形質発現と染色体の形態(だ液腺染色体)

ハエ(キイロショウジョウバエ)やカ(ユスリカ)のような双翅類には、通常の染色体よりも極めて大きな染色体が分裂期以外にも観察される。
その巨大染色体は、唾液腺でよく観察されるのでだ(液)腺染色体と呼ばれる唾液腺染色体の特徴は次の通り。

  • 体細胞の通常の染色体と比べて、大きさが100〜150倍。
  • 核分裂が起こらないままDNAの複製が繰り返されることで巨大化する。
  • 体細胞の染色体でありながら、相同染色体が対合した二価染色体の状態にある。
  • 相同染色体が対合しているため、染色体の本数が半分しか見えず、核相は単相(n)である。
  • 塩基性色素で良く染色され、多数の縞模様が観察される。
  • 縞模様の位置は染色体ごとに決まっていて、染色体の異常を見つけやすい。

だ液腺染色体には、ところどころ、縞模様がほどけて膨らんでいるように見えるパフと呼ばれる構造が見られる。
パフは、DNAの凝集がゆるんだ状態にある構造であり、そのため、DNAにRNAポリメラーゼや調節タンパク質が結合し、さかんに転写がおこなわれている領域である。(研究>真核生物における形質発現の調節

キイロショウジョウバエの幼虫のだ液腺染色体には、その発生段階に応じて、さまざまな位置にさまざまな大きさのパフが観察される。
これは、発生の段階によって発現する遺伝子が決まっていて、必要なタンパク質が順次合成されるためである。

昆虫には、エクジソン(エクジステロイド)と呼ばれる蛹化(さなぎ蛹への変態)を促進するホルモンが存在する。
キイロショウジョウバエの幼虫にエクジソンを注射すると、蛹に向かう変態が開始されるが、その際、だ液腺染色体のパフの位置と大きさが順番に変化してゆく。
これは、蛹化に必要なタンパク質が、必要な順番に発現されていることを示している。

脊椎動物にもだ液腺染色体のパフと同様の染色体は観察される。
その代表例が、イモリの巨大染色体に見られるランプブラシ染色体である。
最終更新:2009年05月25日 10:51
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