で、理想的な生活を……。
- 128 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:28:04 ID:5b/2wC9v]
- なんてこった…」
目が覚めて発した最初の一言はまさにそのとおりだった。
優香と俺の匂いが混ざったベッドの上で目を覚ました俺は泣いていたのだ。
あんな夢をみただからだろうか? しかし別に俺は悲しいという感情は抱かなかった。
ただただ、太陽が東から昇るのを見たような無感動な何かをかみ締めていただけなのだ。
まぶたが少し腫れぼったいまま何気なくポケットに手を入れると携帯が震えた。
優香からのメールだった。内容は単純に一言「おやすみ また明日ね」だけだった。
- 129 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 15:37:31 ID:HI1D5pCa]
- 規制されちった。 とりあえず回線繋ぎ直しました。
とりあえず今日はここまで、続きが出来たら投下します。
それと>>15は文章一番大事なところなのにミスってマジ落ち込みました。
でも指摘ありがとう。
感想、希望あったらよかったらレスしてください。
それではまた後で
- 130 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 17:17:40 ID:V9x5euVS]
- うわああああGJ!!!
続き期待してる
- 131 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/26(水) 17:47:39 ID:NX8bL/dh]
- GJ!良い感じにこじれてる
次回も期待
- 132 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/26(水) 23:45:46 ID:GVLfSUAc]
- 良いぞ良いぞ
- 133 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/27(木) 02:36:44 ID:djKBqXp1]
- ライバルが出現すると、彼氏の方を応援したくなって来るな。
- 134 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/27(木) 03:03:24 ID:wENuN3qI]
- がんばれ京君!
その下衆いところが大好きだ!
- 135 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/27(木) 13:15:03 ID:2VcZ8kPg]
- うむー。応援してます。
どっちの結果になろうと面白いが。やっぱ歪んでいようが幸せになって欲しいな。
- 136 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/27(木) 22:35:02 ID:T+3blxzL]
- NTR属性は無かったはずなんだが、この主人公は破滅してほしいw
- 137 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 07:30:57 ID:BQXdMF3z]
- この主人公は下種過ぎて自分と重ねられないからどうなってもどうでもいい
- 138 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 09:33:16 ID:UlSr+Kt+]
- >>137
こぉの下種野郎!
- 139 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 17:39:36 ID:7KdYAYCj]
- 俺的にはまともになって彼女と幸せになってほしい
- 140 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 22:37:59 ID:29fYAtO/]
- こういう暗い話好み
- 141 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:53:52 ID:DcTUULLx]
- あまり進んでいないけど、少し投下します。
>>128の続き。
- 142 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:54:32 ID:DcTUULLx]
- 朝になって登校すると、下駄箱のところで後ろから声をかけられる。
「お、おはよう…恭介」
「おはよう」
学校内では優香には恭介と呼ばせている。 元々入学当時からそう呼ばれていたので、
今更苗字にするのも変に疑われると思ってそのままにしているのだ。ただし二人っきりの時には恭君と呼ばれているが……。
俺は特に名前を呼ぶことはない、たまに優香と呼ぶことはあるが、それも稀だ。
「それじゃ…」
靴箱に靴を入れると足早にその場から立ち去ろうとする。
「えっ?あっ…そ、それよりもちょっとお願いが…」
「なんだい?」
「そ、その…きょ、今日一緒にお昼…食べない?わ、私、お弁当作って…きたんだけど」
右のつま先をトントンと落ち着かなく床でたたきながら上目遣いでこちらを見上げる。
「悪いけど…今日は自分で持ってきてるから、それに優香は主役だから昼休みも部室にいかなければだろ?」
有無を言わさず断る。 瞳に失望の色が滲んだ優香が視線を下げたところで、
「おはよう!瀬能さん」
元気で爽やかに東田が声をかけてくる。
「あっ…おはよう、東田君」
振り向いた優香を見て、一瞬東田が驚いた顔をする。
「どうしたんだよ?目が超潤んでるぜ」
顔を近づけて覗き込むように優香に近づく。
「な、なんでもないの!ちょっと目に…ゴミが入った…だけだから」
「…それじゃ俺は教室に向かうよ、また部活で」
ゆっくりとその場を後にする。 後ろに強い視線を感じながら…。
- 143 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:55:28 ID:DcTUULLx]
- 放課後、俺は部室へと向かうために帰り支度をしている。
気が早い奴はすでに教室から出て行き、チラホラと何人かが楽しそうに雑談をしている。
ちなみに俺のクラスには演劇部に所属している人間はいない。 反面、三クラス程離れた
優香のクラスには同学年の演劇部員殆どが所属している。 コンクールで優勝した時には大して多くなかった
演劇部員は優勝後、主に優香のクラスの人間がこぞって入部したため、高校の演劇部としては中々の人数になったのだそうだ。
そのため、人が余りまくっており、雑用くらいしかすることの無い俺が遅れたところで誰も気に留めないので、ゆっくりと考えながら帰る支度をする。
何を考えているか? もちろん優香とのことだ。
今まで優香から積極的に恋人らしいことを求めてくることはなかった。
それは俺がそういうことを嫌っていると言うことを暗に明に主張(とはいってもせっかく騙して作り上げた関係に
わずかの歪みが発生しないためという保険だったんだが)していたので、互いに親しいそぶりを見せないようにしていた。
だが今回、優香は俺を昼食に誘い、あまつさえ手作り弁当さえ作ってくるというまるで恋愛の熱に浮かされたかのような変化
を見せた。
その行動が俺が維持することに腐心し続けてきた関係に綻びが発生したことを示す証拠だと言うことに気づいて俺はため息をつく。
- 144 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:56:44 ID:DcTUULLx]
- 急に変わった優香の行動、その証左は彼女にわずかな迷いが生じてきている。
いやここで言うならば惑わされると言うべきか、それとも惹かれているというべきなんだろうか?
どだい釣り合わない俺と優香を結び付けているものは孤独と孤立への恐怖以外にほかならない。
あとはわずかに幼馴染としての親しみくらいか。
そんな薄っぺらい関係なんてものは仲の良い友人が一人でもいればあっさりと突き破られてしまう。
それこそ水に溶けるティッシュペーパーよりも儚く、脆弱なものだ。
まあ所詮は地を這う虫と美しく舞う蝶の無理やりな関係だからな。
自嘲気味に笑い、外を見る。 夏が近いためかまだまだ夕日は西の空にあって鮮やかなオレンジ色を見せている。
だがそれもあと数時間で完全に沈み、当たり前のように暗い夜がやってくる。 俺と優香の関係もやがてはそうなるのだろうか?
煌々と照らし照射される光が教室内をただ染め上げていた。
- 145 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:58:03 ID:DcTUULLx]
- 結局、結論は出ないまま俺は演劇部の部室へと向かっている。
さすがに部活を丸々サボルことになるのは不味いのでやや重い足取りを感じながら廊下を歩く。
部室の前まで来ると、どっとした笑いが聞こえた。 特に意識せずに扉を開けると、
楽しそうに笑う部員たちと彼らを笑わせている東田が目に飛び込んできた。
「……何の話をしてるんだ?」
ちょうど一番近くにいた後輩に質問する。 ちなみに名前は覚えていないし
向こうも俺の名前など知らないだろう。
「ああ、東田先輩が昔、嘉納姉妹は三人いたって話を出してきて、皆がそれを否定したらそんなはずは無いってエキサイトしちゃって…あんな感じになってます」
後輩が指差した先には東田が大げさなヂェスチャーで、
「だからまずオカマが整形してキャタピラをつけたのが長女で、ガンタンクみたいなおっぱいをしてるのが次女、ここまではわかるよな?
そんでもってその下にもう一人いたんだよ。タイの石像みたいな姉ちゃんがさ」
それらを説明するために東田がそれぞれのモノマネをするが、それがあまりにも似ていない上にどれが長女で次女で三女なのか違いがわからないため
さらに必死でやるからみんな大笑いしている。 チラリと確認すると優香も少し離れたところで座ってクスクスと周囲に気づかれないように笑っているのが見えた。
一瞬だけ視線が合う。 ぱあっと明るい顔をして周囲に気づかれないようニッコリ笑って手をこちらに振ってくれた。 俺も表情を変えずにほんの少しだけ手を振り返した。
それを見て、顔を赤くしたがすぐに戻して優香が視線をすぐに戻す。
ああまったく完全に完膚なきほどに最悪の気分だ
- 146 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/28(金) 23:59:28 ID:DcTUULLx]
- とりあえず今日はここまで
続きが出来たら投下します。
どんどん下衆い話を書いていくのでよろしくね
- 147 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 00:30:43 ID:ZhDG1zrH]
- まさかのNTRなのか…?
- 148 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 00:35:29 ID:tSKLMu8u]
- >>147
NTRは好きだけど、この話のヒロインではしないつもりだよ。 その代わり主人公の方はその限りではないかも。
主人公を寝取られた。あるいはそう思い込んでしまったときのヒロインの行動は?ってのには興味があるよ。
一応俺としては純愛のつもりで書いているんだけどね、やり方がちょっとアレなだけで……。
やっと展開の続きが思いついたので、明日か明後日には少し投下できるかもしれません
- 149 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 00:52:08 ID:ZhDG1zrH]
- >>148
気を悪くしたら済まない。これからの彼氏の活躍(?)に期待していますな。
- 150 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 00:57:25 ID:tSKLMu8u]
- >>147 気にしなくていいよ。 感想書いてくれるだけでありがたいからね
こんどNTRモノ書いてみようかな? 別のスレには少し投下してるんだけどね。
- 151 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 02:24:40 ID:+QlWaSYR]
- NTRはやめてホスイ
- 152 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 03:37:58 ID:94xK3/sN]
- NTRは嫌だがこの主人公は蹴り飛ばしたいw
- 153 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 12:45:22 ID:cuUPeJ6e]
- GJ!思う通りに投下していいと思うよ
ただ、NTRは好き嫌いがあるので投下前に注意書きが必要
- 154 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 13:07:16 ID:djhqnEK0]
- スレチではあると思うんだがNTRの良さって何?
- 155 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 13:37:56 ID:q3zRMoJW]
- >>154
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1267189694/
ひたすら語ってるからみてくるといいとおもう
- 156 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 20:08:48 ID:+/QaBGkS]
- NTR書くならNTRスレに投下してくれればおk
- 157 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:42:43 ID:bghgZ+xu]
- お母さん編投下します。
美幸編より少しだけ長いかな?
- 158 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:43:20 ID:bghgZ+xu]
- 東京――コンクリートに囲まれ、温もりを感じられない場所。
風もどこか冷たく、私を拒んでいるよう…。
私が田舎者だからだろうか?
そういった感情がより一層強く感じとれた。
――その、東京都内を今、私達は車を走らせある場所へと向かっていた。
「しっかりしてください。もうすぐ祐司さんの家ですよ?」
運転席に座る男性――私が祐司さんと呼ぶ男性に私は話しかける。
「あ、あぁ…分かってるよ。」
落ち着かない様子でタバコを吸い、ハンドルに指を掛け、トントンッと人差し指でリズムを刻み続けている。
家を出た時からずっとこの調子…。
本当に大丈夫だろうか?
「はぁ…。」
運転する彼から目を反らし、窓越しに外へと目を向ける。
この大都会に私の息子――ハルが生活をしている。
数年前に大怪我を負い、いい環境で治療に専念したいと隣に座るハルの父親である祐司さんが独断で決めた事。
当時、私は息子を奪われた怒りで周りが見えなくなりかけたが、父親である祐司さんがハルを思って決めた事なので渋々同意せざるを得ないかったのだ。
それに離ればなれになったからといって、私がハルの母親では無くなると言う事では無い。
- 159 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:44:05 ID:bghgZ+xu]
-
――私はハルの唯一無二の母親なのだ。
産んだのはあの人かも知れない…。だけど育てたのはワタシ。
「そう……私よ…。」
「えっ?」
口に出てしまったようだ…私の声に反応した祐司さんが、此方に顔を向けてきた。
「いえ、なんでも。」
祐司さんにニコッと笑いかけ、再度外へと目を向ける。
……私が考えている事を祐司さんに言えばどうなるのだろうか?
多分…言葉の通り「終わり」だろう。
そんな事を考えながら怪しく光る夜のネオンに酔いしれていると、ネオン街から道を反れ、住宅街の中へと入っていった。
一本道を曲がれば、私達が住む場所となんら変わらない光景が広がっていた。
騒がしいのは中心部だけのようだ。
「ほら、見えてきたよ。」
――住宅街の中を走り続けること20分。
オシャレで綺麗な一軒家が姿を表した。
周りにある他の家とは違い、少し明るい雰囲気の家。
ハルの精神上考えてこの家を選んだそうだ。
「ハル…。」
ハルがこの家にいる…。
家前に車を止め、明かりがついている部屋を見上げる。
時刻は夜の22時。ハルはまだ起きているようだ。
車の助手席からを先に降り、玄関へと足を運ぶ。
- 160 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:44:39 ID:bghgZ+xu]
- 祐司さんは車を車庫に入れた後、追いかけてくるだろう…。
待っててもいいのだが、早く間近でハルの顔を見たい。
「…」
無意識のうちに右手がドアノブへと伸びる。
多分鍵が掛かっているだろう…。
だけど一応確かめる為に、ゆっくりとノブの回してみる。
―――ガチャッ。
私の心が酷く揺れた。
古家とは違い、ドアの軋む音なんてしない。ゆっくりと扉を開け、中へ入る。
数年前…ハルの家にコソコソ入った日を思い出す。
始めに視界に入ったのは綺麗に整頓されたスリッパ。
ハルがこの家に越してきてから数年経つが、あまり生活感が感じ取れない。
この家に本当にハルがいるのだろうか?
ハルが入院してる時、よく病院には様子を見に行っていたのだが、この家に来るのは今日が初めて。
やっと慣れてきた生活を壊したくないから…と祐司さんから言われていたのでこの家に来る事ができなかった。
「…」
静かに耳をすませ、声の確認をする。
――さ――じゃな―い―。
――や――です――よ―。
二階から聞こえてくる二つの声。
一つは間違いなくハルの声。
もう一つの声は…。
視線を下に向け、靴を確認する。
- 161 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:45:10 ID:bghgZ+xu]
-
「女の子…?」
ハルの靴の隣には、ピンクの可愛らしいパンプスが並べられている。
こんな時間に女の子を部屋に連れ込んでるのか……。
「……」
ハルも年頃。
彼女の一人や二人欲しいのだろうけど…。
やはり東京に連れていかせるべきでは無かったと後悔してしまう。
だが、今更悔やんでも仕方がない。
「あれ、玄関開いてたのか?」
車庫に車を入れてきたのだろう、後ろの扉から祐司さんが入ってきた。
コソコソと扉を閉めた私とは違い、祐司さんは勢いよく扉を閉めた。
いや、実際はそんなに勢いなんてついていなかった。
だけど、何故か「ハルに気づかれるじゃない!」と思い、祐司さんを軽く睨んでしまった。
「親父かぁ〜?」
案の定二階のハルに気づかれてしまった。
別にいいのだけど…。
「あぁ、そうだ。ハル、少しだけ話があるから一階に降りてきなさい。」
吹き抜けを利用し、二階に顔を向け話しかけている。
すると、祐司さんの声に反応したのか、二階にあるであろう何処かの部屋の扉がガチャッと開く音が聞こえてきた。
「話ってなんだよ?今、美幸ちゃんにリハビリ付き合ってもらってんだから。」
二階から声が聞こえるが、姿は見えない。
- 162 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:45:48 ID:bghgZ+xu]
- 角度を変え、なんとかハルの姿を確認しようとするのだが二階の冊が邪魔で見えないのだ。
「お前…こんな遅くまで美幸ちゃんを引き留めるなよ。一度エレベーターで降りてきなさい。お土産も買ってるから。」
先ほどから二人が言っている美幸ちゃんって確かハルの後輩の…。
なんで東京に?
「はい、今から降ります。」
聞き覚えのある可愛らしい声。
確かに美幸ちゃんの声だ。
「それじゃ、リビングに入ろっか?」
そう言うと、玄関の靴を脱ぎ、私に手を差し伸べてきた。
「えぇ、ありがとう。」
その手を優しく掴み、家の中へとお邪魔する。
ハルは間違いなく私を見たらビックリするだろう…。
もう三年ほど顔を合わせていないのだから…。
…それにもう一つ、ハルに大切な報告がある。
「……ふふ。」
ハルの反応が楽しみ。
- 163 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:46:49 ID:bghgZ+xu]
-
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
――本当に衝撃なモノを見ると声がでないんだなってこの時初めて知った。
隣にいる美幸ちゃんも固まっている…。
「久しぶりね…ハル。」
何故か目の前にもう一人の母である女性――恵さんが立っているのだ。
何故東京に?
いや…そんな事はどうでもいい…。
「恵さ……そのお腹ッ…」
そう…恵さんのお腹が不自然なほど膨れていたのだ。
服の上からでもはっきりと分かる。
それがなんなのかもスグに分かった。
「ふふっ、あと3ヶ月ほどで産まれるのよ?しかも女の子……ビックリした?」
微笑みながら俺に話す恵さんを唖然としながら見つめる事しかできなかった。
――そう、恵さんのお腹には小さな命が宿っていたのだ。
ビックリしたどころの話ではない。
一周して冷静なっている自分がいる。
「春樹…。」
恵さんの後ろから、申し訳無さそうに姿を表した父を見て確信した。
親父と恵さんの子供なんだと――。
「なんで…どうしてそんな事に…。」
意味がわからなかった。
なぜ父と恵さんがそんな関係になっているのか…。
いい歳なんだから避妊はできなかったのか…。
- 164 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:47:44 ID:bghgZ+xu]
-
色々な考えが頭を過ったのだが、口にはできなかった。
幸せそうにお腹を撫でる恵さんを見て、そんなこと言えなかった――。
「ま、まぁ、めでたい事なんだし、ははっ、そっか、恵さんと親父がねぇ……ぜ、全然気がつかなかったよ!いや、マジでおめでとう!」
自分でも空回りしているのが分かった。
美幸ちゃんも俺の顔を穴が開くほどジーッと見ている。
「ふふ、ありがとう。ハルもこれからお兄ちゃんになるんだから、しっかりね?」
「はっ?」
お兄ちゃん?俺がお兄ちゃん?
どういう事だ?
「あのな、春樹…。」
「な、なんだよ?」
神妙な面持ちで俺に近寄ってくる父に身体が強張った。
「お父さんと恵さん…結婚しようと思うんだ。」
「………は、はぁぁあぁぁあぁぁ!?」
今度は純粋にビックリした声がでてくれた。
急展開すぎて話が見えてこない。
恵さんに子供が出来て、俺がお兄ちゃん?
なんで?父と恵さんが結婚するから…。
そしたら、俺はあのお腹にいる子のお兄ちゃん――。
「俺が…お兄ちゃん…?」
なんだろう…実感がまったく沸かない。
「春樹…本当にすまん!真っ先にお前に知らせとくべきだった!すまん!」
- 165 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:49:03 ID:bghgZ+xu]
-
そう言うと、俺が座る車椅子の前に立ち、頭を下げた。
「い、いや…別に俺は大丈夫なんだけどさ…。」
別に親父と恵さんが結婚しても俺はどおってこと無いのだが…。
どちらかと言えば、幸せな事なので嬉しいかも知れない。
「ただ、ちょっとビックリしたよ。いきなりだったからさ…。でも、本当におめでとう。親父もちゃんと恵さんを守らないとダメだぞ?」
「あぁ、分かってる。皆のいい父親になる様に頑張るよ…。」
皆…と言う言葉で思い出した。
恵さんと親父が結婚するって事は…。
「夏美達と兄妹になるって事か…?」
「えぇ、そうよ?」
当たり前の様に言う、恵さんの声に車椅子からずり落ちそうになった。
すかさず美幸ちゃんが支えてくれたからよかったが…。
「そっか…兄妹か…」
なんだろう?
嬉しいような恥ずかしいような…。
「一ついいですか?」
呆ける俺の隣にいた美幸ちゃんが恵さんに話かけた。
「なに?」
「春樹さんは、やっとこの場所に慣れてきたんですよ?仕事も見つかり、今は物凄く充実した生活をおくっています。」
淡々と話す美幸ちゃんの顔を見つめる。
「どうしたの?(美幸ちゃん…怒ってる?)」
- 166 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:49:35 ID:bghgZ+xu]
-
なにか美幸ちゃんの表情から苛立ちの様な感情が読み取れた。
多分、俺の視線にも気がついているはず…だけど、美幸ちゃんは気にしていないのか、俺の顔をまったく見ずに、恵さんの顔だけを見て話を続けた。
「もしかして、春樹さんを無理矢理連れて帰ろうなんて考えていませんよね?」
美幸ちゃんの問いかけに恵さんの笑顔が消える。
「そうねぇ…私はハルの母親だから。ハルがこの場所に留まりたいのなら無理に連れて帰らないわよ?」
恵さんの反応に拍子抜けしたのか美幸ちゃんの表情は怒りから戸惑いへと変わっていた。
「ただ、ハルがもし…もし帰りたいと言うなら……私達の家に連れて帰るわ。母親の私がね?」
その言葉に再度美幸ちゃんの顔が強張った。
「まぁ、私はこの家を手放すつもりはないよ。勿論この家は春樹の家だ。今後の事は皆で話し合って決めていこう。」
親父が宥める様に美幸ちゃんと恵さんの間に割り込んだ。
「そうね。まぁ、私が言いたい事はただ一つ。」
恵さんが大切そうにお腹を抱え、歩みよってくる。
久しぶりの恵さんの顔――
――「ハルの母親は私。」
その顔は見たことないほどに母性にみち溢れていた。
- 167 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:50:10 ID:bghgZ+xu]
-
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「ハルはもう寝ましたか…?」
「あぁ、寝たよ。ビックリしてたけど、ちゃんと分かってくれたな。」
シャワーを浴び終えた祐司さんが、寝間着姿で寝室の扉から姿を現した。
初めて見る姿に少し頬が緩む。
「えぇ、あの子ならちゃんと分かってくれると思っていました。」そう、私はハルなら絶対に喜んでくれると何故か確信していた。
始めは戸惑っていたけど、私達と食卓を囲む時にはもう私のお腹を撫でるまでに、優しく微笑んでくれていた。
久しぶりにハルへ料理を振る舞おうと思ったのだが、美幸ちゃんに取られてしまった。
母体に悪影響だという理由でハルからも止められたので渋々諦めることに…。
それだけこのお腹にいる妹を大切に思っていると言う事だろう…。
嬉しい限りだ。
「恵…」
「あ…祐司さん…」
私が寝ているベッドに祐司さんが潜り込んできた。
祐司さんの手がお腹を撫でる。
その手が上に移動する。
「んっ……今日は身体の調子もいいから大丈夫ですけと…。でもあまり無理しないでくださいね?」
- 168 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:50:44 ID:bghgZ+xu]
- 私の許可に気を良くしたのか、私の胸に口を近づけるとズズッと乳房を吸いあげた。
「あっ…音はダメでッ…す。ハルが起きまッ…す。」
「大丈夫だよ…一度寝たらそう起きないさ…。」
そう優しく私の頭を撫でると、顔を近づけ口内を激しく舐め回した。
それと同時にショーツ越しに人差し指を陰部に当て、激しく擦り付けてくる。
「あっ…はっ…ん…」
下半身を刺激する指の動きに合わせて、吐息が漏れる。
ハルの顔を見たからなのだろうか?今日はいつもより興奮している自分がいた。
「恵…なんだか今日は…」
祐司さんも感じとったのだろう…私の股から指を一度離し、ゆっくりと指をショーツの中へと滑らせた。
水の音とは違う、液体の音。
クチュッ、クチュッ、といやらしい音が静かな部屋に響き渡る。
「はぁ…あっ…ん…だめ…。」
私の中へと入ってくる祐司さんの指を受け入れる…。
かき混ぜる様に激しく動かしたと思えば、優しく撫で回す。
多分女性の扱いに慣れているのだろう…別に嫉妬などはしない。
「恵…そろそろいいか?」
「んっ…えぇ…きて、祐司さん。」
ゆっくりと…優しく…強く私の中へと入ってくる。
- 169 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:51:14 ID:bghgZ+xu]
-
「はぁっ、はぁっ、はぁっ――」
祐司さんの荒い息が耳に当たる。
無意識に祐司さんを押しだそうとするが、祐司さんのモノがそれを許さない。
無理矢理侵入しようと祐司さんのモノが私の中を強く刺激する。
「あ、祐司さッ、もっと優しッ、く…んっ…子供が、あ…んッ。」
私の声が聞こえないのか、より一層私の中へと侵入すれべく腰を打ち付けてくる。
パンッパンッと私の肌と祐司さんの肌がぶつかる音と同時にクチュッ、チュッ、とキスをする様な音が更に興奮する。
祐司さんもそうなのだろう。
鼻息を荒くし、私の首筋に舌を這わしている。
「恵ッ…愛しているぞめぐみッ…。」
祐司さんは間違いなく私を愛してくれているだろう…。
優しく…時には激しくこの歳になった私を求めてくれる。
私はあまりセックスというものが好きでは無いが、この人のおかげで少しずつだが好きになりつつある。
「あッ、は、ん…祐司さ…んッ。」
ただ、私の本音はハルの母親になること――。
だから目的を果たした私にすれば、セックスはもう必要の無いこと。
ただの罪滅ぼし。
だから私は――
- 170 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:52:19 ID:bghgZ+xu]
-
「あッ…祐司さんッ…ん(明日の朝、ハルになに作ってあげようかな…)」
――溺れず、冷静でいられるのだ。
「恵ッ、恵ッ、めぐみ!」
必死に私に覆い被さり、中へと出し入れする祐司さん。
「あぁッ(あっ、そう言えば買い物いってない…冷蔵庫になにかあるかしら…。)」
私の本音には絶対に気がつかない。
「はぁ、はぁ、もうッ…ダメだッ。」
祐司さんは自分自身が愛されていると思っているはず――。
「めぐみッ、くッ!」
――祐司さんには悪いが私の本音は違う。
「あぁぁぁッ、祐司…さ…ん(ハルッ!)。」
私が絶頂を迎える時、決まってハルの顔を思い浮かべるのだ。
――そう…誰よりも愛しているから――。
- 171 名前:春春夏秋冬〜恵〜短編 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/05/29(土) 22:55:24 ID:bghgZ+xu]
- ありがとうございました、投下終了です。
これで春春夏秋冬は終わりですね。
子供が産まれた後の事も書こうかと思ったんですが、夢の国の続きを書いていこうかと思います。
- 172 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/29(土) 22:58:04 ID:bghgZ+xu]
- >>146
GJです!
ゲスい話は好物じゃないけど、何故か見てしまう…。
続きまってます。
- 173 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 00:40:41 ID:sDQrMZ2S]
- GJ
妊娠以外は予想通りの展開だったができれば親父には突っぱねて欲しかった…
産まれた子供の話も読みたいけれど大体予想つくし大丈夫かな
春樹の母になるための道具でしかないから愛されなくて可哀想です
- 174 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 00:59:41 ID:oKebIoJG]
- >>156 そうか〜、実はこの話(東田編)が終了した後に恭介が罠に嵌められるという話を考えていたんだけど
そういうのも駄目なのかな?
とりあえず続き投下します。 今回は久しぶりにエロ入ってます。
- 175 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:01:50 ID:oKebIoJG]
- 学校からの帰り道、優香は久しぶりに楽しそうに色々な話をしていた。 部活のこと、授業のこと、テレビのこと。 それら全てを明るく話すその姿はかつての優香のように見えて美しかった。
それら一つ一つに丁寧に俺は受け答えていく。
やがて話が部活時の東田の話になった。 慎重に東田の話を出しながら優香が俺の様子を伺っているのを感じる。
「全く本当に東田は凄い奴だね」
正直な感想を口にする。 実際に彼は有能で、他人から好かれ、そして苦労して作り上げた優香と俺の関係にあっさりとヒビを入れることまでしてくれたのだから…。
もちろん東田がそう仕向けたわけでもなく、ましてや俺は自分の卑怯さと汚さ、ゲスであることを十分に理解しているし、それが最低な人間であることを認識している。
だがそれでも、ああそれでも! 失敗したら全てを失うほどのリスクを犯して作り上げた砂の城をあいつはあっさりとしかもごっそりと失敗することなく確実に崩し始めている。
「…うん、そうだね。面白かったね、東田君」
肯定する優香の瞳を見つめるが、いまいちどう思っているのかわからない。
「うん?どうしたの?」
その大きな瞳をパチクリと動かして小首をかしげる。 媚びと愛くるしさの混ざった可愛い仕草だった。 だがやはり確実に優香の態度というか様子に
わずかながら怯えが消えていっているように感じる。 不快な気持が胸の中で踊った。
「そういえば部活来た時に、なんでこっちに手を振ったの?」
「えっ?あっ…恭君が…遅かったから…その…うれしくて」
「それはわかったけどさ、学校内ではああいうことはしないようにしようって約束しただろ?特に優香はいま微妙な位置にいる……ごめん」
言いかけてあえて謝る。 それだけで優香はトラウマが刺激されたようで落ち込んで視線を下げて、
「ごめん…なさい、今度から気をつけ…ます」
やや震えた声で謝ってくる。
よし、これで少しは持ち直しただろうか? まあ気休めだろうが、少しは優香が自信を回復させない為の役に立っただろう。 しかし油断も隙もあったもんじゃない!
早急に何とかしなければ俺と優香の関係は瓦解してしまうだろう。
まあ、優香にとってはその方がいいかもしれないけどな。
それにしても……ん?
左腕に重みを感じて振り向くと、優香が泣きそうな顔で俺の左の袖口をちょこんと掴んでじっとこちらを見上げていた。
しまった、考え込んでフォローするのが遅れてしまったか。
俺は遅ればせながらそっと優香の頭の上に手を置き、残った片手で身体を引き寄せる。
「あっ…」
声を上げて俺に身体を預ける優香の耳元で、
「大丈夫、俺の方こそ言い過ぎてごめん」
「ううん、いいの…私ってほら、そういうこと気がつけないから…なんというか…無神経っていうのかな?はは…ごめんね、恭君…んんっ!」
尚もネガティブな言葉を吐き出そうとする優香の口を強引にキスで塞ぐ。 優香は急なことで一瞬身体を強張らせたが
すぐにそれは緩んで、自らも俺の身体に腕を回してキスを返してくる。 誰かに見られていたら問題だったが、周りには誰もいないことはすでに確認済みだ。
それにしても優香もそうだが、俺自身もかなり東田にやられているようだ。
普段なら、あえて落ち込ませたところですぐに優しく抱きしめて言葉をかければ効果は抜群だったはずなんだが、考えこんで遅れてしまった。
優香の自信を回復させないことも大事なんだが、あまり落ち込ませてしまうと関係に悪影響が出てしまうのでその辺の調整もしっかりしておかないと、上手く彼女を騙せない。
唇を離すと、少し上気した顔の優香が恥ずかしそうに俯きながら、でもトロンとした瞳をしていた。 何とか機嫌は取れたようだ。 念のため、袖口を掴む手はそのままにさせておいた。
せっかく心地よく騙されてくれているんだから駄目押しをしておくのも保険として悪くないだろう。
やがて俺の家の前に到着した。 優香は相変わらず俺の袖口から手を離さない、むしろぎゅっとさらに力を込めて掴んでいるのがわかる。
このまま俺と離れたくないようだ。 本当は東田対策を考えたかったんだが仕方が無い、袖口を掴んでる手を解いて彼女の手首を掴む、そして強引にでも優しく玄関に向かった。
チラリと見た優香は嬉しそうな、思惑が当たったような、そんな顔をしていた。
- 176 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:02:52 ID:oKebIoJG]
- 「エヘヘ、久しぶりだね恭君の部屋来るの」
「この間来たばかりじゃないか」
ベッドに座り込んで、リモコンでテレビをつける。 昔やってたドラマの再放送がやっていたが、つまらないので適当にチャンネルを変えていく。
「…なんかひさしぶりに来た…気がするんだもん」
俺と少し距離を開けてちょこんと優香が隣に座る。 何度も俺の部屋に来て、何度もこのベッドで抱かれているのに変に気を使うところがある。
でもいきなりすぐに密着するように座ってきたらそれはそれで問題か……それは調子に乗ってきているということだからな。
「……テレビ、面白いの…ないね」
押し黙るように優香が話しかけてくる。
「そうだね、つまらないから消すかな」
ポチリとリモコンでテレビの電源を消し、体勢を動かしてテーブルの上に置く。
優香もなぜか…というよりわかりきっているが、同調するように体勢を動かして密着するように俺の隣に座りなおし、そして服の袖口をちょこんと掴む。
- 177 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:03:52 ID:oKebIoJG]
- つまりはそういうことなのだ。 遠まわしな言い方や行動が優香の自信の無さと怯えを表しているようで何とも可愛らしいと思う。
俺はあえて無表情を作って、
「うん?どうしたの?」
あえて気づかないふりをする。 自分からは中々言い出せないようで
、優香は真っ赤な顔をしてモジモジと身体を密着させてアピールするが、それでも俺は気づかないふりをし続ける。
「だからどうしたのさ、優香?」
「……………」
さらに顔を赤くして俯いてるが、やがて覚悟を決めたように、俺の片腕に自身の腕を絡ませてさらに頭を俺の肩に乗せて身体を預ける。
顔だけではなく胸元も袖口から見える手もスカートから出ている魅力的な足、それら全てを真っ赤に染め上げて
優香は目をつぶって必死にアピールし続けている。
いい加減可愛そうになってきたので俺は目をぎゅっと閉じたままの優香の口元に優しくキスをして少し体重をかけてやると、
そのまま優香は人形のように後ろに倒れこんで…俺のなすがままに成っていった。
- 178 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:04:33 ID:oKebIoJG]
- 始める前までは恥ずかしがっていたが、いざ始まってしまえば存分に楽しもうとする本能とやらが楽しい。
それは俺も一緒なのだけれど、優香の変わり方はそれ以上に面白い。
他の女の子もこんな感じなんだろうか?
まあわざわざこんなどうしようもない奴を好きになる奴なんかいないだろうからする機会なんかないだろうが……。
「ふっ、はあっ…はあはあはあ…ふぁっ…あ、ああ…ん」
彼女の色々なところにキスをするとその度に反応が違う。
そして酸欠になりそうな程に息を荒げていてもキスをすれば、自分からは決して離れようとはしない。
何度体験してもセックスという行為は興味深い。
性行為自体に性欲処理という以上のことを見出せない俺でも優香の身体や反応はとても楽しく夢中にさせるものだった。
少し汗ばんだ優香の胸元に軽くキスして舐め上げる。 ビクリと電気を流されたような反応をするが、そのまま続けているとやがて悩めかしい声が出す。
- 179 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:04:59 ID:oKebIoJG]
- 続いて彼女の背中に手を回してブラのホックを外してやると 白い肌とピンク色をした乳房が出てきた。 それを優しくさするように触って口に含み、弱くかじる。
「はっ、あっ!」
一際甘い声を挙げて、手の平からじんわりと熱が伝わってくる。 刺激が性的興奮を高まらせ続け、彼女の性器はじっとりと準備をとっくに終わらせていた。
- 180 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:05:36 ID:oKebIoJG]
- 指を優しく秘所に侵入させ内壁の形を確かめるようになぞらせると背中を仰け反らせて溺れる人のようにしがみつく。
何度も確かめ合った結果、優香が弱いところもどういう風にされるのかが好きなのもわかっている。
熱く締め付ける秘部に指を暴れる蜘蛛のように縦横無尽に蠢かせ弱点を重点的に何度も攻め立てて強烈な快楽を与え続けていくと
、恥ずかしさも嫌われるのではないかという怯えもすっかり忘れて大きな声であえぎ声を上げる。
「ああああっ!い、いいよ〜…そ…そ…こ…気持……いい…んんっ!」
あまりに大きいため近所に聞こえる可能性があるので右手で口を塞ぐ。
- 181 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:06:44 ID:oKebIoJG]
- それすらも何かが刺激されるのかトロンとした目をして押え込まれた口から嬌声を出し続けている。
優香がシャツを強く握って引っ張ったのを頃合に俺自身を優香の身体に重ねる。
熱く柔らかい感触が俺自身を包む。 シャツを掴んでいる手と同じかそれ以上の力で強くそこは俺を掴み、締め付けてくる。
あまりにも強く包まれたので思わず俺の口からも声が漏れる。
しまったと思ったときに身体の下にいる優香と目が合った。
いやらしく濡れそぼった瞳の中にじりじりと燃えるような何かを宿らせて
本能のままに快楽を貪る優香はとても淫らで男の嗜虐心を焚きつけるような姿をしているんだろう。
だが俺はその優香の姿を見た瞬間、急激に頭のどこかが冷めていくのを感じた。
本能はその姿に激しく興奮している…間違いなく。 ドロドロと冷たい何かが広がってくるのを忘れようと俺は激しく彼女に腰を打ち付ける。
何度も。何度も。何かに追い立てられるかのように激しく優香の中を攻め続けた。
「えっ…ああっだ、駄目!そっ…れ…激し…すぎ…る…イ、ク…イクイクイク!ああああああ!」
押え込んだ右手を超えて大きく叫んだ声は部屋中をに響き渡った。 それでも俺は動くのをやめず、壊れた機械のように動き続ける。
その間、優香は同じように声を挙げ続け結局それは俺が達するまで叫び続けていたのだった。
- 182 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:07:18 ID:oKebIoJG]
- な、なんか…その…凄かったね…きょ、今日は…」
照れて、シーツで顔半分隠しながらはにかむように優香が俺を見ている。
「ああ、そうだね…嫌だった?」
「う、ううん…その…嫌じゃなかったよ…き…気持…よかった…し…ね」
それだけ言うと恥ずかしそうにシーツを頭の上にして隠れてしまった。
俺は正直楽しくなかったけどね。 心の中でつぶやいた。
あんな夢なんか見るんじゃなかった。 俺はゴロリと仰向けに転がって天井を見上げる。
そう、俺は気づいてしまった。 俺の『悪夢』の中で優香が見せたあの幸せそうな顔、
あんな顔を俺は見たことが無い。 身体を何度も重ね続けた結果、優香を絶頂までに導くことは出来るよう
になったけれど、俺とのセックスの時にはあんな表情を見せたこともさせたことも無い。 あんな愛される幸せに満ちた優香の顔を。
我ながら何てあほなことを気にしているんだろう。
無理に笑い飛ばそうとするが、上手く笑えない。
あくまで『悪夢』の中で見た姿じゃないか。
実際の優香はまだ俺としかセックスをしていないし、あの表情だっていつか見せてくれる可能性だってある。 表情? あの『愛し愛される喜びの顔』を?
「はははっ」
空々しい笑いがこみ上げた。
- 183 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:08:13 ID:oKebIoJG]
- ……自分で言って空しくなる。 そんな表情を見れるはずが無いじゃないか。
だって俺はあくまで醜い蜘蛛で、優香を罠に嵌めて、騙しているに過ぎない。
どうしようもない俺が愛されるはずも無く、ただ優香は他に誰もいないから俺といるに過ぎない。
そんなことは判っていることじゃないか……それに、まず第一にというより
前提として俺が果たして優香を愛しているのかという事が自分のことだって言うのにわからないということだ。
優香は俺の横で小さく寝息を立てて寝ている。 そっと顔までかかったシーツをどかして寝顔を見る。
安らかに寝ているように見える。
寝ているときにしか安らかな時は無いのだろう。 そしてそういう風にしたのは他ならぬ俺だということを知ったときに優香はどうするんだろうか?
分かりきっている事を考えてもしょうがないな。
俺は寝ている優香の唇に優しく自分の唇を重ねる。 「う…うん」 という寝言を発した優香はさらに気持よく寝息を立てる。
眠り姫にキスをというロマンチックなキスをしているように見えるが、実際は寝ている相手に無理やりキスをしたというクズな情景にしか思えない。
触れた唇は柔らかく暖かかったはずなのに俺の心の中を寒々とした何かが強く吹き突くのだった。
- 184 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 01:09:07 ID:oKebIoJG]
- 今日はここまでです。
なんというかエロシーンは難しい。
とりあえず続きが出来たらまた投下します。
- 185 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 02:25:51 ID:oXzBsPYk]
- >>184
GJ。
この主人公そのうち壊れそうだな。自業自得だけど。
優香だけでもハッピーエンドになってほしいと願いつつ、次の投下を全裸で待ちます。
- 186 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 03:39:00 ID:pUvxyna6]
- 主人公は確かにクズだけどさ。。なんとなくだけど心情がダブるところもあるよ・・・
- 187 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 14:00:42 ID:eK2wRbQ1]
- 俺は立派な男だと思う
このスレ的には
俄然応援したくなる
- 188 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:24:36 ID:kc/JFsWa]
- 【あすかとマリア・02】
「はぁう……ダメだよマリアぁ……そんなにしたら……ああう…!」
私があすかのモノを舐める度にあすかの喘ぐ声が私の部屋の中で響き渡る。
(ふふっ……あすかったら女の子みたいな声を出して……こっちもたまらなくなってきたよ)
私はニヤッと笑みを浮かべると、あすかのモノを自分の口の中へとズブズブと埋めていった。
「んああ!マ……マリア!」
喜んでる喜んでる…私の口で気持ち良くなってくれてると思うと嬉しくなってくるよ。
私のアソコの方も興奮のあまり太股までびしょびしょになっている、早くあすかにアソコを弄くられたい。
指で、舌で、オチンチンで――いっぱいいっぱい私を犯して欲しい。
その事ばかりで頭の中がいっぱいになっている私はあすかのモノを口の中で激しく舐め回した。
「ふわぁ……!マリア……ボク…もぉ……!」
出るのか?出してしまうのかあすか?私の口の中に濃いのを出しちゃうのか?
いいぞ…いっぱい出せ。私の口の中でびゅーっと出してしまえ!私はあすかをイカせるため、強い力であすかのモノを吸った。
「――――!ふわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドクンとあすかのモノが震えたと思った瞬間、私の口の中にあすかの精液が一気に放出された。あすかは私の頭を掴みながら、身体を震わせる。
「んむううう…!」
私は放出され続ける精液にむせかえりそうになりながらも、あすかの背中に手を回しゴクゴクと精液を飲み続けた。
やがて射精が終わり、私はちゅぽんという音と共にあすかのモノから口を離す。
「ふふ……すごひりょう……」
口から白い液体を垂らしながら私はあすかに微笑みを見せる。
一方のあすかは涙を流し肩で大きく息をしながらヘタヘタとその場に座りこんでいた。
「涙まで流すなんて……そんなに気持ち良かったのかあすか?」
「う………うん…凄く気持ち良かったよ……マリア……ありがとう…」
あすかは苦しそうに息をしながらも、ニッコリと私に笑いを見せてくれた。
(―――――!)
そんなあすかの可愛らしい姿にゾクゾクと私の中になんともいえない電流が走る。
もう我慢出来ない!私はスルスルと自分の下着を脱ぎ捨てると、自分のアソコをあすかに見せ付けた。
「あすか……今度は私を気持ち良くしてくれないか……?…ほら、あすかのせいでこんなになってしまったよ…」
私は淫靡な笑みを浮かべながら自分のアソコを右手でおし広げた。
- 189 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:25:48 ID:kc/JFsWa]
- 「うわ……マリア……凄く濡れてるよ……」
ゴクリと喉を鳴らしながらあすかは私のアソコを食い入る様に見つめている。
もう、そんなにまじまじと見つめられたら恥ずかしいじゃないか…早く弄ってくれ、あすか!
そんな私の心の声に気がついたのか、あすかは身小さな体を屈め私のアソコに顔を近付ける。
「ふぅ……んん…」
あすかの熱い吐息が私のアソコにかかってくる、もう…ここにきて焦らすなんてあすかはなんて罪な男の子なんだろう。
レロ・・・
「くああ!」
ヌメリとした感触が私のアソコに伝わると同時に大きな声を出してしまった。
「んん……ちゅぶ……はむ……」
あすかは私の股間に顔をうずめ、ゆっくりと私のアソコを舐め始める。
(ああああああ!舐めてる!あすかが私のアソコを小さな口でペロペロと舐めてるうううっ!)
私は心の中で大きくバンザイをしつつもあすかの愛撫に甘い声を出し続ける。
「ちゅ……れろぉ……気持ち良い……マリア…?」
「ああ……!気持ち良いぞあすか……もっと私のアソコを犯して欲しい!もっともっとペロペロ舐めて欲しいいっ!」
「嬉しいよマリア……もっとマリアが気持ち良くなってくれるようボク…頑張るから…」
あすかはそう言うとさらに激しく舌を動かし始めた。
「ああぁぁぁあ!良いぞあすか!もっと激しくしてええええ!」
あすかが舌を動かす度に卑猥な水音が部屋中に響き渡り、私の理性を徐々に崩していく。
「凄いよ……マリアのアソコがボクの舌を締め付けてくる…」
あすかは自分の舌を私の割れ目の中に差し込むと、激しく舌を動かしていく。
「いひぃっ!な……中はダメ!中までされたら…あああ!」
あすかの舌が私の膣内をかき回す度に愛液が周りに飛び散っていき、シーツに染みを作っていく。
アソコの奥に溜まっている、いやらしい液がズルッと吸い出されるような感覚に私は自分の胸を揉みしたぎながらこの快楽に身を任せた。
自分で乳首を指でコリコリとしごく快感とあすかの舌によるアソコへの愛撫による快感で頭の中が真っ白になりそうだ。
「ああああああ!くる……何かくるぅ!」
私の中で何か激しい波が徐々に身体中で波打ってきた……もうイキそうだ。
「マリア…いいよイって………ちゅうううううう!」
あすかは私の太股をしっかりと掴みクリトリスを口に含むと、勢いよく吸い出す。
その瞬間、私の中で溜まっていた何かが一気に爆発した。
- 190 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:26:48 ID:kc/JFsWa]
- 「んあ!あ!ああぁああぁあっ!!」
甲高い叫び声と共に私は身体を大きく反らし痙攣させる。
私は手を強く握りしめ、頭の中が真っ白になりそうになるほどの快感にしばらく酔いしれる。
「はぁ……はぁん……ふうう……」
やがて激しい波が過ぎ去っていき私はグッタリ身体を落とした。
イッてしまった……あんな大きな声を出しながらあすかの前で―――!
「マリア……イッちゃったんだね……凄くかわいかったよ……」
あすかは口の周りをベトベトにしながら私の耳元で囁いた。
その言葉を聞いた私は恥ずかしさで顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。
「ば……ばかぁ……あすかがあんなに激しくするからだろ……」
私は恥ずかしいのを隠すように両腕で顔を覆う。全く、こんな情けない姿を見せる事ができるのはあすかだけにしかできないよ。
普段、無愛想な態度をしていて周りから怖がられている私が、あすかのような男の子とエッチをしているなんて誰も想像すらできないだろう。
もっともっと、あすかに愛して欲しい
あすかにもっともっと触れて欲しい
本当の私を 本当の二階堂マリアという私の姿をもっともっともっともっとあすかに見て欲しい
「マリア………その……」
あすかは、はにかみながら自分のモノを私に見せ付ける。モノはさっき射精した時よりも大きくなっていた。
「ふふっ……いいぞ…私も…あすかと一緒になりたい…」
私はニッコリと微笑むとあすかの頬を優しく両手で撫でる。
待ちに待った時がやってきた、ようやく身体も、心もあすかと一つになれる。
あすかはおずおずと私のアソコに自分のモノを添えると、ゆっくりと私の膣内へとうずめていく。
「はあああああ……!あすかが私の中に入ってくる………私を犯してくるよおおおお…!」
ズブズブとあすかのモノが私の膣内を押し広げていき、私の頭の中でパチパチと星のようなものが飛び散っていく。
「くうううう………全部入ったよマリア……やっぱりマリアの中……凄く熱い…!」
「ああ……感じるぞあすか……あすかのも凄く熱くて……気持ちいいぞ…」
あすかは私の胸に顔をうずめ、フルフルと身体を震わせる。ああ…あすか!そんな切ない顔をされたら―――それだけでイッてしまうではないか!
「さぁ……動いてくれあすか……二人で一緒に気持ち良くなろう……!」
私はあすかの頭を撫でながらそう優しく囁いた。
- 191 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:28:17 ID:kc/JFsWa]
- 「じゃあ……動くよ…」
私の言葉に促されるようにあすかはゆっくりと腰を動かしていく。
「は…ああ……くうう!」
あすかのモノが私の奥に届く度にゾクゾクしたものが襲ってくる。
「マリア…!すご……ギュウギュウと……ボクのを締め付け……くあああ!」
あすかは私の胸に抱き付いて一心不乱に腰を振り続ける。
あすかが私のために一生懸命に腰を振っていると思うと胸の中で段々と温かいものが膨らんでいく。
「はぁう!く!ああん!あすかのが私の膣内で出たり入ったりしてる!もっともっと突いて!私で気持ち良くなってええええええ!」
私はあすかの身体を力強く抱き締め、大きな喘ぎ声をあげ続ける。
「はむっ……ちゅ…」
あすかが私の胸をギュウっと握りしめ、乳首に吸い付いてきた。
あすかの舌が私の乳首に絡み付いてくる快感に私はさらに大きな声をあげる。
「ふふふ……そんなに私のおっぱいが美味しいかあすか……?」
まるで赤ちゃんみたいにしゃぶりついてくる赤あすかの姿にアソコの奥で熱いものが込み上げてきた。
「うん……マリアの胸…とっても大きくて温かくて………凄く落ち着く…」
あすかはトロンとした目付きで私の乳首をカリッと噛んだ。
「くああああああ!」
苦痛と入り混じった快感が私を襲う。あすかにしゃぶられていた乳房の内側のキュンとする甘い疼きが、爆発する。
私は顎をクッと後ろに反らし、身体をビクンと震わせた。
「マリア……ボクもう出そう……!」
「んん!ああ!いいぞあすか!私の膣内にいっぱい出せ!私の中にあすかのをいっぱいいっぱい注いでくれっ!」
あすかはさらに激しく腰を振り、射精に向けての準備を始めた。
私ももうイキそうだ――私はあすかの手に自分の手を絡ませる。あすかもそれに反応して私の手を握り返した。
「マリア!マリア!好きだよ!愛してる……!」
「私も……あすかの事が好きだ!あすかぁ、あすかぁ!ずっと私だけを見てて欲しい!私だけを愛して!」
私とあすかはお互いに愛の言葉をぶつけ続け、そして――――。
「出る……ボク…も……くうううう!」
あすかは身体を大きく後ろに反らした瞬間、ドクンと私の膣内で熱いものが広がっていく。
「ああああああああ!出てるぅ、あすかのが私の膣内でいっぱい出てるぞっ!」
私もあすかの射精と同時に絶頂を向かえてしまった。
ああ…凄い…やっぱりあすかのモノは最高だ……指なんかよりも全然いい。
- 192 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:30:41 ID:kc/JFsWa]
- 「ふぅ……まだ中で残っているような気がするよ……沢山出し過ぎだぞあすか」
「ごめんマリア……」
「謝る事はない、むしろ喜ばしい事なのだからな」
私とあすかはベッドの上で横になりながら言葉を交わす。こうしてあすかの顔を見て話をするのが私にとって一番幸せの時。
―――あすかだけだ、こうして私の顔、目を見て話をしてくれる人間は。
だからこそ怖いんだ、もしあすかが私を見なくなったら……。
「―――ふふ、まさかな」
「うん、どうしたのマリア?」
「いや…なんでもない気にするなあすか。ちょっとした独り言だ」
そうだ、そんな事は絶対にあり得ない。私とあすかは孤独の暗闇の中にいた人間なのだから。
だからこそ何よりも固く強い絆がある、それこそ他者が入り込めないような絆がな。
それが例え―――昔からずっと一緒にいた幼馴染みであろうと。
琴乃葉月、どうやら彼女はあすかに好意を抱いているみたいだが、残念ながら私達の間に琴乃ごときが入り込めやしないさ。
分かるまい、ずっと一人ぼっちだった人間の孤独の苦しみが。
「あすか………」
私は優しくあすかの身体を抱き締める。
絶対に手放しはしないぞ―――この温もり、幸せを。
【葉月視点】
チクタク・・・チクタク・・・
暗い部屋の中で時計の針が進む音だけが私の耳の中へと入ってくる。
私はベッドの片隅で毛布にくるまっていた。
『君はあすかの事を全く分かっていない』
『君は知らないのか?私とあすかはな……付き合っているんだよ』
「………!」
気持ち悪い、頭がクラクラする。マリアさんの言った事がいまだに頭の中から離れない。
どうして?
どうして?
どうして?
どうして私じゃないの?どうして私じゃなくてマリアさんなの?
どうしてあすかは――――。
あすかとは幼稚園の頃からの付き合い。あすかはいつも暗い顔をしていて笑う事がほとんどなかった。
唯一、笑うのはあすかのお兄さんがそばにいる時だけ。あすかのお兄さんは優しくて何でも出来て私の憧れの人だった。
あすかもきっとそんなお兄さんにだけは心を許す事が出来たんだと思う。
でも―――そのお兄さんは4年前にデパートの火事で………。
凄く悲しかった。当時、お兄さんにベッタリだった私の胸は張り裂けそうだった。
ずっとずっと私は泣いていた。お兄さんが死んだのが夢であって欲しかった。
- 193 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:31:51 ID:kc/JFsWa]
- 私はそれからしばらくの間、あすかとは距離を置いていた。もしかしたら私はあすかに憎しみを抱いていたのかもしれない。
何でお兄さんじゃなくてあすかが―――そんな事を無意識のうちに思っていたのかもしれない。
でも、ある日あすかがゴミ捨て場で一人、冷蔵庫や洗濯機を殴り壊していたのを見てしまった。
いつも見るオドオドした表情をしているあすかが、怒号をあげ鬼のような形相で冷蔵庫とかを壊していく姿に私は初めてあすかに恐怖した。
同時に自分を責めた…私はなんて馬鹿なんだろうと。お兄さんが死んで一番苦しんでいたのは他ならないあすかだったんだ。
なのに私は、あすかに対して酷い事をしてしまった。自分の事だけを考えてあすかの苦しみを知ろうとしなかった。
両手を真っ赤にして壊した電化製品の残骸の中で呆然と立ち尽くすあすかの姿はとても悲しそうだった。
このままじゃ、あすかの心が壊れてしまう。取り返しのつかない事になってしまう。
もうこれ以上、大切な人を失いたくない。あすかは私が絶対に守る―――この日から私はあすかのために頑張る事を決心した。
私はあすかを遊びやご飯に誘ったり、服とかを編んだりしてはあすかにプレゼントしたりとかして、あすかの心のドアにノックをし続ける。
でも、あすかは悲しそうに返事をするだけで決して心のドアを開こうとはしてくれない。
それでも、私は諦めない。私は信じていた、いつかきっと、あすかは私に心を開いてくれるって。
頑なに閉じ続けている心のドアを開けてくれるって信じていたの。
でも―――あすかが心のドアを開いたのは 私じゃなかった
二階堂マリア―――あすかは私ではなくて彼女を選んだ。
マリアさんは私にあすかの事を全く分かっていないって言っていたけど、全くその通りだった。
あすかがマリアさんと一緒にいる時に見せる笑顔を私は見た事がなかった。
あんな風に楽しそうに笑う事が出来るなんて私は知らなかった。
いつも私に見せる暗い顔とは違う明るくて、幸せそうな微笑み。
それをただ影から見る事しか出来ない私は本当に情けない女だ。
「ぐすっ………あすかぁ……あすかぁ……」
私は一人涙を流す。どうして泣いているの?ようやくあすかは幸せを手に入れたのに。
ずっと一人ぼっちだったあすかがを開く事ができたのに……。
どうしてこんなに辛いの?
私はどうしたら良いの―――誰か教えてよ。
- 194 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 22:32:39 ID:kc/JFsWa]
- ここまで
- 195 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/30(日) 23:23:34 ID:wDuDeKxM]
- 実にイイ…やっぱり和姦が一番エロいな
お互いの孤独を舐めあうんじゃなくて一緒に背負って生きていこうとする姿勢も良し
- 196 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 06:49:16 ID:JTWDEFh4]
- すごく良いです、葉月はもっともっと後悔すればいい
- 197 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 14:30:41 ID:jartgpAl]
- 既にチューどころか、最後までいってたんだな…。
- 198 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:32:35 ID:m5drYL+3]
- >>183の続き
なんか予想以上に話が進まなかったので少々短いですが
- 199 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:33:07 ID:m5drYL+3]
- そしてその何かが象徴するように状況はさらに悪化してきていた。
四時間目の授業が終了後、昼食を食べ終わった俺は次の授業が移動教室だったので、
特にやることも無いと思い早めに授業をやる教室へと向かうことにした。
その際に優香のクラスの前を通りかかる。
何気なく教室の中を覗いて見ると、休み時間だと言うのに席に座っている優香が見えた。
そしてその横に立って、話しかけている東田の姿も。
東田はいつも見せる人懐こい笑顔で会話を試みているようだが優香の表情は少々戸惑い気味に見える。
まだ心は開いていないようだ。
- 200 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:33:40 ID:m5drYL+3]
- ふと優香がこちらに気づき一瞬目が合い、一瞬喜んだ顔をするがそれも束の間すぐにはっとした表情をしてまた視線を逸らしてしまった。
どうやら昨日の忠告がきいているようで、少し嬉しくなったが、こんなところで立ち止まっていたら
怪しまれるのでやや早足でその場を立ち去る…つもりだったが、後ろから声がかけられたため振り返ることになった。
「お〜い、ええっと…近藤?だっけ」
妙に憎めないファニーフェイスで東田が教室の戸から顔だけ出して呼び止める。
「…そうだよ、何か用か?」
ゆっくりと振り返った俺に抱きつくように東田が走ってきて両手を強く握り締めてくる。
「ちょっと助けてくれないか?」
- 201 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:34:17 ID:m5drYL+3]
- 真剣な面持ちで俺より少しだけ背の高い端正な顔を近づけながら頼みごとをしてくる姿に正直気圧されてしまい、
「な、なに?」
のけぞりながら返事を返してしまった。
「お、お前ってさ、瀬能さんと幼馴染なんだろ?す、少し一緒に話をしないか?
実はさ、さっきから話しかてるんだけどどうも俺がむさいせいか彼女引き気味なんだよ〜、教室の中がすごい微妙な空気になってるんだ!とにかくこっちに来てくれ!」
有無を言わさずに強引に俺の手を引っ張って教室内へと連れて行く。
手にはじっとりと汗をかいていて握られた手のひらごしに伝わる感触が気持悪い…というより不快だった
- 202 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:34:43 ID:m5drYL+3]
- 「や、やあ…瀬能さん、ちょうど君の幼馴染で演劇部の仲間である近藤が来てくれたから一緒にトークしようぜ」
やや外し気味のテンションの東田と急に俺が現れて少しテンパっている優香、そしてあきれ気味の俺、遠巻きに楽しげに見ている優香のクラスメイトたち。
なんとも混沌とした雰囲気の中で東田はそれに気づきもしないで話を始める。
内容は学生らしいといえば学生らしい話だった。 好きなアーティスト、お笑い芸人、テレビ番組に学校のこと。
- 203 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:35:14 ID:m5drYL+3]
- 話している内容は何の変哲も無いことだったが、東田という人間にかかるととても面白いことのように感じられる。
彼の話し方のトーン、リアクションに聞かせっぱなしにならないように要所でこちらに話を向けてくるタイミングの良さ。
まるで素晴らしい映画を見ているような気になるほどに東田の話は楽しかった。
あまり笑わない俺でさえ笑ってしまうほどに東田のトークというか人を楽しませる能力は際立っているということが感じられた。
そしてその結果として彼は人にとても好かれやすいという人間なんだろう。
それを俺は理解した。 後は彼の魅力に気づかれる前にどうやって優香と彼を引き剥がすのかを考えなければならない。
俺の予感に間違いは無かったのだ。
- 204 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:35:35 ID:m5drYL+3]
- 東田は起きてしまえば決して生き残ることの出来ない大いなる災厄なのだ。
優香が東田に惹かれてしまえばそこで全てが終わりとなる。
一度引き上げられた蝶ははるか大空にまで飛び上がって蜘蛛には届くことの無い高さまで行ってしまうだろう。
東田の笑顔と優香の笑い顔の中で俺はその恐怖に立ち舞うことが果たして出来るのかと微笑を浮かべたまま自問した。
- 205 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 22:36:10 ID:m5drYL+3]
- 今日はここまで、とりあえず話の続きを今からまた考えてきます。
上手く言ったなら明日か明後日には投下します。
- 206 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 23:03:00 ID:K4ABaqGZ]
- GJ
東田イイヤツのはずなのにそう思えない・・・なんなんだこれはwwww
- 207 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/31(月) 23:07:20 ID:jartgpAl]
- 頑張れ、頑張れよKYO君
- 208 名前:名無しさん@ピンキー [2010/05/31(月) 23:17:00 ID:qPUoH4w+]
- 派手
- 209 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 00:06:56 ID:G8zbIwsJ]
- 優香が元気になって主人公とくっついてほしい・・・・まあありえないだろうけど
- 210 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 00:27:56 ID:1S+RNgzI]
- レスってのは偉大だね。 何人かのレスを見ていたらストーリが
ふっと沸いてきました。 まあ微妙にちょっと進みは遅いけどね
とりあえず明日投下できそうです。 時間は21時くらいに投下します。
- 211 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:04:04 ID:44Ogf+p2]
- >>210
乙、期待して待ってます。
今さらだしどうでもいいんだけど
東田って「ひがしだ」なの?「とうだ」なの?それとも「とうでん」?
俺は「とうだ」って読んでるんだけど
- 212 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:06:09 ID:44Ogf+p2]
- >>211
すまない自己解決した。
「ひがしだ」だな。
- 213 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:23:56 ID:I7OY3ZzS]
- 「あづまだ」じゃないの?
- 214 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:45:18 ID:1S+RNgzI]
- >>213 東田が正解です。
- 215 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:46:21 ID:1S+RNgzI]
- >>214 ごめん間違えた「ひがしだ」が正解です。
- 216 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 01:56:14 ID:Zs7aKMrB]
- きょううう
- 217 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 11:52:30 ID:EkE1dbCp]
- >>215
アンカーは半角だし、直した方がいいよ
不快に思うかも知れないけど、鼻につく人が出るかもしれないし
- 218 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 20:36:09 ID:I7OY3ZzS]
- >>217
PCからでも携帯からでも、普通にアンカーとして機能してるんだが
あんたのブラウザの仕様の問題では?
つか、心底どうでもいいツッコミだな
- 219 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:05:50 ID:8cdbOELL]
- >>204 それじゃ予告どおりに続き投下します。
- 220 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:07:34 ID:8cdbOELL]
- 放課後の部活中、主役である優香と東田はジャージ姿で台本を持って演技をしている。
夏休みにある演劇コンクールに出展する劇は一次課題として出演する劇団、演劇部それぞれに共通の演目が指定されている。
その内容はいわゆる恋愛モノで、身分違いの男と女が出会い、恋に落ち、様々な困難を乗り越えて最後には結ばれるという実にシンプルで、
悪意を持って言えばマンネリな物語なのだが、話の大筋を変えなければある程度のアレンジや演出をしても良いらしく
それぞれの出演グループごとに例年様々な改良がされているため、自由度の高い課題なのだそうだ。
- 221 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:08:34 ID:8cdbOELL]
- 所詮は最近急増しただけの演劇部なので演出、アレンジ担当の人間はおらず、結局主役である(とはいっても優香は孤立するまでだが)東田達が担当することになったのだが、
「瀬能さん、ここなんだけど…こうしてみようか?」
「うん」
「ここのアレなんだけど、どう思う?」
「私は東田君に任せるよ」
いまいち優香が自主性を発揮せずにいる。
とはいってもそれも当然のことで、部内で孤立しかかっているというか衣装切り裂き事件
部費盗難事件の疑惑で互いに疑心暗鬼になっており、その結果優香は俺の望みどおりに昔とは見違えた消極的な人間になっていた。
俺は内心、東田が意見を出さない優香に怒って二人の間に溝が出来ないかと期待していたが
中々に東田は人間が出来ているようで優香の消極的な姿勢には何も言わず、むしろ他の役を担っている面々たちがイラついているのを抑える行動さえしている。
これ以上孤立したくない、嫌われたくないという思いから出しゃばらず大人しくしていようという優香の気持とは裏腹に
他の面々からはやる気が無い、調子に乗っていると思われており、女子部員からは東田の相手役だということで、さらに反感を抱かれるという実に皮肉な図式になっている。
- 222 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:09:50 ID:8cdbOELL]
- 実は優香は何度か主役を降りようとしたことがあったが、そこは幼馴染としての信頼と恋人としての好意を利用して何とか説得したのだが
それでもたまに部活を辞めたいと言う優香を時には叱咤し励まし、ベッドの上で何度も優しく愛情を込めて(実際あるかどうかは別にして)何とか演劇部に留めたのだった。
その努力のかいもあって優香は演劇部員が多いクラス内で他の友人もできず、俺以外にろくに話す相手もいない状況にまで持ってこれた。
もちろん、優香がストレスで病まないように登校拒否にならないように俺も全力で彼女のサポート(心、身体両面で)も忘れずに頑張ってきたことは言うまでもない。
それでもこのやや最悪な雰囲気で行われた中での練習は先週よりもあきらかに完成度が高くなってきているのはさすがだった。
東田の舞台栄えする長身や彼本来が持つ明るい雰囲気も凄いが、何だかんだ言っても優香の舞台上の演技力、表現力は秀でていて
それがあるからこそ反感を抱いている人間達も優香の主役抜擢に対して(裏ではどう思っていても)表だって批判は出来ないのだった。
それにしても今日はここ最近では一番の険悪だったな。
俺は小道具の片づけをしながら横目でチラリと優香を見る。
ちょうどヒロインが周囲の反対に嘆き悲しむシーンをちょうどやっていたが、膝を突き、自らの不幸と神を呪いながら慟哭の涙を流す演技は真に迫っていた。
当然だ、彼女は明らかに泣いている。
なぜならいま置かれている状況はまさに劇のシーンと同じなのだから…周囲の悪意に打たれながら、自らの不幸を嘆くその姿は現実の優香だ。
ただ物語と違うのはその状況に追い込んだのは王子(正直言って役不足だとは思うが)自身だということくらいだろう。
- 223 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:10:58 ID:8cdbOELL]
- 「どうしたんだろう…瀬能さん、本当に泣いてるぞ」
ボソリと近くに立っていた東田が一人呟く。
なんだ、わかってるじゃないか。 明るく飄々とした感のある東田だが、見た目とは裏腹に中々鋭いようだ。
だが、どうして泣いているのかはわからないだろうし、わかったところでどうすることも出来まい
優香に向けられた悪意、そして自身が原因で受けているであろう女の嫉妬を解消させることなんて出来るはずが無いのだから…もし出来たならそれこそ感服ものだ。
そしてこの状況こそが唯一東田に対して活用できる俺の武器である。
仮に優香が東田に惹かれたとしても、部員の悪意と嫉妬の圧力に耐えることなど出来まいし。
もちろんそんな状況になったとしたら俺も全力で壊す方向に持っていく、その孤軍奮闘の中で果たして優香が東田という恋人を選ぶだろうか?
そして東田は優香を守ることが出来るのか?
- 224 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:11:29 ID:8cdbOELL]
- ……はあ、思わずため息が出る。 あまりにも楽観的な考え方にだ。
先ほど言った俺の考えはあくまで一般的に見てで、普通の恋愛だった場合だ。
仮に優香と東田、そのどちらかの愛情というか情熱が俺の予想以上だったとしたら?
この物語の主人公達のように周囲の反感など意に介さず、あっさりとねじ伏せてしまうほどに彼らが強かったらどうだろう?
足元で蠢くおろかな蜘蛛である俺には空を雄大に飛ぶ蝶達の考えは読みきることは出来ないのだから。
ただもしそうであったとしても、今は手元にいる蝶をただ味わおうとしよう。
優香の瞳の中に見える潤みが今日、彼女が俺に弱音を吐きに行くという決断をしたことを理解して俺はただただ卑屈に笑う。
少なくとも今は自身の手元に居る蝶の中身を除き見ることの出来る快楽に酔いしれて……。
- 225 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:12:17 ID:8cdbOELL]
- 部活終了後、俺は学校の近所にあるファミレスに居た。 ブスリと精一杯の不機嫌を表情いっぱいに表して。
「呼び止めたりして悪かった」
向かいの席に座る東田はそういって神妙な顔で俺に頭を下げてくる。
俺はその姿を胡散臭げに見つめながら、ちょうどいま受信されたメールを開いて内容を見ていた。
『今から会える?話がしたいです』
優香からだ。 俺の予想通りに優香が俺に会いたいというメールを送ってきた。
話の内容はまあ、また部活を辞めたいとか自分は主役にふさわしくないとかなんだろうが
辞められては困るのでなるべく早く説得をしたいというのに……、チラリと東田を見る。
奴はまだ頭を上げずにいた。 もしかして俺が言うまでやりつづけるんだろうか? だとしたら律儀と言うか変に堅い男だな。
まあいい、早く話を終わらせて優香と会わなければ、とりあえず優香には『わかった、けど少し待ってて、後でメールする』と返しておく。
「もういいよ、それより話ってなんだよ?」
俺の言葉を待っていたかのように、東田ががばっと顔を上げる。 その勢いに驚いて一瞬びくっとしてしまったが、平静を装って東田の言葉を待つ。
- 226 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:12:48 ID:8cdbOELL]
- 「実は…瀬能さんのことなんだけど」
ピクリと身体が反応してしまった。
優香?優香のことだって?一体何の話だ? クソッ!指が震える。 落ち着け、落ち着いて深呼吸するんだ。
「瀬能…?ああ彼女のことか、それで?」
内心の動揺を隠し、促す。 一体何の話をするつもりだ?
予想外のことに浮き足立っているのがわかる。 我ながら小心者だな。
自分に苦笑する。
「その…俺の…勘違いだったら…いいんだけど…か、彼女って…」
なかなか話の先を告げない東田にイライラするが、表情に出さないように次の言葉を待つ。
その間に優香から二通目のメールが届いた。 そっと確認してみると、
『わかった。待ってますね』
簡潔な文章が優香の切羽詰った心が見えた。
今日はもしかしたら今までの中で最大級かもしれないな。
携帯を閉じながら、どうやって優香を明日部活に行かせるかに頭をフル稼働させようと思ったが、東田の次の言葉で、それが強制的に止められる。
- 227 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:13:20 ID:8cdbOELL]
- 「瀬能さんって、なんであんなに孤立してるんだ?」
パチリと携帯を閉じる音がテーブルの下で響くのと同時に言い放ったその発言に俺は一瞬言葉を失ってしまう。
なんともまあ勘の鋭い奴だ…いや主役としていつも練習してるなら当たり前か? いずれにしても話の内容はそのことで間違いないようだ。
「孤立って……どうしてそう思うのさ?」
「ということは孤立しているんだな?」
……失言。 我ながら頭は良くないと自覚はしているが、こんなときくらい上手く回って欲しいものだ。
俺はハーっと息を吐いて、横を通ろうとした店員さんを呼び止めてコーヒーを頼む。 その間も東田は真剣な目で息すら忘れたように俺をじっと見据えていた。
「ここは奢ってくれるんだろう?」
俺の問いかけに一瞬きょとんとして東田は、
「あ、ああ…もちろん。なんだったらこのスウイートパフェだって頼んでもいいぜ」
ちょっと軽い口調に戻る。 とりあえず奇襲されたような気分だったので軽く反撃をしてみた…全く意味は無いけどな。
「まあ…孤立というか、大分浮いてきてはいるよ、彼女は」
運ばれたコーヒーを何もいれずに口に運ぶ。 馬鹿を言った自分に罰を与えるために苦味を口の中で味わう。
当然、東田は答えた。
「どうして?」
俺は努めてクールに真面目な顔になって言い放つ。
「今から言ったことは彼女には聞くな…まだ傷が治ってないようなんだ」
コクリと頷いた東田の顔はまるで映画スターのようにさまになっていた。
俺は優香が孤立することになった事件をかいつまんで説明する。 もちろん俺がそれをやったなんてことは言わない。
自分のやったことを客観的に説明する作業は何か不思議な感覚で自分がまるで小説の登場人物になったように現実味が無かった。
- 228 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:13:57 ID:8cdbOELL]
- 「…そんなことが、酷いことするやつがいるぜ」
タンとテーブルの上を叩いて東田が怒りをあらわにする。
俺も沈んだ表情で、
「ああ、一体誰があんなことを…」
東田と同じ気持ちのフリをする。
「瀬能さんがそんなことをするはずが無いじゃないか!自分で衣装を切ったり、部費を盗んだりなんて…」
……確かに優香はそんなことはしていない。したのは俺だからな。
「だが残念ながら部員の一人が見たらしいんだ。 衣装がちょっと気にくわないとか言ってのを、それに部費が盗まれた日に優香が普段通らない神社の境内にいて何かを隠していたのを見たらしい」
「なっ!一体誰が見たんだよ!そんな姿を」
「…落ち着けよ、店内だぞ」
興奮した東田をたしなめる。
「どうかなさいましたかお客様?」
「あっ、うるさくしてすいませんでした」
ぺこりと東田が周囲の客達に頭を下げる。 俺も一緒になって下げる。
「…で、誰が見たっていうんだよ?」
「…それがわからないんだ。ただ皆、誰々から聞いたとかその誰々に聞いたらまた別の誰々に聞いたとか言って要領を得ない。結局は誰が見たのかなんてうやむやさ」
- 229 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:15:05 ID:8cdbOELL]
- これは都市伝説が広がるパターンを利用した方法だった。
まず第一に誰々から聞いたんだけどと部外の人間から聞いたと噂を流す。
この場合は優香が犯人「なのかもしれない」という噂だ。 その噂を聞いた人は次に誰かに話すときは誰々が誰々から聞いたんだけどと話すだろう。
その噂はどんどん駆け巡っていき、次の次の次の次くらいには誰々の誰々の誰々の誰々の誰々から聞いた話とはならずに、誰々から聞いたんだけどと短縮される。
そりゃ話すほうからすれば大事なのは内容なのだから誰から聞いたなんてのは短縮されるするだろう。
だがその結果、噂の出所がわからなくなり、かくして誰が言ったかわからない、けれど優香があんなことを言っていた
あんなことをしていたというのが伝言ゲームのように広がるうちに内容が変わってこの結果に落ち着いたのだった。
ちなみに俺が最初に流した噂では、衣装を改良したいなとお守りを買いに神社に行ったとだけ言っておいた。
これは仮に噂の出所である俺のところまで誰かがたどり着けた際に言い訳する為にこういう風にしたのだ。
もっとも実際は予想を遥かに超えて洒落にならない噂になっていたので意図的に噂を直すこともやる羽目になったが。
それにしても根拠のない話の怖さが良くわかる事例だった。 特に校内で目立つ優香の噂は俺の予測以上に過激に広がっていたので当人の耳に入る前に軌道修正できたのは僥倖だった。
ちなみにそのときに流れた過激な優香の噂が原因で彼女と積極的に交渉を持とうとしない人間が増えたのは俺にとっては予想外の収穫だったな。
- 230 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:15:43 ID:8cdbOELL]
- 「そ、そんな…ひどい…ことが…」
絶句する東田を見ながら、コーヒーをすする。 そしてその下で優香にメールを打った。
『もうちょっとしたら終わるから待っててくれる?今日は家族居ないから近くまで来たらメールする』
「近藤!」
急に立ち上がった東田に驚いて携帯を落としそうになる。 幸い落とさなかったが、コーヒーがカップの外に少し跳ねてしまった。
そんなことも気にせずに東田はがっしと俺の手を両手で握り、真剣な顔に目には涙をうっすらと浮かべて、
「瀬能さんを俺達の手で救い出そう!」
「はっ?」
本気でそんな言葉が出た。 一体何を言っているんだこの男は? 先ほど俺が話した絶望的な状況をちゃんと聞いていたのか? そして理解していたんだろうか?
「確かにいま瀬能さんの状況は最悪に近いさ、でも…でも…俺達に何か出来ることは一つくらいはあるだろう?」
俺達ってなんだ? 少なくとも俺が望むのはお前が大人しくして優香と距離をとってくれること何だけどな。
「変に何かをすればそれだけ彼女の状況が悪くなるんだ。よく考えろ。 彼女のためを思ってやったことで迷惑をかけるかもしれないんだぞ?」
「た、確かに…そうかもしれないけど、でも…俺…は」
尚も何かしたいという東田を何とか説得し、俺が家路につけたのは最後に優香にメールしてから一時間半後だった。
- 231 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:16:07 ID:8cdbOELL]
- トボトボと夜道を歩きながら、空を見上げると小さな三日月が浮かんでいる。
結局、優香にメールできなかったな。 仕方ない、家に帰ったらすぐにメールと電話して明日帰ったときに全力で説得するとしよう。 とりあえず今日は色々と大変だった。
それにしても俺が思っていたより、いや思っていた以上に東田は良い奴だった。
いつもふざけているようで妙に律儀なところがあったり、いくら同じ部員だからといってあそこまで優香の状況に自分のことのように怒ったりとなかなかどうして憎めない奴だ。
ふと自分で気づく、笑っていることに。 なるほど、あいつは本当に凄い奴だ。
敵だと認識している俺がこんな気持になってしまうなんて……。
適わないよな〜、実際。
- 232 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:17:00 ID:8cdbOELL]
- 見上げていた視線をまっすぐに戻す。 もう自宅の近所だ。 ちょっとシンミリとした
気持を見透かすように風が吹いた。
「ん?…なんだアレは?」
すっかり暗くなった道の先に何かがある。
その何かはちょうど俺の家の玄関前にあるように見えて、ゆっくりと用心するように近づくとその何かが動き出してにゅっとこちらを見る。
「…お、おかえり…へへ」
悪戯が見つかった子供のように、俺の家の玄関前に座り込んでいた優香が照れたように笑う。
「…ずっとここで待っていたのか?あのメールからずっと?」
「う、ううん…さっき来たとこ、ちょっと待ちかねちゃって…エヘヘ…ゴメンネ」
謝る優香の頬を手で両側から挟み込む。 もう初夏に入るとはいえ、夜はまだ冷える。
優香の両頬はすっかり冷たくなっていた。 見透かされたことが判って困ったような顔になる。
「ふ〜、とりあえず家に入りなよ。いま暖かいコーヒーを入れてあげるからさ」
「うん…やった〜、ミルク砂糖甘めでね」
「駄目だ、ブラックで飲んでもらう。主役なのに風邪引きそうなことをした罰として」
「……それは…ゴメン…だって…会いたかったから」
玄関に入った優香をぎゅっと抱きしめる。 互いに無言になって数分間そのまま。
「まあとりあえず、話しから聞こうかな?話って何さ?」
「え?ええっと…なんだったけ?なんか恭君と会ったら嬉しくて忘れちゃった」
「ふーんそうかい、それじゃお湯が沸くまで色々話そうか?」
「うんわかった……なんか今日は優しいね」
嬉しい気持を全身から出す優香の頭をニコニコしながら軽く撫でて心の中で呟いた。
そろそろ覚悟する時が来たからね。
- 233 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 21:19:34 ID:8cdbOELL]
- 今日はここまで。
たまにこういうオチも悪くないよね。
とりあえずまた続きを書きにイッテきます。
- 234 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 22:41:49 ID:Qzt63rzP]
- GJ!俺には何故か彼女が主人公を依存させているのでは?
と思い、ドキドキだw続きを待ってます
- 235 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/01(火) 23:10:56 ID:44Ogf+p2]
- 乙です。いつも楽しく読ませていただいています。
1つ聞きたいんですけど
>>222の(正直言って役不足だと思うが) の役不足って力不足と解釈していいんですか?
役不足だと随分自信家な人物だなと思いましたんで。
- 236 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 00:06:40 ID:6HTCcXBK]
- >>235 ここでの役不足は力不足と解釈してください。
たしか役不足の本来の意味と現在使われている意味で逆になっているというのを聞いた
覚えがあるので使ってみたんだけど……正しかったのかな?
- 237 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 00:26:52 ID:PKLjKTfe]
- >>236
確かに、最近は意味が逆転されてきたけど、辞書の意味では本来の意味しかのってない。
だけど、あまり気にしないでもいいと思うよ。
いちいち単語の意味を気にして投下出来なかったら本末転倒だし。
- 238 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 00:51:33 ID:KHwIR7OG]
- 次は、東田君を陥れるんかな。
- 239 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 06:00:49 ID:vnwnHc6z]
- この主人公程破滅を願った奴はいないw
- 240 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 11:28:10 ID:FZgHPKXh]
- 俺が…東田だ!
正直、身を退こうかと少しでも考える位はして欲しいゲスさ
胃がキリキリしてきた。でも面白いです
- 241 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 13:57:21 ID:kNlqZp/l]
- 幼馴染を陥れる男…スパイダーマッ!
- 242 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 21:03:20 ID:PKLjKTfe]
- 東田は主人公に嵌められて再起不能な傷を負ってほしい。そして、新たなライバルが現れて
西田「東田は四天王の中で一番弱い男だ」
的な台詞を吐いてほしいと願ってる俺はよっぽど疲れてるんだろうな。
- 243 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 21:06:54 ID:cU2ZVrN7]
- >>242
疲れてるどころの話じゃない。
それは一種の性病です。
- 244 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 22:23:03 ID:j2evaIjb]
- いや、意外に悪くないかも知れんぞ? 強敵を倒したら新たな強敵がというのは
定番ですな。 だけど残念ながら東田の次のライバルは女なのです。
- 245 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 22:35:29 ID:q7Z/bEMF]
- 次は西田。その次が南田。そして北田。
- 246 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 22:59:41 ID:j2evaIjb]
- >>245 西をつけるのは悪くないかもね。
ただ続きが中々思いつかないので東田編終わらせて次の話しに行くのはもう少し先かな?
ところで、いい加減タイトル考えようかと思うんだけどなんか良いアイディアないですかね?
- 247 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 23:11:42 ID:I34G5tJN]
- あまり言いたくはないけど春春夏秋冬の人とかあすかの人とか他の書き手の方々に対しての配慮はしないの?
- 248 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 23:22:28 ID:j2evaIjb]
- う〜ん、配慮と言うと? 話進められなかったのでちょっと見にきたんですけど、雑談っぽいことしてるからかな?
- 249 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 23:55:51 ID:I34G5tJN]
- >>248
・・・もういいや、言いたい事はあるけど荒れるのも嫌だからこれ以上は何も言わん。せいぜい頑張ってくれ
- 250 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 23:57:43 ID:P5NMuhNu]
- その2作品が投下された直後に間空けずに投下してるからじゃね
と思ったら後者の方はほぼ24時間経ってるか
- 251 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/02(水) 23:57:53 ID:j2evaIjb]
- >>249 ちょいと気になるけど、わかった頑張るよ 俺
- 252 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 00:01:57 ID:ENHWgiJ2]
- >>250 一応、他の人が投下してる最中には投下は絶対しないようにするけど、終わったなら問題はないと思ったんだけどね。
腰が痛いせいか妙なテンションなのですごい気になるな
- 253 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 00:14:04 ID:3TsFYoDR]
- >>246
タイトルは・・・『スパイダーマン(悪)』とかどうでしょう?
もしくは、彼の陰険さを出すために『インセクター近藤』とかは?
『近藤、虫なくなった。』
とかどうでしょう?
- 254 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 00:54:29 ID:3TsFYoDR]
- ごめん、俺疲れてるんじゃなくて憑かれてるわ。
普段はROMって作者をこっそり応援しているのに、今日に限っておかしいな。
- 255 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 01:54:54 ID:evcZWNi4]
- >>252
雑談というか全レスしてるけど、
「誠意がある」と感じる人もいれば、煙たく感じる人もいるから、配慮しような
アンカーは全角だと、専ブラや携帯用閲覧サイトだとおkだけど、
普通のブラウザだとリンクされないから半角の方がありがたい
作品は大好きだから頑張ってね
- 256 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 03:42:09 ID:BkJl6Wfc]
- 東田も貶めるられるとか、主人公糞すぎワロタw
- 257 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 04:46:13 ID:Fu/r4sm2]
- でも、何故かあの主人公は応援したくなってくるんだよな…。
- 258 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 12:41:35 ID:vyOASM6d]
- >>249
言いたい事は分からんでもないけどなw
流れが早いスレに慣れてる作者だと、よくある事だよ。
- 259 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 13:04:20 ID:zU2a4uuy]
- 最近になってこのスレを読み始めたんだけど
どの話がどこからどう続いてるのかが判りづらいかな。
色々な書き手さんが頻繁に投下されてて、すごく活気があっていいなと思う反面
たくさんのSSの中に今読んでいたものが紛れてしまい
続きは一体どこからなのか、ごちゃごちゃしてしまって…
トリップつけてくれれば抽出できて一気読みしやすいから嬉しい。
長期連載がいくつかあるなら、この連載の一番初めが何スレ目の何レスから始まってるとか
テンプレ代わりの栞みたいなのがあればとんでもなくありがたいです。
立ち寄り人の一意見ですが、良ければご参考ください。
- 260 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 14:24:43 ID:Fu/r4sm2]
- wikiがあるじゃない。
- 261 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 14:30:43 ID:zU2a4uuy]
- >>260
うほっすんません
てっきりエロパロ板供用保管庫かと思ってた
早速見に行ってきます
- 262 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/03(木) 17:23:14 ID:G8RzK6Tw]
- ここのwikiは更新早いから、ほぼリアルタイムの進行状況で読めるよ
管理人さまさまだな
- 263 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/04(金) 17:08:36 ID:BlgntbG5]
- スレが止まってるから、かなり短いですけど>>232の続き投下します。
続きはいま書いてるので出来しだいすぐに投下します。
- 264 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:09:44 ID:BlgntbG5]
- 夢を見ていた。 それもやはりと言うべきか悪夢だ。
状況はわからないが、何故だか俺は東田に攻められている。
あの爽やかな人の良い東田が俺をまるで悪魔でも見るように怒気を全身からみなぎらせ、断罪するように罵っている。
そしてそんな俺の前には優香が居て、膝をペタリと地面につけて呆然と俺を見ている。
なんだその目は…なんなんだ! 優香の綺麗な瞳の中に俺が映らない、濁った沼底のような虚ろな瞳が彼女が絶望していることを表していた。
瞳が溶け出ているような涙を流し、彼女は壊れた人形のようにその場にへたり込んでいる。
俺は何か声をかけようとする。 しかし、喉が張り付いたように言葉が出ない、それどころか優香とまっすぐ目を合わせることが出来ないでいる。
彼女のどこを見ているのか判らない瞳の中に映ってしまえば自らの醜さに消えてしまうのではないかと言う気持ちが心の底から噴出し、俺も壊れた人形のようにその場に立ちつくしている。
だが東田だけは違った。 時間を止められたかのように凍り付いている俺と優香の間に入り、軽蔑するかのようにこちらを一瞥し、ゆっくりと彼女の前に立つ。
そして救世主が信者に話しかけるように優香の肩に手をかけ、視線を合わし、何かを囁いている。 聞こえはしなかったが、それが愛の告白だと言うことはわかった。
恐ろしいことに東田は俺の目の前で優香を口説いているのだ。
優香の目に光が戻る。 そしてゆっくりと逡巡するように手を伸ばし、そしてそれを東田が強く握る。 それが合図のように二人は激烈に抱擁しあうのだ。
俺はただただそれを見続けることしか出来ない。
優雅で美しく最も恐ろしい悪夢を……。
- 265 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:10:32 ID:BlgntbG5]
- ブーンブーンという低音のバイブ音で目が覚めた。 やはり夢か……。
暗くなった室内で天井を見上げながらホッとする。
隣では裸の優香が可愛らしい寝顔をして寝入っている。
そうだ、外で身体を冷やしながら待っていた優香と家に入って軽く談笑した後、俺達は抱き合ったのだ。 まるであの悪夢の二人のように……。
夢を思い出し、総毛立ちそうな悪寒を振り切って、俺は優香を起こさない様に慎重にベッドから降りて脱ぎ捨てられたズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
メールの受信を表すアイコンが画面上に出ており、開いてみると差出人は東田だった。
悪夢から目覚めるのを助けてくれたのが悪夢の張本人だったなんて、皮肉な状況に思わず苦笑してしまう。
薄暗い室内でボウッと光る携帯を操作してメールを開くと、
『件名 東田です
今日は急に呼び止めて悪かった。なんか用事があったんだろう?携帯いじくってたからわかってはいたんだけどさ。
とりあえず明日から俺は俺なりに瀬能さんがまた元に戻る方法を考えてみるよ、お前の話を聞いて何も知らないではしゃいでた自分が馬鹿みたいに思えたし
きっとみんな瀬能さんと仲直りするきっかけを探しているんだと思う。近藤もよかったら協力してくれないか?とりあえず明日また学校で話そうぜ』
- 266 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:11:00 ID:BlgntbG5]
- 半分予測していたとはいえ、頭が痛くなる。
どうやら東田は迷惑なことに(本人にとっては大真面目なんだろうが)優香を昔みたいにしてやりたいと決意してしまったようだ。
あのファミレスでの会話の中で東田は人が良いわけではなく、なかなか正義感が強いというのも知ってしまったが、まさかここまで行動的だとは思わなかった。
俺としては何かしら言ってくるたびに上手いこと否定していればそのうち諦めるだろうと思っていたんだが……。
- 267 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:11:22 ID:BlgntbG5]
- 携帯を閉じて、小さく寝息を立てる優香の横にもぐりこんでしばし寝顔を観察した後、ゆっくりと縛り付けるように抱きしめて俺はまた眠った。
とりあえず明日からの為に今は寝よう…このぬくもりを忘れないためにも。
- 268 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:12:06 ID:BlgntbG5]
- とりあえずここまでで、出来次第続きを投下します。
- 269 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 17:46:39 ID:b2cWbfey]
- 続き気になるけど、GJって書きにくいぐらい本当に短いな。
- 270 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/04(金) 18:58:15 ID:2JN5Tdtd]
- とりあえず続き期待
- 271 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 06:47:20 ID:t0HIUX1A]
- 早く主人公の破滅が見たい
- 272 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 18:47:24 ID:XoKNi1w0]
- >>271
自分が思う展開を作者に頼むのはやめておけ。
作者のプロットがそういう展開じゃなかったらどうするんだ。
- 273 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 21:38:37 ID:C30QR341]
- 出来しだい投下って・・・まるでこのスレが自分のもののような言い方だな。書き貯めとかしないの?1レスに2000文字くらい入るんだからもう少しまとめようよ。
他の書き手の人達だっているんですよ?
- 274 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 23:04:37 ID:bCtmA0rA]
- >>268
スゲー面白い。続き期待してます!
バイブの音をジョークアイテムの音と勘違いしたのは秘密です。
プレイはノーマルなんですね。ちょっと安心。
- 275 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 23:42:39 ID:xjxZ8z/B]
- というか1レスの文章量が少なすぎ
1レスにもっとまとめてレス数減らせばいい
- 276 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 09:21:01 ID:gxsDg8A2]
- なんか変な流れ
- 277 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/06(日) 19:59:42 ID:vT4PRSJ0]
- 貴様らそれでも人間か!
- 278 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 21:41:46 ID:AQl0/11f]
- ただの…変態だ!!
- 279 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 22:56:07 ID:ntv2j+nv]
- 悪夢実現して欲しいな
正直その方が萌えるwww
- 280 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 23:50:41 ID:0giyWKJy]
- >>279
萌えの使いどころ間違ってるよ。
- 281 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/07(月) 07:18:05 ID:WOmIUm/9]
- 変な人が居るね
- 282 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 07:26:12 ID:uynfRC6P]
- む!
まさか、そんな。
- 283 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 10:01:22 ID:6klshruD]
- そうです、私が変な依存さんです
- 284 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/08(火) 19:01:29 ID:t9TlEd8l]
- ある男性が南アへ行くことになった。彼は外国は初めてだったので、
海外経験の豊富な友人に現地で注意することなどを酒を交えつつ教えてもらっていた。
友人の話によると向こうはゲイが多く、中には襲われるケースもあるという。
不安になった男性はそれから逃れるための方法を友人に聞いた。
「方法は簡単だよ。面と向かって『I am AIDS.』(私はエイズです。)と言えば一発で逃げていくさ。」
友人はそう言ってぐいっと酒をあおった。
その後、男性は南アへと旅立ち、何事もなく数日を過ごした。
しかし、ある日の深夜に事件は起こったのだ。
彼は後ろから屈強そうな黒人の男にいきなり抱きつかれ、君は魅力的だと求愛するような言葉を言われた。
ゲイだ!そう思った男性は友人から教えられたことを思い出し、とっさに「I am AIDS!」と叫んだ。
しかし、黒人の男はさらに男性を抱きしめて耳元でこう囁いたのだ。
「Me too.」(僕もだよ。)
- 285 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 01:21:01 ID:CmDENIjA]
- みなみあへに見えた
- 286 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:13:12 ID:joBi8OGs]
- 過疎ってますね。
このスレに依存してる俺に対する挑戦ですな。
どれだけつれなくされようとも、消えてなくなる依存心じゃありませんことよ!
- 287 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:33:31 ID:MKlxp0D2]
- ならば>>286の為に投下することにしようじゃないか!
>>267の続きです。
- 288 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:34:22 ID:MKlxp0D2]
- 翌日の昼休み、俺は購買のパンを買って屋上へと向かっていた。 すれ違った女子達がチラリとこちらを振り向いて輝いた目で見てくる。 まるで映画スターを見るかのように。
もちろんその視線を受けているのは俺じゃない、隣で何か照れくさそうな、でも熱っぽい言葉で語りかけてくる東田の方を見ているのだ。
何とも面倒くさいことになってしまった、俺はチラリとどうでもよい話を繰り返す東田を見る。
サラサラとした髪に手足が長く長身に甘いマスク、改めて見るまでもなく東田は良い男だ。
そしてこいつは顔だけではなく性格もなかなか良いと来ている。
孤立した瀬能優香を助けたいと言う気持を強く抱き、彼女の幼馴染である俺に何のてらいも無く頼み込んで協力を仰がせる。
嫉妬する気力もなくなるほどにこいつは男としても人としても尊敬すべき奴だ。
- 289 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:35:32 ID:MKlxp0D2]
- だが俺にとっては、人生を全て賭けるほどに努力し、どうにか優香を苦労して陥れたのを不意にしようとする悪魔のような男だった。
だが俺はそんな男の協力の要請を断ることが出来なかった。
こいつは俺の予測を遥かに超える程に行動的で実力を持った人間である以上、離れて何をやらかすかわからない状態にしておくのは得策ではなく、
それならば近くにいてどうにか東田の企み(客観的に見れば孤立した優香を救うことなんだが)を阻止あるいは諦めさせなければならない。
そのために俺は自分自身の矮小さを強制的に認識させられながらも、あるいは敵を隣に立たせながら屋上へと向かうはめになってしまっているのだ。
そして屋上へと通じる扉を開くと、すでにそこには先客が待っていた。
「おお、待たせちゃったかな?悪い悪い」
ニカっと笑って東田が歩み寄る。 そして俺も仕方なく東田に続く。
「う、ううん…い、いま…来たところだから」
落ち着かない素振りで自分もいま来たことを優香が告げる。
しかしその足元にはビニールシートがしかれており、チラリと確認した時計では昼休み開始から20分が立っている。
友人からの昼飯の誘いが多い東田や混雑する購買のパンを買いに言った俺とは違って優香は孤立しているのですぐに屋上へと向かえたはずだ。
それらから考えるとおそらくは最低15分くらいは待っていたと思われる。 それが今来たところと言えるかどうかは微妙だが、
少なくとも決して長いとは言えない昼休みの時間を考えるとそうとは言えない気がする。
「それじゃ皆で食べようとしようか」
内心の不愉快を隠しながらも俺は淡々と昼食会とやらを始めるように促した。
- 290 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:36:26 ID:MKlxp0D2]
- 東田のアクションは実に早かった。
朝六時に再度メールをしてきて計画を語り、そして登校してきたばかりの俺を下駄箱で待ち構えて計画の説明とすでに優香と約束していることを宣言してきた。
その迅速さに閉口しながらも、
「二人っきりではなくて近藤と三人で食べようと言ったらなんとかOKしてくたぜ」
自身の目標の第一歩が成功したことに機嫌が良いのかこちらに親指を立て向けてくる東田に親指を下げて地獄に落ちろと言ってやりたかった。
というわけで優香と約束していた学校内では基本的に絡まないというのを俺側から破ることになってしまい
心中不機嫌ではあるのを隠しながらも昼食会自体は比較的穏やかに進んでいった。
「とりあえず今日の俺は昨日のおかずを適当に詰めてきた残り物デラックスだ!それで近藤は購買のパンで、瀬能さんは…弁当?」
パンにかじりつきながらチラリと優香の弁当を見る。 可愛らしいというか女の子らしいというかカラフルな感じの弁当だった。
孤立する前の優香は料理が苦手だった気がするな、そうするとこれは彼女のお母さんが作ったものなんだろうか?
- 291 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:36:55 ID:MKlxp0D2]
- 「おお!なんかファンシーで良い感じだな!瀬能さんが作ったの?」
「う、うん…料理…最近ハマッてるんだ」
少し頬を染めて恥ずかしそうにチラっとこちらを見る優香を無視して俺は新しくパンにかじりつく。
そうか…それで俺の弁当を作ると言ってきたのか、それにしても優香が手作り料理とは、卵焼きでさえ時々焦がしてしまうときがあったあの優香がね〜。
「マジで美味そうだな〜、ちょっと一つもらっていい?俺の煮物と交換してくれよ」
返事も聞かずに優香の弁当箱にハシを突きたて鮮やかに黄色く焼きあがった卵焼きを口に運ぶ。
「おお〜、マジで美味いな。ちょっと大葉かな? その香りが良いのと甘くてそれが絶妙に合わさっているな」
変てこだが一端の美食家のようなことを言って上機嫌の東田を見て、勇気がわいたのかクルリと弁当をこちらに向けて、
「あ、あの…きょう…近藤…君も一つ…どうかな?」
小首を傾けて遠慮がちに言う。 俺の顔をまっすぐ見つめながら、そして東田もまっすぐに俺を見てくる。
諦めて東田が食べた卵焼きを一つ指でつまんで口に放り込む。 モグモグと噛んでいる間も二人の視線はこちらか離れない。 実に食べづらい状況だ。
「……うん、美味いね」
ボソリと一言だけ呟いてそっぽを向く。
小さく優香の「よかった」という言葉が聞こえた。
その言葉は東田には聞こえていないようで、しきりに大げさに美味い美味いと騒いでいる。 よく晴れた昼下がりの屋上は結構な人がおり、その中で俺達は注目されていた。
たまに東田に親しげに話しかけてくるやつがいて、知らない人間から見れば俺達は仲の良いグループに見えるのだろう。
- 292 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:38:07 ID:MKlxp0D2]
- 醜い蜘蛛と華やかな蝶の二人、全くお似合いの二人に挟まれた俺は惨めなものだ。
だがどんなにこの状況がプライドを傷つけられ、心をざらつかせるものだとしても俺はそれに耐えなければならない。
耐えて耐えて耐え続けて、俺の隣に立つこの華やかでたくましい蝶が優香を連れて行かないように、
美しく粉を吹く羽を広げて二人が飛び立つ瞬間に強く掴んで放さないようにしないと。
和やかな雰囲気の中で俺は油断無く虫けらの性根を隠してただただ時間が過ぎるのを待ち続けた。
やがて昼食は終わったが、その後もなんだかんだと残り続け、東田のよくわからないモノマネシリーズを延々と見させ続けれていた。
まあそれなりに面白くはあったけどさ。
そして放課後は劇練習の台本読みの間、いつも以上に東田は積極的に優香に話し続け
その合間にも他の部員達とコミュニュケーションを取って部活内の雰囲気を良くして行く。
本気を出した東田は持って生まれた愛嬌と人を和ませる才能を持って、部活内の雰囲気をどんどん良くして行く。
つい数日前とは大違いに雰囲気は文字通り劇的に良くなっていき、ポツリポツリとだが優香と会話をする部員も出てくる始末だ。
- 293 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:39:01 ID:MKlxp0D2]
- 俺はその状況を見ていることしか出来ない、ただ確実に外堀は埋められ続けおり、真綿でじわじわ締め付けられるような嫌な焦燥感が胸を騒ぎ立てる。
体内から侵食されるような痛みを隠しながら俺は無表情で裏方作業を続けていく。
我慢だ。 今はまだ耐えるしかないんだ。 東田は急速に状況を変えていっているが、まだ本丸である優香自身は変わっていない。
ただただ目の前の状況の変化についていけず曖昧な顔をしてやり過ごしているのだから……まだ焦ることは無い。
そうだ焦るな! 今は深海に潜む魚のようにあるいは獲物が落ちるのを待ち続ける食虫植物のように機会とそれを呼び込む瞬間を待ち続けるしかない。
そしてそのための努力も。 考えられる全ての最悪の状況を考え、優香の心変わりすらも想定した根本的な作戦が必要になる。
いざとなったらもう一度嵌めなければいけないことも覚悟しなければ。
直後のダメージや現状を考えると出来れば避けたいが、それすらもタブーにせずやり遂げなければならない。
焦るな、焦るなよ、今はただ土の下で眠る蜘蛛のように、感情も情緒も全て捨てて、シンプルな目的、優香をいつまでも俺の元に捕らえ続けるために……。
- 294 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/10(木) 02:42:51 ID:MKlxp0D2]
- ほい、とりあえず今日はここで終了。
また出来次第投下しますよ。
他の作者さんたちも待ってるんでよろしくお願いします。
作者も読者も一体になってこのスレを盛り上げていきたいね。
- 295 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 02:52:46 ID:irvxf326]
- 東田君がはしゃ…もとい、頑張りすぎるから…。
- 296 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 06:06:27 ID:x4jiFFla]
- 東田頑張れw
- 297 名前:286 mailto:sage [2010/06/10(木) 15:49:36 ID:joBi8OGs]
- わあい、ありがとうございます。楽しみな作品の続ききた。
GJです。
俺は卑屈主人公スキーなんで主人公応援するぜ!
- 298 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 20:55:10 ID:pOO2Cpmo]
- GJ!
この作品ためにスレを見に来ているといっても過言じゃない。
- 299 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 21:20:38 ID:nK6U2O62]
- >>298
嘘つけ。
- 300 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 02:52:18 ID:O7LOfsXf]
- う・・・うむ。。。。。。。非常に複雑 どっちも応援したい。
- 301 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/11(金) 11:05:06 ID:iixjmbMS]
- とう
- 302 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:12:40 ID:iixjmbMS]
-
―――ノクタール王国の絶対防護壁であり、最強の矛であるノクタール騎士団。
ノクタール国王直属の護衛兵であり、ノクタールの象徴でもある。
世界各国から東大陸大海の脅威と評されており、平民からは白い羽根を見たら膝まずき、騎士団が通り過ぎるまで頭を上げるなと言われるほど恐れられている。
しかし、実際は恐れられているどころか、慕われているの間違いだ。
ノクタール内や城下町のコンスタンでは親しみのある騎士団として、平民の皆から愛されている。
なぜ真逆の話が出回っているかと言うと、大昔の話が関係してくるのだ。
100年前にノクタール城が建てられると同時に騎士団が結成されたのだが、当時の騎士団の団長がノクタールを守る為に街を荒らすドラゴンと一人戦ったそうだ。
その話は全世界でおとぎ話になるほど有名な話で、この話を信じて東大陸にドラゴンを探しにくる輩も数多くいる。
そんなドラゴン殺しの血を引く人間が騎士団にいるのだ――それが今の騎士団率いるグランチェック=アルベル将軍殿である。
このアルベル将軍…コンスタンやノクタールでは英雄と言われるほどの騎士で、色々な伝説がある男性らしい…。
- 303 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:13:35 ID:iixjmbMS]
- すいません、夢の国投下します。
- 304 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:14:42 ID:iixjmbMS]
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アルベル将軍が騎士団に入団してから、東大陸の八割をたったの六年でノクタールの領地にしたり、違う地から侵入してきたメギロップスという全モンスターの中でも一〜二番目に巨体なボルゾを真っ二つに斬ったりと、噂は後をたたないのだ。
そんな噂が噂を呼び、鎧兜の禍々しさもあり、東大陸全土に噂が広まった結果、いい意味でも悪い意味でも注目される的になったそうだ。
その誰もが恐る騎士団には五つの掟が存在する。
第一、王の命令は何があっても絶対。
第二、ノクタール領地に存在する城や町には危害を加えない。(例外を除く。)
第三、困っている者がいれば領地外でも率先して手助けをする。(これは騎士団だけではなく、平和の旗を掲げているノクタール兵全てに当てはまる。)
第四、どんな状況でも仲間を見捨てない、そして傷つけてはならない。(その中でも仲間殺しは一番罪が重いとされている。)
そして第五の掟―――騎士団に社会的、または政治的に特権を持たない者を入団させてはならない。
簡単に言えば特別な階級…つまり“貴族以外はお断り”という意味だ。
その第五の掟を見事に破り、晴れて騎士団兵となった平民が二名だけ存在する。
- 305 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:15:17 ID:iixjmbMS]
- 一人は初めて掟を崩し、なおかつ騎士団初女性騎士という異例の快挙を成し遂げたロゼス・ティーナ。
女性でありながら、騎士団副長という貴族と同等の地位まで登り詰めた努力家だ。(公爵、侯爵ほどになると話が変わってくるらしい。)
そしてもう一人が故郷を追い出され、知らない間に騎士団訓練兵になっていた……いや、させられた平民の中の平民―――ライト・レイアン…この俺だ。
三年前に騎士団訓練兵から、純騎士団兵へと格上げされたのだが……なぜ平民の中の平民の俺が騎士団兵として活動しているのかと言うと、三年前、故郷であるユードで権力者の神父が俺の家で殺害された事がきっかけとなっているのだ。
殺人犯として加害者となった俺はユードを追い出され、船でノクタールまで運ばれ死刑判決を受ける予定だったのだが、神父を殺した真犯人が捕まり、晴れて釈放となった。
そのままユードに戻ろうと思ったのだが、後から来た幼馴染みのティーナに「ユードの皆がまだライトを疑っている。危害を加えない保証は無いのでノクタールに移り住んだほうがいい。」と言われたのだ。
真犯人が捕まったのだから問題無いだろと言うと、なんでも捕まったのでは無く、見つけた…らしい。
- 306 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:18:36 ID:iixjmbMS]
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見つけたと言うのは、神父の胸に刺さっていたナイフと神父の遺体近辺に落ちていた鷹の勲章――バレン勲章が見つかりバレン兵の仕業だと分かったそうだ。
俺をノクタールまで運んだ後に発見したらしく、海門でバレン船を停めて事情聴取したところ、船員が二名行方不明になったまま帰ってこない事が分かったそうだ。
その夜、ユードの町門の外から怪しい音が聞こえると言うことで、残っていた騎士団が門外を探ると、無惨にもボルゾに食い散らかされたバレン兵らしき死体が二体発見され、疑問が残る解決になってしまったと……。
ティーナいわく町人の中には食われていたバレン兵も俺が殺したんじゃないかと言う輩までいたらしい…。
そこまで言われたら此方も帰る気など無くなってしまうというものだ。
それに家だって燃えてしまった…どうせ故郷に戻っても住む場所も無いのだ。
だが唯一気掛かりな事がある……それは、メノウの存在。
俺が故郷を追い出された三年前のあの日から、メノウとは一度も会っていないのだ。
母親代わりのアンナさんがいるので大丈夫だと思うのだが、やはり妹の様に可愛がっていただけに気になる。
- 307 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:19:33 ID:iixjmbMS]
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しかし連絡の取りようも無し、この広いノクタールで俺の場所の特定も難しいだろう…。
元気に暮らしているといいのだけど…。
◆◇◆†◆◇◆
「……遅い。」
テーブルに頬杖をつき、扉を睨み付ける。
別に扉に対して苛立ちをもっているのでは無い。
扉から入ってくるであろう人物に苛立ちを覚えているのだ。
「副長…あの…。」
小さく心の中で呟いたつもりなのだが、口に出てしまったようだ…。
周りにいる団員数人がオドオドと私に話しかけてきた。
「後は私とライトで探しておく…お前達は先に帰って体を休めろ。」
私の前に並ぶ団員達にノクタールへ戻るよう命令する。
「わかりました…。おい、行くぞ。」
一人の団員が周りにいる団員に声をかけ、ぞろぞろと酒場から出ていく。
その後ろ姿を見送り、全員扉から出ていった後、はぁ〜、と大きくため息を漏らした。
暑苦しい男どもに囲まれたら余計に苛立ちが増すというものだ。
朝から駆り出され、風呂にも入れずむさ苦しい酒場で酒ではなく水を飲む…。
何故酒場に来ているのかというと、ボルゾがコンスタンに侵入したらしく、我々騎士団が駆除する様に依頼を受けたのだ。
- 308 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:20:13 ID:iixjmbMS]
- こんな時、ボルゾ駆除専門を仕事としているハンターと言われる者達に依頼がいくのだが、なんでも此処から北の山を抜けた場所に“竜の口”と言われる洞窟があるらしく、その近辺でドラゴンの目撃情報があったらしい。
そのドラゴンという伝説の生き物を退治するべく、自分の仕事をほったらかして、皆竜の口へと向かったと…。
私に言わせれば、アホの集まりだ。
夢を追いかけ、一攫千金を狙い、英雄になりたくて、ありもしない噂を大の男どもが信用し、駆け回る。
噂を流した張本人は影で笑ってるに違いない。
昔、初代騎士団長がドラゴンと戦って伝説になったと言われているが、私はドラゴンなんて存在信用しない。
存在しても、それはボルゾに違いない。
そんなモノを追いかける暇があるなら、町の掃除でもしてほしいぐらいだ。
だが、そんな愚痴を言ってもしかたがない。
なるべく早くコンスタンに侵入したボルゾを排除しなければ、その為にライトを待っているのだが……。
酒場で待ち続けて一時間。
酔っ払いだけが酒場に増えていき、場違いの鎧を着込んだ私を腫れ物でも扱う様に皆避けていく。
私の苛立ちを煽っているとも知らずに。
- 309 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:22:20 ID:iixjmbMS]
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「もうダメだ…」
苛立ちが最高潮に達した私は、任務中にも関わらず酒瓶に手をだし、そのまま口元へともっていった。
――バンッ!
「すまん、遅れた!!」
間一髪。私が酒瓶に口をつける前に、酒場の扉が勢いよく開けられた。
それと同時に滑り込んできた青年は私の顔を見るなり、大きな声で謝罪し、頭を下げた。
「遅いっ!何時間待たせるんだライト!!」
テーブルに拳を叩きつけ、おもむろに立ち上がると、入り口で頭を下げるライトに怒りを隠さず歩み寄った。
「いや、だから悪かったって…」
「ふざけるなッ!こんな寂れた酒場に騎士団副長を一人待たせるとはどういうつもりだ!それに勤務中は敬語をつかえ!」
後ずさるライトに詰め寄り、胸ぐらを掴む。
騎士団を帰らせたのは私なのだが、副長である私をこんな場所で待たせるのは、幼馴染みであるライトであろうが我慢ならない。
「申し訳ありません副長殿。アルベル将軍から、書物室の整理を命じられていたので。」
先ほどとは違い、堅苦しい物腰となった。
理不尽だがその姿勢にも苛立ちが増し、胸ぐらを掴んだままライトを壁に押し付けた。
ぐっ、とライトから苦しそうな息が漏れる。
- 310 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:31:25 ID:iixjmbMS]
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「いいか、ライト・レイアン…。お前は私が呼んだら何があってもすぐに私のもとに飛んで来い。どんな事情があってもだッ!」
「……わかりました、副長殿。」
「…………まぁ、いい。とにかくさっさと終わらせるぞ。」
胸ぐらから手を放し、酒場を後にする。
すぐにライトも私の後に続き、酒場を出てきた。
「なぜ、お前がこの場所に呼ばれたか理解しているな?」
後ろをついてくるライトに振り向きもせず話しかける。
「はい、コンスタンにボルゾが侵入したとか…。」
「そうだ。目撃情報によると黄色い体にトカゲの様な姿をしていたらしい…。大きさは一メートルほどで、人に対して攻撃する処か逃げ回っているそうだ。団員の連中も何度か目撃しているらしく、捕まえるのに苦労しているのだ。」
「そうですか。わかりました、私が探して捕まえておきます。副長殿はノクタールに戻り、休んy「ダメだ、私もついていく。こんな広い町を一人探し回っていては朝日が顔をだしてしまう。」
ライトの声を遮り、ツカツカと歩き続ける。
「そうですか…」
そう言ったっきりライトからの声は聞こえなくなった。
- 311 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:32:20 ID:iixjmbMS]
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歩き続けること数分後、無言に耐えきれず、ちらっと後ろを振り返りライトの様子を確認する。
「……ライト?」
先ほどまで後ろをついてきていたライトの姿はなく、町中を照らす明かりだけがポツポツと視界に入ってくる。
「…」
立ち止まり周りを見渡すが、ライトらしき人物の姿は見当たらない。
「チッ……何考えてるんだアイツ!」
本当に苛々させてくれる…。
来た道を戻りながらライトの姿を探す。
「ライトどこだッ!」深夜にも関わらず大声を張り上げ、来た道を戻る。
見つからない苛立ちから、自然と歩くスピードも速まる。
「んっ?」
十メートルほど来た道を戻ると、民間と民間の細い路地になにやら影が動くのを視界にとらえた。
それをライトだと確信したのは、すぐのことだった。
「何している!あれほど私から離れるなといッ!?」
路地の奥にいるライトに近寄り、肩を掴み此方に振り返らせた時だった――。
「捕まえました。」
振り向いたライトの手の中には大きな黄色いトカゲがジタバタと暴れていたのだ。
私はそれを一目で町に侵入したボルゾだと分かった。
しかし、そんな事はどうでもいい…。
――パンッ!
「ッ!?」
- 312 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:37:11 ID:iixjmbMS]
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油断しているライトの顔を力強く平手打ちする。
表情が少し歪んだ後、ビックリしたように私の顔を凝視した。
「何度言えば分かる!私の許可無しに離れるなと言っただろ!!」
抱えているボルゾには目もくれず、ライトを責め立てる。
任務中の個人行動は許されないのだ。
特に私との共同任務中は…。
「…はい。」
頬を赤く腫らし、返事を返す。その間もライトに抱えられたボルゾはジタバタと暴れている。
「そのボルゾ…よく短時間で捕らえたな。」
ライトから視線を外し、ボルゾに目を向ける。
朝から騎士団十人であれだけ追いかけても捕まえる事ができなかったのに、ライトは10分足らずで捕まえてしまった。
「コイツ夜行性なんです。この町で食事にありつける場所なんて限られてますからね。路地裏にある民間や食店のゴミ箱に目を凝らしながら歩いていただけです。まぁ、八割が偶然ですね。」
そう言いながらボルゾの頭を優しく撫でた。
その行為に鳥肌が立つ。
攻撃などはしてこないと思うが、あっけらかんとした表情でよくボルゾなんて抱き抱える事ができるものだと逆に感心もした。
しかし、騎士団がボルゾを抱き抱えている姿など民間人に見られる訳にはいかない。
- 313 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:39:28 ID:iixjmbMS]
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「それでは、私はコイツを町外れの森まで連れていきますので。」
そう言うと、私の返事も聞かず早々と背中を向け歩き出した。
「待てッ!」
私の声にライトの歩く足がピタッと止まった。
此方を振り返らず、何も言わず私の発する言葉を待っている。
「そのボルゾ…此方にもってこい。」
ライトも気づいているのだろう…私が何をするのか。
「何故ですか?攻撃してこないと分かれば問題は無いはずですが。」
「攻撃しようが、しまいが関係無い。ボルゾが町に侵入した。駆除するのが私達の役目だ。」
そう…ボルゾが町中にいるというだけで町人は外を歩くことすら出来ないのだ。
また、森にかえしたなどと町人に知れ渡れば、騎士団の名にも傷がつく。
「攻撃してこなければ害は無いでしょ。」
「ボルゾに区別なんてモノは無い。さっさと渡せ。」
腰に着いてある剣を引き抜き、ライトに…ボルゾに向ける。
私の行動に少し眉をひそめたが、反論することもなく、ゆっくりとボルゾをその場に置いた。
しかし、私はその場に置けと命令した訳では無い。
なぜ、私の命令一つまともに聞けないのか…。
「チッ、私は連れてこい…と…」
- 314 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:40:54 ID:iixjmbMS]
-
ボルゾが数秒間ライトの顔を見つめた後、勢いよくライトの横を通り抜け、逃げていく。
そう、ライトは私の命令を聞けないのではなく、“聞かなかったのだ”
「くッ、このバカが!どけッ!!」
ドンッ!とライトを押し退け、通路から大通りへと走り出る。
周りを見渡し、ボルゾを探す。数十メートル先に走って逃げるボルゾを確認すると、持っていた剣をボルゾに向かって勢いよく投げつけた。
――ギェッ!
私が投げた剣はボルゾの腹部へと綺麗に突き刺さり、小さな悲鳴をあげ、その場へと倒れ込んだ。
剣が突き刺さった後も少しの間剣から逃れようともがいていたが、最後に酷く体を反らし後、呆気なく動かなくなった。
「……ふん。」
ボルゾに近寄り、ズルッと剣を引き抜く。剣先にボルゾの血がこびりついている……汚い。
口を半端に開け、だらしなく舌が垂れている所を見ると、絶命したようだ。
ボルゾの頭を蹴りあげようか迷ったのだが、鎧にボルゾの血がつくのは我慢できない。
それにもう一つ我慢できない事がある。
「ライトッ!!」
後ろを振り返り、怒鳴り付ける。
ちょうど路地裏から出てきた所で、絶命したボルゾを何とも言えない目で見つめていた。
- 315 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:42:25 ID:iixjmbMS]
- 私の声など聞こえていないと言わんばかりに。
「どういうつもりだ!ボルゾを逃がすなんて騎士団にあるまじき行為だぞ!?それに私の命令にも背いたな!!」
詰め寄る私の横を通り抜け、ボルゾに歩み寄る。
「このッ、私の質問に答えろ!!」
明らかに私を無視している。
この副長である私を――。
「コイツを処理してきます。先にノクタールへと戻ってください。」
その瞬間、私の頭が熱で真っ赤になるのがわかった――。
血が頭に上り、剣を振りかざす。
私に気がつかずボルゾに布をかけているライトの後ろに立ちライトを見下ろす。
「罰だ――。」
耳元でそう呟き、ライトの背中に向かって剣を振り下ろした。
「副長!」
振り下ろした剣がライトの背中数センチ上でピタッと止まる。
それと同時に頭に水をかけられた如く熱が引いていくのが分かった。
「副長こんな所でどうしたんですか?」
声の主であろう者達が数人此方に走り寄ってくる。
私の事を副長と呼ぶ人間は限られている。
多分、騎士団の連中だろう。
「お前達こそどうしたんだ?先にノクタールへ戻れと命令したはずだが?」
案の定姿を現したのは鎧を身に纏った私の部下達だった。
- 316 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:44:04 ID:iixjmbMS]
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「いえ、この近辺で暴れている輩がいると民間人から通報があったので…。」
「あぁ、私達の事だろう…。侵入したボルゾを発見して、今始末したとろこだ。」
剣先をボルゾに向け、ボルゾの死骸の存在を教える。
「おぉ、流石ですね。お疲れ様でした。」
笑顔を顔に貼り付け、私に近寄ってくる。
本当に鬱陶しいことこの上無い…。
へらへらと私に気に入られようという腐った根性が見え見えなのだ。
まだ嫌悪してくれるほうがマシなぐらいだ…。
「私では無い。捕まえたのはライトだ。」
殺したのは私だが、捕まえたのはライト。
別に嘘は言ってない。
「……そうですか。」
団員達の目がライトへと向けられる。
その目はどこか見下しており、大きな壁を作っている様に見えた。
仕方がない…私だって入団した当初はそうだった。
いや…女だけにもっと酷かった。
女と言うだけで見下され、男どもの汚らわしい性の対象として見られながらも日々過ごしてきた。
深夜、寝ている最中何度も犯されそうになったが、女だからと甘く見ていた輩に私が負ける事は無かった。
- 317 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:44:49 ID:iixjmbMS]
- そんな事が一年近く続いたある日、町の侵入した盗賊10人を私が一人で倒した事がアルベル将軍の耳に入り、空席であった副長への椅子を私が貰う形となったのだ。
それでもまだ、平民嫌悪する団員や城内にいる大臣には良く思われていない。
まぁ、どうでもいい事だ…。
「それじゃ、私はコイツの処分をしてきます。」
そう言うと、持ってきた袋にボルゾの死骸を入れ、坂を降っていった。
後を追おうかと迷ったのだが、任務は終了したのだ。
今追いかければ、他の騎士団の連中に怪しまれる。
「なんだアイツ…。胸糞悪いヤツだな。」
「ボルゾ一匹倒したぐらいで調子に乗ってんじゃねーの?」
「ははっ、違いない。」
そのボルゾを朝から走り回って捕まえられなかったのはどこのどいつだ。
そう言いかけたが止めた。いちいち相手にすると余計に疲れる。
「……ノクタールへ戻るぞ。」
ライトへの処分は、ライトがノクタールへ帰って来た時に決めればいい。
私に抵抗する所を見ると、まだライトの中には何か譲れないモノがあるのだろう。
それを壊せば、ライトは私の背中を守る唯一の盾として私の側を離れる事は無くなるはず…。
- 318 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:45:57 ID:iixjmbMS]
- ライトが戻ってきたらまず、優しく今日の事を誉めてやろう。
そう…ノクタールには厳しくする者は腐るほどいるが、優しさを見せるのは私だけなのだ。
厳しい鞭と、小さな飴。
その小さな飴がどれほど甘く感じるか…。
「……甘い毒には気がつかないものだな、ライト。」
走り去るライトの背中に小さく投げ掛ける。
無論ライトに聞こえる訳もなく、すぐにライトの姿は闇の中へと消えていった。
◆◇◆†◆◇◆
「も〜、臭いったら無いわ、まったく!」
民間の屋根に腰を降ろし、鼻を摘まむ。
人間が住む場所というのは何故こんなに臭いのだろうか?
人間はこんな場所を好んで住みたがるけど…考えられない。
人間が住む世界には色々な「欲」が渦巻いている。
どれも自分勝手なモノばかりだ。
「羽根傷んでないかしら?」
背中についてある自慢の透き通った羽根をパタパタと羽ばたかせる。
休まず山を越えて来たので少し羽が汚れている。
休まず山を越える…と言えばさぞかし苦労したのだろうと思われるかも知れないけど、私のこの羽があれば山一つぐらい簡単に越えられるのだ。
「それにしてもこんな町中でどうやって探せばいいのよ…。」
- 319 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:47:01 ID:iixjmbMS]
-
自分の身長ほどある写真を屋根に置き、写真に写る人物に目を向ける。
この写真のせいで此処までくるのに時間が掛かったと言ってもいいぐらいのデカさだ。
「もう少し小さな写真を渡しなさいよ、アホハロルド。」
この写真を私に渡した人間に向かって愚痴を言う。
本人がいないので、ハロルドが住んでいる町の方角に向かってだけど…。
「はぁ、どうしよ…。」
そう、私はこの写真に写る青年を探しに、遥々山を越えてこの町へと辿り着いたのだ。
ハロルドが言うには、騎士団という鎧を着込んだ連中に混ざっているとか…この町か上にあるお城の何処かにいるらしいのだけど…。
手掛かりはこの写真。
見せ物として人前にだされた時に声をかけてくれたけど、残念ながらあの時の私は衰弱しきっていて、相手の顔なんてボヤけてしか見えなかったのだ。
そしてもう一つの手掛かり――それは匂いだ。
雨の匂いで薄れていたが、私をあの船から助けてくれた時、微かに彼から懐かしい匂いがした――なんの香りか思い出せないけど…。
「う〜ん……ってゆうか絶対無理でしょコレッ!」
私の前に広がるレンガで作られた町並みに向かって諦めと似た言葉を叫んだ。
- 320 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 11:56:00 ID:chnpEnvE]
- 支援
- 321 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:56:35 ID:iixjmbMS]
- 一つ一つの民間の窓を覗いて周っても何日かかるか…。
「近くに仲間いないかしら?」
神経を尖らせ、周りに仲間がいないか確認する……残念ながら、仲間の気の流れをまったく感じ取れなかった。
やはりこの土地は人間に汚染されすぎている。他の土地に移り住んだのかも知れない。
「しょうがない、明るくなるまで待つしかないわね。」
ゴロンッとその場に寝転び空を見上げる。
綺麗な満月……その周りには何万もの星達が散らばっている。
人間はこの空を見て何を思うのか。
ボルゾと言われる禍者達は獲物を探す他、空を見上げる事があるのか。
唯一私達と共感しあえる森の民でさえ(人間からはスケイプと言われていた気がする。)本心では何を考えているのか…。
「まぁいっか。私達はただ時の流れを見守るだけ……………なんてねっ!」
別に何が可笑しい訳でもなく一人ケラケラ笑いながら屋根の上をコロコロと転がる。
歪んだ世界――この先もう「滅び」しか待っていないだろう。
その中で、どれだけもがき苦しみ耐えるか…。
自分の罪は自分達で償わなければならない――。
「ふふ〜ん、見物ですな、ワトソンくん。」
写真に写る男性をペチペチと手のひらで叩く。
- 322 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:57:12 ID:iixjmbMS]
-
「ふむふむ……反応無しかね?それじゃ、もう少し探そうか。」
陽が昇ってから探そうと思っていたけど気が変わった。
写真を両手に取り、10メートル程高さがある屋根からピョンっと飛び降りる。
人間ならそのまま落ちて潰れちゃうけど私は違う。
背中の羽根を使って風に乗ると、風の軌道に合わせて勢いよく羽ばたかせた。
「……待ってなさいよ。絶対に見つけるんだから!」
そう意気込む私は欲渦の闇夜を羽ばたき続けた。
そう、私を助けてくれた恩人に再度会うために――。
- 323 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/11(金) 11:58:09 ID:iixjmbMS]
- ありがとうございました、投下終了です。
- 324 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 12:02:30 ID:chnpEnvE]
- GJ!
続きを全裸待機してます
- 325 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 14:59:11 ID:Jrk24hWJ]
- なんという長文
ありがたやありがたや
- 326 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 20:36:32 ID:4SL+xomV]
- 強引な依存キャラとはまた珍しい。面白くなりそうだ
- 327 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 00:46:27 ID:uwJmZCFC]
- やばい、ライトはこの先いきのこられるのかw
続きに期待、GJ
- 328 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 04:47:10 ID:A3INs9C7]
- GJ
夢の国待ってました
副長相変わらず黒くて好きです
- 329 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 12:39:20 ID:d8pLm+Kx]
- ほ
- 330 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 14:52:34 ID:M4+nl7ww]
- 夢の国GJです!!
- 331 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 19:44:22 ID:zQcYuWqn]
- 夢の国投下します。ストーリーはあまり進まないです。
- 332 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 19:45:26 ID:zQcYuWqn]
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失礼かも知れないが、良い意味で王族の人間には見えなかった。
「じゃれあってるって……これ見てじゃれあってるって言えますかね?」
上着を脱ぎ、アルベル将軍の前に立つ。
「これは…。ライト……一人で戦でも引き起こしたのか?」
少し後退りした後、苦笑いしながら俺の上半身を眺めてだした。
男二人で何やってんだ…と思われるかも知れないが、別に変な意味で裸体を見せてる訳では無い。
俺の身体には大小様々な刃傷があちこちについており、パッと見た感じなら本当に戦を一人で引き起こしたように見える程の怪我を負っているのだ。
「戦ならまだマシだったかも知れないですね。」
地面に落ちた服を手に取り再度袖を通す。
この負傷はアルベル将軍が言うような名誉ある傷ではなく、一人の――それも女性の騎士にやられたものなのだ。
昨日まではお互い木刀で練習稽古をしていたのだが何故か今日、その女騎士……騎士団副長であるロゼス・ティーナが真剣で稽古をすると言い出し、こんな怪我を負うことに…。
騎士団の連中との練習稽古でもヘトヘトなのに、何故か俺だけティーナと二人で居残り個人稽古になるのだ。
- 333 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 19:46:16 ID:zQcYuWqn]
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「終わりましたよ。」
そう呆れ気味にため息を吐くと、腕に巻かれた包帯の上を勢いよくパンッとひっぱたいた。
「痛ッ、叩かないでくださいよ!」
叩かれたを擦りながら、目の前にいるメイド服を着た女性を軽く睨み付けた。
「それでは、私は仕事がありますので。」
そう言うと、俺の声を無視するように救急箱を閉じ、部屋からでていった。
別に親しい訳では無いので構わないのだが、少し露骨すぎじゃないかと思う。
仮にも俺は騎士の部類に入る人間なのだが…。
「あのメイドはティーナを好いているからな。お前とティーナがじゃれあってるのを快く思わないのだろう。」
「アルベル将軍…。」
先ほどメイドが入っていった扉から、にこやかな笑顔を浮かべたアルベル将軍が姿を現した。
鎧を着用しておらず、派手な王族臭い服装をしている所を見ると、会議でもあったのだろうか?
普段この人は鎧を着用していない時、そこらの貴族となんら変わらない姿をしている。
衣服も小国の貴族と言った感じだろうか。豪華にも見えるし、素朴にも見え、他の者に対して嫌味を感じさせない服装を好んで着ている。それが親しみやすい原因なのだろうか?
- 334 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 19:47:40 ID:zQcYuWqn]
- 俺より剣の使い方が下手くそなヤツなんて騎士団の中にもいっぱいいた気がするのだが…。
「ははっ、アイツはお前の事になると表情が変わるからな。
この前、私が指揮する部隊へライトをくれないかと言ったら、無言の圧力で殺さんばかりに睨まれたよ。まぁ、冗談だと言ったら笑顔で「わかってますよ。」と去っていったが……あれは本当に怖かったな。」
英雄が怖がる女って……。
「昔から剣を振っていなきゃ落ち着かないぐらい、元気なヤツでしたからね…。」
何故か毎日ホーキンズじゃなく俺が相手をしていたが…。
子供の時はそんなに剣の差も無かった気がする。
いや、手加減されていたのかも知れない…。
「そういえばライトとティーナはユード出身の幼馴染みだったな。何かあの副長殿の弱点…とか無いのか?」
此方に歩み寄ってくると俺の耳元でそう呟いた。
えらく真剣な面持ちで話すので、少し呆気にとられたが将軍すら副長に悩まされていると思うと、アルベル将軍に対して少し親近感が沸いた。
「そうですね、アイツは昔から治らない癖があるんですよ。」
「ふむふむ…それはどんな癖だ?」
「それはですね…寝る時、親指を口にくわえながら寝るんですよ。」
- 335 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 19:48:57 ID:zQcYuWqn]
- そう…ティーナは子供の頃から親指を口に入れて、チュー、チューと吸う癖があるのだ。
朝練稽古の時、右手の親指を見ると少しふやけているのを確認できたので、今でもその癖が抜けていないのだろう。
「本当かッ!?あの氷の様な表情をした美人が…。」
空を見上げながらにやけている。
多分、ティーナの寝姿でも思い浮かべているのだろう。
ダンディな顔が台無しだ。
「他には何か無いのか?」
「他…ですか?そうですね……クモとムカデが死ぬほど苦手ですね。」
「クモとムカデ?」
「えぇ、昔ベッドで寝ている時に天井からクモとムカデが同時に枕元に落ちてきたらしいです。」
「ははっ、それは私でもトラウマにな?――――ッ!!」
「えぇ、それから1ヶ月ほど家に泊まらされて一緒のベッドに寝たんですが、寝相悪いわ、人の親指くわえてベトベトにするわもうメチャクチャで……ってアルベル将軍?」
いつの間にかアルベル将軍の姿が目の前から消えていた。
意味が分からず周りをキョロキョロと見渡す…。
「お前は私以外の相手ならよく喋るんだな?」
心臓を直接握られた様に身体が硬直した。
- 336 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 19:54:06 ID:zQcYuWqn]
-
後ろを振り返らなくても分かる、間違いなくあの悪魔の化身であるティーナが立っているに違いない。
しかも鬼の様な顔をして…。
「い、いえ…ア、アルベル将軍から世間話をしろと言われたので。」
滝の様に流れる汗が、逃げろっと警告している。
しかし今逃げれば間違いなく、後々殺される。
殺されないにしても……いや、やっぱり殺されるな。
「世間話か…私の昔話を世間話に持ってくるとは偉くなったわねライト。いや、幼馴染みだから問題ないかしら…。敬語もやめたら?昔からの幼馴染みなんだし。」
昔よく聞いたティーナの女口調も今では不自然極まりない。
ツカツカと近づいてくるティーナの足音に合わせて心臓の音も早まる。
「い、いえ。上官にその様な言葉はy「聞こえなかったのか?――敬語を止めろ。」
真後ろに立つと、後ろから肩に手を回し耳元で冷たく囁いた。
何も知らない者が見たら美女に抱きつかれている様に見えるのだろうが、そんな羨ましい状況なら恐怖で震えたりなんかしない…。
――「あら、ティーナじゃないですか。」
ティーナの手が首に掛かり、死を覚悟した時――綺麗に透き通った女性の声が聞こえてきた。
- 337 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 19:55:46 ID:zQcYuWqn]
-
ティーナ…と聞こえたので後ろにいるであろうティーナに声を掛けたようだ。
「なッ!?」
上ずった様なティーナの声と共に肩に巻き付いてた腕が解けた。
死の生還に胸を撫で下ろし、声のした方へと視線を向ける。
「貴方はたしかライトさん…でしたよね?」
「はっ?」
見たこともない様なきらびやかなドレスを身に纏った少女がそこに立っていた。周りには数人の侍女と兵士がついている。
「こ、こら!姫様の前だぞ!膝まずけッ!」
あまりにも綺麗な姿に見惚れていると、隣にいたティーナが俺の頭を掴み地面に叩きつける様に押し付けた。
頭が地面に当たる寸前、ギリギリで手を地面と頭の間に入れて直撃を防いだのでセーフだったが…。
「姫様…?」
そう、ティーナはハッキリと姫様だと言った。
だとしたら俺の前に立つこの少女がこの国の女王…。
「姫様ぁッ!?」
ティーナの手を振り払い再度目の前にいる少女へと目を向ける。
「バカ!顔をあげるなッ!!」
しかし、またもティーナに頭を掴まれ地面へと叩きつけられた。
今度は手を入れる暇もなく、地面に衝突してしまった。
「ふふふっ、面白い方ですね。」
- 338 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 19:56:50 ID:zQcYuWqn]
- 頭上から姫様の声とは別に侍女のモノと思われる複数のクスクスといった笑い声が聞こえてきた。
途端に庶民臭い姿を見せた自分が恥ずかしくなった。
「そんなに畏まらなくてもいいですよ。顔をあげてください。」
姫様からの声にやっと頭を押さえていたティーナの手が退けられた。
ゆっくりと頭をあげ姫様に目を向ける。
第一印象は……本当に可愛らしい人だなと思った。
年齢は16歳ぐらい…多分メノウと同じぐらいだと思う。
ティーナも綺麗な顔つきをしているのだが、この姫様は化粧効果もあるかもしれないが、人形の様な完璧に作られた顔をしているのだ。
多分、今俺が姫様の顔に触れれば間違いなく斬首の刑に処されるだろうが、本物の顔か触って確かめたくなるぐらい整っている。
「しかし、どうされたんですか?こんな場所まで。」
今俺達がいる場所は、城内にある騎士団専用訓練所なのだが姫様や王、王妃がこの場所に来ることはまず無い。
「いえ、少し散歩を…。それと上からアルベル様と…そちらにいるライトさんが楽しそうに会話をしていたので、私も交ぜてもらいたくて。」
あの会話を見られていたのか…まさか、会話の内容まで聞かれて…。
- 339 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 19:59:01 ID:zQcYuWqn]
-
「あの、会話の内容は…」
俺と同じことを考えたのか、オドオドといった感じに姫様に話しかけるティーナを見て、少しだけ可笑しくなった。
「いえ、内容までは……やはりダメでしたか?」
「いえ、問題無いです。ただ、お聞き苦しい会話の内容だったので姫様の耳には…。」
「そうですか…。」
あからさまにシュンとした姫様。
多分本当に俺達と会話をしたかったのだろう…この大きな石カゴの中で何十年も過ごしてきたのだ…雑談なんて簡単にできるモノでも無いだろう。
周りにいる侍女や兵もどうしたらいいのか、俺達の顔と姫様の顔を交互に見ている。
仕方ない…。
「それでは一つだけ姫様におとぎ話を。」
「は?」
同じ様に横に膝まずくティーナが俺の顔を凝視する。
姫様もキョトンとした表情で此方を見ているが、それを無視して話を続けた。
エンジェル・アイランド…と言われる聖地をご存知ですか――?
◆◇◆†◆◇◆
「気をつけて帰れよ〜。」
「うん!ばいばい、ホーキンズお兄ちゃん!」
小さな女の子がパンの入った紙袋を両手に抱え、元気よく店を飛び出して行った。
一応、外の路上まで出て女の子の後ろ姿を見送る。
- 340 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:01:16 ID:zQcYuWqn]
-
姿が見えなくなるまで此方に手を振っていたが、しだいに人混みの中へと消えていった。
「元気な子だね?」
女の子とすれ違いに此方に歩いてきた白衣の男性が話しかけてきた。
白衣がトレードマークの様な男なのですぐに知り合いだと分かったが…本当に白衣ばかりだ…。
「おぉ、ハロルドか。中に入れよ。」
白衣を着込んだ男性の名前を親しみを込めて呼ぶと、店の扉に閉店と書かれた板を掛け、店内へと戻った。
すぐにハロルドも店内へと入ってくる。
「まぁ、座れよ。」
奥からテーブルと椅子を二つだし、並べる。
ありがとうと言うと白衣を脱ぎ、椅子へ腰を降ろした。
「余り物しかないけど……まぁ、許せよ。」
「あぁ、大丈夫だよ。」
テーブルに今日余ったお菓子を並べる。
「これは…ちょっと多いかな…。」
苦笑いしながらテーブルに並べられたお菓子を眺めている。
少し多すぎたか…。
「あぁ、そっか…アイツいないんだっけ?」
いつもならこれぐらい簡単に食べ尽くす、大食いがいないんだった…。
昨日まではハロルドと三年前に助けた妖精がお菓子を目当てに店に毎日押し掛けに来ていのだ。
「ライトに会えたかな?」
寂しそうにハロルドが呟いた。
- 341 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:01:47 ID:zQcYuWqn]
-
そりゃ、三年間一緒に暮らした騒がしいヤツがいなくなると寂しくもなるか……実際俺も少し寂しさを感じていた。
「大丈夫だろ…あの妖精は小さいながらも頑丈だからな。どこかでケラケラ笑いながら人ん家に侵入して何かしらを食い散らかしてるだろーよ。」
近くにあるケーキを手に取り口に運ぶ。
自分が作ってなんだが普通に美味しいと思った。
ハロルドも俺が食べたからなのか、目の前にある菓子へと手を伸ばし、口へと運んだ。
「そうだね…。あの子なら大丈夫だよね。」
そう言うと、寂しそうに笑顔を作り、菓子に目を落とした。
ライトの様に付き合いが長いとは言えないが、多少長い時間を友達として過ごしてきた俺はハロルドの孤独を少しは理解しているつもりでいた。
小さな村で産まれ、貧乏ながらも楽しく暮らしていたそうなのだが、ある日貴族に売られて家族とは離ればなれになったそうだ…。
奴隷の様な扱いをうけ、耐えられなくなったハロルドは一人、その貴族から逃げ、町から町へと移り住みながらこの場所に辿り着いたと…。
悲しい話なのだが、ずる賢い事にその貴族から金目のモノを盗めるだけ盗んで逃げたそうだ。
だからお金には困らなかったらしい。
- 342 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:02:18 ID:zQcYuWqn]
- だが、お金と引き換えにあるモノを失ったと言っていた。
それは人間への興味――。
欲にまみれた人間に嫌悪し、深く関わるのが怖くなったそうだ。
しかし、ずっと一人では寂しい…だからせめて目立つ格好をして人目につこうと考えたらしい。
一瞬でも人の目に写る様に……。
「ここ一週間でもう四人だね…。」
唐突に呟いたハロルドの言葉にすぐ反応できなかったが、言ってる言葉はすぐに理解できた。
「……あぁ、そうだな。」
四人と言うのは、町へ侵入してきたボルゾに殺された民間人の人数だ。
三年前ならライトが駆除していたので怪我人がでる事があっても死者が出ることなんて滅多になかった。
それがここ三年間で死者100名を越えてしまったのだ。
多分まだ増えるだろう…。
「なんでこんな事になったんだろ…」
「さぁな…ライトに会って真相を聞かない限り解決しない事だからな。」
三年前のあの事件からこの小さな町は劇的に変わってしまった。
小さな町なりに夜でも活気づいていたが、今ではボルゾを恐れ、夜外を歩く者を見たことがない。
それに民間人の殆どが武器を持ち歩く様になった。
- 343 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:03:33 ID:zQcYuWqn]
- その武器は騎士団から支給されたモノなのだが、自分の身は自分達で守れという意味なのだろう。
そしてもう一つ変わった事がある――それはライトが可愛がっていたメノウが声を失った事だ。
ライトが連れていかれ、騎士団が町から去った後、町長からライトの無実を俺達民間人は知らされた。
あまりにも騎士団の不自然な行動に疑問を持ったので町長に話を聞こうと近づいたら、広場に入ってきたメノウが町長に向かって大きく泣き叫びながら「ライトを返して!」と掴みかかったのだ。
14歳とは思えないほどの力で、町長の胸ぐらを掴むメノウを俺とアンナでなんとか引き剥がし事なきを得たのだが、その次の日からメノウは言葉をまったく喋る事ができなくなっていた…。
ライトがどうなったか分からず二年が経過し、一年前にやっとライトの生存が確認できたのだ。
ビックリした事にティーナと同じくライトも騎士団に入ったらしい。
そこであることが頭に浮かんだ。
ティーナが何か理由をつけて、ライトをこの町に帰さず、騎士団へと引き込んだんじゃないか……いや、騎士団へ入らないといけない状況を作ったんじゃないかと――。
- 344 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:04:15 ID:zQcYuWqn]
- 昔からそうだが、ティーナはライトに対して特別な感情、想いをもっているんじゃないかと感じる時があった。
恋愛とは違う何か…よく分からないが、たまにライトの事になるとティーナは目の色が変わる時があるのだ。
その時は幼馴染みである俺でさえ後ずさってしまうほどに恐怖した…。
「とにかく…アイツからの報告を待つしかないな。」
「そうだね…。」
ライトを見つけたら俺達に何らかの方法で教えてくれるらしいので、それを頼りにするしか方法は無い。
早く見つけてくれるといいのだが―――。
◆◇◆†◆◇◆
「凄いです!本当にそのような聖地があるのですか!?」
ライトの話を真剣に聞いていた姫様が、徐に立ち上がり、ライトへと歩み寄る。
しかし、侍女がライトへ近づく事を止めさせた。
例え騎士団であろうが平民が王女に近づく事はあってはならないのだ。
私は例外中の例外。
「あるかどうかは分からないですが、これだけ世界が広いのです…。あっても不思議ではないと思いますよ?」
平民が王女に向かってこれだけ親しく話すのはノクタールの歴史でライトが初めてなんじゃないだろうか?
めんどくさい事にノクタール兵が集まってきた。
- 345 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:04:54 ID:zQcYuWqn]
-
「広い世界…ですか…」
姫様が寂しそうに空を見上げた。
姫様はこの城の中こそが姫様の世界…幼少の頃から王族作法を教えられ、城内を出られるのは何か特別な出来事がない限り皆無と言ってもいい…。
外の世界とは姫様から一番かけ離れた話なのだ。
「……これは、私の母から貰ったモノです。」
ライトも姫様に気をきかせたのだろう…。
胸元にあるロケット型のネックレスを姫様に見せ、話を続けた。
「このロケットの中には私の先祖が大昔行ったと言われるエンジェル・アイランドにしか咲かない花びらが入っています。」
パカッとロケット型の上の部分を外すと、中から真っ白な花びらが姿を現した。
「この花びらは、季節が変わる度に香りも変わるのです。珍しい花で、東大陸でも私の手にしかないかと…。嗅いでみますか?」
「いいんですか?」
「姫様ッ!?」
周りにいた兵士達が殺気だつ。
侍女達も姫様の前に立ちはだかり、ライトを睨んでいる。
「いいですよ、どうぞ。」
しかし、ライトはそれを気にもせず、ロケットに花を戻し、姫様へと差し出した。
- 346 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:07:38 ID:zQcYuWqn]
-
姫様もライトへニコッと笑顔を向けると、なんとか阻止しようとする侍女を払いのけ、ライトの前に立ち、恐る恐るロケットに鼻を近づける。
姫様の周りにいる侍女のゴクっと息を飲む音が聞こえるほど、訓練所は静まり返っていた。
「……甘くて優しい匂い……。」
少しの沈黙の後、姫様の感想の言葉により周りにいる皆が胸を撫で下ろした。
無論、私も…。
下手すれば死刑も免れない行為。
流石の私でも姫様への無礼まで責任を負えない…。
「今は暖かいですからね。寒くなるとまた変わってきますよ。」
「本当ですか?それなら、その時また嗅がせてください。」
それを知ってか知らずか、ライトは姫様に笑顔を向けている。
姫様も嬉しそうにクスクスと笑っている。
これが王族同士なら絵になるのかも知れない…。
しかし、所詮は平民と王女。
どう足掻いても手の届かない存在だ。
「姫様、そろそろお部屋へ…」
一人の侍女が姫様の横に立ち、耳元で囁く。
「え…もうそんな時間ですか?……もう少しだけ…。」
「いつまでもこの様な場所に居られては…。」
侍女も譲れないモノがあるのだろう…この様な出来事、王妃の耳にでも入れば大問題になりかねない。
- 347 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:09:02 ID:zQcYuWqn]
-
「でもッ………わかりました。」
姫様が何かを侍女に言いかけたが、何も言わずに項垂れてしまった。
「それではライトさん、ティーナ…楽しい時間をありがとございました。また外の話を聞かせてください。」
悲しそうな表情を浮かべた姫様は此方に深く一礼をすると、来たとき同様、侍女を引き連れて城内へと戻っていった。
それを見送った兵士達も各々持ち場へと戻っていく。
「帰りますか。」
「そうだな…。」
訓練所に二人寂しく取り残されたが、何もすることが無い。
姫様とライトの会話を聞いて思ったのだが、そう言えば、この町に来て訓練や任務以外でライトと親しく話した事なんて一度も無かった気がする…。
いや…訓練や任務でも親しく話した事なんて無い。
それは私がライトにそうしろと言ったからなのだが…。
いや、やめよう…私とライトの間に親しみなんて必要無いのだ。
そんなモノがあっても何の役にも立たない。
絶対的なモノ――。
ライトは私の盾となり私はライトの剣となる。
私がライトに厳しくするのも、小さな優しさを見せるのも、私とライトを絶対的なモノにするためなのだ。
- 348 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:09:46 ID:zQcYuWqn]
-
騎士団の中でもライトは剣の才能があるほうだ…なにより判断が素早く、大きな隊の長として活躍できるのではないだろうか?
だけど、ライトの居場所はそんな所では無い。ライトの居場所は私の後ろ。決定事項だ。
――そして、今日。
日頃の行いを評して、少し大きな甘い優しさをライトにあげようと思う。
「……ライト。」
「はい?」
その優しさに触れた時――。私にどんな表情を…行動を見せてくれるのだろうか?
――困惑する?
――激しく求めてくる?
どちらにせよライトは酷く勘違いするだろう…。
私がライトのモノだと――首に繋がれた鎖にすら気がつかずに…。
勿論ライトの首に繋がれた鎖を握るのはこの私だ。
「今から私の家に来い……食事を作ってやろう。」
ライトは私をどれだけ甘く感じてくれるのか……楽しみだ。
- 349 名前:YUKI ◆5SfUPe28t2 mailto:sage [2010/06/13(日) 20:12:14 ID:zQcYuWqn]
- ありがとございました、投下終了です。
それと>>332と>>333は逆です、すいませんでした。
- 350 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/13(日) 20:47:58 ID:zQcYuWqn]
- ミスった……>>336からコテハン変わってますね…すいません。
- 351 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 21:51:13 ID:RvqdVVta]
- いやっほうー、投下された作品と作者に感謝を!
しかしライトwよく死なないな・・・
今回も面白かったGJ!!
- 352 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/13(日) 23:10:56 ID:TnnJsqCb]
- GJ!
- 353 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 00:39:40 ID:i1uJUBjJ]
- GJGJ!!
- 354 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 02:13:08 ID:x7urkEku]
- ×膝まづく
○跪く(ひざまずく)
- 355 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:10:23 ID:N2pyej5h]
- 夢の国投下します。
- 356 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:11:08 ID:N2pyej5h]
-
ドラグノグ――かつて世界を恐怖に陥れた、三匹いる中のドラゴンの一匹がそう呼ばれていたそうだ。
火竜と言われるドラゴンで、名前の通り極炎の如く紅に染まった鱗を身に纏っているらしい。近寄るモノすべてを燃やし尽くし、遭遇した者は生きて帰るどころか跡形も残らないそうだ…。
それでは何故生きて帰って来た者がいないのにこの様な話が出回っているのか……まぁ、噂話と言うことだ。
人から人へ…噂に羽根がついた様に飛び回り、大きくなったと…。
その噂話を真に受け、自分の仕事を中断してまで探しに行く輩がいるらしい…。
ドラゴン…男なら一度は憧れる、神話の生物。俺も実在するなら見てみたい。
いや、妖精だって実在したのだから、ドラゴンだって実在してもおかしくは無い話だ。
その夢を追いかける人達が竜の口と言われる洞窟に向かってかれこれ一週間―――百人近く馬に股がり意気揚々と町を出ていったのだが、不思議な事に誰一人ノクタールへ戻って来ることは無かったのだ。
途中の山道でボルゾに殺られる確率だって高いのだが、ハンターと言われるボルゾ駆除専門の仕事で稼いでいる者達が誰一人帰って来ないのは流石におかしすぎる。
- 357 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:18:19 ID:N2pyej5h]
- それは上層に位置する貴族達や大臣の耳にも入ったらしく、王の命令で俺達騎士団の小隊がワザワザ竜の口へと偵察に行く事になってしまった…。
騎士団の連中は、何故平民の道楽の後始末をしなければならないのかとため息を吐いていたが、王の命令は絶対。
二日間様子を見て、帰って来なければ三日後の朝、我々騎士団は陽が昇る前にノクタールを出発する。
竜の口と言われる、伝説の生物であるドラゴンが棲むであろう地へと向かうために―――。
◆◇◆†◆◇◆
「副長、発見しまた…。」
一人の男が副長であるティーナに足音をたてずに歩み寄る。
見た感じ、そこら辺の傭兵と変わらない軽装なのだが歴とした騎士団の一人だ。
この男だけでは無い。
ティーナ含む、周りを囲む騎士団は皆、上半身を守るレザーアーマーと言われる甲冑と頭を守る冑しか着用しておらず、人の目を気にする騎士団とは程遠い外見となっている……と言っても冑にはしっかりとノクタール紋章の装飾はされているが…。
なぜこの様な軽装をしているのかと言うと、とある任務でノクタール領土安全区内にある森の中へと足を運んでいるのだ。
- 358 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:19:18 ID:N2pyej5h]
-
安全区と言われるだけあって他の森とは違い、動物達が元気よく走り回っているのをよく見かける。
他の森では絶対にありえないこと…。
何故かと言うと、ボルゾが動物を食い荒らすので年々絶滅する動物達が後を経たないからだ。
だからこの森自体に希少価値があり、遠くの国から学者達が訪れるほど大切にされているのだ。
その森に何故我々がいるのかと言うと、騎士団の連中と仲良くピクニック………なんて事はなく、三日前から町を騒がせている盗賊集団のテントがこの森の中にあると情報を聞きつけ、制圧するべくティーナ副長率いる騎士団小隊に声が掛かった訳だ。
少数精鋭集団と言われる騎士団の中でも一番実力がある隊として名を馳せており、騎士団の脅威の殆どがこのティーナが率いる隊と言っても過言では無いほどだ。
「相手は何人だ?」
「二十人ほどだと思います。」
「ふん…ライト、お前も見てこい。」
偵察に行った部下を横に押し退け、俺に命令する…。
心の中で始めから俺にいかせろよと言いたいが、まだ生きていたいのでやめる事にした。
「わかりました。」
渋々生い茂る草木をかき分け、静かに前へと突き進んだ。
- 359 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:20:12 ID:N2pyej5h]
- 偵察しにいった団員も草木をかき分け進んだのだろう…、軽く道ができている。
団員が進んだであろう道を進むにつれ、複数の男達の笑い声が聞こえてきた。
女の悲鳴の様な声も聞こえてくる…。
「グヘへッ、さっさと犯そうぜ。我慢できねーよ。」
「イヤッ、やめて!」
「そう、慌てるなよ。まず飯を食ってからだ。」
木々の間に焚火の明かりを見つけた。
今から食事をするようだ。
その焚火の周りに…六人。
町から連れ去られたであろう、女が一人。
少し体をずらして、周りを確認する。
「……(うわ……暑苦しいのが、いっぱい居るなぁ…。)」
焚火から少し離れているが、散り散りに周りに見張りを立てている。
見えるだけで、見張り五人…。
木の下で雑談しているのが六人…。
「……(全部で十七人か…。)」
ゆっくりと後退りティーナが待機する場所まで戻る。
「状況はどうだ?」
待ちかねた様に木の根から腰を持ち上げると、姿を隠す素振りすら見せず此方に歩み寄ってきた。
賊集団から離れているので問題無いと思うのだが…もう少し考えて行動してほしいものだ。
- 360 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:21:26 ID:N2pyej5h]
- 「人数は十七人。奥にいる見張り六人は皆矢を持っていました。後は焚火の周りに五人と町から連れ去られた民間人が一人。
その他の者は剣を地面に置き、だらけていましたね。」
見えただけの詳細を大雑把にティーナへ伝える。
「そうか…それで?」
「まず、我々の兵を回り込ませて、見張りがいる丘の下で待機させます。
その際は副長も弓隊と一緒に行ってください。」
「なぜだ?」
気に入らない…と言った感じで、睨み付けてくる。
それを気にするでもなく話を続ける。
「貴女の声でなければ騎士団の皆が動かないからですよ…。」
そう…俺の命令なんて騎士団の連中は一切聞かないのだ。それを分かっていて、俺に判断を任すのだからタチが悪い。
「ふん…まぁいい…。それで?」
「副長の合図と共に、弓隊で見張りを一掃してください。それと同時に焚火周りの賊を俺達が片付け、民間人を救出しましょう。
その後は、もう楽だと思いますよ?」
民間人を助け、弓を持った見張りだけ片付ければ、後はネズミを追い込む様なもの。
我々騎士団、誰も怪我することなく任務を終える事ができるだろう…。
「……よし、その作戦でいくぞ。皆に分かったな?」
- 361 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:23:19 ID:N2pyej5h]
-
ティーナが鋭い視線を団員達に向け、小さな声で命令すると、当たり前の様に皆がコクッと頷いた。
理不尽だと思ったが仕方がない…ティーナと俺では天と地ほどの差があるということだ。
「弓隊は私についてこい……後の者はライトの後に続き、賊を制圧しろ。」
それだけいうと、数十人の団員を引き連れて、丘下へと向かった。
「俺達も…進もう。」
それだけ伝えると、皆の返事を聞かず前へと進んだ。
どうせ返事なんて待っていてもこない…。
そういう意味ではティーナだけじゃないだろうか?
トゲがあるにせよ、まともに目を見て話すヤツなんて。
ティーナ……か。
「……はぁ。」
「?」
隣を歩く団員が此方に奇怪なモノでも見る様な目を向けている。
慌てて表情を作り、前を向く。
――最近何かとティーナの事を考えてる気がする…。
流れる様な金色の髪。小さな唇に美人特有の強い眼力のある瞳…。
理由は分かっている。
一週間前、ティーナに食事をご馳走するからと自宅へ招待されたのだが…その時なぜか分からないが、ティーナと体の関係をもってしまったのだ。
酒の勢い…と自分に言い聞かせているが、あの時の事は正直あまり覚えていない。
- 362 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:24:23 ID:N2pyej5h]
- ただ、ティーナの温もりに包まれた事ぐらいしか…。意識を取り戻した俺は、ティーナの隣で目を覚ました。
お互い真っ裸で…。
ティーナが言うには朝まで私を放さず、獣の様に求めてきたと…。
幼馴染みであるとはいえ、騎士団副長を犯す形になったのだ…目の前が真っ暗になるのを感じ、ティーナに何度も謝ったのだが…。
「副長である私を陵辱したのだ…許すわけないだろ?今後一切、私に歯向かう事は許されない。すべて私を中心に物事を考えて行動しろ。」
自分の裸を隠そうともせず俺を睨み付けそう言い放つと、最後に「そしたら、また褒美があるかもなぁ?」と妖艶な笑みを浮かべ、耳元で囁いたのだ。
その声と体の曲線美が夜になると頭に浮かんでくる…恥ずかしい事に一人で慰める事もしばしば…。
「はぁ……(やめよう…あれは間違いなんだ。)」
そう、お互い酒に酔っていたのだ…。
許されないとティーナに言われたが、今まで関係を持つ前となんら変わらない態度で接してくるので問題無いはず。
大丈夫…。
そう、自分に言い聞かせながら先頭を歩いていると、先ほど一人で様子を見に来た焚火前の茂みに到着していた。
- 363 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:26:05 ID:N2pyej5h]
-
「…」
頭から雑念を払い、ティーナの合図を待つ。
「さっさと飯食って、やろうぜ。」
「お前はそればっかりだな…そんなんだかy「放てーッ!!」
「な、なんだッ!?」
ティーナの声と思われる号令が森の中に大きく響き渡る。
その声に反応した賊達が一斉にティーナ達がいる方角へと意識が反れた。
「騎士団だ!賊共ッ、武器を捨て降参せよ!!」
それと同時に俺達、残った騎士団が賊アジトの懐へと流れ込む。
ティーナがいる方角を向いていた賊達が、今度は一斉に此方に振り返る。
「く、くそッ、やっちまえ!」
盗賊達の頭らしき人物が、周りにいる仲間達声をかける…が時既に遅し。
数秒の間にティーナ達は見張りをすべて片付けており、此方も人質になりうる民間人の女性を既に救出した後だ。
周りを取り囲む騎士団を見た殆どの賊達はそれだけで戦意喪失。
武器を投げ捨て、両手を高く挙げ、降参の意を表している。
「さぁ、後はお前だけだぞ!さっさと武器を捨て、降参しろ!」
隣にいる騎士団の一人が挑発する様に剣を賊頭に向ける。
「おい、やめろ。」
賊頭に向けている剣の矛先を、手で下に向けさせる。
賊頭の顔は赤く染まりかなりの興奮状態。
- 364 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:27:14 ID:N2pyej5h]
- そんなヤツを挑発してもただ、苛立ちを煽るだけだ。案の定、賊頭は顔をより赤くさせ、怒りからブルブルと震えだした。
「お、お前ら〜、俺をなめやがってッ!」
「無駄な攻撃はしたくないんだ。冷静になって周りを見てみろ…。(これは、ヤバいな…)」
なんとか宥めようと、剣を持たずに賊頭の前に立つ。
「どけ、平民野郎!俺がさっさと片付けてやる!」
「ッ!?」
後ろの兵が俺を突飛ばし、賊頭の前に立つと、大きく剣を振りかぶった。
「ばっ、止めろ!」
団員の剣を持つその構えを見て直感した。
コイツ、間違いなく殺される…と。
想像通り、団員が振り下ろす剣先を賊頭は軽く避けた。
「ハハハッ、なんだその素人臭い剣使いは!死ねぇ!」
よろける団員に向けて、今度は賊頭の剣が団員に向かって振り下ろされた。
「なッ、クソが!」
しかし、賊頭が振るう剣も空振りした。
なぜかというと、俺が横から団員を蹴り飛ばしたからだ。
「死にたいならお前から殺してやるよぉ!」
団員に向けられていた、殺気が此方にシフトすると、今度は此方に剣を振り下ろしてきた。
説得する為に剣は地面に落としたまま……俺には何も防ぐモノが無い。
「――ッ!」
- 365 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:29:40 ID:N2pyej5h]
-
殺られるッ、と思いギュッと目を瞑る。
――ドサッ。
……?
痛みがこない…。
いや、もう斬られた後かも…。恐る恐る目を開け、前を確認する。
「なに、座り込んでいる?さっさと立ち上がれ。」
そこには賊頭では無く、冑を外したティーナが立っていた。
木々の隙間から太陽の光が射しており、逆光になっているティーナの影がキラキラと光輝いている。
パッと見たら本当に女神かと間違えるかも…。
そんなアホな事を一瞬考えてしまったが、素早く立ち上がり、状況を把握するべく周りを確認する。
不思議な事に賊頭の姿は神隠しにあったかの如く消え去っていた…。
周りにいる賊達は何故か顔を真っ青にし、頭を抱えてしゃがみこんでいる…。いや、それだけでは無い。
盗賊の皆が小さく“助けて”と呟いているのだ。
団員達もその場に立ったまま、ティーナを凝視しているだけで口を開こうとしない…。
目を閉じている間にいったい何があったんだ?
「どうした?何を探しているんだ?」
キョロキョロと周りを見渡す俺へティーナが話しかけてきた。
その、ティーナは周りの者達と違っていつもの表情を保っている。
- 366 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:36:43 ID:N2pyej5h]
-
ティーナと周りにいる者達との温度差は見るからにあきらかだ。
「いや、俺の前にいた男は…。」
「男…?あぁ、上に引っかかってるアレか?」
そう言うと、指を天にかざした。
引っかかってる?
頭にクエスチョンマークを浮かべたまま、ティーナが指差す上へと目を向けた――。
「……え?」
ティーナが指差す上を見上げると、すぐにティーナが言う“引っかかってる”意味が分かった。
「な、なんだよアレ…?」
――先ほどまで怒り狂っていた賊頭が数十メートルの高さはあるであろう、木に引っかかっていたのだ。
それだけでも異常な光景なのだが……。何故か賊頭の下半身は無く、削ぎ落とされた様な傷口を見せる形で、上半身だけが人形の様にぶら下がっているのだ。
「もう、半分は…知らん。少し強く斬ったから何処かに飛んだんじゃないか?」
涼しげな表情で無くなったであろう賊頭の下半身を探すフリをしているが、コイツはさっきから何を言っているんだろうか?
――少し強く斬った?
人間を甲冑ごと斬ったのか?
ありえない……それになぜ上半身だけあんな場所に?
周りに説明を求めようと、目を向けるが誰一人口を開かない。
――何か壮絶なモノにでも魅せられた様に――。
- 367 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:43:12 ID:N2pyej5h]
-
「なぁ…どうやってあんな場所に…。」
甲冑ごと半分に斬れるのは…まぁ、百歩譲って人間できるとしよう。
だけど、上半身だけが瞬間移動したかのように数十メートルある大木の枝に引っかかるという出来事だけはどうしても現実として受け止められない。
我慢できず敬語を使う事すら忘れ、一番の疑問をティーナに問いかけてみた。
「んっ?ただ、アイツの胴体に向かって剣を下から斬り上げただけだが?」
あっけらかんとした表情で答えるティーナを見て皆が思った事を代弁しよう……。
ティーナ副長だけには何があっても逆らってはいけない――。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「はぁ…終わった。」
ペンを机の上に置き、背筋を伸ばす。
今日あった盗賊狩りの報告書と数々の書類に目を通す作業を今、終えたところだ。
サボっていた書類も数多くあり、二時間も机に張り付かなくてはいけなくなってしまった。めんどくさいと後回しにしていた私が悪いのだが、やはり私はペンより剣を握っているほうが性にあっているのだろう…。
これでこの部屋からも出ていける。
「それにしても、この部屋は何度見ても…。」
- 368 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:45:33 ID:N2pyej5h]
-
私の仕事部屋…とでも言おうか。部屋の中を一回り眺めてみる。
この部屋に来ると嫌でも目につく豪華な装飾品の数々。
副長ともなると周りの目を気にしながら生活しなければならないのだが、正直息苦しい…。
宮廷の一室で暮らしている身として文句は言えないのだが、やはり私は貴族とは程遠い人間のようだ。
ライトも私の隣の一室に住まわせてやろうとしたのだけど、あのアホときたら…。
堅苦しい場所が嫌だから、コンスタンで部屋を探すと言い、宮廷を使わなかったのだ。
何処の人間に不自由無い宮廷を捨てて、民家を選ぶアホがいるのか……アイツぐらいのモノだ。
まぁ、選べる立場なら私も同じことをしたかも知れないが……私は姫様の身を守るという義務がある。
なるべく、姫様がいる後宮の近くに身を置かなければならなかったのだ。
だから私の背中を守るライトも近くに置こうかと考えたのに…。
「ライト、入ってこい。」
扉の向こうにいるであろうライトに声を掛ける。
小さな私の声がライトの耳にもちゃんと聞こえたようで、すぐに部屋の扉を開けて室内へと入って来た。
「なんですか?」
今日の盗賊狩りで疲れたのだろうか?疲労が顔に浮かび上がっている。
- 369 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:47:05 ID:N2pyej5h]
-
「あぁ、今日の盗賊の件でな…。あの時のお前の作戦……よかったぞ。」
「えっ?ありがとうございます。」
それだけ言うために呼んだのか?とでも言いたげな表情だ。
「構わん。それでだ、お前に何か褒美をやろうと思ってな…。何がいい?」
この発言だけで、あの夜を思い出すのに十分効果的だろう…。
案の定ライトの表情が険しくなった。
「いえ、仕事をしただけですから褒美なんて…。」
ライトの顔が少し赤くなる。
“褒美”の言葉でもう想像してるはずだ。
あの夜の出来事を…。
ライトは酒の勢いだと思い込んでいるだろうが、真実は違う。
ライトが飲むワインの中にある薬を私が入れたのだ。
一年前に異国の商人から買い取ったモノなのだが……まさか本当に効くとは思わなかったが…。
ワインの酔いも多少はあったと思うのだが、あの時のライトは私が知るライトとはまったく違う人物に豹変していた。
食事の途中にも関わらず私の肩を掴み、口内を舐め回し、強引にベッドに押し倒すと、性欲が消えるまで私の体を執拗に欲しだした。
何度私の体内に吐き出したか…。
- 370 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:48:10 ID:N2pyej5h]
-
朝まで私の上にのし掛かり、激しく腰をふり続ける…ライトが眠りにつく頃には私の足腰は使い物にならないぐらい、ガタガタになっていた。
立つことを諦め、ライトの横に寝転ぶと、ライトの横顔が真横にあるのだ……その時、不思議と昔の事を私は思いだしていた。
子供の頃は幼馴染みとして一緒のベッドで何度寝た。
だが、今は違う。
――立派な男と女。
性欲を吐き捨てる為にベッドで抱き合う。
そこに愛はあるのか?
それは分からない…。
分からないが、何時間もライトと熱い時を過ごしたのに、ライトが熟睡した後、寝ているライトの顔を眺めながら自分の指で自分自身を慰めてしまったのだ。
何度も自分の指で慰め、ライトの名前を喘ぐ。最後はライトの顔を間近で見ながら絶頂を迎えた。
寝ていたライトは知らないだろうが、あの日私が女の顔を覗かせたとしたらその時だけだろう…。
私の雌の部分はライトには絶対に見せない――。
そう…それが答えなのかも知れない。
「今日私の家にくるか?食事でもご馳走するよ。」
ライトは気づいているのだろうか?
私の体をいやらしい目で見ている事に――。
無意識だとしたら、私の“甘い毒”が効いている証拠。
- 371 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:49:36 ID:N2pyej5h]
- 「……はい。」
反論する事なく、私の問いかけに頷いた。
ライトも期待しているということだ。
商人から買ったあの薬はもういらないだろう――今日、間違いなくライトから求めてくるはず。
その時、私はライトを一度だけ冷たく突き放す…。
その後、傷ついたライトを傷つけた私が優しく慰めるのだ。
そうすると、どうだろう?
――傷つけた張本人の私がえらく輝いて見えるはずだ。
そうなれば、後は時間の問題。
定期的に褒美として体の関係を持てばライトは私無しではいられなくなるはずだ――。
それこそ麻薬のように。
私を“守る盾”となるライトがもうすぐ誕生する……その時、ライトに教えてやろう。
「ふふっ……さぁ、行こう。夜は思ってるより短いぞ?。」
私はお前を誰よりも“酷く”愛しているのだと――。
- 372 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/06/19(土) 18:51:00 ID:N2pyej5h]
- ありがとうございました、投下終了します。
次はなるべく早く投下しますね。
- 373 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/19(土) 19:23:18 ID:0U3jdefD]
- GJ!
ティーナやったか
- 374 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/19(土) 19:35:02 ID:AQ8r6s0v]
- おお、レスの無かったスレに投下とは感謝
副長こえーwライトの危機にまさかの真っ二つ
続きに期待、GJ!
- 375 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/20(日) 10:11:16 ID:DwnwpEfz]
- GJGJ!!!
- 376 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/21(月) 13:21:41 ID:iNmJtVTc]
- GJ!
ワクワクが治まらない
- 377 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/22(火) 17:57:35 ID:g0vmCPAM]
- 短いですが、次から前スレの続き投下
- 378 名前:『この世で最も華麗な彼氏』 mailto:sage [2010/06/22(火) 18:00:08 ID:g0vmCPAM]
- 21
てちてちてち。ダラリと腕を垂らして歩き、
ボフッ。鞄を机に放り投げ、自室のベッドに倒れ込む。
「うぅっ……チンコがヒリヒリするよぉっ」
疲れた。朝は美月のお尻に、口に、昼はプールの中で、放課後はショッピングモールの試着室で、映画館の暗闇の中で、今日は五回もイカされて、晩ご飯を食べる気力も無い。
だからお風呂にも入らず、着替えもせず、明日は休日だからと単純な考えで、明日からは美月の誘いを全て断る!! そんな鋼鉄の意志を持って、ボクは深い眠りに落ちた。
────。
きっと夢の中。夢の中で思い返されるのは、ボクと美月の生きて来た歴史。
二人は産まれた時からずっと一緒で、ずっと一緒に居たけど、小学二年〜三年生の間だけ、凄く仲が悪かった。てかイジメられてた。
後で聞いたら好きの裏返しだって言われたけど、その頃は本当に辛くて、毎日泣いてたかもしれない。自分よりも背の小さい女の子にイジメられて、毎日、毎日。
イジメが終わった切っ掛けはたった一言、「美月なんて大嫌い!」。
そう叫んだら美月が泣いた。わんわんわんわん大声で泣いた。ボクの胸に顔をうずめて、表情をくしゃくしゃにして、ごめんなさいと呟き泣いた。
翌日からは人が変わったように優しくなり、ボクも女性として美月を意識し始めて、気付いたら隣にいないと落ち着かなくて、好きだとわかって、告白して、いっぱいキスして、身体がカレー味になって……から美月は狂い出す。
ボクをイジメてた時に雰囲気が似てるんだ。その時に戻ってるんだ。
だからオナニーのオカズもその時の美月。生意気で、文句ばっかり言って、唯一キライだった時の美月を力ずくで犯す妄想。
今と似てて、ボクよりも小さかった美月を犯すのが、とっても興奮する。
長い髪をポニテでまとめ、高圧的な瞳のツリ目で、胸はぺったんこの幼児体型で、けどボクは、そんな美月を……レ○プしたい。
嫌いな美月を、レイ……っ、ぐえっ!?
ドスン。夢の中じゃなくて、現実にボクの腹部へと圧力が掛かる。結構な高さからバスケットボールを落とされた、そんな感覚。
「んっ、なんなのっ?」
当然、目が覚めて、窓からは朝日が射し込んで、ボクは仰向けで天井を見上げてて、手足は大の字に広げられ、昨日と同じに動かない。
そして視線を僅かにズラせば美月。美月がボクのお腹に跨いで座ってた。
「やっと起きたの!? このデカチンドーテーソーロー野郎っ!!!」
ただ違うのは、長い髪はポニーテールで結ばれてて、切れ長の冷めた瞳はボクを見下してて、白いワンピースと黒いピチピチスパッツのアンバランスな服を着てる事。
背も小さく、胸も小さく、お尻も小さく、くびれも無くなって、典型的な幼児体型。あの頃の美月が、あの頃のままで、睨んでた。
- 379 名前:『この世で最も華麗な彼氏』 mailto:sage [2010/06/22(火) 18:01:14 ID:g0vmCPAM]
- 22
なんで!? どうしてっ! わからない。頬っぺをツネりたくても、身体が固定されててツネれない。声……は忘れちゃったけど、こんな声だった気がする。
「夢じゃないよサヤ? これは夢じゃない。サヤはこれから、私にイジメられるの」
だから、この子供を美月と別人だとは決して言い切れない。美月が二人? 美月が若返った? そんなの有りはしないのに、そんなのを否定できない。けど。
そっくり過ぎて、外見は瓜二つ過ぎて、ただただ、あの頃のイヤな出来事が蘇る。けど。
「あの、さ……君は誰? ボクの知ってる彼女は高校生なんだけど?」
夢じゃない。言われたって、夢としか思えないよ。でも何で彼女なんだろ? 夢だったら、都合の良い夢だったら、優しい美月が現れる筈なのに。
ボクが好きなのは、優しくてオッパイの大きな美月なんだ。この頃の美月とは楽しい思い出なんて一つも無い。
「もう忘れたの? 私はサヤのご主人様。今から私が、ありがた〜い……おみ足で、下僕のクズ精子を抜き取ってあげるわっ♪♪」
一つも無い、筈なのにっ。笑われてる、見下されてる、八歳の小さな女の子に、高校生のボクが。跨がれて、上に乗られて、マウントポジションで。
ああ、ゾクゾク、する。本当にゴミでも見るかの様に、冷たくて強気な瞳。ボクは、この美月、を。
「美月、ボクは……いたッ!?」
パチンッ。
ビンタされた。全く痛くなかったけど、吐き出した声は反射的なもの。
「このっ!! ご主人様、でしょ? 私が処理してやるって言ってるんだから、サヤは黙ってチンポ勃ててれば良いのよっ!!」
下半身は裸にされてて、足は目一杯に広げられてて、美月は瞬間だけイラついた表情を浮かべて腰を上げると、立ち位置をその足の間に移した。
再び顔は笑みに変わり、ブッた手を数度プラプラさせた後に自らの腰へ添え、ポーチから片手サイズのペットボトルを取り出す。
それは知ってる。それは肌色に濁る液体。ラベルに書かれている文字は『フルーツ牛乳ローション』。フルーツ牛乳そっくりの色と香りと外見の、性交を楽しむ為のアイテムだ。
「それっ、は……」
それは恥ずかしい思い出。まだ中学の頃、美月の身体がエッチに成長して、エッチな言葉でからかわれてた頃。「さわりたいの?」「ば〜か、サヤのへんた〜い♪」、冗談で済んでた頃。
それは初めてボクが買ったオナホールセットの付属物で、夕方に代引きで届き、リビングでわくわくしながら開封したら、美月が遊びに来て、慌てて冷蔵庫に隠した物。
ローションはコーラとパック牛乳の間に、オナホールはチルド室の野菜で隠して、美月が借りてきたDVDをソファーに座って二人並んで見た……までは良かった。
カーテンを閉めて、暗くして、ムード出した……までは良かったんだ。
でも開始五分ぐらいで美月は立ち上がり、トイレかな? って油断してたら足音はキッチンの方へ。
すぐにジュースが飲みたいんだと気付き、「れ、冷蔵庫にジュース無いよ! 買って来るから美月は座って待ってて!!」と、背中を押して無理やりソファーに美月を座らせた。
- 380 名前:『この世で最も華麗な彼氏』 mailto:sage [2010/06/22(火) 18:04:07 ID:g0vmCPAM]
- 23
ボクは近くのコンビニへジュースを買いに走り、息切れしたけれども、これで安心だなんて勘違いしてたんだ。
帰宅すれば当然リビングは薄暗くて、テレビから流れる映像が唯一の光で、その光に照らされて、てらてらと艶めく糸が垂れる。
「んっ、ねぇ沙耶……どっち?」
垂れるのは幼馴染みの舌先から、垂れるのは透明で粘着質な液体。それが胸元で持たれている『何か』に流れ落ちる。『何か』の窪みに流れ込んで行く。
テーブルには、フタの開けられたフルーツ牛乳ローションのボトル。
「みつ、き?」
くちゃぁっ……
そして、どっち? と、見せ付けられるのは、大きく拡げたクチの中と、左右の人差し指で拡げられたオナホールの挿入口。
まだ美月がオカシクならなかった頃。まだボクが普通だった頃。まだ笑いながら冗談で済んでた頃。その記憶が思い出されてボクは……
「えっ、ぐぎッ!?」
「ちょっと〜っ? 小学生に踏まれてチンポおっきくするってどーなのよ? このロリコン、ヘンタイっ!!
チンポでしか物事を考えられない、チンポの大きさしか取り柄のないチンポ馬鹿ね……チンポを触って貰えれば、足だって構わないんでしょう?」
ボクはチンコを小さなミツキに踏まれて、勃起させてた。
罵られて、見下されて、だけどピンク色の靴下を履いた足は、裏スジをゾリゾリ、ゴシュゴシュと、気持ち良く擦り上げて萎えさせてくれない。
「ほらっ、さっさとシャセーしちゃえっ♪♪」
いつの間にかローションでドロドロになった下半身を、同じくドロドロになるのも構わず、靴下越しの爪先と、指と、足の裏を這わせて弄ぶ。
でもその行為はボクを楽しませるモノでは無く、チンコから精液を搾り取るだけの動き。愛も好意も伝わって来ない。でも、でもっ!!
「んんっ!? ほん、とに……ヤメっ、ぃ、ふんん……うあ゙ぁぁぁぁぁああ!!!」
びぎゅるっ!! ビュクびゅくビュグッ!!
「汚い……こんなキタナイものを、私の膣内に注ぎ込みたかったのサヤ?」
やっぱり気持ち良くて、ボクは自分のお腹の上に射精した。
- 381 名前: ◆uC4PiS7dQ6 mailto:sage [2010/06/22(火) 18:05:06 ID:g0vmCPAM]
- 今回は以上です。
- 382 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/22(火) 18:48:49 ID:aWsUrdb7]
- >>381
なんか久しぶりに見たw
感謝GJ!
- 383 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/23(水) 06:01:55 ID:o27rK7Se]
- まってたよ!!
GJ!!
- 384 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 08:21:16 ID:M+huOwMG]
- いいよ、いいよ〜GJ!
- 385 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:34:33 ID:VYAPAboY]
- 仕事が忙しくてなかなか投下できなかったけど、いま投下します。
<<293の続き
- 386 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:35:43 ID:VYAPAboY]
- 例えるなら外からカギをかけられた地下室にいるような、そしてさらにその地下室の壁の隙間から大量の水を入れられ続けているようなそんな心象風景が浮かび上がる。
部活終了後、俺、優香、そしてなぜか東田と三人でファミレス内でまるで仲良しグループのように席に座っていた。
例によって東田の好意(俺にとっては悪意だが)でおごるからと言われ、またしつこく誘われてしまったため、しぶしぶ二人で了承したのだった。
「それにしても今日の練習は大分熱がこもってたね」
何を話すわけでもないので、あえて優香、東田に問いかけてみた。
「う、うん…そ、そうだね。東田君もすごいはりきっ…ってたね」
「まあな、俺なんかこの学校に入ってから演劇始めたのにいきなり主役に抜擢されて内心テンパってんだぜ?
でもせっかく皆でやってんだからいい演技したいし、後はコンクールで優勝した女優さんが相手なんだから気合も入るってもんさ」
最後の言葉は彼一流のいやらしさも無いただ好意だけは伝わる台詞だった。 嫌になるほどにこういう言葉がさまになる奴だ。
そして優香の反応は、
「べ、別に…大したことないよ。前の時だってぐ、偶然だっただけだし」
優香は俯いて、顔色を少し白くしている。 おそらくはトラウマを思い出しそうなんだろう。
ぎゅっとテーブルの影で彼女の手を握ると少し持ち直したようだ。
- 387 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:36:49 ID:VYAPAboY]
- 「そういえば瀬能さんと近藤は幼馴染なんだろ?俺って転校が多いからよくわかんないんだけど幼馴染ってどうなんだ?
やっぱり毎朝起こしに言ってあげたりとか、喧嘩ばかりしたりとかするのか?」
優香の様子を察した東田が話を逸らす。
それにしても言うにことかいてそれか、何とも単純と言うかアニメの見すぎと言うか、
「わ、私達はけ、喧嘩なんてしなかった…ただいつも私が…」
「特に喧嘩なんかはしなかったな〜、それに毎朝起こしに来るってアニメじゃないんだからそんなわけないだろう?
幼馴染とは言っても別に普通だよ、家が近所だからたまに行き帰りが一緒になったりするくらいさ、今は特にお互いの家族同士で行き来があるわけでもないしね」
何か優香がムキになっているようなので、口を出して発言を止める。
「なんだ〜、やっぱり本当の幼馴染でもそんなもんか、そういえばこの間さ」
優香の発言に気づかず、急速に興味をなくした東田が別の話を始める。
どうやら誤魔化せた様だ。 急に話を変えられてしまったため何か言いかけていた優香は俯いて何かを耐えているように見えた。
そんな彼女の状態を気づかせないために俺は自分から積極的に話を続けていく。
そんな俺が珍しかったのか、残念なことに東田と俺の会話は客観的に見て大分盛り上がってしまった。
時間が遅くなったのでファミレスの入り口で東田と別れ、俺達二人は少し遅い時間の道路を何を話すわけでもなく歩き続けていく。
隣に居る優香は何か考えこんでいて黙りこんでいる。 先ほどの東田と俺との会話の間も彼女は同じように何かを我慢するように黙りこんでいた。
さてと…どうしようか? 優香が一体何を考えこんでいるのかは見当もつかない。 予想してみるに、東田に幼馴染について聞かれたときに俺が止めたことだろうか?
しかしそれくらいのことで果たして優香がこんなふうになるのだろうか?
どこか痒いのだけれど、その何処かがわからないで困っているような状態だ。
手当たり次第に聞いてみればあるいはヒットするかもしれないけれど、どうも今日は胸騒ぎがする。
ジクジクとわけのわからない何かがそれを警告するので、余計なことを言わずに黙っていることにしたのだが、どうも落ち着かない。
- 388 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:38:10 ID:VYAPAboY]
- すでに東田と別れて二十分。 その間俺達は全く会話をしていない……、
まるで冷め切った夫婦のように俺達は互いを認識しているはずなのにまるでそこに居ないかのように振舞っている。
まるで無声映画のように、まるで操り人形のように、俺達は喋れないかのようにトボトボと帰路をそれこそ芝居のように淡々と歩き続けていた。
「…ね、ねえ…」
恐る恐るという表現が似合いなほどに優香が落ち着き無く視線を動かしながら初めて声を発する。
「うん?なんだい?」
「あ…なんでもない…の」
「なんでもないってことは無いだろう?さっきからずっと考え込んでいるじゃないか、どうしたんだ?」
俺の問いかけに黙って俯く優香。
なんだろう?凄く気持が悪い。 ジクジクとした嫌な予感はすでに腐り落ちそうな確信に変わっている。
明らかに、明白に、この話は俺にとって悪いことだろう……という確信が……。
「ど、どうして…わ、私達が付き合っていることはひ、ひみ…秘密にしているの?」
たどたどしく、幼児がしゃくりあげているかのように上手く言葉を発せられないのがもどかしいように上目遣いでこちらを見上げる。
「……前にも言っただろう?優香は残念なことに悪い意味で注目されている状態なんだからあまり浮ついた話は皆に見せないほうがいいんだよ?」
俺の言葉に納得いかなげにう〜、う〜と唸りながらやはりたどたどしく彼女は返す。
「で、でも…もうに、二ヶ月近…く…立つし、み、みんな私のことなんて気にしてないと思う…って言ってるよ?」
- 389 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:38:59 ID:VYAPAboY]
- ……どうしてそんなことを言うんだ。 心中で呟いた。
俺はの心を悲しみが包み込む。 それは普通の悲しみではなくグツグツとした煮えたぎるような怒りにも似た悲しみだ。
優香の言い分はわかる。 心を開ける人間が一人しか居ないというのに、その人間とは一日の大半を占める学校の時間に手を繋ぐことも話すことも出来ず、
他人のように振舞えと言われているのだから…それは納得いかないだろう。
だがそれこそが俺と優香が一緒に居るためだと言うことが理解されていないことが悲しい。
なぜならば俺は美しき蝶を蜘蛛と思わせているだけの哀れな一匹の毒蜘蛛なのだ。
安易に学校でそれを見せてしまえば、周囲の人間はきっと気づくだろう。 蝶が蜘蛛に騙されて巣に捕らわれていることを……、
そして東田のような人間が絡みついた糸を取り除いて蝶は俺の元から去っていってしまう。
そして蝶に気づいた蝶は絶対に蜘蛛の巣に留まることなどしない……美しい燐粉を巣に少しだけ残し、蝶は青い空へと帰っていくんだ。
なぜなら蝶は蝶の世界に生きることしか出来ない、そして蜘蛛も蜘蛛の世界でしか生きていくことが出来ない運命。
きっと彼女が飛び去ってしまった後の蜘蛛は巣に残った僅かな残滓の粉を愛でながら哀れに分相応にいつまでも巣の中で立ち尽くすのだろう。
- 390 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:40:49 ID:VYAPAboY]
- 誰かがそれを笑ったとしてもきっと俺はそこから動くことが出来ない……。
「いいかい?それは確かに俺だって優香と学校でも一緒に居たいし、部活中だって離れたくないさ……
でもさ残念ながら優香の言うことはかなえることは出来ないんだ…悲しいことにね、
優香はみんな私のことを気にしないっていっているだろうけどそれは勘違いなのさ」
たしなめるように喋る俺を優香が真面目な生徒のようにしっかりとした目で見てくる。
「なぜなら今だって優香は皆に注目されている。コンクールで優勝した主役なんだから当然さ…」
「そ、それだったら私、演劇辞める!主役じゃなければも、問題ないでしょ?」
唐突な叫ぶような悲鳴のような宣言を無慈悲に否定して俺は首を横に振る。
「それをすれば今度は皆が逃げたと思われる…口の悪い人間ならきっと面倒くさくなったから自分勝手に
辞めたとか言われるだろうね…結果、ますます優香の立場は悪くなってくる」
暗い夜道でもはっきり判るほどに優香が目を見開いて呆けているのがわかる。
進むことも引くことも出来ない状況だということを理解して彼女はその残酷さに心が離れていってしまっているんだろう。
だから俺は彼女を自分の手元に引き寄せる。そして呼び込むように優香の耳元に優しくキスをして囁くのだ。
「大丈夫、俺がいるから…何も心配は要らないよ」
一瞬困ったような目をする優香に気づかないフリをしてきゅっと抱きしめる。
目を瞑った彼女が言う。
「うん、私を守ってくださいね」
「ああ、約束するよ」
当初の話とは全く別の話になって俺達の会話は終了した。 優香も気づいただろう、自分がもはや身動きが取れなくなってきていることを。
そして気づいていないだろう、俺の考えたレールに強引にまた戻されたことに。
星空も見えない暗い屋外で俺達は何か釈然としないものを互いに感じながらもただ黙って何も不安などないかのように強く抱きしめあっていた。
- 391 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:41:46 ID:VYAPAboY]
- 優香の心の中にはあいも変わらずの学校内での孤立と
そして俺の心の中には疑惑が生まれてしまった。
それは一体誰が優香を誑かしたのか?ということだ
優香は言った……誰も私のことを気にしてないと思うって言ってたと言った
誰が?一体誰が優香に誰も彼女のことを気にしていないと思うと言ったのか?
東田か? 可能性が無いではないが、あの口ぶりでは中々親しそうなニュアンスを感じる。
そうすると彼は除外だ。 東田と優香の間にはまだまだ距離があるので仮に東田があんなことを言ったところで信用しないだろう。
よくよく考えればここまでが上手く行きすぎだったんだろうが、ここまで上手く行ったところでおじゃんにされるわけにはいかない、
早く優香を誑かしている人間を排除してしまわないと……。
なぜなら優香を騙していいのは、誑かしていいのは俺だけなのだから。
他の誰にもどんなことがあっても彼女に嘘をついていいのは、喜ばしていいのも、傷つけていいのも悲しませていいのも全て俺だけが許される特権なのだ。
強く抱きしめ、心中で決意して俺は心の中で叫び続ける。 美しい蝶をいつまでも騙し、唆せ続けることを……。
- 392 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 19:42:25 ID:VYAPAboY]
- ほい、今日はこんな感じで。
次々と新しい話が出てきて嬉しいね。俺もなるべく早く投下できるように頑張ります。
- 393 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/24(木) 19:51:19 ID:VYAPAboY]
- 安価間違えた
>>293でした
- 394 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 20:02:53 ID:sdpSuNP4]
- 東田氏が益々、邪魔物に思えてくるな…。取り敢えず主人公頑張れと
- 395 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 20:56:25 ID:HLazBz78]
- GJ!
これは・・・西田フラグッ!!
- 396 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 23:28:06 ID:M+huOwMG]
- これは何故か主人公を応援したくなるw
- 397 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/25(金) 03:45:26 ID:ugC9dxYO]
- 草加雅人(小説版)並のクズなのに。何故か応援してしまう…。
- 398 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/25(金) 05:39:10 ID:3neATtPX]
- >>397
レイプしないだけマシだろ
- 399 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/25(金) 05:46:27 ID:27ICiYE0]
- 応援したくなんて全くならない。犯罪者擁護かよw
- 400 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/25(金) 12:11:56 ID:QquKI5rx]
- 主人公はひどい目にあって滅茶苦茶になって欲しい
今度はずっと優香のターンで
- 401 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/25(金) 13:28:50 ID:VcWpjFGG]
- 解
- 402 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/26(土) 18:21:53 ID:QtquOUHQ]
- 主人公頑張れ。そしてハッピーエンドでおわってほしい
- 403 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/27(日) 00:16:17 ID:Qpwyqk6q]
- 双方違う依存の形で良い感じ
男女逆の立場だったら、只のヤンデレとへたれ小僧になる不思議
そっちも好みだけどさ
- 404 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/27(日) 04:17:06 ID:NTUhPvJx]
- 主人公が反省した上でハッピーエンドならいいけど・・・・
- 405 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/27(日) 09:17:23 ID:XJWoE5nd]
- 分かってないな、主人公が黒いままのハッピーエンドがいいんじゃないか。
てゆうかこれならハッピーエンドじゃないなw
- 406 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/27(日) 17:19:53 ID:R2d6+2OJ]
- 歪んだ愛の共依存でみんな幸せ
どう考えてもハッピーエンド
- 407 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/28(月) 21:45:17 ID:MdAxwbEq]
- 解
- 408 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/29(火) 12:14:50 ID:oIJfgz5d]
- 答
- 409 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/30(水) 06:51:56 ID:vn1Rp1ZC]
- 用紙
- 410 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/30(水) 12:36:10 ID:/LGIWYOh]
- 白紙
- 411 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/30(水) 12:49:31 ID:pFsnILxv]
- >>407-410
バカ。
- 412 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/30(水) 23:28:24 ID:/64y+bMt]
- 解
- 413 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 00:19:12 ID:gRQoLGP1]
- 毒
- 414 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:18:14 ID:KZHz0w7/]
- 作
- 415 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:39:02 ID:o+Uv6LTc]
- 品
- 416 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:39:22 ID:o+Uv6LTc]
- 投
- 417 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:39:46 ID:o+Uv6LTc]
- 下
- 418 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:40:44 ID:o+Uv6LTc]
- というわけで作品投下します。
>>391の続き
- 419 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:42:30 ID:o+Uv6LTc]
- 翌日になっても状況は当然のことながら好転していなかった。 むしろ緩やかに悪くなっていっている。
東田がいることで優香の周りに人が集まっていく、そして彼らとの会話に優香をまるで熟練の羊飼いのように違和感無く参加させている。
臆病な羊のように怯む優香をさり気に、気軽に会話の端々でわずかにでも合流させることでかろうじて優香と他者への会話を成立させている。
まったく惚れ惚れするような気遣いと絶妙なバランス感覚だ。
もはや心がざわめくことすらない。 例えるなら小さな子供が空を見上げたときのように自分のちっぽけさを全身で余すことなく感じている。
すがすがしい気分ですらある。
体育館内に響く部員と東田達の『楽しいお話の笑い声』を浴びせられながらある種の諦めにもにた安心を感受している。
だがそこで、一度ぎゅっと目を瞑り、小さく両拳を握りこむ。 目を閉じた暗闇の中でその行動をすることによって自分自身の存在が収縮してカッチリと認識できた。
そう、俺は東田には勝てるところが無い。
それは世間一般的な価値観……つまり外見、優しさ、心の広さ、そして愛を持って接する心、その全てにおいて悔しがることも出来ないほどに圧倒的に負けているのだ。
- 420 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:43:35 ID:o+Uv6LTc]
- だがそれでも……。
ゆっくりと落ちついて瞳を開ける。 身体の中を冷たい何かが充満していくイメージを固める。
それは俺自身が最低な行為をしたときと同じ覚悟を固めた時と全く同じ状態だ。
そして岩のように硬く、氷のように冷たい、あるいは子供だけはと懇願する母親の目の前で幼児に剣を振り下ろすような無慈悲な残酷さを持って
俺は行動することを宣言する。 俺自身の脳内で。
自分自身に宣言することによって、それは絶対に後悔しない、絶対に止まらないことと同義になる。 俺が自分に明確に心中で叫ぶんだ。
他人の不幸、優香の涙、良人を騙し嵌めることに対して躊躇なんてするはず無い。 たとえ神の裁きによって自分が将来地獄の業火に焼かれることになっても、俺は笑ってそれを受け入れるだろう。
それをいとわないほどに俺は醜悪で、わがままで、心が狭く、そして愛という感情の中の大部分がエゴで出来ている存在なのだから。
さあどうやって嵌めて騙してやろうか……?
- 421 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:44:22 ID:o+Uv6LTc]
- 「お〜い今日もファミレス寄っていくだろう?」
半ば日課になりつつあるファミレスでのトークを東田が誘ってくる。
「ああ……いいと思うけど、今日は俺は少し用事があるから行けそうに無いな〜、たまには二人で話したらどうだ?」
素っ気無い態度で優香の方に顔を向ける。 俺の後ろに立っている優香の顔は蒼白で、落ち着き無く視線をさ迷わせている。
「瀬能さん?どうかしたのか?」
不思議そうな目で優香に東田が問いかけるが、なかなか返事をしない。
心象風景としてはまさに自分を支えている地面が崩れているといったところだろうか……。
「どうしたの?せっかくだから行ってくればいいじゃないか……なあ、行けるだろ?」
「ひっ!……う、うん……だ、大丈夫だよ……は……はは……」
引きつった笑いで答える優香に内心舌打ちをする。
なんとも下手な演技だな。 もう少し落ち着けばいいのに……東田が変に思うじゃないか。
ぎゅっと東田の死角から優香の背中側に手を回し、彼女の小指をきゅっと軽く掴む。
驚いたようにビクっとする優香に向かってコクリと頷く。
落ち着けという無言のメッセージだったのだが、優香はそれを正確に受け取ってくれたようで、でもまだ戸惑いと怯えを少し残しながらも頷き返す。
- 422 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:45:06 ID:o+Uv6LTc]
- 一瞬のことだったので東田はやや戸惑い気味ながらも優香がすっと前に出てきたので、
「そ、それじゃ……行こうか?瀬能さん。近藤もまた明日な」
「ああさようなら……また明日な」
ニッコリと手を上げて優香達と別れる。 そしてその足で駅に向かう。
駅に着くとコインロッカーを開けて中からバッグを取り出す。
朝早く来てこのコインロッカーに入れて置いたのだ。念のため中身を確認すると当然のことながら中身は朝入れたときと変わっていなかった。
携帯を取り出して時間を確認する。
30分立ったか、そろそろ向かうとするか……でもその前に、
バッグを持って駅構内のトイレへと入る。 そして個室に入るとバッグを床に置いて中に入っているものを順番に取り出す。
眼鏡に、帽子に、服とズボン、そして紙を煮詰めてある程度の塊にしたもの。
まず服を脱ぎバッグ内に入っていた服とズボンに着替える。 ちなみに服は白いシャツに淡い青をしたアロハシャツを上着にしている。
そしてズボンはやや丈の大きいダボっとしたもので、腰の位置で止めてベルトをつける。 度の入っていない眼鏡をかけ、帽子をかぶる。
ちなみに帽子はニットのような薄い生地で通気性がよく、正面に髑髏のワンポイントが取り付けられている黒いものだ。
着替えた自分をバッグの中に入れておいた鏡で動かしながら注意深く観察する。
大丈夫、どこから見ても近藤恭介には見えず、今時の若者風だ。 というか俺も一応若者なんだけどな。
自分で苦笑しながら着ていたものをバッグに詰め替え、個室から出ようとしたところで向き直る。
- 423 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:46:52 ID:o+Uv6LTc]
- 忘れていた……これを装着しないと。 あわててポケットの中から先ほどバッグに入っていた紙の塊を取り出す。
それを口内に入れて歯の外側へと装着する。
そしてもう一度鏡を取り出して確認すると、輪郭がややふっくらしてますます近藤恭介に見えなくなった。
これは輪郭をごまかす為に自ら作ったもので、指名手配犯がこれを使い、変装して警察の捜査から逃げ切ったということを本で読み実践してみたのだ。
うん、意外に悪くないな。 俺は頬がややこけていて、少し面長なので変装したところで幼馴染である優香に見破られる可能性を考慮したものだ。
全てチェックし終わったので個室から出て、コインロッカーにバッグを戻す。
準備を終えたので意気揚々と駅を後にし、俺は東田達がいるファミレスへと向かっていった。
うす暗い夜道を歩きながら、今日の目的を心の中で確認する。
まず俺の居ないところでの二人の会話を聞いてどの程度優香が心を開いたかを確認。
次に東田の会話をよく吟味して何か付けこめそうなところがあるかを知る。それが無いならば、何か役に立つ情報が無いかを見つけることだ。
ここでの役に立つというのは東田と優香双方の関係悪化につながるようなヒントを見つけるということだ。
そして東田との会話の中で優香のアドバイザーを見つけること。
全く不愉快なことに優香に対して誰かが相談に乗っていて、そして優香もその人物をある程度信用しているということを考えると
俺が不在のときに何がしかの情報を出すかもしれないという期待を込めている。
ただ気になることはそのアドバイザーはおそらく演劇部には居ないと思われるが、そうなると一体どこで優香がそいつと会っているのか?ということと、その人物の目的だ。
- 424 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:50:44 ID:o+Uv6LTc]
- 演劇部には居ないという推測はおそらく当たっているだろう。 なぜならそのような人物がいるならば誤魔化したり?をつくのが下手な優香は必ず尻尾を出すはずだ。
優香が孤立し始めるときから誰かが助け舟を出して優香の孤立を防ごうとするのを邪魔するために注意深く部内を確認していたが
彼女が俺以外の人間と親しく話していたりそのような素振りを見せる人間なんて居なかった。 ということはその人物はは演劇部外の人間ということになる。
クラスメイトか? しかしそのような人間が居るとは部活内や帰りがけの様子を見るとそれも考えずらい……、そしてその人物の目的もいまいちはっきりしないところも不気味だ。
孤立した優香を心配しているが周囲のことを考えてこっそり会っている? 基本的に優香は放課後は俺と居る。
もちろん俺と別れた後はわからないのだが、そんなお人良しならば優香との会話の中で出てきてもおかしくないはずだ……第一に俺に黙っている意味がわからない。
ということは優香にはそいつから口止めされている?
一体何のために? もしや他に男がいるのか? それならば俺に黙っているように口止めさせるのも理解は出来る。
それにそれならばそれで問題は無い。
問題は無いというのは優香が浮気しているというのなら逆手にとって彼女の罪悪感を疼かせ
また自分が如何にどうしようもない人間というのを理解させればいいのだ。
心が壊れてしまうのを防いでくれた、ただ一人の味方であり恋人でもある俺を裏切ってしまうようなまるで売女のような人間だと思わせればいい。
俺への依存度が高まるならばそれも悪くない。 仮に他の男とそうだったとしても最終的に俺のところへと戻ればいいのさ。
ただその男には全力で後悔することになってもらうが……。
気がつくと目的のファミレス前へと着いた。 こうやって考えながら移動するのは意外に好きだ。 特に優香のことならね……。
一度駐車場内で空を見上げると、すっかり空は真っ黒に染まっていて、ファミレスの光だけが救いのように地表にあふれ出している。
まるで…そう、まるで大きな何かが大口を開けて空を飛ぶ全てを飲み込もうとしているような錯覚を覚える。
ぽっかりと口内に取り込まれた空を隔てるように明るい地表はまだ飲み込まれていないことを証明しているようだった。
視線を戻し、駐車場を通り店内へと向かう。
- 425 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:51:52 ID:o+Uv6LTc]
-
そうさ、空はもう飲み込まれていてもう君が飛ぶ場所はどこにも無い……
この地表以外には。
それに気づかず誰かに引っ張られてまた空を飛ぼうとするならその手を切り落としてまた地表へと落としてやるさ、
甘く鈍い毒が身体を充満し、身体を重くして、もう空を飛ぼうとする気力すらわかないようにしてあげる。
そして蝶を空に上げようとする愚か者には特別の毒を放り込んでやるのさ、全てを恨み、恐れ、呪うようなそんな毒を……。
- 426 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 01:58:18 ID:o+Uv6LTc]
- というわけで今日はここまで。
この話自体はもう少し続きますが、新作思いついたので合間見てそれも投下します。
あっそれと題名は「蜘蛛と蝶と良人と蟷螂」にしました。
遅くなったけど>>253タイトル考えてくれてありがとう。結局これに決定しました。
それと新作のタイトルは「最後まではしない」です。
おやすみなさい〜
- 427 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 02:23:47 ID:0H1LoQ/c]
- GJ
主人公氏ね
- 428 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 06:37:52 ID:wvihCIj1]
- GJ
いかにも最近のラノベって感じのタイトルだな
- 429 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 06:42:22 ID:wvihCIj1]
- あっ、別に悪いって言ってるわけじゃないよ
- 430 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 10:53:59 ID:OlWAfx+s]
- >>426
二つの作品書くの?
疲れるよ。
途中で止めるって事態にはならないでね。
- 431 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 11:54:32 ID:AZCE6mb1]
- 完結させてからでいいとおもうけどね。
途中で凍結はよくみることなので。。
- 432 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/01(木) 22:05:04 ID:8FIPy7sp]
- 解
- 433 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/01(木) 22:32:44 ID:OlWAfx+s]
- >>432
死ね。
- 434 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/02(金) 10:38:49 ID:uylZs12g]
- >>426
どちらか1つにしぼりなよ。
完結させる気がないならこちらはやめて新作に集中すべき。
どっちも書けてモチベーションを保つなんてのはプロでもしんどいぞ。
- 435 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/02(金) 10:43:42 ID:EOFspjAW]
- 保管庫の作品に感想書けるんだな?今、初めてわかった…
- 436 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/02(金) 13:06:37 ID:apl1NTE6]
- >>435
え、書けるの?
感想ならここで書いてたから知らなかった。
- 437 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/02(金) 16:59:56 ID:GeqCQgfG]
- コメント欄に書けるね
過去の作品も名作多いなあ
クロエの人の作品とかまた読みたいんだぜ
- 438 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/03(土) 07:30:07 ID:KdUoDgGM]
- ちくわに謝れ!今すぐ即刻ちくわに謝れ!
- 439 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/03(土) 07:31:01 ID:KdUoDgGM]
- すま誤爆
- 440 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:49:03 ID:Ya6uHHcF]
- 遅れてすいません。少し長いですが、夢の国投下します
- 441 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:50:49 ID:Ya6uHHcF]
- 嗅覚を刺激する性の匂い――。
最近覚えたばかりだからか、えらく敏感になってしまった。
「はぁッ、はぁ、はぁ。」
息を切らしたライトが私の上でだらしなくもたれ掛かっている。
勿論裸で…。
「あッ…ん…」
ライトのモノが私から抜ける。その際、不覚にも声が出てしまった。抜く時、私の中をなぞる様にイヤらしく擦られたからだ。
中で吐き出された精液がお尻のほうまで垂れているのが分かる。
「ティーナ…」
ライトの顔がゆっくり近づいてくる…。
「ん…ライト…」
それを優しく受け入れ、ライトの首に手をまわす。
もう何度交わっただろうか?
身体の感覚が無くなってきている。
まだ覚えたてだからか、ライトは腰を一生懸命振ることしか知らない。
そこが可愛くてしかたないのだ。
私だってライトと同じ、初心者なのだから偉そうな事を言えた立場ではないが、私を気持ちよくさせようと頑張っているのがよくわかった。
そして腰を振り続るライトが絶頂を迎える時、私は力いっぱいライトにしがみつく。
一緒にイッたと思わせる為に。
「ふぅ…ライトどうする?まだ、するか?」
垂れる精液を気にせず、ライトに向かって股を開いて見せる。
- 442 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:52:00 ID:Ya6uHHcF]
-
ライトに見える様に指で精液をかき出すと、クチュッ、クチュッと水っぽいイヤらしい音が部屋の中に響いた。
娼婦となんら変わらない行動…。
「ティーナッ!」
私の挑発に簡単乗ったライトは、ガバッと私の上へ勢いよくと覆い被さると、また私の中へと強引に挿入してきた。
「ッ…ん。」
液体を混ぜる様な湿っぽい音と、パンッパンッと私とライトの肉がぶつかる音が一定を保って聞こえてくる。
そんな事を気にするでもなく、ライトは私の胸を痛いぐらい鷲掴み、吸い付いている。
性欲に溺れるとはこの事だろう。
「はっ、はっ、はっ。」
ライトの息づかいが熱い…。興奮すると人間の体温は上昇するらしいがライトの体は熱をもった鉄の様に熱いのだ。
その熱さが私の体にも伝わってくる。
「ティーナッ、ティーナッ……くっ…!。」
ビクッビクッと痙攣した後、またも私の胸の谷間に顔を埋め倒れ込んできた。
「ンッ……また、えらく吐き出しッ…たな……ライト。」
私の中をライトの精液で勢いよく汚されていくのが分かった。
倒れ込んだ後も最後の一滴まで絞り出す為にライトのモノが私の膣内を小刻みに犯している。
「ふぅ…ライト、どうする?泊まっていくか?」
- 443 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:52:52 ID:Ya6uHHcF]
- ライトの首筋にキスを落とし、問いかける。
こんな恋人臭い事、自分がする日が来るとは夢にも思わなかった。
「はぁ、はぁ…そうですね…疲れましたから。」
私の中から自分のモノをゆっくり引き抜くと、私が寝ているベッドの横に寝転び、めんどくさそうに呟いた。
ライトも全部出しきったのだろう…眠たそうだ。
七時間近くしていたのだ……正直、私も眠たかった。
「寝るといっても、あまり寝られないな…。」
「えっ?……あっ、そっか……はぁ。」
私の呟きにライトが思い出した様に声を上げ、ため息をついた。
ライトがため息を吐くのも分からないでもない……今日、私率いる隊が竜の口へと出発するのだ。
陽が昇るまでに出発しなければならないので、後三時間程度しか眠れない。
後三時間で体力が戻るか…心配だが少しでも寝ておかないと、倒れてしまう。
「仕方ない…早く寝てしまおう。」
「…」
「…ライト?」
「スー…スー…」
既に寝ているようだ…。
「ふふっ……私も寝るか。」
ライトの腰に手を回し、頬に優しくキスをした後、眠る為に目を瞑った。
――ノクタールに来た当初、思いもしなかった。
こんな、安堵して眠れるなんて。
- 444 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:53:30 ID:Ya6uHHcF]
-
寝る時も剣はベッドに持ち込んでいた…だけど今はライトがいる。
――私の盾だ。
私は絶対に信用できる盾を手にいれ、誰にも負けない剣を持っている。
今では副長という座もそんなに魅力的ではなくなっていた。
いつも乾いていた、私の何かが潤いで満たされたからだろう…。
後はライトをある程度の地位まで引っ張り上げてやるだけ。私の物がそこらの貴族共にペコペコしてるのは気に入らない。
ある程度の地位と言っても、私から離れる事は許されない。
まずは、私の隊の副隊長にでも任命してやるか…。
「……ふっ」
自分が悩んでいる事に少しおかしくなってしまった。
これは苦痛の悩み…とはまた違う幸せな悩みなのかも知れない。
今日出発する竜の口の任務でもライトは活躍してくれるだろう…。
此方に帰ってくるのは早くて四日後。
それまでライトが我慢できるかどうか分からないが、活躍したあかつきにはライトが喜ぶ褒美をやらないと…。
「幸せな悩み…か。」
自分でも分かる――笑っていることに。
結婚することが女の幸せ?
子供を産み落とす事が女の幸せ?
愛する男を支える事が女の幸せ?
違う、私は違う…。
- 445 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:55:51 ID:Ya6uHHcF]
- そんなありきたりな幸せでは満足しない。
私が幸せを感じる時――それは戦場に立っている時。そして、もう一つは…。
「ふっ、こっちに来いライト。」
「んっ、う〜ん…。」
ライトを強引に引き寄せる。
少し鬱陶しそうに身を捩ったが、また小さく寝息を立て始めた。
もう一つの幸せはこれだ。
そう…ライトを自分のモノだと認識できる時が一番幸せを感じるのだ。
私の手の中でも一番輝いて見える物。
恋人でも夫でも息子でも無い――唯一の私の“宝物”それがライト。
――私は誰よりも幸福者なのだ。
◆◇◆†◆◇◆
これは夢だ――。
そう確信する事がたまにある。
多分他の人間もこの経験はあるはずだ。
ピンとくるというか、なんというか…。
よく分からないが、俺は今、間違いなく夢をみていた。
ユードの町の頂上にある教会。
その裏の花畑で俺達四人は遊んでいた――。
「早く、ライトついてきなさい!」
一本の木の棒と鍋のフタ、そしてどこで拾ってきたのかヘルメットを装備したティーナが元気よく走り回っている。
「待てよ!お前だけそんな装備ずるいじゃないか!」
その後を追いかけるのは夢を見ている張本人の俺だ。
- 446 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:56:29 ID:Ya6uHHcF]
-
夢だと分かっているのに、乗り気なのは懐かしさからきてるのか…。
「お前ではその装備は扱えない!俺によこせ!」
俺と同じ様にティーナを追いかけるホーキンズ。
ティーナの最強装備を奪おうと必死だが、まずティーナに返り討ちにされるのがオチだ。
――幼馴染み三人。
毎日の様に陽が暮れるまで遊び続けた。
だから夢にでてくるのは分かるのだが……。
「ライト待って!!」何故かメノウもいるのだ。
俺達は幼少の頃の姿に戻っているのに、メノウの容姿は三年前と同じでなんら変わっていない。
当たり前か……俺はメノウの幼少の頃を知らないのだから。
「メノウはいつまでたっても遅いわね〜。私の後をついてこなきゃ置いていくからね。」
「嫌ッ、私も行く!」
メノウがそうティーナに言い放つと俺の手を握ってきた。
それにしてもメノウに見下ろされるとは…。
「お前ら相変わらず仲いいな?メノウ、俺とも手を繋ごうぜ!」
「嫌ッ!」
あからさまに嫌がるメノウ。
「ふ、ふん!別にいらねーよ!」
ふてくされながらそっぽを向くホーキンズ。何処と無くホーキンズが泣きそうな顔をしているのが分かった。
- 447 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:57:02 ID:Ya6uHHcF]
- 「仲いいのは別にいいけど私達の邪魔にならないでよメノウ?今から港に降りて商人の連中から、謎の卵を奪いにいくんだから。」
謎の卵とは幼少の頃、ティーナが港の露店商で見つけた、金色に光輝く卵の事だ。
商人からなんの卵か聞いても、教えてくれず強行手段として盗む事にしたのだ。
所詮卵…子供でも十分買える値段なのだが、奪い取ったほうが面白いとティーナが提案し、泣く泣くティーナに従うことに…。
商人に棒きれを突き付け「命がほしければ、伝説の卵をよこせ!」と小さい体なりに堂々と強奪しようとしたティーナは子供心に輝いて見えたっけ…。
その商人は笑って金色の卵をくれたけど、俺達は強奪に成功したと勘違いしてすぐにティーナの家に帰って卵から雛が産まれるのを心待ちにしていた。
どんなヤツが産まれるんだろう?
怖い?
可愛い?
強い?
楽しみでしかたなかった。
三日後、いつもの様に卵の様子を見る為にホーキンズと一緒にティーナ家にいくと、卵が無くなっていた。
不意にゴミ箱を見てみると割れた金色の卵が捨てられていたのだ…。
産まれたのかっ!?とティーナに問いかけると、俺とホーキンズに向かって一言。
――美味しかった。
- 448 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:57:48 ID:Ya6uHHcF]
-
ティーナが悪魔に見えた瞬間だった。
今なら普通の卵だと理解できるのだが、あの時は産まれた雛をティーナが食べたと勘違いしたのだ。逃げ惑う俺達を追いかけてくるティーナはボルゾよりも怖かった。
それも今ではいい思い出。
「よし、それじゃ隊長の私についてきなさい!」
そう俺達に命令すると、天高く棒きれを空に向かって突き上げた。
「待てよ!最年長である俺がリーダーだろ!」
走り出すティーナの後をホーキンズが追う。
「パン屋の息子がリーダーなんかなれる訳ないでしょ!」
「なんだと!?そのパンを毎日タダで食べに来てるヤツがほざくな!!」
二人は棒きれで戦いながら坂を降っていった。
俺も後を追わなきゃ。
「ほら、メノウ行くぞ!手を放すなよ?」
「うん、ライトと一緒ッ!」
満面の笑みを咲かせるメノウの手を握り返しティーナ達を追いかける。
――夢だと分かっている。
いつかは汚れを覚えた現実に戻るのだろう……だけど、それまでは。
――この懐かしく暖かい思い出に浸っていよう――。
◆◇◆†◆◇◆
[あぁぁぁぁッ!!!」
陽も昇らぬ早朝。私は目の前に広がる街並みに向かって、大きく奇声をあげていた。
- 449 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 16:58:44 ID:Ya6uHHcF]
-
傍迷惑だと思われるが、私が叫んだところで誰も迷惑はしないと思う。
迷惑だとしたら、私が立つ屋根の下に寝ている人間ぐらい…。
いや、こんな大きなお城じゃ気づかれないか…。
この辺りで一番大きな建物だから、一番上にのぼれば見つかるかと思ったんだけど…
「上手いこといかないなぁ………あぁぁぁッ、イライラするッ!!」
先ほどの奇声よりも大きく声をあげ、下で寝ているであろう誰かに聞こえる様に屋根を力一杯手で叩く。
私の手で叩いた所で、雑音なんて他かが知れているが、今の私はそんな事を気にしない。
迷惑だってかけまくってやる…。
――なぜ私がこんなに苛立っているのかと言うと、私の探し人が未だに見つからないのだ。
この街に来て10日。
私は苦痛を感じない時は無かった…。
民家に入って休んでいたら犬に追いかけ回されるし、冷蔵庫を漁って食事をしていたらお腹を壊すし…。
ストレス発散の為に知らない民家のおっちゃんの頭に火のついたマッチを投げ入れたら、勢いよく燃えた。
ストレス発散成功!と思いきや、燃えるおっちゃんがカツラを投げ捨て逃げる姿を見て、笑い転げてる間にいつの間にか私の周りが火の海で死にかけたし…。
- 450 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:08:09 ID:Ya6uHHcF]
-
運がついていないというかなんというか…。
「まったく……どこにいるんだい、君は?」
ワトソンくんが写る写真を眺め、ため息を吐く。
黒い髪に青い目がキリッとした青年…笑顔がよく似合っている。
何処にでもいるような少しカッコイイ男の子……そう…何処にでもいるようなこの顔。
「顔に特徴を作れ、特徴を…」
写真に文句を言った所で見つかる訳でも無いのだが、正直もう無理なんじゃないかと諦めかけている自分がいる。
鎧を着た人間は腐るほど見たが、私が見た中にはワトソンくんはいなかった…。
とゆうか冑で顔がわからなかった。
兵士だともう死んでる恐れだってある…。
「あぁ〜、ホーキンズが焼くパンが恋しいなぁ…ハロルドはちゃんと部屋の掃除してるかなぁ…。」
懐かしむように空を見上げる。
もう人間には懲り懲りだと思っていたのに…。
――私を傷つけたのも人間。
――私を助けたのも人間。
傷つけた人間はもう飽き飽きだけど、私を助けてくれた張本人はまだどんな人間か分からない。
「確かめなきゃ……どんな人間か………んっ?」
薄暗い空を見ながら黄昏ていると、下の広場から複数の人間の声が聞こえて来た。
- 451 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:08:42 ID:Ya6uHHcF]
-
屋根から立ち上がり恐る恐る顔だけ出して、下を覗き込む。
「さっさと副長を呼んでこい!出発時刻が近づいているぞ!」
「はいっ!」
「兵は皆集まっているか!副長が来るまでに兵を集めろ!」
「皆集合しています!後はティーナ副長とライトだけです!」
禍々しい鎧を身に纏った人間が密集する様に集まっていた。
確か、この国の騎士団…。
この集団に私の探し人が関わっているとハロルドが言ってたけど…。
「何するんだろ?どっかで戦でもあるのかしら?」
興味を引かれた、私は屋根から飛び降り、兵士達が集まる広場へと降下した。
物陰に隠れ、様子を伺う。
皆、鎧を身に纏っているが冑はつけていない…。
「これは、チャンスだわ!」
多分、ここに集まっている兵士達はまだ一部に過ぎないだろう…。
だけど、この中にいるかも知れない。
そう考えた私は隠れながらも一人、一人の顔を写真と見比べ飛び回った。
――結果、収穫ゼロ。
似た顔すらいなかった。
「ふぅぃ〜、疲れた。」
先ほどまでいた屋根に戻り、羽を休ませる。
意気消沈……今の私にはぴったりの言葉だ。
- 452 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:09:49 ID:Ya6uHHcF]
-
10日も探し回って見つからないのなら、もう死んでるって事にしても誰も怒らないだろう。
しょうがない…ハロルドとホーキンズには戦死したと伝えるしか――。
「副長が来たぞ!皆、並べ!」
あれだけ騒がしかった広場が、その声を最後に一瞬で消え失せた。
「副長…?」
再度屋根から顔を出して、下を覗き込む。
「遅れてすまない。集まっているか?」
「はい、二百名全員。」
「二百もいらん、百いれば問題無い。」
「は、はい!」
長い金色の髪に独特の鎧。あれが騎士団の副長様…。高飛車な態度からしてどこぞの貴族様だろう…。
「あ〜いう人種が一番イヤね。下の者を家畜と変わらないと思ってるわねきっと。」
まぁ、どんな人か知らないけど、特別な階級の持ち主は決まって欲渦に翻弄されてるに決まっているのだ。
「それにしても、珍しいわね…」
遠回りに回り込んで、顔を確認する。
間違いなく女性。
それもかなりの美形。
色々な国に行ったけど、女性の騎士なんて初めて見た。
それにあの女騎士……何か鎧とは異なる禍々しい何かを感じる。
これは、そう……狂喜と言えばいいのだろうか?
- 453 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:10:30 ID:Ya6uHHcF]
- 普通の人間より欲が深いだけなら、問題無いのだけど…。
「まぁ、いっか。私には関係無いし……?もう一人来た…。」
副長と言われている女性の少し後から、男性が姿を現した。
他の連中の様にこの男性も鎧を身に纏っている。
この男性も特別な階級の持ち主だろうか…?
いや、違う。
他の者と比べて、何かが抜けている…。
抜けていると言うより、薄れている。
なんだろ?
よく、分からない。
それに懐かしい匂いもする…。
「……あれっ?懐かしい匂い?」
ふと三年前、の出来事を思い出す。
確か助けてくれた人間も懐かしい匂いがした…。
なんの匂いか思い出せないけど…。
「いや、今はそんな事どうでもいい!」
屋根に置きっぱなしにしてきた写真を急いで取りに行き、男性の顔と写真を見比べる。
黒い髪に青い瞳。
笑顔が似合う、どこにでもいる可愛らしい男前。
「見つけた…見つけた…見つけたっ!!」
間違いない、私の探し人だ。
「よし、今から竜の口へ向かって出発する!皆、誰も負傷者を出すこと無く、無事戻って来るぞ!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
- 454 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:11:36 ID:Ya6uHHcF]
-
副長さんが大きく声を上げると、それと同時に周りにいる者達が皆、活気づき、片手を天高く突き上げだした。
私のテンションの高さなど微塵にも感じてくれそうにない……まぁ、存在を知られたら、知られたでめんどくさい事になるんだけどね。
「って、そんなこと言ってる場合じゃない!!」
副長さんが冑を着け、馬に股がり颯爽と駆け出した。
それを追う様に一人、また一人と広場から出ていく。
私の探し人である人物も副長さんのすぐ後を追いかけ、広場から出ていってしまった。
このままでは、また見失ってしまう。
それだけは絶対にしてはならない。
探し回った10日を無駄にしてしまうからだ。
「待て、待て〜!絶対に逃がさないんだから!」
やっと見つけた探し人。
まず、始めにイタズラをしてやろうか…。
寝てる間に鼻にドングリを詰める。
いやいや、生温い。
10日間、私を飛び回らせた罪は重いのだ…。
「うぉぉぉぉぉ〜、私のイタズラ魂が燃える〜!」
私は“恩を返す”という当初の目的をすでに忘れていた―――。
◆◇◆†◆◇◆
「アルベル様、アルベル様。」
- 455 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:12:31 ID:Ya6uHHcF]
-
一部の兵しか起きていないであろうこの時間帯に、突然可愛らしい声と共に、けたたましく扉をノックする音が、寝耳を刺激した。
この可愛らしい声の主は我が国の姫様、アルフォンソ・ルディネ姫だろう…。
「姫様っ、こんな朝早くだと、アルベル様のご迷惑に……せめて朝陽が昇るまで待ってから――それに御召し物だって――。」
扉の外から姫の付き人の声も聞こえてくる。
侍女達もおてんば姫様に振り回されているのか…。
「こんな朝方にどうされました?」
居留守を使う訳にもいかないので、仕方なく扉を開けた。
「アルベル様っ、おはようございます。」
予想通り、満面の笑顔を浮かべたルディネ姫が立っていた。
普段着ている豪華なドレスとは違う、ピンクのネグリジェに真っ白のカーディガンと言った姫様らしからぬ格好をしている
寝ていた格好のまま私の部屋まで来られたようだ。
「おはようございます…。このような格好で申し訳ありません。」
ルディネ姫に頭を深々と下げゆっくりと顔をあげると、姫の周りにいる者達に目を向けた。
横に二人の侍女と、後ろに二人兵を引き連れている。
兵は別として、侍女達はルディネ姫に叩き起こされたに違いない。
- 456 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:13:36 ID:Ya6uHHcF]
- 眠気眼どころか、キリッとした表情を崩さないところを見ると、やはりプロなんだと実感させられた。
「いえ、私こそこんな朝早く申し訳ありません。何やら屋根がドンドンとうるさくて目が覚めてしまって…それにアルベル様がお仕事で忙しくなる前なら少しお話ができるかと。」
あからさまに落ち込んだ表情を浮かべている。
多分、ノクタールの皆はこの表情に弱いのだろう…侍女達もこの表情を見せられては断る事なんてできないだろう。
無論、私もだ。
「屋根ですか?多分ネズミでもいたんでしょう。話の相手ならいつでもどうぞ。私もそう言っていただけると嬉しい限りです。どこで話しましょうか?城庭はまだ肌寒いですし…。」
「アルベル様の部屋ではダメでしょうか…?」
この顔……わざとやっているのか?
私が断らないと分かっていてやっているのだとしたら、まんまと引っ掛かっている訳だが…。
「えぇ、私は大丈夫ですよ?」
「やったッ。それではお邪魔します。皆はもうそれぞれの仕事に戻ってください。」
「えっ?姫さッ――。」
侍女の声を聞かず、扉をバタンッと閉めてしまった。
それぞれの仕事って侍女はルディネ姫の身の回りの世話が仕事なのだが…。
- 457 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:14:09 ID:Ya6uHHcF]
- 扉の前に少しの間居たようだが、ルディネ姫の「早くいきなさい。」という命令の後、一つ一つと人の気配は消えていった。
ルディネ姫もそれを確認する為に扉に耳をつけて確認していたが、誰もいない事が分かると、私のほうに顔を向けて先ほどの笑顔とは違うニヤッとした笑みを浮かべ、此方に走りよってきた。
「ふふっ、アルベル様っ。」
走る勢いを緩めること無く私の胸へと抱きついてきた。
踏ん張ろうと思ったのだが、後ろがベッドだと分かっていたのでそのまま倒れ込むことにしたのだが、少しまずかった…。
薄い生地のネグリジェのせいで、ルディネ姫の素肌に近い感触に少しドキッとしてしまったのだ。
30近い男が16才の…しかも我が国の姫様に。
「危ないですよ、ルディネ姫。」
優しく頭を撫で、ベッドに腰を掛ける。
上に乗っかっていた、姫様は自然と私の膝の上に乗る形となった。
「ふふ、アルベル様…。」
私の首筋に鼻をすり付け、耳元で囁く。
一国の姫のこの様な姿を他の貴族が見たら間違いなく卒倒するだろう…。
ルディネ姫もそれが分かっているから、付き人を全て払ったのだろう。
私も重役を担っている身なのでルディネ姫の辛さはよく分かる。
- 458 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:14:56 ID:Ya6uHHcF]
- しかし、私は外の世界を知っているのだ。ストレスの解消だってできるし、色々な経験だってできる。
姫はそれができない…だから私は自分の知ってる世界を教えてやることしかできないのだ。
「今日はアルベル様に話を聞いてほしいんです!」
「ルディネ姫から話を?珍しいですね?」
いつもなら私の仕事の話や、私が露店で買ってきた物をプレゼントする…と言った感じで、私から切っ掛けを作る事が多いのだ。
ルディネ姫の顔を見る限り、えらく楽しい事があったのだろう。
「数日前、訓練所の辺りまで散歩をしていたのですが、その時ティーナとライトさんに出会いまして。」
「ライトとティーナ副長ですか?」
ルディネ姫が訓練所まで出かける事にも少し驚いたのだが、まさかもうライトと会っていたとは。
「はい。その時、ライトさんから物凄く興味深い話しを聞いたんです!」
久しぶりに見るルディネ姫が興奮している姿。
多分、神話やおとぎ話の類いだろう。
「エンジェル・アイランドと言う聖地はご存知ですか?」
「はい、多少は…。確か侵食が無い唯一の地……天使に見守られた聖地らしいですね。」
やっぱりその手の話しか…。
- 459 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:15:43 ID:Ya6uHHcF]
- 大きな瞳を、キラキラと輝かせ子供の様に笑顔を輝かせている。
こうなったらルディネ姫は止まらない…。
案の定、ライトから聞いたであろう話を自分が行ったかの様に話始めた。
両手いっぱいに手を広げ、どんな聖地か教えてくれたり、その聖地にしか咲かない花の話を聞かされたり、かれこれ一時間近く話続けている。
「ははっ、それは凄いですね?私も行ってみたいものです。」
「そうですよね!?それで、それで――」
まだ、続くのか?
後でライトに苦情を言わねば…。
それから、また一時間、たっぷりと話したルディネ姫は疲れた様に私のベッドにドサッと横たわった。
カーディガンがはだけ、ネグリジェが少し乱れている。
「ルディネ姫…風邪をひきますよ?」
はだけているカーディガンを元に戻すと、ルディネ姫が潤んだ瞳を私に向けているのが視界に入ってしまった。
気がついていないフリをして前を向くが、お互い目が合ったのだ。
少し、露骨すぎたかもしれない…。
「意気地無し…」
「…」
私に聞こえる様にルディネ姫がボソッと呟いた。
まさか倍近く歳が離れた女の子に言われるとは…。
- 460 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:16:23 ID:Ya6uHHcF]
- しかし、分かってほしい…そう簡単に私がルディネ姫に手を出せない事を。
「はぁ〜…ライトさんとティーナが羨ましいなぁ。」
そう言うと、呆れた様に私の横へと座り直した。
「ライトとティーナがですか?」
「だって、仲いいじゃないですか?城内でも有名ですよ。氷の美女である副長ティーナ様が一人の男に夢中だと…。それはライトさんの事では?」
「間違いなくライトのことでしょうね…。でも、ライトとティーナか……あれは姫様が思ってる様な関係では無いと思いますよ?」
「えっ?どうして分かるんですか?」
不思議そうに私の顔を見てくるが、なんて言えばいいのだろうか…。
「年長のカン…といった所ですかね。」
誤魔化した様な発言にルディネ姫が膨れた様に顔をしかめてしまった…。
自分でも分からないのだから仕方ない。
あれはルディネ姫が思う恋仲とかそんな可愛らしいモノとは違うのだ。
何があっても興味を示さなかったティーナが、ライトを騎士団に引き入れた途端、ライトしか見なくなった。
初めは人間味が出てきたと微笑ましく見ていたのだが、あれは悪い方の人間味だとスグに気がついた。
それに、最近ティーナが一段と綺麗になった気がする。
- 461 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:17:01 ID:Ya6uHHcF]
- 元々美人特有の切れ目美女だったが、それに拍車を掛ける様な女らしさを身につけているのだ。
だからだろう、使用人達がティーナに熱烈なラブコールを贈る様になっているそうだ。
(本人はすべて無視しているらしいが、その行為が皆を煽っていることも知らないだろう。)
多分…と言うか間違いなくライトとティーナは身体の関係を持っている。
それも完璧な縦の関係で。
ティーナが上に立ち、ライトが下。
頭で容易く想像できてしまう所が少し面白い。
今日出発したティーナの隊にライトもいる訳なのだが…ライトにすれば初めての遠出の任務となる。
他の兵もいるし、ところ構わず盛る様な事は無いと思うのだが…。
性欲を覚えた頃は我慢できないからな。
帰って来た時、ティーナが子供を身籠った…て事にならなきゃいいけど…。
――結局陽が昇るまで、他人の事情に頭を悩まされ、呆ける私に「話を全然聞いてくれない!」とルディネ姫の怒りを買ってしまい、ルディネ姫の機嫌をとる事に夢中で会議にも間に合わず、散々な一日となってしまった。
「あぁ…疲れた。」
そして今、やっと一日の労働から解放されたのだ。
こんな日は早く寝て疲れを癒さなくては…。
- 462 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:17:40 ID:Ya6uHHcF]
- それに、ライトが帰ってきたら文句を…。
――コンッ、コン…ガチャッ!
「アルベル様っ、仕事終わりましたか?それなら私の話を――。」
「はい、はい…聞きますよ…ルディネ姫様…はぁ。」
勿論、次の日の会議にも遅刻したことは言うまでもない。
――ライト…覚えてろよ。
- 463 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/03(土) 17:18:38 ID:Ya6uHHcF]
- ありがとうございました、投下終了します。
保管庫更新お疲れさまです。
- 464 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/03(土) 19:28:30 ID:YdwlADuY]
- >>463
GJ
- 465 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/03(土) 19:34:40 ID:A8AhJxqO]
- おお、待ってましたGJ!
ティーナの依存度がウナギ登りですなw
- 466 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/03(土) 20:11:00 ID:Dclrvb/w]
- GJ!
- 467 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/04(日) 01:11:26 ID:iTZc+8bd]
- 解
- 468 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/04(日) 09:41:36 ID:hkTKi3ms]
- 乙
燃えるカツラを想像したらシュールすぎるんだが。
そしてティーナ、卵を食うなwww
- 469 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/06(火) 18:58:54 ID:puf54ulj]
- 解
- 470 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/06(火) 23:58:28 ID:iQGU28UA]
- 孤独と絶望に胸を締め付けられる
- 471 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:30:22 ID:oZrmzX7d]
- 夢の国、夜遅く投下します。
- 472 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:30:59 ID:oZrmzX7d]
-
「二十メートル先、右の木の影に一体!その木の上にもう一体!」
「放てぇ!」
――ギョエゥゥ…ッ!
――グギャァァッ!
断末魔をあげ、ドサッと倒れ込むボルゾ。
矢が綺麗に眉間に突き刺さり、間違いなく即死だと分かった。
(すっげぇ…)
目の前で行われている出来事を唖然と見ていると自分が少し惨めになってしまうが、それは仕方の無いことだろう。
こんな凄技誰が見たって驚くに決まっている。
山の獣道を、しかも駆けている馬に股がった状態で林から出てくるボルゾの頭を矢で貫いているのだ。
しかも、全て一撃でだ…。
ティーナの隊が騎士団の心臓だと言われる由縁が今ハッキリと分かった気がする。
(さすが、少数精鋭集団だな…ぐうたら貴族だけじゃない)
「副長、もうすぐ境目の集落に出ます!」
ティーナの隣を走る一人の団員が声をあげた。
この森からやっと解放されるらしい。
「よし、それまで気を抜くなよ!」
皆に聞こえる様に大声を張り上げ、士気を上げる。
すると、ティーナの声に後押しされたのか、他の皆も声をあげ、先頭を走るティーナの後へと勢いよく続いた。
ドドドドッと森の中全体に五月蝿いほど鳴り響く、百騎の馬が駆ける音。
- 473 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:31:57 ID:oZrmzX7d]
- こんな集団で森の中を駆けるなんて思いもしなかったが、大人数だからか恐怖は一切無かった。
物凄く疲れたけど、もうすぐ休憩できるはず。
ノクタールを出発して九時間。やっと気が休まるのか…。
――団員が言った様に数分後、狭い獣道から一面広い草原へと出てこれた。
ちらほら数種類のボルゾの姿は視界に入るものの、此方に攻撃を加えてこない所を見ると森の中よりは危険性はなさそうだ。
(それどころか、いきなり森から現れた我々に驚いて逃げる奴までいる。)
「おい、集落の長に事情を話し、この草原でテントを張る事を伝えてこい!」
「わかりました。おいっ、ついてこい。」
数人の団員が草原の下にある集落へと降りていった。
町の外を木の防護壁で囲っているシンプルな集落だ。
町のデカさからして百人ほどしか住んでいないだろう…。
しかもこんな森の中、外部との接触なんてできるのだろうか?
同じ東大陸の人間(まだ人間と決まった訳では無いのだが)だから我々と言葉が通じない事はないだろけど…。
「副長、町の中に入っても大丈夫だそうです。」
町の長と話をつけてきたのか、我々の元に一人だけ戻ってきた。
- 474 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:33:02 ID:oZrmzX7d]
-
「そうか…。よし、それではご厚意に甘えるとしよう。皆は一度、ここで待機だ。ライトは私についてこい。」
近くにいた団員に馬を預け一言それだけ言うと、一人勝手にスタスタと集落に向かって歩いて行ってしまった。
「はぁ…待ってください。」
仕方なく自分も隣にいる団員に馬を預け、ティーナの後を追う事にする。
自分勝手な性格は治らないものか…。
「あ、ティーナ副長。あの奥の家がこの村の長の家です。」
村に残っていた団員が此方に歩み寄ってきた。
「あぁ、ありがとう。お前は戻り、皆に休むよう伝えてくれ。長い間走ってきたのだ、皆疲れているだろう。」
「わかりました。」
ティーナに頭を下げ、また元来た道を戻っていった。
一瞬俺とも目が合ったがすぐに反らされてしまった……別にいいのだが集団の中で孤立するのは少し辛い。
まだ、ティーナがいるだけマシなのだが…。
「おい、ボサッとするな。さっさとついてこい。」
「はい、ただいま。」
マシでは無いかもしれない…。
他の団員とは扱いがあきらかに違う。
俺も休みたいのだ。
そんな心情を知ってか知らずか、俺の方へ振り返る事なく我が村の様に堂々と歩いている。
- 475 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:35:45 ID:oZrmzX7d]
- それが逆にかえって怪しく村人達に写っているのかも知れない。周りにいる村人達は珍しい者でも見る様に、此方を凝視している。
子供達は憧れでも見る様なキラキラとした目をしているのだが、大人達は違う。
どこか怯えた様な…。
多分戦に巻き込まれると不安になっているのだろう…それなら早く、不安を取り除いてやらねば。
ティーナと共に村長の家まで来た俺は、さっそく村長に挨拶とお礼を述べ、村で一日休ませてもらう事になった。
全ての者が村に入れる訳では無いので、半分は草原でテントを張り、もう半分は村にお邪魔する形となった。
勿論、村のご厚意をタダで受ける訳にはいかない…。
持ってきた食料を村に分け与え、 村の仕事手伝う事になった。
こういう所がノクタール騎士団の親しみやすさなのだろう。
自然と村人達の強張った顔も穏やかな表情へと変わっていった。
「皆、今日はご苦労であった。明日に備えて今日は身体を休めろ!明日も、陽が昇る前に出発するからな!」
ティーナの解散の合図と共に皆、散り散りに寝床へとかえっていった。
まだ陽が落ちていないのだが、どうせ今日はこの村を離れる事はできない…身体を休める時間は多ければ多いほどいい。
- 476 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:37:28 ID:oZrmzX7d]
-
「ライトは待て。」
寝床に向かう為、歩き出したのにティーナの一言で止められてしまった。
ティーナに呼び掛けられると、あまりろくな事が無いのだが…。
「家を借りている。お前は私についてこい。」
「え…でも。」
まさか、この村のしかも他人の民家でよからぬ事をしようと企んでいるのか?
流石に任務中はヤバい。
他の連中にバレる恐れがあるのだ。
「アホか…水浴びをするから表を見張れ。」
呆れた様に俺を睨み付けると、俺の返事を聞かず、勝手に民家に入っていってしまった。
「あっ、水浴び……わかりました。」
水浴びか…残念なような嬉しいような…複雑な気持ちだ。
仕方なく民家の扉に背中を預け、周りを見張る事にした。
見張ると言っても、周りは我々の仲間だらけ。
騎士団なら皆、ティーナの水浴びを覗こうなんて考える奴はいないはずだ。(覗きたい奴は腐るほどいるかも知れない。)
それから間も無くして、甲冑を外しているであろうガチャッ、ガチャッ、とした耳障りな音が部屋の中から聞こえてきた。
一人だけ水浴びなんて…とは思うが副長といえ、やはり女性。周りの皆もその辺は分かっているらしい。
- 477 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:38:38 ID:oZrmzX7d]
-
「あの、……。」
見張りのふりをして、扉に寄りかかりサボっていると、この村の住人であろう女の子がおずおずと俺に話しかけてきた。
頭にはえている犬の耳を見てミクシーの女の子だとすぐに分かった。
顔は可愛らしいのだが、服装は……まぁ、お世辞にもいいとは言えなかった。
所々継ぎ接ぎをしている。
「きょ、今日は私達の仕事を手伝って頂いてありがとうございました。」
地面に頭がつくんじゃないか?と思わせるぐらい深々と頭を下げ、お礼を言われる。
「いやいや、泊めてくれる恩返しだよ。持ちつ持たれつ…仲良くしていこう。」
「あっ、はい…いえ…此方こそ…それで私の方から個人的にお礼を…。」
なぜ、こんなにモジモジしているのだろうか?それに、先ほどから目を合わせようとしない…。
「ははっ、別にお礼なんていらないよ。さっきも言ったけど感謝しているのは俺達のほうだから。」
変な雰囲気を払いのけようと、少しおどけて話してみる。
…が、此方を見ようともしない。
怖がられているのか?
「その…少しだけ、私の家に来ないですか?」
「家に…?」
先ほどとは違い、まっすぐ俺の目を見てきた。
その目はどこかうっとりとして……。
- 478 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:40:03 ID:oZrmzX7d]
- 「あはは…(これは…そういう事だよな?)」
俺の顔をチラチラと見て、恥ずかしそうに頬を染めている。
春だ…俺に春がきたんだ。
「あの…ダメですか?」
可愛らしい上目遣い…凶器だ。
「ダメって言うか…ほら、今は任務中だからさ。気持ちは嬉しいんだけど」
今すぐ抱き締めたくなるほど愛嬌ある顔に項垂れる犬耳…。
これはダメだ…反則だ。
「それなら、皆が寝静まった後にでも…。」
「ははっ…そうだね。」
言ってしまった。
もう後戻りはできない…。
「ほ、本当ですかッ!?よかッyガチャッ――バタンッ。
「――えっ?」
なに今の?
一瞬で俺の目の前から女の子が消えた。
いや、消えたんじゃない――。
後ろを振り返り扉を確認する。
微かに扉が開いている。
その開いている扉の中には勿論水浴びをしているティーナがいる訳なのだが…。
中からくぐもった声の様な音と、ドタバタと暴れるような音が聞こえてきた。
物凄く嫌な予感がする。
「……」
ゆっくりと恐る恐るドアノブに手を掛け、扉を開けると、恐る恐るそ〜っと家の中を覗きこんだ。
――「ぐんむぅうぅうッ!?」
- 479 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:41:10 ID:oZrmzX7d]
-
あろうことか必死に逃れようと暴れるミクシーの女の子が視界に飛び込んできた。
何から逃れるって?
水が滴る全裸で女の子の髪を片手で鷲掴み、もう片一方の手で口を押さえ込んでいるティーナからだ――。
「人のモノを無断で拝借してはいけないと母から学ばなかったのか?」
無表情のティーナが女の子の耳元で囁く。
が、それを聞く気がないのか、聞ける状態で無いのかティーナの肌に爪を立てて抵抗をしている。
しかし、あまりティーナには効いていないようだ。
女の子の抵抗を無視するようにティーナが掴む女の子の髪がブチブチッと嫌な音をたて始める。
その度、女の子は苦痛の表情を浮かべ、涙目でティーナを睨み付けている。
「聞こえないのか?返事をしたらどうだ?」
返事もなにも口を塞いでるのだから声なんてだせないだろう。
女の子はう〜ッと威嚇の唸り声か苦痛の声か区別がつかない声をあげるだけで、ティーナに圧倒されているようだ。
「ティーナ、やりすぎだぞっ!」
流石にこれは止めに入らなければならない。
騎士団副長が普通の一般人を殺したとなると洒落ではすまされないのだ。
ティーナの手を掴み口から手をどかせる。
「くッ――このっ!」
- 480 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:46:23 ID:oZrmzX7d]
- その瞬間、女の子がティーナの腕目掛けて噛みついた。
「君もやめろ!」
なんとか女の子を引き剥がそうとするがまったく離れない。
それどころか噛む力が強まり、ティーナの腕に歯が食い込んで血がでている。
「どけ、ライト。」
――ドカッ!
「がはッ!?――ゴホッ、ゴホッ!」
ティーナに突き飛ばされ、壁に激突する。
数秒、息の吸いかたを忘れるほど咳き込んでしまったが、なんとか息を整え、ティーナに目を向ける。
「…」
「…」
お互い睨みあったまま動かない。
いや…先ほど女の子の上に座っていたティーナが腕を噛みつかれた状態で中腰のまま立っている。
「口グセの悪い雌犬だな…。」
無表情でそう呟くと、髪の毛を掴んでいた手を自ら手放した。
細い髪の毛がティーナの指の間をすり抜け、束になって床へ落ちる…。
かなり強い力で掴んでいたらしい。
「そう言えば、まだ返事を聞いていなかったな。………あぁ、そっか…その立派な耳は…人間様の声が聞こえにくいんだったな――ほらッ。」
あっさりと手を放したと思ったら、今度は女の子の犬耳を掴み、勢いよく捻り上げた。
- 481 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:47:27 ID:oZrmzX7d]
-
「ッ!?きゃああぁああぁあぁぁッ!!」
流石にこれには我慢出来なかったのだろう…女の子の口から大きな悲鳴が漏れた。
「これならちゃんと聞こえるか?」
暴れる女の子の片耳を掴み、乱暴に揺らす。
「痛い痛いいだい、やめてぇぇぇッ!だすげてぇぇぇぇッ!!」
ジタバタと暴れるが、女の子の足は空を切るだけ。
なぜかと言うと、女の子の足が地面から離れているからだ。
ティーナが女の子の耳だけを片手で掴み、持ち上げている。
女の子が暴れる度、ミチミチッと耳がちぎれそうな音。だけど暴れずにはいられないのだろう…。
それだけ激痛だと言うことだ。
「ちゃんと聞こえているのか?聞こえていないのなら、この耳は必要ないな。」
そう言い放つと、今度は女の子の足を踏みつけ、耳を力一杯持ち上げ始めた。
「ぎぃやああぁぁあぁッ!!いだぃぃいぃだぃぃっ!!!」
足を踏まれている為、力の逃げ道がなくなる。
耳が不自然に伸び、血がポタポタと垂れている。
ティーナは本当に耳をちぎるつもりなのだ。
「ティーナマジでやめろ!その子死ぬぞ!」
俺の声が届いていないのか、ティーナの拷問はまだ続けられた。
- 482 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:48:28 ID:oZrmzX7d]
- 女の子は外にいる者達にも気づかれるほどの悲鳴をあげ泣き叫んでいる。
「ティーナやめろと言ってるだろうが!!」
怒鳴り声に近い俺の声に反応したティーナが、俺の方へと目を向ける。
その目はどこか、狂人を思わせるほどに濁っていた。
「ライトに免じて、最後のチャンスをやろう…。私の声は聞こえているな?」
「はいぃぃッ!きご、聞こえていまッ、すからッ はなしッ、助けッ――ッ!」
女の子もこのままでは殺されると思ったのだろう…。涙を流しながら、ティーナが掴む耳を両手で押さえて命乞いをしている。
「よし、なら肝に免じておけ――人のモノに触れる時は、許可が必要だ。わかるな?」
「はいぃッ!わかッ、わかりますッ!だから放してぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「そしてもう一つ…罪を犯したなら、それ相応な罰がついてくる。」
「おねがいじまず!だずげてくださいぃぃぃッ、うわぁぁぁぁんッ!!」
本格的に泣き出してしまった。
いや、今までよく耐えたと誉めてやりたいぐらいだ。
「しかし、今回だけは多目に見てやる。寛大な私に感謝しろ…。」
そう言うと、女の子の耳から手を放した。
女の子はその場に倒れ込んで耳を押さえ泣きじゃくっている。
- 483 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:49:35 ID:oZrmzX7d]
-
ティーナの手を見ると血だらけになっていたが、これはティーナの血ではないことはすぐに分かった。
「鬱陶しい…さっさと消えろ。」
「ヒィッ!?」
下でうずくまる女の子にそう言い放つと、女の子は大きく身体をビクつかせた後、耳を押さえながらフラフラと民家から出ていった。
地面にポタッポタッと落ちる血がえらく生々しい…。
トラウマにならなきゃいいけど…。
いや、正直俺がトラウマになりそうだった…。
目の前で行われた女同士の戦い。
初めて見たが凄まじかった。
まさか皆、女同士だとこんな激しい喧嘩をするのか?
残酷極まりなかったけど……。
「ライト。」
「はいっ――ぐッ!?」
振り向いた瞬間、ティーナの細い指が喉を締め上げた――。
なんとか抵抗を試みるが、抵抗虚しく意識が遠退き、足から力抜けていく…。
「がッ――ハッ――(ヤバッ、落ちるッ!。)」
目の前が真っ白になりいよいよヤバい…と思った時、フッと首を締め付けられていた力が消えていった。
「ゴホッ、ゴホッ、すぅ〜ッ、はぁー、すぅ〜ッ、 はぁーッ……うぅっ。」
空気を吸うために勢いよく呼吸する。
白くぼやけていた視界が徐々に明るくなってきた。
- 484 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:50:44 ID:oZrmzX7d]
-
「いきなりッ、何すんだ!」
目の前にティーナの素足が見える…。
水を弾き、玉になった水滴が肌の上を滑っている。
こんな時にでも綺麗だと思ってしまう自分は頭がおかしいのだろうか?
「偉そうに任務中ヘラヘラと女漁りか?私は表を見張れと命令したはずだ。」
俺の抗議を無視し、そう言い放つと、うずくまる俺の横っ腹を蹴り上げ、仰向けにさせられた。
すかさず俺の上に股がり、俺の耳元に顔を近づけ、呟く。
「罰だ――私の身体についてある水滴を全て舌で舐めとれ。」
そう言うと俺の顔の上に股がり、舐めるよう急かしてきた。
勿論、ティーナは水浴び後なので全裸。
だからティーナの性器が丸々見える訳で…。
「チッ…早くしろ!」
「ぶふっ!?」
痺れを切らしたティーナが俺の髪の毛を鷲掴み、無理矢理性器を顔に押し付けてきた。
反抗すると後が恐ろしいので仕方なく、性器に舌を這わせる事に…。
「あッ……いいぞ、ライトッ…ふっぁ…もっと綺麗にッ、しろ。」
ペロペロと水分を舐めとるが水浴びの水とは違うヌルヌルとした液体がでてきてしまう…。
「ふぅ、ふぅ…あっ、ん…そうッ、だ。上手いぞッライト…はぁっ。」
- 485 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:51:35 ID:oZrmzX7d]
- これはいつまで経っても終わらない気がする…。
早くティーナを満足させようと、音をたてて陰部を吸い上げた。
「あぁっ!」
俺の髪の毛を痛いぐらいに掴み性器を顔にグリグリと押し付けてくる。
ビクっビクっと身体を仰け反らせ、痙攣している所を見るとイッたのだろうか?
お陰で顔がティーナの液でベトベトだ…。
「早く此処を出ないと皆に怪しまれますよ?俺先に出てますね。」
地面に倒れ込み、はぁ、はぁ、と肩で息をするティーナを置いて、家を後にしようとしたのだが……甘かった…。
立ち上がろうとする俺の手首を掴み、また強引に転ばされてしまった…。
――「おまえは私の話を聞いていなかったのか?私の身体に残っている水滴を“すべて”舐めとれと言ったんだ。」
キリッとした表情はどこへやら……覚醒したように妖艶な笑みで命令を下してきた。
本来ならティーナの言うことを聞くのだが今は任務中、流石にヤバい。
もし、外の騎士団の連中にバレでもしたら俺の居場所が危うくなるのだ。
「……ダメです。外の者に気づかれますから。それでは。」
「なっ!?ま、待てライト!私の命令が聞けなッyガチャッ――バタン。
- 486 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:52:34 ID:oZrmzX7d]
- ティーナの言葉を最後まで聞かず、民家を後にした。
焦った様な表情を浮かべていたが、そんなに水滴を舐めとって欲しかったのだろうか?
「アイツもかなりの変態だな…。」
扉の前でそうボソッと呟くと、寝床へと歩みを早めた。
――今日は本当に疲れる一日だった。
あの女の子も心配だが、多分俺の顔なんて見たくもないだろうし…それに明日も朝は早い。しっかりと身体を休めないと。
――――――
―――――
――――
―――
――
―
「……」
おかしい…。
私に向かってライトが反論した。
いや、反論するだけならまだしも犬を庇った…。
私の命令に対しても抵抗を見せていた。
まだ、ライト自身私の所有物だと自覚していないのだろうか?
「はぁ……めんどくさい…。」
ため息を吐き捨て、テーブルに掛かっている服を手に取り、着替えた。
いつまでも裸でいると風邪を引いてしまうかもしれない。任務中、風邪を引くなどあってはならないのだ。
「任務中……か…」
その任務中に私は何をしようとしたのだろう。
ライトを引き留め、あわよくば性欲を発散させようと考えたのだ。
今日の私は少しおかしい…初めてライトの目の前で絶頂を迎えてしまった。
- 487 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:53:40 ID:oZrmzX7d]
- 絶対にライトの前では見せまいとしていた雌の部分を…。それにあの犬がライトに触れた時、頭の中が真っ赤になるほど殺気を覚えた。
あれはなんだったんだろうか?
私自身嫉妬という感情は持ち合わせていないと思っている…。
そう、思っていたのだが…。このイライラはなんだろう。胸の中をかき乱す渦のようなどす黒い“なにか”。
「――ッ!」
近くのテーブルに置いてあるガラス製のコップを無造作に掴み、壁向かって投げつける。
勢いよく壁にぶつかったコップは、ガシャンッ!っと大きい音を立てて割れてしまった。
破片が散り散りに飛び散る…。
この家の主の所有物なのだろうが、そんな事知ったことではない。
「ふんっ。」
乱れた髪を耳に掛け直し、窓際へと歩いていく。
――早くライトを私だけの盾にしなければ。
他に目がいくのは、まだ必要のない感情があるから。
それをすべて塗り潰してやる……。
「ライト、おまえは私のモノだ……騎士団に身を置けるのは私のお陰だと言うことを忘れるなよ……絶対に誰にも渡さないからな――。」
民家の窓から見えるライトに向かって呟いた。
無論、ライトには聞こえないだろう…。
だが、聞こえなくても問題は無い。
- 488 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:54:21 ID:oZrmzX7d]
-
ライトは私の所有物…。
これは何をしても揺るがない決定事項なのだから――。
◆◇◆†◆◇◆
翌朝早く、俺達騎士団は竜の口を目指すべく集落を後にした。
あの女の子に謝罪したかったのだが、見送る村人の中を探しても見つからなかった。
まぁ、死ぬような怪我では無かったので大丈夫だと思うけど…。
「副長…」
「あぁ、分かってる…」
ティーナの隣を走る団員の一人が器用にティーナへ耳打ちをした。
しかし、ティーナは最後まで話を聞かず、思い詰めた様に顔をしかめ、周りを見渡しだした。
騎士団の皆も不思議そうに周りをキョロキョロして落ち着きが無い。
「静かだな…。」
俺の隣を走る団員の一人が呟いた。
これは俺に話しかけてきたと受け取っていいのだろうか?
「そうだな……あんた一度でもボルゾ見たか?」
「いや、周りを最大限警戒して走って来たが、集落からここまでボルゾは一匹も見ていないな。」
俺に話しかけているようでホッとした。
しかしその安堵はすぐに消えた。
ボルゾを一匹も見ていない……そう、集落を出発して三時間、馬を走らせ森の中を駆け続けているのだが、一匹たりともボルゾに遭遇していないのだ…。
- 489 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:55:30 ID:oZrmzX7d]
- ボルゾだけじゃない……生物が一切いないのだ。
集落に到着するまであれほどボルゾと遭遇したのに…。
集落を後にする間際、町長から聞いた話が頭に浮かぶ。
「…」
静寂が包む森の中、はりつめる空気…。
――皆気づき始めているのだ。この森の異常さに…。
――無言のまま更に二時間ほど走り続け、一つの山を越えた。
ノクタールから山一つ越えた場所に竜の口があるという情報を頼りに走ってきたのだが、集落の村長の言うには、集落からまだ山を二つ越えなければならないそうだ。
その一つを今越えた所なのだが…。
「全員、止まれ!ここで一時間休憩を取るから、馬を休ませろ!見張りを立たせる事も忘れるな!」
ティーナの声を聞き、団員達が馬から降りていく。
皆、疲れているのだろう…馬に水を与えると、その場へと各々座り込んでしまった。
俺もそうしたいのだが……冑を外したティーナが此方を一直線に睨んでいる。
私の近くに来いということだろう…。
仕方なく馬から降りる事なく、ティーナのもとへと向かった。
「ライト…お前はどう思う?」
横についた俺の顔をチラッと横目で見た後、どこを見るでもなく目線を前に戻した。
- 490 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:56:29 ID:oZrmzX7d]
-
「そうですね……村長が話していた事を真に受ける…とは違いますが、警戒を怠る事なく進むしかないでしょうね…。」
集落の村長が話していた事……それは、俺達が向かう竜の口に住んでいるであろうドラゴンの話だ。
なんでも、この辺一帯がドラゴンの狩場らしく、すでに竜の口の周りにある森に住み着いているボルゾはすべて食われているそうだ。
俺達は神話のドラゴンとして祭り上げられた大型のボルゾだと考えているのだが、集落の人々は神の使いだと崇めているらしい…。
遭遇したらティーナが片付けてくれるだろうが、もしティーナでも勝てないと悟った時はティーナを担いででも逃げるつもりだ。
それだけこの森が異常だと思ってくれたらいい……。
静かな森なんて逆に縁起が悪い。
嵐の前の静けさとでも言おうか…。
とにかく、良からぬ事が起こらぬ様に祈るしかないだろう。
「ふんっ、その程度か……もう少し、役に立つ発言を心がけろ。」
「はぁ…すいません。」
朝からずっとこうだ…。
生理なのか、ただ機嫌が悪いだけなのか。
相手をする身にもなってほしい…。
「なんだ、なにか言いたそうだな?発言を許可してやる……言ってみろ。」
- 491 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:57:20 ID:oZrmzX7d]
- 顔に不満という文字が浮かび上がっていたのだろうか?険しい表情を浮かべたティーナが俺を睨んでいる。
「いえ、別に…。」
「私に許可を出させておいて、何も無しか?」
何故こんなに突っ掛かってくるのだろうか?
俺はいつも通り一日を過ごして来たはずなのだが…。
「だから、何もy「ッチ、ライト……頭の弱いお前に勘違いしないよう、ハッキリと教えといてやる。」
「はっ?」
いきなりなにを言い出すのだろうか?
鋭い目で俺の目を真っ直ぐに見据え、他の者達には聞こえない……俺にだけハッキリと聞こえる様に口を開いた。
――「お前と私は決して対等では無い。
お前の主人はこの私だ。
そこに人権があると思うなよ?
王でもアルベル将軍でも姫様でも他の誰でも無い…この私、ロゼス・ティーナが唯一お前の世界だ。
だからお前も私のモノだと自覚して行動しろ。
私は自分のモノに汚い垢がつくのは一番我慢ならないからな。
それが出来たなら私もお前に多大な愛を注いでやるさ。」
誰もが見惚れる程の笑顔を咲かせたティーナを見てやっと思い知らされた。
――俺が幼少の頃からよく知っているティーナは、もうすでに存在しないという事を…。
- 492 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/07(水) 00:58:03 ID:oZrmzX7d]
- ありがとうございました投下終了です。
他の作者さんも頑張ってください。
- 493 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/07(水) 01:21:06 ID:+V/1cgzU]
- GJ!ティーナの奇行がますますw
しかしワンコは御愁傷さまだな
- 494 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/07(水) 04:28:47 ID:gqGRmgJq]
- GJ!
ティーナ怖すぎる
たまらん
- 495 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/07(水) 15:57:17 ID:fuKoA6yd]
- 乙!
1ヶ月後、そこには元気に走り回る女の子の姿が!
- 496 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/08(木) 20:51:04 ID:Tyv931kj]
- 派手 目立つ
- 497 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 02:57:53 ID:DaGzzSd1]
- 最近ここの依存とヤンデレの境界が薄くなってきた気がする
ヤンデレは自分至上主義。ライバル?実力で廃除
依存は相手至上主義。ライバル?自分を高めて勝ち取る、もしくは許容
みたいなのだと思うんだが、皆の基準はどんなんだろうか
- 498 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 03:45:45 ID:qcf9SyAk]
- >>497
どうだろうな。
感じかたは人それぞれだしヤンデレと依存は紙一重だから。
アイツだけは絶対に放したくない!
でも、アイツを繋ぎ止めとくには……私を見てもらうようお願いしなきゃ!←これ依存。
アイツだけは絶対に放したくない!
でもアイツを繋ぎ止めとくには……周りの奴を排除すればいいんだ!←これ、ヤンデレ。
間違った区別のしかたかも知れないけど、これが簡単なヤンデレと依存の見分けかただと思ってる人はいっぱいいるだろうね。
てゆうか簡単な話「依存」が複雑なんじゃなくて、「ヤンデレ」が複雑なんだよ。
「病む」+「デレ」だけで言葉ができたんでしょ?これ単純にしたらただの依存でしょ。
心が病んでる…だからその人に頼る。
これだけでもヤンデレだと思う人は腐るほどいるからね。
見方は人それぞれだよ。
- 499 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 05:37:53 ID:dVz/Ps7J]
- ヤンデレの自体がどんなものか分からない…
ツンデレはわかるんだ。
好きなのについツンツンしちゃう中、ふいにデレッと本心で甘えるんだよね。
じゃあヤンデレは、普段から病んで病んで
駅構内の壁に向かって、一人ぶつぶつ言ってるような状態の中
ふいに甘えてくるって事?
- 500 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 06:59:18 ID:kHE4454a]
- >>499
それはヤンデレではなく、ただの精神病患者だ
というか、説明しなきゃわからないならここにはこないほうがいい
おまえにはこのスレは合わない
- 501 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 09:57:44 ID:gUAYvfMU]
- 定義は書き手の解釈に委ねるのでいいんじゃない?
- 502 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 09:59:14 ID:gUAYvfMU]
- ここは議論する場じゃなかった、自粛します
- 503 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/09(金) 23:29:27 ID:ksuut/GK]
- ヤンデレと暴力が=で結ばれてる最近の風潮は悲しいものがある
- 504 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/10(土) 00:59:27 ID:1J50B//X]
- 確かに嘆かわしいがヤンデレの事をそうだと認識してる住民と職人がいるからこことヤンデレスレとで住みわけでいいと思う
正直依存っ娘が依存対象とかライバルに危害加え始めたらもはやヤンデレと区別つかない
まぁ議論はこのへんにして
依存っ娘が最も輝くのは捨てられそうになる、もしくはそう勘違いした時だと思うんだがどうだろうか
- 505 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/10(土) 03:35:51 ID:v5TSdQn/]
- >>504
そうだな、見放される時が一番肝心だと俺も思う。
- 506 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう mailto:sage [2010/07/10(土) 05:23:00 ID:cwq/f/pU]
- うむ。だからこそティーナがそうなった後のボロボロ具合が楽しみでござる
- 507 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう mailto:sage [2010/07/11(日) 10:11:53 ID:tTNkMp32]
- 依存(性人格障害)の根本にあるのは、自分への漠然かつ絶対的な自己否定観。
それで依存が相手に依存するのは、そんな弱い自分を匿って欲しいから。と本に書いてあった
- 508 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:11:56 ID:ocHPLpFh]
- 夢の国投下させてもらいますね。
- 509 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:12:26 ID:ocHPLpFh]
-
ゴォオォォォオォォオォォォォッ――――――。
「これ、何の音だよ…?」
「あれだろ、この洞窟自体が風の通り道になってるんだろ。」
「そうだよな……だけどこれは――。」
ゴォオォォォォオォォオォォォォォォッ――――――。
竜の口――とはよく言ったものだ…。
洞窟の岩壁に風が反響して、洞窟の入り口から唸り声の様な音が響き渡っている。
洞窟の反対側の出口から風が入り、此方の入り口まで流れてきているのだろうが、これは流石に腰が引ける。
――我々騎士団は今、竜の口の入り口へとたどり着いていた。
見た感じ奥が深い洞窟のようだ。
洞窟の入り口には何故か、羽の折れた女神が二つ壁に彫られていて、どちらも天に手を合わせて祈っている。
女神だけでは無い…この竜の口の壁一帯が古い建造物のようだ。
そのせいだろうか?
背中に何か逆立つモノを感じてしまう。
ティーナも険しい表情を浮かべ、洞窟を睨んでいる。
「クッ、大人しくしろっ!どうしたんだこいつら…。」
馬達が騒ぎ始めた。
目を大きく見開き、怯えている……そして何故か、すべての馬が後ずさる様に竜の口から離れようとするのだ。
動物の本能で危機感を感じるのだろうか…。
- 510 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:13:05 ID:ocHPLpFh]
- 皆、不安を煽られているようだ。
無論俺も――。
「………全員馬から降りろ!!今から我々は洞窟の中へと入る!!それぞれの隊長と半数の兵は私に着いてこいッ!もう半分の兵この場所で待機だ。グラン隊長はここに残る兵を指揮し、皆はグラン隊長に従え!」
グラン隊長と言われる大男に命令を下すと、その大男は一度ティーナに敬礼をした後、兵を集めだした。
「よし、くれぐれも警戒は怠るなよ!これが終われば美味い酒だって飲める!さっさと終わらせて我が国へと戻るぞっ!!」
――おぉぉぉぉぉッ!!
ティーナの声に皆が拳をあげ、声を張り上げた。
人の上に立つ人間の一言は本当に人を奮い立たせるのだと実感させてくれる。
俺もその一人だ。
ティーナの声で不安はすべて吹き飛んだ。
我々の目的はあくまで、偵察。
別に争い事をしようとしている訳では無い。
「ライトさっさと来い!」
「ふぅ…はい、わかりましたよ!」
ティーナの後に続き、竜の口へと侵入する。
ゴォオォォォォオォォオォォォォォォッ―――――オォ―。
竜の口へと足を踏み入れた時、ふと一つの疑問が頭を過った。
――何故、風が生暖かいのだろう…。
- 511 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:13:43 ID:ocHPLpFh]
-
◆◇◆†◆◇◆
「やばい、やばい、やばいッ!」
私は木の上に立ち、右往左往と半ばパニックを起こしていた。私の身になにか起こってる訳では無い…。
私の探し人が、これから巻き込まれるであろう災難に頭を悩まされているのだ。
「どうしよう…。」
彼らが洞窟の中へと入っていくのをただ頭を抱えて見送る…。
――多分、いや…間違いなく、彼らは洞窟から出てくる事はもう無いだろう。
この洞窟は一言で言うと“ヤバイ”の一言なのだ。
人間には分からないだろう……あのボルゾなどと言われる禍者とは桁外れな気流の禍々しさを――。
あの洞窟から出てくる風は自然の風では無い。
洞窟を進むにつれて、あの風は熱風へと変わるはず。
そして“巣”へとたどり着いた時、後悔するだろう――。
絶対的な聖物は慈悲なんて言葉を知らない。
見たら最後、後は死を迎え入れるだけ――。
「……どうしよう」
本当に困った。
まさかここまで来て、探し人が死んでしまうなんて。
いや、まだ死んでないけど…。
「私の旅もここでストップかぁ…。」
流石に私は死にたく無い。
ワトソンくんには悪いのだが、短い時命だったと諦めてもらうしかなさそうだ。
- 512 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:14:27 ID:ocHPLpFh]
-
「それじゃあ……残念だけど、バイバイ。」
木から花を一つだけちぎり、手向けとして洞窟の入り口へと落とし、手を合わせる。
ワトソンくん…安らかにね。
◆◇◆†◆◇◆
「ハックショイッ!!ズズゥーッ!」
「…」
「すいません…。」
睨み付ける私にライトは頭を下げたが、それを無視する様に私は前を向き直し歩き出した。
普段ならたるんでいる…と説教する所なのだが、今はそれどころでは無い。
竜の口の中を進む事一時間……我々は洞窟の中枢であろう場所まで足を進めていた。
奥へと進むと、入り口近辺には無かった、鍾乳洞の様に尖った岩壁が目立ちはじめた。
それは別にいい…ただ、その岩壁は溶けている様に爛れているのだ。
そして、もう一つ……風だ――。
明らかに入り口とは違い、肌を焼くような熱風が吹き続けている。
鎧を身に纏っているから余計に…と言いたい所なのだが、鎧がないと火傷してしまうだろう。
それほど熱いのだ…。
そして最後の不安要素……それは。
グゴォオォォォォオォォオォォォォォォッ!。
風の音が奥へと入るにつれて、大きくなっている事だ。
後ろを振り返り、兵の様子を確認する。
- 513 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:15:13 ID:ocHPLpFh]
-
おどおどした兵が目立ちはじめた。
多分、ドラゴンの心配をしているのだろう…バカらしい。
私の不安はまた別にあるのだ。
私の不安――それは火山だ。
この山…もしかしたら噴火するんじゃないだろうか?
そしたらこの熱風だって分かる。
この音だって、私達が入ってきた入り口から風が火山口に向けて抜けているだけだろう…。
だとしたらマズイ…私も流石にマグマとは戦えない。
ライトの方へ視線をチラッと向ける。
あっけらかんとした表情で周りを見渡しながら歩いていた。
「ふっ……もうすぐ最奥部だ!気を緩めるなよ!」
ライトの顔を見ていたら、悩んでいるのがバカらしくなってしまった。
そう私は騎士団副長、ロゼス・ティーナなのだ。
ノクタール最強の騎士、アルベル将軍と肩を並べる騎士。それが私だ。
なにが来ようと、私は負けない。
最強の盾だってあるのだ。
私の隊は最強だ。
「ティーナ副隊長、ここが最奥部です!」
「あぁ…」
最奥部…。
私が思っていた風景とは少し違っていた…いや、かなり違っていた。
一つだけ予想通りなのは、上を見上げると大きな穴が空いており、空が見えるだけ。
- 514 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:15:51 ID:ocHPLpFh]
- しかし、それは火山口とは違う。風も微かに抜けてはいるが強風でも熱風でも無い。
それじゃあ、あの熱風はどこから――?
「副長、あの亀裂はなんでしょう…か…。」
一人の兵が恐る恐る指をさす。
指をさす場所へと目を向けると、壁に大きな亀裂が入っているのが分かった。
ゴォオォォォォオォォオォォォォォォッ!。
その穴から熱風が吹き出ている…。
熱いなんてモノじゃない。私の身体からすべての水分を盗ろうとしているのだ。
そして、私の身体から吹き出る汗はこの熱風の影響では無い事も自覚している。
「……全員、武器を構えて後ろへさがれ。」
私の本能が大きな警告音を鳴らしている。
――逃げろと。
『――グギアァァアァァァァァアァァアァァァァッ!!!』
「なッ!?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんだよコイツッ!?。」
逃げ惑う仲間を見て、私は初めて剣を忘れ、震える手を合わせて神に祈ってしまった。
「おい、ティーナ!!ここはヤバイッ!どこか身を隠せる場所――ッ!」
ライトが何か私に向かって叫んでいる――だけど私の耳に入ってくるのは目の前に現れた“生物”の雄叫びだけ。
- 515 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:16:46 ID:ocHPLpFh]
-
「ぁ…あ…」
そう――私は初めて味わう“恐怖”に完全に飲み込まれていたのだ。
◆◇◆†◆◇◆
目の前に立ち塞がる赤い悪魔――紛れもなく俺達を死に追いやる絶対的な存在。
頭で何度もボルゾだと言い聞かせるが、足が根を生やした様に動かない。
脳がボルゾだと認めないのだ。
あの眼――ボルゾや人間の眼では無い。
赤く輝く宝石の様な瞳は、すべての者を焼き付くす様な憎悪に満ち溢れている。
それなのに見惚れてしまうほどに美しい…。
俺の目の前にいる生物は、まさしく神話の生物――ドラゴンだった。
『グルガァアァァァァァァァァァッ!』
「ギャアァァアァァァァァァアッ!」
「熱いぃいぃぃぃッ!た、助けてくれぇぇぇぇぇッ!!!」
目の前で燃え尽きる仲間。
断末魔を上げた後、跡形もなく消えていった。
甲冑ごと綺麗に…。
「おい、ライトッ!ボサッとするんじゃねぇ!副長を連れてこの洞窟から抜け出せ!これは俺達じゃあどうすることもできねぇ!!!」
一人の兵が俺の肩を掴み現実へと引き戻す。
あろうことか目の前で行われている惨殺劇に見入ってしまっていたのだ。
「あ、あぁ、分かった!」
- 516 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:19:24 ID:ocHPLpFh]
-
後ろでたたずむティーナの元へ駆け寄り、ティーナへ声をかける。
「ティーナ、ここはヤバイぞッ!どこか身を隠せる場所へ避難しないと!おい、ティーナ、聞こえてるのか!?」
甲冑を掴み肩を揺らすのだが、目の前で大暴れする赤い悪魔に目を奪われ、俺の声が届いていないようだ。
仕方ない…。
「ボサッとするんじゃねぇ!」
――バシッ!
「痛ッ!?何をする!!」
やっと俺に気がついたか…。
叩かれた頬に手をおき、俺の事を睨み付けているが、今はそれどころでは無い。
早くこの場所から逃げないと。
「さっさと着いてこい!脱出するぞ!!」
「脱出!?バカかお前は、仲間を見殺しにできるか!!それに抜け道なんて無いだろ!道を引き返すにしても、すぐに追い付かれる!」
確かにティーナの言う通りだ…。
来る道の途中に、抜け道なんて無かった。
そして今いる最奥部にも通路らしきモノは見当たらない。
「分かった、だが安全な場所まで下がって、一度隠れよう!周りが混乱しすぎている!」
この場合、この隊の隊長であるティーナが先陣を斬って立ち向かうべきなのだろうが、ティーナが死んでは意味がない。
- 517 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:21:55 ID:ocHPLpFh]
- それに、もうドラゴンの周りにいる仲間達は助からないだろう…。
「私が隊長だッ!お前は私の言うことを聞け!!」
「なに言ってんだッ!今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ!」
「ヒィィィイイッ!?助けッ――ギィッ、ア!」
そう、無駄な話をしている今でも後ろで仲間達は次々と悲鳴をあげ死んでいくのだ。
「黙れ!お前ごときが私に指図するなッ!!」
早く逃げる方法を探さないと――。
「こっちに来るぞぉぉぉぉぉッ!矢を放てぇぇぇぇッ!!」
弓隊がドラゴンに向かって矢を放つ。
が、すべて突き刺さらず、強硬な鱗に弾き返されてしまった。
『グルガァァァァアッ――!!』
「ッ!?ティーナしゃがめ!!」
俺の声に反応したティーナがすかさず地面に身を屈めた。
同じ様に俺も身を出来るだけ地面に屈める。
ドラゴンは身体を半回転すると、勢いよく尻尾を振り抜いた。
――ブゥォンッ!
凄まじい風が一瞬頭上を吹き抜けていく。
そして数秒後――上から赤い雨が降り注いだ――。
「くッ!」
ティーナの腕を掴み、立ち上がる。
今の一撃で何人死んだのだろうか?
甲冑ごと引き裂かれた下半身だけが、そこら一帯に散らばっている。
- 518 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:23:35 ID:ocHPLpFh]
-
あの森でティーナがしでかした事が可愛く見えるほど、俺達は圧巻されていた。
なんとかドラゴンの一撃をかわせたが、次は無理だ…。
間違いなく殺される。
「ティーナ、アイツはどう足掻いても勝てる相手じゃないぞ!訳が違う!」
なんとかティーナを説得して、この塲から離れないと――。
「そんな事は私でも分かってるんだよ!だが、逃げる事は許されない!コイツがもしノクタールまで降りてきたらどうなる!大惨事になるんだぞ!」
「そんな事は後で考えろ!今は生き残る事だけを考えてだなッ――!」
「お前ッ、私に指図するなと言ったはずだ!!私の所有物の癖に主人である私に偉そうに意見すッ――!?ライト危なッ!!!」
『グギァアァァァアァァァアァッ!』
「なッ、ぐあぁあぁああッ!!」
ティーナの叫び声と歪な鳴き声と共に身体を強い衝撃が襲う。
「っがはぁ!!」
何秒か人形の如く宙を舞った後、勢いよく地面へと叩きつけられた。
鉄の味――口の中がズタズタ――。
ドラゴンに何らかの攻撃をされたようだ。
視界がボヤけ、周りの景色が二重に見える…気絶しそうで…気絶しない…地獄にいるようだ。
「ぐ…ぁあ…ッ(肋骨折れたかッ!。)」
- 519 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:24:16 ID:ocHPLpFh]
-
骨折ぐらいですんだのだから儲けものなのか…苦痛の時間が増え損なのか――複雑な心境だが、いい感じで血が抜けてくれた。
「ティーナッ!!アイツの皮膚は物理的攻撃をすべて弾き返す!アイツに攻撃が通じるとしたら口の中か、目だけだ!!火を吐く時、口の中に持ってきた爆薬を投げ込んでやれッ!」
十メートルほど離れたティーナに聞こえる様に伝える。
ティーナの俺に声に対する反応が拒否なら、もう助からない。
皆、死を迎え入れるだけだ。
「………すべての兵に告ぐ!!剣を捨て、弓に持ち替え、ドラゴンの目を集中的に攻撃せよ!!!」
俺の顔を一見すると、生きている周りの兵に命令を下した。
いつものティーナだ――。
――うぉおぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉ!!!
生き残った兵達が勝鬨に匹敵する程の声を荒げ、士気を高める。
鶴の一声――とは違う戦場の女神の声を聞き、皆の目の色が変わった。
逃げる事はできない――なら戦うしか方法は無い。
勝って帰るのだ。
「放てぇッ!」
ティーナの掛け声と共に、ドラゴンの顔目掛けて一斉に矢が放たれる。
『グガァァァアァァァアァァッ!』
先ほどと変わらず、ドラゴンは暴れまわっている。
- 520 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:24:49 ID:ocHPLpFh]
-
効いてはいないようだが、かなり嫌がっているようだ。
「手を休めるな!矢が無くなるまで攻撃しろ!」
『グルルルルルルルルルッ――ガァッ!』
大きな爪がティーナ目掛けて降り降ろされる。
「ふんっ!」
ティーナはそれを軽々後ろに跳躍し、避けた。
ティーナも恐怖心が無くなってきたようだ。
『グルルルルルルルルルッ!』
ドラゴンもティーナが一番強敵だと判断したのだろうか――あれだけ嫌がっていた矢を避ける事もせずティーナを睨み付けている。
ティーナがドラゴンを惹き付けている間に、乱れに乱れた陣形を元に戻さなくては。
そう思い、立ち上がり皆の元に走り寄ろうとした時、ドラゴンの異変に気がついた――。
――笑ってる?
ドラゴンがティーナ目掛けて口を開き身構える。
火を吐く動作だ。
「ティーナッ!」
逃げろ…と言おうとしたのだが、あるモノを見て思い止まる。
ティーナの足元には鞄が一つ落ちてある。
あれは爆薬が入ってある鞄――。
ティーナはあれ目的で跳躍したのか…。
「さぁ、私に向かって吐いてみろ!」
ゆっくりと座り鞄に手を掛けるティーナ。
ドラゴンの口が大きく開き、真っ赤な業火が口から漏れだす。
- 521 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:25:48 ID:ocHPLpFh]
-
ゴォォォッという音と共に、漏れる火も大きくなっていく。
――『ゴギャアァァァァァァアァァァァァァァッ!』
大き雄叫びと共に、口から火の塊が吐き出された。
「よしッ!」
ティーナが投げる爆薬に巻き込まれないよう頭を掴み屈む。
「………?」
爆風がこない…。
いや、爆音さえ聞こえてこない…。
恐る恐る頭から手を放し、様子を伺う。
「えっ?」
――どうなってるんだ?
目の前には兵どころか、ドラゴンすら居なくなっていた――。
ただ一面、火の海…。
誰もいない、何も存在しない。
呆ける頭で考える。ふと、おとぎ話を思い出した…。
すべてのモノを焼き付くす――出会った者は跡形もなく消え去るのみ。
すべての攻撃を跳ね返す紅鱗を纏い、爪を一振り穿てば、地面が抉れ、大きな口を開けば、すべてを無に還す。
伝説のドラゴン…炎の化身と恐れられたドラグノグ。
「ははっ……嘘だろ?」
『グルルルルルルルルルルッ――』
上に開いてる山穴から風を巻き起こしながらゆっくりと降下してくるドラゴン――。
一瞬の事でどうなったかなんて分からない。
- 522 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:27:34 ID:ocHPLpFh]
- ただ、一つだけ分かる事――それは俺達人間側は俺だけを残して全滅したと言うこと。
心の中でティーナならやってくれると思っていた――だけど違った。
勝つ負けるでは無い――コイツに出会った瞬間、俺達全員生きる権利を剥奪されていたのだ。
「はぁ……終わりか…」
目を瞑り、生きる事を諦める。
やるだけの事はやったさ…。
別に今死んでも文句言うヤツなんていないだろう――。伝説のドラゴン。ドラグノグと戦って戦死なのだから。
「胸についてあるネックレスから花を取り出して、前に差し出しなさいッ――!」
どこからともなく聞こえてくる声。
まだ仲間が生きていたのか…と声の主を確認する為に薄く目を開け、前を見た。
重苦し重圧と共に此方に近づいてくるドラグノグが見える……そのドラグノグと対峙する様に小さな光が空中に浮かんでいた。
なんの光だろうか?
綺麗な青白い光――そう言えば前にもどこかで――どこで見たっけ?
「さっさと花を取り出して、前に差し出しなさい!」
小さな光が俺に命令をする。
ネックレスから花を取り出す?
よくわからないが、言うことを聞いたほうがよさそうだ。
- 523 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:28:56 ID:ocHPLpFh]
-
震える血だらけの右手でロケットから花びらを取り出し、光に差し出す。
――「うぉッ、なっ、なんだ!?」
花びらを掴んだ手を差し出した瞬間、花びらが見たことも無い光を放ち、ドラグノグへと飛んでいった。
『ギッ、グギヤァアァァアァァァアッ!!!』
花びらがドラグノグの鼻先へと直撃すると、あれほど攻撃を加えても平然としていたのに、何故か顔をを押さえて、激しく悶え暴れだした。
先ほどの様に誰かを標的として暴れる訳では無く。ただ、痛みに耐え兼ねて暴れているのだ。
「静かに暮らしていたのわ分かるけど、ここは貴方の様な聖物が居ていい場所では無いの!!誰にも邪魔されない場所へと住みかを移しなさい!」
小さな光がドラグノグに説教をしている――。
ドラグノグの親玉か?
よくわからないが、俺達の敵では無いようだ。
『グルルル―――ッ。』
小さな光の声に反応したのか、ドラグノグが大きな翼を広げ、ゆっくりと浮上していく。
本来なら風に煽られた火は勢いを増すものなのだが、翼が起こす風の力が強いからか、火の海が一瞬で元の大地へと早変わりする。
なにか魔法でも使ったように、元の景色へと戻っていた。
「グッ…あ…」
- 524 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:29:46 ID:ocHPLpFh]
-
「うぅ…」
火が無くなって周りの景色が見えてくると、所々に倒れている兵が確認できた。
全滅はなんとか免れたようだ……重症を負っている者が大半なのだが、生きてるだけでも奇跡に近い。
ドラグノグはそのまま浮上すると、 山の穴から外へと飛び出し、あっと言う間に飛び去ってしまった。
飛び立つ間際、俺の顔を見た気がするが、気のせいだろうか……いや、気のせいにしとこう。
ドラグノグが飛び立った穴をボーッと眺める。
穴からは太陽の陽射しが洞窟内の一部を照らしており、神秘的な景色を作り出していた。
「助かった…のか?」
誰に言うでもなく呟いた。
いや、自分に問いかけた。
生きている証拠だと言わんばかりに、心臓の鼓動が一定を保って聞こえてくる。
助かった…助かったのだ。
神の生物に生きる事を許されたのだ…。
「はは…は…」
目の前に浮いていた光がユラユラと地面に落ちていく。
咄嗟に手を伸ばし光をキャッチする。
助かった事に安堵して忘れていたが、この光が俺達を助けてくれたんだった。
「おい、大丈夫か?」青白い光が徐々に消えていく…。
「だ、だ、だ、」
「だ?」
「大丈夫な訳ないでしょ、このバカァッ!」
- 525 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:31:15 ID:ocHPLpFh]
- 俺の手の平で声を荒げる女の子。
涙上目遣いで此方を睨み付け、手の上で座り込んでいる。
そう、手の上で…。
「えぇ〜〜〜〜ッ!よ、よっ、妖精ッ!?」
手の上には小さな人間――間違いなく、誰が見ても妖精だ。
しかも、この妖精を俺は知っている。
細い金色の髪に半透明な羽根。三年前、故郷のユードでバレン船から助け出したあの妖精だ。
なぜこんな場所に…?
「ワトソン、静かにしなさい!」
自分の口に人差し指を持っていき、シィーッと俺に黙るよう急かしてきた。
「ワッ、ワトソン?俺のこと?」
「あんたしかいないでしょっ!」
「そ、そうか……まぁ、助けてくれてありがとう。」
俺はワトソンなんて名前ではないのだが……助けてくれた恩人だから、別にいいか。
それぐらい、今は何もかもから解放された気分だった。
――ティーナ?
そうだ、ティーナはどうなった?
「ちょっ、ちょっと!」
ワタワタと慌てる妖精を手の平から岩石の上へと置くと、妖精に向かって頭を下げた。
妖精が不思議そうな目で俺の顔を見ているが、ティーナの元へ行く前にちゃんと礼をしなくては…。
- 526 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:32:22 ID:ocHPLpFh]
-
「すまんッ!助けてくれて本当に感謝している!コンスタンの中央にある広場のすぐ近くに俺の家があるんだ、黄色い屋根が目印だからすぐに分かるはずだ!来てくれたらお礼をするから、暇な時にでも来てくれ!」
それだけ妖精に伝えると、ティーナが居たであろう場所まで走っていく。
たのむから生きていてくれよ…ティーナ。
◆◇◆†◆◇◆
「えぇ、うそ〜ん…。」
走り去るワトソンを背中を見つめ、石の上で立ち尽くす。
「命がけで助けたのに……いや、向こうも私を助けてくれたんだからおあいこなんだけど…。」
何て言えばいいのか……助けたレベルが桁違い…みたいな感じ?
「まぁ、いっか…。恩は返せたし…。」
それに、家の場所だって教えてもらった。
あれは、俺の所に嫁に来いという遠回しなプロポーズみたいなモノだろう。
昔流行った草食系男子か……ハッキリ言葉にしないと分からない事もあるんだぞ?
「仕方ない……行ってあげようか。」
石から離れ、赤いドラゴンが飛びだしていった穴から私も出ていく。
あのドラゴンの熱気で私の綺麗な羽根が少しふやけてしまったが飛ぶだけなら問題は無い。
一日もすれば私の治癒能力で元に戻るだろう…。
- 527 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:33:11 ID:ocHPLpFh]
-
「ふふっ、それにしてもワトソンくん…あんなに頭をペコペコ下げて…あれは間違いなく嫁の尻に敷かれる人間だね。」
まぁ、私のお尻は人間のようにデカくないから問題無いか。
「はぁ、今日は疲れた!暑苦しい聖物とも戦った!よくやった!感動した!」
自分自身を褒め称え、胸を張るが、空ではカラスぐらいしか見ていない。
「あっ、私の武勇伝を広めなければ!」
たしかワトソンくんの家は……インスタントコーヒーの黄色い公園……だっけ?
「……まぁ、いっか。行けば分かるっしょ!」
ふふふっ、ワトソンくんが町に帰る頃には私の武勇伝が町に広がり、小さな女神がこの地を救った事になっているだろう…。
悪いねワトソンくん。
「私が勇者になり、王女になるのよ!」
そうなればワトソンくんを王様にしてあげてもいい…。
いや、下部から徐々に…。
「むふふ〜………ムッ!?」
クネクネと空を飛んでいると、遥か上空から小さな影が此方に目掛けて突っ込んでくるのが視界に入ってきた。
茶色い羽根に白と黒のまだら模様のボディ…尖ったくちばしに鋭い瞳。それに、俊敏なあの動き――。
「あれは……我が宿敵――スズメさん!?」
- 528 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:34:34 ID:ocHPLpFh]
- 普段の私なら一目散で逃げている所なのだが……今の私は違う。
あの、ドラゴンと戦って勝ったのだ。
小さな小鳥如きに臆する私では無い。
「チッ、チ、チ、チッーーーー!」
「さぁ、来なさいッ!私と会ったのが運のツキ!でぃやあぁぁぁぁッ!」
三分後――私は死の境をさ迷う事になる。
- 529 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 21:35:07 ID:ocHPLpFh]
- ありがとうございました、投下終了です。
次から過激になっていくかも。
- 530 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/12(月) 22:15:50 ID:ocHPLpFh]
- すいません>>528の最後に書かれてある
> 三分後――私は死の境をさ迷う事になる。ではなくて
三分後――私は生と死の境をさ迷う事になる。
でした、申し訳ありません。
- 531 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/12(月) 22:34:27 ID:ZLcqRtSn]
- スズメに負けるなwそしてGJ!
次回にも期待
- 532 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/13(火) 18:26:36 ID:h8Bs7ywf]
- GJ!ティーナの命令口調がウザすぎるからとっととライトを失ってぶっ壊れてほしいぜ
- 533 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/14(水) 01:31:59 ID:SWlNW/ye]
- GJ!
強いドラゴンってのはやっぱりいいな
- 534 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/17(土) 11:53:24 ID:eR5RRWAF]
- ssの質がどれも高い!!
- 535 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:01:57 ID:3Sej1wj7]
- 違うスレで誤爆してしまった…。
という訳で夢の国投下しますw
- 536 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:02:49 ID:3Sej1wj7]
-
熱い――肌が焼ける様に熱い…。
身体に流れている血がすべて蒸発しているよう。
たしか私はあの赤いドラゴンの炎と爪にやられて……。
「ティーナ…様…?」
聞き覚えのない声が微かに聞こえた。
女の声だ。
薄目を開けて、声の主を確認する…。
服装から察するに、ノクタールの使用人らしい。
――どうやら、私はあの地獄から生き残ったようだ。
「ティッ、ティーナ様、意識がッ!?お医者様を呼んできます!」
そう声をあげると、パタパタと部屋の扉から外へと走っていった。
慌ただしい女…身体に響くから大声をださないでほしいのだが、今の身体では文句の一つも言えない。
「……はぁ。」
私はどれぐらい意識を失っていたのだろうか?
竜の口からどうやって帰ってきたのか…。
誰が私をここまで運んだのか。
分からないことだらけだ。
「お、意識を取り戻しましたか?」
先ほど使用人が飛び出した扉から男が入ってきた。
白衣を羽織っている所をみると、医者のようだ。
その男のすぐ後ろから使用人が数名姿を現した。
先ほどの使用人もいる。
「ここは…どこだ?」
まず、一つめの疑問を医者へ問いかけた。
- 537 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:04:30 ID:3Sej1wj7]
- 「ここかい?ここはノクタール城内の治療所だよ。君は10日前に重傷を負って運ばれてきたんだ。」
「10日…私は10日も意識を失っていたのか?」
「あぁ、君の部下達がここに連れて来てくれたんだが、運ばれてきた時、流石に助からないと思ったよ。」
笑いながら話す医師を見て、私の怪我が回復に向かっているのだと判断した。
「そうか…感謝する。」
「これが仕事だからね。ノクタールの騎士団副長様となれば私も意地になるのだよ。」
冗談か本気か分からない事を、苦笑いを浮かべ私に話すと、使用人からカルテを受け取り、目を通し始めた。
その間、今までの事を頭で整理することにした。
――竜の口でのあの出来事。
最奥部にいた赤いドラゴン。
あれは間違いなく、ボルゾの類いでは無かった。
信じたくは無いが、神話の生物だと認めざるえないだろう。
そして私達の隊はドラゴンに負けた。
竜の口入り口に残した兵を全員連れて来たら多分…いや、それでも全滅していたであろう。
そう、考えると私の判断は正しかったのか…。
多分私をここまで運んだのは外の兵だ。
私と一緒に中に入った部下達は…。
――ライトは?
「……私の部下達はどうなった?」
- 538 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:05:13 ID:3Sej1wj7]
- ふと、部下達の事が、ライトの事が気になった。
私の意識がある時は、まだ三十人ほど生き残っていたはず。
ライトも怪我を負っていたものの、死ぬ程の怪我では無かった。
まさか、生き残ったのは私だけ…?
その言葉が脳裏を過った瞬間、背筋が凍った。
「……ノクタールへ帰って来た騎士団は貴女を含め、62名。
その中の12名は大怪我を負っていて、貴女ともう1人は現在も治療中。
2名は今朝治療の甲斐無く、息を引き取ったよ。他の8名は……自ら死を選んだ………簡単に言うと、自殺だね。」
「自殺…」
「大きな恐怖に精神がやられてしまったんだろうね…。」
恐怖…ならしかたない。
あれの圧力に耐えれる人間は多分、稀だろう。
私も恐怖に飲み込まれてしまった。
普通の神経なら間違いなくトラウマになる。
となると、洞窟に入って助かった人間は私と今別に治療を受けている部下の一人だけと言うことになる。
50人中、二人だけ…か。
全滅となんら変わりない。
多分、もう一人の助かった人間はライトだろう…。
「もう一人助かった人間と言うのは…どれだけ酷い怪我なんだ?」
- 539 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:06:10 ID:3Sej1wj7]
-
「もう一人?あぁ、火傷は一切無かったから切傷だけだよ。それでも3ヶ月は動けないけどね。早く家族の元に帰りたいと嘆いていたよ。」
「家族?……ライトに家族はいないはずだが?」
ライトの母は昔にボルゾの手によって殺されている。
父なんて顔も見たこと無い。
それに、ノクタールでその様な事を口にする意味が分からない。
「ライト?誰だいそれは?」
不思議そうにカルテから目を放し、医師が私に問いかけてきた。
「もう一人の助かった部下の名前だッ!」
痛む身体をベッドから持ち上げ、医者を睨み付ける。
そう、助かった部下はライトなはずだ。
私の部下で一番優秀なのは間違いなく、ライト。
私の次に助かるとしたら、ライト以外ありえない。
「助かった部下はルドルフと名乗っていたが…」
「なっ、嘘を言うなッ!ライト・レイアンが助かった部下の名前なはずだッ!!!」
私の身体に繋がっているチューブを引き抜き、医師へと詰め寄る。
「何してるんだ!皆、取り押さえろ!」
医師の胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが、他の医師達に押さえ込まれ、ベッドへ戻された。
- 540 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:07:05 ID:3Sej1wj7]
-
「放せッ、私が誰か知らないのかッ!お前らの戯言はもういい!命令だ、ライトをここに連れてこいッ!!」
「危なっ!」
押さえ込む医師達を蹴り飛ばし、ベッドから転げ落ちる。
「だ、大丈夫ですかティーナ様ッ!?」
地面にぶつかる寸前、使用人達が庇ってくれたようだ。
しかし、今の私にはそんな事にまで頭が回らなかった。
「ライトをっ、私に殺されたく無かったら、ライトを私の元に連れてこい!今すぐだッ!」
「キャッ、ティーナ様!痛いですッ!!」
近くにいた使用人の髪を掴み、耳元で怒鳴り付ける。
痛そうに私に掴まれた髪を押さえている。
私の声が耳に届いていないようだ。
なら――。
「ティーナ様ッ!ライト様は今、パレードの真っ最中ですッ!!!」
別の使用人が震える声をあげ、髪を捕まれている使用人に寄り添った。
自然と使用人の髪を掴んでいた私の手の力が抜ける。
「パレード?なんのパレードだ。」
泣き出した使用人を無視し、寄り添った方の使用人に問いかけた。
「ドラゴンを倒したと言うことで…王様からティーナ様の隊への褒美として、城下町のコンスタンでパレードを催してくださったそうです。」
- 541 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:08:10 ID:3Sej1wj7]
- 「ドラゴンを倒した……あのドラゴンを倒したのかッ!?」
あり得ない…誰が倒したのだ?
あのドラゴンは人間が倒せる様な相手では無かった。
「私はライト様がドラゴンを倒した…って聞きましたけど。コンスタンの町も城内もその話で持ちきりですよ。
それにティーナ様をこの城まで連れて来たのもライト様です。」
「ライトが、ドラゴンを倒した…のか?私を助けたのもライト……」
あの、ライトが…。
「くく、はは、は…あっはははは!」
「ティ、ティーナ様?」
地面に横たわり笑い狂う私を見て周りの人間が奇怪な表情で顔を見合わせている。
「馬車を用意しろ!今からコンスタンまで行く!」
「な、何言ってるんだ!今意識を取り戻したばかりなんだぞ!?無茶なy「黙れ!命令だ、さっさと持ってこい!」
やはり私の思った通りだ。
ライトは私の傍でないと力を発揮しない。
ライトは私が居ないと、ダメなのだ。
だから私を助けたのだろう。私を手放したく無いのだ。
それにドラゴンを退治する程の能力を持ち合わせている。
まさしくライトは私だけの“モノ”として産まれてきたのだ。
この出来事でライトの地位は上がるだろう。
- 542 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:09:58 ID:3Sej1wj7]
-
一つの隊を任せてやってもいい…。
私の目が届く範囲でライトに少しの自由をやろう。
生き物なのだからストレスを溜まらない様にしてやることも主人の務め。
「ついでに下の世話もな……ふふっ。」
――それが今回の褒美。
ライトの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
◆◇◆†◆◇◆
「凄いわね!英雄よ英雄!」
「あぁ、こんな事になるなんてな…」
――キャー、ライト様ー!
――こっち向いてー!!
「ははっ…。」
――キャー、私に手を振ってくれたわ!
――私に振ったのよ!
黄色い歓喜の声を四方八方から全身に受け、笑顔で手を振る。
コンスタンに住む人々、15万人が人の道となって我々騎士団に声援を贈っているのだ。
多分一生に一度の出来事だろう…。
「ふふ〜ん、私のおかげだね?ワトソンくん?」
甲冑の隙間から小さな顔だけをひょこっと出して、にやける生物。
「そうだな、ありがとう。」
しゃくだがこの小さな生物の言うように、コイツに助けられたのだから文句は言えない。
小さな人間の身体に半透明の羽根……竜の口で助けてくれた、金髪の妖精だ――。
- 543 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:11:35 ID:3Sej1wj7]
- 10日前、竜の口からノクタールへ戻って来た時、妖精も俺達の後を着いて来ていたらしく、騎士団が解散した後に妖精から話しかけられ、再会する事ができたのだ。
竜の口で会った時は無傷だったのだが、何故かノクタールで再会した時、血だらけでフラフラと空を飛んでいた。
話を聞くと、千のドラゴンと戦って負傷したらしい。
名誉のキズだと絆創膏一枚を身体に巻き付け、ふんぞり返っていたが、不思議な事に次の日になると傷は綺麗に治っていた。
なんでも治癒の力があるらしく、本来ならティーナと同じ様に診療所のベッドで横になっていたであろう俺の肋骨の骨折や火傷も2日で治してくれた。
だからこうして人前で笑顔を浮かべ、馬に股がり手を振っていられるのだ。
「本当なら私が勇者の様に慕われるはずだったのにさぁ。」
「だから、無理だって。皆妖精なんて見たこと無いんだから。」
今この場所で妖精を連れているだけでも大問題なのだ。
家で待ってろと言ったのに「私を連れていかないと、えらいことになる」と脅され仕方なく参加させる事になってしまった。
参加と言っても皆の目に留まる事は無いのだが、本人が喜んでいるから別に問題無いらしい。
- 544 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:12:24 ID:3Sej1wj7]
-
勇者どうこうより、ただ祭ごとに目が無いだけかも知れない…。
「出店もいっぱいあるわね!ワトソン、甘いものが食べたい!」
「今は無理だから後でな。」
「ぶぅ〜ッ。」
頬を膨らませ、此方を睨んでいる。
膨れられても、主役である我々騎士団が抜ける訳にはいかない。
わざわざ王様が催してくれたのだ、途中で抜ける事なんて絶対にできない。
それを知ってか知らずか、妖精は甲冑の隙間で食べたい、食べたいと駄々をこねてジタバタと暴れている。
「はぁ…ちゃんと後で買ってやるから。静かにしてくれよ妖精。」
「私の名前は妖精じゃなくて、ティエルよ、ティエル!何回言えば覚えるのよ!」
「いや、今初めて聞いたんだけど…。」
この妖精に名前なんてあったのか…。
会った日から妖精…ティエルから話しかけられる事が多かったので、名前を知らない事に違和感を感じなかった。
「そうだっけ?まぁ、いいわ…。早くこのけったクソ悪いパレード終わらないかしら?」
先ほどまで、あれだけ騒いでたのにもう飽きたようだ。
子供の頃に絵本で見たが、妖精は悪戯好きの飽き性、尚且つ自由奔放だと言うのは本当らしい。
- 545 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:12:59 ID:3Sej1wj7]
-
姿が姿なので可愛げはあるのだが、10日間この調子だと流石に疲れてきた。
それに、何故か当たり前の様に俺の家に住み着いているのだ。
理由を聞くと、俺がどんな人間なのか見極めるから一緒に住むらしい。
ただの人間だと伝えたのだが「キミの溢れて出るパッションが私を放さないのよ!」と訳の分からない事を豪語し、俺の家の食材を漁る日々を送っている。
「ねぇ、私飽きたからちょっと散歩してきていい?」
「あぁ、いいけど絶対に見つかるなよ。」
胸と甲冑の隙間から飛び出したティエルは、俺の方に一度大きく手を振ると、颯爽と何処かへ飛び立ってしまった。
歩いてないんだから散歩じゃねーだろと思ったが、口にだすのは無粋だろう。
「ふぅ…これで悩みが一つ消えたな。」
この場所で妖精の存在がバレるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、これで少しの間大丈夫。
多分夕方ぐらいまで、何処かで遊んで帰ってくるはず。
10日間でティエルの行動パターンは簡単に把握できた。
朝、食事する。
↓
昼まで遊び、昼食をとる。
↓
夕方まで遊び、夕食をとる。
↓
夜遅くまで遊び、夜食をとり、寝る。
これの繰り返しだ。
- 546 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:13:43 ID:3Sej1wj7]
-
たまに騎士団の仕事に着いて来ては悪戯をするけど、支障をきたす程では無いのでティエルのしたいようにさせている。
「それにしても、ティエルの言う通りだな。」
ため息を吐き捨て、周りを見渡す。
先ほどから周りの民衆から英雄、英雄、という声が飛び交っている。
英雄とは俺の事だろう。
自意識過剰では無く、丁重にも俺の名前を言いながら英雄と叫ぶのだから、間違いなく俺の事だ。
事実はドラゴンを倒したのでは無く、住みかを替えただけで命拾いしたのは俺達騎士団の方だと言うのに…。
「早く終わらないかな…これ。」
正直、初めは英雄と言われて浮かれてた部分があったかも知れない。
だけど、話がここまで大きくなると自分には荷が重いのだ。
王様や王妃と対面できたのは嬉しかったが、やはり堅苦しい場所は苦手だ…。
それに、今こうしてる間もティーナは意識不明の重体。
一刻も早くティーナの元へ行きたい。
騎士団の中では密かにティーナが死んで居なくなった後の話まで出る始末だ。
お偉い方達は俺を副長に持ってきたいそうだが、そうはいかない。
騎士団の副長を平民が務めるという、庶民性を周りの人間達に見せて支持を得ようとしているのだ。
- 547 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:15:03 ID:3Sej1wj7]
- 有名な騎士団の名前を逆手に取った政治とでも言おうか…。
政治世界では良くある事なのかも知れないが、政治を良く知らない俺からすれば汚れている様に見えてしまう。
まぁ、どの国でも黒い部分はあると言うことだ。
――ライト様ー!
「ははっ、ありがとう!」
悩んでいても仕方ない。
今はこのむず痒さを深く考えずに楽しもう。
◆◇◆†◆◇◆
「あの、副長様…これ以上先は…」
「ここで止まれ。」
「は、はい。」
馬車を走らせる御者に向かって停車を命令する。
これより先へは人の壁で進む事ができないのだ。
道沿いに人の壁が列なっているので、この場所を私の隊が通るのだろう。
人混みの熱気や、皆が向ける視線の方向を察するにまだ通っていないはず。
ここで待てばライト達が姿を現すだろう。
「ティーナ様、人混みに混ざっては御体に悪影響です。馬車の中から見られては…。」
「大丈夫だ、お前達はここで待機しろ。」
止める使用人を振り切り、松葉杖を片手に馬車から降りると、民衆同様、人混みの中へと割り込んだ。
一人一人、待ちきれないと言った感じでざわついている。
色々な会話が飛び交っているが、どれも騎士団にまつわる話ばかりだ。
- 548 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:17:56 ID:3Sej1wj7]
- その中でもよく聞こえてくる聞き慣れた名前があった。
――ライト・レイアンってどんな人間なんだろ?
――さぁ、ドラゴン倒すぐらいだから大きいんじゃないの?
――それが可愛らしい男の子みたいよ?
――私ライト・レイアン様見たことあるわよ!細身の男前って感じで優しそうな雰囲気だったわ。
――なんでも平民出らしいわね。貴族なんかじゃなくて良かったわ。
――そうね、庶民の私達も鼻が高いわね。あ〜、早く見てみたいわぁ〜、ライト様――
ライト、ライト、ライト……周りから聞こえてくる声に私は自然と笑っていた。
私が育てたライトがここまで有名になってくれたのだ…。
百年前の初代騎士団長以来の快挙…ドラゴン殺し。
現団長のアルベルでも勝てたかどうか…。
これで我々騎士団にもまた箔がつく。
そして、また一段と強固な盾となって私を守るだろう。
――「来たぞ!」
一人の男が声をあげ、坂道の上を指差した。
男の声に反応した民衆が一斉に坂の上へと目を向けた。
――きゃああぁあああ!ノクタール騎士団よ〜!
――おぉおぉぉぉぉ!ノクタール騎士団最高ぉ〜!
悲鳴に似た歓喜の声が所々で聞こえてくる。
- 549 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:19:39 ID:3Sej1wj7]
- 皆が手を挙げ、ノクタール騎士団の名誉に酔いしれている。
自分自身の名誉のように。
騎士団が道を通る直前、民家の窓から花びらが撒かれると、綺麗な花道が完成した。
花が撒かれた道を進み、ゆっくりと此方に向かってくる仲間達。
皆、堂々としている…。
「……(なんだ…?)」
――ふと、私の脳裏に分かりきった疑問が過った。
何故、私はあの場所にいないのだろう?。
分かっている――私は今まで意識不明だったのだ。
だからライトと肩を並べるなんて事は無理だ。
――何故、無理?
言いようもない矛盾した気持――自然と孤独な“何か”が津波の様に押し寄せてきた。
「あの、前にいるヤツがライト・レイアンなんじゃねーの?」
「あぁ、あの子よ!可愛らしい顔してるでしょ!」
「本当に細身ね〜。あんな身体でどうやってドラゴン倒したんだろ?」
「騎士団の中でも頭がかなり働くヤツらしいからな。武器は力だけじゃないって事だな。」
「そんな事どうでもいいわよ!きゃ〜、ライト様こっち向いて〜!」
女性の声に反応したのか、ライトがこっちに目を向け手を振った。
「きゃ〜!見たッ!?私に手を振ってくれたわよ!」
- 550 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:23:19 ID:3Sej1wj7]
-
「私に振ったのよ!」
「私に決まってるでしょ!」
目の前で小さな小競り合いが起きるが、それを無視してライトに目を向ける。
「……」
こんな人混みの中じゃ、絶対に私に気がつかない。
――そんな事は分かってる。
………分かってる。
「ラ、ライト!」
いつの間にか、私は大きく左手を挙げてライトに手を振っていた。
「ここだ!ライト、私は此処に居るぞ!」
必死に手を挙げ、ライトの名前を叫ぶ。
しかし、民衆の声が地響きの様に地面を揺らし、私の声をかき消した。
「ライトッ、ライト!」
何度呼んでもライトは私に気がつかない。
おのずと私から離れていくライト達――。
「待て…待てライト!私の命令が聞けないのか!」
足をズルズルと引きずり、松葉杖を片手に、人混みをかき分け、ライトの後を追う。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
なぜ、私は必死になってライトを追いかけているのだろうか?
「ライトッ怪我はすぐに治るぞ…はぁッははっ、もう、はぁ、大丈夫だッ!」
笑顔を浮かべ、周りに手を振るライトの後ろ姿を見て、何故か危機感を覚えた――。
「はぁ、お前は私がいないとダメッ、だからな…はぁ、はっ、ぁはは!」
- 551 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:24:24 ID:3Sej1wj7]
- ライトが私から離れていく――。
「だから私も!」
繋がれた鎖など始めから存在しなかったように、ライトは私の元から意気揚々と去っていく…。
あれだけハッキリと見えていたのに…。今は私の手には何もライトと繋がるモノが無い…。
「一緒にッ、一緒につれてい――ッ!。」
口から出てしまった私の心の叫びも虚しく、ライトは私に見向きもせず、私の前から消えていった。
――お前など必要無いと私自身に見せつけるように…。
- 552 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:24:58 ID:3Sej1wj7]
-
「…ぁ…あ…」
何万人もいる人混みの中、私は弱々しく膝から崩れ落ちていた。
私に気がつく者は誰一人としていない。
ただ、私の周りの空間だけ削り取られたように、歪んでいた。
「なん…?」
ふと、頬に流れる冷たいモノを感じた……手で頬触れ、冷たい原因を確かめる。
「……(私は…泣いているのか?)」
何年ぶりだろう…涙を流したのは。
幼少の頃も泣いた記憶が無い。
泣いた記憶が無いのに、涙の理由は簡単に発見できた。
…そして理解した。
盾の存在は私の力を大きく飛躍させ、心を人一倍弱くさせたのだ。
心の奥底に沈んでいた一つの感情が、盾に守られた瞬間からそれに頼り、目覚めてしまった。
そう――忘れていた“哀”という感情が、心の奥底から溢れ出し、私を酷く優しく包み込んでしまったのだ。
責める事なく、優しく…酷く…優しく…。
- 553 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/18(日) 22:26:07 ID:3Sej1wj7]
- ありがとうございました、投下終了します。
- 554 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/18(日) 23:00:29 ID:JmiofREP]
- GJ
- 555 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/19(月) 01:15:03 ID:dPFx6HF6]
- gj
- 556 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/19(月) 10:15:26 ID:mpGHwphK]
- ティーナの傲慢が、そのまま依存に変化しそうだw
次回にも期待GJ!
- 557 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/19(月) 23:45:05 ID:njYtkDm4]
- Gj
心情の推移描写がイイネ。簡潔にまとまってて分かりやすい
- 558 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/20(火) 21:57:56 ID:OdUmCxGh]
- GJ
あんなに強かった副長が、とりあえず生きてて良かった!
- 559 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/21(水) 22:35:34 ID:531d3THW]
- 濃い
- 560 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/22(木) 01:33:57 ID:N/hKYARk]
- GJ
ゼロ魔でサイトが英雄になった時を思い出した
- 561 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:11:05 ID:O39o2frD]
- 仕事が忙しくてなかなか投下できなかったけど投下します。
>>425の続き
- 562 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:13:11 ID:O39o2frD]
- 落ち着くために一度深呼吸して、店内に入る。 やや重い扉を開けると、よく効いた冷房が歓迎してくれた。
熱く火照った身体と頭を少しだけクールダウンさせてくれる文明の利器だ。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
慣れた口調でバイトの女性が人数を聞いてくる。
「後から一人くるから二人」
ぶっきらぼうに服装から見られるイメージを意識して答える。
普段の近藤恭介の姿を見せないように。 よく考えたら何回かこの店には来た事あるのでバイトのこの女性にも気づかれないようにしないと。
「かしこまりました。おタバコはお吸いになられますか?」
店員の質問に少し考えるフリをしながら優香達を探す。
居た。 窓際の真ん中の席だ。 都合のいいことに周囲のテーブルは空いている。
「吸わない。それと連れがわかりやすいように窓際がいいんだけど?」
これまた不機嫌そうに答え、なおかつ窓際の席がいいと要求する。
「は、はい…ど、どうぞご自由に」
態度が悪すぎたんだろうか?少し引きつった顔の店員さんが答える。
う〜ん、少しやりすぎたか? 後で何かしらフォローをしておかないと……でも一体何がいいんだろう?
どうも俺は東田のように人を楽しませる才能が無いものだから、こういうときどうすればいいのかわからないな。
- 563 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:13:50 ID:O39o2frD]
- そんなことを考えながら俺は優香達の横を通って、彼女らの後ろの席につく。
背中合わせで後ろに居るのは優香だ。
今日の目的を達成するためには彼女の近くにできるだけいなければならない……
それに、付き合いの長い優香ならば俺の変装を見抜く可能性はゼロではないのだから、
なおさら彼女の後ろにいた方がいい。
運ばれてきた水を一口のみ、お絞りで軽く手を拭いた。
さてと二人の会話を盗み聞きしようとするか。
「……それで、今度の練習なんだけど」
「う、うん……それでいいと思うよ」
「わかった!それで行こうか……これでやっとどういう風に演技していけばいいか決まったよ〜、本当にありがとう瀬能さん」
「そ、そんなことで、あ、頭下げなくていいよ〜」
「いや、本当に助かってるんだよ、なにせ今回は演出も自分達で考えていかなければならないだもんな〜超素人の俺じゃ上手いこと考えられるはず無いもんよ」
「で、でもひ、東田君の意見……も、よ、よかったよ」
「そ、そうかな?なんか嬉しいな、そう言われると……でもよく一人で来る気になってくれたね……てっきり今日は来ないかと覚悟してたんだけどさ」
「えっ?……う、うん、その今日は……特別だか……ら」
「特別?何が特別なんだい?」
「ううん……なんでもないの」
「そ、そうか……なんでもないんだ。そ、そういえばさ〜……」
- 564 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:14:31 ID:O39o2frD]
- やがて時間が立って優香達が席を立つ。 結論から言えば何の益も無い無駄な時間だった。
東田は相変わらずの秀逸なトークで優香を笑わせてはいたが、雑談の粋を出ていない。
ようするにただの高校生の友人同士の会話をしていただけだ。
一方優香も東田のトークにそれなりに反応し、笑ってはいたが、やはり壁を間に挟むようなそんな少し隔絶した対応だった。
上澄みだけを飲み込んでいるようなそんな薄っぺらい会話だ。
せっかく邪魔者である俺が居ないというのに、居るときと変わらない会話をする両者に若干の怒りと
期待するような情報を得られなかったという徒労をいまコーヒーを飲みながら全身で感じている。
仕方が無い、よく考えてみたらそんなすぐに求めているような情報が手に入るはずがないのだ。
どうも優香を罠に嵌めたあの日から物事が比較的上手く言っているので過剰な期待をしてしまっていた自分に気がつき少し顔を赤らめる。
全く何をやっているんだか……我ながら。
- 565 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:15:05 ID:O39o2frD]
- 多少の自嘲を混めた息を吐き、さてこのコーヒーを飲み終えたら帰ろう。
優香にメールをして、おそらく東田からも来るだろうが、それは適当に返事を返しておこう。
最後のドロリとした特に濃縮されたカフェインの塊を飲み込んでカップをテーブルに置き、さて出ようかと腰を上げかけたところでふと気づく。
目の前に誰か座っているのだ。 いや目の前なのだから当然その誰かの顔と身体はみえているのだが、やはり誰かなのだ。
つまり、全く、身も知らない、見たことも無い、女性がそこには座っていた。
長く美しい髪をさらりとおろし、陶器のように白い肌をしていて涼しげな瞳をしたその女性は困惑する俺をまっすぐ見つめ、
「こんばんわ……恭介君」
ニコリと笑う。
「…………」
俺は無言で目の前に居る女を見る。
- 566 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:15:29 ID:O39o2frD]
- そして記憶を反芻し、決して多くない女性の知り合いの顔を次々と思い出してみるが誰にも当てはまらない。
一体……誰なんだ?この女は……。
「……わからないって感じね、その表情は」
凛とした瞳と同じような涼感を感じるその声で彼女はゆっくりと口を開く。
「安心していいわ、あなたとこうやって会うのは始めてよ」
「…………そうですか」
ポツリと返事だけを返す。
突然現れた女はどうやら自分のことを知っているようだ。 だがこちらは向こうのことを知らない。
張り詰めた空気を壊すように店員がやってきて水とおしぼりを置いた。
「コーヒーを一つ……砂糖とミルク無しで」
簡潔に注文を済ませ、店員がテーブルから離れる。
「………………」
「…………………」
何も言わない。 お互い何も言わない。 女は注文を済ませた後はただ俺をじっと見つめ、たまにニコリと笑う。
- 567 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:16:16 ID:O39o2frD]
- 嫌な笑いだ。 凄く綺麗で…誠実で…何の雑さも無い完璧な笑顔をし、それがゆえにその微笑が機械的に動かされた筋肉運動であるのが見て取れた。
つまり女は笑っていないのだ。 表情は慈愛に満ちて笑っているが、その実、腕の良い彫刻家にあるいは人形師に作られた芸術品のような笑みの形をしているだけだ。
得体の知れない人間と向き合って平然と居られるほど俺は度胸のある人間じゃない。
というかむしろ対極にいるような存在が俺自身である。 心中で震える臆病な自分自身を必死でなだめ、また少しでも落ち着こうと目の前に置いてあるカップに手を伸ばし口元に持っていく。
「クスッ」
さっくりと小さく切り裂くような笑いを目前の女が上げる。
「もうとっくに飲み終わってるんじゃないかしら?」
「えっ?あっ……」
そうだった、優香たちの会話を盗み聞きするためにチビリチビリと飲んでいたコーヒーはすでに飲み終えていたのだ。
動揺を宣言するようにカップを持つ手が震えるが、やや乱暴にカップをテーブルに置く。
ガチャンと大きい音が響いたが、カップは割れていない。 ただ音に驚いて周囲に座っていた客と近くに居たウエイトレスが一斉にこちらを見る。
- 568 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:17:18 ID:O39o2frD]
- 「失礼しました」
立ち上がって周囲に軽く頭を下げると彼ら彼女らはゆっくりと日常に戻って目前の話と仕事を再開し始める。
その彼らがうらやましくなるほどに俺と彼女の話は全く進んでいなかった。
というより話の内容どころかどんな話をするのかさえ知らないのだから困ってしまう。
だが彼女がこうして俺の前に来たことと、こちらの反応を観察するように見る女から察するに余り良い話ではないだろう。
なぜならこの女の視線には侮蔑と嘲笑、若干のからかいの感情がある。 そしてその対象は明らかに俺なのだから。
「お待たせしました」
少し間延びしたような印象を受ける眼鏡のウェイトレスが女の注文したコーヒーを運んで来た。
「彼の分も貰えますか?待っている間に飲み終えてしまったようだから、砂糖とミルクは……砂糖が二つでミルクは一つでいいわね」
俺のカップを見て勝手に注文をする。
その態度は何かドジな彼氏を持つしっかり者の年上の彼女という役割を演じているようで内心不愉快だった……が、しかし実際に向こうが
話を切り出さない上に間が持たないのであえて特に何も言わずにいることにする。
「……………」
「……………」
また沈黙が始まった。 俺の焦れとは裏腹に女はまるでこちらが居ないかのように静かにコーヒーを飲み始めてしまう。
- 569 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:18:14 ID:O39o2frD]
- 「それで一体……」
何の用?という前に女が素早い動作で俺の唇に指を持ってきて優しく触れる。
その行動に呆気に取られて黙ると、
「用件はとりあえずあなたの分が来てからにしましょう?話の途中で誰か来られるの嫌いなのよ」
言葉を途中で止められてしまったせいか有無を言わさないその雰囲気に推されたのか俺は無言で椅子に座りなおす。
そして沈黙がまた始まった。 女は相変わらずの落ち着きようで静かにコーヒーを飲む。
そして俺はその仕草を見ながらゆっくりと心を落ち着かせていた。
いきなりの奇襲からずっといまに至るまでこの女にずっと押されている。
無駄な会話はしたくはないがこのまま押されっぱなしというのもなんというか情けないし
何より理屈ではないがこの女とは用心してぶつからなければならないという気がするのだ。
「よしっ!」
小さく気合を入れ、大きく息を吸い込んで……吐き出す。
動揺を示す指の震えは……止まった。
ハイペースで動いていた心臓の鼓動もいつもどおりに戻った。
そして何より焼きつきかけていた脳内がゆっくりと冷却され、落ち着きを取りも度すことも出来た。
「少しは落ち着いたかしら?」
平常運転に戻ったところを奇襲するように女が悪戯っぽい目で俺に問いかけるが、その視線を軽く受け逃して、
「別に……」
サラリと返す。
返事は必要最低限に、相手の目的も正体もわからない以上、大げさに反応するのは避けるべきだ。
「なんだつまんないの……もう落ち着いてしまったのね」
見た目と反比例するような子供びた言い回しも俺の警戒をとくことは出来ない。
というかこいつはわかっていてこういうことをしてくる人間だ。
おそらくは優香や東田と同じような人種だろう。 もっとも二人とは違う何か恐怖を感じるが……。
- 570 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:19:15 ID:O39o2frD]
- 「それにしても……」
「お待たせしました」
タイミングよくコーヒーをウエイトレスが持ってきた。
感覚をずらされたのか女が黙り込む。 コトっという音を立て、コーヒーを置いてウエイトレスは去っていった。
「……それで話ってのはなんなのさ」
やや気まずい雰囲気を脱して主導権を取るためにこちらから話に切り込む。
「……何の話をしていたかしら?」
ちっ、とぼけやがって……。 俺の意気込みを無視するように女がとぼける。
「話が無いなら帰らせてもらいたいんだけど?」
「あら残念ね、私としてはもう少しお話したいんだけど?」
茶番としか言えないような会話に内心で苛立って気づかれないように奥歯を噛みこむ。
全くお笑いだ。 このまま帰ることなんて出来るはずが無い。 間違いなくこの女は何か企んでいる。
それが何なのか、そして女の正体の一端でも掴まなければ帰宅することなんて出来るはずがないのだ。
だがそれを見せてしまえば足元を見られる。 おそらく女も同じように思っていて、だからこそこんな惚けた態度を取っているのだろう。
俺の焦りを女は知っている。 だが俺も女がこうして帰らせたくはないことには気づいている。
当然だ。 わざわざ奇襲するように登場しておいて何の話もせずにただ帰すはずが無い……互いに手綱を握ろうとしているがゆえに
俺達は席を立つこともせず、口だけで虚しく?を言い合ってただただ愚かに時間を浪費している。
我慢比べにも、チキンレースにも似た馬鹿らしい意地の張り合いを繰り返している自分達の愚鈍さを笑うことも出来ずに二人は無表情でにらみ合っていた。
- 571 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:20:18 ID:O39o2frD]
- このまま無意味な消耗を続けあうのか? と俺がゲンナリしたところで店内にメロディーが響き渡る。
少し前に流行った歌のメロディーだ。 優香がその歌が好きで口ずさんでいたのを思い出す。
そのメロディーは目の前に居る女から流れてきていて反応するように彼女がポケットの中から携帯を取り出す。
どうやら電話かメールが届いたようだ。 差出人の名前を確認したところで女がニヤリと小奇麗な顔を歪ませて笑う。
- 572 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 02:21:14 ID:O39o2frD]
- 今日はここまで、出来次第投下します。
腰痛と仕事の忙しさはありますがなるべく早く続き投下します。
- 573 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/23(金) 02:23:06 ID:O39o2frD]
- 新作はこれが終わってから投下します。
おやすみ
- 574 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 05:53:14 ID:DboKc7UR]
- 混沌としてきたね、最高だw
次回にも期待GJ!
- 575 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 17:16:40 ID:i5disvkg]
- gj!
- 576 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/23(金) 17:23:27 ID:eKRT9xv9]
- GJ
- 577 名前:名無しさん@ピンキー [2010/07/25(日) 20:10:35 ID:tNJ6B47R]
- 解
- 578 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/27(火) 02:51:55 ID:Wwc/rNuC]
- 保管庫更新まだー?
- 579 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/27(火) 18:08:20 ID:9EmQ8f+G]
- この女は何者ニダ!実姉って感じはしないんだよな。
- 580 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:11:50 ID:lovo9P7H]
- 夢の国投下します。
- 581 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:12:36 ID:lovo9P7H]
-
幼少の頃、ユードの教会裏にある花畑で、海を見るのが私の日課になっていた時期がある。
広い海――世界の八割は海だと言われているが、私が見ている海は世界の何パーセントなのだろう?
子供の癖にそんな達観した考えを持っていた私は、いつも小さな町、ユードから出る事だけを考えていた。
ライトとホーキンズを従え、町を練り歩く…。
それぐらいしか楽しみが無かった。
それも年を重ねるごとにつまらなくなって15歳を迎えた時、私はユードを出ていく決心をした。
ノクタールへ行く商人船へと忍び込み、コンスタンへと渡った。
民兵となり、その年で行われた大会ですべての出場者を斬り捨て、私をアピールした。
その時、将軍であるアルベルの目に留まり、晴れてノクタール兵へとなれたのだ。
これを踏み台にし、私の名を世界へ広めるはずだった…。
ノクタール兵になって一年――私の心は酷く疲かれていた。
頼る者がおらず、一人ですべてをこなした。
夜中、私を襲いにくる輩を追い払うため、剣を胸に抱きしめ眠りにつく。
絶対に負けない――私は誰よりも強い。
自分自身に言い聞かせるが、頭に浮かぶのは故郷の事ばかり。
- 582 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:13:33 ID:lovo9P7H]
- 私の家はどうなったのだろうか?
ホーキンズはちゃんとパンを焼く事ができるようになったのだろうか?
……ライトは元気にやっているのだろうか?
剣は上手くなったのだろうか?
ちゃんと自分で料理して食べているだろうか?
そんな事ばかりを考える様になり、我慢できなくなった私は船に飛び乗りユードへと向かった。
久しぶりの故郷…一年程度では何も変わらない。
ただ、懐かしく感じた。
真っ先にライトが住む家へと向かった。
そして一年ぶりにライトと会った時、懐かしさより違和感を感じた。
そう――ライトは何も変わったいなかったのだ。
この一年間、私は死に物狂いで剣を振り続けた。
大怪我した事も何度だってある。
その一つ、一つの傷が身体に刻まれているのだ…。
消えない傷が…。
それなのに、ライトはのほほんと平凡な日常を堪能していた。
それが何よりも許せなかった。
――お前は、私がいない間、何をしていたんだ?
その問いかけにライトが答えた。
――俺は別に普通だよ。
普通――私が一番嫌いな言葉だった。
- 583 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:15:10 ID:lovo9P7H]
- その日、私はライトに剣の勝負を申し込み、圧勝した。
地面に倒れるライトに、私と一緒にノクタールへ来るよう伝える。
返答は――拒否。
私はライトを斬り捨て、その場を去った。
ライトを諦めたのだ。
腐っても幼馴染み――命をとる事はせず、花畑に捨てた。
神父が拾うだろうと考えたからだ。
それから一年、私はノクタール王に認められ、初の騎士団女副長としてノクタールの強固な壁の一部となった。
そう……今の私がいるのは、私自身誰の手も借りずに戦って来た結果なのだ。
今では他国にも私の名が知れ渡っている。
盾なんて必要無い、剣さえあれば誰にでも勝てる…。
しかし、私は剣を両手で握る事を辞め、諦めていた盾を欲した。
絶対に私を守る盾を――。
そしてその盾は私の理想の盾となり、私の心をも満たした。
――しかし、そんな理想の盾に誤算が起きてしまったのだ。
それは、盾が私に不安と安らぎをもたらしたこと…。
近くになければ落ち着かず、剣を抱きしめ寝ていた私は、次第に盾を抱きしめて眠るようになっていた。
今では少し後悔している……盾を手に入れた事に。
だが、手放す事なんてもうできない。
- 584 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:16:09 ID:lovo9P7H]
-
なぜかと言うと、その盾の重要性を知ってしまったのだから…。
盾と剣は二つで一つ。
そう――盾は主の元へ――。
◆◇◆†◆◇◆
夕方、パレードが終わり皆がバラバラと帰宅する中、俺は一人ある場所へと向かっていた。
何度来ても慣れない通路……場違いだと自分でも分かるのだが、ここを通らないと目的地までいけないのだ。
そう…目的地は宮廷内にあるティーナの部屋。
ティーナが意識を取り戻したと使用人の一人から教えられたのだ。
なんでも、意識を取り戻してすぐにコンスタンへ俺達を見に来たらしく、パレードが終わり次第、俺をティーナが待つ部屋へと連れてくる様に命令されたらしい。
意識を取り戻してすぐに歩き回るティーナの体力に驚かされたが、俺が思っていたほど重傷では無い事を知り、内心嬉しかった。
――こんっ、こんっ。
「ティーナ副長、ライト・レイアン只今参りました。」
仕事用に頭を切り替え、ティーナが待つ部屋の扉をノックした。
「……入れ。」
聞き取りづらい声だったが、間違いなくティーナの声だった。
にやける顔を手で戻し、ゆっくりと扉を開けた――。
「遅かったな、ライト…。」
- 585 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:16:42 ID:lovo9P7H]
- 窓から入る夕焼けの光に照らされたティーナが目に飛び込んできた。
久しぶりに動いているティーナを見た気がする…。
俺が室内へ入ると、ベッドに掛けていた腰を持ち上げ、此方へと歩み寄ってきた。
あれだけ綺麗な長い髪が、肩で切り揃えられている。ドラグノグの炎で焼けてしまったのだろう…寝ているティーナの髪を使用人が切ったようだ。
衣服の隙間から包帯が見え隠れしている…多分衣服の中も包帯が巻かれているのだろう…。
よく、これだけの傷で死ななかったものだ。
「ライト……お前剣はもっているか?」
「剣?持ってるけど…」
目の前に立つティーナが俺の目を見据え、呟く。
よく分からないが、一応腰に装着してある剣をポンッと叩き、剣の存在を教える。
「そうか……剣を抜いて構えろ。」
「はっ?」
剣を抜け?
いきなり何を言い出すんだ?
「まさか、ここで試合でもするつもりか?」
笑いながら、冗談を言ったつもりなのだが、ティーナは違ったようだ。
此方を濁った目で見つめ、何かをブツブツと小さく呟いている。
この時、初めて危機感を覚えた。
腰から剣を引き抜き、前へかざす。
- 586 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:17:56 ID:lovo9P7H]
-
――ガキンッ!!
すると数秒後、金属音がぶつかりあうような耳を刺激する音と、石柱か何かで叩きつけられる様な重い衝撃が剣を伝って腕に響いた。
一瞬何が起きたか分からず、ティーナに目を向ける。
「お前ッ!いきなり何するんだ!」
ティーナの手には剣が握られており、剣先が俺の眉間の数センチ上で止まっていたのだ。
なんとか剣で防いだモノの、後2秒遅れていたら間違いなく頭を割られて死んでいたかもしれない。
「本気で防がないと死ぬぞ?。」
「ぐっ、ッ、くッ――ッ!」
次々と降り注ぐ剣の嵐を何とか防ぎ、一メートルほど後ろへ飛ぶ。
「ッチ!」
背中がドンッと扉にぶつかる。
こんな狭い場所では防ぎきれない。
扉を開けて逃げようにも後ろを向いた瞬間後ろからバッサリ斬られるのは目に見えている。
「なんで、いきなり斬りかかってくるんだよ!俺はお前が意識を取り戻したって聞いたからここまで来たんだぞ!!それにまだ傷だって治ってないんだろ?安静にしなきゃ駄目だろ。」
説得しか方法は無い。
ティーナに効くかどうか分からないが、理由無しに斬り合うなんて事はできない。
「私の心配か?自分の心配をしたらどうだッ!」
- 587 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:19:18 ID:lovo9P7H]
-
「ぐッ!」
懐に潜り込むティーナに剣を弾かれる。
ティーナに突き飛ばされ、その場へと倒れ込むと、俺の腹部へと股がり、喉元へ剣先を突きつけられた。
「怪我を負っている私にこの程度…お前は本当にドラゴンを倒したのか?」
どこか歪んだ無表情を浮かべ、見下ろしている。
あの時…五年前、ユードで俺を斬り捨てた時と同じ表情だ。
「まぁ、そんな事はどうでもいい……今から私と少し約束事をしてもらう。」
「約束事…?」
「そうだ…簡単な約束事だ。」
嫌な予感がする…。
――「一つ目、今の家を売り払い私と住め。私はこの宮廷から離れてコンスタンに家を買う。
そこで私と暮らせ。」
一つ目からあり得ない話が飛び出した。
「二つ目、私の怪我が治るまで騎士団の仕事に顔をだす事を禁ずる。」
「そんなこと無理に決まってるだろ!」
「三つ目…」
俺の話を聞いていないらしい。
「もし、私が騎士団長になったら――」
「私をライトの妻に迎え入れろ。」
――この時、俺は思った。
あぁ、ティーナはドラゴンとの激闘の末、頭を打ってしまったんだと…。
「呆けるな。」
「あでっ!」
剣を喉元から外し、俺の頭を手で叩く。
- 588 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:20:09 ID:lovo9P7H]
- 先ほどの歪んだ無表情では無く、いつもの顔へと戻っている。
「私との約束事だ…守ってくれるか?」
命令形では無い、弱々しい声。
俺が知ってるティーナのはずなのだが、どこかおかしい…。
「嫌だといったら?」
何か隠していると考えた俺は、ティーナの本音を探る為に拒否してみた。
すると、ティーナの表情が酷く歪むのがハッキリと分かった。
無表情では無く、今度はハッキリと眉間にシワを寄せたのだ。
「……ユードに火を放つ。」
「お前ッ!?」
腰に乗っているティーナを押し退ける…がティーナはびくともしなかった。
いや、本気でティーナを押し退ける事ができなかったのだ。
――ティーナが泣いている。
涙をポロポロと流し、震える手で俺の肩を掴んでいるのだ。
その手が弱々しくて……俺には振りほどけなかった。
「た、盾が主人の元を離れて独立していいと思っているのかッ!」
盾…?
独立?
なんの話だ?
「おまえは絶対に誰にも渡さないからな!おまえの事を理解してるのはこの私だ!料理だってッ……夜だって満足させてやってるだろ!私が直々にお前を管理してやってるんだ!わ、私のどこが嫌なんだ!?」
- 589 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:22:47 ID:lovo9P7H]
- 心の奥にあったであろう言葉をそのまま俺にぶつけると、顔を睨み付け、首を絞める様に胸ぐらを掴まれた。
ティーナが言うように確かに料理も…夜のほうだって満足している。
ただ、やはり身体の関係があっても幼馴染みなのだ。
ティーナは大切な存在なのだが、仲良く夫婦になるなんて正直考えたことが無かった。
ティーナも俺と夫婦になるなんて考えたこと無いはずだ。
今はただ混乱してるだけ――。
「お、お前が嫌でも私は放さないからな!首に鎖をつけられたく無かったら私と約束しろ!私から離れないと約束しろッ!!」
胸ぐらから手が離れたと思ったら今度は肩を掴まれ、力いっばいぐらぐらと揺らされる。
「分かった…分かったから。」
肩を掴むティーナの手を掴み、強引に肩から引き離す。
本来なら冗談だろ?と受け流すのだが、ここはティーナの話に合わせた方がよさそうだ。
「結婚や同棲は…まぁ、後々考えるとして、なるべく傍にいてやるから…。」
落ち着かせる為にティーナの頭を撫でると、目を細め俺の顔をなんとも言えない顔で見ている。
多分、ティーナは寂しかったのだろう…。
一人女が意地を張り続けるには周りにいる人間達が冷たすぎたのだ。
- 590 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:23:19 ID:lovo9P7H]
- この怪我が治ればまたいつものティーナが戻ってくるはず。
大丈夫…ティーナはノクタール騎士団副長なのだ。
すぐに立ち直るはずだ。
「ライト……っ…ん……服を脱いでベッドで仰向けになれ。」
俺の頬をベロッと一舐めすると、妖艶な笑みと濁った目を俺に向け腹上から立ち上がり、服を脱ぎ捨てだした。
「………はぁ。」
女王様の如く俺を見下ろすティーナを見上げ、一言。
――女は怖いなぁ。
◆◇◆†◆◇◆
参った――本当に参った。
今、私はティーナの部屋の前へと来ていた。
ティーナが意識を取り戻したと知らせがきたので、早速元気な顔を拝もうと仕事終わりに見舞いにきたのだが…。
部屋の中から声が聞こえる。
どうやらティーナとライトの痴話喧嘩のようだ。
「何をなさってるんでしょうか?」
隣にいるルディネ姫が扉に耳を当て聞き耳をたてだした。
ルディネ姫もティーナの見舞いに行きたいと言うので連れて来たのだが、これは間違ったかも知れない。
「なんか…湿っぽい音が聞こえます…それにあえぎ声の様な…。」
「ルディネ姫…扉から耳を離してください。」
ルディネ姫の肩を掴み、扉から離す。
- 591 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/29(木) 14:23:23 ID:IuW75TOl]
- 支援
- 592 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:24:26 ID:lovo9P7H]
- 不満げな表情を向けてきたが、ルディネ姫にはまだ早すぎるのだ。
と言うか意識を取り戻して数時間後に男を連れ込むなと言いたい。
「多分部屋にはライトがいるのでしょう…。また日を改めて出直すしかないですね。」
「はぁ、仕方ないですね。分かりました。」
残念そうに肩をガックリと落とすと、とぼとぼと侍女を引き連れて戻っていった。
「…ったく。」
ここまでくるとライトを騎士団に引き入れた事を少し後悔してしまう。
ライトの存在は騎士団に利益のあることばかりなのだが、ティーナには悪影響だったかも知れない。
いや、ティーナに人間らしさを思い出させた点で言えば良かったのかも知れない。
ただ、間違いなく今ライトがいなくなればティーナは壊れるだろう…。
逆に強くなるかも知れないが、それすら悪い方へと転ぶはずだ。
「どうするかな…。個性豊かな部下を持つと上司としては悩むなぁ。」
「アルベル様〜!早く来てくださぁーい!」ルディネ姫が此方に向けて大きく手を振っている。
それを周りにいる侍女達が慌てて止めに入る。
「はぁ、今いきますよっと。」
こればかりは悩んでもしかたない……。
- 593 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:25:33 ID:lovo9P7H]
- 男女の問題に発展したのだから、上司とはいえ私の口から何かを言うのは無粋だろう。
「頑張れよ、ライト…」
扉の向こうにいるライトに小さな応援を送り、部屋の前を後にした。
◆◇◆†◆◇◆
喧騒――僕が一番嫌いな言葉。
どうも祭は好きになれない…。
人混みに揉まれ、屋台からは調味料が焼ける香ばしい匂いが鼻を刺激する。
子供の頃なら嬉しかったかも知れないが、今では吐き気すらしてしまうのだ。
じゃあ、何故この様な場所へ来ているのかと言うと、会わなきゃ行けない人物がいるからだ。
だからわざわざ船に乗り、この町…コンスタンへと足を運んだのだが…。
「もぉ〜、全然見つからないじゃない!何やってるのよ、あのアホワトソンは!」
僕の胸ポケットから顔を出し、声をあらげる小さな友達。
妖精のティエルだ。
三週間前に僕が住むユードから旅立ち、僕が探している人物に会うべくコンスタンへと向かったのだが、三週間音沙汰無し…。
二日前、やっとティエルから「恩人が見つかった。二日後、コンスタンでパレードがあるから19時にコンスタン港の時計台前で待つ。」と足に手紙がくくりつけられた白鳩が飛ばされてきたのだ。
- 594 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:27:06 ID:lovo9P7H]
- そして今日、ティエルと合流しコンスタンの町を歩き回っている。
ティエルが港の時計台まで探し人を連れて来てくれるとばかり思っていたのだが、ビックリすることに今起きている喧騒は探し人が原因らしい。
そして更にビックリした事があった――それは、数時間前に行われていたパレードがその探し人一人の為に行われていたという事実だ。
なんでも、東大陸に住む伝説のドラゴンを退治したとか…。
ティエルは私が倒した!私が倒した!と執拗に話していたが、ティエルがドラゴンなんて伝説の生物を退治できるのか、かなり怪しい…。
「あの子はすぐ迷子になって……だからママの手を繋ぎなさいっていったのに!友達にマザコン、マザコン言われるから嫌だって…。ママを好きで何が悪いのかしらねッ!?本当に………反抗期かしら?」
「はは…ティエルはライトのお母さんじゃないでしょ…。」
先ほどからティエルがワトソン、ワトソンと騒ぎ立てている名前――それが僕が探している人物なのだが、本名はワトソンなんてどこぞの伝説作家のような名前では無く、ライト・レイアンという名前がちゃんとあるのだ。
その彼の事は親友――とまではいかないが、大切な友達だと僕は認識している。
- 595 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:30:47 ID:lovo9P7H]
- そして今日、ライトに報告があってこの町へと来たのだ…。
「あっ…そう言えば、なんであんただけなの?予定ではホーキンズと二人で来るんじゃなかったっけ?」
「……」
歩く足がピタッと止まる。
「え、なに……ホーキンズに何かあったの?」
明るい表情から一転、真剣な眼差しを此方に向けてくるティエル。
――ティエルには先に言った方がいいのだろうか?
いや、ライトが一緒の時にちゃんと話した方がいいだろう…。
「ライトがいる時に、僕が知っている事すべてを話すよ…。」
ティエルの頭を人差し指で軽く撫で、また歩き出した。
ティエルも察したのか、それからホーキンズの事で何かを聞いてくることは無かった…。
ティエルに先に伝えてもいいのだが、ライトへの報告にはホーキンズの事も含まれているのだ。
一緒に居る時に伝えた方が手っ取り早いだろう。それに、ショックを受けるなら一人より二人の方がいいはずだ…。
「さぁ、急ごう。ライトが家に帰ってるかも知れない。」
「えぇ、あっちよ!」
僕の肩で腰を掛けるティエルが指をさす。
ティエルの指示に従い、指をさす方角へと歩きだした。
- 596 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:31:48 ID:lovo9P7H]
-
「――初代ノクタール騎士団長以来の英雄……か。」
英雄と言われる程の人間になってしまったライト――僕達の手の届かない人間になっていないだろうか?
三年間の溝が正直怖かった。
もう、ライトは僕の知っているライトでは無いかも知れない――。
だけどせめて……せめてホーキンズが知っているライトであってほしい―――心からそう願った。
◆◇◆†◆◇◆
夢を見た。
私とライト、ホーキンズの三人で仲良く遊んでいる夢だ。
――私の後をキラキラした目でついてくるライト。
――苛めるとすぐに泣き出す、泣き虫ホーキンズ。
懐かしい。
何もかもが懐かしい。
だけど何故だろう――私の顔だけ白く塗りつぶされていた。
自分の顔なのに表情が分からない。
怒ってるの?
分からない…。
喜んでるの?
分からない…。
泣いているの?
………分からない。
(んっ?なんだ…?)
花畑で遊んでいる三人の背後に黒い影が浮かんでいる。
――あれは……ボルゾ!?
黒い物体は禍々しい者へと姿を変え、三人の後ろに立っている。
(逃げろ!早く逃げろ!)
助けようにも、幼い私は後ろに立つボルゾに気づいていない。
- 597 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:32:41 ID:lovo9P7H]
- ――きゃはははは。
――ティーナばかりずるいぞ、次は俺だからな。
――バカ俺だよ、オレ!
ゆっくりと背後に近づくボルゾ。
(ライトッ!さっさと気がつけ!後ろだ!)
ライトの後ろに立つとボルゾは勢いよく手を上にあげた――。
「やめろぉぉおぉぉおぉぉ!!!」
私の声に反応したのか、ボルゾが勢いよく此方に振り向いた。
「お前の相手はこの私だ!」
いつの間にか、幼い私はいなくなっていた。
そのかわりに現在の私がライトとホーキンズを守る様にボルゾの前へと立ちはだかっていた。
手に持っている剣を振りかざし、ボルゾ目掛けて斬りかかる。
――ぐきゃあッ!
瞬殺。
一撃で首を撥ね飛ばしてやった。
「大丈夫か…?」
後ろを振り返り、二人に怪我が無いか確認する。
――おぉ、スゲーなティーナ!ボルゾ一撃じゃねーか!?
幼いホーキンズが跳び跳ねて喜んでいた。
今思うとこの頃はまだ可愛げがあったかもしれない…。
ホーキンズの頭を軽く撫で、ライトに期待の眼差しを向ける。
――ティーナならまだまだ行けるさ。
「……そうか。」
分かりきった答え。
だけど、いつも疑問に思っていた。
- 598 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:33:10 ID:lovo9P7H]
- ――何故、ライトは私を誉めてくれないのだろうか?
私の頑張りが足らないから?
まだ、私が一流の騎士になっていないから?
――だって、ティーナは俺達三人の中で一番強いからな。世界一の騎士になれるよ。
あぁ、そっか…。
ライトのキラキラしたあの目――あれが私に後ろへ下がる事を許さなかったのだ。
ライトの見本になる様に努力した――常にライトの前に立ち、ライトが歩ける道を作る。本当に欲しかったモノは冷たい最強の盾では無く、たった一つの言葉。
――私には無縁だと分かっていた。
だけど、振り向けばそこにある………そんな程度の小さな温もりで良かったはずなのに…。
前に進まなきゃ、前に進まなきゃ――そればかり考えて生きてきた。
理由は簡単。
――ただ、ライトに誉めてほしかったのだ。
“頑張ったね”と言う一言が欲しかった……ただ、それだけだった。
それが歪んで、形を成す。
一度歪んだモノは簡単に戻らない。
だけど、いつも思うのだ…。
幼い頃、素直にライトへ気持ちを伝えていれば、私とライトの関係も何か変わっていたんじゃないだろうかと……。
- 599 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/07/29(木) 14:37:00 ID:lovo9P7H]
- 保管庫更新感謝&お疲れ様です。
ありがとうございました、夢の国投下終了しますね。
>>573
GJです!
新作も気になりますが、続き楽しみにしてます。
- 600 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/29(木) 19:46:12 ID:wptbA98D]
- >>599
GJ!
ティーナがいい感じになってきたな〜
さて引き続き全裸待機しますかね
- 601 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/29(木) 22:19:09 ID:+Vi+Huvd]
- GJ!
- 602 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/07/30(金) 10:51:04 ID:0MhgdmG/]
- 投下GJです!
- 603 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/02(月) 13:11:05 ID:3ih4l0us]
- 久しぶりに、ピクミンの愛の歌を聞いてみて、依存している女の子が思い浮かんだ俺はもう末期なのだろうか
- 604 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/02(月) 13:51:37 ID:mZdoTOiP]
- 自分のために死なれるなんぞ気分の良い話ではないな
- 605 名前:名無しさん@ピンキー [2010/08/02(月) 15:08:47 ID:qebQziB5]
- 人少なぁ〜w
- 606 名前:名無しさん@ピンキー [2010/08/03(火) 19:55:14 ID:A+cBzRT6]
- 解
- 607 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/07(土) 22:03:53 ID:NlB7L673]
- 保守
- 608 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/07(土) 23:38:48 ID:jdHUpDtN]
- 寂しい
- 609 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/08(日) 13:46:52 ID:AwCa5oDE]
- PSの後夜祭ってゲームやったんだが、ヒロインの1人がいい感じに依存っ娘だった。
しかもキャラデザがマクロスの人。
- 610 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 01:07:45 ID:NzWsfi3q]
- >>608
さびしい?
なんで私が傍にいるのにそんな事を言うの?
私は貴方にとってそんな存在なの?
ねぇ、貴方は本当に寂しい?私は貴方が寂しいならいつでも傍にいるよ
貴方の傍に居たいの、居させて欲しいの
いつでも貴方の傍で笑っているのは私でありたいの
だからお願い私を離さないで
私は貴方の傍に居られるだけで幸せだから
例えただの知り合いだと思われてもいいの
貴方の事が好きだから、貴方の隣に居る権利が欲しいだけなの
ねぇ貴方に許されるなら私はずっと一緒にいるよ
未来永劫、死が二人を別つとも、貴方の傍に私はいるよ
貴方が許してくれるなら私はずっと一緒に居るよ
だからお願い私を捨てないで!寂しいなんていわないで
何でもするから!貴方の言葉なら何でも聴くから!
私が居るのに寂しいなんていわないで!ずっと傍に居て!貴方の傍らに居るのが私であることを許して!
お願いします私を認めてください
私が居ていいといってください
私は貴方になら何をされてもいいから
だからお願いします…、私をずっと貴方の傍に居させて…
- 611 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 01:12:01 ID:0QSRf0Gu]
- >>610
これを男が書いてると思うとゾッとするな。
- 612 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 01:47:23 ID:NzWsfi3q]
- >>611
その辺は想像にまかせるよ
小ネタ程度に捕らえてくれw
- 613 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 02:48:41 ID:OSl4QPFH]
- 蒸し暑いから離れてくれよ、と言うと
- 614 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 21:05:42 ID:Um5J9Ajf]
- >>610
寂しいよ。
いつだって君は知り合いの度を超えた感情を押しつけるばかり……
もう限界だよ。これ以上僕を振り回さないで。
へりくだっている様で君は僕を脅迫してるだけだ。僕の立場も気持ちも全く考えてない。
え?大好き?愛してる?僕なしじゃ生きれない?息するみたいに嘘つくのやめようよ。自分でも気付いているんでしょ?
君が本当に大好きなのは僕を大好きって言ってる君自身だ、って。絶対に違う?信じて?何でもする?うん、わかったよ。わかったから。
信じるから。もう寂しいなんて言わないから。
だから本当に僕の事が好きなら、少しでも僕を愛しているなら、今後一切、僕の視界に入らないで。二度と僕の近くに来ないで。君が近くにいると、僕は一生笑えないんだ。
お願い。
- 615 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/09(月) 21:19:44 ID:ZEHLi3bl]
- あ〜ばばばばば
- 616 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/10(火) 15:26:43 ID:TJK7TzEk]
- これは保管庫 管理してる人も可哀想だな。
あまりにも書き手が少なすぎる&試し書きで終わる書き手がいる。
- 617 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/11(水) 00:47:31 ID:qvH7f/cj]
- >>616
しかしクオリティは高い
- 618 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/11(水) 09:19:20 ID:viLzTQV+]
- 書くのがやたら難しいうえにマイナー属性だから書き手が増えにくいんだよなあ
- 619 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/11(水) 11:07:46 ID:cZQejMlY]
- ちょっと油断したら甘々だし、しっかり書きすぎると
ヤンデレになるし。
- 620 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/11(水) 16:48:03 ID:UEX2g5nr]
- >・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
でもこのスレで後者に近いような軽度なものを見た記憶が無い
- 621 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/11(水) 19:40:15 ID:CcTtOY3L]
- >>620
多分経度の依存なんて誰も求めて無いからじゃない?
それか書いてると飽きてくるかw
- 622 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/15(日) 03:42:31 ID:PQmVWz6B]
- それよりも依存というのが難しいのだと思う。
- 623 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/15(日) 23:28:40 ID:scmxgW/u]
- 他スレも発掘すると依存っぽいのあったりするけど、依存がテーマじゃないからこのスレに来ないんだろうな
- 624 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/16(月) 05:07:42 ID:MK8vxXBu]
- 甘えんぼうスレなんかは軽い依存関係に近い作品がチラホラ見えるな
- 625 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/16(月) 08:39:34 ID:5pMEaYis]
- まぁ、俺的には良い意味であんまり賑やかになって欲しくないスレの一つだな。
ここは和む。
- 626 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/18(水) 12:23:07 ID:ecFoNnV1]
- 投下しようと思ったら全部消えちゃった…。
- 627 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/18(水) 12:50:08 ID:DW94n6do]
- がんばれ(´・ω・`)
- 628 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/18(水) 23:51:50 ID:WSb3qioT]
- 好きなスレなんだけど過疎だなぁ
- 629 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/19(木) 11:43:55 ID:QD+YsSa+]
- 一人一人の住人が一つ作品書けば盛り上がるかもねw
- 630 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/19(木) 21:41:33 ID:wlZIJjS0]
- ネトゲの依存少女の話は作者が色々あったせいか未完のままなのが残念だなぁ。
- 631 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/21(土) 01:58:54 ID:O8tsXEzW]
- ほ
- 632 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/21(土) 03:39:19 ID:/OJX1iAP]
- っ
- 633 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/21(土) 18:45:05 ID:50C5Qy83]
- と
- 634 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/22(日) 09:32:20 ID:yt8RTrcQ]
- も
- 635 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/22(日) 10:24:27 ID:q+M0xqFH]
- っ
- 636 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/22(日) 12:45:23 ID:l51LpthV]
- と
- 637 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/23(月) 17:20:02 ID:hyHQ2oN4]
- 保守
- 638 名前:名無しさん@ピンキー [2010/08/23(月) 18:36:23 ID:IvwiZ/1M]
- もし規制が解除されてたら一本投下
- 639 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/23(月) 19:27:38 ID:Qw3X92UE]
- >>638
ばっちこーい
- 640 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/23(月) 22:14:50 ID:PSumdBlp]
- 軽依存は需要無しか
- 641 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/23(月) 22:18:37 ID:S8tQGKQQ]
- あるにはある
誰も書かないだけ
読者の需要はあっても作者の需要は無いみたい
- 642 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/24(火) 00:02:56 ID:i5udLu3T]
- 軽依存は簡単そうで逆に難しいかもね。
- 643 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/24(火) 07:06:10 ID:vyME62hg]
- 軽依存……。
wktk
- 644 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/24(火) 22:10:11 ID:2G7TUQNj]
- こい・・・!
- 645 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/25(水) 00:54:01 ID:QsrQnnNY]
- ばっちこい…!
- 646 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/26(木) 20:39:45 ID:+GuKdkPS]
- ほ
- 647 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 11:24:27 ID:smH0u7FO]
- このスレ以外の依存物紹介してくれるとおじさんはうれしい…!
- 648 名前:名無しさん@ピンキー [2010/08/27(金) 13:02:04 ID:qCJzr6xc]
- このスレの作者さん達は飽きちゃったの?
- 649 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 13:27:11 ID:VtJSYToY]
- 書きたいけど、ヒマがないんじゃあ
犬猫
- 650 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 16:18:26 ID:+ID5hk1q]
- 軽依存って人によって考え方違うだろうけど、みんなの中ではどういう感じ?
例えば、いつも会っていた男友達と会えない日が続いて
「あー、あいつがいないと寂しいんだなぁ……」
とか、そんな程度の感じかな?
- 651 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 16:37:40 ID:qCJzr6xc]
- >>650
依存の「い」の字も入ってないじゃん。
- 652 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 16:43:06 ID:RPqy+lNM]
- こうなるから重依存ばっかになるんだよな
- 653 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 16:51:46 ID:+ID5hk1q]
- >>651それは君の基準だろ? だから参考に聞きたいと思ってさ
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から『居たほうがいいかな?』ぐらいまで何でもOK
>>1だとこうなってるしさ
でも、『あえなくて寂しい』 → 『その人に実は依存してる』って感じだったんだけど確かに弱いかもね
まあでもやっぱり軽依存は他のスレにも該当しそうなスレあるし
ここには投下しない方がいいかもしれない。
投下して依存の『い』の字もねえなんて言われたらショックだ
- 654 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 17:21:29 ID:RPqy+lNM]
- (軽)依存か依存でないかの基準が人によって異なるから論争の種になり、ひいてはスレが荒れる原因にもなりかねん
なればこそ誰がどう見ても依存であると判断でき議論を挟む余地の無い重依存ばかりになるのも仕方ないというものだ
- 655 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 18:40:53 ID:jpkdSExa]
- 万人に納得してもらえる軽依存とか難易度超級過ぎるだろうよ
それでもやろうというなら、依存なしと軽依存の境目じゃなく
軽依存と重依存の境目を探したほうが良いかもしらん
- 656 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 20:09:54 ID:qCJzr6xc]
- まぁ、依存のいの字も入ってないは書きすぎたかも知れない、ごめんなさい。
- 657 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 22:52:31 ID:zxb2EEcy]
- 個人的には
居なくなっても飛べる片肺飛行なら軽依存
居なくなると墜落するのが重依存
うーん、これでもなんかモヤモヤする
- 658 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/27(金) 23:38:11 ID:AptVNzIb]
- 軽依存がどんなものか
楽しみにしてたのに…
- 659 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/28(土) 00:22:17 ID:3/5yUCOS]
- オレは上のでも十分満足できるぜ!
- 660 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/28(土) 14:30:50 ID:SI2lvyql]
- 軽依存か……
なくてもなんとか生きていけるけどなかったら困るみたいな感じか
- 661 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 00:12:29 ID:5W/+wihP]
- そばにいなくてもふと相手のことを考える時があって
知ってか知らずかそのふとした時が一日に占める割合が多くなってく
- 662 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 04:23:13 ID:Yc+k5C3a]
- 会えない日々に泣き疲れてそれでも立ち上がれるのが軽依存
会えない日々に泣き疲れて満足に体も動かすことができなくなるのが重度の依存
だと思ってる
あー文章力ほしーネタは頭の中にあるのに
- 663 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 13:38:31 ID:HvTCqUlm]
- 親に依存している30代ニートの物語もokだろ
ちゃんと濃厚なオナニーの描写もすればエロ的にもクリア
- 664 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 14:16:42 ID:QiWviwHD]
- >>663
違う意味で濃いなw
- 665 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:22:58 ID:QiWviwHD]
- ちょっと軽い依存?って話がでてたので書いてみました。
これが軽依存なのか分からないですが、投下します。
- 666 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:23:30 ID:QiWviwHD]
-
〜五歳〜
「ねぇ、あっくん!」
「なぁに?」
「わたしあっくんのおよめさんになる!」
「うん、いいよ〜」
「それじゃ、やくそく!ゆびきりげんまん――」
「ははっ、ウソついたらはりせんぼんの〜ます!」
「「ゆびきった!」」
- 667 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:25:16 ID:QiWviwHD]
-
〜小学五年生〜
「なんだよお前ら〜、二人一緒に帰ってアベックかよ!」
「アツイねぇ〜、仲良く手繋げよ、夫婦なんだから!」
「な、夫婦なんかじゃねーよ!家が隣だからしかたなく帰ってんだ!」
「そうよ!こんなチンパンジーみたいな男だれが好きになるか!」
「テメッ、誰がチンパンジーだコラァ!」
「ぎゃははは、嘘つけよ!おい、みんな帰ろうぜ!」
「おう、じゃーなおしどり夫婦!」
「待てよ!だからそんなんじゃねーって!」
「勘違いしないでよね!私は人間しか好きにならないから!」
「ふざけんなブス!」
「なんですってぇ!?」
一時間後。
「あらあら…二人仲良く同じベッドに寝て…ふふっ」
「う〜ん…むにゃむにゃ…」
「うにゃ〜、暑い〜…」
- 668 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:26:42 ID:QiWviwHD]
-
〜中学二年生〜
「あっくん、ちょっと話が」
「あ?あぁ、今から遊びに行くからまた今度な。」
「…」
次の日。
「ユリ、ちょっといいか?」
「え?今からカラオケ行くから無理。また今度ね!」
「…」
次の日。
「おう、超久しぶり。」
「うん、超久しぶりだね。久しぶりついでに今日あっくんの家泊まりに行くから。」
「オッケー。」
「いや、超久しぶりって二日一緒にいなかっただけだろお前ら…。」
- 669 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:27:15 ID:QiWviwHD]
-
〜中学の修学旅行、あっくん側〜
「オラオラ!俺の必殺くらえや!」
「やべぇ、枕が四方八方から飛んでくる!」
「ははっ、枕使いのあっくんとは俺のことよ!凡人に俺の攻撃は絶対に止められねー!俺を止められるのはyプルルルルルルルッ――
「枕使いの携帯か?」
「おう、俺だわ。もしもし?」
『もしもし〜?今なにしてるの〜?』
「今?修学旅行にこの時間帯っていったら一つしかねーだろ。」
『あぁ〜、怖い話ね。』
「はぁ?怖い話ぃ?枕投げ一択だろバカたれ!」
『あぁ、枕投げね!』
「おう、今必殺技炸裂しまくってるからまた後でな!」
『うん、それじゃ〜ね〜』
「あいあ〜い。悪いな、枕投げ再開だ!」
「いや〜見事に必殺技止まってたな…」
「必殺技止めれるのは相方だけか……」
「オラオラ!くらえや〜!」
「「「グハァッ!」」」
- 670 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:28:20 ID:QiWviwHD]
-
〜中学修学旅行、ユリ側〜
「彼氏どうだった?」
「枕投げ中だって。なんか必殺が炸裂しまくってるらしい。てゆうか彼氏じゃないよ。ただの友達。」
「いや〜、ただの友達ではないでしょ。」
「なんで?みんなも男の友達いるでしょ?」
「いや、居るけどねぇ…」
「ウチらのとはまた違う気がする…。」
「いっしょ、いっしょ!あっくんはあっくんだよ。」
「そりゃそうだけど…(コイツ…)」
「幼馴染みってやつかぁ…(携帯を手から放さねぇ…)」
「いいなぁ…(おもいっきり連絡待ちだろ……鬱だ)」
「早くトランプの続きしようよ!」
「そ、そだね…それじゃ次だれ?」
「あぁ、私だ…それじゃyプルルルルルルルッ――
「もしもし?あっ、あっくん?今ねぇ、トランプ中!私の必殺技が炸裂してるの!それでね――」
「「「「………鬱だ」」」」
- 671 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:28:58 ID:QiWviwHD]
-
〜中学卒業式〜
「ねぇ、あっくん…」
「ん、どした?」
「卒業だね…」
「あぁ、そうだな…。」
「寂しいね…あっくん。」
「あぁ……でも高校に行ったって会おうと思えばいつでも会えるだろ?家にくればいいよ。」
「グスッ…」
「泣くなよ…」
「いや、お前ら同じ高校だろ。」
- 672 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:29:36 ID:QiWviwHD]
-
〜高校入学式〜
「クラスは…違うな。」
「まぁ、しょうがないね。」
「でも、これから楽しみだな!」
「うん、私高校デビューして彼氏いっぱい作るから!多分半年経ったら私の周りにあっくんの知らない男が群れてるよ!」
「俺こそ、先輩後輩関係無しにハーレムだ!中には美人先生も混じってるかもな!お前もう俺に近づけねーぞ!」
「あっくんこそ!捨てないでって私にお願いしてもダメだからね!」
「「ふん!」」
半年後
「そのウインナーくれよ」
「それじゃ、そっちのハンバーグちょうだい!」
「バカ!このハンバーグ作るのに何時間かかったと思ってるんだ!」
「作った本人に向かって言う事じゃないよね。早くよこせ!」
「あ、コラ!」
((((なんで教室でいちゃつくんだよ…バカップル))))
- 673 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:30:21 ID:QiWviwHD]
-
〜高校二年生〜
「あっくん!ついに私に彼氏ができました!」
「マジかよ!?俺より先に作りやがって!」
「へへ〜ん、今度紹介してあげるね!」
「ふざけんな!見せびらかそうとしてんだろオマエ!見てろよ、俺だって彼女作ってやるからな!」
「はは、頑張れ〜!んじゃね!」
「くそー!ユリに負けるなんて!」
「おい…オマエいいのかよ?」
「いいって何が?」
「いや、お前ら…」
「?」
「いや、別にお前がいいなら…」
「はっ?あっそ…あぁ、早く俺にも春こないかなぁ…」
「……紹介してやろうか?」
「マジで!?お願いします!」
- 674 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:30:52 ID:QiWviwHD]
-
〜高校二年生、ユリ側〜
「すんごく面白かったよ!また行きたいなぁ〜…」
「はは…そっか。」
「うん!それからまたあっくんがy「なぁ、ユリちゃん…」
「なに?」
「……あっくんってダレ?」
「え?隣に住んでる男の子だよ?」
「……あんまり知らない男の話されると、彼氏としてはちょっと嫌かな…」
「あっごめん……そんなつもりじゃなかったんだけど…」
「まぁ、いいよ。早く行こ?映画始まるよ?」
「……うん」
「…」
- 675 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:31:46 ID:QiWviwHD]
-
〜高校二年生、あっくん側〜
「初めまして、あっくんでいいかな?」
「あぁ、いいよ…俺はなんて呼べばいい?」
「普通に名前でいいよ?」
「そっか、よろしく!(ふふ…これでユリにバカにされない!)」
「それじゃ、行こっか?」
「あぁ、映画で良かったっ…け……?(ユリ?アイツこんな所でなにしてんだ?それに隣の男……)」
「あれが彼氏か!」
「えっ、な、なにが?」
「あ、あぁ、いやなんでもないよ!行こっか?(アイツも頑張ってんな。俺も負けられないぞ!)」
「うん!」
- 676 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:32:25 ID:QiWviwHD]
-
〜高校二年生、 花火大会〜
「はぁ…」
「あれ?あっくん一人?」
「ん?あぁ、ユリか…。」
「どうしたの?今日は彼女と来てたんじゃないの?」
「あぁ…来てたけどフラれた」
「え…なんで?」
「知らねぇ…お前こそ彼氏と一緒じゃなかったのかよ」
「うん…なんか知らないけど私もさっきフラれた」
「はぁ?マジか?」
「うん、なんか彼氏として見られてる気がしないんだって」
「俺も同じこと言われたな。本当に私の事彼女だと思ってるの!?だってさ……意味不明」
「なんか、毎日あった出来事を話してるだけなのに俺を愛してないんだろ?とかさ」
「あぁ、俺も彼女に海行った時の話したら烈火の如く怒りやがった」
「海楽しかったね」
「おう、夏もうすぐ終わりだからもう一回ぐらい行けるかもな。」
「それじゃ、明日行こうよ」
「別にいいぞ。それより腹減って死にそう…」
「あっちに屋台あったよ」
「行こう、行こう!」
- 677 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:33:35 ID:QiWviwHD]
-
〜高校卒業式〜
「ねぇ、あっくん…」
「ん、どした?」
「卒業だね…」
「あぁ、そうだな…。」
「寂しいね…あっくん。」
「あぁ……でも大学に行ったって会おうと思えばいつでも会えるだろ?家にくればいいよ。」
「グスッ…」
「泣くなよ…」
「いや、お前ら同じ大学だろ」
- 678 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:34:35 ID:QiWviwHD]
-
〜成人式〜
「おぉ〜、振袖似合うなぁ」
「ありがとっ、あっくんも似合ってるよスーツ」
「当たり前だな、俺の先祖はスーツだからな」
「先祖スーツって生き物ですらないじゃん、どうやってスーツからチンパンジーになったの?詳しく教えてよ」
「へぇ〜、喧嘩売ってるんだな?買うよ?」
「上等、上等…って来た。」
「ごめん、遅れて」
「ん?誰?」
「あぁ、彼氏の○○くん」
「初めまして、○○です」
「……あぁ、よろしく」
「今からパーティーあるから行くけどあっくんどうする?」
「いや……俺はいいや帰るわ」
「え……なんで帰るの?」
「べつに、バイバイ〜」
「ちょっ、あ、あっくy「ユリちゃん早くいかないと間に合わないよ?」
「う、うん…それじゃ行こっか!」
- 679 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:35:06 ID:QiWviwHD]
-
〜成人式あっくん側〜
「はぁ…なんでイライラするんだろ」
「ん?何が?」
「あぁ、嫌なんでも無いよ」
「スーツ似合ってるね」
「ありがとう」
「…どうしたの?気分悪い?」
「ん?ちょっと気分悪いかな」
「そっか…それじゃ今日は帰るね?」
「あぁ、また連絡するわ」
「うん、バイバイ」
「バイバイ…」
「はぁ……パーティーってガラじゃねーだろバカユリ……」
- 680 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:35:49 ID:QiWviwHD]
-
〜成人式、ユリ側〜
「はい、ユリちゃん」
「ありがとう…」
「どうしたの?楽しくない?」
「え?そんなことないよ!楽しいよ!(なんであっくん来なかったんだろ?)」
「皆ダンス踊ってるけど、俺達も混ざる?」
「えぇ〜、私踊れないから(あっくんちゃんと家に帰ったかな?)」
「大丈夫、大丈夫!」
「無理だってぇ〜(確か今日あっくんのお母さん夜勤で居ないはず、あっくんご飯どうしてるんだろ?)」
「ほら、行こっ」
「もう、あっくんはしょうがないなぁ〜」
「は?あっくん?」
「え……あっ!」
「……」
「はは……(気まずい)」
- 681 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:37:03 ID:QiWviwHD]
-
〜成人式続き〜
「あっくん、居る〜?」
「ん〜、部屋に居る〜」
「おぉ、あっくん発見!」
「おぉ、発見されたぁ〜」
「なんかあっくん元気ないよ〜?ちゃんとご飯食べた?私何か作ろうか?」
「いや、彼女に作ってもらったからいいや」
「……へぇ〜、彼女に作ってもらったんだ?」
「あぁ、作ってもらった」
「…美味しかった?」
「料理学校通ってるからな、ものすごく美味しかったよ」
「……私と彼女の料理どっちが美味しかった?」
「……ユリ」
- 682 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 17:37:11 ID:iyOcu6qk]
- リアルタイム支援
- 683 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:37:56 ID:QiWviwHD]
-
「……えへへ〜、彼氏と別れちゃった」
「はっ?なんで?」
「ダンスに誘われて、彼氏のことあっくんって呼んじゃった」
「ブハッ、なんだよそれ、彼氏呼ぶの間違えてんじゃねーよバカ」
「いや〜見事に間違えたね…」
「ふ〜ん…」
「…」
「……ちょっと俺の携帯とって」
「ん?誰かにメールするの?」
「あぁ、ちょっと彼女に電話…」
「……あっそ」
「……もしもし?」
「…」
「……俺達もう別れよう」
「!?」
「おう、それだけ。んじゃな。」
「あっくん…?」
「はぁ、お腹減った…」
「……私が料理作ってあげる!」
- 684 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:38:27 ID:QiWviwHD]
-
〜25才〜
「はぁ〜…」
「なにため息ついてんだよ?」
「いや、私の友達が皆結婚していくんだよね…」
「あぁ、焦ってんのか?」
「う〜ん…なんて言うか置いていかれたみたいな…」
「ふ〜ん…そんなもんかね…」
「……ねぇ、あっくん」
「うん?」
「じゃんけんで私が勝ったら、私と結婚してよ」
「はぁ?じゃんけん?」
「そ、じゃんけん」
「……別にいいよ」
「「じゃんけんぽん」」
「……勝ったけど?」
「………初めに言うの忘れてたけど、三回勝負だから」
- 685 名前:あっくんとユリ ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:39:16 ID:QiWviwHD]
-
〜結婚式〜
「いやぁ〜、あの二人やっと結婚したね」
「うん、なんでも結婚するかしないかじゃんけんで決めたらしいよ?」
「じゃんけん?……あの二人らしいね」
「二十回じゃんけんで決めたんだってさ」
「あはは、二十回じゃんけんってなに?普通三回まででしょ」
「初めは三回だったらしいよ?まぁ、これで私達もあの二人に鬱にならなくてすむね」
「ほんとだよ…いちゃつくだけいちゃついて、恋人じゃありません!だもんね…」
「早く私達も結婚しなきゃね」
「その前に彼氏だね…」
「「「「はぁ……鬱だ」」」」
- 686 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/29(日) 17:43:28 ID:QiWviwHD]
- これで終わります。
一時間ぐらいで書いちゃったから、どこかおかしい所があるかも知れない。
おじいちゃん、おばあちゃんになるまで書こうかと思ったけど一回ではとても終われないw
これが軽依存?
よく分からないけど、これぐらいしか思い浮かばないw
夢の国の続きは>>626で書いたけど全部消えちゃった…だけどなるべく早く投下しますね。
- 687 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/29(日) 17:46:07 ID:iyOcu6qk]
- >>686
リアルタイムGJ
いいもの見させて貰いました
- 688 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 00:13:01 ID:z0uf339E]
- GJ
結構重症っぽく感じたな
- 689 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 01:26:08 ID:lNWXvZY3]
- 軽くは……ないな
とにかくGJ
- 690 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 01:46:32 ID:iRNSXwAX]
- 結構軽くね?久々のGJ
- 691 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 02:51:35 ID:wjx8u1Z6]
- このスレで会話形式は珍しいな
軽依存?かなぁ?
あっさりはしてると思う
とにかくGJ
- 692 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/08/30(月) 08:05:58 ID:pWIqkLOP]
- 軽い所と少しだけ重い所を入れたんだけど、始めから終わりまで軽い感じで良かったのか。
全部軽い感じだと依存だと分かり辛いかなって思ったんですが…。
軽依存難しいですねw
次はなるべく分かりやすい軽依存書いてみます。
- 693 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 12:26:48 ID:+nin+7mm]
- GJ!
依存幼なじみいいなあ
- 694 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 13:32:45 ID:hjZYGAvQ]
- 読みやすくてGJ
- 695 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/08/30(月) 17:37:45 ID:q+I5ZWKN]
- GJです
個人的には十分重依存だがこれはこれでいい!
- 696 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/01(水) 19:52:24 ID:Of3DxoiV]
- 明るい依存だね。結構好きだな
gj
- 697 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/02(木) 16:01:45 ID:5hMsiCbk]
- ほ
- 698 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/02(木) 19:11:36 ID:BziZ29DX]
- も
- 699 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/02(木) 21:34:31 ID:V1hu/4WR]
- なんか保管庫変わったる?
- 700 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 00:15:59 ID:dUafcrvF]
- >>699
どこが?
- 701 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 13:41:22 ID:FfwB9fFh]
- 携帯版livedoor Wikiの仕様が変わってるね
- 702 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 16:54:17 ID:/LxDicza]
- レス
- 703 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 16:59:35 ID:/LxDicza]
- やっと規制が解けた。一ヶ月以上も規制されていて、携帯から書き込もうにもソフトバンクも規制されてるで全くレス取れませんでした。
とりあえずまた規制される前に>>571の続きを投下しまっす
- 704 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:00:12 ID:/LxDicza]
- 美しいのにすごく嫌な顔だ。 素直にそう思ってしまう。
「ほら…メールが届いたわ」
女が携帯の画面をこちらに向ける。 青白く美しく光るその画面の差出人には瀬能優香の文字があった。
一瞬動きが止まり、画面を凝視しようとする俺にまるで幼児を教える先生のように携帯をこちら側から読みやすいように置いて、その白く細い指先でメールの文面をなぞる。
小さい液晶画面には決して多くは無い文章が羅列されていたが俺には読めなかった。
否、内容を理解することが出来なかったのだ。 ショックのあまりに脳が機能停止を起こしてしまい、文字は読めるが文章を理解するという能力がすっぽり抜け落ちてしまっていた。
だが文書の合間に存在する間や句読点や特徴によりそれがまぎれもなく優香の文章だということは理解できた……したくはないが悲しいほどに判ってしまったのだ。
「彼女……可愛らしい人ね、あなたの為に無理して今日は東田君と二人でお話するんだものね……まだまだ他人が恐ろしくてしょうがないのにね……いくら貴方が言ったことだからってね」
勝ち誇るように、嘲笑うように携帯をポケットに戻しながら女は言う。
- 705 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:01:10 ID:/LxDicza]
- 確かに今日、俺は二人の会話を盗み聞きするためにあえて優香を東田と二人っきりで会わせた。 ふるふると救いを求めるように震える手を優しく握り
誠実な瞳でまっすぐに優香を見据え、俺は彼女に言ったのだ。
『いつまでもこのままではいけない、俺以外にも話せる人間を増やすべきだよ』
?だった……優香が俺以外に心許せる人間を作らせるつもりなんてない。
『大丈夫、用事を済ませたらすぐに行くよ、そしてどうしても無理なら電話してくれればいい……同じくすぐに君の元へ向かうよ』
これも?だ。 彼女がいくら動揺し、救いを求めようが、俺はそのことごとくを黙殺し、決して東田と対峙する優香の元へと向かうことは無い。 大丈夫、後で彼女には、
『ゴメン、気づかなかったよ……本当にゴメン』の一言で事足りるのだから。
それほどまでに優香を冷酷に自分勝手に追い詰めて立てた計画は成功するどころか余計な不安要素まで見つけてしまうほどの大失敗だった。
おそらくは優香にとって非情な覚悟を持って挑んだであろうこの計画の真意は達成されず大失敗となってしまっているが、そんなことは問題ではなく
今現在、俺の前に座っているこの女がどうしてそのことを知っているかだ。 まあもちろん理由は、
「彼女から直接聞いたのよ」
予想通りの答えだった。 そしてその答えはある一つの失敗を表している。
- 706 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:01:36 ID:/LxDicza]
- それは俺一人だけが彼女にとって唯一の存在であろうという目標が明確に否定されたということだ。 つまり瀬能優香には近藤恭介という人間以外にも相談出来る者がいるという冷酷な事実が証明されている。
俺は静かに天井を見上げる。 ハレーションを起こしたかのように視界は天井に備え付けられている必要以上に明るくする照明によってまぶしいほどに白く塗りつぶされていた。
俺は優香に裏切られた、あるいは騙されていた……?
だが怒りは沸いてこない……当然だ、最初に騙したのは、嵌めたのは俺自身なのだから、ただ…そう…ただ俺が彼女を上手く騙しきることができていなかったという事実に俺は打ちひしがれているのだった。
全くこれだから俺って言う人間は……。
自分の無能さと、先ほどまで自分の計画が完璧に進んでいると思っていた愚かさに少しだけ泣きたくもなるが、今はそれをぐっと堪え、視線を戻しまっすぐに女を見る。
女はいつの間にかあの嫌な笑いを収めて、今度はやや上品と言ってもまあ差し障り無い程度の笑みをして俺を見ている。
「あらあら、ショックだった?でも女の子は大抵複数の顔を持っているものだから気にしない方がいいわ。大丈夫よ、一番好きなのは貴方だと思うから」
遠まわしな嫌味に顔がこわばる。 この女の言ったことはすべてが俺に対するあてつけであり、それを理解して物分りの良いような言い方をする根性のねじれがすがすがしいまでに見えた。
- 707 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:02:29 ID:/LxDicza]
- そう俺はショックを受けている。 だが優香が俺に見せるとは違う顔を持っていたことでも、一番好きなのはという言葉から二番手が存在するという
唯一の理解者であるのは俺だけという目的も、はっきりいって問題ではない。
先ほども言ったが俺が上手く優香をコントロールできていないということがショックだったのだ。
それに比べれば、俺以外に連絡を取っていることや隠し事をされていることなど問題なんかじゃない。
「それで嫌味と驚かせるためだけで来たのかい?」
何とか平静を取り戻して嫌味にもなっていない嫌味を言ってみたが、当然それは
「あらそれは心外だわ、驚かせるのはこれからなのよ」
ニッコリとまだこれが序の口だと言うことを宣言した。
「……それはそれは、次はどんなことで驚かせてくれるんだい?優香が実はレズだったとかかな?あるいは実は生き別れの双子と摩り替わっていただったりして」
我ながら馬鹿らしいとは思うが、目の前に居る女にはそれすらありえてしまうと思うほどの妙な説得力があった。
女は一度子供を見る母親のように目を細め、一口コーヒーを啜る。
「それはお楽しみよ……でも貴方ならきっと乗り越えられると思うわ」
取り繕うようで酷く社交辞令じみた言い方の裏には底意地の悪い反対の意味が見て取れる。
「まあ乗り越えられないときは俺にとっては死を意味するからね」
女が一瞬きょとんとした顔になる。
「乗り越えるさ、乗り越えて見せるよ……だが忘れるな、あんたは俺から見れば靴の底に張り付いたガム、
あるいは夏の雨戸の隙間から入り込んだ飛虫みたいなもんだ。 調子に乗って入り込んでうっかり踏み潰されないか、
もしくは蜘蛛の巣にかかって食われないように気をつけな、俺にとっては一生をかける存在なのさ…優香は」
ニコニコと悪意の無い顔で悪意そのものを固めたような言葉を吐く。
- 708 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:03:15 ID:/LxDicza]
- 女は俺の言葉を同じく笑顔で聴きながら、片方の口角を上げ、
「それは凄いわね、凄い楽しみよ…ええ、凄い楽しみだわ。まるで新刊の本を手に取った時のような気持になるわ
、お願いだから期待をはずさないでね……せいぜい楽しませてもらうわ貴方の一生をかける価値のある存在の親友として」
挑発するような女の前で、残ったコーヒーを一気に、でも下品にならない程度に飲み干す。 すでに戦いは始まっているんだ。
この女の前では僅かなミスも気の緩みもすることはしない。
カチャっと静かにカップを皿に置いて俺は立ち上がる。 伝票を手にして。
「私が払っておくわ、いきなり現れたんで驚いたでしょ?その詫び料よ」
歩き始めようとする俺の背中に振り向かずに声をかけ、右手だけは伸ばして伝票を受け取ろうとする仕草をしている。
「女の子に払わせるわけには行かないだろ?ましてや恋人の親友にね」
そう言ってレジへと歩き出す。 後ろで空気を漏らすような、噴出すような音がしたが気のせいだろう。
- 709 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:03:49 ID:/LxDicza]
- そのまま俺は勘定を済ませて一度も振り向くことなく店の外へと出た。
すでに夜から深夜へと変わり始めた屋外は、クーラーの効いた店内から出ても温度の変化は無く、夏特有の風の匂いだけがしていた。
その中をゆっくりと駐車場内を横断し、駅へと向かう。 そこでこの服を着替えて家に帰らないと……優香にはそのときにでも電話しよう。
今日はメールでは気が済みそうにないから色々な話をしたい。 でも謎の親友のことは聞かない。
いずれ優香からこちらに話すか、親友自体が消えることになるだろう。 俺は決して優香を責めない。
上手に騙すためにそのフリをすることはあるが、それだけのことだ。
そう俺は優香を一生騙し続けなければいけないのだ。
だからこそ負けられない。 だからこそ命を賭けられる。 だからこそあの女の存在は許せない。
いずれ正体を突き止めて後悔させてやる。 この俺の邪魔をしたことを
そして俺以外に優香の支えに成ろうとしたことを……。
- 710 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:08:23 ID:/LxDicza]
- とりあえずここまで。 どうも一回規制されるとかなり長いみたいだからなるべく早く作品投下します。
ちなみに軽依存に関しては俺も一度書いてみたいので、上手く思いつけば一回の投下で終わる程度の
短編を投下したいと思います。
それと夢の国の人、一度書き上げたものをまた思い出して書くのはかなり苦痛と思われますが頑張ってください。
俺も早く続きみたいでごんす。
- 711 名前:名無しさん@ピンキー [2010/09/03(金) 17:10:33 ID:/LxDicza]
- >>710 語尾のごんすは打ち間違えです。本当はがんすと打ちたかったんです。
- 712 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/03(金) 17:46:47 ID:KukHs+Zu]
- 超GJ!
続き待ってたがんす。
- 713 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 01:51:13 ID:f6o184aB]
- めっさGJ!!!
- 714 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 06:49:29 ID:PXqz1jll]
- さてさてどうなるのかなこのゴミ主人公は
- 715 名前: ◆ou.3Y1vhqc [2010/09/04(土) 17:35:47 ID:1rBoqydD]
- 超GJです。
主人公がどうなるのか……続きも期待して待ってます。
あと聞きたいんですが、どれぐらい投下間開ければいいんですかね?
2〜3日ぐらい?
一応24時間待ってみたんですが。
- 716 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 17:37:33 ID:1rBoqydD]
- すいませんsage忘れました。
- 717 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 17:55:17 ID:zKGN92TL]
- >>715
24時間あれば十分かと
- 718 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 19:04:19 ID:nQSms63d]
- 全裸で待機してます>< 風邪引く前に投下を。
- 719 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:16:33 ID:1rBoqydD]
- それじゃ、投下しますね。
注意!:短い強姦?みたいなモノがあります。
そんな鬱になるようなモノでは無いですが、一応。
- 720 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:17:15 ID:1rBoqydD]
-
暗い――寒い――体が動かない。
薄暗い部屋の中に寝ているのは分かる。
それに見慣れた天井。多分ここは私の部屋なのだろう。
手の指先に力を入れてみる。
「…」
……ピクリとも動かない。
「……(夢の中?体が動かない……金縛りか…)」
私は産まれて初めて金縛りを体験しているようだ。
こういう時は確か指のどれかを動かせば体が動く様になると聞いた事がある。
しかし、先ほど指先を動かそうとしてもまったく動かなかった。
再度試してみる。
「……」
やはり動かない…。
金縛りは確か不規則な生活習慣やストレスからなりやすくなるとか……10日間も意識不明だったのだから不規則と言えば不規則なのだが…。
――ガチャッ
「……(ん?誰か入ってきた…)」
顔を動かせないので、扉がある方向に目を向けて確認する。
黒い影が3つ……私の方へゆっくりと近づいてくる。
「……(なんだコイツら?ライトはどこだ?)」
ライトは隣で寝ているはずなのだが、何故か隣からライトの気配が無い。
「……(なにか話してる?)」
ボソボソと3つの影が何かを話している。
――くく、いい体してるなコイツ
- 721 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:18:45 ID:1rBoqydD]
-
「ッ……(コイツら!)」
背中に冷たいモノが走る。
無理矢理身体を動かそうと手足に力を入れるがやはりピクリとも動かない。
――俺からいかせてもらうぜ
一つの影がゆっくりと私が寝ているベッドへ近づいてくる。
「ッ…ッ…(くそッ、ライトはなにしてるんだ!?)」
何とかライトに気づいてもらう様に、声をだそうとするが、喉に何か詰まったように声がでない。
――綺麗な身体だなぁ?さすが副団長様だ。
影の手がゆっくり、私の胸へと伸びる。
「ッ……(やめろ!汚い手で私に触れるな!)」
口にでない私の声は影に届く事は無い。
――おぉ、すんげー柔らかいな!吸い付くようだぜ
影の手がいやらしく私の胸を揉みしだく。
――それじゃ、俺は下の方を確認するか…
もうひとつの影がそう言うと、私のショーツへと手を掛ける
「ッ……(やめろ!触るな!)」
――へぇ〜、綺麗なもんだな?
ショーツをずらし、影がそう呟くと、私の顔をみてニヤリと笑った。
「…(これは夢だ、これは夢だ!)」
自分にそう言い聞かせ、目を閉じようするが瞼がおりてこない…。
――気持ちよくしてやるよ
影がそう呟くと、私の中へゆっくりと侵入してきた。
- 722 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:20:51 ID:1rBoqydD]
-
「ッ――(頼むやめてくれ!気持ち悪い!)」
――はぁ、気持ちいいなぁ…お前も気持ちいいだろ?
けがわらしい、影のモノが私の中へ無理矢理押し込んでくる。
「……(やめてくれ!ライト助けて!)」
――もうダメだだ……よし、中にだしてやる!
「……(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!)」
影が力強く私の身体に何かを打ち付けると、身体中に広がるモノを感じた。
快楽など微塵にも感じない、嫌悪感だけ。
――次は俺だな
「……(頼むもう許してくれ!ライト!ライト!)」
「助けてライトッ!!!」
力強く願った心の声がやっと言葉になり、口から出てくれた。
それと同時に、影が一瞬で消え去った。
身体も自由に動く。
「はぁ、はぁ、はぁ」
やはり金縛り…。
身体中からイヤな汗が吹き出している。
身体が小刻みに震え、心臓は大きく震えている…。
「…よかった…」
小さく呟いた声だが、本心だった。
ライト以外に身体を触れられるなんて死んでもイヤだ。
「……はぁ」
それにしてもライトは……私が隣で悪夢を見ているのに呑気に寝ているのか…。
隣に寝ているであろうライトを睨み付けるため、目線を横にずらした。
- 723 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:22:27 ID:1rBoqydD]
-
「……ライト?」
おかしい……居るはずのライトがいない。
暗闇で見えにくいのかと思い、手を横にずらしライトを触ろうとするが、何度やってもベッドの感触しか手に伝わってこなかった。
「ッチ、何してるんだアイツ!」
先ほどの震えが怒りの震えと変わる。
ベッドの温もりからして、長い時間戻ってきていないのだろう。
だとすると、自宅へ帰った確率がかなり高い。
「私の許可無しに、あれほど離れるなと命令したのにッ…」
寝服の上に軽い上着を羽織、外へと飛び出した。
こんな格好、騎士団の連中に見られたら何を言われるか…。
そんな事はどうでもいい…まず、ライトに制裁をしなければ、私の気がすまない。
「ほんと…イライラさせてくれるヤツだなッ!」
良い意味でも、悪い意味でもライトは私に影響をもたらすようだ。
◆◇◆†◆◇◆
「はぁ〜、眠たい…」
大きな欠伸をして、両手を上にあげる。
部屋の中なら普通の光景なのだが、今俺は朝日も昇らない時間帯に一人、ノクタールの町中を歩いていた。
昨日の騒がしいさはどこへやら…町中は怖いほど静まり返っている。
- 724 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:23:31 ID:1rBoqydD]
- 道の隅に捨てられている数多くのゴミだけが、昨日何があったのか証明してくれているが、知らない人が見ればなんて汚い町なんだろうと誤解してしまうだろう。
普段はゴミなどまったく落ちていない綺麗な町なのだ。
その原因を作った張本人が言うことでは無いが、ゴミぐらい持ち帰れと言いたい。
「はぁ……ん?」
ゴミから目を背け、空を見上げると、小さい光が此方に向かって飛んでくるのが視界に入った。
多分、ティエルだろう…
「コラー!ワトソンなにしてんのー!」
案の定その光は空から急降下すると、俺の顔スレスレで止まり、怒鳴り散らしてきた。
透き通るほど細い綺麗な髪、小さな身体に羽……間違いなくティエルだ。
「ティエル…頼むから怒鳴らないでくれ。家に帰れない事情ができたんだよ…」
「へぇ〜、私の夕飯より大事な事情なんでしょうねぇ?」
「いや…窓は開けていたんだから家には入れただろ?冷蔵庫勝手に開けて漁ればよかったのに。」
「そんなはしたない事できるわけないでしょ!」
嘘つけ…と言いたかったが止めた。
ティエルの怒りに触れるとなにされるか分からない。
いや、もう触れているのだが…。
- 725 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:24:35 ID:1rBoqydD]
-
「おいおい…そんな怖い顔するなよ。可愛い顔が台無しだぞ?」
「なっ、かわッ、可愛いい!?わたっ、あたっ、あたりまえじゃない!私より可愛い妖精なんて存在しないわよ!」
ティエルがプイッと顔を背けるが、耳まで真っ赤に染めているので照れているのがバレバレだ。
一緒に住んで分かったことなのだが、ティエルは誉められる事にかなり弱いらしい。
すぐに顔を赤くするし、モジモジする。
さっきは冗談で言ったがミニチュア効果も相まって正直可愛いと思ってしまう。
「てゆうかどうせ、冷蔵庫漁って何か食べたんだろ?」
ティエルがこの時間まで何も食べずに我慢できる訳が無い。
「そんなことしないわよ。ちゃんと、作ってもらったわ」
「作ってもらった?誰に?」
俺の家には俺とティエル以外住んでいない。
誰に作ってもらったのだろうか?
「ふふ〜ん…ひ・み・つ・だよ!ワトソンくんの家にまだ居るから早く帰ったほうがいいわよ?」
「え…俺の家にいるのか?」
だとすると俺の知り合い……と言っても片手で数えるぐらいしかこの町に知り合いはいない…。
……まさか。
「……ホーキンズ達か?」
「秘密〜!」
- 726 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:37:06 ID:1rBoqydD]
- 楽しそうに空を舞うと、俺の家へと飛んでいってしまった。
「待てよ!」
すかさずティエルの後を追い、走り出す。
久しぶりに会える……此方に来て一度も会えなかった親友の顔を頭に浮かべると自然と顔がにやけてきた。
さすがににやけながら走るのは危ない人間だと間違われる恐れがあるので、表情を元に戻すが、自宅に近づくにつれ笑っている顔をもとに戻す事はできなくなっていた。
「早く〜!」
自宅の近くまで来ると、ティエルが扉の前で手を振っているのが視界に入ってきた。
「はは、待ってくれよティエル!」
「人間は遅いね〜…体力つけたほうがいいわよ?」
「ティエルは空飛んでるだろ……それより、まだ家にいるんだよな?」
「えぇ、ワトソンくんが帰ってくるまで起きてるってきかないから」
子供扱い…まぁ、ティエルからすれば俺やホーキンズは子供となんら変わりないのかも知れない。
年齢は聞いたことないのだが、ボルゾがまだ存在しない世界の話をしてくれたので、最低でも400年は生きてると言うことだ。
「それじゃ、入るぞ…」
――コンッ、コンッ。
「それジョーク?自分の家の扉普通ノックする?」
「うる、うるせーよ!」
- 727 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:37:56 ID:1rBoqydD]
- 確かに自宅の扉をノックするヤツなんて稀だろう…。
再度気を引き締め、ドアノブを掴み扉を開ける。
「やぁ、おかえり。久しぶりだねライト」
――俺が扉を開けるや否や、微かに汚れた白衣に身を包んだ男が椅子に座って此方に手をあげた。
頭に浮かんでいた親友とは違う男に困惑し、表情が固くなってしまうのが自分でも分かった。
「はは…ホーキンズじゃなくてガッカリかい?」
そう苦笑いを浮かべた男性は寂しそうに呟いた。
が、そんな言葉が俺の頭に留まる事はなかった。
「お……おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
白衣の男に近づき両肩を掴み詰め寄る。
白衣の男性は戸惑いの表情を浮かべティエルを見ている、そのティエルは此方から伺えないが、多分笑っているのだろう…。
「久しぶりじゃねーかハロルド!」
早朝だということも忘れ、ハロルドに抱きつき大声をあげた。
ホーキンズの事を思い浮かべていたので多少ビックリしたが、久しく会っていなかった友達が俺に会いに来てくれた事に心から喜べたのだ。
「ははっ、全然変わってねーな!いつもの白衣…懐かしいな、おい!」
端にある椅子を片手で掴み、ハロルドの前に持って来て座る。
- 728 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:39:00 ID:1rBoqydD]
- ハロルドは始めキョトンした表情を浮かべていたが、次第に笑顔になり、何故か「よかった、僕が知ってるライトだ」と喜んでくれた。
「元気そうでよかったよ。ライトは英雄になっちゃったみたいだからね……僕が話しかけていいのかわからなくて…」
「おいおい…俺が英雄ってガラじゃないのはお前も知ってるだろ?第一英雄だろうが勇者だろうが、俺とハロルドが友達って関係が消える訳じゃねーだろ」
知り合いに……特にホーキンズやハロルドに気を使われるのだけは絶対に嫌だった。
馴れ親しんだ町で出会ったのだ…上下の関係なんてものは邪魔でしかないのだ。
「んで今日はどうしたんだよ?観光か?俺に会いに来てくれたなら普通に嬉しいんだけどよ」
「はは、もちろんライトに会いたくて来たのもあるけどね…ライトに伝えなきゃいけない事があるんだ」
ハロルドの表情から笑顔が消えた。
「なんだよ?てゆうかホーキンズは?アイツ来てないの?」
俺の予想ではホーキンズが来てるはずだったのだが…。
一応周りを見渡し、ホーキンズがいるか確認するが、ホーキンズが隠れそうな場所は無い。
だとすると、ホーキンズは仕事の都合かなにかで来れなかったのか……少しショックだ。
- 729 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:39:41 ID:1rBoqydD]
- 「……ホーキンズはもう、ユードにはいないよ」
「……え…」
空気がピシッと音をたてた気がした――。
…ホーキンズがユードに居ない?
「な、なんで?出稼ぎでも行ってんのか?」
呂律が回らない舌を無理矢理動かし、ハロルドに理由を聞く。
ハロルドの表情は見たこともないような堅苦しい表情へと変わっていた。
「ハロルド、メノウちゃん、アンナさん……この三人は行方不明だ」
「……行方…不明?」
ハロルドから唐突に告げられた死刑宣告の様な話――
ハロルドの話が頭に入ってこない――行方不明?
ハロルドは何を言っているんだ?
冗談か?だとしたらセンスが無い。
「は、はは……ははははっ!冗談がうまくなったなハロルド!」
ハロルドの肩をバシバシッと二回手のひらで叩くと、椅子から立ち上がり台所へと向かう。
「……三人が行方不明になったのはちょうど一週間前。僕がいつもの様にホーキンズの店行くと、店がメチャクチャに荒らされててね……その前の夜にホーキンズ、アンナさん、メノウちゃんの三人で夕食んとっていたらしいんだ。」
ハロルドが立ち上がり台所へと入ってくる。
「町の皆はボルゾの仕業だって…」
「ふざけんな!!!」
- 730 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:40:22 ID:1rBoqydD]
- 壁に掛けてある、鏡を力一杯殴りつける。
激しい音と共に、割れたガラスがあちこちに飛び散った。
「……」
「んじゃなにか!?ホーキンズやメノウ、アンナさんはボルゾに食われたってか!!」
「ぐっ!」
ハロルドに近づき胸ぐらを掴むと壁に押し付けた。
勢いよく壁に背中を打ち付けたせいか、ハロルドの口から息が漏れる。
「やめて、ライト!ハロルドは何も悪くないでしょ!!」
俺とハロルドの間に割って入ると、ティエルは俺の顔を睨み付けた。
「……クソッ!」
ハロルドの胸ぐらから手を放し、 再度椅子へと腰を掛ける。
「ライト…」
「少し…頭の整理をするから待ってくれ…」
心配そうに声をかけてくるハロルドに悪いがハロルドに気を使う事は少しできそうにない…。
「ライト…多分ホーキンズ達は生きてるよ」
「えっ!?」
反射的に振り返りハロルドの顔を見る。
ハロルドはポケットから小さな紙切れをだすと、俺の前へと差し出した。
「?なんだよこの紙切れ……」
ハロルドから紙切れを受け取り、確認する。
紙切れには、文字が書かれていた。
「……」
――気持ちいいぐらいの短文。
- 731 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:41:23 ID:1rBoqydD]
- その短文から読み取れる、相手の気持ち…力強い気持ちが読み取れた。
ただ一行。
『守るから安心しろ』
「……ホーキンズだ」
そう…ホーキンズから俺に宛てた手紙だ。
「そうだよね、やっぱり…。」
ハロルドが安心したかの様にため息を吐いた。
俺と同じ様にハロルドも不安だったに違いない……ハロルドが信用できる人物…それはホーキンズだけだ。
そのホーキンズが突然居なくなったのだ…。
ハロルドもショックを受けているはず。
なのに俺は…
「すまん…」
ハロルドに向かって頭を下げる。
「僕は大丈夫だよ、むしろホーキンズの事で怒ってくれたライトを見て嬉しかったから…。それに手の手当もしなきゃ。」
「手当…?なんじゃこりゃ!」
右手が血だらけだ…。
そう言えば鏡を手で殴ったんだっけ。
「もう、仕方ないわねぇ…ほら、手をだしなさいライト」
ティエルはテーブルの上に立つと、俺に手をだすよう要求してきた。
治癒の力で治してくれるのだろう…。
「ありがとう……てゆうかティエル…俺の名前知ってたんだな?」
「当たり前でしょ!命の恩人の名前忘れる訳ないでしょ…」
- 732 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:42:07 ID:1rBoqydD]
- 何故か頬をピンク色に染めながら手の手当をしてくれている。
妖精は皆、こんな感じなのだろうか?
だとしたら妖精の世界の未来は明るい。
「それでねライト、手当中悪いんだけどもう一つライトに見てほしいものがあるんだ」
そう言うとポケットから二枚の写真を出してきた。
「なんだこれ………ホーク?」
一枚の写真を手に取り確認する。
壁には黒いペンで“hawk”と言う文字だけ書かれている。
最後のkの下部分が跳ねているので間違いなく、ホーキンズの字だ。
ホーキンズは変な癖字があり、最後の文字は何故かピンッと跳ねるのだ。
「hawkは鷹のことですね……」
「鷹……鷹ってもしかして!」
「えぇ…簡単なヒントをホーキンズは残してくれましたね…。そうです、鷹はバレンの象徴…紋章でもあります」
「それじゃ、三人はバレンに拐われたのか!?」
「分かりませんが、恐らく…」
バレン……人身売買も当たり前にする腐った国だと聞いた事がある――嫌な考えが脳裏を過る。
「でも、どうやって拐ったんだ?ユードは海門内だぞ?海門を抜けなきゃ外の海には出られない。」
そう…海門を抜けるには入ってきた以上に厳しい取り調べが行われるのだ。
- 733 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:44:18 ID:1rBoqydD]
- 「それなんですが……町裏にある外門が破壊されていたそうです」
破壊?…あんな鉄の扉を破壊?人間の力で破壊できるほどやわな扉では無いはずだ。
「じゃあ何か?森を抜けてユードに到着し、扉を壊して町に侵入したって言うのか?」
西側の森は誰も入る事はできない…何故なら獣道すらないからだ。
一面木々で覆われた完全なる森。
「えぇ、そうなりますね…扉の周りには馬か分からないですが何らかの樋爪跡が残されていたらしいです」
ハロルドが淡々と話すせいで頭が混乱してきた…。
西側の森は間違いなく、人間が立ち入る事のできない区域。
だから海門だけを作り、大陸には外壁など人の手を加えたモノは何も作らなかった。
そんなものを作らなくても自然の壁が全てを拒むのだから。
言わばユードやノクタールは自然の森に守られているようなモノなのだ。
外から侵入できない、だから海門を通らざるえない。
それを無視して森から侵入してきたのか…。
頭に浮かんだのは、ティエルを助けた時に襲われた、あの怪物ども…。あの類いならできるかも知れない。
「これは、なんだ?」
ハロルドから渡された二枚目の写真に目を向ける。
写真には綺麗な家が一軒建っている。
- 734 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:45:04 ID:1rBoqydD]
- 見て分かるが新築だろう。
「……これはキミの家だよ」
「俺の家?」
写真を再度見てみる。
……俺の家はこんなに綺麗じゃない。
それに俺の家は三年前、全焼したはずだ。
「キミがノクターンへ連れられてすぐ、建てられたんだ。キミが帰って来たらすぐに住めるように…」
「はっ?」
俺がノクターンへ行ってすぐに建てられた?
「キミはユードの皆を恨んでいるだろう…犯人扱いされたんだから。
でもねライトが連れていかれてすぐ、村長からライトが犯人じゃないことを教えられてね…。皆がライトに謝りたいって…少し考えればライトが神父様を殺す訳無いってわかることなのにって…皆後悔してたんだ」
「なっ、ちょっと待てよ!俺は町の皆に恨まれていたんじゃなかったのか!?だから俺はユードに帰れなかったんじゃ!」
「それは無いよ…だって町の皆でライトをノクタールまで迎えに行こうって……でもライトは僕達を許してないからもうユードへ戻ることは無いって騎士団の兵から言われて」
「なんだよそれ!俺はユードの皆に神父殺しで恨まれてると!」
「こんな言い方悪いかもしれないけど……貴方、騙されたんじゃ?」
――騙された?
- 735 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:45:44 ID:1rBoqydD]
- 俺が?騎士団が俺を騙してなんの得がある。
いや…騎士団じゃない……。
「ティーナ…」
ティーナが俺を騙したのか?
いや、だってティーナは俺を助けてくれた張本人のはずだ。
現に今、こうやって騎士団として頑張っていられるのもティーナのお陰…何かの間違いだ。
「貴方をノクタールへ連れていき、尚且つ貴方を騎士団へ誘った人。………ホーキンズが言ってました。ライトは何か嘘の理由をつけられて、ユードに帰ってこれないんだって……じゃなきゃ俺のパンを食べに帰って来ないはず無いって…」
「あ…ぁ…」
「知ってますか?ライトがユードの町にまだいた時……すでにライトが犯人じゃないって分かっていたらしいですよ?」
「どういう意味だよ?」
「これは、ライトの焼けた家の処理を手伝った町人から聞いた話しなんですけどね?
なんでもバレンの勲章を騎士団の兵が焼け跡から見つけて、女性に渡すのを見たらしいんです」
「女性…?」
「えぇ…あの、団長の隣に居た鎧を纏った女性です」
「…」
ティーナ…。
俺はこの三年間、ユードの皆に恨まれてるものだとばかり考えていた。
もう一度写真を手に取り、確認する。
- 736 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:48:21 ID:1rBoqydD]
-
「違う!私がライトを騙す理由が無いだろ!私がライトの事でなにか不利になるような事をしたか!?あの町の人間はお前を恨み、憎んでいたはずだ!だから私があの町から助けたんだ!殺人者扱いを受けたお前が一番理解していることだろ!」
確かにティーナの言う通り、俺は殺人者扱いを受けた。
石を投げつけられ、軽蔑する眼差しで俺を見ていた。
だけど、問題はそこじゃない。
「もう一度聞くからな……俺を騙したのかティーナ?」
「ぐ…だ、騙してない!」
目に涙を溜めて、俺を見ている。
先ほどの睨んだ目とは違いすがり付く様な目で…。
「もういい……今日は帰れティーナ」
立ち上がり、ティーナの背中に手をおき外へと連れていこうとする。
今日は頭で考える事はできない…ホーキンズのことだってあるのだ。
「な、なんで!私はお前の味方だって何度も言ってるだろ!?」
俺の想いとは裏腹にティーナは部屋から出て行こうとしない…。
「その話しはまた後だ……今は大切な話中だ」
「なにが大切な話だ!そんな罠にはめようとするヤツとなんの大切な話しがあるんだ!」
「大切な話なんだよ……後からその理由も話すから、今日は帰れ」
- 737 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:49:23 ID:1rBoqydD]
- ティーナは怪我をしている…それは分かっているのだが、自然とティーナの背中を押す力が強くなる。
「イヤッ!私も此処にいる!そいつが次私達を引き剥がそうとしたら首を切り落としてやる!」
「黙れ!帰れっていってるだろ!後々お前にも話があるんだよ!!」
ドンッと背中を強く押し、部屋の外へと押し出す。
押された勢いで転けそうになりながらも体制を整え、此方に目を向けてくるティーナ。
俺が知ってるティーナとはまったく違う表情を浮かべている。
子供が怖がっているような顔――。
「待って!私は本当にライトのことだけを考えッ――」
ティーナが話終えるまで待たずに扉を閉める。
何度か扉をドンドンと叩いていたが「帰れ!」と大声を張り上げると扉を叩く音が聞こえなくなった…。多分帰ったのだろう…罪悪感が心を締め付けたが、今の俺はティーナを目の前にすると言ってはいけない言葉を発してしまいそうで怖いのだ…。
本来ならティーナも含めて話を進めるべきなのだろうが、今はティーナの顔をまともに見る事はできない…ティーナのすべてを疑ってしまいそうだから…。
- 738 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:50:21 ID:1rBoqydD]
- 「ライト…良かったのかい?」
ハロルドが後ろから声をかけてくる。
ティエルも不安そうに、俺の肩に座り顔を覗き込んできた。
「大丈夫…それよりホーキンズ達だ…」
そう…今はホーキンズ達の安否が気になる。
それにホーキンズ達を拐った理由も…。
「ユードへ行こう…なにか手がかりがあるかもしれない」
まず、現場にいかないと何も始まらない。
「ライト……そうだね、まだ教会とかも調べてないからね…三人を拐った理由が見つかるかも知れない…」
「あぁ、そうと決まれば、一刻も早くユードへ向かおう…もうすぐ船も出るはずだ…」
一応部屋に手紙を残し軽く荷造りをすると、すぐさま部屋を飛び出し、港へと向かった――。
- 739 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:51:17 ID:1rBoqydD]
- 投下終了します。
なるべく早く次も投下しますね。
保管庫更新お疲れさまです!
- 740 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 19:59:58 ID:1rBoqydD]
- ごめんない>>735と>>736の間一つ抜けてました…。
- 741 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 20:00:31 ID:1rBoqydD]
- 立派な家だ…周りの風景からして間違いなく全焼した俺の家があった場所だろう…。
建てるのにどれほどかかったのだろうか?
「町の皆が建てたんですよ?子供も…女性も皆で…」
「……俺、今まで何をしてきたんだろ…」
当たり前の様にティーナを信用して…騎士団へ入って。
俺は三年間もティーナに騙されていたのか…?
行き場の無い俺を助けてくれてるとずっと思っていた――信頼できる幼馴染みだと――だけど違った。
ずっと…ずっと騙されて――
「そいつの話に耳を傾けるなッ!!!」
――扉が勢いよく開けられ、一人の女性が姿を現した。
その女性は先ほどまで宮廷で寝ていたはずの騎士団副長、ティーナだ。
ティーナは此方を強く睨み付け、家へ入ってくるなり大声を張り上げた。
髪や服は乱れ、息も切々…かなり急いで来たのだろう。
だが、俺にはそれを指摘する余裕がなかった。
「ティーナ…オマエ、俺を騙していたのか?」
入ってきたティーナに向かって問いただした。
状況の説明をする必要は無いだろう…間違いなくティーナはハロルドの話を聞いて部屋に踏み込んできたはずだ。
- 742 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/04(土) 20:02:53 ID:1rBoqydD]
- >>735→>>741→>>736となります。
ご迷惑お掛け致しました。
- 743 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 20:46:06 ID:6BGz7/FO]
- GJです!!
これはティーナの反応が気になりますな
- 744 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 21:58:10 ID:0wKLmJ3o]
- いいねいいね
やっとティーナが壊れるときが来たか
- 745 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 23:06:41 ID:/vVhe+iK]
- GJ!しかし、騎士団はいいのかライトよ……
- 746 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/04(土) 23:27:46 ID:LP3D91Ck]
- GJ!!
続きがとても気になる
- 747 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/05(日) 01:39:45 ID:27/kTBIR]
- 頼む、ティーナは幸せになってくれぇぇぇ…
- 748 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/05(日) 01:56:10 ID:KUZcs8/r]
- ティーナの巻き返しに期待!
が…頑張れ
- 749 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/05(日) 02:05:06 ID:+w2Pjflo]
- 依存をとことんまで突き詰めたら最終的には一心同体ということになるのではない?
- 750 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/06(月) 08:14:08 ID:+O+kJMrt]
- サイクロンジョーカーエクストリーム的なあれか
- 751 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/06(月) 12:20:39 ID:M84N9ZuQ]
- エヴァのラストのように皆で溶け合ってスープになればいいんだよ
- 752 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 11:26:34 ID:UaW1A2Qo]
- >>649
いつまでも待ってるよ。
雰囲気大好きで楽しみにしてるから、また時間が空いたら書いて欲しいな…
- 753 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 13:32:51 ID:gXyfMQ2M]
- >>752
>>649が誰か分かるの?
このスレで書いてる人なの?
- 754 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 15:26:49 ID:UaW1A2Qo]
- 犬猫ってあったから、勝手にDoc&Catの人だと思って書いた
違ったらごめん
- 755 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:16:07 ID:gXyfMQ2M]
- >>754
あぁ、犬猫ってそういう意味だったのかw
此方こそ失礼しました。
失礼ついでに、夢の国投下しますね。
- 756 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:17:26 ID:gXyfMQ2M]
-
おかしい…。
私は選択肢を間違えたのか?
いや…私はしっかりとライトの前に立ち、歩いていたはず。
だからライトは今までノクタールという大都市で前を向いて歩いてこれたんじゃないのか?
それなのに――。
今私は宮廷にある私部屋へ戻って来ていた。ライトに帰れと言われて……ライトを力ずく無理矢理でも捩じ伏せる事もできたのだが、それをするとライトはもう、私のモノにならない気がした。
だから何もできずに帰ってきたのだ。
本来ならライトもこの部屋にいるはずなのに…。
ベッドへ腰掛け、頭をフル回転し考える。
何を間違った?どこで足を踏み外した?分からない…。
私はただ、ライトと一緒に居たかっただけなのに…。
「一緒に居たかった…?」
自分の考えに思考がストップする。
一緒に居たかった――おかしい……ライトをノクタールへ連れてきて時、そんなこと一ミリも考えていなかったはず。
ライトを自分の盾にすることだけを考えていた……だから私はライトの剣になり、絶対的なモノになろうと――。
なのに今、私はライトと一緒に居たいと考えた。
――私をライトの妻に迎え入れろ――
「私は……間違った…のか…」
- 757 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:18:33 ID:gXyfMQ2M]
-
あの時、私は選択肢を……大切な選択肢を間違った――ライトの剣になると誓ったのに女の幸せを求めてしまった――。
ライトを放したくない気持ちが溢れだし、前を歩く事を捨て、隣を歩こうとした――あわよくばライトの一歩後ろを歩こうと…。
「違うッ!!!」
鎧に手を掛け、急いで着替える。
「私はライトの剣…私はライトの剣…私はライトの剣――」
まだ間に合う。
ライトが私に愛想を尽かす前に誤解を解かなければ。
そう…まだ間に合う。
私はまだ弱っていない。
やはり、私はライトの前に立たなければいけない存在なのだ。
そうしなければ、ライトは私を見ない――強い私をライトは欲している。
「ははっ、大丈夫だ、まだ私はやれる!ライトだってすぐ私を見直すさ!私が吐いた嘘なんてすぐに忘れる!大丈夫だ!」
そう自分へ言い聞かせると、鎧を身に纏い、急いで部屋を後にした。
大丈夫――私はノクタール騎士団副長ロゼス・ティーナ。
ノクタールの戦神だ。
男にすがり付く様な神経は持ち合わせていない――。
ライトが望むなら前を歩き続ける。
それが本来あるべき姿なら、私は女の幸せなどいらない――――。
- 758 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:19:42 ID:gXyfMQ2M]
-
◆◇◆†◆◇◆
「なぁ…ハロルド。今日は確か他国船が、ユードで出店を開く日だよな?」
周りを見渡し呟いた。
ノクタールから船に乗り、ユードの港へと到着したのだが、何故か港に人が誰一人としていない。
この時間帯ならもう出店用のテントを張っていてもおかしくないはず。
それに俺達が乗ってきた船からユードの港で降りたのは俺とハロルド、ティエルだけ。
三年ぶりの故郷は何も変わっていなかった……と言いたいが、三年間の間に少なからず俺が知っている町ではなくなってしまったようだ。
「他国船は二年前からこの町へ滞在することは無くなりました…」
「はぁ?なんでだよ?」
ノクタールのような大きな都市以上にこの町での売り上げは良かったはずだ。
何故ならそれぐらいしか町人達は楽しみが無く、珍しいモノならなんでもかんでも買うからだ。
「この町で船を停泊させていると、ボルゾ達に襲われるからですよ…」
警戒したように一度周りに目を向けると、スタスタと歩いていってしまった。
「ボルゾに襲われるってなんだよ?ボルゾが船に乗り込んでくるのか?」
慌ててハロルドの後を追い、理由を問いただした。
「えぇ…その通りです。」
- 759 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:20:23 ID:gXyfMQ2M]
- 冗談混じりで言ったつもりなのだが、ハロルドは真剣な表情で返してきた。
「嘘だろ…?なんでボルゾが…」
「……それは、ボルゾを退治する人がこの町から居なくなってしまったからです」
「……」
俺のことか――。
「三年間で死者は120名…多分これからも増えていくかと…」
「120名!?」
静かな町中で俺は叫び声をあげた。
ありえない…俺が居た時は死者なんて滅多に出なかった。
一年に一人か二人。
二年間死者を出さなかったことだってある。
それが、120人もの人間が三年間で死んだのか?
「どうなってんだよ…」
確かに活気溢れる風景は消え去っている。
家の窓や扉は完全に閉められ、外からの接触を嫌っているようだ。
「みんな、貴方に頼っていたからですよ…町人はボルゾが町に侵入した時、逃げるしか方法を知りません…。誰も戦わず、逃げる。夜は当たり前のようにボルゾが町を徘徊してますよ?」
キョロキョロと先ほどから周りを気にしながら歩いているのはそういう訳か…。
俺は剣を持ってきているから、大丈夫だが、ハロルドは何も武器になるようなモノはもっていない。
「ハロルド」
「ッ……なんですか?」
- 760 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:21:39 ID:gXyfMQ2M]
- 後ろからいきなり肩を叩かれたせいか、全身をビクつかせ、俺の方に目を向けた。
目を見てわかる――怖いのだろう。
「俺の腰についてるコレは飾りじゃないぜ?ボルゾの一匹や二匹…いや、十匹でも余裕だよ」
腰にある剣をポンポンッと手のひらで叩き、ハロルドに笑って見せた。
「ふふ…そうですね、英雄が一緒なんです。大丈夫ですね」
やっとハロルドの顔から険しさが無くなった。
「英雄って呼ぶんじゃねーよバカ、お前は歩くの遅いから俺が前歩くぞ」
ハロルドの頭を軽く叩き、ハロルドの横を通り過ぎる。
「…すいません」
ハロルドの謝る声が小さく聞こえたが、聞こえないフリをしてハロルドの前を歩いた。
少しして、ハロルドがついて来る足音が聞こえてきたので、ハロルドから意識を反らし、前を向いて警戒しながら歩く事にする。
「お……さっそくか?」
町の開けた場所までたどり着くと、真ん中にある噴水で水の中に顔を突っ込んで水を飲んでるボルゾを発見した。
前にハロルドが言ってた……確か黒ヒヒって言われてるボルゾだ。
「三体か…ハロルドちょっとやってみるか?」
「えっ?な、何をですか?」
何をさせられるのだろう…そんな感じの表情だ。
- 761 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 21:24:28 ID:L+sqMV6b]
- えっ
- 762 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:24:49 ID:gXyfMQ2M]
- 「大丈夫だ…危険な事はさせない」
そう伝えると、カバンからボーガンを取り出し、ハロルドに手渡した。
「いいか…これであそこで呆けてるボルゾの頭を狙って射ってみな」
噴水にもたれ掛かってくつろいでいる黒ヒヒに指をさす。
「えぇ!?僕には無理だよ!」
俺の提案にハロルドが最大表現を使い力一杯驚いた。
「バカ、声がでかい!」
ハロルドの口を手で押さえ、物陰に隠れる。
ハロルドの声に反応したのか、一匹が此方に近づいてきた。
「向こうから近づいて来やがった…いいかハロルド、アイツの頭に標準を合わせて指を引くだけだ」
「ふぇくだけ…」
カタカタと震える手でボーガンを掴むと、此方に歩み寄ってくるボルゾへ向けた。
「まだだ…もう少し近づけろ」
「ふぁい…」
ハロルドの様子がおかしい……顔を確認する。
「ぶはっ、おまっ、なんつー顔してんだよ!」
真剣なのか俺を笑わそうとしているのか、鼻水を垂らしながら涙目のハロルドがボーガンを構える姿に俺のツボは激しく刺激されてしまった。
「ちょっと…笑わないでよ…」
「あっははははははッ!お前は何歳児だよ!お腹痛い痛い!」
「ライト笑ってる場合じゃないよ!来た、来た!」
- 763 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:26:25 ID:gXyfMQ2M]
- 俺の笑い声で俺達の存在がバレてしまったようだ。黒ヒヒが爪を立てて此方を睨み付けてきた。
「よしッ、やっちまえ!」
「う、うわあああああ!」
ハロルドの肩を叩き合図をだすと、悲鳴のような声をあげ、黒ヒヒ目掛けて矢を放った。
――グギャッ
矢を射られた黒ヒヒは小さな悲鳴をあげその場に倒れこんだ。
しかし、すぐさま立ち上がり突き刺さった矢を引き抜くと、此方を睨み付けてきた。
ハロルドが放った矢は頭ではなく、黒ヒヒの足へと突き刺さっていたのだ。
理由は明白…。
「おまえ目閉じてんじゃねーよ!」
矢を射つ瞬間、このアホは目を閉じて矢を放ったのだ。
「だって怖かったから…」
「分かった…分かったから鼻水をふけ」
ハロルドからボーガンを受け取り、黒ヒヒの前へ立つ。
「ったく…人様の町入り込んでこんな朝っぱらから優雅に日焼けでも楽しんでんのか?真っ黒のクセにどこ日焼けするんだ山猿」
ボーガンを黒ヒヒに向けると、まずはハロルドが攻撃した足とは違うもう片方の足へと矢を放った。
足に矢が突き刺さると先ほどと同じ様に黒ヒヒはその場へと倒れ込んだ。
「ふん!」
倒れている所へ駆け寄り、黒ヒヒの胸へと剣を突き刺す。
- 764 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:27:56 ID:gXyfMQ2M]
-
短い断末魔を響かせると、簡単に動かなくなってしまった。
仲間の断末魔を聞いた二匹の黒ヒヒ達が水を飲むのを辞め、此方へ向かってきた。
これも一匹と同じやりかたで、始末する。
「お〜い、ハロルド終わったぞ〜?」
隠れているハロルドに向かって安全だと伝えると、恐る恐る物陰から姿を現した。
「凄いです…貴方は本当に強くなられたんですね」
周りに転がる黒ヒヒを避けながら俺に歩み寄ってくると、どこか寂しそうな表情を浮かべ目を反らした。
理由は分かっている――俺もティーナが町に来た時、あまりの変わりように変な疎外感を感じたっけ…。
自分自身、三年前とは違い多少達観できる様になった。
「まぁ、これでも騎士団にいるからな。多少の事では驚かねーよ」
三年前の俺ならボルゾ三体はかなりキツかったはず。
「それもこれも、ティーナのおかげ…か…」
「え?なんですか?」
「いや、何でもない。それより早く行こうぜ」
ティーナの事は後々考えよう…今は早くホーキンズの家と教会へ向かわないと。
「ライト様だ!」
「ん?」
どこからともなく聞こえてきた声に歩く足が止まる。
- 765 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:29:34 ID:gXyfMQ2M]
- 町中ということもあり、声が響いてどこから聞こえて来たのか分からなかった。
仕方なく周りを見渡し、声の元を探す。
「ライト、あそこだよ」
ハロルドが俺の肩を軽く叩き、笑いながら指をさした。
ハロルドが指さす場所へと目を向けると、なんのへんてつも無い一軒家が建っていた。
その一軒家の扉から女の子が顔を出している。
さっきの声はこの子か…。
「ライト様!」
「ライト様だ!」
「戻ってこられた!」
「な、なんだなんだ!?」
一人の女の子が扉を開け出てくると、それを皮切りに締め切っていた民間の扉が次々開いていく。
中からはその家に住んでいるであろう人々が外に出てくる。
老若男女、皆何故か俺の方へとゾロゾロ歩いて…。
「ちょ、ハロルド助けっ!」
状況が分からず、集まってくる人々に戸惑っていると、大人達が群れる隙間から小さな子供達が飛び出し、俺の周りを取り囲んだ。
「ライト様、助けに来てくれたの!?」
「当たり前だろ!?だってあの伝説のドラゴンを倒したんだぜ?この辺のボルゾなんて相手にならないよ!」
「んなこと分かってるって!ねぇ、ライト様はどうやってドラグノグ倒したの!?」
- 766 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:30:45 ID:gXyfMQ2M]
-
目の前で子供達が俺の話で言い合いをしている。
微笑ましい光景なのだが、自分の事で盛り上がられると首筋がむずむずしてしかたない。
「ほらほら…ライト様も忙しいから後ろへ下がりなさい」
白髪のヒゲ面老人が人々を掻き分け、俺の前へと歩いてくる。
子供達は俺の話を聞きたいと騒いでいたが周りにいる親達が子供達を家に連れていってしまった。
「皆は家に戻りなさい。ライト様此方へ…」
老人が町人に家に戻るよう伝えると、ついてくるよう促す。
「……この老人誰?」
前を歩く老人には聞こえないよう隣を歩くハロルドに耳打ちする。
こんな老人知り合いにいないし、この町でも見たこと無い。
三年間の間に引っ越してきたのだろうか?
「あの人は町長さんですよ」
「マジか…?」
町長は確か黒髪だったはず…それにあんなにもシワ深くなかった。
三年間であれだけ老けたのか…。
――「さぁ、入ってください。そこに腰を掛けて…紅茶でも」
町長の家へと招待された俺達は、町長から出された紅茶に渋々口をつけた。
早くホーキンズ達の行方を調べたい…こんな所で時間を持て余すほど時間に余裕が無い。
こんな事をしてる間にホーキンズ達は――。
- 767 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:31:48 ID:gXyfMQ2M]
- 「大丈夫ですよ、手紙に守るって書いてあったじゃないですか」
顔に出てたのだろうか?
ハロルドに見通されたようだ。
「あぁ、そうだな…」
そうだ…ホーキンズが大丈夫だと言っているのだ…俺が信用しないで誰が信用する。
紅茶を一気に飲み干すと、それを見計らった様に町長が話しかけてきた。
「ライト様…町を離れられた貴方様に私から言える立場では無いのですが、お願いがあります」
「お願い…?」
「この町を救っていただきたい…ライト様に三年前しでかした罪は何よりも重い事は知っています。私を含めて町の皆が償っていかなければいけない罪だと…」
話し出すと涙をボロボロ流しながら深々と俺に向かって頭を下げた。
痛々しい…としか言い様がなかった。
「はぁ…分かりました。それじゃ、町の周りを一通り見て回ってみます。ボルゾが入ってくるのは外壁に亀裂があるからです。それをふさいだ後、ボルゾ達が町に入って来れないよう壁の上に鉄線を張れば、少しは安全になるはずです。町中にいるボルゾはすべて俺が……」
「?」
すべて俺が排除する…と言いかけた所で話すのを止めた。
- 768 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:32:37 ID:gXyfMQ2M]
-
もし、ここで俺がボルゾを退治して回ったら、俺が居なくなった時また同じ事を繰り返すんじゃないだろうか?
それは避けたい…。
「町の男を中央広場に集めてください…昼に町中にいるボルゾ達を一掃します」
「え…わ、分かりました」
それだけを伝えると、ハロルドの背中を押し、町長の家を後にした。
「中央広場に皆が集まるのはまだ時間がある…その間に教会へ行って何か手掛かりがあるか調べるよ…ハロルドはもう一度ホーキンズの家を調べてくれるか?」
「えぇ、分かりました。それではまた昼に中央広場で」
ハロルドと別れて、一人教会へと向かう。
時間短縮、二手に別れたほうが効率的だ。
それに三人を拐った犯人はホーキンズを拐いにワザワザ森を抜けてこの町へ来たとは考えにくい…。
だとすると、目当てはアンナさんかメノウ…。
アンナさんとメノウを守ろうとしてホーキンズも拐われた。
簡単に推理すればそうなる。
アンナさんの場合、アンナさんの家を調べなければいけないのだが、まず行き馴れた教会から調べたほうが推理も捗るはずだ。
ホーキンズの家はハロルドに任せるとして、後は聞き込み……聞き込みと言っても人間にじゃない――。
- 769 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:33:26 ID:gXyfMQ2M]
- 動物と会話できるティエルが今、空を飛ぶ鳥や町中にいる小動物に聞き込みをしているのだ。
神話の生物はなんでもありだな…と悪態をつきたくなるほど、役に立つティエルの能力に感謝しなければ――。
◆◇◆†◆◇◆
「……」
『ホーキンズになにかあったらしい……今からユードへ向かう。あと、机の上に薬があるからそれを火傷に塗っとけ。2日で治る秘薬だ』
テーブルにおいてある手紙を手に取り軽く読む。
片手でグシャッと丸め、床へ捨てるとライトのベッドへと腰掛けた。
私はどうしてしまったのだろうか?
自分自身でもおかしくなっているのが手に取る様にわかる。
ライトがユードへ向かった…なら私もユードへ向かわなければならない…。
いや、私がライトをユードまで追いかけると、今度こそライトの前を歩けなくなる。
私はライトを追いかけてはいけないのだ――。
当たり前の事なのに……辛い。
――確かに私はライトに嘘をつき、ノクタールまで連れてきた。
だが、それのどこがいけなかったのだろうか?
お人好しのライトは町の人間に何をされても一度謝られたら、すべて許すだろう。
それがなにより腹立たしい…。
- 770 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:38:47 ID:gXyfMQ2M]
- そして今頃ライトはユードへ到着しているだろう…もしかしたら、もうライトはノクタールへ戻ってこないかもしれない…。
「そんなの…イヤだ…」
目から出てくるモノを顔をしかめて止める。
ライトはノクタールへ来てたくさんのモノを手に入れたはず。
それは名誉だ。
英雄になり、もうライトはライト本人だけのモノでは無くなっている。
ドラゴン殺しで東大陸全土にライトの名前が知れ渡っているだろう…。
すぐにノクタールの英雄から東大陸の英雄に変わる。
人とはそのようなモノだ。
ノクタールはライトを放さない……噂がライトを縛り付ける。
私が願ったことなのだが、知らない間にライトが私を取り残し、独り歩きしているようで孤独を感じてしまう…。
ライトは私のライトだ。
ノクタールのモノでも、東大陸のモノでも無い。
皆が錯覚するのは勝手だが、ライト本人が錯覚すると、私の場所が無くなってしまう。
だから、ライトに見合う私の立場を作り上げないといけない。
ベッドから立ち上がり、壁に掛けてある剣を手に取り握る。
「勝てる…勝てる…絶対に勝てる」
自分にそう言い聞かせ、ライトの部屋を後にする。
現在、ノクタール最強の騎士は私では無い。
- 771 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:40:08 ID:gXyfMQ2M]
- ライトより前に英雄だと言われてきた人物がいる。
私の恩人でもあり、唯一私が尊敬できる人物。
だが、もういい――尊敬だの恩人だの…ライトが居れば何もいらない。
副長の座もいらない。
ライトがノクタールへ戻って来た時、ライトが私を誇れる存在になっていればいいのだ。
そう――私が騎士団のすべてを握れる存在に…。
◆◇◆†◆◇◆
「そう…なにも見てないの…分かった、ありがとね!」
木で羽根を休めていた野鳥さんに別れを告げ、飛び立つ。
一番高い木のテッペンに到着すると、そこに腰掛け、休憩することにした。
「はぁ…またか…」
ため息を吐き捨て、木に背中を預ける。
かれこれ二時間、空を飛び回っている…別に飛ぶ事に疲れた訳ではない…。
目撃者を求めて森や町に住む動物達に聞き込みをしているのだが、有力な手掛かりがまったく掴めないのだ。
森に住む皆なら絶対に知っていると思ってライトやハロルドに「私がホーキンズ達の居場所を見つけてあげるから感謝しなさい!」と偉そうに飛び出して来たため、“何も分かりませんでした”ではさすがに帰りづらい…。
多分期待して待っているだろう…。
- 772 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:41:06 ID:gXyfMQ2M]
- 「うわぁ〜、二人のキラキラした目が頭に浮かぶ〜!」
期待しないでって言っとけばよかった…。
「はぁ、どうしよ……………んっ?」
項垂れる私の頭の中に強い念を感じた。
「どこだろ…向こうかな?」
木から飛び降り念を感じる方へと向かう。
この感じ……ボルゾや私の仲間とは違う…だけど私に似てる…。
少し懐かしい様な感じだ。
「私の仲間かしら…」
それなら手伝ってもらおう…この土地にまだ妖精が住んでるなら、この土地の異変に敏感なはずだ。
「あそこだ!」
森を抜け、草原に変わる場所から強い念を感じる。
その場所へと降下し、周りを見渡す。
「……あっ」
少し離れた場所に、森を見上げて立っている者を見つけた。
人間の形をしている…だけど人間じゃない。
間違いなく、神聖な生物だ。
腰にまで届く程の銀髪…しかしその長い銀髪が不自然にならないほどの高身長。
人間には決して作れない、透き通る綺麗な衣服を身に纏っている。
神の涙と言われる私から見ても見惚れるほど整った顔。
絵になるとは今私が見てる風景の事だろう…。
「上等!」
神聖な者に向かって羽根を羽ばたかせる。
- 773 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:42:57 ID:gXyfMQ2M]
-
――?
森に目を向けていた神聖な者は、飛び向かってくる私にやっと気がついたのか私の方へと視線を向けた。
「ねぇ…貴女この土地に住んでるの?
「――」
頭を軽く横に振っている。
違う土地から来たらしい。
「あのね…あなたに聞きたい事があるの。7日前の満月の日、この森に異変は無かった?」
「――」
コクッと頷く。
「本当に!?何があったか教えてくれない?」
「――違う禍者――森に入って――」
リンとした表情を崩さず、私の目をまっすぐ見て独特な話し方で私に話してくれた。
なんでも一週間前、この森に森に住む禍者とは別の禍者が侵入したそうだ。
その禍者達が森から出てくる時、人間を担いでいたらしい――。
多分、その人間達がホーキンズ達の事だろう。
「それで、何処に行ったか分かる?」
「人間の乗り物――水の上――」
人間の乗り物?船の事…。
禍者が船に乗る?考えられない。
だとすると、普通の禍者と同じだと考えない方がいい…。
「何処にいったか分からないのね?」
「――」
コクッと頷く。
「そう、ありがとう!バイバイ!」
神聖な者に礼を言い、森に目を向ける――この森に侵入した禍者――。
- 774 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:44:34 ID:gXyfMQ2M]
- この土地の禍者では無い存在。
嫌な予感がする――ものすごく。
……今の状況もかなり嫌な予感がする。
「……なんすか?」
恐る恐る後ろを振り返り、神聖な者へと目を向ける。
人形の用な顔が私を見ている。
そんなに私が珍しいなら、周りを飛び回ってやろうか!と言いたい所なのだが、今の私には無理だ。
なぜかと言うと、知らないウチに神聖な者の手の中に私が収まっているからだ。
優雅に飛び立ったつもりが知らないウチに神聖な者の手によって捕獲されていたらしい。
「――、――?」
「あの〜?もしもし?」
私の頭のくんくんと匂いを嗅ぎ顔を傾げている…。失礼な…私は毎日風呂に入っているのに……臭うのだろうか?
「――ッ――ッ」
「おひょおおおおおおおッ!?」
おもむろに両手で私を鷲掴むと、いきなり頭に吸い付いてきた。
「頭がッ抜ける〜!」
さすがに身の危険を感じた私は、羽に力をいれ、無理矢理手から飛び出そうとした――。
「放してやらんか、シュエット!」
どこからともなく聞こえてきた声に反応したのか、神聖な者の私を握る手の力が弱まった。
- 775 名前:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:45:28 ID:gXyfMQ2M]
- その隙をつき、手から飛び立つと急いで神聖な者が手が届かない場所まで浮上する。
下を見下ろし、確認すると空に手を伸ばし私を捕まえようとしている神聖な者が目に入った。
「へっ、へ〜ん!私はもう捕まらないよ〜だ!」
そう挑発すると、急いでユードの町へと向かった。
もう少し挑発して帰ってもよかったのだが、知らない間に神聖な者の右手にやたら長い武器が持たれていた。
あれで突かれたら私でも死んでしまう。
まぁ、私達には死ぬという概念は無いのだが……“戻る”と言ったほうが的確だろうか?まぁ、いい…とにかく私はまだ遊びたい。
「しっかし久しぶりに見たなぁ………エルフ」
そう…神聖な者の正体…それはエルフだ。
人間達がスケイプだと名付ける者達。
あんな完璧な人形エルフは見たことが無い。
エルフは人の手の届かない森の奥深くに住む住人。
中には人里に降りて人間に紛れ暮らしている種族もいるらしいが、基本エルフは人との関わりを持たない。
そのエルフがあんな場所で何をしていたのだろうか……?
「……まぁ、いっか」
今はライト達にホーキンズの事を教えなくては――。
- 776 名前: ◆ou.3Y1vhqc mailto:sage [2010/09/07(火) 21:49:42 ID:gXyfMQ2M]
- ありがとうございました、投下終了します。
>>761
えっ、てなに?
- 777 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 22:03:19 ID:CYrXTLFJ]
- 今このスレを支えてくれてるのは
夢の国だね
GJ!!
- 778 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 22:20:24 ID:YUqPPTlr]
- GJであります
逃げてーアルベル様超逃げてー
- 779 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 22:22:37 ID:JjB67nC+]
- ティーナがどんどん切羽詰まっていく…たまらんぜよ
- 780 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/07(火) 22:23:43 ID:XDnyJLh0]
- ちょwww
アルベル様関係ないのにw
テラとばっちりwww
- 781 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/08(水) 00:09:07 ID:SRA/mULY]
- >>776氏の生産ペースには脱帽です!
これからも頑張って下さい
- 782 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/08(水) 00:12:14 ID:SRA/mULY]
- そろそろ次スレの季節だな
俺はもしもしだから無理す;ω;
- 783 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/09(木) 00:39:05 ID:cRrlCLtq]
- 保守
- 784 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/09(木) 08:01:59 ID:lMMa86KV]
- 次スレ立ててみた
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1283986870/
- 785 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/09(木) 11:50:01 ID:jB5mm3XF]
- >>784
乙
- 786 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/09(木) 20:50:32 ID:cRrlCLtq]
- は
- 787 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/10(金) 14:48:52 ID:asLQpgQD]
- もうそんな時期か
- 788 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/13(月) 21:12:06 ID:tNQIcjfx]
- >>784
_,...=.-、
,.-:::::::::::::::;::'::::ヽ、
r':::::::::::::::::_;:-‐'ヾ、::ヾ
.イ:::::::::::::;r'´ ヽ::!
i'::::::::::::::::i .r,ニ_ヾ
. i:::::::::::::::::::l_,. -、 :'ィナ' l
. ヽ::::::::::::;ノ rィテ-' .l
Tー、! ´ ,. ; 、 l_
.>(ヽ .‐ ´ ,ィ l::`:::::::::‐--
,r::::::::::ヽヽr ー_- 、-‐ニ.' ./::::::::::::::::::::::
./:::::::::::::;ri'ヲ--、 `く _, '!:::::::::::::::::::::::
i::::::::::::::::! ,r ‐、 ▽ .;l::::::::::::::::::::::::
l::::::::::::::::l 7´ト、. __〃!:::::::::::::::::::::::
.〉:::::::::::::;! /:::::i `  ̄ l::::::::::::::::::::::::
スレータ=テオッツ [Srata Teotts]
(1947〜 ブルガリア
- 789 名前:名無しさん@ピンキー [2010/09/14(火) 14:25:41 ID:kdFiFfjT]
- うめ
- 790 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/19(日) 11:31:33 ID:vVo6oYxH]
- うめ
- 791 名前:名無しさん@ピンキー [2010/09/20(月) 01:18:55 ID:+PyZKSH+]
- うめ
- 792 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/20(月) 13:21:17 ID:H8hNcCUQ]
- うめ
- 793 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/20(月) 21:30:22 ID:6rhD16bO]
- はら
- 794 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/20(月) 21:37:13 ID:CFKKJrTD]
- がぁ
- 795 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/09/21(火) 08:45:03 ID:ZqRUAf2X]
- 現代社会は怖いものだ。
誰でも簡単に写真や動画を撮れて、世界中に発信させることができる。
安普請のアパートの階段をカンカンと音を立てて登り、一番奥の扉の前に立つ。
鍵を取り出した時には中から反応が聞こえ、ガサガサと音が聞こえた。
「……あ……い、いらっしゃい、夏君……」
「ん」
ふにゃりとした媚びる笑みを浮かべ、怯えたように声をかけてくる年上の女性。
秋に買い物袋を手渡すと、扉を閉めた。密室になると、秋がホッと息をつく。
まだ15才の夏樹と比べると、19歳になる秋穂はずっと大人の姿をしている。
大学進学に合わせて都内から山奥に越して来た秋穂は都会的な美しさがあった。
しかし、それも長い前髪と野暮ったい服装に隠れ、今は翳っている。
彼女が新天地で始めるはずの新生活は、数ヶ月持たず挫折させられた。
レイプされ、調教される様子を撮影された幾つもの動画ファイルによって。
大学に噂が広まると、秋穂は退学して住所も変え、引き篭もった。
その先で偶然知り合ったのが夏樹だった。
縋りつく秋穂を振りほどけず、夏樹はズルズルと面倒を見ている。
夏樹自身友人も少なく、頼ってくる秋穂を助けるのは悪い気分じゃなかった。
そして今日も、締め切った薄暗い世界で、退屈で平穏な二人だけの時間がはじまる。
みたいな非処女で鬱依存とかどーかなーと思いつつ埋め。